All I need is beat   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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その響きに詩を

「何か月ぶりかな。一緒に遊ぼうって言ったのに忘れちゃってたの?」

 

「別に忘れてたわけじゃねぇよ。それはそれとして忙しかったんだ」

 

 怒涛のような数か月間だった。響がシンフォギアを手にしてから降りかかった非日常はあまりにも苛烈で多くのものが変わってしまったから。

 久しぶりに向き合い、目にした少女の顔は記憶にあるよりもいくらか精悍な顔つきになっている。少女の変化を表すのに精悍という言葉はどうかと思うが、しかしその言葉が適切だろう。かなり鍛えて、武術も学んだせいか立ち姿にもブレが少ないし筋肉がついてるのがよく解る。

 影詩の言葉に響は髪を抑えながら力ない笑みを浮かべたままに、

 

「忙しかった、か……翼さんとクリスちゃんから全部聞いたよ」

 

「そうか」

 

 別に驚きはしない。翼は響のことを慮って知らせなかっただろうが、影詩が敵対した時点で隠しきれるものではないと判断するだろうし、そもそもクリスからすれば隠す義理などない。当然影詩の行いを響に話すのは目に見えていた。

 今までずっと隠して来たことを知られたが、だから平静を保ったままに頷き返すことができた。

 

「……私の、為なんだよね?」

 

「違う」

 

 絞り出すような問いには、思わず即答した。

 本当に違うのだ。響の為じゃない。

 

「俺は、俺の為に、俺が選んでやったんだ。お前の為じゃない、勘違いするなよ」

 

 自然と口調は強くなる。

 何もかもは影詩の選択から生じた結果だ。響の影として裏でこそこそやっていたのも、翼やクリスと敵対したのも、フィーネの仲間になりしかし離反したのも。大上影詩自身の意思で進んだ道だ。

 進まざるを得なかった。

 それが彼の罪だから。

 

「……」

 

 響はしばらくの間何も言わなかった。

 突き放すような影詩の言葉をどういう風に感じたのか、彼には解らない。今までそういう響の感情は全て蔑ろにしてきたから。心は未来に預け、守ると誓ったのはその身だけだったから。

 響がどういう少女かは解るけれど。

 彼女の心が何を感じているのかは解らない。

 彼女は一度だけ下を向き、

 

「でも、私を守ってくれたんだよね」

 

「……」

 

「全部聞いたって言ったでしょ。それで私の為じゃないとかちょっと無理があるって。ツンデレにもほどがあるよ」

 

「……そんなんじゃねぇって」

 

「ねぇ、影詩」

 

 否定の言葉は静かに振り払われた。

 その次に告げられる言葉は、何故か先に理解できた。きっと、いつかそう言われると悟っていたから。

 

「――私が喜ぶと思った?」

 

「……」

 

 思ったよりも、その言葉胸に突き刺さった。頭の中ではその言葉を何度も反芻させていたし、自分でも理解していた。けれど、最愛本人からその言葉は影詩の傷を広げ、再び血を流させる。ずっと開いて膿んでいたはずの傷痕からさらに沢山の血を。

 

「私の為に誰を傷つけて、私の為に誰かと戦って、私の為に悪いことをして――私が喜ぶと思った?」

 

「……」

 

 何も言えない。

 受け入れることしかできないし、その糾弾はずっと望んでいたものだから。

 響は真っ直ぐに影詩を見つめ、影詩は響を真っ直ぐには見ることができなかった。

 立花響は胸に芯を持った少女だ。彼女は正義を信じ拳を握りしめ、歌を歌う。

 その旋律に影詩の鼓動も雄叫びも、繋いだ手だけが紡ぐ音に混じる雑音に過ぎない。

 だからただ影でありたいと思った。

 

「翼さんが言ってた、私を泣かせても傷つけたくないって。クリスチャンも言ってた、私を戦いから遠ざけたいって。ねぇ、なのに――」

 

 彼女は胸の響を言葉に変えて、眩しいくらいに真っ直ぐにその言葉を告げた。

 

「――影詩の方が死にかけてるじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――は?」

 

 何を言われたかが理解できなくて、反射的に響を直視する。

 彼女の瞳は真っ直ぐに影詩を貫く。

 まるで槍のように。

 

「おかしいじゃん。なんで私を守る為に、その影詩が傷ついてるの? そんなの嫌だ、私は求めてない。もっと他に、やり方があったはずでしょ?」

 

「……ぁぁ?」

 

 呆けた声しかでなかった。

 解らない。

 仮にこの時が来れば彼女が糾弾することは、きっと正義や倫理に関することだと思っていた。

 犯罪を犯してはならないとか。人を傷つけてはならないとか。悪いことはしてはいけないとか。そういう悪いこと(・・・・)を怒られると思っていた。悪いことはやってはならないことだ。立花響はそういう悪いことを嫌っているし、諍いや傷つけることを疎んでいる、或は忌避している。

 だから誰を傷つけることに躊躇いを持たない大上影詩を立花響は許さないと思っていた。

 なのに、

 

「自分の身体よく見てよ、影詩。そんなに血塗れで、傷だらけで、目も隈も濃いし……ちゃんとご飯食べてる? 大分痩せたっていうかやつれてるし……」

 

 言われ自分の身体を見下ろす。

 その体は確かに満身創痍だった。全身には切り傷があり、赤黒い血がこびりついている。フィーネに食らわされた肉は紫鞭で削がれたまま。影狼の効果か血は止まっているが、修復したわけではない。断続的な全身の痛みは消えていないまま。食事なんて全然取っていないし、睡眠も同じだ。ついこの前までずっと気絶していたのだから今更必要にも感じない。フェンリスヴォルフの侵食が進めば進むほどそういう当たり前の行為を必要に感じなくなっていた。

 だって、そんなのどうでもいい。

 影詩は自分の身体を構っている余裕なんてなかった。

 

「お、俺は……別に俺の身体なんてどうでもいいだろうッ、大事なのは――」

 

「どうでもよくなんかないッ!」

 

「ッ!」

 

 声が貫く。視線も、そしてそこに込められた想いも。

 立花響の何もかもが大上影詩を打ち抜くのだ。

 

「なんでそんなこと言うのさ。私が大丈夫でも、影詩が傷ついてたら意味ないじゃん。私は嫌だよ。ねぇ、影詩」

 

 彼女は両手を広げた。誰かと手を繋ぐためのその両手を。

 

「小日向未来は私の陽だまりなんだ。未来がいる場所に私の帰る場所なんだ。この左は、未来のあったかい手を握り締めて、繋ぎたい」

 

 それでね、と響は笑う。

 力のない、緩んだ笑みを。

 

「この右手は――影詩の手を握る為にあるんだ」

 

「――――」

 

「大上影詩は私の暗がりなんだ。……っていうとなんか嫌味みたいだね。でもさ、そういう風に思っちゃうんだよね。なんていうかさ、未来の隣にいると暖かくて胸がぽかぽかして、凄く安心する。でも影詩といるとなんていうか……ほら、日蔭にいるとドキドキしたりそれはそれで妙に安心できる時あるじゃん? あぁいうの、って、たはは……フォローになってないかな」

 

 自分でもよく解んないや。

 だけど、

 

「私の右手は影詩と繋ぐ為にあるんだ」

 

「――」

 

「影詩が私の為に沢山のことをしてくれたのは嬉しいよ。でも。その為に影詩が傷つくのは嫌だ」

 

 大切な人が傷つくのは嫌だ。影詩も未来もそう思っていた。

 けれどそれは響も同じだ。

 大上影詩が立花響と小日向未来の影となって守りたいと思うように。

 小日向未来が立花響と大上影詩の陽だまりでありたいと思うように。

 立花響も――小日向未来と大上影詩と手を繋ぎ歌を歌いたい。

 

「私は、私という音を響かせて、その未来に――貴方の詩を重ねて紡ぎたいんだ」

 

 誰かと手を繋いで胸の歌を響かせたいけれど。

 一番近くで手を繋いでいきたいと思うのは未来と影詩に他ならないのだ。

 

「……っんだよ、それ」

 

 何を言っていいのか影詩には解らなかった。

 響の言葉を聞いて、胸に浮かんできた想いがありすぎてパンクしそうになる。嬉しかったり恥ずかしかったり申し訳なかったりごちゃまぜの滅茶苦茶になる。

 何がなんだか解らなくなって、

 

『――例え貴方が何を成しても、誰も許さなくても、その未来に影の中で紡ぐその詩を私だけは赦すから』

 

 陽だまりが送ってくれた言葉が浮かび上がる。

 

「……ぐっ……ぅぅ……!」

 

 歯を、唇を噛みしめる。

 その牙は、影に潜む欲望の狼の牙だ。

 

『――ソノ欲望ヲ見セヨ』

 

 胸の爪牙が語り掛ける。

 原初の欲望を晒して注ぎ込んでその飢えを満たせ、と。

 

「俺は……」

  

 最愛の響は陽だまりの温もりと影狼の飢餓を貫いて彼の心の一番奥を貫いた。

 だから、その槍に対する答えは大上影詩にとって一番大切なものだ。

 

「それでも、俺は……お前に傷ついてほしくないんだ」

 

 その為ならば、

 

「そうだね」

 

 だったら。

 

「――私、戦うよ」

 

「――俺は、戦う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir toooooOOOOONNNッッ!!」

 

 それは喪失へのカウントダウン。いつかどこかで、きっとその旋律は何かを失わせる。だけど謳わねばならないものがあるから。

 

「アク、セスッ――フェンリスッッヴォォオオオルフゥッッ!!」

  

 それは最愛に吠える矛盾の慟哭。一番大切な人を守りたいのに、守る為には傷つけなければならない。傷つけても傷ついてももう止められない。

 響の服が光と共に弾け、代わりに纏わされるのは白と橙と黒の鎧だ。

 影詩の肉体が全身を包む濡れ羽色の狼毛が生じ、血色の瞳は縦に割れる。それだけではない。一瞬だけ激しく隆起し筋肉が膨張する。背筋と膝は不自然に、まるで獣のように折れ曲がった。さらに頭部が変形し、狼のそれになる。両手足の爪も一本一本がナイフのように鋭く大きく伸びている。

 最早紛れもなく人狼(ウェアウルフ)の姿だ。

 戦姫と人狼が姿を変え、飛び出した瞬間、校舎の外に巨大な塔が轟音を立てて地下から起立した。ついで聞こえてくるのは爆発音や斬撃音といった戦闘音。フィーネと翼、クリスが戦闘を開始したのだ。

 けれど最早二人にはそんな音は聞こえていない。

 響くのは、

 

≪―――♪≫

 

「GAAAAAAAAAAAA!!」

 

 立花響の歌と大上影詩の咆哮だ。

 何故、どうして広いこの世界でこんな所に導かれたのだろう。

 そう思いながらも最早二人は止められない。

 

「グルゥ……ッ!」

 

 最早発声器官は人間のものではなく、言語を発することもできなくなていた。言葉なんて必要ない。語って言い聞かせる領域は過ぎ去ってしまった。影詩は響を闘って、傷つけてでも止めると決めた。心さえ守られれば未来が癒してくれる。

 だからもう躊躇わない。

 即座に影渡りの力を発動する。向かう先は響の死角だ。気配を消し、認識をズラし、意識に潜み、響の背後に飛び出して爪を振るい、

 

「オォ――ッ!」

 

「がぁっ!?」

 

 震脚と共に放たれた響の肘撃ちが狼毛を撃ち抜く。

 

≪―――♪≫

 

 旋律と共に発生するフォニックゲインは過去最高レベルもの。瞬間的にならば翼とクリスをも大幅に上回っている。それに想いを乗せる。本当の気持ちで向き合う自分になりたいから。だからどれだけ影詩がその身を影に眩ませても見失ったりなどしない。その決意が響に限定的な察知能力を生じさせ、影詩の隠形を無視するのだ。

 背後の狼を撃ち抜き、動きは止まらない。一つ一つの動作は連動し、次の攻撃に繋げていく。

 それが彼女が磨き上げた武威であり、型と呼ばれるものだ。

 反転と共に放つ肘打ちと肘を畳んだコンパクトな直突き。一歩下がる共に体を開きながら一瞬間を開け、

 

「フッーー!」

 

 双掌底を人狼の胸板に叩き付け、衝撃を炸裂させる。

 

「ガァァッ!」」

 

 人狼が吹き飛ぶ。そのまま窓と壁をぶち抜きながら宙へ落ち、

 

「――!」

 

 影に消える。

 

「ッ!」

 

 響が先ほどと同じように振り向き様に裏拳を放つ。背後に気配は確かに捉えていたから、感覚に従い攻撃を放ち、

 

「ガルァッ!」

 

「痛ッ――!?」

 

 避けながら振るわれる人狼の爪が左腕を切り裂く。

 そして切り裂くだけではな終わらずに、

 

「ガァァアアア……!」

 

 影狼の牙が戦姫の鎧を貪り喰らう。

 切り裂いた二の腕の部分に装着されたアンダースーツが部分的に消滅して素肌を晒している。同時に響が感じたのは身に溢れていた力の消失と全身を犯す激痛だ。

 ――聖遺物喰らい。

 それがフェンリスヴォルフの爪牙と適合した影詩が得た最後の力。

 元より響からガングニールを剥ぎ取る為に聖遺物を身に受け入れた。影詩の渇望から能力が生じるのだから聖遺物に対する特攻作用を持つのは道理だろう。その力はアメノハバキリもイチイバルも、そしてネフシュタンの鎧の力さえも喰らう力を持つ。

 だが同時に、

 

「ガフッ――」

 

 喰らった力は人狼自身を蝕んでいく。

 聖遺物の力を無効化するのでもなく、殺すのでもなく喰らい、貪り尽くすのだ。だから喰らった聖遺物の力は影狼の体内に取り込まれ、しかし影詩自身は最愛を戦いに投じさせた力を疎んでいる。何より、彼は罰せられたいと思っていた。

 だから力を得ることなく、内側からも影詩は傷ついていく。

 

≪―――♪≫

 

 その姿を見て響は泣きたくなる。

 自分の為に傷つき、姿を変えてしまった幼馴染の少年を。彼と一緒ならどこまでも行けると思った。見えない未来にも飛べると信じていたし今も信じている。

 未来へと紡ぐ詩の絆こそが彼女にとっての道標だから。

 彼を守る為に拳を握る。

 

≪―――♪≫

 

 力の入らなくなった左腕をだらり下げながら、右手のパワージャッキに歯を突き立て起動させる。

 

「ガァァルゥゥァァァァァァァァッッ!!」

 

 影狼が響の周囲を疾走する。駆け抜け様に振るわれる狼爪は響の身体を抉り、シンフォギアの鎧を消失させていく。必要なのは右手だけでいい。アームドギアを形成することはできないが、けれど純粋なエネルギーは生み出せるのだ。全身が激痛に犯され、力を失っていくがエネルギー形成と収束だけは止めず、右腕だけを守っていく。

 

「ルルゥゥゥ……!」

 

≪―――♪≫

 

 この拳が、命が、全てで放つ歌声が彼の悲しみを少しでも晴らしたいから。

 響が一方的に攻撃を受けるが、しかし聖遺物を喰らい蝕まれるのは人狼も同じだ。響の感じる痛みと同等かそれ以上の激痛が影詩にも襲っている。蓄積されていく聖遺物のエネルギーは内側から人狼を傷つけていく。口から血が零れ、獣の瞳からも鮮血が溢れていく。

 泣いているのだ。

 それを見て、響の眼頭も熱くなる。

 大切な人と、大切な人の為に傷つけあいたくない。けれどもう止まれないのだ。そんな冷静な考えなんてできないし、損得勘定で想いを押さえられるほど二人は大人ではない。ことこの期に及んでは、もう戦う以外にの方法が解らなかった。

 それでも影からこっそり傍観しているのも。

 何も知らずに守られているのはもう嫌なのだ。

 ハートの全部で、一直線に。

 

≪―――♪≫

 

「――ガルァァァァァァアアッッ」

 

 だから一直線に人狼が正面から響へと迫った。ガングニールを響から消し去るには心臓部分から直接喰らい貪るしかない。全身のパワードスーツを幾ら喰らってもまた再生してしまうだろう。

 一瞬の疾走、狼の脚が床を踏みしめる度に亀裂が入っていく。

 赤と透明の涙を流し、右腕を振りかぶり合い、

 

≪―――♪≫

 

「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァ――ッッッ!!」

 

 激突し――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ゴホッ…………あぁ?」

 

 意識が覚めた瞬間、自分がどうなっているのか解らなかった。大きな建物に巨大な風穴があいていて、その一番下に自分が横たわっている。

 

「お、れ……は……ぁ?」

 

 言葉を発して、声帯と身体も人間のソレに戻っていると気づき、

 

「……起きた? えーし」

 

「――」

 

 自分の上に少女が横たわっていることにもまた気づく。

 ボロボロだった。シンフォギアの鎧は既に制服姿に戻っていて、力なく自分の上に横たわっている。

 

「…………そうか、お前――」

 

 意識を失う直前の記憶が蘇ってくる。自分は狼腕を、響は機械仕掛けの腕を同時に振りかぶった。けれど、響はその拳を影詩へとは振りかぶらなかった。

 振り下ろしたのは――真下だ。

 莫大な衝撃は響と影詩が激突する直前に炸裂した。当然足元の床は完全に崩壊し、一階まで二人は落下。それでもなお衝撃波は直上へと弾け校舎に風穴を開けていた。

 変貌が解けているのは、単純に影詩の身体が限界だったからだろう。

 

「……なんてことしやがるお前は」

 

「だって私の右手は影詩と手を繋ぐ為のものだから」

 

 だから、殴りたくなかったなんて。

 ほんと馬鹿なやつだ。

 影詩は響の胸を抉ろうとしていたのに。

 

「影詩」

 

 静かに響が名前を呼んだ。

 声に応えることはせず、けれど構わず彼女は言葉を続けた。

 

「――赦すよ」

 

「――」

 

「二年前のこと、影詩は気に病んでたっていうなら。影詩が私を傷つけたって罪を感じるのなら私はその罪を赦すから。……なんて言えた義理じゃないんだけどね。影詩と逸れた私だって悪かったんだから。だからさ、もう気にしないで」

 

 過去に囚われていないで、と響は優しく告げた。

  

「――」

 

 息を、吐く。

 未来に赦された時、何でもできるような気がした。

 けれど今、響にそう告げられて何故だか力が抜けていく気がした。

 その言葉はどうしようもなく心に染みたから。

 一番奥底に響きが満ちていく。

 

「俺は……」

 

 声が震えていた。 

 多分、涙にも濡れていた。

 

「おれ、は――」

 

 言いたいことがありすぎて言葉がでなかった。

 それは想いが溢れすぎていたから。

 

「おれは……お前を、守りたかったんだ」

 

「知ってるよ。ありがとう」

 

「っ――」

 

 溢れたのは想いだけではなくて、涙もだ。

 血ではない、透明の涙。

 

「だから影詩、これからも私と、未来を守って。一緒にいて。……だめ?」

 

「……は、はは。ダメなわけねぇだろ。お前らが嫌って言っても死ぬまで付きまとってやる」

 

「もう、そんなこと言ってるから未来にストーカーとか言われるんだよ? 未来も照れ隠しだろうけど」

 

 笑いながら響が上体を起こす。

 

「おっ、影詩の泣き顔初めて見た」

 

「うるせぇ」

 

「あはは。……行こう、影詩。まだ戦いは終わってないよ。翼さんとクリスちゃんが戦ってる」

 

「……俺はお前に傷ついて欲しくないんだが」

 

「守ってくれるんでしょ? あ、影からとかは無しで、私の隣でね? ていうか私が勝ったんだからちゃんと言うこと聞くべきだと思うけど?」

 

「………………俺はお前に勝てる気がしねぇよ」

 

 息を吐きながら体を起こす。痛みは残っていて、思わず呻くが動けないことはない。

 

「まだ戦える?」

 

 先に体を起こして起き上がった響が問いかけと共に手を差し出した。

 影詩は肩を竦め、

 

「お前がそう言うのなら」

 

 その右手を握りしめた。

 




ビッキーマジイケメン。
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