風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

44 / 82
第44話

エドムンドは王座に腰かけ、自らの側近たちと今後の打ち合わせを行っていた。

 

「あれでよろしかったのですか?」

 

「なにがだ。ブロワ侯爵」

 

略式の即位によって正式に自分のものとなった玉座に座り心地を楽しみながら、エドムンドは問う。

 

「諸侯らに対する対応です。あれでは現状を理解する能力に乏しく、そのくせプライドだけは高い奴が謀反を企てるのではありませんか。そうなればかなり大変なことになりませんか」

 

ブロワ侯爵の脳裏に怒り心頭で王宮から出て行った数人の封建貴族が頭に浮かぶ。

 

特に杖を突きつけられたグリムス伯爵なぞは今すぐにでも暴発して反乱を起こしかねないほどの怒りで顔をどす黒くしていた。

 

「おや、ブロワ侯爵は諸侯の反乱を恐れておいでで? 本国艦隊司令長官の言葉とは思えませんな」

 

余分の脂の塊である”白いオーク”の揶揄するような猫撫で声にイラつきを感じるブロワ侯爵。

 

「空軍が疲弊したとはいえ、ディッガーの鉄騎隊(アイアンサイド)と協力すれば諸侯の反乱鎮圧程度楽勝だ。なにより私が懸念しているのは三年に渡る内乱で多くの者が辟易している状態で新たに内乱など起これば民衆の不満が高まれば取り返しのつかないことになりはしないかということだ。無論、私が申し上げるまでもなく宰相閣下ならお気づきとは思うが」

 

ブロワ侯爵の皮肉にエドムンドは天使のような笑い声をあげた。

 

「陛下?」

 

「いらぬ心配だ。奴らが反乱を起こそうとしても起こせるものか」

 

心底おかしいとばかりに笑う自らの主君にブロワ侯爵は首を傾げる。

 

確かに諸侯もこの内乱でかなり疲弊しているとはいえ、許しがたいほど自分の既得権益を収奪されれば暴発することもありえるのではないか?

 

「ユアン、説明してやれ」

 

そう促された血色の悪い少年は不気味微笑み、詳細を説明しだした。

 

説明が終わった後、全員の心情を代表するようにヴァレリアが呟いた。

 

「各所で出す指示で薄々察していましたが……、政治でも陛下は恐ろしい方です」

 

「ミス・ヨーク。この程度、謀略に通じてる王侯貴族なら誰にでもできるわ」

 

フンと鼻息を鳴らし、エドムンドは顔色を一切変えずに今後の打ち合わせをつづけた。

 

 

 

自領へと続く街道を走る場所の中でグリムス伯爵は憤っていた。

 

エドムンドに刻み付けられた恐怖から脱兎のごとくに王宮を辞したのだが、自領に戻っている途中に幾分恐怖が薄れ、王宮で多くの貴族の前で自分がどんな醜態を晒してしまったことをいまさら自覚したのである。

 

「なんなのだあの若造は! 何千年もの歴史を誇る我が伯爵家の権威と対面を踏み潰してくれおって! 四年も国を離れてガリアで遊び呆けていたような奴が、よくも、よくもこの私を……!」

 

特権意識が強い彼にとって国中の貴族の前で国王直々に叱責され、周りの見世物にされるというのは堪えがたい屈辱であった。

 

溶岩のように熱くドロドロとした感情が伯爵の心を蝕み、支離破滅的な思考を続ける。

 

このような屈辱を受けては貴族としての名誉に関わる。それでも平然としているわけにはいかない。

 

であるならば、貴族をコケにしたらどうなるかあの若すぎる王に人生の先駆者として教訓を垂れてやらねばなるまい。

 

「領地に戻るとすぐに兵を集めよ。同じ要請を派閥に属する貴族にも出すのだ。あの若い王に現実というものを教えてくれるッ!」

 

それゆえグリムスは非常に短絡的な結論を出した。

 

「お待ち下さい。先の内乱の際は”レコン・キスタ”とも王家とも距離を置いて中立を保ち、軍事行動を最小限に抑えた結果として伯爵家は今の中立派閥の盟主たる地位にいるのです」

 

家臣であるディケンズは主君の短慮を内心呆れながら諫めた。

 

確かにグリムス伯爵家は先の内乱によって中立派と言われる貴族たちを束ね、アルビオン国内におけるパワーバランス的には内乱前と比べてかなり重要度が上がったといえる。

 

とはいえ、中立派などと言われる派閥は半分以上が自分たちが貴族として華やかで豊かな生活を送れるならそれ以外のことがどうなろうと気にも止めないと連中であり、残りの連中は自分の領地のことしか気にしないような奴らだ。

 

早い話が国政に関しては事なかれ主義な連中の巣窟であり、盟主の名誉を守るために協力しろと要請を出しても保身に走って普通に無視しそうな輩ばかりだ。

 

「兵を集め、王家に対して威嚇行為を行おうものならその立場を失うことになりかねません。ここは閣下に信を寄せる諸侯を集め、連名で陛下に諫言申し上げればよろしいかと。そしてそれを陛下が無視して専横を働き続けてからでもよいではないですか」

 

「黙れッ! これほどの屈辱を受けて黙っていられるものか!」

 

だが、完全に怒りで我を失っているグリムス伯爵は臣下の忠言を一蹴する。

 

「……失礼しました」

 

ディケンズは完全に自分の主君に失望していた。

 

下級貴族のディケンズにとって主君とは自分の能力をふるう為の道具にすぎないのだが、それでもこの男の低能さは何度自分を失望させてくれるのだろう?

 

この男は現状認識能力に乏しすぎる。

 

モード大公の一件からこの国は動乱の極みにあり、能力と采配次第でいくらでも成り上がれる可能性はあったというのになぜ動乱が収束し、ジェームズによって王政復古が宣言され、エドムンドらによって共和主義勢力が一掃されてから動き出そうというのか。

 

おまけにこのタイミングで武力誇示は明らかに愚策である。王家があそこまで派手に地方領主を挑発したということは間違いなく対抗するための手段は整っていると考えるべきだろう。

 

つまりエドムンドの判断次第で容易くこちらの武力誇示を”反乱”と断定し、容易く”鎮圧”を決定しかねない。そうなればグリムス伯爵はもちろんの事、その筆頭家臣である自分もろとも破滅しかない。

 

なんとかしてこの機を見る目がないにもほどがある主君の考えを変えさせねばとディケンズは平静を装いつつ頭を回転させる。

 

しかしそれは徒労に終わった。ディケンズの思考がまとまる前にグリムス伯爵領から緊急の伝令が飛んできたからである。

 

「なに、それは本当なのか!?」

 

伝令の報告を聞いて固まったグリムス伯爵に代わってディケンズが念押しする。

 

「間違いありません」

 

鉄騎隊(アイアンサイド)の連中が貴族領における徴税権と司法権が凍結されたことを告げ、にもかかわらず過酷な徴税や労役を課す領主は国家と王家に対する反逆者であり、官僚はそのような命令を受けても命令に従わぬよう忠告し、民衆に対しては具体的な大減税を宣言をしていったらしい。

 

そのせいで領地の運営に支障が発生しており、グリムス伯爵の判断を仰ぎたいということであった。

 

いくらなんでも早すぎる展開にディケンズは前もってエドムンドが前もって鉄騎隊(アイアンサイド)に王宮で確実に決める事柄を告げたいたのであろうと悟った。

 

実に効果的だ。これでは王家の意向に背くような行動をすれば即座に罪人として色々な意味で首が飛ぶに違いない。

 

「閣下、ここまで先手を打たれてはやはり周辺領主との連携を深め、様子見に徹した方が上策かと思われますが……」

 

「黙れッ!」

 

反射的に反発したものの、内心の怒りと不快感をぶつけたおかげかグリムス伯爵はわずかだが気が静まった。

 

そして思考する。彼は三年間の内乱で周りの障害が一掃されたため、権力志向を表向きに晒すようになった。そしてそれは国内に戻ったばかりのエドムンドが迅速に動くのは難しいだろうという推測してのことでもあった。

 

実際にはエドムンドはエクトル卿として二年も前から国内に戻っており、ヨーク伯爵やブロワ侯爵といった優秀な政治家と軍人との間に強固な信頼関係を構築していたためその推測は見当違いもいいところなのだが、エクトル卿の正体を知らないグリムス伯爵にそんなことはわからない。

 

……わからないが、現状を見るに自分の推測が甘かったと判断せざるを得なかった。

 

「……確かにすぐに行動を起こすのは危険だ。業腹だが今は様子を見るしかないか」

 

ほとんど吐き出すようにそう言った自分の主君に、ディケンズは今後の身の振り方について考えるべきかと思い始めた。




原作勢を出したいがなかなか出せるとこまで話が進まないorz
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。