風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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ジョゼフさんノリノリで文字数が……


何故か唐突に始まる宴会

アルビオン王国の王宮、ハヴィランド宮殿の会議室(ホワイトホール)

 

ここで此度の内乱で発生した諸問題を一掃する……、アルビオンからそう言った名目で直接的にしろ間接的にしろ関わった五大主要国の代表たちが招待され、会議室(ホワイトホール)に集まっていた。

 

だが、叛徒から国を取り戻したアルビオン王家、そしてその支援を行ったガリア王国はともかく、連合軍という敗軍を率いた帝政ゲルマニアやトリステイン王国にとっては少々不本意なものであったかもしれない。

 

無論、戦前から連合軍にもロンディニウムで各国の代表を集めて諸国会議を開く予定はあった。だがそれは敵軍を粉砕し、”レコン・キスタ”に対する完全なる勝利を得た上での広大な空中大陸をどれだけ自国のものとするかという交渉の場であったはずであり、そこには連合軍の敗走やアルビオンの王権復活やガリア参戦などといった要素は存在しないはずであったのだ。

 

これでは横からジェームズとガリアに全部持っていかれたようなものではないかとゲルマニア皇帝アルブレヒト三世は報告を受けた時にそう言って激怒したものだった。

 

「さて、ことの経緯を教えて貰わねば気がすまんな」

 

そのアルブレヒト三世も既に怒りを鎮め、冷静な思考で会場を見渡した。

 

ロマリアの大使は無視してもよいだろう。連合軍に僅かな義勇兵を出したに過ぎない祈り屋どもはこの会議における発言力など皆無である。正直、欠席しても問題ないだろうにわざわざ出席してきたことが理解しかねた。面子の問題であろうか?

 

その隣にいるのは”叛徒どもの全権大使”という名目で出席している白い髭が立派なジョン・ホーキンス将軍だ。本当なら貴族議員という地位にいた者で唯一生存してるストラフォード伯が来るべきなのだろうが、なにかと理屈をつけてホーキンス将軍に全権をゆだねてサウスゴータに籠っているらしい。ホーキンス将軍もとんだ貧乏くじを引かされたものだ。

 

そしてその隣にいるのがトリステインのアンリエッタだ。上手くいけばこの美しい女とトリステインの大地、そして始祖の血統を手にはいる筈であったのに……。いや、それを差し引いても十分麗しい。ゲルマニアの女であれば、たとえ平民であろうとも間違いなく自分の側室にしている自信がある。そんな女が気丈に自分を睨みつけていたのに気付き、笑みを浮かべた。

 

「ごきげんよう。アンリエッタ姫殿下」

「恐れながら、今では女王でございますわ。閣下」

 

突き放すようなアンリエッタの口調に思わずアルブレヒト三世は鼻を鳴らした。確かにアンリエッタのいうことは正論であるが、自分の半分も生きていない小国の君主相手に”女王陛下”などという自分と同格以上の尊称で呼ばねばならぬのはアルブレヒト三世にとって耐えがたい屈辱であった。

 

その光景を見てロマリアの大使がうっすらと嘲笑の笑みを浮かべているのをアルブレヒト三世が認識すると屈辱で身が震えるようであった。

 

「アルビオン皇太甥殿下!」

 

アルブレヒト三世が屈辱で顔を僅かに赤くしていると、呼び出しの衛士が新たな入場者の名を告げた。

 

凛々しさと荒々しさ、その2つが複雑に絡み合った印象を相手に与える二十半ばの青年が入室してきた。

 

「お待たせしました。

私は次期王位継承者にしてモード大公が三子、ステュアート伯エドムンド・ペンドラゴンです。

伯父王ジェームズ一世は療養中であられるため、本交渉は私がお相手を務めさせていただきます」

 

そう言ってエドムンドはすでに座っている代表達に軽く頭を下げて見せた。

 

自分にも礼儀を払ってきたエドムンドに対し、アルブレヒト三世は好意的な感情を抱いた。

 

「ウェールズ皇太子殿下に似て立派な方だ。余の戴冠式の際にも礼儀正しくあられた」

 

一瞬だけアンリエッタに視線を向けて

 

「どこぞの小娘と違ってな」

 

あまりにも無礼な口ぶりに抗議しようとしたアンリエッタであったが、エドムンドの吐き捨てるような言葉に機先を制された。

 

「あのような恥知らずと同じにされてはたまらぬ。撤回してくれ」

 

意外な言葉にホーキンス将軍を除く他の代表達も驚いた。

 

そして思い人であるウェールズが侮辱されたのだと理解したアンリエッタは内心で激しい怒りを感じた。

 

「なぜです? ウェールズ殿下は王族の誇りに従ってニューカッスルで討ち死にされたのでしょう?」

 

その怒りを表情に出さないよう努力して、毅然とした態度で問いかけた。

 

「そうか。おぬしは知らぬのだな……」

 

対するエドムンドは哀れむような目でアンリエッタを見た。

 

アンリエッタとウェールズが相思相愛の関係であったことをエドムンドは知っていたので、アンリエッタの前でウェールズのことを貶めるようと決めた。

 

本音を言うとウェールズはワルドやクロムウェルの餌食になったので、ウェールズに対して4年前の復讐ができてないことが少々心残りだったのだ。

 

というわけで彼の恋人であったアンリエッタにその分を背負ってもらうとしよう。

 

「ウェールズめは己の命が惜しいばかりに叛徒の首魁であるクロムウェルにみっともなく慈悲を乞うて神聖皇帝閣下の親衛隊なる部隊の一員となったそうだ」

 

「そんなことはありえません!!」

 

アンリエッタは内心の怒りを表面に爆発させるように叫んだ。

 

それに対してエドムンドはわずかに唇の端を歪めた。

 

「ありえぬとは申されるが、これは事実だ。叛徒を降伏させた際にストラフォード伯めが自慢げに語ってくれたわ!王家の誇りを捨て、叛逆者と呼んだ我らに忠誠を誓って慈悲を乞う姿は実に見ものであったとな。ウェールズの恥知らずめが!!」

 

「恥知らずの裏切り者の言葉を殿下は信用しますの?」

 

「まさか。ストラフォード伯だけなら信用などせぬさ」

 

エドムンドの口ぶりにアンリエッタはことの深刻さを悟った。

 

「……ということは、ほかに証言している方もいらっしゃいますの?」

 

「ああ。叛徒の中で高い地位にいた者なら誰も同じ証言をする」

 

「……ホーキンス将軍。ウェールズ殿下が叛徒に与していたのはほんとうなのですか?」

 

すがるような目で問いかけるアンリエッタ。

 

その様子を見てホーキンスはいたたまれない気持ちになったが、はっきりと言った。

 

「ええ。ウェールズ殿下がクロムウェルに跪いている姿をはっきりと見ました」

 

水の国の女王の顔色が鮮やかに顔面蒼白になったのが見えたが、会議の場でクロムウェルがウェールズとアンリエッタが恋仲であると暴露していたことを言わないだけ有り難く思ってもらいたいとホーキンスは内心ごちた。

 

そんなふうにホーキンスから思われていたアンリエッタは事態の真相が理解できた。

 

なるほど確かにウェールズ様がクロムウェルに忠誠を誓っているように見えたことだろう。

 

でもそれは違う。水の精霊から”アンドバリの指輪”を奪ったクロムウェルの仕業なのだ。

 

ウェールズ様は”アンドバリの指輪”で操られてそんなことをさせられていただけなのだ。

 

だが、そのことを証明する手段がアンリエッタの手元にはない。

 

ここでトリステインの君主としてウェールズの潔白を訴えることはできるかもしれないが、ここまで状況証拠が固まっていては諸国の者たちがどちらの主張を受け入れるかは明白で、君主として国を背負う意味を自覚したアンリエッタとしては生きているならともかく、死んだ恋人の名誉のために国を傾けるような真似はできない。

 

アンリエッタはあまりにも予想外な事態に目の前が真っ暗になったように思えた。

 

「そうして無様に生き残ったウェールズだったがクロムウェルから密命を帯びて行動していたそうだが、その密命遂行中に死んだらしい。アルビオン王家の恥さらしにふさわしい死に方をしおったというわけだ」

 

意気消沈したアンリエッタを見て大いに溜飲を下したエドムンドは嘲笑するようにそう言った。

 

「いや、ウェールズ殿下がよもやそのような……

ウェールズ殿下に似ているなどと言って失礼した。仰る通り発言を撤回しよう」

 

思わぬ地雷を踏み抜いたことを自覚したアルブレヒト三世は恐縮したように謝罪した。

 

「別に構いませぬ。叛徒に与してからのウェールズの活動は裏方に徹していたようなのであまり広まっておりません。知らず、以前の聡明な皇太子像を前提に話を進めてしまっても致し方ないことと言えます」

 

エドムンドの気にしていないというアピールに、アルブレヒト三世は救われた気持ちになった。

 

「もっとも、交渉では容赦する気はありませぬので」

 

不敵な笑みを浮かべるエドムンドに、好感を持って同じような笑みを浮かべるアルブレヒト三世。

 

「では諸国会議をはじめ……と、まだ来ていない方がおられますな」

 

「ええ。奴が遅いですな」

 

今すぐにでも交渉で戦おうか!という闘志を燃やしていた二人は気勢が削がれたような気持ちになった。

 

「昨日の夜、舞踏会で我が国の令嬢相手に踊りまくっておりましたからな。疲れておるのかもしれませぬ」

 

「自分の体力管理すらできないのですか? 噂に勝る無能ですな」

 

冗談を本気で受け止めるアルブレヒト三世の反応に、エドムンドはゲルマニアの皇帝もジョゼフを無能だと思っているのかと少し驚いた。

 

それをどう受け取ったのか、アルブレヒト三世はジョゼフの悪評を語り始めた。

 

「ガリアもその国の格に似合わぬ王を戴いたものですな。ご存知ですかな? あやつは優秀な弟を殺して玉座を奪ったのです。恥知らず、とはあのような輩を指して言うのでしょうなあ」

 

お前が言えるのかとエドムンドは本気で思った。

 

アルブレヒト三世は血みどろの権力闘争の果てにゲルマニアの帝冠を被った野心家で、その過程で数えきれぬ親族を犠牲にしてきたはずであった。

 

「そんな恥知らずな真似をして玉座を奪ったにもかかわらず、国政は全て大臣に丸投げして一人遊び(ソリティア)に興じているとか。玉座を奪ってまでやることではないでしょう。そんなことをしたいなら玉座を奪わずにどこかで隠居しておればよいのです……」

 

噂に引かれたのか、議場の外がにわかに騒がしくなった。

 

そして扉をバーンと開けて美貌の色男が入室してきた。

 

年齢から言えばアルブレヒト三世とさして年齢は変わらぬはずであるが、どう高く見積もっても三十過ぎにしか見えぬほど若々しく見えた。

 

「ガリア国王陛下!」

 

呼び出しの衛士が慌てて声をあげた。

 

ジョゼフは会議場を見渡して両手を挙げて叫んだ。

 

「これはこれは! お揃いではないか! このようにハルケギニアの王たちが一堂に会するなど、絶えてないことではないか! めでたい日だ! めでたい日である!」

 

ジョゼフはアルブレヒト三世の視線に気づき、近づいてその肩を叩いた。

 

「親愛なる皇帝閣下! 戴冠式には出席できずに失礼した! ご親族共々健康かね? 君がその冠を抱くために、城を与えてやった連中だよ!」

 

アルブレヒト三世は蒼白になった。城を与えてやった、とは痛烈な皮肉である。ジョゼフは政敵を塔に幽閉したアルブレヒト三世をからかって遊んでいるのだ。

 

「彼らは立派な鎖のついた頑丈な扉で守られているらしいな! その上貴方は食事にも気を遣っている。パン一枚、水一杯、身体を温める暖炉の薪さえ週に二本という話じゃないか! 健康のためだね? 贅沢は身体に悪いからな。優しい皇帝だな! 私も見習いたいものだ」

 

アルブレヒト三世は、うむ、おかげさまで、と、気後れした様子で呟く。ジョゼフはすぐに顔を背け、今度はアンリエッタの手をとった。

 

「おお! アンリエッタ姫、大きくなられた! 覚えておいでかな? 最後に会ったのは、確かラグドリアンで催された園遊会であったな! あの時も美しかったが、今ではハルケギニア中の花という花が、頭を垂れるであろうよ! 今はなにやら悲しげな表情を浮かべておるが、このように美しい女王を抱いて、トリステインは安泰だ!」

 

ウェールズの名誉が地に落ちた事実でやや混乱していたアンリエッタは情報処理の速度が追いつかなくてなにも言うことができず、とにかく頷いた。それを確認したジョゼフは今度はエドムンドに近づいた。

 

「久しいな! エドムンド殿下! 一族の名誉回復と王国再興が叶って何より! これでもう名を偲んだり、顔を仮面で隠したり、こそこそしたりせずにすむというわけだ! まったくもってめでたい話だ! おかげでこれ以上、アルビオンがお家騒動で荒れたりしない訳だからな! 白の国の未来に幸あれ!」

 

エクトル卿を名乗ってた頃を揶揄するジョゼフにエドムンドは表面上無表情を保ち、そうだなと小さく呟いた。

 

するとジョゼフは満足したのか、ロマリアの大使やホーキンスには目もくれず、当然というように上座に座り、まるでここは自分の王宮だと言わんばかりに足を組んで指を鳴らした。

 

すると召使や給仕が料理の盛られた盆を持って会議室(ホワイトホール)になだれ込んできた。

 

エドムンドやアンリエッタやアルブレヒト三世の前に次々に大量の料理が並べられていく。皿一枚の料理の値段で、庶民が一年は暮らせるであろう。

 

あまりな展開にこれは何の策戦だとアルブレヒト三世は横目でエドムンドの表情を伺うと、彼も愕然して戸惑っている姿が目に入った。

 

どうやらこれはジョゼフの独断であるらしいと判断し、無能なお調子者めと内心で激しく罵倒した。

 

「ガリアから取り寄せた料理とワインだ! お国のご馳走とは比べるべくもない見窄らしい物で恐縮だが、精々楽しんでくれたまえ!」

 

この料理が見窄らしい物であってたまるかと困惑しながらも内心で突っ込むエドムンド。

 

給仕がジョゼフ王の掲げた杯にワインを注ぐと、諸国の代表達の前にも杯が置かれ、血のように赤いワインで満たされていく。

 

「ハルケギニアの指導者諸君! ささやかだが、まずは祝いの宴を開こうではないか! 戦争は終わったのだ! 平和と、我らの健康に乾杯!」

 

杯を掲げて乾杯の音頭をとるジョゼフに、どうしたものかと困惑する諸国の代表たち。

 

「さあ、皆さん乾杯しようじゃありませんか!」

 

真っ先に礼儀を弁えぬジョゼフのシナリオに乗ったのはロマリアの大使であった。

 

ロマリアの大使の表情はわかりやすいほど食欲に歪んでいる。

 

ロマリアにとってなんの意味があるのか疑わしい会議だが教皇聖下の御命令とあって渋々諸国会議に出席していた彼にとって、滅多に食べられないようなご馳走を頂けるという思わぬ役得を逃す手など彼の思考には存在しなかった。

 

だが、あまりにもあからさまだったため、アルブレヒト三世が小さく聖職者としての禁欲が大使にはないらしいと呟いているのをエドムンドは聞き取った。

 

「ええい! 乾杯っ!」

 

しかしアルブレヒト三世にとっても並べられたご馳走は魅力的だったようで、自分の前に置かれた杯を手にとって中身のワインを一気に飲み干し、ご馳走にかぶりつき始めた。

 

ロマリアの大使を貶しておいてそれかとエドムンドは思ったが、たしかに目の前のご馳走には王族でもそうそう口にできぬ高級料理も並べられているのだ。ここが交渉の場でさえなければエドムンドもすぐさま食べたいほどだ。

 

ちらりとアンリエッタの方を見ると、エドムンドはため息を吐いた。あの女、いろいろありすぎて現実を処理しきれてない。

 

「ああ、我らの栄光に乾杯」

 

どこか諦めたような声でエドムンドは杯を掲げ、豪勢な料理を食べ始めた。

 

 

 

各国の代表たちが料理を食べ始めるとジョゼフは再び指を鳴らした。

 

すると今度は吟遊詩人や楽師が突撃してきて、最早会議室(ホワイトホール)は宴会の様相を呈してきた。

 

流石にツッコまざるをえなくなったエドムンドはジョゼフにどっからこんな人員集めたのかと問うと、ジョゼフは平然と国から全員連れてきたと答えた。

 

どうも彼らは今までジョゼフ一行に貸し与えていた宮殿内の屋敷にすし詰め状態にされていたらしい。

 

聞けば振る舞わられている料理もガリアから連れてきた一流コックにここで作らせたものだとか。

 

あまりに予測不能な返事にエドムンドが呆れ顔をするとジョゼフは悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべた。

 

数日前、エドムンドはジョゼフ一行に貸し与えた屋敷を吸血鬼達に監視させるか否かを悩んだが、できるかぎり吸血鬼を手駒にしている情報は隠したいと自国のメイドを世話役に送り込むだけにとどめた。

 

世話役のメイドたちがずっと屋敷に籠り切りでも、まさか殺しはせぬだろうと大目に見た。

 

その判断は現状を見るに正しかったのだろうとエドムンドは思った。そんな危険を犯して諸国会議でばか騒ぎする計画を練っているとかいう情報を掴んだ日には悔やんでも悔やみきれん。

 

(しかしこんなアホらしい真似をする意図はいったいどこにあるんだ……?)

 

必死に考えた結果、ガリアの豊かな国力の喧伝くらいしか思いつかないエドムンドであった。

 

そこそこ腹が膨れてこの国来た理由を思い出したアルブレヒト三世やなんとか心の整理がついて再起動を果たしたアンリエッタは交渉をはじめようとジョゼフに議題を振ったりしたが適当にはぐらかして、二言目には「乾杯!」と叫び、なぜかロマリアの大使がそれに追従するように「乾杯!」と言うのでどうしようもなかった。

 

今回の戦争においてもっとも貢献したのはアルビオン王党派とガリア王国であり、その結果として彼らの発言力が極めて大である以上、その王であるジョゼフを無視して交渉を進めたようもならあとでどんな口出しされるかわかったものではないため、2人はエドムンドにジョゼフを交渉させる気にするために協力を要請した。

 

しかしエドムンドとしては今後の交渉において、トリステインやゲルマニアに対するガリアの支援砲撃をジョゼフに確約されているので、下手にジョゼフの機嫌を損ねて約束が反故されてはたまったものではないと無視を決め込んだ。

 

その様子を見て元婚約者同士である2人の君主も諦めたのか、開き直ってジョゼフプロデュースの宴を愉しみ始めた。

 

そしてホーキンスはというと、壁にもたれて腕を組み、渋面を浮かべていた。

 

(最近は妙なことばかり起きる。まるで違う世界に入ってしまったかのようだ)

 

”レコン・キスタ”に参加して以来、彼の中の常識は悲鳴を上げ続ける運命を課せられたようだった。

 

謎の宴が始まってから三時間後、そんな混沌とした状況は唐突に終わりを告げた。

 

「眠い」

 

あくびを一発かまし、この騒ぎの元凶であるジョゼフはそう呟いた。

 

「いやはやあまり騒ぐものではないな。余は疲れた故、これで」

 

そう言って挨拶もそこそこにジョゼフは退室した。

 

それを見て吟遊詩人や楽師は雇い主が退席したのでこれでと退室する。

 

かくして静寂が会議室(ホワイトホール)を包んだ。

 

「我らを懐柔させて、本番は明日からということでしょうかな」

 

アルブレヒト三世は大きくなったお腹をさすりながら、退室した。

 

ロマリアの大使も思わぬ幸運を恵んでくれた神と始祖に感謝しながら退室する。

 

アンリエッタもそれに続こうとしたが、ホーキンスに呼び止められた。

 

「陛下……、陛下の軍は、たった一人の英雄によって救われたのです。ご存知ですか?」

 

「なんのことです?」

 

アンリエッタは不思議そうに首を傾げ、それを見てホーキンスは事情を悟った。

 

「なるほど。保身に走る将軍の気質はどこの国でも変わらぬようですな」

 

そう苦笑してホーキンスは七万の軍勢がたったひとりの平民の剣士に打ち破られたのだと語った。

 

「もし彼がいなければ、陛下と小官の立場は逆となっていたでしょう。英雄には名誉を持って報いてやっていただきたい」

 

そう言われてアンリエッタは内心で深い衝撃を受けた。

 

ホーキンスの語る平民の剣士に心当たりがあったのだ。

 

「ほう。しかしおぬしの軍は連合軍の殿軍一個中隊に翻弄されたのでは?」

 

会議室(ホワイトホール)でなぜか発生した宴会の後片付けの指示を出していたエドムンドが話の内容に興味を覚え、ホーキンスに問いかけた。

 

「いえ。確かに相手はひとりの剣士だけでした」

 

エドムンドは素直に驚いた。

 

なぜホーキンス率いる軍勢が連合軍を取り逃がしたのか知るため、ガリアの手から逃れた兵士たちを取り調べていた。

 

曰く、行軍中で油断しているところを敵軍の一個大隊の奇襲を受けた。

曰く、行軍中で油断しているところを敵軍の一個連隊の奇襲を受けた。

曰く、秘密裏に参戦していた皇帝直属近衛騎士隊に足止めされた。

曰く、秘密裏に参戦していた王室魔法衛士隊に足止めされた。

曰く、突如参戦してきたエルフに先遣部隊が蹂躙された。

 

こんな感じで兵士たちの証言はバラバラにもほどがあったので、敵の精鋭一個中隊による決死の奇襲を受けたあたりが一番現実的で妥当、そうエドムンドたちは推測していたのである。

 

せいぜい敵の殿軍の規模が多少大きくなる程度で大した情報などあるまいとエドムンドがホーキンスに確認を怠ったのもある意味仕方ないことと言えるだろう。

 

「剣士が単騎で七万の追撃を阻止するか。それが事実であればその剣士はまごうことなき英雄よ。それでどうなったのだ」

 

「はっ、小官の鼻先に剣を突きつけたところで力つきたようでして」

 

「そうか、惜しいことだな。それほどの腕ならば身分など気にせぬゲルマニアに仕官すればゆくゆくは騎士団長にでも抜擢され、相応の爵位と領地を賜る可能性もあっただろうに。いや、我が国に来ても私なら百人長、できれば千人長にゴリ押ししてでも取り立てる。一部の貴族らが文句を言うだろうが、それに勝る価値は十二分にあるであろうしな」

 

実際、そんな逸材がフリーなら即座に勧誘する。

 

「敵とはいえ、ちゃんと英雄にふさわしい弔いはしたのだろうな?」

 

「いえ、それが……」

 

ホーキンスが言葉を濁し、エドムンドとアンリエッタが怪訝な顔をする。

 

「サ……その人をどうしたのですか? ちゃんと答えてくださいまし」

 

「それがすごい速さで森の中へ消えて行きまして……」

 

「待て。おぬしの目の前で力尽きたとさっき言ったばかりであろう? なのに走れるほど体力が有り余っておったのか?」

 

「はい。小官のみるところ、彼は血を流しすぎて死にかけているように見えました。だというのに、彼は気を失ったまま立ち上がり、走り去ったのです。おそらくは彼の持っていた剣……”インテリジェンスソード”の効果によるものなのでしょうが、傷が治っていなかったとおもわれるので、あれでは生きているかどうか……」

 

「……さようか」

 

エドムンドはそう呟いて退室した。

 

そして廊下で待っていた警護のヨハネに話しかけた。

 

「口が堅く、それなりに腕が立ち、一般人に紛れ込める技能を持ったやつを2、3人見繕ってくれ。任せたい仕事がある」

 




エドムンド「おい待てジョゼフ。宴会をするとか聞いてない」
アンリエッタ「ウェールズ様の名誉が……」
アルブレヒト三世「交渉しに来たのは覚えているのだが、御馳走に目が……」
ジョゼフ「暇つぶしに諸国の王をからかってみた」
ホーキンス「常識とは崩壊していくものなのだと最近学びつつある」
ロマリアの大使「大使の任という貧乏籤引かされたと思ったけど、高級料理フルコースだった」
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