薄暗い空間の中、間桐雁夜は詠唱を唱えていた。彼の体内で蟲が暴れ狂う。その様子を間桐臓硯が気味の悪い笑みを浮かべながら見ている。なぜ間桐雁夜はそこまでしているのかと言うと彼の想い人の娘、間桐桜を助ける為、いや想い人の夫である遠坂時臣に対する負の感情でもある。
「天秤の守り手よ!」
体の全ての力を出し、最後の詠唱を唱えた。
そして円陣の中心に立っていたのは…
「おっす!オラ料理王!ワクワクすっぞ!」
コック帽にコックコートを着た冴えない男だった。
「雁夜…これでは勝ち目は無い…令呪で自害させろ」
臓硯の言葉は正しかった。いくら蟲で底上げしたからと言っても魔力は他のマスターよりも低すぎる。狂化のあるバーサーカーならともかく、普通のサーヴァントでは能力が弱くなる。だが彼はそんな事はどうでも良かった。とにかく時臣に一矢報いる。そんな感情が彼の頭を支配していた。
「はぁはぁ…まだだ。…ひょっとしたら当たりを引いたかもしれないだろ?」
「ふん、このサーヴァントが当たりな訳無い。さっさとしろ」
「なら…こいつの能力を見た後で自害させるか判断する…いいな?」
「勝手にしろ…」
雁夜は料理王に顔を向ける。
「料理王…とか言ったな…」
「あぁ…」
「頼む…あいつにお前の力を見せてくれ」
「了解、マスター」
そして料理王が臓硯の前に立つ。
「どれ、どんな能力か儂に見せてみろ」
「いやいや爺さん。俺は料理人だぜ?俺の強さは腕力や超能力じゃねぇ。料理だ‼︎」
そして右手を前にかざす。
「体は料理で出来ている…血潮は調味料…心は調理道具って、長い‼︎無限の料理‼︎」
周りの空間が変わり、畳の上にちゃぶ台が置いてある昭和風の部屋になる。
「おもしろい…儂の舌を唸らせる事は出来るか楽しみだ…」
(ノリノリじゃねーか)
料理漫画で良く出る審査員の様なセリフを言う臓硯に心の中で軽くツッコむ雁夜。
「へい!お待ち!」
臓硯の前に置かれたのは豆腐の味噌汁だった。
予想外の料理に戸惑いながらも味噌汁を口の中に入れる。
そしてお椀をちゃぶ台に乗せ、沈黙する。
「ま、まさか…不味かったのか…」
臓硯の様子に不安が募る雁夜。
だが次の瞬間…
パァァァァァァァァァァァァァン‼︎
臓硯が着ていた着物が弾け飛んだ。
「う、美味すぎる…!」
「ほらマスターも」
「い、いや俺は良いかな…」
「何言ってるんだ!マスターにも食べれる様に汁物にしたんだ!」
「何と!そこまで考えていたとは流石…!」
「うるせぇジジイ‼︎黙ってろ‼︎」
「ほらマスター」
料理王が雁夜に味噌汁を差し出す。
「わ、分かった」
そして雁夜は味噌汁を受け取り、豆腐と油揚げを口に含む。
(…‼︎何だコレは‼︎豆腐の風味と油揚げの旨味が口に広がる)
さらに汁を口に入れる。
(味噌とダシがマッチしている…美味い)
「さぁ桜たぁんとお食べ」
「はい、お爺様」
なぜか居る桜が臓硯と味噌汁を食べているが雁夜はそんな事を気にしている暇は無かった。
(こんな温かい料理久しぶりだ…。こんな料理を葵さんと凛ちゃんと桜ちゃん。時臣も…まぁ良いや。とにかく全員で食べたい)
そして汁を最後まで飲み干し、お椀をちゃぶ台に乗せる。
「どうだったマスター?」
料理王の質問に、にっこりと笑みを浮かべる。
「あぁ、美味かったよ」
その瞬間!
パァァァァァァァァァァァァァン‼︎
雁夜の衣服が破け散り、いつの間にか髪と顔が元通りになっていた。
「おじさんサイテー!」
「雁夜…それは無いじゃろ…」
「うるせぇジジイ‼︎テメーも同じ格好だろうが‼︎」
こうして雁夜のサーヴァント召喚は無事終わった。