All I need is beat   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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そんなこと、私が知るかッ!


場違いな守護

 

「ツッ……! くそ、きっちぃなぁ!」

 

「泣き言を言っている場合かッ!」

 

「泣き言じゃねぇよッ! これは……えーと、状況判断だッ!」

 

「まだ喋る余裕があるなら、その余裕打ち砕いてやろう!」

 

 赤い月と極彩色の塔の下に絶刀と魔弓が蛇鎧と激突する。

 紫鞭が荒廃した学校痕を蹂躙する。縦横無尽に振るわれる破壊の鞭は止まることはなく、翼とクリスを切り刻んでいく。それは蛇のように自由自在に宙を疾走し、同時に剣にも盾にもなる。一つ一つが鋭利な欠片になっている故に殺傷力も高く、フィーネの意思で自由自在だ。

 何より恐ろしいのは、

 

「この技巧――」

 

「冗談きついぜ!」

 

 近距離ならば翼と互角以上に切り結び、遠距離からのクリスの弾丸には完全に回避を実行する。紫鞭が弾丸を撃ち落とすだけではなく、弾丸の機動や銃口の位置、クリスの視線すらも読みとって避けていくのだ。

 永遠の刹那、パラダイムシフトという人類の興亡の瞬間を乗り越え操ってきたその経験と技術。

 装者トップクラスの適合係数と戦闘技能を誇り、フォニックゲインも高い数値を弾きだしているクリスと翼を相手に完全に圧倒していた。

 

「温いのだよ、高々十数年鍛錬と才能任せの小娘の二人だけで私に敵うわけがないだろう――がッ!」

 

 言葉と共に振るわれた紫鞭はクリスでも翼に対してでもなかった。

 相手は、

 

「うわぁ!?」

 

「立花!?」

 

 飛びかかってきた響だ。遠距離からガングニールの脚部機構を用いて大跳躍を行い蹴撃を叩き込んだがフィーネは当たり前のように察知し紫鞭を足に巻きつけていた。楔形の刃が足に食い込み血を流させた。フィーネは宙づりにして逆さまになった響の視線に合わせる。

 

「機構の使い方が甘いんだよ。動きも雑だ。瞬間的なフォニックゲインはこの二人よりも高いかもしれんが、何もかもが杜撰だ」

 

「……りょ、了子さん?」

 

「違うッ! そいつは櫻井女史ではない!」

 

「その通り、櫻井了子は既に死んだ。此処にいるのはフィーネだ。お前の知る女はもういない」

 

「……ッ!」

 

 愕然とし、一瞬だけ強く目を瞑ったが、しかし次の瞬間にはフィーネを睨みつけた。

 

「おや、意外だな。お前ならば私の言葉を疑い狼狽えるかと思ったが?」

 

「信じたくないです……でも、それでも了子さん――私は怒ってます」

 

 逆さ吊りになりながら、けれど響は静かにフィーネへと言い放つ。視線だけは真っ直ぐ槍のように研ぎ澄まして。

 

「貴女がフィーネだっていうのなら影詩に、あの聖遺物の欠片を与えたんですよね?」

 

「あぁそうだ、それがどうかしたか? あの男は自分から進んで喰らったぞ、私がどうこう言われる筋合いはないのだが」

 

 言い返しながらフィーネは手の中に紫鞭を一度握りしめる。それにより響の脚に巻き付いた紫鞭の刃が強く食い込み、思わずうめき声が上がるが、

 

「そんなこと私が知るかッ!」

 

 吠える。

 

「私の大事な人に変なもの押し付けて傷つかせて、それであんなボロボロにさせて! それで怒らないわけないじゃないですか!」

 

「それこそ私が知るか。捨て犬への感傷に付き合う道理はない。……その犬はどうした? 死んだか?」

 

 問いかけに、響は笑った。

 次に告げる言葉を心から誇りに思いながら。

 

「私の隣です」

 

「恥ずかしいよなコイツ」

 

 その声は、虹の影から。

 

「そこに惚れるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響の背後から音もなく彼は姿を現した。

 音はない、気配もない。そこにいて、視界に収めているのにも関わらず認識できないという矛盾。それまでとは違いとなりに咲き誇る虹の花がいる。故に誰もが彼女に視線を集め、影狼は出現の瞬間誰にも悟られることなく、

 

「――」

 

 その黒い爪でフィーネの鎧を切り裂いた。

 

「な――!?」

 

 のけ反り、響の拘束が緩む。影狼はその隙を逃さずに逆さまになった腰を抱きかかえ大きく飛び退いた。驚いていた翼やクリスまで退く。影狼は自分の攻撃の結果には構わず腕の中の少女を優しく立たせ、

 

「大丈夫か?」

 

「へいきへっちゃらだよ、ありがと!」

 

「お、お前ら!?」

 

 翼とクリスの横に立花響と大上影詩が並んだ。

 

「貴様ら……どこまでも邪魔をしてくれる……ッ!」

 

「周りが見えていないからそうなんだよ。犬に適当に餌与えたと思ったら、それは狼だったりな。ま、自業自得って奴だなアンタの場合」

 

「ていうかお前何味方面してこっちに来てんだ!?」

 

「安心しろよ、別にお前の味方にゃなってねぇ」

 

「何を安心しろってんだッ!」

 

「立花?」

 

「大丈夫です翼さん、クリスちゃん! 私が、誰よりも信頼する人ですから!」

 

「……不承不承ながら、この場のみ了承しよう。大上を信じることはできないが、私は立花を信じましょう」

 

「っ、ぁ……この馬鹿共が……!」

 

「大変だなお前」

 

「お前のせいだぁ!」

 

 声を荒げるクリスは無視しつつ、既にチャージが始まっているそびえ立つ荷電粒子砲カ・ディンギルとその前に立つフィーネに視線を向ける。見れば先ほど影詩が付けたはずの傷は今の影詩たちの会話の間に修復させられていた。

 

「……ちっ、やっぱダメか」

 

 フィーネへと振るった狼爪ではあるが、狼化は二の腕や膝下までに留められており、身体の痣も胸回りだけと落ち着いている。全体を見ても人間のそれであるし、何より聖遺物喰らいの力は喪失していた。

 そもそも聖遺物を喰らいは立花響からガングニールを失わせるために願い、手にした力だ。けれど響に負けて、彼女の在り方に納得してしまった。故に奪うべき力は存在する意味をなさず、今の影詩には聖遺物保有者や装者への特攻属性は持ち合わせていない。最も、それでも獣の身体能力や隠形は残っているのだから十分といえば十分なのかもしれないが。そもそもガングニールを奪う為に翼、クリス、そしてフィーネに対してテストとして使い響のシンフォギアの力も大量に喰らって影詩の身体はボロボロだ。例え消えていなくても聖遺物喰らいの力は使えなかっただろう。

 

「アタシにいい考えがある」

 

 口を開いたのはクリスだ。影詩や響の調子に圧倒されがちではあるが、決して頭が悪いわけではないし、戦闘のセンスや技術は翼に匹敵する。だからフィーネの修復具合や影詩の反応から、自分たちの状況は理解できた。

 

「ちょっくらデカい火花を打ち上げる」

 

「ならば、時間稼ぎだな」

 

「はい。いいね、影詩」

 

「あぁ」

 

「こいつ、この馬鹿にはほんとに素直――」

 

 影詩は言葉を途中までしか聞いていないかった。獣の身体能力と隠形は健在だ。翼とクリスの視界と認識から完全に消失し、フィーネへと接近する。けれどその隠形は彼女からすれば見飽きたものであり、

 

「野良犬如きが何度も――っ」

 

 驚きが滲みでる。

 隠形を行った影詩の動きはただ気配を消失させるだけではなかった。フィーネまでの距離の間をジグザグに走り、その間の速度も数歩ごとに変動させる。それにより隠形の質は流動的に変化し、ただ気配を隠すに比べ隠形の質は劇的に上昇していた。

 それによりフィーネは影詩を見失い、

 

「ハァーーッ!」

 

 剣が影の軌跡を切り裂くように飛び出した。影詩のような獣の隠形とは全く違う動きだ。足の運び方、呼吸、視線、刀との連動による体重移動。人類が重ね、磨き上げ、翼自身が生涯を通して刻んできた鍛錬の結果だ。影詩の動物的直観と実戦経験のみから導かれるものではなかった。

 故に大上影詩と風鳴翼の動きは正反対だ。

 人と獣、鍛錬と直観。

 相反する性質が共に在れば大きな力になることはある。

 けれどそれは、噛み合えばという話だ。

 大上影詩と風鳴翼の間に絆は存在しない。現状、共闘している状況にはなっているが互いの心の繋がりはないのだ。邂逅はたった二度であり、そのどちらも敵対していた。

 翼からすれば影詩は目的の為に手段を選ばない狂人であり、影詩からすれば翼は一度響を殺しかけた以上――今がどうであろうと――許せる相手ではない。

 対極的な二人は噛み合わない。

 だから、

 

「影詩、翼さん!」

 

 噛み合わない二人を繋げるのが立花響だ。

 それは技術や能力の問題ではない。影詩と翼が信じあっていなくても、彼らは響を信じているし、響自身も二人を信じている。だからその信頼を繋げることが響の在り方だ。

 ジグザグに疾走する影詩と真っ直ぐに進む翼。 

 二人と共に、影詩のような冴え渡る直観も翼のような重ねた技術もない。けれどただ彼女は彼女であるだけで、その歌は誰かを繋げている。

 

「影詩ッ!」

 

「ーー!」

 

 響に呼ばれたのと同時に、影詩の速度が最高に達する。まるで響に呼ばれることを予見していたかのように直前の速度は最低速まで落ちていた。だからこそその緩急がフィーネの意識の隙を付く。

 狼爪はフィーネの体勢を崩すように放たれ、

 

「でぇえええええええええいいいいッッ!」

 

 その崩れた隙を響がぶち抜き、

 

「疾ーーッ!」

 

 響の一撃の直後、さらにダメ押しと言わんばかりに翼の一刀が振るわれる。

 

「小賢しい……!」

 

 響を核とした即席な上に単純な連携であるが、それでも即席としては悪くない。響の性質も含めて、やはり影詩の勘と翼の技術が大きい。フィーネとしてもここまで技術はともかく、互いに信頼し合っていない二人の三人組による連携は珍しい。

 故に、時間を稼ぐのには十分で、

 

「ロックオン・スナイプ!」

 

 クリスはフォニックゲインを高め、巨大なミサイルを二つ射出する。

 

「さ、せるか――ァッ!」

 

 反応は劇的だ。フィーネからすればカ・ディンギルは至上の目的の為の手段だ。それは大上影詩が立花響と小日向未来を守る為に全てを懸けたのと同じこと。だからミサイルを見逃さなかった。影詩と響、翼を右の紫鞭で吹き飛ばし――左の紫鞭でミサイルを斬り飛ばす。

 空に巨大な爆炎の華が咲き、しかし彼女はその結果には構わず、焦りと共に見たのは、

 

「な――!?」

 

 残ったもう一つのミサイルを乗り物にし、天へと駆けのぼるクリスだった。

 そして響く。

 

≪――Gatrandis babel ziggurat edenal≫

 

 心の底から、やっと見つけた夢を叶える為――月の下、命は淡く雪のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界に歌が散っていく。

 欠けてしまった月に照らされ、降り注ぐ光は煌めきながら。まるで雪のように淡く夢を歌った少女の命は大地に降り注ぐ。

 誰もが、見上げることしかできなかった。カ・ディンギルから発射された砲撃と絶唱と共に放たれたクリスの収束砲撃。それらは激突し、カ・ディンギルの砲撃を微かに逸らすことで月の崩壊は免れていた。

 

「……っ」

 

 大上影詩は雪音クリスの事情は、やはり知らない。彼女がどういう人生を歩んできたのか、何を思い願っていたのかは解らない。

 けれど、

 

「――未来?」

 

 陽だまりが、悲しんでいるのを感じる。

 そして小日向未来だけではなく、

 

「っ……ぁ……クリスちゃん……!」

 

 立花響もまた涙を流し、声を嗄らして悲しんでいた。

 

「――」

 

 つまりそれは堪忍袋の尾が同時に二つ切らされたということ。雪音クリスの絶唱に影詩自身思う所がなかったわけではないが、しかし立花響と小日向未来の悲しみは何よりも優先されることだ。だから全神経はその落とし前を付けさせるためにフィーネに向かい――だから気づいた。

 彼女が一切動揺していないことを。

 クリスの捨身を下らぬと言わんばかりに笑みを浮かべていることを。

 そして――泣き崩れた響へと紫鞭を振りかぶっていたことも。

 

「――」

 

 当然、身体は勝手に動いた。そこは獣の瞬発力任せだ。

 守るべき人は当然解っている。影渡りもできたが、しかし後ろに立つのでは駄目だ。だから全身全霊を懸けて数メートルにも満たない距離を駆け、

 

「――え」

 

 響を庇い、紫鞭が影詩の胸を貫いた。

 

「――ぐ、ぁああ……!」

 

 自らを貫く鎖に対して、影詩はすぐにそれを両手で掴むことで対応した。刃が掌に食い込むが構うわけもない。握っただけでは足りないと一瞬で判断したから腕に巻きつかせることでなんとか止めることができた。

 

「……ぁ……っく……」

 

 血を流し、全身を振るわせながら、微かに振り返る。

 後ろには呆然とした響がいて、血に濡れた紫は彼女には届いていなかった。

 胸によぎったのは痛みではなく――場違いな喜びと安堵だ。

 

「あぁ――」

 

 影からでも、後からでもない。彼女の前に立って彼女を守るなんて。

 そんなことは許されないと思っていたし、来ることもないと諦めていた。

 だけど、今は、今度こそは、二年前と違う。

 

「――やっと守れたか」

 

 絞り出せた想いと言葉はそれだけだった。

 それだけを呟き、まるで憑き物が落ちたかのように彼は無邪気に笑った。そうして大量の血と共に糸の切れた人形みたいに地面に崩れ落ちる。

 

「……えい、し?」

 

 彼女の声に反応は、なかった。

 その時にはもう、影詩の意識は消え去っていたから。

 

「――――」

 

 右手で肩に触れれば、触れた手は血に濡れていた。

 血は妙に生温かくてどろりとしていたけれど、影詩自身の動きはない。

 

 それは――虹の咲き誇る華から陰が奪われた瞬間だった。

 

 共にあって当然だと思っていて、けれどそうではなくてだから闘って。

 つい先ほど繋いでのにも関わらず。

 数十分前に握った右手は、今血に塗れている。

 最も大事なものの一つを失った絶望はきっと理解の及ばないもの。何故ならば響は数時間前、世界の危機と大上影詩という選択の前に後者を選んだのだから。小日向未来や大上影詩と同じくらいに、或はそれ以上に立花響の精神の深い所は歪んでしまっている。 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッッッ!!」

 

 だからその喪失の絶望を引き金として少女の闇は点火し、

 

 ――戦場に防人の歌が鳴り響き渡る。

 

 

 




本当に守れたのかという問題。

尚アニメであったところは大体飛ばしてます。

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