奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第7話 聖遺物と友の心

「と、いうわけで! これから二課で共に戦ってくれる『元』F.I.S.所属のシンフォギア装者のティーネ・チェルク君だ。全員、よろしく頼むぞ!」

 

「あ、えっと、紹介にあずかりました、ティーネです。勝手にF.I.S.離脱して領空侵犯して不法入国してここに来ました。これからよろしくお願いします」

 

 巨大潜水艦である特異災害対策機動部二課の仮設本部。その中は現在華やかな飾り付けがされ、天井に吊るされた横断幕には「ようこそティーネくん」と書かれている。

 相変わらず特務機関とは思えないほどのアットホームっぷりに、なんだこれと思いながらも空気に流され対応するティーネ。

 彼女と同様比較的新入りのクリスを除き、二課の面々はもはや疑問を抱いてすらいないようだ。

 

「随分と斬新な自己紹介だな、おい。気持ちはわかるけどよ」

 

 常識をまだわきまえてるクリスが、とりあえず同情するかのような台詞を口にする。

 同じ装者の響は特にそこら辺を気にかけてるわけではないらしく、「やったー! これから一緒に頑張ろーねっ!」とはしゃいでいた。

 

 本当、どうしてこうなった。自分で道を選んだとはいえ、まさかこうもアットホームで賑やかだと思わなかったティーネは、そう自問せざるを得なかった。

 

 

 時間を遡ること数十分前。

 テロ組織「フィーネ」の装者たちが撤退し、二課の部隊もライブ会場へと到着する。

 しかし、二課の装者たちはギアを解除せず、1人の少女を迎えに行く。

 

「さて。立てるか、ティーネ? 悪いが、何処ぞに帰すわけにはいかない。大人しく同行してもらおう」

 

 上半身だけを起こしていたティーネに対し、翼は心配をしつつも毅然とした対応を取る。

 戦場において、敵の敵が味方になるなどという単純な図式が成立するとは限らない。ましてやティーネはテロ集団と親しげな様子を見せていた。

 怪しむのは当然であり、その上で心配する翼はむしろその優しい人間性を垣間見せているといえる。

 

「うん、大丈夫。大人しく同行するよ」

 

 そういったティーネは、ギアを解除して只の貫頭衣を身にまとう。

 シルエットにはほぼ差が無いが、脚部のスーツや角のようなヘッドパーツが解除されている。

 その姿の変化の薄さに、翼は思わず面食らった。

 

「ふむ、わかりづらいがギアを解除したわけか。ずいぶんと変わったギアなのだな」

 

 感心したような声音でティーネのギアを評する。

 ティーネはハハハと軽く笑い、翼の誘導に従い二課の車両に案内される。そしてその腕に頑丈な電子手錠をはめ込まれ、両脇を黒服の二課職員に抑えられ車両の後部座席へと乗せられた。

 その姿を遠目に見ていた響は、なんかどっかで見たようなデジャヴな光景に乾いた笑みを浮かべ力なく笑う。

 

 しかし、すぐにその笑みも止み、悩んだような表情をみせる。

 

(痛みを……知らない……。私は、偽善者なのかな……)

 

 その心には、調に詰られたことが刺のように突き刺さっている。

 側にいたクリスは心配そうな表情で響を覗きこむがなにか声をかけようとして、結局どう声をかけるものかわからないでいた。

 

 

 そして、その後。

 

 二課へと案内されたティーネは、先ほどのような歓待を受けたのである。

 あまりのほのぼのさ、そして無駄な組織的対応力の高さにティーネの未熟な精神は対応しきれず、先ほどのような頓珍漢な受け答えをすることになった。

 

「んで、あいつらとの関係ってのはどうなってんだ? ってか、F.I.S.ってなんなんだよ?」

 

「そうだな、テロ集団とF.I.S.との関わり、問いたださせてもらおうか」

 

 ひと通り歓迎が済んだところで、空気を改めクリスと翼が質問する。

 ようやく自分の理解できそうな状況になって、ティーネは内心で安堵した。

 

「うん、そうだね。じゃあまずF.I.S.についてだけど。F.I.S.は終末の巫女フィーネと米国政府が立ち上げた、聖遺物研究機関。平たく言えば、アメリカ版二課ってところだね」

 

 まあ、人道性や組織としての方向性は真逆って言っていいと思うけどね。ティーネはついでのように一言付け加える。

 

「ティーネ君から聞いたところ、フィーネ……了子君が米国と通謀していた、その相手こそF.I.S.らしい。日本政府の情報開示以前より存在していたそうだ」

 

「基本的に秘密結社のような組織で、秘匿主義。話を統合すると、智慧を盲目的に求める研究者たちの蟲毒の壺のような場所であり、それ故に米国側も持て余し気味だったと聞いています」

 

 ティーネの台詞に付け足すように、風鳴弦十郎と緒川慎次が情報をまとめる。

 F.I.S.の設立経緯、そこでの研究は櫻井了子、つまりフィーネによって主に執り行われてきた。

 比較的米国側に通じていたティーネの所属していた支部も、結局その技術の根幹はフィーネのソレであり、フィーネが米国との繋がりを維持し貸しを作るために意図的に見逃されていたものにすぎない。

 

「その技術は、普遍的ないし汎用的に聖遺物を扱うというものに特化しているらしい。奏君が使っていたような、本来適合しない人間を装者と変えるLiNKERや、機械的な聖遺物の起動などを主題に置いていたようだ」

 

「LiNKERッ!? では司令、彼女たちはLiNKERを使用しているのですか!?」

 

 弦十郎のその発言に、片翼の歌の果てを思い出した翼が思わずと言った体で問いを投げる。

 ツヴァイウィングのもう一人の片翼、天羽奏はLiNKER……聖遺物の力と人体を繋ぐための、強力な制御薬を使用していた。

 奏が肉体を痛めつけ、血反吐にまみれて手に入れた時限式の力。力を使えないはずの人間に力を持たせるために寿命すらも削るその薬に対し、風鳴翼が反応しないということがあるわけがない。

 翼のその質問に弦十郎がそちらを向く。が、それに答える前にティーネがあっけらかんと口を開く。

 

「うん、そうだよ。なんでも『あなたに優しい』をモットーに改良してるらしくて、天羽奏の使っていたそれに比べ遥かに安定しているらしいよ?」

 

 その軽い態度に、思わず翼はティーネを睨む。しかし、その口調とは裏腹に、ティーネの表情には苦々しげな表情が浮かんでいる。

 

 ティーネは二年前からF.I.S.に在籍しており、改良される以前のLiNKERを使用しているマリアたちも幾度も見てきた。

 改良されたLiNKERは確かに優れてはいるが、そもそもその薬に苦しめられてきた彼女達を知っている身としてはあまり使って欲しくないと考えることは自然である。

 それがわかった翼は、その鋭い眼差しで睨むことをやめる。

 

「そう、か……」

 

「そう。あとは、F.I.S.の聖遺物の機械制御についてだけど……」

 

 その後も、ティーネは自身の知る限りのことを伝えていく。今回の実行犯であるレセプターチルドレンの装者たちや、恐らく背後に居るであろうその保護者。F.I.S.の技術力や保持する聖遺物。そしてそれらがテロ集団「フィーネ」としてまとまっているという事実。

 彼女が一通り説明を終えたところで、クリスが疑問に思ったことを伝える。

 

「……おい。今までの説明だと、ノイズを支配することができる聖遺物がないじゃねえか。どういうこった、流石に聖遺物無くてもノイズ操れるってわけじゃねえんだろ?」

 

 テロ集団「フィーネ」は、ノイズをコントロールする技術を保持している。

 それは今回のライブ会場の襲撃などから用意に想像がつく。しかし、ティーネが挙げた聖遺物には、その能力を持つと思われるものはなかった。

 

「でも、今回強奪されたのはそれで全部だ。僕が知る限り、F.I.S.にある聖遺物でノイズをコントロールできる代物は存在しなかったよ。」

 

 そう断言するティーネ。彼女の持つ聖遺物クラックの力は、米国が機能不明とする聖遺物を調査するための実験に幾度となく用いられた。

 強奪された聖遺物で彼女の知らない物はない。ノイズを操る聖遺物をF.I.S.は持っていなかったのだ。

 

「それはソロモンの杖が強奪されたから、ではないのか?」

 

 翼は響やクリスが遭遇した事件について思い返す。

 ウェル博士が運んでいた完全聖遺物「ソロモンの杖」は、ノイズを操る聖遺物。強奪したそれを使って……と考え、そこでひとつの矛盾が生まれたことに気づく。

 

「いや、そうか。ソロモンの杖を運ぶウェル博士もまたノイズに襲われていた。これが離反し暴走したF.I.S.一部の仕業とするなら……」

 

「そこで何者かがノイズを操っている、つまりノイズを操る聖遺物ないし異端技術を持っていたことに他ならないということか……」

 

 翼の言葉を、弦十郎が引き継ぐ。その言葉に同意するように、クリスは頷いた。響はあまりよくわかってなさそうだが。

 ティーネは彼女らの言葉を聞いて1つ確認したいことが出来た。

 弦十郎の方を向いたティーネは、一つの質問をする。その顔には、何か嫌な思い出があるかのように歪んでいる。

 

「……。ウェル博士? それってウェルキンゲトリクスのこと?」

 

「ああ、Dr.ウェルキンゲトリクス。米国所属の研究員で、ソロモンの杖の受け渡しのために我々が護衛していた人物だ」

 

「だとしたらおかしいよ? 僕が知っているウェルキンゲトリクスは、一種の異端だ。色々手遅れなくらいこじらせてて、僕は彼が心底嫌いだった……ってことはともかく、ウェルキンゲトリクスは異端技術に優れるフィーネを崇拝していた。彼が米国側と武装集団側、どちらに立つかと言えば、それは……」

 

 ティーネはそこで口を閉ざす。あとは言わずもがなだろうと、その態度が示す。

 疑問が氷解したかのような表情を浮かべる弦十郎。考えれば単純なトリックで、要するに只のウェルの自作自演、それに自分たち特務機関が踊らされていたにすぎないということだ。

 彼ら二課がその内情を調査できてさえいれば、今回の事件は起こりえなかったのかもしれない。そう考える弦十郎の心に悔恨の念が浮かぶ。

 クリスはあの時、ウェルにソロモンの杖を引き渡したことを思い出す。真犯人にわざわざノイズを操る聖遺物を与えてしまった。自身が起動したソロモンの杖だというのに、その処分を余所に投げた結果がこれだと内心で自責する。

 

「しかし、ウェルキンゲトリクスが関わってたなら彼女(マリア)たちの蜂起も頷……けない、かなあ。いくら月が落ちるからって、あんな馬鹿な事を……いや、でも……?」

 

 大多数の踏み台とならざるを得ない存在を助けたいというその心を、ティーネは想像することすら出来ない。いまいちマリアたちの動機を理解しきれていないティーネは、そうぼやいた。

 言葉が止み、信じられないものを聞いたという表情の二課。職員周囲の空気の変化に戸惑うティーネは、ふと自身の発言を振り返る。

 もしかして、と思い当たったことを彼らに伝える。

 

「もしかして、月が落ちるって知らない? ……そうか、月の軌道データを収集してるのは米国だから、知らないのも無理は無いのか」

 

 再び慌ただしくなった二課仮設本部。ティーネが記録しているデータが二課に伝えられ、それを元に軌道計算を行う。

 月が地表に衝突、深刻なダメージを発生させる事を確定させた二課は、それを関係各省庁と協議すると伝え、明日の生活のためにと奏者たちを外へと送り出した。

 

 

 船が水面へと姿を表し、港に接岸する。そのハッチが開き、中から響達3人が出てくる。外洋に見えるその水平線には朝焼けが見えるが、未だ月は空に輝いていた。

 立花響は月を見上げ、不安そうに目尻を下げる。

 

(月が……落ちちゃうかもしれないんだ……。調ちゃん達は、まさかそれを知ってて……)

 

 もしそうだとしたら、彼女たちは人助けのために戦っているということだ。会場ではノイズを操りはしたけど、そこに人的被害は出なかった。

 しかし、仮にウェル博士の話が本当だとするなら、車両護衛をしていた人々や、基地の人々を虐殺したのも彼らである。

 悩みの種はそれだけではない。調に言われた、偽善者という言葉。その激情も、響が心を悩ませる一助となっていた。

 

「……私、あの子達と戦わなきゃいけないのかな。困ってる人を助けたいって、その心は偽善なのかな……」

 

 彼女がそう思うのは、本心である。人を傷つけたくない、誰か困っていれば助けたい。

 トラウマになるような悲劇を過程に挟んだため、現在は自分より他人を優先しがちになることもある。

 しかし、誰かを助けよう、誰かを喜ばせようという心根は立花響の本質である。

 槍のシンフォギアを纏いながら、そのアームドギアが手甲のままであるという点にも、それが表れている。

 

 だからこそ、響は答えの出ない悩みを抱える。

 本心を、胸の中からの言葉を偽っていると言われても、彼女は偽っていないのだから。

 

「おいおい、まだ気にしてんのか?」

 

「うゎひゃっ!? っとと、クリスちゃん……」

 

 と、そうやって悩み呆けている響の背後に来ていたクリスが肩を叩く。考えに集中してた響は不意打ち気味な軽い衝撃に驚き、悲鳴をあげた。

 

「あいつらに何言われたのかは知らないけどさ、あんま悩みすぎんなよ?」

 

「そうだな、雪音の言うとおりだ。そんな表情(かお)は、立花には似合わないぞ?」

 

「クリスちゃん……翼さん……」

 

 クリスの台詞に合わせるように、翼が響を励ます。

 その言葉に、響は顔を上げ二人の方に向き直る。

 

「……うん、頑張るよ! 私には二人もいるし……。それに、F.I.S.の人達も歌を歌ってた。きっと、分かり合えるよね」

 

 彼女たちもまた、歌を歌っていた。なら、いつかきっと分かり合える。

 響は胸に浮かぶその考えを、笑顔で迎え入れた。

 

 

 それを、潜水艦内から見ていたティーネ。その表情には、なにか良い物を見たのだと妙に満足気な表情をしている。

 

 ティーネは、複雑に揺れる心を理解することは出来ない。しかし、単純な、それでいて温かみがあると一目で理解できるその光景は、彼女の胸の奥を温める。

 

 響達の姿は、かつてF.I.S.にいた時、ナスターシャをマムと慕う3人との友人関係を彷彿とさせる。

 F.I.S.にいた時、彼女はマリアたちとは友人にはなれたが、親友とはなれていない。細かい心を理解できない彼女は、不用意に関係を踏み込むことがなかった。

 その結果、調やマリアを不用意に怒らせる事になった。

 

「……やっぱり、もう少し心を理解できるようになった方がいいのかな……。もっと人に踏み込んでいくべきかな……」

 

 ティーネは、自身の在り方をより改善していこうと考える。元の人の魂が確として存在する以上、人により近付くことは不可能ではないはずだ。

 きっと、もっと人と関わっていけば。彼女はそう信じ、これからより人と関わっていこうと考えた。──それが、自身にどう変化をもたらすかに気づかないまま。

 

 彼女の肉体が、軋む。その違和感に今度は気づいたが、しかし無視する。

 心を作ることは、彼女が──否、(エルキドゥ)が決めたことだ。それを貫き通す、彼女にとってそれだけの話だった。

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