暁古城は、薄闇の中でかすかな波の音を聞いていた。
コンクリートの上に横たわってるせいか、投げ出した腕が冷たい。
だが、頬に心地よい温もりが伝わる。
「先輩...そろそろ起きてもらえませんか?」
不意に古城の頭上から声がした。どこか拗ねている雪菜の声だ。
「悪い...あと五分」
夢を見ているような気分。頭を包み込むような、柔らかな温もりから離れたくない。
はあ、とため息が頭上から聞こえる。
「もういっぺん死んでこい」
雪菜ではない声に薄目を開けようとすると同時に腹部に衝撃が走る。それとともに古城は一メートル弱飛ばされる。
「痛って! なにしやがんだ!?」
「ようやくお目覚めか、変態真祖様?」
腹部を押さえながら膝立ちをし、古城を吹き飛ばした人物が誰であるかを確認する。
そこには古城のクラスメイトである少年、神城カルマがいた。
「なんでお前がここにいるんだ、カルマ 」
「俺のことよりも先に姫柊に何か言うことがあるだろうが」
カルマの言葉に今まで何があったのか思い出す。製薬会社の研究所で古城と雪菜はオイスタッハたちと遭遇し、そこで雪菜を庇おうとした古城は戦斧の攻撃を受けた。
その一撃は吸血鬼といえど、生きていられる負傷ではなかった。
「そうか...俺は死んでたのか」
「はい」
その時の光景を思い出したのか、雪菜は唇を噛んだ。そして、また泣きそうになりながら口を開く。
「先輩が死んだあと、しばらくしたら傷が勝手になおりはじめたんです...飛び散った血も、まるで時間を巻き戻したみたいに戻ってきて...」
「で、そのまましばらく寝ててさっきのカルマの蹴りにいたるってわけか」
少しまだ痛みが残る腹部を押さえた後右肩を押さえ、古城は訊いた。半月斧バルディッシュに切断されたはずの肩はかすり傷ひとつ残ってない。
さすがに服はそのままだが。
傷の具合を確かめように指を動かす古城を、雪菜が睨みつける。
「生き返るなら生き返るって、最初に言ってから死んでください。わたしがどれだけ心配したと思ってるんですか...!」
いやそんな無茶苦茶な、と反論しかけたが今まで雪菜が古城が復活するまでそばにいてくれた。
涙目の雪菜に古城はため息をつく。
「心配かけて悪かったよ。だけど俺も知らなかったんだ。アヴローラのやつがいってたのは、こういうことだったのか」
「アヴローラ? 先代の第四真祖が、なにを...?」
「ああ。真祖にとって不老不死は、権能なんかじゃない。ただの呪いだって」
「呪い?」
「真祖は死ねない。心臓を貫かれても、頭を潰されても生き続ける。そういわれてもあんまりピンとこなかったんだが、ちょっとわかった気がするな。死にたくなっても死ねずに何百年も何千年も一人きりで生き続けるのは...たしかに呪い以外の何物でもねーよ」
溜息のように呟く古城を、雪菜は黙って見つめ、カルマは自分にも心当りがあるのかどこか懐かしそうな顔で訊いている。
不老不死とは言われていても、吸血鬼は完全に不死身というわけではない。特に魔力制御する脳や、血液循環を司る心臓は弱点である。
そこに深刻なダメージを受ければ、”旧き世代”といえども確実に死ぬ。
だが、第四真祖の古城の肉体は少し違った。
完全に破壊された心臓までもが再生し、流れ出た血すら、その大半が逆流して戻った。
「だからって、どうしてわたしを庇ったりしたんですか!? 呪いだろうがなんだろうが、必ず復活できる保証なんかないんですよ! 生き返れなかったら、どうする気だったんですか!?」
雪菜が、本気で怒っているような口調で古城を問い詰める。
「そうなんだけど、でもよかったよ」
「なにがよかったんですか!?」
「いや、姫柊が無事だったから」
古城の何気なく口にした言葉に、雪菜は動揺する。
「...て...よかったんです」
雪菜の言葉に戸惑う古城は首を傾げる。
「え?」
「先輩は、わたしを庇ったりしなくてよかったんです。もう忘れてしまったんですか。わたしがここに来たのは先輩を殺すためなんですよ」
感情をなくしたように雪菜が呟く。
言葉を出そうとするが古城はその言葉を飲み込む。
今の雪菜の雰囲気が、アスタルテと呼ばれていた少女と重なる。
「あの殲教師が言ったことは本当です。わたしは使い捨ての道具です。ずっと前から気づいてはいたけど、認めたくなかったんです...だから、わたしが死んでも誰も悲しまない。でも、先輩は違うじゃないですか...!」
「姫柊...」
うつむく雪菜が、泣き出すのをこらえるように古城に背を向ける。
オイスタッハとの戦いの中、雪菜の動揺の理由がわかってしまった古城。
わずか十四歳で、ロタリンギアの殲教師をも圧倒する戦闘能力を持つ、獅子王機関の剣巫。
そんな雪菜は戦いの中で戦いの道具として造られたアスタルテに、自分の姿を重ねてしまったのだ。
そんな彼女を追い詰めたのは、自分かもしれない。
第四真祖の力を手に入れながら、ただの人間として生きようと足掻く古城の姿を、雪菜はここ数日見続けた。
戦う力を得るために、当たり前の日常を捨てた雪菜。
そして誰よりも強大な力を与えられながら、つまらない日常を選んだ古城。
「......」
顔を伏せたまま動かない雪菜を、古城は途方に暮れた表情で眺めた。
古城の代わりに雪菜が傷ついていいわけがない。何を言っているんだこいつは、と思ってしまう。けれど、今の雪菜を言葉で説得するのは、きっと古城には難しい。
背中を丸めている雪菜の姿はあまりに儚げで、このまま目を離すと消えてしまいそうに感じられた。
そのことに苛立ってしまう。
「あのな、ひm」
「姫柊!」
古城の言葉は隣の少年の声によってよって掻き消された。
雪菜はビクッと体を震わせて恐る恐るこちらへと向く。そんな少し怯える彼女へとゆっくりと歩み寄るカルマ。
「お前は自分のことをもっとよく考えろ。お前が死んだら悲しむ人もいるに決まってんだからさ」
そう言いつつ雪菜の額を小突きながら微笑む。
「神城先輩...?」
座り込んだまま雪菜はカルマを見上げる。カルマは大きく伸びをした後に、こちらへと顔を向ける。
「古城...姫柊を、島のみんなを救いたいならお前の持つ真祖の力を使え...」
その言葉に古城は動揺を隠しきれない。そんな古城にカルマは言葉を続ける。
「そのためにやらなきゃいけねえことぐらいお前にもわかんだろ」
そう言いながらカルマはその足を動かし、奥地へと向かっていく。
「それまでの時間は、俺がかせいどくからよ」
そう言い残し、カルマは奥地の闇へと消えて行った。
その場所は、光すら届かぬ海中深くに造られた、永遠の牢獄のようにも思えた。
キーストンゲート最下層があるのは海の中。海面下二百メートルである。
高い水圧に耐えるために円錐形の外壁は、神話のバベルの塔にもにている。
この階層の役割は、四基の
ゲートの壁を経由して届いたワイヤーケーブルは、この最下層にまで巻きつけられている。
圧倒的な鋼の質量と、爆発的な力を秘めた駆動機関の威圧感。
その最下層の暑さ七十センチの気密隔壁を虹色に輝く人型の眷獣がこじ開ける。
眷獣の胸の中心には、藍色の長髪、薄水色の瞳を持つ、
彼女の背後から姿を現したのは、法衣をまとった屈強な体つきのロタリンギア殲教師ルードルフ・オイスタッハ。
「
自らの眷獣に包まれたアスタルテが告げる。
宿主の寿命を喰らう眷獣の力を使いすぎた
しかしオイスタッハは、そんなアスタルテには一瞥もくれず、最下層の中央、四基の
そのアンカーの中央。一本の柱が杭のように貫いている。
それが絃神島を連結させる黒曜石に似た半透明の石柱──
「お...おお...」
オイスタッハの口から、悲漢と歓喜の声が漏れる。
「ロタリンギアの聖堂より簒奪されし不朽体...我ら信徒の手に取り戻す日を待ちわびたぞ! アスタルテ! もはや我らの行く手を阻むものはなし。あの忌まわしき楔を引き抜き、退廃の島に裁きを下しなさい!」
高らかな笑い声を上げながら、オイスタッハが従者たる
しかしアスタルテは動かない。実体化した眷獣の鎧に包まれたまま、無表情に告げる。
「
「なに?」
巨大な戦斧を握りしめて、オイスタッハが要石によって固定されたアンカーの上に、誰かいるのを確認する。
制服を着た少年。
「悪いな、オッサン。お前の思い通りにはさせねぇよ」
無気力な少年──神城カルマは、オイスタッハを睨みつける。
「西欧教会の“神”に仕えた聖人の遺体...」
キーストーンと呼ばれた石柱を、カルマは眺める。
半透明の石の中には、誰かの"腕"が浮かんでる。ミイラのように干からびた、細い腕だ。
それは自らの信仰のために苦難を受け、命を失った殉教者の遺体だ。
「聖遺物。これの回収があんたの目的だったわけか」
カルマは聖遺物を眺めながら言う。
「貴方たちが絃神島と呼ぶこの都市が設計されたのは、今から40年以上も前のことです」
「年の設計者、絃神千羅はよくやったと言えるでしょう。東西南北に分かれる四つの
「その話は知っている。それにそのことは今はどうでもいい」
オイスタッハが語り出そうとしたのをカルマは遮る。
「オッサンにとって特別な何かってことはわかる。それでも、この島の人間を...俺の親友を傷つけていい理由にはならねぇだろ」
冷静に見えつつ強烈な殺意を放つその眼光でオイスタッハを睨む。オイスタッハは一瞬、身体を震わす。その殺意に満ちた眼光にではない。カルマから溢れ出る魔力にだ。
「やはり貴方という存在だけがわかりませんね」
オイスタッハは、戦斧を構えながらカルマという存在を確認する。
「俺は、ただの
その言葉を聞いたオイスタッハは、ふん、と荒々しく息を吐く。
「もはや言葉は無益のようです。これより我らが聖遺物を奪還する。邪魔立てするというならば実力をもって排除するまで──アスタルテ!」
「
沈黙していたアスタルテが、かすかに悲しみを含んだ声で答えた。
虹色の眷獣が輝く。
「そう急ぐなよ。まだ主役が来てねぇんだからさ」
オイスタッハは、その言葉に眉をひそめる。
それと同時に声が響いた。
「まだ俺はあんたに借りがあるんだぜ、オッサン!」
後方から現れたのは、全身を稲妻を包み込み、唇の隙間から、牙がのぞき、瞳は真紅に染まっている第四真相──暁古城と銀色の槍を構えながら彼の隣に寄り添う獅子王機関の剣巫──姫柊雪菜だった。
「貴様...その力は...」
オイスタッハは表情を歪めた。
「さあ、始めようか、オッサン。ここから先は、
雷光をまとった右腕を掲げ、古城が吼える。
「いいえ、先輩。わたしたちの
最初に仕掛けたのは、雪菜だった。
銀の槍を構えた剣巫が、閃光のようま速度でアスタルテへと向かう。眷獣をまとった人工生命体ホムンクルスの少女が、人型の巨体を操って迎撃する。
建物全体をも震わせるほどの攻撃。
しかし雪菜は、その攻撃をしなやかに受け流した。
雪霞狼──七式突撃降魔機槍シュネーヴァルツァーの
だが、その眷獣も肉体に神格振動波をまとうことで、雪霞狼の斬撃を耐える。
致命傷を与えるはずの雪霞狼の攻撃は、眷獣の肉体を浅く傷つけるがそれすらすぐに再生する。
戦闘技術で勝る雪菜だが、相手を撃破できる攻撃力はない。
一方、圧倒的な破壊力のアスタルテも、雪菜の体術と槍技に翻弄されて、彼女に触れることができない。
だが、それでよかった。
「おおおおッ──!」
青白い稲妻をまといながら、古城がオイスタッハに殴りかかる。
雪菜がアスタルテを引きつけている間に、古城がオイスタッハを倒す。それが古城たちが考えた作戦らしい。
それを悟ったうえでカルマは、この戦いは二人に任せつつ危なくなったら加勢できるように、古城達から離れすぎないように距離をとる。
「ぬぅん!」
オイスタッハは、その巨体からは想像もできない敏捷さで古城をかわし、逆に戦斧で反撃してくる。。
「貴方には驚かされてばかりですが、その動きは浅はかな素人同然の動きですね、第四真祖!」
「同然じゃなくて、本当に素人なんだよ!」
反論しながらも、古城は加速する。たしかに古城は武術の素人で、吸血鬼としてほぼ無能。だが、古城には、バスケで鍛えたフットワークは健在。相手のマークをかわして、ディフェンスの裏をかく。緩急と体重移動。そしてフェイント。自分よりもガタイのいい相手との戦い方を、古城はよく知っている。
「ぬ...これは」
「先ほどの言葉は撤回です。認めましょう、貴方はやはり侮れぬ敵だと──ゆえに相応の覚悟をもって相手させてもらいます!」
「なに...!?」
オイスタッハの全身から噴き出した凄まじい呪力に、古城の顔から血の気が引く。
殲教師がまとう法衣の隙間から、輝きが洩れる。法衣の下に着込んだ装甲強化服が、黄金の光を放っているのだ。その輝きを見た古城の瞳には激痛が走り、光を浴びた肌が焼ける。
「ロタリンギアの技術によって造られし聖戦装備“
オイスタッハの攻撃速度が増した。装甲鎧が、彼の筋力を強化したのだ。視界を奪われながらも古城は、ほぼ感で回避する。
「汚ェぞ、オッサン──そんな切り札をまだ隠し持ってやがったのかよ!」
オイスタッハの攻撃が古城を襲う。
「先輩...!?」
雪菜が叫ぶ。しかし彼女もアスタルテを抑え込むだけで精一杯だ。
心配するな、というように雪菜に目配せして古城は立ち上がる。
オイスタッハの攻撃の手が止まる。古城が放つ異様な気配に気づいてて、警戒したのだろう。
さすがだな、と古城は笑う。
「死ぬなよ、オッサン!」
「ぬ...!?」
オイスタッハが、本能的に後ろへと跳ぶ。
彼を目がけて突き出した古城の右腕が、鮮血を噴いた。
「“
その鮮血が、輝く雷光へと変わる。これまでの稲妻とは比較にならない膨大な光と熱量、そして衝撃。その光が凝縮されて巨大な獣の姿を形作った。
それが本来の眷獣の形、古城が完全に掌握した、第四真祖の眷獣の真の姿だ。
「
出現したのは、雷光の獅子──
戦車ほどの巨体は、荒れ狂う雷の魔力の塊。その全身は目が眩むような輝きを放ち、その咆哮は雷鳴のように大気を震わせる。
「これが貴方の眷獣か...! しかし、これほどの力をこの密閉された空間で使うとは、無謀な!」
雷の獅子の前足が、オイスタッハの巨体を数メートル吹き飛ばす。
稲妻は一撃で戦斧の刃を融解し、キーストーンゲートの外壁を伝って非常灯や監視カメラを吹き飛ばす。ワイヤーケーブルを固定している巻き上げ機が悲鳴を上げる。
「アスタルテ!」
殲教師は
雪菜の攻撃を振り切って、眷獣をまとったアスタルテが古城の眷獣の前に立ちはだかる。
古城の意思に反して、“
その瞬間、アスタルテの眷獣を包む虹色の光が輝きを増す。
神格振動波の防御結界が、古城の眷獣の攻撃を受け止め、反射する。
「うおおっ!?」
「きゃああああっ!」
「マジかよッ!」
制御を失った魔力の雷が、分厚いゲート最下層の天井が、あっさり撃ち抜かれた。
「くっそぉ...ダメか! 俺の眷獣でも、あいつの結界は破れないのかよ...!」
“
「いいえ、先輩。この
えっ、と訊き返す間もなく、雪菜は詠唱をしながら走り出した。
「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る」
銀色の槍とともに、彼女が舞う。神に勝利を祈願する剣士のように。あるいは勝利の預言を授ける巫女のように。
「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
粛々とした祝詞とともに、雪菜の槍が神々しい輝きを放ち始める。
「ぬ、いかん!」
雪菜の狙いに気づいたオイスタッハが、雪菜へと戦斧を投げようとする。
しかしオイスタッハを古城が放った雷球が襲う。装甲鎧に守られている彼にとっては致命的な一撃ではない。
だが、少なくとも動きは止まった。
その隙に雪菜がアスタルテ目がけて駆ける。
「はあああああーーー!!!」
次の瞬間、銀色の槍が、アスタルテの防御結界を突き破って、顔のない人型の眷獣の頭部に深々と突き刺さる。
ここまでくれば古城も雪菜の行動の意味を理解していた。
「"
避雷針となった雪霞狼に古城の眷獣が牙を立てる。
雷に姿を変えた眷獣の魔力が"
真祖の眷獣の圧倒的な魔力が、今度こそアスタルテの眷獣を焼き尽くし、消滅させる。
「アスタルテ!...ッ!?」
アスタルテが倒れる前にカルマが優しく受け止める。
アスタルテが倒された事で動揺する殲教師に雪菜は一瞬で近づく。
動揺していたオイスタッハは反応が遅れる。
装甲強化服で覆われた彼の腹部に、雪菜の掌を押し当てた。
「響よ!」
鎧を貫通して人体の内部にダメージを伝える、剣巫の掌打。
「──終わりだ、オッサンっ!」
追い打ちのように、古城が殲教師の顔面を殴りつける。
魔力も術もなにもない、真祖の能力など無関係な力任せの強引な一発。それゆえに、それはいかなる魔術でも防御できない。
オイスタッハは、吹き飛ばされ何度かバウンドし、ついに倒される。
「たぶん、アンタがあの腕を取り戻そうとしたことは間違いじゃない。だが、選んだ方法は間違いだ。その責任は自分で負うんだ」
要石のほうへと手を伸ばしている彼に古城は声をかける。そして殲教師は力尽きたように沈黙した。
キーストーンゲート最下層には、恐ろしいくらいの静寂が訪れていた。
まるで先ほどまでの戦いがなかったかのような錯覚さえも起きるほどだ。
カルマは自らの腕の中で眠るように気絶している藍色の長い髪の少女を抱きかかえたまま周囲を見渡す。
被害は甚大。
だが、なんとか要石は無事でワイヤーケーブルもほぼ無傷。ギリギリで島は守られた。それを確認し、三人の表情には安堵が浮かべられる。
カルマは、一度薄くため息をついて自らの腕の中のアスタルテを見る。
ひどく消耗しているが、まだ息はある。
だが、このまま眷獣がいる限り、彼女の寿命はあと数日も保たないだろう。
「よし!」
カルマは覚悟を決めたように呟くと、ほっそりとしたアスタルテのむき出しの首筋に牙を突き立てた。そして彼女の体液を吸い上げる。
長い長い沈黙の後、カルマはそっと唇を離した。
「神城先輩はいったい、何をやってるんですか?」
冷たい口調で雪菜は訊いてくる。
その言葉に若干の悪寒を感じるが無視しつつ答える。
「ああ、この子を俺の支配下に置こうと思って。ほら、魔力の仕送りというか、なんつうか...この子を俺の眷属にしちゃえばこの子の寿命も延びるだろ?」
「つまり彼女を救うために、血を吸った、ということですか。その前に神城先輩は吸血鬼だったんですか」
「ああ、そうだぞ。てゆうか古城から聞いてないのか?」
「どういうことですか、先輩」
「いやぁ、言う暇がなかったというか」
絃神島の最深部。海面下二百二十メートルの最下層に、古城に雪菜が詰め寄っている間にカルマはアスタルテを担ぎ地上へと歩いていった。
長い文をかけましたが、疲れたよ。