All I need is beat   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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最愛の血と涙

 

「貴女と私……戦いましょうか」

 

「えぇっ……?」

 

 月光の下、風鳴翼は立花響へと白刃を突きつけながら言い放った。

 出現したノイズを対処するために高速道路へと出撃した翼と彼女を追いかけた響。ノイズは全て倒したというのにも関わらず翼は響へと剣を向けた。翼は薄い笑みすら浮かべながら、伏せた目で響を見据える。シンフォギアを纏い、向かい合う装者二人。響は突きつけられた切先に戸惑い、翼はそんな響を睥睨して、黙するだけ。

 そもそも答えは、聞いていなかった。

 響が口を開き、しかし言葉を発する前に翼は高く飛び上がる。十数メートルを一瞬で跳躍し握っていた一刀を投擲。その剣は大剣となり、機械音が響きながら瞬く間にさらに巨大な、山のような剣に変化。翼の脚部装甲と柄が合一して、それぞれのスラスターが起動し、

 

≪ 天 の 逆 鱗 ! ≫

 

 高速道路を両断する大斬撃を放つ。

 

「なっ……!?」

 

 迫る巨大な破壊を前にして響は何もできない。単純な戦闘能力もないし、翼に攻撃されたという事実そのものが身体を拘束する。そもそもの話彼女は戦士ではないのだ。武術を習っているわけでもないし、他人と主義を主張し合うことはあっても手を出すことはなかった。昨夜ノイズを倒したのもただの偶然振るった手が当たっただけ。

 だから精神的にも肉体的にも回避はできず――逆鱗の大刃が高架を両断する。

 

 

 

 

 

 

 

「……私は」

 

 自分は何をしているのだろうか、粉塵が大量に合い上がる中で翼は思う。

 頭の中がこんがらがって、考えがまとまらない。かつて失ったはず天羽奏、その聖遺物を宿した少女が目の前に現れた。彼女は戦場を知らないただの子供で、そんな子供が奏のギアを纏い、覚悟もなく自分と肩を並べようとするなんて許せなかったのだ。

 だけど、

 

「こんなこと……」

 

 どこかの水道管でも傷つけたのか崩れた道路の切れ端から水が噴水のように湧き上がり、身体に降り注ぐが彼女の憂鬱までは洗い流してくれない。立花響という少女が許せなくて、そのままの衝動に任せて、彼女に剣を向けてしまった。

 防人は惑い、涙のように注がれる雨を見上げ、

 

「こんなことをして、私は……!」

 

「迷うくらいなら剣なんて握んなやくそったれ」

 

 影狼がその切先に牙を剥く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なっ!?」

 

 飛来したのは乾いた音と共に発砲されたBB弾だ。違法改造されたそれは実銃に遜色のない威力を内包している。真横から放たれた影狼の弾丸は、防人に直撃し右腕と右腰に骨に亀裂を入れる。

 そしてそれだけでは終わらない。

 唐突な攻撃に防人は驚愕し、同時に右半身の痛みに一瞬に動きが止まる。それは刹那の停滞だ。人類を脅威から守る防人の風鳴一族。その血に刻まれたのは日本という国を守護する為に研鑽された武威であり、彼女の身に刻まれているのは幼い頃より蓄積された経験だ。直前まで呆然自失としていた為に、奇襲には不意を打たれたが、しかしリカバリーは早い。

 痛みの無視と剣の抜刀と姿勢の回復。

 全てが同時に行われ防人の視線は影に潜む狼を捕える。

 

「何奴だ!?」

 

「なんだと思う?」

 

 風鳴翼に薄く笑いながら答えたのは大上影詩だ。

 煙草を口に咥え紫煙を曇らせ、翼に向けられた剣の切先に自分の顔が写っていることには全く頓着しない。何が面白いのか口元に笑みを張り付けたままだ。

 

「え、影詩……」

 

 瓦礫の中にへたり込みながら響が彼の名を呼ぶ。

 『天の逆鱗』が放たれ、直撃した瞬間に影詩が割り込み彼女を掻っ攫ったのだ。翼が動揺していたから気づかなかったのだ。最も、いくら何でも落下してくる巨大な剣の中に飛び込んでくる人間がいるなんて思いつくはずもない。

 

「エイシ……大上影詩か? 立花響の輩の?」

 

「あぁそうだよ全国民のアイドルの風鳴翼さんよ。テレビの前で笑顔振りまいてるアンタが、今こうしてアニメチックなエロスーツ着て剣振り回してるなんて知ったらファンはどうなるかね? 炎上確定だなおい」

 

「抜かせ、此処にいるのは歌女ではなく人類救済の剣だ。戦場(イクサバ)に割り込む民草は守るべき対象ではあるが、私に銃を向けるということはその庇護から己から外れるということだ」

 

「言い回しがくせぇ。ハッキリ言えや」

 

「ただの人が覚悟もなく戦場に立つな、と言っているのだ」

 

「ははははは! おいおい聞いたか? 何言ってんだよコイツ! 笑えるよな――さっきヘタレ顔晒してたのはどこのどいつだ、あぁ?」

 

「――ッ貴様」

 

「え、えいし……?」

 

 響の呼びかけには――大上影詩には極めて珍しく――取り合うこともせず、せせら笑い両手を広げなら唄うように叫ぶ。

 

「はいはい、そんな睨むなよ。まぁ視れば解る、アンタもなんか複雑な事情を抱えてるんだろ? いやいや人には歴史ありっていうもんな。アンタがそんな格好してるには色々あるんだろうな、あぁいいんだ! 別に話さなくてもいい! 言いたくないよな! 思い出したくもないよな! 解る! 解るぜ!」

 

 だけど、と笑みを消し、

 

「――今のは駄目だ(・・・・・・)

 

 立花響を傷つけることだけは、駄目だ。

 

「よくない、人には人の容量ってもんがある。そしてお前は俺の一線を超えちまった。大したもんだ。俺の堪忍袋を切る方法なんて二つしかないんだぜ」

 

 右手にはガスガン、左手には重々しいチェーンを握りその視線は真っ直ぐに翼に突き刺さっている。

 キレているのだ。

 怒っている、もっと言えば激怒している。普段から響に仕返しをしようとしている連中に対する怒りとは訳が違う。先ほどの翼の攻撃は、響に命中すれば命の危機、或は大きなダメージを負っていた。二年前と同じような怪我、彼女は受けたかもしれない。

 軽い気持ちで陽だまりに咲く花を穢せば、影に潜む狼が牙を剥く。

 ならば、虹の花を穢すだけではなく、手折ろうとすればどうなるか。

 影狼が牙を剥くだけじゃすまない。

 その手に喰らい付き、肉を裂き、骨を砕き、命を奪う他ない。

 

「……なるほど、民草ではなく痩せさらばえた餓狼であったか。ごちゃごちゃと、戦場でよくもまぁ囀る。……今の私は、はっきり言って機嫌が悪い。人類救済の一刀であるが、憂いに濡れてしまえば、そこいらに屯する捨て犬の喉を掻っ切ることが在り得なくはない」

 

「なぁお前それ真面目に言ってるのか、ギャグだろ?」

 

「――」

 

 答えはなかった。代わりにあったのは再び向けられた剣の切先。

 防人の刃は真っ直ぐに影狼へ突き立てられる。

 

「――ハッ、ようやくその気かよ」

 

 そして影狼もまたそれを拒絶しない。それどころか受け入れるようにガスガンとチェーンを握った両腕を広げる。

 同時に空気の質が変わる。

 原因は防人と影狼。

 

「えい、し……つばさ、さん……?」

 

 響もまた敏感にそれに感じ取る。何故ならば彼女が最も嫌悪するものだから。

 それは殺気、殺意――そして剣気と獣気と呼ばれるものだ。

 純度の高い殺すという意思は、それだけで物理的な質量を保有し空間に具現する。同時に風鳴翼が今までに磨き上げてきた総てと大上影詩の激情の精神もまた同じように他者を圧迫するのだ。

 

「ぶっ殺してやる。そういや人を殺すのは初めてだが、遅いか速いかの差でしかねぇ」

 

「いいだろう、来るがいい。話を聞く必要はない。この憂い、獣を切り捨て払うとしよう」

 

 そして緊張は臨界を超え、

 

「行くぞぉぉッッ――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そこまでだッッ!」

 

 赤い影が影狼と防人の激突を止める。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叔父様!?」

 

「――!?」

 

 剣を振り上げた翼とチェーンを叩き付けようとした影詩が接触する直前だった。至近距離でぶつかり合う二人よりも早く、そしてどちらにも対処をする。剣は二指で白羽取りをし、音を立てて振るわれたチェーンはそのまま鷲掴みにする。たったそれだけで二人の動きが止められ、

 

「覇ァァァ――噴ッッ!」

 

 気合い一声と共に吹き飛ばす。

 

「きゃぁあ!?」

 

「うおおお!?」

 

「翼ァ! 少し頭を冷やしていろ!」

 

 発剄で二人を弾き飛ばした赤い影――風鳴弦十郎は翼から背を向け、影詩に向き合う。

 

「ぐっ……、ぉ、お……!」

 

 影詩の感じる痛みは全身からあった。まるで細胞の一つを等しく打撃されたかのように、身体中総てが痛みに悲鳴を上げている。意味が解らないのには、それほどまでに痛むのにも関わらず骨に罅一つ入っていない。一体どういう力加減をすればそんなことができるというのだ。

 痛みを堪えながら、割り込みを入れた男を視界に収める。

 赤い髪と赤いシャツ、ネクタイを胸のポケットに仕舞い、衣服の下にははちきれんばかりの筋肉。翼や先ほどの響のようにギアを纏っているわけではない。

 

「大上影詩だな? 緒川を撒いて翼とやり合おうとするとは、随分とやんちゃな野郎だ」

 

 ため息まじりに苦笑をしながら、弦十郎は軽い足取りでコンクリートにめり込んだ影詩へと近づいてくる。

 

「あー……まぁお前も色々にもあるんだろうさ。だけどな、いいか少年。よく考えろ、お前は響君を守りたかったんだろう? そのために色々よろしくないことをしていたのも知っている。けどな、その行いが彼女を悲しませることになるとは、思いつかなかったのか?」

 

「――」

 

「見ろ、彼女を。お前を見て、涙を浮かべている」

 

 親指で指すのは背後にへたり込んだままの響だ。弦十郎の言葉通り、響は泣いている。憧れの先輩が――そして、大切な幼馴染が傷つけ合っているのだから。

 

「お前は彼女の身を守ろうとしたかもしれない。だが――彼女の心を、守れていない」

 

「――――」

 

「いいか、少年。もう一度よく考えろ。お前の行いがどれだけ彼女に涙を流させていたのかを……」

 

「黙れよ」

 

「……何?」

 

「黙れ、って言ってんだよおっさん……ッ」

 

 その声は、震えていた。

 先ほど翼に対して激怒していたこと以上に、数時間前に過去の記憶が思い返された時以上に、大上影詩の心は揺らいでいた。怒りも悲しみも自責も、影詩を構成するありったけの想いが溢れて止まらず、殺気も殺意も獣気も先ほど翼と激突する直前よりも遥かに高純度の質量を以て真っ直ぐに、それこそ視線で殺せるのならば殺してやりたいと言わんばかりに弦十郎を睨みつける。

 ぎらりと暗闇で光る瞳に、弦十郎は恐れることはないが、しかし眉を秘める。

 

「は……はは……ははは……よく言うよなぁそれ。心を守れ心を守れ。その行いは大事な人を泣かせてまでやるべきことなのか? あぁほんと、耳にタコができて頭が狂いそうだ……ひ、ひひ……笑えるぜ、ほんと、涙が出てくる」

 

 弦十郎の問いかけは、本当に聞き飽きている。

 ――だって、何度も影詩自身が自分に問いかけたことなのだから。

 考えなかったわけがないし、火を見るより明らかなことだ。大上影詩の行いを知れば、立花響は悲しむし憤るし、或は影詩のことを嫌ってしまうかもしれない。そんなことを考えれば身体を八つ裂きにされるくらいに辛いことだったし、だからこそ何度も自問自答した。

 それでも、やると決めたのだ。

 

「最愛が……涙を流したとしても……それでも、血を流させたくねぇんだよ……その為、なら俺は……なんだってやる。絶対に、絶対にだ」

 

 彼女は泣いてしまうかもしれない。

 だけど彼女が血を流すよりはずっといい。

 心を守るよりも、身を守ることを選んだ。

 

「……俺が花を守れば、陽だまりが歌を包んでくれる。それでいい」

 

 大上影詩が身を守れば。仮にその心を傷つけたとしても。

 ――小日向未来がいる。

 アイツのことは別に好きでもなんでもない。幼馴染であることは確かだが、しかしだからと言って決して仲が良いわけではない。寧ろ彼女との仲は最悪だ。口を開いて話せば喧嘩になることが目に見えている。けれど、立花響に対する想いだけは信じている。ある意味で、大上影詩がこの世で最も信頼する相手だ。

 だから信じている。

 影詩が傷つけた心を、彼女が癒し、守ってくれると。

 狼は影に潜むからこそ影狼であり、陽だまりに居場所はないし、そもそも求めていない。

 温もりも、優しさも大上影詩には許されないから。

 

「関係ねぇ奴が、べらべら口出してんじゃねぇよ。あぁ、糞っ……ふざけやがって……!」

 

「……関係ないかもしれない。だがな、少年。だからと言って大人ぶって必要以上に自分を苦しめてる餓鬼を放っておけるほど、俺は非情じゃねぇ」

 

「――そういう上から目線が一番腹立つんだよッ!」

 

 感情の暴発が、身体を無理矢理動かした。

 獣染みた瞬発力で、コンクリートから体を剥がし弦十郎へ迫る。数時間前に、緒川を通して彼の下に行こうとしたことには気づいていない。理性では弦十郎に牙を剥くことに意味はないと気づいていた。けれど感情が理性を完全に凌駕し、彼我の実力差すら無視して襲い掛かる。

 

「――この大馬鹿者がァッ!」

 

 影詩の特攻は、しかし弦十郎の鉄拳で容易く潰される。

 鳩尾に突き刺さった拳は周囲に破壊をまき散らし、衝撃は突き抜けて背後のコンクリートをさらに粉砕する。それに影詩は逆らわなかった。埒外の威力を誇るその鉄拳はそれ故に彼を吹き飛ばし――そのまま高架の下へと落下した。

 

「――知ってるよ、そんなこと」

 

 瓦礫と共に落ちていき、薄れる意識の中で最後に聞いたのは、

 

「影詩いいいいーーッッ!」

 

 涙を流させる最愛が己を呼ぶ声だった。

 

 

 




SAKIMORI対TINPIRAの戦いが始まるかと思った人がいたら御免ね!()

なんでこう私の主人公は視野が狭いというか、基本的にヒロインしか見てないので、俯瞰すると駄目なんだろう()

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