風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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原作の暴走シーンは偉大。再現できぬ。


第31話

諸国の代表たちが首都ロンディニウムで口論の火花を散らしている頃、その諸国会議の会場から百リーグ以上離れたシティオブサウスゴータで傭兵と思わしき身なりをした2人組が頭を抱えていた。

 

「殿下も無茶仰る」

 

年長であるレザレスが呟くと相方のデュライもそうだと首を縦に振った。

 

彼らは鉄騎隊(アイアンサイド)に所属する兵士であり、エドムンドから「七万の敵を食い止めた剣士の捜索」を命じられていた。

 

殿下直々の命令を受けることは2人とも名誉なことだと思ったのだが、内容に関しては不満を禁じ得なかった。

 

アルビオンは広大であり、容姿しかわからない剣士を探し出すのは容易な事ではない。

 

正攻法でいくならばサウスゴータ地方一帯を数百の人員を動員し、人海戦術で捜索するのが賢明。しかし既に終戦から数週間が経過していることを考えると徒労に終わる可能性が極めて高い。

 

なのに、たった2人で捜索してこいとエドムンド殿下は仰せである。

 

アルビオン王政府がいまのところあまり有名ではない剣士に注目していることを知られたくないと言うことと、確実に見つかるならまだしも見つからない可能性の方が高いのなら人員を割きたくないという2つの理由からである。

 

しかも前者の理由で2人はおおっぴらに命令の内容を明かしたりや、鉄騎隊(アイアンサイド)所属であることを明かすことさえ禁じられてしまっており、大々的に人員を募ることもできない。

 

いったいこれでどうやって探せというのか。2人がそう思ったのも無理はない事だろう。

 

先日、侍従武官長に就任したヨハネ・シュヴァリエ・ド・デヴルー曰く、

 

「殿下も見つけられたらいいなくらいのお考えだから、休暇みたいなものだと思ってくれ」

 

とのことなので別に探し出せなくても処罰は受けないだろうが、だからといって開き直ってサボれるほど彼らは不真面目ではなかった。

 

「俺はサウスゴータ地方にある都市を回って有力者に協力を願おうとおもう」

 

レザレスの方針にデュライは疑問を抱いた。

 

「命令内容は秘匿しなきゃだめなんだろ?」

 

「……ある事件の調査をしていて重要人物として浮かび上がった。だからそいつを必ず生かして捕らえてくれとでも言っておけばいい」

 

「理由をでっちあげて大丈夫ですか?」

 

「まるっきり嘘を言ってるわけでもないし、問題ない」

 

言い切るレザレスにデュライはなんとも言い難い感情を抱いた。

 

確かに七万の軍勢がが1人の剣士に足止めされたなど戦史上の大事件であろう。

 

「それでデュライ。お前には七万の軍勢が足止めされた周辺の村々を虱潰しにあたってくれ。運が良ければどこかで遭遇するだろう」

 

あまりに面倒な命令に苦虫を数匹噛み殺したような顔をするデュライ。

 

最低でも数十人単位でやることをひとりでしろと言われたら誰でもそんな顔をするだろう。

 

「……チェンジで」

 

「残念だがノーチェンジだ」

 

「そんなー」

 

うなだれるデュライ。

 

それを見てレザレスは彼の肩を数度叩くと歩き去って行った。

 

 

 

いつまでもうなだれているわけにはいかず、デュライは行動を開始した。

 

件の剣士が共和国軍の前に立ちはだかったのは、サスゴータ地方の南端付近であるらしくそこへと向かった。

 

「この辺りだな」

 

最近、血が流れた場所であるためかかすかな血の匂いを感じ、妙に気が張ってしまう。

 

そして小さな横道を発見し、そこへと足を進めた。

 

両脇に広がる生い茂った森が陽光を遮り、視界が悪い。

 

「この森のどこかで死体になって野ざらし状態なら探すのは無理だな」

 

そんなふうにぽつりと呟き、デュライは捜索している剣士のことを考えた。

 

エドムンド殿下によると特徴からしてサウスゴータで自分と互角に戦った剣士と同一人物の可能性もあるという。

 

彼が仕えるエドムンド殿下は凄腕のメイジであるだけに留まらず、凄腕の剣士でもあった。

 

どれくらい凄腕かというと剣一本だけで並のメイジ数人を同時に相手取って勝利できるほど。

 

そのエドムンド殿下の本気と互角であったのだから、その剣士も相当な達人であるのだろう。

 

あの人と並び立てる凄腕の剣士がいるというのは少々信じがたいが。

 

しかしだからこそ、七万の軍勢を食い止めたというのも信憑性が高まるというものだ。

 

だが……

 

「なんでそんなやつが今まで無名だったんだ?」

 

魔法が使えぬとはいえ、正面からメイジとやりあえるメイジ殺しはそれだけで希少な存在だ。

 

だからというべきか、そういった者達は酒場とかでよく聞く噂になるものだが黒髪黒目の剣士など聞いた覚えが全くない。

 

となると自分と同じような経緯を持ってる人なのか……

 

「っと。村に出たか」

 

視界が開け、小さな村が目の前に広がっていた。

 

とりあえず一番大きい家の扉をノックする。

 

こういった小さな社会でも一番の偉いさんが一番大きい場所に住んでいることが多いのだから、村長の家だろうと考えてのことである。

 

「はい。どちら様ですか?」

 

(……女神だ)

 

美の女神が降臨した。

 

肌白く、長い金髪に、整った貌、そして少女らしい細い体。その全てに不釣り合いなほど自己主張が激しい巨大な胸。

 

その大きさが実に絶妙だ。

 

もしこれ以上大きかったらバランスが崩れて逆に醜悪に見えるだろうと確信できるほどギリギリの線を攻めに行っている。

 

デュライはどこぞのつまらん聖職者に聞かされたヴァルハラ(死後の世界)で死者を祝福する美しい女神の話を思い出した。

 

目の前の少女こそがその女神に違いない。

 

ではなぜ自分は死後の世界であるヴァルハラにいるのか?

 

俺はいったいいつの間に死んでしまったのだ?

 

いや、そんなことはどうでもいい。

 

どうでもよくはないが、目の前の女神に比べれば瑣末な問題である。

 

「あ、あのっ! どうしたんですか?」

 

美の女神とデュライに認識されてしまっている少女は扉を開いた途端、自分を凝視して固まってしまっている少年の姿を見て、ある勘違いをして思わず被っている帽子を確かめたが、ちゃんと自分の耳が隠れていることを確かめると、状況が全く理解できずにやや混乱してながら問いかけた。

 

それを見てデュライは

 

(涙目になってる。かわいい)

 

いや、そんなこと気にしている場合ではないだろうとデュライは首をふる。

 

女神の表情を見るに彼女も困っているらしい。しかしなぜ困っているのか皆目見当がつかない。

 

だが人智を超越した領域におられる女神の困りごとなどを抱えているなど嫌な予感しかしない。

 

大抵の物語ではこの後、適当な人間にその困りごとを解決させようとするのだが、デュライはごめんこうむりたい。古来より神のような存在より授かる使命など過酷と相場が決まっているのだ。

 

だから気づかないふりを続け……

 

「テファ姉ちゃんを変な目で見るなっ!」

 

その声と同時に背後から衝撃が襲った。

 

「な、なんだ?!」

 

勢いのまま倒れかけたが、デュライは物心ついた頃より戦場で生きてきた歴戦の戦士である。

 

すぐに体勢を立て直し、突っ込んできたものを掴みあげる。

 

「この! 離せっ!」

 

「ジム、いきなりお客さんに体当たりするなんて駄目じゃない!」

 

「でもこいつ、お姉ちゃんのこと変な目で見てたじゃん!!」

 

その喧騒を聞いて、デュライは正気に戻った。

 

先ほどの衝撃の際、自分の痛覚が正常に機能したことを考えると自分はまだヴァルハラに旅だってがいないらしい。

 

では、目の前の女神は何者か?

 

こんなに綺麗な肌をしているから農民みたいな労働をしているような人ではないだろう。

 

そしてこの辺鄙な村で一番大きい建物に住んでることを考慮すると……

 

(村長の愛娘、といったとこか?)

 

そこまで思考を進めた時、デュライは今までの対応を思い返した。

 

……問いかけられてずっと無視とか無礼にも程がある。

 

現状を正しく認識したデュライは掴みあげていたジムと呼ばれた子どもから手を放すと胸がでかい少女に向き直った。

 

「あまりに綺麗な人が出てきたので少し自失していた。申し訳ない」

 

「き、きれいって……」

 

顔を赤らめる少女。

 

事実とはいえ、こんなありきたりな世辞で顔を赤らめるとは箱入り娘みたいだ。

 

「俺は国の者で、デュライという。

公用でこの村の村長と話がしたいのだが、村長はいるだろうか?」

 

すると目の前の少女は困った顔をして

 

「えっと、わたしが村長……ってことになるのかな?」

 

「……は?」

 

あまりにも予想外な言葉に、デュライは困惑した。

 

「ちょ! ちょっと待ってください!!

君、まだ10代だよね?しかも女性だよね?なのに村長!?

10代で女性の村長なんかいるわけがないっ! そうだろ??!」

 

「ひっ!」

 

「お姉ちゃんを脅かすな!」

 

 

 

 

ギャンギャン騒ぐジムを家から出し、奥で詳しい話を聞かされた。

 

村長の少女ティファニア曰く、この村は数年前に戦争で孤児になった子ども達を集めてつくられた孤児院とのこと。

 

モード大公の一族粛清以来、王家へ不信から一部貴族が暴発するような事態が頻発したり、”レコン・キスタ”が台頭してきてから昨年の春まで国を二分する内乱状態であったし、年の変わり目には対外戦争があったりとアルビオンは戦争続きであったのだから、その過程で発生した孤児の数は一個連隊や二個連隊は編成できる数になるだろう。

 

それを哀れんだ者がそんな孤児達を集めて開拓した村で孤児院を運営していても不思議でもなんでもないが……

 

「……それだと孤児院を運営するお金を出している人がいるだろう。その人はどうしたんだ?」

 

「その人はいつも出稼ぎに行っていて、ほとんど村には帰ってこないの。だから一番年長のわたしがみんなの面倒を見ているんだけど……」

 

寂しそうな表情をするティファニア。

 

デュライが見る限り、純粋そうな彼女が嘘を吐いているようには見えない。

 

もしこれが演技だというのなら、デュライは自分の人を見る目のなさに絶望した挙句、深刻な女性不信に陥るだろう。

 

「他に大人の人はいないのか?」

 

「うん」

 

「……」

 

デュライは呆れていた。そのお金を出している人の杜撰さに。

 

孤児だけの村をつくるなど危険極まる行為だ。

 

アルビオンは戦続き。要するに治安がものすごく悪いのだ。

 

そんなご時世に子どもだけの村などつくって、野盗の類に襲われたらどう責任をとるつもりなのだろう。

 

いや、仮に今が平和の時代でもオーク鬼を筆頭に野蛮な亜人の群れに襲われる可能性は常につきまとう。

 

その程度の危険も考えられないとは、よほどお気楽な頭をしているに違いない。

 

数年もこの村が襲われずにすんだというのは神がかってるほどに奇跡的なことであるのだろうから。

 

「そうか、じゃあ君が村長なんだな。じゃあ君に用件を話そう」

 

とはいえ、この村の行く末をいちいち考慮してやらねばならん必要をデュライは感じなかったので、任務を優先することにした。

 

「人を探している。黒い髪で青い変な服、170サントほどの身長、言葉をしゃべるヘンテコな剣を持った剣士なんだが、心当たりはないだろうか?」

 

そういうとティファニアは心当たりがあるかのか、思案げに目を伏せた。

 

……まさかと思うが見つけちゃった?




>10代で女性の村長なんかいるわけがない
( ^ω^ )つ最近アニメ化した某作の覇王炎莉

>数年もこの村が襲われずにすんだというのは神がかってるほどに奇跡的なことであるのだろう
ある意味、的中。

>……まさかと思うが見つけちゃった?
見つかると思ってなかったのに初っ端でこんな対応されたら困惑するよねw
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