奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第8話 フィーネ

 夜半時。周囲に明かりは殆ど見えず、泳ぐような暗闇が辺りを包んでいる。

 二課所属の装者たち3人とティーネは、平日の深夜だというのに街外れの閉鎖された廃病院「浜崎病院」が見える路上にいた。

 

「で、あの廃病院に居るかもしれないって話だったか?」

 

 装者の1人、雪音クリスが通信機で確認を取る。

 

『ああ。調査の過程で、F.I.S.がそこに医療機器を搬入しているという情報を得た。ティーネの言葉を信じるなら、F.I.S.の装者たちに慕われているというナスターシャ教授も行動を共にしているだろう』

 

『はい、更にそこには医療機器の他にも計測機器なども搬入していると聞きます。彼女たちの狙いが『フロンティア』と呼ばれる大型聖遺物の起動だとするなら、そのためのデータ観測機器が必要となります』

 

「つまり、それらを搬入するという此処が怪しいというわけだね」

 

 通信機の向こう、二課本部で待機している弦十郎と緒川の返事にティーネが応える。

 ティーネからもたらされた数々の情報は、F.I.S.の戦力を推察する大きな力となった。

 例えば装者がどういったギアを纏うのか。持ちだされた聖遺物がどのようなもので、どう扱うのかなどである。

 

『そのとおりです。事前情報は望外の量を得られていますが、だからといって油断せず頼みます』

 

『今日中で全部終わらせるぐらいの意気込みでいくぞッ! 君たちには明日も学校があるからな!』

 

「了解ッ!」

 

 装者三人の声が揃う。僕は学校ないけどね、とつぶやくティーネの台詞をスルーして、装者たちは作戦行動を開始した。

 

 病院の内部は、外に輪をかけて暗い。心なしか空気も重く感じられる。

 全員がギアを纏っていないため、その雰囲気はF.I.S.を探しにきたというより、むしろ肝試しか何かに来た女学生のようだ。

 

「やっぱり……この元病院っ! てのが雰囲気出してますよね……」

 

 響はその雰囲気に、どこかビクビクしながら歩く。

 どこからか空気の流れが発生しているようで、それがまた恐ろしさを助長させる。

 

「なんだ? ビビってるのか?」

 

 その何処と無く不安げな声を聞いて、クリスがニヤニヤ笑いながら茶々を入れる。

 

「そうじゃないけど……」

 

「二人とも、戯れ合うのはそこまでだ。……意外に早い出迎えだぞ」

 

 からかうクリスと、クリスに反論しようとした響を翼が制する。

 その目は既に廊下の奥へと向けている。

 戦闘態勢に入ろうとした二課装者の三人とは別に、ティーネが周囲を見回し疑問を口にする。

 

「……うん? ねえ、なんか廊下に変な薬品が溜まってるけど、君たちは大丈夫?」

 

 僕は体強いから平気だけど。と告げるティーネの言葉に、3人が余計に警戒する。

 

「薬だと? 此処が廃棄されていたとは言え、病院であることを失念していたか」

 

「くそッ! シンフォギアのプロテクターなしに薬品垂れ流しの場所にいるのはマズイな」

 

 言うが早いが、3人は聖詠を口にしシンフォギアをその身に纏う。

 ティーネもまた口だけの聖詠を言葉に出し、聖遺物クラックでギアを構築する。

 彼女らがギアを纏い終わる頃には、目の前にはノイズの集団が出現していた。

 狭い廊下であるため、大威力の攻撃は使用できない。そう考え、装者たちはノイズを一体ずつ蹴散らしていく。

 

 

「何だとッ!?」

 

 そんな中、最初に異変に気づいたのは遠距離型の雪音クリスだった。

 ガトリングに変形させたアームドギアによる射撃によってノイズを破壊したはずが、炭素分解されずに修復される。

 アームドギアによる破壊で、破壊しきれていないということだ。

 

「ッくそ、どうなってやがる!」

 

 今まで彼女がノイズを攻撃して倒せなかった、なんてことは殆ど無い。あるとしても、防御力が高い大型ノイズや高機動且つ頑強な装甲を持つ飛行ノイズなどの特殊なノイズである。

 まさか雑兵のように出てくる人型小型ノイズを自身の技で倒せないとは思っていないクリスは、その思っていないことが起きた現実に悪態をつく。

 

 クリス同様、風鳴翼も立花響もノイズを破壊することに非常に手間取る。

 彼女たち3人は空気が重い、というより体が重く感じられていた。ギアとの反発が増し、装者の肉体を苛む。

 

「これは……ギアの出力が伸びない、だと……。一体何が……」

 

『──全員、聞こえるかッ? どうやら、先ほど言っていた薬品とやらがお前たちのギアとの適合系数を下げているようだ。今大技を使えば、ギアからのバックファイアで体がボロボロになるぞ!』

 

 翼が自身のギアの出力不足に苦々しい表情を浮かべたところで、二課本部から通信が入る。

 装者をモニタリングしていた二課の端末上には、奏者たちの肉体にかかる負荷が表示されていた。

 ティーネの言った先ほどの薬品、恐らくLiNKERと真逆の作用をする適合系数を下げるための薬によって装者たちはその力を大きく引き下げられていたのだ。

 

『幸いティーネはその影響を受けていないようだ。何かやったのかは知らんが、此処はいったんティーネに殲滅を任せるんだ』

 

「うん、わかった。僕は今のところ影響はないみたいだから、僕がノイズを全滅させるよ」

 

 披露する3人の様子を尻目に、ティーネは過不足無くノイズを殲滅していく。

 聖遺物クラックでギアを起動するティーネはその適合系数が変化しない。そもそも歌で動かしているわけではないのだから適合も何もないのは当然なのだが。

 ノイズを全滅させたティーネは、3人の下へと戻る。

 

「クソッタレ! まさかギアを纏えなくする薬とはな、ちょせえ真似しやがる!」

 

「しかし、一つはっきりしたな。今此処には向こうの装者はいるまい。こちらより更に適合系数が低いのだ、この薬品の影響圏内で戦えばまずギアを扱えなくなるはずだ」

 

 相手のとった有効で厄介な手段に、壁を蹴りながら悪態をつくクリス。

 それに対し、翼はこの状況で考えられる有利な条件を想定していた。LiNKERでようやくギアを纏えるようになる装者にとって、この薬品……Anti_LiNKERは鬼門。

 つまり、装者のいない敵アジトならば、例え適合系数が下がっていても制圧は比較的容易であると考えたのだ。

 

「そうですねっ! それじゃ……っと、そういえば、ティーネちゃんはなんでこの中で平気なの?もしかして、F.I.S.のギアにはこの薬の無効化能力とかあるって言わないよね!?」

 

 やる気を出した響が慌てたようにティーネに向き直る。仮にそれが真実なら、F.I.S.との戦闘では一方的に不利な戦いを強いられる事になるのだ。

 その可能性に、翼とクリスも眼差しを鋭くティーネを見る。

 

(え、拙いな。どうやってごまかそう……)

 

 それに慌てたのはティーネである。無効化機能はもちろん存在しないが、それを言えばじゃあどうやって無効化したのかという話になる。

 自身の能力の内、うまく言い訳に使えそうな設定を考えるティーネ。

時間にして2~3秒笑顔で固まった後、口を開く。

 

「ああ、それはね。僕のギアには無機物との共振機能があるでしょ? それを使って、風をコントロールしたのさ。薬品は気体だったから、僕の方に来ないように誘導することは容易だったよ」

 

「ええ~! そんな便利機能あるなら私達にも使ってよぉ~!」

 

「あ、うん。それは難しいんだよ。えっと、気体って常に流動するからさ、地面とかの固体変化に比べてギアの力をいっぱい使っちゃうんだ。だから、自分の周囲で精一杯で……」

 

 ティーネの回答に、響が思わず鋭いツッコミを入れる。

 痛いところを突かれたティーネは、それに多少早口で返答した。

 エルキドゥの共振機能は無機物に領域的に反応するため、地面も空気も関係ない、なんてことは当然言うわけにもいかず、適当に理由をでっち上げたティーネ。

 

 響はその言葉を信じたようで、「なーんだ、そっかー。残念だなー」と気楽な返事をしている。それに安堵の表情を浮かべるティーネ。

 クリスと翼は二人の様子をみて、僅かに不信感を抱く。

 言っている内容は、彼女が説明してきたギアの性能と合致する。無機物との共振が可能であることも二課の調査で裏付けがとれているため、それを疑う余地はない。

 だが、クリスと翼は一種直感的に、心にティーネに対する妙なしこりを残していた。

 

「そんなことより、早く行こう。マリア達がいないなら居るのは精々ウェルキンゲトリクスくらいでしょ? ──って思ってたけど、何かいるみたいだね」

 

 そう言ってティーネは奥を見据える。

 響や翼、クリスもその気配に反応し戦闘姿勢を取る。

 

 刹那、闇の中より一匹の怪物が襲撃をかける。大きさは大型犬ほどだが、その見た目は犬とは似ても似つかない。

 その怪物の姿を確認したティーネは、一切の躊躇なく回避を選んだ。ティーネのすぐ後ろにいた響が慌てて拳で殴り飛ばす。

 

「な、何あれ!?」

 

「ごめん、響。アレが何なのか気づいたら思わず避けちゃって……」

 

 驚く響に、ティーネは急に避けてしまったことを謝罪した。

 その間も怪物は体勢を立て直し、再び襲撃するティーネは周囲の壁を変形させ、防壁を作り迎撃する。そのやり方は、徹底的に自分やギアを用いて攻撃しないようにしている。

 響の拳を受けた部位は多少傷を負っていたが、既に回復している。先ほどのノイズたちとも異なり、一切炭素分解の予兆すら見せなかった。

 

「炭素分解しない……? この怪物、ノイズではないのか!?」

 

「するってーと、アレが……ネフィリムかッ!」

 

 翼の言葉に、思い当たることがあったクリスがその正体を看破する。

 ティーネが二課に伝えた聖遺物のうち、ネフィリムはトップクラスに危険な聖遺物。

 その性質は、聖遺物やそのエネルギーを食らうことでより強大なエネルギーを発する永遠の飢餓衝動。自律稼動するエネルギー増殖炉である。

 

「なるほど、たしかティーネのギアは励起状態のネフィリムとは相性が悪いと言っていたな。だから回避したのか」

 

「うん。基底状態ならともかく、励起状態だとクラックする前にエネルギー奪われちゃうんだよね……」

 

 ティーネの急な回避行動に納得する翼。エルキドゥの聖遺物クラックは、対象に接続することで起動する。

 心臓部のみが稼働する程度の励起状態ならさして問題はないが、ある程度エネルギーを蓄えたネフィリムの場合、クラックするためのエネルギーを収奪されてしまう。

 また、ティーネは二課に伝えていないが、ティーネ自身は完全聖遺物。ネフィリムが仮にティーネの一部でも食らえば、恐ろしい勢いで完成へと近付くことになる。

 それだけは避けないといけないため、思考レベル以前の反射で回避したのである。

 

 と、ネフィリムがティーネの作った防壁に噛み付くことをやめ、元来た方向へと戻る。

 そこには人影が1つ存在し、足元には檻がある。ネフィリムはその檻に自分から入り、ネフィリムが入りきると檻が閉じる。

 

「やれやれ、まさかもう此処を嗅ぎつけるとは思いませんでしたよ……」

 

「……ウェルキンゲトリクス」

 

 ティーネがその声を聞いた瞬間、露骨に嫌そうに顔を顰める。

 

「やれやれ、君は相変わらず僕のことが嫌いなようですねぇ?」

 

 ウェル博士がそういってティーネを嘲笑する。

 ティーネはウェル博士と最初に会った時以来、基本的に悪感情を隠していなかった。それは偏にウェル博士の英雄願望を心底嫌悪していたからである。

 彼女……否、"彼"にとって英雄とは何より優れ、独りで世界を背負って立つことすら厭わないもの。英雄として生まれたものが、英雄だと考えている。

 ただ英雄になりたい、英雄を求めている等を繰り返しているウェル博士をティーネはまず英雄とは思えないし、その精神性を認めることはなかった。

 だからこそ、ティーネは口すらもきかず、只嫌悪感を露わにした目で睨んでいた。

 

「てめえ、ソロモンの杖を返しやがれ!」

 

 クリスは、ウェルがソロモンの杖を持っていることに気づきそう叫ぶ。

 ソロモンの杖は、知らなかったとはいえクリスが起動させたものであり、気付かなかったとはいえ直接的にはクリスがウェルに委ねたものだ。

 その結果多くの惨事が引き起こされたため、クリスはそれを自身の罪だと思っていた。

 

(だからこそ、少しでも早く止める。とても償いきれるもんじゃないアタシの罪だけど、それでも……!)

 

 ウェルはクリスを見て、溜息を付く。

 

「このソロモンの杖は、バビロニアの宝物庫を開きその中にあるノイズを自在呼び出し制御する。こんな素晴らしい物、所有するにふさわしいのはこの僕をおいて他にいないでしょうに……」

 

 さもそれが当然であるかのように語り、杖を掲げる。その杖からは緑光が走り、廊下を埋め尽くすような数のノイズが出現する。

 更にその杖を振りかざすことで、ノイズ達が一斉に奏者たちに襲いかかる。

 

「如何にそちらにまっとうに動ける装者がたった1人いようと、エルキドゥのギアはシンフォギアの中ではかなり出力が低い。そんな欠陥ギアで、これだけのノイズは凌ぎきれないでしょう?」

 

「──ッ!」

 

 ティーネは後ろに攻撃がなるべく通らないよう鎖の防御を敷き、更に外套を変化させ大量の剣を作成、射出する。

 それでも一気に殲滅とはいかず、逃走するウェルを追いかけられる状況ではない。

 そんな状況に業を煮やしたクリスは、Anti_LiNKERによる適合係数の低下、シンフォギアからのバックファイアを厭わずに大量のミサイルを射出した。

 

 廃病院の外、暗闇に覆われたその場所は爆炎によって明るく照らされる。

 外壁すら破壊したその一撃の代価として、クリスはその場に崩れ落ち、慌てて翼がそれを支える。

 

「翼さん! ノイズがさっきのケージを持って……ッ!」

 

 見れば、気球のような姿をしたノイズがネフィリムの入ったケージを持ち飛んで行く。

 その隣には、以前響達が戦った高速飛行する高機動型ノイズが護衛のように配置されている。

 それを見た翼は、クリスを下におろし駆け出した。

 

「立花はその男の確保と、雪音を頼む! いくぞ、ティーネ!」

 

「ああ、わかった」

 

 翼の台詞に、ティーネは外套を変化させ高速飛行可能な形態を取る。

 そして、一気に加速し、高機動型ノイズを撃ち落とすために飛び込んでいった。

 

 

「……意外とキツイね、これは。このノイズ、ノイズと思えないほどに強敵だ」

 

 ティーネは外套から作成したジェットエンジンのノズルの向きを細かく調節しながら、相手の高機動型ノイズと戦闘を行う。

 最高速度はティーネのほうが上だが、加速能力はノイズが上。更にノイズは小回りも効くし、ある程度物理法則を無視するかのような軌道を取る。

 そして、正面の装甲が頑強であるため、ティーネの弾幕では迎撃しきれない。

 

(とはいえ、このままじゃ洋上に出るからあまり時間をかけるわけにはいかない。となれば……)

 

 ティーネは鎖を射出し、ケージを狙う。ケージ運搬ノイズを守護するために呼び出された高機動型ノイズは、その射線に割り込み頑強な装甲で鎖を弾く。

 その瞬間にティーネは鎖を素早く動かし、そのままノイズの手綱のように鎖を巻きつけた。

 

 鎖を振りほどこうとやたらめったら軌道を変えるノイズ。

 しかし鎖は解かれることは無く、鎖を手繰り寄せたティーネは高機動型ノイズの背中に立つ。

 

 

 ティーネ(エルキドゥ)にとって一番威力の出る技は、鎖でも外套を変化させた剣の弾幕でもない。

 

 元来環境兵器として作られたが故に持つ、エルキドゥの最も原始的な力。

 それは無機物と共振し、環境のもつエネルギーを自在に操作する力。

 欠片程度の力しか出せない今では、本来の出力には程遠い。しかし、それでも尚ノイズを打ち砕くには十分な力である。

 

「手古摺らせてくれたけど、これで終わりだ」

 

 自身の外套をアンカーのようにして体を固定し、同時に地面にも鎖を縫い付ける。

 鎖で大地と繋がれたノイズは、バランスを狂わせ地上に衝突する。

 

 その背中には未だティーネが立っており、鎖を通して大地の熱や微細なエネルギーを自分へと流しこむ。

 ティーネは動けないノイズを見下ろし、エネルギーを収束させた拳を装甲へと振り下ろした。

 

//////////////////////////////////////////////////////////////////

 

           E - Nu - Ma E - Lis

 

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 その一撃は、頑強なはずの高機動型ノイズの前面装甲を紙のようにへしゃげさせ、そのまま爆散させる。

 拳撃のエネルギーは装甲の下の大地にすら穴を空け、その余波は雲を吹き飛ばす。

 

 余剰エネルギーが直上に発光する様は、まるで天地を貫いたかのようなものだった。

 

 

(……どうする。このまま向かっても、私があのノイズを堕とせるかは五分と五分というところか)

 

 その頃、翼の追っていた気球ノイズは既に洋上へと出ていた。

 XDモードならいざ知らず、今の翼は空を駆けることは出来ない。そういう意味ではギアの変形で飛行機構を作り出せるティーネのほうが追跡には有利だったのだろうけど、取り巻いていた高機動型ノイズとの戦闘でこちらにまだ到着していない。

 走りながら翼は、どうやってあのノイズを撃墜するかを考えていた。

千ノ落涙や天ノ逆鱗は、放てる高度より相手が高空にいるため意味が無い。

 ならば蒼ノ一閃ではというと、斬撃の間合いに相手のノイズはいない。

以前の戦いでもそうだったが、彼女は地上から上空のノイズを迎撃するという手段に乏しい。というより、それに優れるのは雪音クリスか、今は次点でティーネ・チェルクのみである。

 

 と、そうする間にも海が迫る。決断を選ぶその瞬間に、二課からの通信が入る。

 

『そのまま、翔べッ! 翼ッ!』

 

『海に向かって翔んで下さいッ! どんな時でも貴女はッ!』

 

 その通信に、今までの一切を切り捨て全力の跳躍で海に身を投げ出す。

 眼下に迫る海には何も見えないが、それでも一切心配せず脚部のブレードをスラスターのように扱いバランスを取る。

 

 瞬間、海が割れ1隻の潜水艦が洋上に姿を晒す。その舳先を足場とし、風鳴翼は更に高く翔んだ。

 高く飛翔した剣がノイズに迫るその瞬間、既にノイズは細断されていた。

 

 下に落ちるネフィリムのケージを回収しようと、翼は脚部のブレードスラスターを使い一気に加速する。

 そして追いつかんとしたところで、翼に言いようもない悪寒が走った。

 

「──ッ!」

 

 とっさに身をひねる。その瞬間、足に(ガングニール)が命中し、翼は小さな悲鳴とともに海に落ちる。

 追いついたクリスと響は、海の上に槍が垂直に立つ姿を見る。そして、その上にはケージをもったマリアが立っていた。

 

「時間通りですよ……フィーネ」

 

 その姿を確認した響に拘束されているウェル博士は、当然とばかりにそう口にする。

 

「フィーネ……だと……?」

 

 クリスが、信じられないとばかりに目を見開く。

 フィーネとクリスには浅からぬ因縁があり、その名を聞いたクリスには複雑な感情が浮かぶ。

 

「終わりを意味する名は、我々組織の象徴であり。……そして、彼女の二つ名でもある」

 

「まさか……。じゃ、じゃあ、あの人は……」

 

 響はそれを嘘だと信じたいと顔にハッキリと出ていた。

 胸の歌を信じなさいと、そう言われ。

 本質は優しい了子さんであると、そう信じていた。否、今も信じている。

 だからこそ、マリアがフィーネであると信じきれなかった。今また世界に敵対しようとするなんて思いたくなかった。

 

 その響の願いを、ウェル博士は無情にも切り捨てた。

 

「新たに目覚めし、再誕したフィーネです!」

 

 再誕したフィーネ、マリアの表情には、決意の感情が浮かんでいた。

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