やはりこの世界にオリキャラの居場所が無いのはまちがっていない。   作:バリ茶

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6話 MAXハイテンションな俺にハイパー大変身

 

 

 

 消灯時間が過ぎて間もなく、宿泊している旅館の部屋は殆どが静まり返っていた。

 一部の男子たちは、こそこそと別のクラスの部屋に移動したり、スマホで明かりをつけながら遊んでいたりと、消灯前より盛り上がっている気はするが。

 

 そんな中、俺はそっと布団から身を起こし、静かに部屋を出た。未だに起きていた戸部たちに声をかけられたが、トイレに行くと言って誤魔化した。

 トイレに行くことはあながち嘘ではないが。

 

 一旦トイレの個室に入り、そのまま腰を下ろす。

 部屋からの外出が許可されていない時間帯に抜け出してきたこともあってか、少し心臓の鼓動が早い。三回ほど深呼吸を繰り返すが、心臓の鼓動は収まるどころか早くなってしまった気がする。

 

 しかし、こんなにもドキドキしているのは、何も消灯時間後に部屋を抜け出してきたからだけではないのだ。

 

「……あー、もう」

 

 口から漏れる言葉が、わずかに個室内で反響する。

 

「マジで、どうしよう」

 

 意味も無くトイレットペーパーを見つめたり、軽く唇をかんだり前髪をかきあげたりと忙しない。

 マジで、どうしよう。平塚先生に解放されヒッキ―と旅館に帰ってきてしばらく時間が経った後、俺はこの台詞を何回も繰り返している。

 

 旅館に戻ってきた後、ゲームやら枕投げやらで部屋の中は大騒ぎだった。ヒッキーは戸塚と何故か別のクラスなのにこっちに忍び込んでいた材木座に捕まり、俺は完全にフリーになった。

 もちろん同じ班の奴らは楽しそうに遊んでいたが、平塚先生に振り回され、その間ずっと緊張していたこともあってか、少し疲れた俺は遊ぶ気が起きず部屋を抜け出した。

 

 夜風に吹かれたい気分だったので、使われていない部屋のベランダに忍び込み、設置してあった椅子にどすん、と腰を下ろして、ゆったりしていた。

 その時―――

 

「ははははっ!」

 

 同じく宿泊に利用されていない隣の部屋から、そんな笑い声が聞こえてきたのだ――

 

 

 

 

 

 

 ――隣から笑い声が聞こえてきた。忍び込んだことがバレたのか、と一瞬ドキッとしたが、どうやらそういう訳では無いらしい。笑い声はすぐに収まったし。

 

 少し気になったので、ベランダから部屋の中に戻り、壁に耳をあてた。

 褒められたことではないのだが、思春期の好奇心は考えるよりも先に体を動かす実行力があるらしい。

 耳を澄ませてジッとする。するとさっきほど大きくはないものの、聞き取れる大きさの声が聞こえてきた。

 

「いけない……つい声を上げてしまったな。気をつけなきゃ」

 

 聞こえてくる声は笑い声の主と同じで、それ以外の声は聞こえてこない。

 なんだこいつ。まさか、一人で笑ったり、考えていることをわざわざ声に出して喋ってんのか?

 

「………ははっ」

 

 小さいながらも、つい自分の声が漏れてしまった。

 

 いや、あのね? わかるよ? そういうことしたい時期ってあるよな。実際俺もあったし、酷い時は左手が疼いたりしたもんだ。

 でも、なぁ……。流石に修学旅行先でその症状が発症するって相当だぜ? 皆で楽しんだり思い出作りに忙しい修学旅行で、自分に酔い痴れることはあまり無いと思うんだがなぁ。

 

 あー、でも、たまに思考を声に出してる俺が言えたことじゃないか。仲間の輪に入らず夜風を浴びてかっこつけたり、痛いことしてるのは俺も一緒だしな。

 

「これで、これで……! 旅行中の彼女の一挙手一投足は僕に筒抜けだ!」

 

 

 

 ―――何か今、聞き捨てならないような言葉を聞いた気がするんだが。

 

「結衣……結衣……んぁぁあっはっ、はぁ……! 結衣ぃいひぃぃ……はぁ、はぁ」

 

 結衣? まさかとは思うが、由比ヶ浜結衣?

 

「はぁあっは、あ、ぁうっ……! うっ、ふっ……! なんでっ、あぁんなぁぁ……奉仕部の男なんかと……!」

 

 

 

 ―――やばい。何がやばいってとにかくやばい。

 もしかして、とかじゃなく、奉仕部って単語が出てきた時点でこの「結衣」が指す人物は間違いなく、あの由比ヶ浜結衣だ。

 

 は? なに? え?

 嘘。何で?

 この声の主、もしかして、サッカーボールを拾わせた――新幹線で俺が怪しんでいたあの男子生徒?

 

 新幹線で様子を見てた時は全然そんな素振りは見せなかったし、降りた後も同じ班の人と楽しそうにやっていた。

 由比ヶ浜と比企谷が一瞬目の前を通った時も、眼中に無いかのように無視していた。目線がその二人に行くことすら無かったのに、あれポーカーフェイスだったのか……?

 

 俺の探偵ごっこが杞憂に終わったかと思ったら……。何なんだよマジで。

 とりあえず、だ。とりあえず一言一句漏らさず、此奴の言葉を聞いておこう。

 

「良い匂いだっ、あぁうっ! ふはっ! 結衣の、彼女の、あの子の、ああ゛! 君のハンカチぃ! 怪我をしていたとは言え! 見知らぬ相手にハンカチをそのまま渡してしまうなんてぇぇ、君はとんだ変態だなぁ…!? 危機感が足りないよ危機感が…! ふぅふ、ふううぅうぅぅ!」

 

 ふむふむ。どうやら部屋の向こうのアイツは、偶然譲り受けたであろう彼女のハンカチでナニをナニかしているようだ。

 ――そんなことが知りたかった訳では無いのですが!(逆ギレ)

 

「ひ、ひひっ、ひっ……! 遠隔操作ももう慣れたぞ……、下手に失敗するようなことは無いはず。うぃ、ひひっ! 寝息が! 寝息が凄い! もうほんとなんかとにかく凄い! 吸いたい! この息だけを吸って生きたい! ほんとに!」

 

 語彙力が著しく低下してて少し笑った。よほど愉悦に浸っているのか、全て言葉になって外へ放たれている。馬鹿な奴だなぁ。

 

 しかし、盗聴器なのか遠隔カメラなのか。いずれにせよ、今この瞬間でさえも由比ヶ浜結衣の現在が奴に筒抜けなのだ。放っておくわけにはいかない。

 

 にしても遠隔操作がうんたらとか寝息が聞こえるとか、結構ハイテクなもの使ってんな。変態のくせに生意気だ。……着眼点がおかしい? 俺もそう思った。

 

 

 ――暫くして。興奮が収まったのか、隣から扉を開ける音が聞こえた。どうやら部屋を出たようだ。

 

 凄い事を聞いてしまった。取り敢えず一旦この部屋を出て、どうするかゆっくり考えよう。 

 

 

 

 

 ―――そして現在。

 考えが纏まらず消灯時間になってしまい、布団の中に居たら眠ってしまいそうだったので、部屋を出てトイレに移動したのだ。

 

 このままでは状況は好転しない。もしかしたらヒッキ―が盗聴器的な何かに気が付く可能性が無きにしも非ずだが、それでもこの状況を明確に把握している俺が動かない理由は無い。

 

 うーん、あー、えーと、とりあえず、そうだな、よし。

 まず対処すべきはガハマさんの周りを遠隔操作でうろついている何かだ。

 

 

 確か、明日はお化け屋敷だかに行くはず。葉山が妙に邪魔してることにヒッキ―が薄々気づいたりする辺りか。

 とりあえずうまい言い訳をして班から離れて、バレない様に主役御一行様に引っ付いて行こう。

 

 隙を見てガハマさんの近くまで行って、あの男の使っている機械がどんなものか確認する。当面の目標はこれでいいか。あわよくば機械を破壊したいところでもあるが、ガハマさんやヒッキ―に存在を感知されて原作通りに事が進まないのも困る。

 隠密行動は苦手だが、気張っていこー!

 

 

 

 

 朝になった。緊張しているからか、皆が目覚める前に覚醒してしまった。

 起床時間まで一時間くらいあるし、自販機で飲み物でも買ってゆっくりするか。

 

 温かいコーヒーを買ってロビーのソファで寛いでいると、階段の方から足音が聞こえてきた。

 俺以外にも結構な早起きをした人がいるのか。

 

「あっ」

 

 間抜けな声が出て数秒、暫し体が硬直した。

 そしてようやく目の前の事を脳が理解した瞬間、俺は急いでソファから離れ柱の物陰に隠れた。

 

 奴だ。新幹線で俺が怪しんでいたあの男。

 その姿を見て、つい反射的に隠れてしまった。

 

 

 飲み物を買ってソファに座ったその男を見ていると、ふと、頭の中に一つの疑問が浮かんだ。

 

 あの目と鼻の先にいる男子生徒と、昨日の変態糞ストーカーは別人なのではないのかと。

 

 思えば俺は昨日の夜からずっと、俺が気にしていたあの男子生徒が犯人だと決めつけていた節がある。そのことで少し不安を覚え、悩んでいたのだ。

 前にサッカーボールを拾わせた時や、新幹線での友人との会話を盗み聞きした時といい、あの男の声はすでに知っている。

 

 確かに夜に聞いた声と似ていたし、他に疑うべき人物が俺の頭に浮かんでこないのは確かだ。

 

 しかし、だ。目の前のあの男子生徒が何かとんでもないことをやらかしたとか、怪しい事をしていたとか、そんな場面は見ていないし誰からもそんな事実を聞いてはいない。あくまで『噂』を聞いただけに過ぎない。

 犯人だと決めつけて詰め寄って、もしもあのストーカーとは全く関係の無い人物だったら?

 

  

 ―――ああ、いや、今更か。

 もしあの男が無害な存在だったら、土下座だって靴舐めだってすると、そう心の中で誓って昨日から行動していたんだった。

 

 あの男子生徒が犯人でなかったのなら、彼が不快な気持ちになって、俺がキモくて厨二病なサッカー部のヤベーやつってレッテルを張られるだけだ。

 

 運よく神様にわざわざ転生させて貰ったんだし、どうせ二度目の人生だ、もう吹っ切れてやりたいようにやろう。

 あいつが犯人で俺はなんとかしてガハマさんを守って証拠を突きつけてあの男を警察にぶち込んで終わりっ! 閉廷! 以上!

 

 早朝、ロビーの柱の物陰で、俺は静かに覚悟を決めた。

 おー、なんか凄いテンション上がってきた。

 

 

 

 

 

 時間は飛んで、日中の昼ごろ。

 全く格好良くない覚悟を決めた俺の瞳は、今にもお化け屋敷に入りそうなヒッキ―とガハマさんを捉えていた。

 当然ながら、ここからではガハマさんのすぐ近くに存在するであろう遠隔操作型の小さな機械は視認できない。

 

 近づきたいところではあるのだが、ここでは遮蔽物が少なく隠れるのが困難だ。

 今みたいに少し離れた店の中から眺めるのが精一杯。

 

 む。このままでは何も変わらないんじゃないか? 多少危険を冒してでも進むべきだろう。

 そう思ったら、いつの間にか彼女たちの近くの店へ、足は勝手に動いていた。

 覚悟を決めた分、いつもより考えたことを行動に移すまでの時間が短縮されているようだ。

 

 今のめちゃくちゃ調子に乗った状態の俺なら、何でもできる気がする。

 物事にはノリが必要だ。波に乗っている今こそ、遠慮せず調子に乗ってグイグイ行くべきだ。

 

 だが少しは冷静になった方がいい気もする。素早く、そして丁寧に。焦るだけではミスをするかもしれない。

 大胆且つ慎重にという矛盾めいているその心持ちで行くことにしよう。あれ? 今の日本語?

 

「ヒッキ―、私たちも入ろう!」

「お、おう」

 

 あ、もう始まってる。

 でも向かう先は結局お化け屋敷だから多少距離を離されても安心!

 

 ここで自分がお化け屋敷に入るかどうか迷ったが、あんな決められた道順で、しかもさほど広くない道幅、彼らに気づかれる可能性が非常に高い。ここは外で様子を見ることにしよう。別にお化けが怖いとかそういう事では無い。本当に本当。

 

 にしても川崎さん、お化け屋敷に入る前から若干顔が引きつっている。やっぱ苦手なんすね~。

 それに反して戸塚は全然平気そう。まぁ天使がお化けなんか怖い訳ないからね、しょうがないね。

 

 屋敷内に入る瞬間、急に怖くなったからか、一斉にヒッキ―に掴みかかるガハマさんと川なんとかさん。

 ごくごく自然に女子と触れ合う機会が沢山ある。これが主人公の力か……。でも少し距離を置いている戸塚は例外っぽいので僕が貰っていきますね!

 

 葉山達含めて全員がお化け屋敷内に入ったので、一旦店の外に出る。

 辺りを見渡してみるが、あの男の姿は無い。まぁわざわざ遠隔操作の機械を使うくらいだし、ガハマさんにバレては元も子もないから近くにいるはずもないか。手元でガハマさんの状況が手に取るように分かるんだし。

 

 ……うーん。あのガハマさんの一挙手一投足が手に取るように分かるとか、今更ながらムカついてきたな。絶対ぶっ飛ばしてやるあの野郎。

 その為にはどうしても証拠が必要だな。

 

 目標変更。あわよくばでは無く、今日中にヤツの機械を破壊しよう。

 修学旅行を潰してまでストーカー行為をするような奴だ、きっと使っている機械も本気で用意した物だろう。

 スカートの下から盗撮とかそんな甘い訳がない。ガハマさんを360度見渡せるような物を使っているはず。

 

 ならば奴の使っている遠隔装置はガハマさんからさほど離れた位置には無いと思われる。

 犯罪者の気持ちになって考えれば、俺ならそんな盗撮をするくらいなら是非とも一瞬一瞬の表情、それこそ体の隅々まで見たい。

 あの重度のストーカーなら同じことを考えているに違いない。なんて野郎だ許さん。

 

 

 もしもの時の為に、俺は店に戻って木刀を買ってから再び店を出た。

 木刀といえども、俺の買ったものはサイズが小さく、制服の中に隠せるくらいの小ささだ。この大きさなら変に注目されることも無いだろう。

 

 もしもの時、というのは、ヤツの盗撮器具を発見した時の事だ。

 見つけたらこの木刀で跡形もなく粉々にしてやるからな、覚悟しとけストーカー野郎。急に画面が暗転して驚く未来が見える見える。

 

 ああ、直ぐに壊したら駄目か、証拠にならなくなる。悔しいなぁ、早く壊してアイツの無様な悔し顔を見たいのに。てことは、この木刀買ったのは無駄遣い? 何か虚しくなってきた。

 

 お? もうお化け屋敷から出てくる頃か。何故か先に入った葉山達より先に川なんとかさんが出てきたし。

 じゃ、行動開始かな。バレない様にガハマさんに近づいて、先ずはヤツの盗聴器具を目視する。そして隙をみてそれを回収する。後はそれをアイツに見せつけて自白させれば終わりだ。

 

 ヤツが何か弁解しようとしても、まぁ指紋か何か証拠が挙がって来るだろ。いざってときはガハマさんにきついこと言わせて、それでヤツが発狂して暴れれば自白も同然だ。

 

 あんなに好いているガハマさんに拒絶されれば、精神崩壊待ったなし。

 あ、でも言葉攻めとか放置プレイが好きなマゾだったらどうしよう?

 

 いや、それは無いな。アイツは粘着タイプっぽいし、昨日の夜の言葉づかいからしてガハマさんを下に見ている。というか、既に自分の所有物にしたかのような物言いだった。ガハマさんを思いのままに蹂躙したそうなやつがマゾヒストなわけないか。

 

 

 葉山があーしさんにそろそろ移動しようかと持ちかけている。ガハマさんも「お化け屋敷の効果が出てるのかなぁ……」と、不安そうなセリフを言っている。

 アニメの展開通りだ。となれば次の目的地は、ゆきのんが虎の子渡しがうんたら言ってた龍安寺だろう。

 

 あそこではガハマさんはヒッキ―に付きっきりだし、ゆきのんが京都名所のメモを渡すというイベントもある。

 とりあえず知っている展開が終わるまでは様子見だな。

 

 

 メモ渡しのイベントが終わり、少し気が抜ける。ここからは一気に夜のコンビニまで場面が飛ぶので、その間のことは何も分からない。

 だが、これは逆にチャンスだ。知らない、予想できないことが起こるこのフリータイム、しかし悪い事ばかりではないはずだ。今はただ待とう。

 

 生憎、俺から見たら彼らは画面の向こうにいたキャラクターなので、そのオフショット的光景が目の前にあれば目の保養になるし、待つことが苦にはならない。寧ろずっと見ていたいくらいだ。

 

「……あ、来た」

 

 唐突に訪れた千載一遇のチャンス。唐突過ぎて一瞬怯んだ。

 ガハマさんがヒッキ―から離れて、一人で寺付近のお土産屋を物色し始めたのだ。幸い近くには葉山グループすらいない。

 

 恐らく気になる物が無ければ直ぐにヒッキ―か葉山グループの元へ戻るだろう。

 また都合よくこんな好機が到来するかなんて、分かったものではない。

 

 今しかない。今、近づくべきだ。

 最悪、存在を認知されても構わないから、どうにか彼女の周辺にある筈の盗聴器具を発見して回収しよう。

 

 都合のいいことに、彼女とは同じクラスだが面識はほとんどない。寧ろ俺の事を覚えていない、もしくは知らない可能性すらある。

 流石に同じクラスだし彼女のような人間なら一応俺の苗字と顔くらいは知ってそうなものだが、それでも構わない。同じクラスの奴が偶然同じ土産屋に居ても、親しくないなら話しかけてこないはず。

 

 そーっと近づく。もしも知られているにしたって、出来れば気づかれず仕事を終えたいのだ。わざわざ自分から存在を感じさせるようなことはしなくていい。

 ――しめしめ、背後の近くまで来てやったぞ。さぁどこだ、変態野郎の盗聴盗撮器具! 

 

「これってどんなお守りなんですか?」

 

 おもわず声が漏れそうになったがそれをグッと堪える。

 ガハマさんが手元のお守りを手に取って、急に店員に話しかけるもんだからびっくりした。

 店員は営業スマイルを崩さず、いつもの事のように話す。

 

「そのお守りは少々特別なんです~。それをお持ちの時に親族の方やご友人の恋愛成就がなされますと、それにならってご自分の恋愛成就を達成できたり運気が上がるお守りなんです~」

「へ、へー。凄いお守りなんですねー……」

 

 ガハマさんが割と真剣な目でそのお守りを見つめる。

 にしても回りくどいお守りだな。素直に運気アップのお守り買って、終わりでいいんじゃない?

 

 っていうかそんなこと言ってる場合じゃねぇ。早く見つけないと。

 畜生、どこだ…?

 

 時間があまりにも少ない。それにそろそろガハマさんもあのお守りを買って戻ってしまいそうだ。

 やべぇ、本当にまずい。どうすればいい、全然怪しいものなんか見当たらねぇ。

 

 何か、何かヒントみたいなの無いのか…!? ゲームじゃないけど、手掛かり的な何か…。

 

 

 ――――あ。昨日、ヒッキ―が。

 

『俺の気のせいならいいんだが……何かお前の近くからピッピッて、変な音聞こえねぇか?』

 

 ということは?

 

 ―――そう、そうだ。音だ。手掛かりはもしかしたら音かもしれない。耳を、耳を澄ましてみよう。他の雑音に気を取られず、彼女の周辺にのみ意識を集中させて。

 

 

 ――――――――

 

 

「―――聞こえた」

 

 僅かに聞こえた。車のウィンカー音の様な周期で流れていた。

 

 音を辿った先にあったのは、ガハマさんの制服の襟周辺で、微かに光る何か。微弱で、弱々しく点滅する何か。

 自然と足は彼女の方へ進んでいき、いつの間にか手はそこへ伸びていた。

 

 こちらに気づいたのか、今にも飛んでいきそうだった“ソレ”を、俺はそれを親指と人差し指で掴んだ。きゅっ、と。呆気なく。

 

「ひゃっ! ……え、え?」

 

 手に力が入り過ぎていたのか、少し制服も摘んでしまったようだ。

 てかなんだ今の声可愛すぎでしょ(変態)

 

「……あ、あの、えっと……何ですか?」

「へ? あ、いや、これは……その」

 

 あ、あー……あー! しまった! なんて馬鹿正直に行動しちまったんだ俺は!?

 ガハマさんに警戒全開の目で見られてる!

 めっちゃ引かれてる! その表情に俺は惹かれてる!(変態) 

 

 そうじゃなくて。そうじゃなくてさ。とりあえず謝って弁解しないと。

 

「あの、ごめん。大きい虫が襟に止まってたから、つい」

 

 指で摘んだ何かを苦し紛れに少し見せる。するとガハマさんは少し驚いたような表情になり、直ぐにいつもの笑顔な可愛い顔に戻った。

 

「わざわざ取ってくれたんだー、ありがと! ……あ、これ買います!」

 

 急いで会計を済ますと、彼女はこちらに手を軽く振ってから奥にいるヒッキーのもとへ走って行った。

 その後ヒッキ―の眼がこっちに向いたような気がするが、気のせいだと割り切って急いでその場を離れた。

 

 

 

 

 

 今俺がいるのは、いわゆる路地裏。誰の眼も届かないような場所で、俺は静かにガッツポーズをしていた。

 やった! やったぞ! やってやったぞ!

 

 指に挟んだ物体を、木刀を買った際に貰った透明な袋の中へ入れて、口を縛る。

 その銀色の物体は途端に激しく暴れだして、一瞬ビビった俺は袋を落としそうになったが、何とか持ちこたえる。

 

 どうやら俺が捕まえてきたのはビンゴのようで、明らかに虫ではない形状なのに袋の中を縦横無尽に駆け巡っている。

 だがサイズは小さく、尖った部分が殆ど無いため、袋に小さな穴ひとつすら空けられていない。

 

 こんなサイズなら遠目から見えなくても致し方ないな。音で場所が分かったとはいえ、点滅していなかったら、恐らく見落としていただろう。

 ミニマムで高性能な代わりに、点滅はどうしようも無かったらしい。変な機械だ。ストーカーが使ってるくらいだし、どうせまともな代物ではないのだろう。

 

 ――と、ここで俺は思った。

 これ、完全に俺の勝ちじゃね? と。この証拠があれば、自白させる方法ならいくらでもある。

 なんと、小さいながらもナンバーシールが付いている。おまけにこんな通販でしか手に入らないようなもの、どうにかすれば特定なんて直ぐだろう。

 

 おお、愉悦。自らの目的を果たせたときに感じるこの完全勝利の感覚。

 いいなぁ、頑張った甲斐があった。

 

 あ、そうだ(唐突)

 今この小型機械に向けて挑発すれば、あっちから来るんじゃね? 

 今の俺なら何でも出来そうな気がする。ヤツをぶっ飛ばして白状させてやろうかな。

 

 よし、と俺は気合を入れて、袋を目の前に持ってくる。そして

 

 

「ざまぁねーな、ストーカーの変態野郎。お前のくだらない企みはこれで全部パーだ。すぐにでもお前の事を警察にぶち込んでやるからな」

 

 

 一息おいて。

 

 

「あと、由比ヶ浜結衣には想い人がいる。もちろん、お前じゃない。お前みたいなヤツが何をしようと、絶対に彼女には振り向いてもらえないからな」

 

 

 静かに、そう言った。煽るように言ったつもりだったのだが、効果はあったのかな? 叫ぶように伝えるよりは効果があったと思いたいが。

 咄嗟に考えたセリフだったが、あんまり汚い言葉が出てこなかったのは、きっと俺の根が聖人だからだな。……冗談です。

 

 とにかく、これでガハマさんは完全に安全だろう。もう視姦されるようなこともないから、知らなかったにせよ、彼女には安心してもらいたいところだ。

 

 証拠も回収したし煽りも加えといた。

 そろそろアイツと決着の時だ。

 

 

 

 

 

 

 






ハイテンションだったとはいえ、主人公も大概ヤベーやつ。
感想頂きました、ありがとうございます。あと数回で完結です。
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