やはりこの世界にオリキャラの居場所が無いのはまちがっていない。 作:バリ茶
「最初どこ行くんだっけー?」
「お菓子持ってきたぜ!」
「あれっ……財布……」
普段の平日より騒がしいであろうとある駅のホーム。同じ班の仲間と駄弁っていたり、気が早いのかもう携帯で写真を取っていたり、財布を無くして絶望していたりと、周りの人達を見ていて楽しいので案外暇になることは無かった。
俺の前にいる主人公君もガハマさんとコソコソ話しているので、今のところ順調に修学旅行を楽しんでいるのではなかろうか。ヒッキ―君、割と喋ってるときに自分が笑っていることに気が付いていない。
そのせいかヒッキ―の笑顔で悩殺されて赤面気味のガハマさんを見て、ゆきのん殿は溜め息を吐いている。この溜め息がどんな意味かは分からないが、恐らく呆れているのだろう。クールな人だねぇ。まぁ、ゆきのん殿も少し顔赤いけどね!(嘲笑)
さて、とりあえず幸せそうなラブコメ部は置いといて。
数日前に会った、夢の男とそっくりな男子生徒。俺は今、彼を探している。
あの時からあの男が気になり、下手くそな手回しをして何とか少しだけあの男についての情報を手に入れた。仕入れた情報を要約すると「盗撮疑惑のある危ないヤツ」だという。簡単にしすぎたが、なるほど分かりやすくヤバイ奴だ。
しかし一つ大事な事がある。その情報はあくまでも疑惑なので、現状俺が勝手に探偵ごっこをしているだけということだ。もしあの男が無害な存在であった場合、俺は……まぁ、土下座でも何でも。靴だって舐めますよセンパイ。
「お、新幹線来たな!」
誰かがそう言った途端、気が早い連中はホームの奥へ視線を運んだ。ぞろぞろと釣られて歩き出す生徒も複数いる。皆さんちょっと新幹線気になり過ぎじゃありませんかね……。目新しいものじゃ無いだろうに、千葉はそんなに田舎じゃない!(必死)
新幹線の到着に気づき、先頭の班長と思われる数人が周りに声をかけ始めてた。移動ですな。今日も一日頑張るゾイ!
キィーッと擦れるような音を上げながら、新幹線は停止した。早まる気持ちを抑え、生徒たちは順番に搭乗していく。俺の班は後ろの方なので、まだ入ることは無さそう。
その間に、俺は眼を凝らして周りを見渡す。一人探偵ごっこでも構わないから、せめてあの男が安全であることを確認したい。自分が痛い事をしていることに自覚はあるが、これでも一応本気なのだ。今更逃げることは出来ぬぅ。
―――見つけた。前から三両目。奉仕部二人は二両目で、クラスの中で俺達の班だけ三両目だ。あの男と同じ車両だから直ぐに接触出来るだろうし、今のうちに気を引き締めておこう。
「っしゃあ。行くか」
呟いて車両へ歩き出す。気合、入れて、行きます!
◆ ◆ ◆
「ん? 霜月どこ行くん?」
俺が席を立つと、同じ班の奴に声をかけられた。
えっと、ほら、よくあるじゃない。クラスの余りものが集合して出来る班。俺の班はまさにそれだ。誰に誘われるでもなく、ハブられた人間が寄り添って完成する平和な班。
まぁ同じサッカー部の知り合いが居るので、ずっと気まずい雰囲気にはならない事がせめてもの救いか。知り合い以外も、のほほんとした平和そうな感じだから、一緒に行動する分には問題無さそう。
「ちょっと友達んとこ行ってくる」
「あいよ~」
反応しつつ、班の皆はババ抜きに熱中していた。仲良さそうだなぁ。探偵ごっこなんか止めて混ざりたい……。おっと本音が漏れたでござる。
兎に角、まずは怪しまれることなく抜け出せた。あの男を探そう。立ちながら周りを見渡すのは流石に不自然なので、とりあえず車両の間にあるトイレへ向かう。
二両目と三両目を繋ぐ間の空間へ入り、そのままトイレには入らず二両目を少し覗く。
扉に一番近い左の席で、主人公くんが大天使と添い寝している。ここの部分は少しうろ覚えだが、二人が隣同士の席にいる描写は確実に有ったので、おそらく概ね順調に原作通りの動きをしていると思う。
安心してホッと胸を撫で下ろす。よかった、少し俺が挟まっちまったけど、どうやら悪影響は出ていないらしい。
壁一枚で隔てられている向こう側の光景を、暫しボーっと眺める。やっぱり戸塚は可愛いなぁ、とか八幡呑気だな、とか思ってみたり。
―――あちら側へ行きたい。そう頭に
ずっと観察してたけど特に何も無かったぜ!! イェア!!(血涙)
俺が観察していた限りは、普通に友達と話したりお菓子食べてたりで、目立ったことは何一つなかった。恥ずかしい……。探偵ごっこも大概にしよう。
まぁ、無駄な行動では無かったと思う。とりあえず俺が安心できた。これで気兼ねなく修学旅行を満喫できそう。
「………ん?」
今は清水寺にいるのだが、何やらヒッキ―の様子がおかしい。前列の戸部と海老名さんを見張るためにガハマさんと二人で並んでいるのだが、なにやら顔をしかめている。
なんというか、露骨に何かを鬱陶しく感じているような表情だ。偶然にも二人からそこまで距離は離れていないので、とりあえず二人の会話に耳を澄ませてみる。
「――由比ヶ浜」
「あー、姫菜達もう行っちゃいそう!」
「おい、由比ヶ浜」
「急ご! あ、何ヒッキ―?」
「俺の気のせいならいいんだが……何かお前の近くからピッピッて、変な音聞こえねぇか?」
なんとなく聞こえたが、ヒッキ―が何か勘ぐっているようだった。当のガハマさんは「なんのこっちゃ」といった表情。人も多いし、誰かのケータイかカメラか何かだと、個人的には思うが。
二人の番が回ってきた。案の定水を飲むガハマさんにドキドキするヒッキ―。かわいい。
★ ★ ★
夜の旅館。一夜目の今回はガハマさんの出現場所が特定されてないし、暇だ。とりあえず平塚先生に攫われるヒッキ―とゆきのんを覗きに行こう。
変に屁理屈こねてメンバーに混ざるようなことはせず、本当にそーっと遠くから観賞するだけ。それが一番。
恐らくは一階のロビーなので、そこへ向かおう。
「………あらま」
あっれーおかしいねー誰もいないねー。早かったかな? 消灯までに二人はラーメン屋から帰って来るし、このくらいの時間に旅館を出ないと間に合わないんじゃ……。
「――おっ」
「へ?」
「霜月、ここで何してんだ?」
後ろから声をかけてきたのは――ひ、ヒッキ―。
や、やべ、見つかった。これからイベントだったのかよ、き、聞いてねぇぞ!(逆ギレ)
しかも何か……依頼に関しては可もなく不可もなくって感じの筈なのに、ヒッキ―が笑顔だ。いやあ、満面の笑みとかそういうんじゃなくて、なんとなく気分が良さそうな顔と言うか。
「奥に自販機とソファあるし、行こうぜ」
「お、おう」
若干押され気味で、断りきれなかった。マジで何やってんだ俺。
どうしようかと考えながら自販機の前に来ると、ヒッキ―の表情が少し曇った。そこで俺はひとつ思い出す。
「そーいや……この周辺にマッ缶なかったな」
「」
絶句するヒッキ―。彼は間違いなくマッ缶中毒ですね、はい。
渋々ブラックコーヒーを買い、俺も同じものを買う。そしてそのまま部屋に戻るのが最善の選択なのだが、なんというか、その、流れでヒッキ―の隣に座ってしまった。
まぁ、過ぎてしまった事はしょうがない。ちょっとヒッキ―と話して、ゆきのんが来る前に撤退しよう。
「……えっと、初日だったけど、どうだった? 京都」
「んー、まぁつまらなくは無かったな。珍しい建物とか普通に感心したし」
「そっか。……あ、お土産とかもう買った?」
「八橋はまだだが……とりあえず妹に頼まれたあぶらとり紙は買ったな」
「あー、そういや俺も同じの頼まれてたなぁ」
小町ちゃんと同じく、俺の妹も脂取り紙をご所望で。そんなもの使わなくても可愛いぞって言ったら殴られた。
「そういえばお前も妹いたな」
「お前の妹さんと同い年だゾ。……あぁ、妹から友達の話を聞くときは、決まって小町ちゃんって子の名前が出てくるなぁ」
「マジか………それ俺の妹だな」
驚いた反応をするヒッキ―。前から知ってはいたが、原作ではヒッキ―との描写ばかりだった小町ちゃんが、自分の妹と仲良しの友達なのはなんだか嬉しい。
「我らの妹二人は惹かれあう運命だったのですね!」
「おっと、先走って百合の妄想をするのはやめてもらおうか」
「ハチマンお兄様ったら手厳しい」
「………何を話しているの?」
「「あっ」」
何だか変に会話が盛り上がったところに現れたのは、凍ってしまいそうな眼差しをこちらに向けるゆきのん。―――しまった! 来ちゃった! 油断してた、来る前に消えようと思っていたのに。
ゆきのんは定石通りヒッキ―の隣に座ってきた。こっちに聞こえないよう、小声で奉仕部活動について話している。聞こえてないのに内容が分かるのは読者の特権ですな。
「…………」
そして無言で目の前を過ぎ去ろうとする不審者。
しょうたいは ひらつかせんせい(ふしんしゃのすがた)だった! アローラのロコンいいよね。
「……くっ。と、とりあえず三人とも来たまえ」
案の定ラーメン同好会に加入することになりました。困リーリエ。
★ ★ ★
同好会解散の後、ゆきのんを見送って二人で旅館へ戻った。
―――流されてついて行ってしまったが、真面目にこれはまずい。非常に良くない状況だ。城廻先輩の件も含めて、俺はやらかしすぎている。
本編において今回の平塚先生の口封じは、さほど物語には干渉しないイベントだ。しかしそこに不純物が混ざったとなれば、いよいよもってこれからの状況が予測できない。
自分で望んでいた「彼らの青春を傍観する」という目的を、自分から壊しにかかっている。
確かに、最初は彼らに関わることを望んでいた。しかし現実を見て、諦めたのだ。そして決意した。『自分で物語を壊すようなことはせず、ただ見守る』と。
それがどうだ。今のこの状況。城廻先輩の時とは違い、明確に描写されていた物語のワンシーンに入り込んでしまった。
手遅れになってしまうかもしれない。遂に雪ノ下雪乃と会話をしてしまったのだ。それも部員である比企谷が傍に居る場所で。印象に残らないはずが無い。必ず彼女の思考の片隅に俺が入り込んでしまう。
――まてまて。考え過ぎないようにしよう。
今回のことは物語の本筋には関わっていない。強いて言えば比企が……ヒッキ―とゆきのんの平塚先生に対する信頼が少し深まっただけの話だ。そこに同伴しただけならば、きっと問題はないはずだ。でも――
「調子に乗るのは……よくないよな」
トイレの洗面台の鏡に向かって、ポツリと呟いた。
矛盾点などのご指摘を頂きました。ありがとうございます。
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