デュライはティファニアに案内されてその剣士に会いに行った。
「……」
するとそこには約20歳前後の女性と黒髪の少年がいた。
互いの手には木剣が握られている。どうやら剣の稽古をしていたようだ。
「そっちのやつは誰だ?」
女性に問われ、ティファニアはデュライに視線を向ける。
「俺の名はデュライ、傭兵だ。そっちは? 見たところ同業者みたいだが」
「トリステイン王国銃士隊隊長アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ」
その名乗りにデュライは目を見開いた。
昨年のワルド子爵の”レコン・キスタ”参加、夏に行われたトリステイン女王誘拐事件によって、トリステイン王室直属の近衛隊である3つの魔法衛士隊の内、グリフォン隊は隊長の裏切りによって機能不全に陥り、ヒポグリフ隊はウェールズ率いる部隊によって全滅し、残っている近衛隊がマンティコア隊だけという有様になっていた。
そこで急遽新設されたのが剣と銃で武装した平民の女性で編成された銃士隊である。
いかにメイジではない平民の女性だけの部隊とはいえ、隊長には”シュヴァリエ”の爵位が授けられたと聞くし、近衛隊隊長は軍の階級の最上位、元帥に匹敵する”格”がある地位である。
「……失礼ですが、なぜそんなお偉い人物がこんな辺境に?」
それだけにこんな疑問が湧き上がるのは当然だろう。
「陛下からの勅命でな」
「……ほう。で、それでこんな辺鄙な村になんのようで?」
「傭兵風情にいちいち説明する必要があるとは思えん。それにそっちこそなんのようだ? 村を襲いに来たのでもなければ、傭兵がこんな場所に用があるとは思えんが」
つい最近傭兵くずれの盗賊に村を襲われたことを思い出したのかティファニアの体が震えた。
「残念ながらそうじゃない。ここにきたのは仕事だ。雇い主から人探しを頼まれてな」
そう言ってデュライは視線を黒髪の少年へと向けた。
「雇い主が探している人物は、黒髪黒目で肌がやや浅黒く、年の頃は10代後半と思しき少年剣士なのだが……」
そう言われると黒髪の少年は驚いた。
「俺ですか?!」
「少なくとも今言った条件に全て合致してはいるな。とりあえず連れて行くか」
両腕を組んでニヤニヤとしたデュライは笑みを浮かべる。
それを見てアニエスが慌てて口を挟む。
「待て! こいつは私の保護下にある。それを勝手に連れて行くとなればトリステインに刃向かうことになるぞ。それでもよいのか?」
「別にいいんじゃねぇかな?」
「なっ!」
「言っておくが、俺の雇い主はアルビオンのさる貴き御方だ。そしてある事件の関係者として黒髪の少年を探しているらしい。なので俺としては黙ってついてきてほしい」
デュライのある言葉にアニエスはひっかかりを覚えた。
「ある事件とはなんだ」
「俺が知っていたとして正直にいうと思ってんのか。上のややこしい事情なんか口止めされるに決まってんだろ」
嘘は言っていない。
エドムンドが黒髪の剣士に興味を持っていることを知られるのは避けるように命じられているのだ。
「そうか、では貴様の雇い主は誰だ?」
「それもいえん」
目的を隠したいのに他国の近衛に対してエドムンドの名を出すのは憚られた。
「でも俺、そんなややこしそうな事件に関わってませんよ」
黒髪の少年の言葉にデュライは頭を掻いた。
「そうは言ってもな。小僧」
「才人です。平賀才人」
「……サイト? 聞いたことがない家名だがお前貴族なのか?」
「あ、名前はサイトで苗字はヒラガです。東方じゃこういう名前が普通なんで。家名も持ってて当たり前だし」
本当は東方ではなく異世界なのだが、説明しても理解されないだろうし、とりあえず『東方の生まれである』ことで通しているサイトである。
「東方っていうと、あの高慢ちきなエルフが治める砂漠を越えてきたのか」
デュライの言葉にティファニアは悲しそうな顔をし、サイトとアニエスは複雑そうな顔をした。
それを見てデュライは不思議に思ったものの、表情には出さなかった。
「とにかくだ。その事件の現場で黒髪の剣士を見たという証人がいるんだ。それも凄いお偉い様がな。で、その話を聞いた更に凄いお偉い様である俺の雇用主が黒髪の剣士を探せと言ってるわけだ。ハルケギニア広しといえど黒髪黒めで浅黒い肌の容姿の奴なんかそうはいない。だからお前も容疑者のひとりだ。できれば素直に従ってほしいな。まがいなりにも貴き御方に仕える身としては手荒な真似は避けたいからな」
どこか皮肉気な口調で言うデュライに3人は毒気を抜かれたようであった。
「えーっとおれってどうしてもついていかなきゃダメなんですか?」
サイトが首を傾げながら問うとデュライは髪を乱暴に掻き回しながら
「そうだな。一通りの事情を聞かせてフクロウで雇い主のとこへ情報を送れば、別にいいって判断してくれるかもな」
それでも連れてこいって言われたら、無理やりにでも連れて行かねばならんのだが。
そう呟くデュライにサイトは頷いた。
デュライの言う事件に関わった覚えなど微塵もなかったためである。
「そうか。じゃあ聞くが名前がヒラガ・サイト、ハルケギニア風に言えばサイト・ヒラガでまちがいないな?」
頷くサイト。
「どこからこのアルビオンへ来た?」
「トリステインから」
「何のために」
「戦争で」
「傭兵なのかお前?」
「……いや、違う。……よな?」
サイトが目を泳がせながらアニエスを見る。
「私が知るか」
そう言われてしょげるサイトを見て、反応に困るデュライ。
「じゃあ徴兵でもされたのか?」
「たぶんそれが一番近いのかな?」
「疑問に疑問で返すな」
「だってけっこう複雑な理由で参戦したんだもん!!」
「だったらその複雑な理由をいちから説明しろ」
サイトは参戦するまでの経緯――自分が伝説の使い魔なこととか、ルイズに関する事柄を除いて――詳しく説明した。
説明を聞き終わるとデュライは馬鹿でもみるような視線をサイトに向けた。
「要するにお前は雇い主の貴族令嬢に一目惚れして、かっこいいとこを見せようと戦争に参加したと?」
サイトは恥ずかしそうに手で顔を抑えながら頷いた。
「お前は阿呆か? 戦場は夢と希望が詰まってるとでも思っていたのか?」
「いや、そんなことは……」
サイトはなにか言い返そうとしたがやめた。
これ以上、ルイズの特殊性を言わずに説明しても墓穴を掘るだけな気がしたからだ。
それからもいくつかの質問に答えるとデュライは頷いた。
「街に行って雇い主に手紙を出す。返事がくるまでこの村を離れるんじゃねぇぞ。もし離れたらお前はアルビオン中の人気者、賞金首になるって寸法だろうからな」
「えっ?!」
「冗談だ。せいぜいお尋ね者くらいだろうさ」
「安心できねぇ!」
妙なコントを繰り広げているサイトとデュライにアニエスが口を挟む。
「お前の雇い主に送る手紙にちゃんとこいつが私の保護下にあることも伝えておいてもらおう」
「……わかったよ」
そう言ってデュライは村を出ていった。
そして途中で森の陰に隠れ、左手に巻いてあるブレスレッドを摩る。
「こちら、鉄騎隊のデュライ。誰かいるか?」
『どうした』
どこか無機質な声がブレスレッドから聴こえてくる。
デュライは遠隔通信ができるマジックアイテムで親機である大宝玉と交信ができるのであった。
このマジックアイテムはモード大公が息子達への遊び道具にと王家の宝物庫から借りてきたものであり、それを大変気に入ったエドムンドが半ば私物化させ、ジェームズも苦笑しながらエドムンドが伯爵位を譲られた時に正式に下賜した国宝級の代物であった。
そんなマジックアイテムが傭兵団
「チッ、ユアンか」
思わずそんな声がデュライから漏れた。
彼は自分の主君たるエドムンド、上官たるディッガーには深い敬意と忠誠心を持っていたが、それは青白い顔をしたガキには一切向けられておらず、それどころか嫌悪を抱いてすらいた。
「おい、エドムンド様から黒髪の少年剣士捜索の任務について聞かされてるか」
だからというべきか、どこか突き放すような口調であった。
『……ああ』
「そうか、なら話は早いんだがそれっぽいやつが見つかった」
『本当なのか』
「いやそれがな。少し判断に困ってな。エドムンド様の知恵を借りたかったんだが……、お前ではな」
『……とりあえず事情を聞こう。諸国会議が終わり次第、そのまま殿下にご報告する」
「おう。血の巡りは悪くてもやるべきことくらいはわかんのか」
デュライの言葉にユアンは無反応だった。
『……早く状況を説明しろ』
そして何事もなかったように説明を促してくるユアンに、デュライはまた舌打ちするのだった。