……今まで妄想するしかなかったワルド子爵の活躍を拝めるかと思うと期待してしまいますね。
あと『烈風の騎士姫』はどうなるのだろうか?
設定集だけで発表されたりするんだろうか?
それとも無発表?
デュライは先日のうちにシティオブサウスゴータで諸都市を巡っていたレザレスと合流を果たしていた。
そして例のマジックアイテムでディッガー総帥自ら黒髪の剣士サイトの勧誘を行うという方針を聞かされ、レザレスはやってくる本隊の道案内役を務めることを命じられ、デュライは一足早くウエストウッド村に赴いてトリステインとの関係がどれほど悪化しても構わぬから黒髪の剣士を引き止めよと命じられた。
エドムンドが一国を敵に回しても構わぬほどサイトという剣士を評価しているという事実に2人はある種の驚きを禁じえなかった。
そういったことがあってデュライはつい数日前に訪れたウエストウッド村を再度訪問していた。
そして前と同じようにティファニアの家の扉を叩く。
「あ」
扉を開けたティファニアが目を丸くした直後、少し困った顔をした。かわいい。
しかしすぐに気をとりなおし、要件を伝える。
「サイトに話をしに来たんだが、あいつはどこだ?」
「あの人ならあそこ……、エマの家にいるの」
なぜかとても小さな声でそう言うとティファニアは村の一番端にある家を指差した。
ティファニアの態度に不信なものを感じつつもデュライは指差された家へと赴いた。
そしてその家の中にはアニエスと……なぜか涙目をしているサイトがいた。
そのことにデュライが怪訝に思ったが
「それで貴様の雇い主の返答はどうなのだ?」
というアニエスの問いに答えることを先決した。
「それが仔細を報告したら、どういう訳か”上”の高い地位にいる御方が直々にこの村に来られて事情聴取されるそうだ。もし我々が到着するより前にミス・ミランが黒髪の剣士――サイトに危害を加える、またはこの村から連れ出すつもりなのであれば、アルビオンはトリステインと戦火を交えることも辞さぬと仰せだ」
あまりにも強気な態度にアニエスは内心鼻白んだ。
「ほう。随分と貴様の雇い主は好戦的なようだな」
しかしその動揺を表情に出すことなく辛辣な言葉を言う。
が、デュライは嫌な笑みを浮かべるのみだった。
「俺からは言わせれば、この国のお偉方が国外戦争を辞さぬほど雇い主がミスタ・ヒラガに執心してること自体が謎なんだがな。いったいなにやらかしたんだこの少年は」
元々はレザレスやデュライが自分に都合よく適当にでっち上げた作り話であるのだが、そのことに一切触れることなくサイトに探るような目線を向けるあたり、中々によい性格をしている。
しかしまったく反応を示さずに暗い顔をしているサイトにデュライは首を傾げた。
「……おい、お前どうした?」
「いや、なんでもないです……」
明らかに前に来た時と態度が違う。こいつはなんというか馬鹿なレベルで明るい馬鹿だったはずだ。
そう思い視線をアニエスの方へ向けると彼女も奇妙に顔を歪めていた。
「なにがあった?」
「……前に来たときサイトの雇い主だった貴族令嬢の話をしたな?」
「ああ」
「その令嬢がサイトをここまで探しにきて、今ティファニア嬢の家にいる」
その説明を聞いてデュライは驚き、目を丸めた。
「ほう。その令嬢が心配してね。俺の経験上、身分の高い者は大概が恩知らずで先祖の栄光を穢すことに熱中している愚かな連中が多いが、こいつが一目惚れした令嬢は数少ない例外だったのか」
今まで得ているサイトの情報からして、彼の雇い主は王室の者かヴァリエール公爵家の誰かだろう。
そんな高い地位に生まれながらずっと者は下の者が無条件で自分に奉仕してくれるものだとデュライからしたら信じられないような勘違いをしている輩がこのハルケギニアの貴族には驚くほど多い。
いや、別にその類の傲慢さはまだ許容できなくもないが、せめて
そんなデュライの経験上、サイトの雇い主が彼を探してここまできたというのは驚くべきことであった。
「だが、だとするならそれは喜ぶべきだろう? なんでこいつはここまで気落ちしてんだよ」
デュライがサイトを指差しながら疑問を述べる。
するとサイトが目を腫らしながら答えた。
「だって今の俺じゃルイズを守れないんですよ。”ガンダールヴ”じゃなくなった俺じゃ……」
「……待て。”ガンダールヴ”ってなんだ?」
デュライの詰問にアニエスはこの馬鹿とでもいうようにサイトを睨み、睨まれた少年は自分が失言したことに気づいてさらに落ち込んだ。
「おい小僧。話がわからんから最初から説明しろ」
その態度にデュライは少しイラつき、軽く殺気を飛ばした。
するとサイトは背筋が伸び、アニエスは腰のホルスターに下げられている銃の銃床に掌をおく。
殺気に咄嗟に反応するあたり、2人とも修羅場にはなれているようだ。
「申し訳ないがそれはトリステインの国家機密にかかわることだ」
「ほう国家機密ね。へぇ、そいつはそいつは……。トリステインは二十にもならん傭兵風情を国家機密にかかわらせねばならん仕事を頼むほど人手不足だったとは知らなかった。このアルビオンと違ってトリステインはこの前の戦で殆ど戦死者が出なかったと聞くから人手は有り余っていると思っていたんだがな」
「ッ……」
明らかに嘲笑の響きがあるデュライの揶揄にアニエスは思わず奥歯を噛みしめた。
それはデュライの揶揄があたらずも遠からずと言ったレベルで的を射ていたからである。
確かにトリステインに”人手”は十二分にあるが”有用な人材”が不足している。
いや、人材もトリステイン中を探せばいくらか見つかるだろう。ただ……有用でトリステイン女王であるアンリエッタが信頼できる人材となると限りなく少なくなってしまうのだ。
ハルケギニアにおける有用な人材――所謂、知識階級――はメイジが支配的である。
だが、アンリエッタがグリフォン隊隊長ワルド子爵の裏切りや傀儡にしたウェールズを利用した誘拐未遂事件等々を経験した結果として軽度のメイジ不信に陥ってしまったため、メイジの人材登用にあまり積極的ではないのだ。
無論、今のところ国家運営に支障がでないレベルですんでいるのだが、宰相マザリーニがいくらかアンリエッタにそのあたりのことに苦言を呈している。「陛下は私を【鳥の骨】から【ただの骨】にしたいのですか」と。
まあ、それはそれとして、その件がサイトが国家機密にかかわってしまっていることと直接の因果関係はないのだが、それでも他人に指摘されたら腹立たしい思いになるのもある意味当然といえた。
が、ふとあることを思い出してアニエスは口を開いた。
「そういえばお前の雇い主は誰なのだ? 前の時ははぐらかされたが今回は直々にお前の雇い主が来るのだろう。ならば、前もって教えてほしいのだが」
デュライの関心を”ガンダールヴ”から逸らす意図もあってそれを問う。
「いや、俺の雇い主が来るわけじゃない。来るのは俺の雇い主の部下だ」
「さっき直々に来ると言わなかったか」
「”上”の高い地位にいる御方としか言ってねぇだろうが」
挙げ足を取るようなデュライの言葉に、アニエスは米神をひくつかせる。
「そうか。で、結局お前の雇い主は誰なんだ?」
若干殺気が混じった問いにデュライは肩を竦める。
「エドムンド・ペンドラゴン・オブ・ステュアートだ」
予想外の返答にアニエスは暫し呆然とし、聞き間違いではないかと疑った。
「ステュアート伯爵がお前の雇い主だというのか?」
「ああ」
何の気負いなしに答えるデュライにアニエスは口つぐんだ。
「アニエスさん。エドムンドって誰ですか?」
サイトが首を傾げながら問う。
彼は七万の軍勢相手に特攻をかまして重傷負ってから今までずっとウエストウッド村から一歩もでていない。
なので村に来た旅商人から”王党派残党と手を組んだガリアの参戦によって”レコン・キスタ”は打倒されて王政復古が行われて生き延びていたジェームズ一世が王位を回復した”ということくらしか知らなかったのでエドムンドの名前も知らなかった。
「ジェームズ陛下の甥だ。陛下が”レコン・キスタ”の獄中で責め苦を受けて衰弱しているため、事実上王党派を取り仕切っていた男だ。既に余命幾ばくないであろうジェームズ陛下が次期王位継承者として指名もされている」
アルビオンの王族に目を付けられていたことを自覚し、サイトは驚いた。
自分にそんな価値があるとは微塵も思っていなかったようであった。
……冷静に考えて七万の軍勢を足止めしておきながら、そんな風に思っていたあたり彼はぬけている。
「で、でもそのエドムンドって人が俺になんのようがあるんですか?」
サイトの問いにデュライは嫌な不安に襲われた。
(こいつ、本当に探していた黒髪の剣士なんだろうか?)
デュライは剣もそこそこ使えるが、見ただけで相手の技量を見抜けるような達人ではない。
だからもしかしてよく似ているだけの別人ではないかと勘繰ったのだが。
(いやいやいや、黒髪黒目で肌が浅黒くいとかいうハルケギニアじゃ特徴的すぎる容姿の奴が一か所にそう何人もいてたまるか! もしそうだったとするなら
元々信仰心などないに等しいデュライは現状に対する怒りを神に向けるのに躊躇いはなかった。
実際のところ、デュライの不安はある意味的中していると言えなくもなかった。
サイトが七万の軍勢に対抗しえたのは一重に伝説の使い魔”ガンダールヴ”のルーンが刻まれていたからである。
それを一度仮死状態になってしまったことにより喪失し、文字通りただの地球人となったサイトではとても七万の軍勢に対抗するなど無謀とかいう次元ではないところだろう。
とにかく現状では”ガンダールヴ”時代の時に培われた筋力と戦闘経験、そしてアニエスから実践仕様の訓練で叩き込まれた剣術くらいのものでしかない。
……まあ、魔法を吸収するデルフリンガーを含めて一般的観点から見れば、並のドットは屠れるメイジ殺しと認識されるのだろうが。その程度の人材なら
「……俺も詳しくは知らん。ここに来る奴から聞け」
既に上司のディッガー総帥がこの村に向かっている今、それを確かめる勇気をデュライは持ち合わせていなかった。
今さらながら『復讐譚』というのがタイトル詐欺ではないかと思えてきた。
だって、序盤でエドムンドが復讐達成しているし……