Abyss Walker In The Magic World   作:城縫威

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木刀

太陽が空の真上まで登るその前に、四人の人間、一人は人間と一定良いのか疑問だが、まあ四人、高町家の道場の中に集った。稽古を付けるためである。しかし四人の打ち一人、恭也はアルトリウスに何度も何度も噛み付いてはケラケラとあしらわれてしまう。姿こそ若けれど、その精神は幾万という歳月を経て磨かれた物、そうたやすく突き崩すことは出来なかろう。だが例外はあるもので、どうにもアルトリウスは女性に弱かった。生前、グウィネヴィアにはさんざんと酒の肴にからかわれ、キアランには色々と自分の素業の粗さについて随分と窘められた、終いには自らの双剣を振るって制裁を加えてこようとするのだから笑えない、まあ、相手も本気ではないのでいなすことは簡単ではあるが、一寸した手違いで怪我を負いそうになったことはちらほらあった、またウーラシールへの遠征時に友となったウーラシールの宵闇もこれはまた手を焼いた、普段から天然癖があるのか、時たま的はずれな事を言っては回りが混乱したり、アルトリウスがいたからなのかどうかは今ではもうわからないが、安全を確保できない黒い森の庭ふらふら入り込んではアルトリウスに伝令が飛んできてはシフと一緒に森のなかを探すというのが定例となっていた。

 

「さてと、まずは素振り、それから軽い打ち合いと行こうか。」

 

士郎の言葉に美由紀と恭也は自分の使う木刀を持って素振りを始める。アルトリウス、もといウォーカーは道場の中に置いてある木刀の内、一番重いものを選んで振るってみる。どうやら身体も若くなって全盛期よりも若干であるが衰えているようだ、木刀を降ることに支障はないが、振るった後にピタリと木刀を止めることが出来ない、ぶれてしまう、大剣を扱っていた頃は大剣の重さを武器に、流れを作って戦っていたが、木刀となると戦い方が変わる、大剣の重さに慣れているアルトリウスにはこの木刀の軽さというのが慣れない、銀騎士の剣を扱うことはあったがこの木刀よりもずっと重い、軽いというのがこうも扱いにくいとは、そうアルトリウスは独りごちる。

 

「どうかな、ウォーカー君、問題なさそうかい?」

 

士郎が声を掛けてくる、ウォーカーは薄く笑顔を作って返した。

 

「問題ない、と思う。だが油断は出来ないな、士郎や恭也達がどれほどのものかわからない今、慣れないこれでは少々不安だ。」

 

「なんだ、安心したよ、それだけ冷静なら問題ないだろう。」

 

ポンポンと士郎はウォーカーの肩を叩いて、自分も木刀を持って素振りを始めた。ウォーカーもならい、昔を思い出しながら木刀をふるう。一つ二つ振るっていく内にゆっくりと木刀が手に馴染んでくる。瞳を閉じて、神経を木刀の先まで伸ばすように研ぎ澄まし、自分の振るう姿を想像して無駄を見つけていく。暗闇の中でただひたすらに、木刀を扱えるようにと同じ姿勢、同じ動作を繰り返していく。段々と時間の感覚も薄れてきて時、ウォーカーを呼ぶ声がした。

 

「おい、おいウォーカー君、聞こえるかい?おい!」

 

ハッとして目を開ける。自分を呼びつづけた士郎に、じっと此方を見つめる恭也と美由紀がそこにいた。

 

「いや、すまない、少し集中しすぎたようだ。」

 

ウォーカーは謝って、自分の体中に汗が伝っていることに気がついた。こうまで鍛錬に精を出したのは久しぶりだと、一人心の内で笑った。

 

「それじゃあ、打ち合いを始めようかな、準備はいいかい?ウォーカー君。」

 

「ああ、かまわない。」

 

「そうか、じゃあまずは美由紀からやろうか。できる か?美由紀。」

 

「は、はい!出来ます!」

 

美由紀は少々びくついたが元気よく答えた。ウォーカーはその姿を微笑ましく思う。嘗て指導してきた騎士の中にも彼女のような者が少なからずいた。

 

「ではよろしく頼むな、美由紀。」

 

「よろしくお願いします!ウォーカーさん!」

 

快活笑顔で美由紀が答える。士郎と恭也は道場の壁際まで下がり姿勢よく座す。ウォーカーと美由紀が一定の間合いを取ったら士郎が片腕をあげた。

 

「では始める、両者、見合って……始め!」

 

振り下ろされる腕と共に美由紀が走った。のほほんとした表情は引き締まり、想像以上の早さでウォーカーの元へ肉薄する。ウォーカーが気づいた頃には懐に入られていた。

 

ーーおお、早いな、若さか。

 

最初こそ驚いても、この程度でたじろぐ程ウォーカーは修羅場をくぐっちゃいない。鋭い二刀のニ閃がウォーカーを捉えるより前にウォーカーはバックステップで下がる。美由紀はそのまま止まることなくウォーカーにせまるが、もう一歩足を進めるより前にウォーカーが歩を進めた。下がった筈のウォーカーがまた目の前にいる、深く踏み込むはずだった足が踏み込めず、僅かに重心がぶれる。避けようにもぶれた重心を戻すための一瞬が、ウォーカーにとっては十分すぎた。進めた歩と一緒に頭上に構えておいた木刀を、鍛錬の時と同じく下ろす。ひゅっと風切り音を立てて、ウォーカーの木刀が美由紀の首元をとらえた。

 

「そこまで!」

 

士郎の声が響く。美由紀との初戦は一分と掛からず終わった。

 

「まいりました……。」

 

まさかこんなにも早く終わってしまうとは、しゅんとうなだれて美由紀が言った。ウォーカーの力量がわからない故、長引くよりも一瞬で攻めて決めるつもりが返されるとは、浅はかであったなと美由紀は心の内で呟いた。

 

「ふむ、その早さ良し、速攻をかけた判断も良し。」

 

その言葉に美由紀が不思議そうにウォーカーを見た。まさか反省してたら褒められてしまった。

 

「何故でしょうか、速攻をかけた結果が敗北です。」

 

「私は君の早さを知らないからな。懐にこんなにも簡単に入り込まれたのは久しぶりだ、キアラン以来だな、早さで懐に入られたのは。」

 

しみじみと、昔激怒したキアランに双剣で持って迫られた時のことを思い出すと苦笑がこみ上げてくる。その様子をまた不思議そうに見る美由紀の頭を軽く撫でてやるとウォーカーは続けていった。

 

「だが、速攻を掛けるにしても二撃目もまた正面から迫るのはいけなかったな、君の早さならもっと私を撹乱する手があったろうに。君の中にどこか、慢心に近いものを感じた。力量を計れないのなら、慢心は絶対に持ってはいけない。思考が単調になってしまうからな。」

 

ウォーカーは笑うと、付け加えて、でもこれ以上早いと流石の私もついていけないな、さっきは勝てたが、次は負けるかもしれない、そう言った。

 

「ちぇっ、美由紀のやつ負けてやんの。しかもフォローされてるし。」

 

恭也が面白く無いとでも言うように呟いた。ウォーカーに頭を撫でられ心なしか嬉しそうな顔をしている美由紀がいる。妹が取られたみたいで何だか癪に障った。士郎は何も言わず二人の姿を眺めてから口を開いた。

 

「美由紀、お疲れ様。ウォーカー君もな。美由紀は今回のことを経験にまた自分を磨くように、では恭也、お前の番だ。」

 

恭也が座っていた場所に美由紀が座して、ウォーカーと向かい合うようにして恭也が立つ。

 

「さっき勝ったからって次も勝てるだろっている気持ちがあるなら捨てておけよ。言っておくが、俺は美由紀より早いからな?」

 

挑発を含ませて恭也はニヤリと口元を歪め、軽く膝を曲げ、腰を落とし、何時でも動けるように体勢を作る。

 

「それは怖いな、気を引き締めて望むとするよ。」

 

ウォーカーは美由紀と向かい合った時と同じように軽く足を開いて直立の姿勢を保ったまま、恭也に返した。その姿は余裕を表しているようで恭也は些かムカついたが、心乱さぬようにと抑えて、ふぅと一つ息を吐く。両者の間に沈黙が出来ると、士郎が開始の合図を言い放つ。

 

「……始め!」

 

瞬間、風切り音が聞こえる。ウォーカーの視界から消えてしまう。

 

ーー本当に早いな、先程よりもずっと早い。

 

そう思うウォーカーではあったが、もう驚きはしない。速いと感じている間に繰り出される数々の剣撃は全て軽く木刀を振るうことでいなしている。面白いことに恭也の早さはゆっくりではあるがより早くなっていく。ようやく視界に収めたとおもったら、視界から外れるように動いてくるお陰で目で追えない。だが風の流れと床を蹴る音が場所を教えてくれる。迫ってくる音と風があればそこに木刀を置くだけでい。木と木がぶつかり合う高い音が何度も響く。だがウォーカーはどれほど早くなるのか好奇心が湧いて自分から動くことはせずに防ぐことに重きを置き様子を見ることにした。そうすると恭也は自分が遊ばれているようでより早くと望む、しかし決定打を与えられない焦りと慣れない早さに体力がすり減っていく、息も荒くなってきた。

 

ーーここまでか、これ以上は恭也の身体が持たないな。

 

今まで防ぐことだけをしてきたウォーカーが動きを見せる。一撃をただいなすのではなく弾いていく。打ち合う音が一層強くなり、恭也がウォーカーの正面から攻めた時、恭也の一振りがウォーカーの木刀を弾き飛ばす、やったという感情が恭也の中に溢れ、二撃目を繰り出す瞬間に恭也は床に叩きつけられていた。ウォーカーはわざと木刀を弾かせた、後は空いた手で恭也を掴んで無力化すればいい。

 

「そこまで!」

 

ウォーカーは掴んだままの手を一旦離してから手を差し伸べる。恭也はさしだされた手を払って自分で立ち上がった。

 

「はぁ……で、何がダメだったんだ?」

 

悔しがるのも一瞬、悪態をつきそうになる感情をこらえてあくまで稽古ということを重要とする、その姿勢にウォーカーは好感を持ち、嬉しそうに教えた。

 

「早さもさることながら、その視界から外れる技術、所どころ加えてくるフェイク、並の者ならまず勝てないだろうな、それほどまでに君の持つ力というものは大きい。だが、言ってしまうとそれだけなのだ、あらゆる行動が無駄なく実行されている、一見複雑な動きをしているようで実のところ単調なんだ。早さで撹乱し、視界から外れ、死角から打つ、この繰り返しでしかない、君と同等の者それ以上が相手となるなら、苦戦を強いられるな。」

 

「そうか、あぁあ、鍛錬が足りないなぁ、勝てるなんて思って恥ずかしいぜ。」

 

「なに、気にすることはない、今日の事を糧とすれば次の段階に歩を進めることが出来るさ。……さて士郎、最後だ。」

 

ウォーカーは恭也の背中を押してやると士郎を見る、不ニャリと優しい笑顔をして士郎もウォーカーを見ていた。

 

「そうだな、ウォーカー君、最後だ。」

 

笑顔を崩さず士郎が立ち上がる、けれどもぴんと立ち、軸のブレることのないその佇まいからウォーカーは、流石に小太刀二刀御神流の正統継承者だけある、そう感じた。普段はあまり闘争というものを敬遠するウォーカーではあるが、それが技術を高めるというものであるならば違う。純粋な試合であるなら、むしろ好感を持って接し、楽しみもする。二刀流である高町家の長、その技術というものは美由紀や恭也とは比べ物にはならないだろう、そう思うとワクワクする。自分の技術というものが通用するのかを試したくなってくる。

「分かった、じゃあ行くよ、……始め!」

 

恭也の声が響く。途端に両者の木刀が重なる音が鳴る。ウォーカーはバックステップを取って一旦離脱するが、ほんの瞬き間に姿がない、恭也の様に足音が聞こえるわけでもない、厄介だと思った瞬間、背後にぞわりと冷たいものが走る。本能に従って床を転がるようにして回避する。先程の攻撃には幾許かの殺気が含まれていることに気づいたウォーカーは士郎が本気であるのだと改めて思った。ならばそれに応じるのが礼儀だろう。

 

「さて、士郎、私も少しばかし動くぞ。」

 

ウォーカーの目に暗く光が灯る。力を込め構えをとっていた身体の全てから、その場に立つ為の力だけを残して抜く。士郎はウォーカーの一言の後、何だか違和感を感じていた。自分とウォーカーの間の何かがちぐはぐになっている。どこか呼吸が合わない、何度も何度も打ち合うほどに、そのちぐはぐは大きくなっていく。足取りが上手く取れない。翻弄しているはずの自分が、何故だかウォーカーの姿を追おうと必至になっている。視界にウォーカーを収め、また一撃を与えようと足に力を入れた時、士郎は自分の腕と足に力が入らないことに気がついた。一歩が踏み出せない、身体を支えられずに崩れてしまう。片膝を床に付けた時にはウォーカーが自分の目の前に立ち眼前に木刀を置いている事を認識した。

 

「そ、そこまで!」

 

二人の試合に見入っていた恭也が慌てて試合終了の合図を掛ける。ウォーカーは士郎に手を差し伸べた。士郎はその手を取って立ち上がる。膝が一寸ばかし疲労に震えていた。

 

「いやぁ、凄いな、翻弄できていたと思ったのに途中から私のほうが翻弄されていたな、どういう仕掛けがあったんだい?」

 

一つ額に落ちる汗を拭って士郎は先程までの違和感を改めて自分の中で考えながらウォーカーに聞く。ウォーカーは特に隠すこともなく笑って答えた。

 

「いやなに、一度落ち着いて士郎が何処から来るかを考えた。そしてある程度位置がつかめるようになったら今度はゆっくりと木刀を弾くときの力を強めていく、同時に士郎が踏み込むのと同時になるべく大きな音が出るように床を蹴っていただけだ。」

 

「なるほどなぁ、通りでさっきから腕と足に上手く力が入らないわけだ。」

 

ようやく合点が言ったと士郎は頷いて、痺れる腕を振るう。弾かれる強さの変化が微妙で気づけず、床を蹴る音が耳に入り、知らず知らずのうちに本来踏み込もうとした足の感覚がずれていて、それらの負担が蓄積されて今の腕と足がある。実践から身を引いて感が鈍っているなと士郎は心の内でごちた。

 

「はぁ、そろそろお昼ごろだろ、僕も疲れたし、ここらで稽古をやめて家に戻ろうか。」

 

一同はその言葉に頷く。道場の窓の外は始め道場に来る時よりも明るさを増している。大方空の天辺を過ぎて日が傾き始めた頃だろう。ウォーカーとの試合も含めてなんだか皆はどっと疲れたような気分だ。まだこの世界にきて浅いウォーカーに気を使って精神面でも多少の疲労もある。ウォーカーもウォーカーで誰も怪我が無いようにと気を使っていたらどうやら自分の知らぬ所で力が入っていたらしい、安心できる場所にいるとはいえ、私も少し気を引き締めなければと、そう思った。道場の扉を開けると一陣の風がさあと入ってくる。

 

ーー随分と良い風が吹くなぁ、あゝ、なんとも心地が良い。

 

ウォーカーは空いた腹をさすりながらご飯が何かに想いをはせ、士郎たちの後ろをついて歩いた。道の途中、恭也や美由紀が代わる代わるどういう足運びがいいのか、腕のふりかたはどうしたら良いのか等々、そう言った質問を自分たちの父親ではなくウォーカーに質問していった。ウォーカーはそれに対して自分の持てる限りの答えを返すのだが、娘息子を取られたように感じて、士郎は一抹の寂しさを感じていた。知ることに積極的な生徒を持ったウォーカーは、笑が自然と溢れている。

 

ーー元の世界のことも気になるが、この世界にいることも悪くない。いや、悪くないなどではない、素晴らしいものだ。平和で、暖かく、光がある。願うことなら彼らが、力を振るうような事が起きなければいい、私も出来ることなら平穏に過ごしたい。……そうだ、今度料理というものを習ってみるか、そうすれば私も戦い以外で役に立てる。良いな、それは実にいいな、私も桃子のように美味しく料理が作れるようになるのだろうか。

 

ウォーカーは強く願う、戦いのない事を、だが、どうにも、思い通りにならない事があるものだ。やるせない、だが、仕方のないことでもある、ウォーカーは高町家の一員であり、又、騎士アルトリウスでもある。その事実は、変わらない。




一年も間が開いてしまいました、続きを待っていてくださった方々には本当に申し訳ないです。言い訳のしようもありません。一年ぶりの続きですがいかがだったでしょうか、私は戦闘描写というものは苦手なので粗が目立つことだと思います、しかしそれでも楽しんでいただければ幸いです。
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