風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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第43話

即位早々、エドムンドは”王家の権威と主権を回復・強化させ、アルビオンの伝統ある秩序を回復するため”と称して勅令を下した。

 

勅令の内容を要約すると以下の通りである。

 

・各領主の自治権を制限し、各貴族領の徴税権及び司法権を国王が収攬する。

・領主が関税をかける権利を一時的に停止する。物資の流通を促し、景気を回復するためである。

・以上の権利を領主が独断で使用すれば、財産すべて没収の上、一族すべて国外追放とす。

・国外追放処分を受けたにも関わらず、国内に留まるものは一人残らず絞首刑に処す。

・国内に巣食う盗賊・逆賊の類を根絶やしにすべく鉄騎隊(アイアンサイド)の国内の横行を無制限に認める。

・どれだけ長くとも以上の条項は十年で無効となる。

 

露骨なまでの王権強化の姿勢に封建貴族たちはこぞって反対の意を示した。

 

特に借金だらけで破産寸前の貴族は強硬に反対した。

 

「我々は借金が積み重なって非常に厳しい経済状況であると申し上げたはず。にもかかわらず徴税権を取り上げられては我々は明日にも破産することになります。そうなればいたずらに国情を混乱させるだけです」

 

「リーズデイル男爵、おぬしの懸念はもっともだ。だが、この国内の混乱は絶対的な支配者による強力な指導によって収拾する他に道はない。それに誰がこの”白の国”の、空中大陸アルビオンの統治者であり支配者なのかをハッキリとこの国の民に示す必要があると私は思うのだ」

 

それに対して反論しようとする借金貴族を手を挙げて制し、発言を続ける。

 

「むろん、おぬしらの王家への忠誠を疑うわけではない。その証拠におぬしらの忠誠には十分に報いたいと考えている。具体的には爵位なしの貴族と同じように王家から毎月各々(おのおの)の爵位に応じた棒給をだすつもりだ。たとえ凶作になっても、必ず指定の額を支払うことを王家の名誉と始祖の御名において誓おう。だからどうか受け入れてもらえぬかな」

 

そう言われて提示された棒給の金額の巨大さにリーズデリル男爵ら借金貴族は本当にそんなに自分たちにそんな莫大な金額を寄越してくれるのかと疑いつつも、始祖と王家の名誉に誓ってと言われてなお疑うは不敬の誹りを免れ得ないし、なにより切実に借金を返済できるお金を欲していたので彼らは国王の要求を受け入れた。

 

だが、それでもグリムス伯爵はなお強硬に反対した。領主として当然の権利を奪うような真似をされてはたまらないのだ。

 

「いかに国王陛下といえど、始祖の御代以来の伝統ある我ら貴族の権利を取り消すのは非常に危険な行為であると私は考えます。若さゆえの焦りだとは思いますが、伝統ある秩序を回復するためにもどうかご自重を」

 

「おぬしの言うことも理解できるが、それでも私はこれが最善だと信じておる。それに貴族の権利を取り消すとは飛躍がすぎるな。あくまで一時的な措置であるとわざわざ明言している。どれだけ長くとも十年以内に、とな」

 

「一時的にせよ、認めるわけには……」

 

「グリムス伯爵ッ!」

 

なんと言われても翻意を促そうとするグリムス伯爵にエドムンドの怒りが爆発した。

 

歴戦の戦人であるエドムンドの怒りの視線にグリムス伯爵は背筋に寒気が走った。

 

「貴様は共和主義者か? それとも王家に対する反逆者か? どちらだ!?」

 

「へ、陛下、なにを根拠に?! 私は王家の忠実な臣下でありますッ!」

 

「ならばなぜ私の命令を聞けぬ? ……ヨーク伯ッ!」

 

急に呼びかけられて身を震わせ、その厚い脂肪を波だたせるヨーク伯。

 

厳しい視線をグリムス伯爵に向けたまま、エドムンドはヨーク伯に問いかける。

 

「私はこのアルビオン王国の王であろう? 違うかッ!?」

 

「その通りです。略式とはいえ、ここにいる諸侯の方々の前で即位なされました。彼ら自身、貴方が自分たちの王であると認め、陛下に忠誠を誓っておいでです」

 

「ならば彼らは王の命令をなにより優先して達成する義務がある! 違うか?」

 

「まさしく。この空中大陸において陛下の命令に背くは反逆であります」

 

「そうか、ならばッ!」

 

エドムンドが腰に下げていた杖剣を抜き放ち、グリムス伯爵の喉元に杖先を突きつける。

 

あまりの事態に周りの貴族たちがざわめく。

 

「おぬしには2つの道がある。俺の命令に服するか、それともこの場で首を叩き落されるか……、選べ」

 

エドムンドの側近の者たちも含めた周囲の者たちは緊張のあまり、ゴクリと生唾を飲み込みグリムス伯爵がなんと答えるかとそわそわしながら待つ。

 

だが、当のグリムス伯爵自身は恐怖のあまり体が固まっており、頭もパニックしていたので答えられる状態ではなかった。

 

そもそも彼がジェームズ王に重用されず”レコン・キスタ”から無視されたのは、領主として平均以上の能力があるくせにどんな勝負でも窮地に陥れば思考停止を起こして敵に殴られるままという醜態を演じる精神的脆弱さがあったためにどちらも重用しようなどと考えなかったのである。

 

そんなグリムス伯爵が自分の生命の危機に陥れば固まるのも道理であった。

 

「黙っていてはわからぬではないか。沈黙も否定と受け取ろう。俺の命令に服するなら五秒以内に答えろ」

 

そう言い終わるとエドムンドは杖剣をふるった。

 

首の皮を斬られて伯爵の首筋に血の筋が何本か走る。痛みも我慢できるほどであるはなのだがグリムス伯爵は過剰反応して叫びながら転げまわる。

 

その醜態を見てエドムンドは獲物を嬲るような残酷な喜びを感じつつ、カウントダウンを始める。

 

「五――四――三――」

 

「――ッ!!! は、はいッ! 陛下の命令に従いますッ!!」

 

ほとんど悲鳴のような声でグリムス伯爵は命令に従うと叫んだ。

 

首を刎ね飛ばすまでやってみたかったなとエドムンドは思いながらもそれを表情に出さずに重々しくうなずく。

 

「わかればよいのだ。わかればな。このアルビオンを立て直し、かつての強国としての威信を取り戻すためにはおぬしらの協力が不可欠なのだ。今は国王、貴族、そして平穏を望む臣民が一丸となって国家に奉仕すべき時なのだ。そしてその団結を乱し、混乱を長続きさせ、民を苦しめようと企んでおる輩は”レコン・キスタ”とさして変わらぬ反逆者だ。よってそんな輩は貴賤を問わず相応の罰を受けると心得よ。よいなッ!」

 

「「「ザ・ウィル(御意)ユア・マジェスティ(陛下)」」」

 

この場にいる全員の唱和が屋内に響いた。

 

 

 

王の命令に服した後、リーズデイル男爵以下借金貴族達は集まっていた。

 

中にはリーズデイルより爵位の高い貴族もいたが、彼は年の功と温容な人柄によって多くの貴族から信頼されていたので彼らの相談相手としての立場を築いていた。

 

彼らの不安は「エドムンド新王陛下は宣言通り、我らに金をくれるのだろうか」というものであった。

 

リーズデイル自身そうした不安を感じていたため、彼らの懸念は深く理解できたがかなり楽観的に認識していた。

 

「国中の諸侯が集う場で王家の名誉と始祖の御名において誓約されたのじゃ。破れば我ら諸侯の信頼と忠誠を失うことを陛下とて承知しておられよう。ならば臣下としては信じるしかなかろう」

 

「しかし! 不敬を承知で言えば、グリムス伯爵に対する仕打ちはいかがなものでしょう? あの気迫は冗談ではありません。あの場でグリムス伯爵の首が飛んでいた可能性もあったでしょう。畏れながら陛下はいざとなれば我らを躊躇なく叩き潰せるような暴君の素質の持ち主ではないかと思えてしまうのです」

 

「元々陛下は大公息時代に一族の反対を押し切って軍人の道を進んだ御方じゃ。それも高原地帯(ハイランド)に風竜を単騎で撃破し、ウェールズ皇太子が王座に就いた暁にはアルビオンの大将軍になることを確実視されるほどの武勇を持った生粋の武人じゃ。だからその治世が多少なりとも武断的なものとなるのは仕方なかろうの。それに少なくとも今の時点で陛下を暴君と謗る者は不忠と言わざるをえぬと私はおもうのじゃが」

 

やんわりと嗜めるように不安をぶつけてきた貴族にそう説明する。

 

「しかし念のため、領地の防衛を固めておいたほうが良いのではないでしょうか……」

 

それでもなお不安な若い貴族がそう発言する。

 

それに対してリーズデイルは肩を竦めた。

 

「そんな余裕が私たちにあるのかの? 領民に仕事を放棄させてまでして徴兵していては徴税に支障をきたす」

 

「ですが、徴税権は王家に一括されています。我が領からの徴税が滞ったとしても我が家の収入は変わらないでしょう」

 

そうなった場合、仕事ができずに自領の民が苦しむことになるのだが若い貴族はそれに気づいていないようだった。

 

それに対してリーズデイルはため息を吐きながら反論した。

 

「それでもし王家から何のために徴兵なんかしたのだと問い詰められればどうするのだ?」

 

「え?」

 

「王家の暴発が怖くて徴兵しましたなどとバカ正直に答えようものなら、王家から目をつけられる可能性がとても高いと思うのだが、それをごまかせるような方法があるのか?」

 

「……増加した賊を警戒して、とか」

 

「ふむ。だが鉄騎隊(アイアンサイド)が盗賊退治を標榜に国中を縦横無尽に闊歩しておるのじゃ。賊が増加しているなどという情報を流せばやつらがすっとんできて、もし嘘だとバレればロクでもないことになると思うのじゃが」

 

「……軽率でした」

 

若い貴族の暴発を阻止できたことを察して、リーズデイルは安堵のため息を吐いた。




かなり難産だった。
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