風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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マチルダの言葉遣いこんなだよな?


第13話

ブロワ侯爵率いる護衛艦隊に合流したエクトル卿は、ブロワ侯爵から「勝手に前線行くな!」と極めて真っ当な説教を受けた。

 

ブロワ侯爵には子どもの頃から頭の上がらないエクトル卿である。叱られるがままであった。

 

そして説教が終わった後、エクトル卿は人を探していた。

 

なんということはない。重傷を負ったワルド子爵を抱えてマチルダも自分と共に護衛艦隊に戻ってきたという話を聞いたからだ。

 

フネの上であるならクロムウェル、ひいてはガリアの目を気にすることもなくマチルダと旧交を温められると考えたからだ。

 

旗艦の個室で座って待っていると、部下に連れられてマチルダが入ってきた。

 

マチルダの顔にはわかりやすく困惑の色が浮かんでいる。

 

いきなり護国卿閣下に呼ばれているといわれたらそうなるのも自明だが。

 

「久しぶりだな。マチルダ」

 

「……どこかでお会いことがありました?」

 

杖に手をやり、警戒するマチルダ。

 

ひょっとして”土くれ”のフーケとして暴れていた時に、護国卿やそのお仲間を獲物にでもしたのかと思ったからだ。

 

エクトル卿は苦笑しながら自分の仮面を外した。

 

エクトル卿の素顔を見て、マチルダは驚愕した。

 

「エドムンド殿下ッ!?」

 

予想外すぎる展開に”フェイス・チェンジ”かなにかでからかっているのではと疑う。

 

が、そんなことをして誰に何のメリットがあるのかと考え、本人だと判断した。

 

エクトル卿は仮面をつけ直した。

 

「生きておられたのですか」

 

「ああ、なんとかな。お前こそ生きているとは思わなかったぞ」

 

そう返されて苦笑するマチルダ。

 

「幸運に恵まれてね。ところで殿下はなぜ仮面など?」

 

首を傾げるマチルダ。

 

仮面など被らずとも別によいではないかと思ったからだ。

 

「レコン・キスタの大義のひとつに”無能な王家の打倒”というものがある。

そんな勢力の中に俺がいては、なにかと困るとクロムウェルに言われてな」

 

そう言われてマチルダは頷いたものの、内心疑問を抱いていた。

 

別にレコン・キスタに参加せずとも、エドムンドなら国を割る一大勢力を築くことなど容易いではないか。

 

「だからあまり俺の名前で俺を呼ぶな。誰かに聞かれたら口封じとかで面倒だ」

 

「クロムウェルはエクトル卿が貴方って知っているのかい?」

 

「……ああ、知っている。あれは父の領地にいた司教だからな。

よく会っていたから、黙っていてもなにかの拍子でバレる可能性があるからこちらから教えた」

 

ことも無げにエクトル卿は言ったが、かなり危ない橋を渡っている。

 

下手したら”無能な王家の一員”として彼は殺されかねないではないか。

 

「それにしても驚いたぞ。

あのサウスゴータ侯爵家の令嬢が、たった4年で貴族専門で有名な盗賊になっておろうとは」

 

「えぇ、私も4年前では、想像すらしてなかったさ」

 

「……しかし、なんで貴族専門の盗賊なんぞしていたのだ?

お前ほどの腕なら、欲しがる貴族や商人はごまんといるであろうに」

 

エクトル卿の問いにマチルダはどう答えるか戸惑った。

 

モード大公の派閥がジェームズに粛清された原因であり、マチルダにとっては妹のような存在が密接に関係しているからだ。

 

「貴族が憎たらしかったからね」

 

考えた結果、マチルダの中で小さくない理由のひとつをあげた。

 

「そうか。まぁ、わからんでもない。

しかしどうせならアルビオンで王党派貴族相手にやってくれなかったものか」

 

「それだと私の顔がバレちまうよ」

 

苦笑しながらマチルダは言った。

 

嘘ではない。

 

自分が生きていることが知れば、泥縄式で彼女も生存していることが王家の知るところとなりかねかったからだ。

 

そして王家があの子の生存を知れば、今度こそ確実に殺しに来る……。

 

「お前ほどの腕なら別に顔がバレても大丈夫だと思うがな。

いや、貴族専門の盗賊なんて義賊ぶるより人気がでたんじゃないか?

まぁそれは置いておくとしても、お前はなんで今更、”レコン・キスタ”に加わった?」

 

「聞いてないのかい?ワルド子爵にほぼ無理やりに参加させられたんだ」

 

「ほう。なら護国卿の権限でお前を俺の直属にしてやろうか。

お前も自分を脅した相手の部下をするなど嫌であろう?」

 

エクトル卿の提案にマチルダは沈黙した。

 

確かにワルド子爵にほぼ強制的にレコン・キスタに参加させられる羽目になったのであるが、チェルノボーグに彼が来なければトリステインの貴族達によって自分は処刑されていたであろう。

 

それにワルド子爵本人にそこまで悪感情を持っていないマチルダである。

 

やや呆れたくなるようなところがあるが、人格的ひどいところもないわけであるし。

 

上司としてそれなりに認めてもいるのである。

 

「悪いけど遠慮させてもらうよ」

 

総合すれば、別にいまのままでも問題ない。

 

それに……すこしワルドという人物に興味を持ってもいる。

 

だから自分から離れる必要はないとマチルダは判断した。

 

「そうか」

 

マチルダの答えにエクトル卿は特に反応を示さなかった。

 

もとより旧交を温めるついでの勧誘であり、無理やり仲間にしようと思っていたわけでない。

 

「しかし、随分と言葉使いが悪くなったな」

 

旧交を暖めるついでに気になったいたことを指摘する。

 

実際、エクトル卿の記憶の中のマチルダと目の前のマチルダは雰囲気も違いすぎる。

 

「4年もありましたからね。それでも演技をすればできないこともないですよ」

 

悪戯っぽい笑顔を浮かべて、貴族時代の言葉使いをするマチルダ。

 

それを見て苦笑するエクトル卿。

 

「まったく女というのは天性の役者だな。クラリッサを思い出す」

 

クラリッサの名を聞いて、マチルダはバツの悪そうな顔をする。

 

「あの、ひょっとしてクラリッサ様も……」

 

「いや、彼女はジェームズ王の一派に殺されたよ。この目で確認した。

多くの者達の首と一緒に彼女の首も広間に晒されていたのをよく覚えている」

 

仮面で素顔は隠れていて表情を伺えない。

 

声だけ聞けばなんともなさそうだが、実は怒りを必死で抑えているのかもしれず、マチルダはどうしたものかと悩んだ。

 

「悪い。辛気臭い話をしたな。昔のことを話せる奴などブロワ侯爵とヨハネだけなのでな」

 

「ヨハネ……、昔あなたと一緒にいつもいた専属騎士の名前だよね?」

 

レコン・キスタにいるなんて聞いたことないけどとマチルダは問う。

 

「ああ、あいつは俺の別命で動いてもらっている。

なにせ俺はクロムウェルを完全に信用してるわけではないのでな」

 

「確かに胡散臭い奴さね」

 

クロムウェルが”虚無”で人を蘇らせるところを目撃するまで、テンションが高いだけのおっさんと認識していたマチルダである。

 

そんな人物が紛いなりにも貴族議会、ひいては国家を纏めているのは意外といえば意外だ。

 

「胡散臭いが実力はある。故に利用するというわけだ」

 

そう言う彼に対し、マチルダはふと疑問を抱いた。

 

彼はクロムウェルに実力があるから利用するというが、何のために利用するというのか?

 

復讐は既に果たされている以上、かつての地位の回復や一族一門の名誉回復といったところだろうか。

 

それとも……

 

そこまで考えて、マチルダはため息をついた。

 

こんな駆け引きが嫌で、アルビオンが内乱状態でも知らん顔をして盗賊をしていたのに、今更国家や王族なんてごたいそうなものの行末を案じるなんて筋違いも甚だしい。

 

自分の周りとウエストウッドの孤児院のことだけ考えていればそれでよいのだ。

 

 

 

同時刻、既にロンディニウムの王宮にもタルブ敗戦の報が伝わっていた。

 

「まさか、まさか。トリステインの阿呆どもに我が軍が蹴散らされるとは……」

 

その報を聞いたクロムウェルの顔にはいつものふてぶてしいほどの余裕さはなく、自室で不安と怯えに彩られた表情をしていた。

 

自分の指に嵌っている指輪を見つめる。

 

これが”虚無”であり、この力を使えば無能な王家を蹴散らせる。そうあの女は言ったのではなかったか。

 

本来、クロムウェルには一国を導くだけの器量などない。

 

この男の取り柄と言えば、並外れたの演技力と記憶力のみである。

 

どちらも得難い才能ではあるが、それだけで一国の指導者になれるわけがない。

 

にもかかわらず、王権を排して彼がアルビオンの指導者となりおおせたのはガリア、というよりは秘書官を介したジョゼフ個人の強力な援助があってのことである。

 

「随分と青い顔をしてらっしゃるわね」

 

自らの指輪を眺めることで現実逃避を図っていたクロムウェルに、自分の秘書官――本当の意味でアルビオンを運営支配しているシェフィールドの声が聞こえた。

 

「ミス・シェフィールド!我が軍はたかが2千の軍に敗北を喫したそうじゃないかね!

トリステインがごとき弱国相手話にならんと言ったのは君だろう!?」

 

「落ち着いてください。皇帝閣下」

 

「落ち着け?どうやって落ち着けというのだね!!?」

 

「落ち着けと言っているでしょう。司教?」

 

シェフィールドの瞳に冷たいものを浮かべ、皇帝になる前の役職で呼ぶ。

 

それを見て、クロムウェルは震えあがり、黙り込んだ。

 

「トリステインの王女を少し舐めていたようだわ。ジョゼフさまの推測では、どうやら王家に伝わる始祖の秘宝を用いて”虚無”の秘密を暴いたらしいわ」

 

「始祖の秘宝?」

 

そういえばとクロムウェルは、レコン・キスタが数か月前にロンディニウムを制圧した時に手に入れたアルビオン王家に伝わる始祖の秘宝のことを思い出した。

 

見た感じ、ぼろくて壊れたオルゴールと言った感じであり、宗教的・権威的意味合い以上の価値を持たないものだと思った。

 

こんなものを寄越せというジョゼフ王の真意を理解できなかったが、どうやらそれが虚無に繋がる代物であるらしい。

 

「あなたのしている”アンドバリの指輪”と違って、始祖の秘宝は零番目の系統使いのメイジを目覚めさせる鍵のようなもの。トリステインは虚無のメイジを手に入れたと考えていいわ」

 

シェフィールドの説明にクロムウェルは震える。

 

ということはなんだ。自分は神話に語られる伝説の力の持ち主を敵にしてしまったという訳ではないか!!

 

どうしようもない絶望感がクロムウェルを襲った。

 

「だけどそんなに心配する必要はないわ」

 

「心配する必要がない!?始祖のみが扱えたという聖なる力を敵にして、心配するなと!?」

 

「私の後ろに誰がいるのか。あなたのおめでたい頭はもう忘れたの?」

 

シェフィールドの問いに、クロムウェルは沈黙した。

 

そうだ。たかが一介の司教である自分に”虚無のマジック・アイテム”を与え、その恐ろしい頭脳で――クロムウェルからすればあの御人は悪魔の親戚かなにかだとしか思えない――自分にアルビオンの王位をくれたジョゼフ王がついているのだ。

 

身近でその凄まじさを実感していただけあって、クロムウェルは伝説上の存在にすぎない”虚無の担い手”より、悪魔のようなジョゼフ王のほうがおそろしいし、敵にまわしたくなかった。

 

だいたい、今さらジョゼフ王と敵対しようものなら、自分は即座に殺されて死体を操られるだけだ。

 

「あなたはいつも通り、私たちの言うことを聞けばいいのよ」

 

シェフィールドは慈悲深い表情を浮かべ、優しい声でそう言った。

 

なのにクロムウェルはそれがとても恐ろしいものに見え、後ずさった。




クロムウェルってジョゼフの事知ってたよね?
ガリア艦隊きたときに明らかにジョゼフのこと言ってたし。

あとシェフィールドの名前が安定しない。
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