風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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前話のヴェッセルの話に感想欄でツッコミはいるかなと思っていたが、意外とスルーされた。
同じ話でエドムンドがアンリエッタの行動の推測をしたのがマズかったか。


第46話

南西の街道の収束点であるシティ・オブ・サウスゴータからこちらまで来る商隊もあるのでブロワ侯爵領の中心地である地方都市ベイドリックの市場は活気に満ちている。

 

先の内乱でも微妙な立地にあったおかげで一度も戦場にならなかったこともあってベイドリックはほかの都市と比べてかなり治安が良く、領民は領主のブロワ侯爵に感謝しているのだ。

 

そんなベイドリックの街道に青地に杖と銃とブリミル教の聖印があしらわれた旗を掲げて進む百人ほどの軍人の集団が進んでいく。

 

鉄騎隊(アイアンサイド)だ! 鉄騎隊(アイアンサイド)のお通りだ!」

 

その旗を見たひとりが叫び、街道を埋め尽くしていた民衆は両端に走って道を開ける。

 

鉄騎隊(アイアンサイド)万歳!」

 

民衆がそう叫ぶのを聞いて先頭にいたディッガーは軽く民衆に腕を振った。

 

すると民衆の熱狂は益々すごくなり「万歳!」と叫ぶ。

 

内乱終結直後は裏切り者の部隊としてあまり人気はなかったのだが、度重なる盗賊退治と治安業務で実績をあげ、平民たちから見てもいけ好かなかった貴族を次々と国王の名の下に捕まえて処刑台に送り込むので一躍憧れの存在と化していた。

 

なにより隊員に貴族どころかメイジですらない人間が多数所属しているので平民に対してそれほど尊大な態度をとらず、今までの王国騎士団より親しみを感じられると噂しあっている。

 

「いったい何事ですか」

 

騒ぎを聞きつけて焦って駆け付けてきた代官とその部下達。

 

「この街の工房に頼んであった武器が完成したと聞いてな。それを受取りに来た」

 

「……それでしたら先に一報くださればよいものを」

 

「なに? 侯爵には前もって告げておいたはずだが、聞いていないのか」

 

ディッガーの問いに代官は汗を流して、

 

「いえ、そのような話は聞いておりませんが」

 

「……空軍の再建にかかりきりになっていると聞いてはいたが、そこまで領主としての仕事を蔑ろにしているとは」

 

領民からの感謝を一身に浴びるブロワ侯爵であるが、当人はというとその感謝を浴びせられた時、非常に戸惑ったものだった。自領が戦場にならなかったのは運がよかったから以外のなにものでもないからと知っていたからである。

 

別段、自領が戦場にならないよう努力したわけでもないのにそのことを領民から感謝されたものだから、生粋の軍人であるブロワ侯爵は自領に戻るとなんだか恥ずかしい気分に襲われて、今まで以上に領地運営を代官に丸投げして空軍の仕事にかかりきりになっている。

 

そんな噂をディッガーは聞いてはいたのだが、本当とは思っていなかった。

 

後で主君に報告してブロワ侯爵を叱っていただかねばとディッガーは脳裏のメモにそう書き留めた。

 

ついてきた五十人の直属部隊の面倒を領主館の人員に任せるとディッガーは側近を数人だけ伴ってベイドリック郊外にあるあまり目立たないがそれなりに大きな規模の工房へと赴いた。

 

工房は冶金技術に優れるゲルマニアの施設と遜色ない設備が整っている。先の内乱で”レコン・キスタ”が優勢になった頃からエドムンドが何度も秘密裏に大量の投資を行って優れた職人を集め、設備を整えさせたのである。

 

この事実を知っているのは命令した主君と土地を貸したブロワ侯爵、そして連絡役兼検分役である自分とその側近しか知らない。

 

「これは総帥閣下、こんなむさくるしいところへようこそ」

 

髭もじゃの爺さんが出てきて軽く腰を折る。

 

この老人がこの工房の主であり、エドムンドが見込んで自陣営に取り込んだ凄腕の錬金術師である。

 

「おや、今日はデュライ百人長はおられないのですかな?」

 

もじゃもじゃの髭で顔面の八割近くが隠れて表情が確認しがたいが、たぶん不思議そうな顔をしてそう問う。

 

「デュライは別件で今日は来ていない」

 

「ほう、ぜひとも彼の意見を聞きたかったのじゃが」

 

老人は髭をいじりながら残念そうにつぶやく。

 

「……それで”例の銃”が完成したと聞いたのだが、本当か」

 

「ああ、こちらになります」

 

老人が指示した先にある代物を手に取るディッガー。

 

外観だけでは普通の銃との差がとても理解できず、連れてきた銃士に持たせた。

 

銃士は射的場へ出ると普段使用している銃とこの工房で作られた新式銃を交互に数度発砲してみせる。

 

普通の銃の場合との差にディッガーは目を見張り、戻ってきた銃士からの説明に深く考えさせられた。

 

実はディッカーは秘密裏に制作されている銃にあまり期待していなかった。エルフが使う風銃のような例外を除き、銃は数を揃えねば大した脅威にならないというのがハルケギニアの常識であったし、ディッガーにとっても当然のことであった。

 

しかしその常識は目の前で完全に粉砕されたようにディッカーは思えた。もし目の前の新式銃が一般的になれば少なくとも長期的な訓練を必要とする弓矢は確実に絶滅危惧種の武器になるだろう。

 

「……ご老人、この工房で月にこの銃は何丁作れる?」

 

やや声を震わせながらの問いに老人は自分の髭をさすりながら、

 

「そうですなぁ。かなり複雑な構造になっておりますので最初は八、慣れて十数丁というところでしょうかのう」

 

「……最低でも月に百ほどほしいのだがな」

 

ディッガーは不満そうな口ぶりでなんとかならないのかと視線で問うと、老人は立派すぎる髭を逆立たせて不快を示した。

 

「無理を言わんでください。この工房には儂を含めて十人しかおらん。百も作るとなると人手が足りなさすぎる」

 

老人の反論にディッカーは閉口せざるを得なかった。

 

しかしこれはどうしても欲しい。ロンディニウムに戻り次第陛下に新式銃の量産と鉄騎隊(アイアンサイド)の拡張を上奏すべきだろう。

 

内乱終結以来、国内の不穏分子に対して鉄騎隊(アイアンサイド)は八面六臂の大活躍を演じているが、実のところ仕事が多すぎて隊員がろくに休息をとれてない状態にあり、加えてディッカーは鉄騎隊(アイアンサイド)を敵と戦場で戦う部隊であり、自分はその指揮官であるという自負があったの治安活動に嫌気をさしており、隊内に治安専門部隊を設立することは悲願であったのだ。

 

しかし不穏分子のほとんどが貴族、つまりはメイジである以上治安部隊といえど一定以上の戦闘能力を持つことが要求され、素人をそんなレベルになるまで一から教育する時間をさけるほど暇ではなかったのでディッガーは渋々諦めていたが、新式銃が採用されれば兵の戦闘力を鍛えてやる手間暇は格段に少なくなるだろう。

 

質を問わなくていいなら人員を集めるのは容易い。現在のアルビオン国内に鉄騎隊(アイアンサイド)に憧れている連中はごまんをいる。主だった街々に兵員募集の立て札でも立てれば数千人の人員を集めることが可能だろう。いや、国内の熱狂ぶりを見ると一万の大台に乗るかもしれないとディッガーは期待に胸が躍った。

 

躍ったのだが、エドムンドから勅命を受けていたことを思い出してディッガーは気を沈めた。鉄騎隊(アイアンサイド)には”レコン・キスタ”の、クロムウェルを育てさせた腐敗の病巣を一網打尽にせよと命令を受けていたのだった。ユアンから渡されたリストの面々を拘束してロンディニウムに凱旋するのはどれだけ早くても一か月後になるだろう……

 

「わかった。なら今は一丁でも多く作れるように頑張ってくれ。人員増加の件は私から陛下に上申しておく」

 

内心のくやしさを悟られまいと必死で普通な声をイメージしてディッガーはそう告げて工房を後にした。

 

残された老人はやれやれと言わんばかりに肩をすくめて、ため息をついた。

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