奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第6話 フォニックゲインを、力に変えて

「私達を……止める?」

 

「うん、そのためにここに来た。何があったのかは知らないけれど、たとえマリアが友人だとしてもノイズを操って施設を襲撃するなんて暴挙に出たことを許せない。そのくらいには、僕は優しくなっちゃったみたいでね」

 

 翼を支えるティーネと呼ばれた少女は、マリアの前に立ちそう語る。

 彼女たちが知りあいであるかのように振る舞う姿を見て困惑していた翼は、ふと周囲のモニター塔を見る。

 本来ステージを映し出すそのモニターに、今この状況が映し出されていないことを確認した翼は笑みを浮かべる。

 

(これは……、緒川さん、感謝します)

 

「ティーネといったか、すまないが、私に支えはもはや不要だ。戦場(いくさば)に咲く防人の歌、見事刃鳴散らして見せよう」

 

「……え、あ、うん、そう? 何言ってるかわからないけど下ろすよ?」

 

 翼はティーネに下ろすように呼びかけ、ティーネは何処か戸惑ったようにそれに応じる。

 なにか可笑しなところがあっただろうかと翼は心のなかで首をひねりながら、その疑問を微塵も表情には出さず胸に浮かぶ歌を歌う。

 

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

 その瞬間、風鳴翼は剣を纏い防人としての姿を晒す。青を中心とした色で構成されたその凛とした立ち姿は、一振りの刃を彷彿とさせる。

 ティーネ(エルキドゥ)は、2年前の彼女を憶えている。当時に比べ背丈も伸びた。ギアも白色の領域が増え、多少形状も変化している。

 表情は記憶のそれとは異なり、己の歌に誇りを持ち、己の果たす使命を全うする強い意志が秘められている。

 天羽奏に先導されていた2年前の彼女とは違うはずなのに、それでもどこか懐かしさを感じる。

 

「すごいね、相変わらず美しい歌だ。いや、ともすれば前よりも綺麗に響くような歌かもしれない」

 

「前……? 私の歌、どこかで聞いたことがあるのか? ティーネは」

 

「うん、まあ、前に少しね。それより、今はノイズと彼女を止めないと」

 

 彼女を歌を聞き、思わずといった風に零すティーネ。

 そのティーネの言葉に耳聡く反応した翼の言葉を軽く流し、ティーネは瞳をノイズに向ける。

 

「ふ、確かにその通りだ。戦場で語る言葉は携えた剣に他ならない。そのことについては、後に問を鞠するとしよう。……マリアが貴女の友というなら、私が彼女を──」

 

「いや、それには及ばないよ。僕がマリアの相手をするから、翼はノイズを頼む。あとごめん、後に何するかわかんないよそれ」

 

 常識的な語彙しか無いことを示すツッコミを残して、ティーネは外套を変化させた黄金の鎖を振るいマリアの下へ駆け出す。

 翼はその彼女の言葉を信じ、壇下のノイズに踊り出る。

 

 手に持つ刀を幅広のブレイドへと変じ、まるで稲光のような藍白の斬撃を放つ。

 

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             蒼 ノ 一 閃

 

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 その一撃は切断されたノイズはおろか、余波を受けたノイズすらも炭素へと還す。

 

 翼は斬撃の着弾した地点に流れるように着地し、両手を地に付き天地を逆転する。

 足のブレードを展開した翼は、独楽のように己の体を回転させ、ノイズの集団へと斬りかかる。

 

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              逆 羅 刹

 

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 ノイズの群れを切り開いていく姿はまさに旋風と呼ぶにふさわしく、会場にいたノイズが瞬く間に数を減らしていく。

 

 群勢を横断した翼は、その勢いのままに腕の力で跳躍し、空中で姿勢を変える。その瞳は、変わらずノイズを見据えている。

 その背後には光の剣が大量に出現し、会場中のノイズへ向けて雨のように降り注ぐ。

 

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             千 ノ 落 涙

 

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 その剣は、まるで流星雨のように降り注ぐ。大型のノイズがいない以上、この攻撃をノイズ達が凌げるはずもなく。

 会場の人々を一時危険に晒したノイズは、まるで蜃気楼だったかのように忽然と姿を消した。その存在の証は、炭となった残骸と翼の攻撃による会場の破壊痕のみとなっていた。

 

 ノイズを殲滅した翼は、壇上へと目を向ける。

 翼には彼女たちの事情はよくわからない。だが、それでも友と戦うというその覚悟を見届けようという思いを抱いていた。

 

 

「どうしたの、ティーネ! 私を止めると言っておきながらその体たらくは! F.I.S.の正式な装者の名が泣くわよッ!」

 

(よく言うよ。そもそも僕のギアの武装は戦闘向きじゃないのにさ)

 

 翼がノイズを殲滅していた頃、ティーネとマリアは壇上を駆けていた。エルキドゥとガングニールの戦いは、ガングニールが明らかに優勢だった。

 

 LiNKERを使用しているマリアと、表向きはシンフォギアを十全に扱えるティーネではその持久力の差は歴然である。そもそも人間ですら無いティーネにとって、長時間戦闘は容易なものだった。

 しかしながら、此処に来てティーネは自身の思わぬ弱点を発見していた。

 

(というか、僕が使ってもシンフォギアって弱い。いや、欠片の力を欠片分しか発揮できないんだから当然なんだけど)

 

 ティーネは、シンフォギアを自分自身(エルキドゥ)の聖遺物クラック機能を用いて起動している。

 この機能はどんな状況であれ、常に十全にギアの持つ聖遺物の欠片の強さを扱うことができる。どれほど精神的に落ち込んでようと、どれほど扱うギアに適正が無くともだ。

 しかし、そもそもシンフォギアとは欠片の力を歌で増幅して戦うための武装である。たとえLiNKERを使用していても、その力は只の欠片とは比べ物にならない。

 

 また、相手がシンフォギア装者であるということもその不利に拍車をかける。

 ティーネのギア「エルキドゥ」は、一応は鎖のシンフォギアである。アームドギアの形状は外套であり、その性質は聖遺物のコントロールや無機物との共振、そして模倣による変化が挙げられる。

 その性質上、例えば相手がルナアタック時のフィーネを相手にしていればほぼ完封できると言っても差支えはない。

 フィーネがどれほど強力な完全聖遺物の組み合わせを使用していても、「エルキドゥ」はそのすべてを押さえ込める。

 聖遺物というアドバンテージがなくなってしまえば、あとは生身の強さや耐久性の差を考えれば結果は歴然となる。

 しかし、この聖遺物クラック機能は励起し身に纏われたシンフォギアには使えない。

 歌という不安定な波長によって自身のエネルギー波長を大きく変動させるシンフォギアに対応出来るだけのクラック機能は、エルキドゥには備わっていない。

 それは完全聖遺物としてのエルキドゥにすら無いものであり、ギアの「エルキドゥ」では尚のこと不可能だ。

 

 結局、エルキドゥの力は多方面多分野における対応力こそ高いが、それだけだ。ティーネの「エルキドゥ」のギア装者としての力は器用貧乏という言葉でしか表せないのである。

 ティーネの肉体、完全聖遺物としての力を徹底的に隠しても尚素で強力な力を発揮するその強固な肉体があるからこそやや不利程度で済ませていられるが、はっきり言えばこのままでは勝ち目がない。

 マリアがアームドギアを展開していないのにこの有り様である。ティーネは非力なギアを考えて、心中でため息を吐く。

 

 この状況では、精々無機物との共振で地面を変化させ風を操り、相手の行動を逐一遮る嫌がらせのような戦法で精々である。

 その共振も、エルキドゥのギアの出力ではシンフォギア相手には心もとない。風を操れるティーネは、どう見ても完全な逆風の中にあった。

そして、まさしく完全な逆境を耐えぬいている時にも、更に悪いことは続く。

 

「大丈夫か!? いまそちらに……ッ!?」

 

 翼がティーネを不利と見て、加勢へと向かう。

 会場を駆け抜け壇上へと飛び上がろうとする翼に、赤紫の丸鋸と翠色の飛鎌が放たれる。

 手に持つ刀でそれを振り払うが、空中で弾き飛ばされたために姿勢制御しつつ再び壇下に着地する。

 

「新手!? 邪魔立てするとは、何者だ!」

 

「加勢なんて、させないデェスッ!」

 

「そっちの加勢は認めないけど、私達は貴女を倒してマリアに加勢する」

 

 新たに戦端に加わった暁切歌(イガリマ)月読調(シュルシャガナ)が、翼の道を阻む。

 その姿をみたティーネは、呆れとも納得ともつかない表情を浮かべる。

 

「あぁ、マリアがいるからもしかしたらと思いはしたけど。3人とも、何やってるんだ……」

 

 彼女の友人たちは、確かに弱者と言える存在だった、きっと不満も溜め込んでいただろう。

 だからってこんなことに加担することもないだろうにと考えるティーネ。

 

 ティーネの不幸そうな来歴は偽りであり、その感情も最初は偽っていた。

 そんなティーネが、たとえ3人と共感できるような仕草をとったとしても、彼女たちの心の傷を理解できているわけがない。

 米国政府の計画では、マリアたちのような弱い立場の存在を切り捨ててしまうものとなる。

 弱者を想えばマリアたちは共感せざるを得ないし、それをとめ、弱者が踏みにじられる事のないようにと願うのは当然のこと。

 まだ魂も不完全なティーネは、そんな3人の気持ちを完全に理解することはできなかったのである。

 

「……ッ、そんな目で私を見るなッ!」

 

 故に、その呆れたかのような表情を見たマリアは激昂し、ティーネを強く吹き飛ばす。

 鎖を振り払われたティーネは、会場の反対側へと叩きつけられる。

 マリアはそんなティーネの下へと跳び、その顔に(ガングニール)を突きつける。

 

「……今からでも、遅くないわ。私達と来なさい、ティーネ」

 

 その声音には、友と敵対したくないという心と、人を害したくないという不安が浮かぶ。

 声に浮かぶ感情を理解しながら、しかしティーネは首をふる。

 

「いや、遠慮しとくよ。理由はどうあれ、僕にとってマリアたちが馬鹿をやってるようにしか見えない。だから止めようって気にはなるけど、馬鹿に加わりたいって思うわけがない」

 

「……そう。ならいいわ、そこで寝ていなさい」

 

 そういうとマリアはアームドギアを展開する。刃が開き、光が収束する。

 たとえギアを纏っていようと、弱っている装者が受ければ昏倒させるだけの槍の一撃。

 最悪、ティーネを気絶させてそのギアを強奪すれば、これ以上彼女による邪魔は入らない。

 

(きっと、あなたは私を憎むでしょうね……)

 

 ティーネのギアは、母親から与えられたいわば形見の聖遺物から作られたと聞いている。

 まるで追い剥ぎのようにそれを奪おうとしているのだ。そうなれば、ティーネはきっと激怒する。

 

(でも、それでもいい。貴女とこれ以上戦うことにならないなら、それで……)

 

 マリアは基本的には善人であり、つまるところその精神性は普通の少女と大差がない。

 だからこそ、人の命を奪うことを、自身の手を血で染めることをためらう。それと同じように、彼女は友との戦いを嫌がっている。

 

 ギアさえ奪えば、ティーネは戦えない、殺さなくとも良い。マリアの思いの篭った烈槍の一撃が放たれようとしたところで、彼女は上空の歌声に気づく。

 

 

「そんな真似、させっかよ!」

 

 マリアが己の直感に従って即座にその場を離脱すると、上手くティーネに当たらないように光の矢が降り注ぐ。

 

「おい、そいつは任せた!」

 

「うん、分かったクリスちゃん!」

 

 イチイバルの装者、雪音クリスは、自分と同時に飛び降りた少女がティーネの下へと降りたことを確認し、翼の援護に弓を向ける。

 

「あの、大丈夫ですか!」

 

 ティーネの下にはオレンジ色のギア、ガングニールを纏った少女が着地する。

 ガングニールの装者、立花響。ルナアタック最大の英雄を、ティーネは見やる。

 

「うん、ありがとう。僕はまだ平気だから、君の仲間を助けに行ってあげて」

 

 そう言って、響に仲間のもとにいくように勧める。

 

 破損しても修復が容易な泥の肉体は、ギアの出す波形に紛れて再生を開始している。

 強力な波形を出さない程度の回復では傷を癒すのに多少時間はかかるが、それだってこの戦闘が終わるまでには復帰できるだろう。

 

 そう考えての勧告だが、響はほんとうに大丈夫なのか何度も念を押す。

 

「本当に大丈夫なんですね? ……私、皆の下に行ってくるので、待っててくださいね!」

 

 そういって響は援護に向かう。何度もこちらをちら見しながら向かっていき、その後はマリアたちに何かを訴えている。

 その訴えは調の激昂を誘発したようで、今は調と戦い……というより、一方的な攻撃を回避することに終始していた。

 

 どうやら調は、響の言葉を偽善者のそれと認識したらしい。ティーネはその調の態度に首をかしげる。

 

(そこまで怒るようなことを、あの子が言うのかなあ)

 

 ティーネは響と交わした少しの会話だけでも、多少性格を掴んでいた。真面目で、人の命を大切にしている少女。それがティーネにとっての第一印象であり、そんな少女が、優しい調を怒らせるようなことを言うだろうかと考えていた。

 

 当たり前だが、お互いの生きる立場が違えば、その言葉の捉え方も変わる。

 調からすれば、響はなんのかんのと普通に日の当たる場所を過ごし世界を救った英雄として持て囃されている人間である。

 そんな響が何か耳触りのいい(と調が捉える)言葉を吐いたとして、それを心から言っていると思うかといえば、その答えは否となる。

 響のことを伝聞以上に知らない調が、痛みを知らないくせに、と激昂するもの無理はない。

 

 響はその言葉に衝撃を受けていた。

 立花響は、痛みを知らないわけではない。自分が皆のために、家族のためにと思ってリハビリを頑張っても、いざ復帰すればそこに待っていたのは理不尽な現実。

 確かに、立花響は月読調のような体験をしてきたわけではない。

 しかしその心に今まで受けてきた傷は、決して浅いものではなかった。立花響は、痛みを知っていたのだから。

 

 受けた衝撃から立ち直ることができていない響は、呆然と攻撃を受けそうになる。

 

(何をそんなにショックを受けたんだ!?)

 

 ティーネは慌てて鎖を射出し、響の周囲を守るように展開する。

 恐らくそうしなくとも他の装者に庇われただろうが、念のため程度の気持ちで使用した。

 

 調はその鎖に驚き、ティーネを見やる。未だに立ち上がれず、それでもギアを展開するティーネに、調は怒りの感情を抱く。

 

(どうして。ティーネは、あんな偽善者のことを認めるの!?)

 

 心のなかでそう叫ぶ調に、ティーネは気づく様子もない。

 その事実に益々理不尽だという思いを増す調。

 

 

「ッうわああああ!? 何あのでっかいイボイボ!」

 

 と、そこで。

 会場の中央に一際強い光が輝き、そこに大型のノイズが出現する。

 自己を増殖させ続けるそれは、人ならば思わず生理的に嫌悪するかのような見た目をしていた。あんまりにもグロテスクな見目のためか、響が思わず驚きの声を上げる。

 

「……マム」

 

 それを見たマリアは、彼女らに指示を出していたナスターシャに連絡を取る。

 このフォニックゲインの伸び率では、到底あの聖遺物を起動できない。そう考えたナスターシャは、3人に退くことを命じた。

 

「……。わかったわ」

 

 マリアはノイズを槍で砕く。自身で呼び出した味方をわざわざアームドギアを用いてまで破壊するという行為は、思わず二課の装者たちも驚きを隠せていない。

 しかし、その理由はすぐに分かった。増殖分裂型のノイズは、砕け散ったその肉体すべてを一気に増殖させていく。

 

「くそっ、何だこりゃ!」

 

「拙い、一手出遅れたか!」

 

 ノイズを斬り捨て、蜂の巣にしている翼とクリスが思わずと言った体で叫ぶ。

 彼女らが倒したはずのノイズもまた、分裂し増殖しているのだ。

 

 同じくノイズをふっ飛ばしても再生される響のもとに、一旦ノイズを振り払った翼とクリスが集まる。

 

「生半可な一撃では、徒にノイズを増やすだけだ!」

 

「……ッ、どうすりゃいいんだよッ!」

 

 周囲を警戒しながら端的に現状を伝える翼に、クリスが答えを見出せず吐き捨てる。

 そのノイズ達は今も増え続け、今にも会場から溢れだしてしまいそうにも見える。

 

 更に、翼のマネージャーであり二課所属のエージェントである緒川慎次から、会場の周囲には脱出した観客たちがまだ残っていることを説明される。

 その情報に、立花響の脳裏に浮かぶのはライブを見に来ていた友人たち。このノイズを仕損じれば、友人たちが巻き込まれる。

 絶望的な状況を前に、響は決意の表情を浮かべる。

 

「……絶唱。絶唱です!」

 

 

 傷が回復しきらないティーネは、何か衝動に突き動かされるように体を起こす。

 この生命を燃やすかのような気配は、彼女(かれ)にも憶えがある。

 

 ティーネ(エルキドゥ)は、奏の絶唱を知っている。その歌が彼を起動させたのだから、彼はその歌を何よりも鮮明に憶えている。

 嘗てのソレに比べれば、はるかに安定した波動。しかし、その気配は間違いなく絶唱だった。

 

 

 装者の3人は、響を中心に手をつなぐ。

 

『 Gatrandis babel ziggurat edenal 』

 

 3人の歌が響く。ノイズは未だ増殖を続け、今にも溢れ出しそうなほどである。

 

『 Emustolronzen fine el baral zizzl 』

 

 しかし、ソレに何ら恐れを抱いていないかのように、彼女たちは歌い続ける。

 

『 Gatrandis babel ziggurat edenal 』

 

 彼女たちはなぜ恐れないのか。それは偏に、歌の強さを、力を、歌そのものを信じているから。

 

『 Emustolronzen fine el zizzl 』

 

 

「Superb Songッ!!」

 

「Combination Artsッ!」

 

「Set, Harmonicsッ!」

 

 装者達の声が、歌の音が鳴り響く。

 その唄を、そのエネルギーを立花響は調律する。

 立花響のアームドギアは、その拳。手をつなぎ調律する事を特性とするアームドギアは、立花響の思いの象徴である。

 

 負荷を自身のその身に一心に受けた響は、苦痛をその顔に浮かべながらも、そのエネルギーを維持し続ける。

 やがて増殖したノイズをすべて消滅させ、その核となっていた大型ノイズを吹き飛ばした。

 

「ああ、すごい。ガングニールを奏から継いだだけはあるなあ」

 

 響から放たれる虹色の絶唱を見届けたティーネは、そう言って満足な笑みを浮かべる。

 彼女は、響が2年前のあの日にいた事を思い出していた。

 あのときはただ奏の歌を聞く事しか出来なかった少女が、奏の武器をその手に纏い歌をうたう。

 

 彼女の強さを後に伝える人がいた事、その事実を心の底から喜んでいた。

 

「……。あれ?」

 

 その瞬間。自分の肉体に感じた違和感に、ティーネは僅かな疑問を抱きつつも二課の奏者たちの下へと向かっていった。


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