風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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書いてて思った。自分、貴族の園遊会に関する知識とかほとんどねぇなと。


ヴェルサルテイルの園遊会

空路で入国したエドムンド一行は、ガリア空海軍の母港サン・マロンで一泊した後、両用艦隊司令クラヴィル卿の配慮で空海軍所属の巡洋艦に乗ってリュティスへと到着した。

 

「送ってくれて礼を言う。内乱に協力してくれてからもガリアの空海軍には色々と借りをつくりっぱなしであるな。貴官の上司のクラヴィル提督に伝えておいてくれ。いつか借りを返したいものだ、と」

 

退艦時に艦長に社交辞令の言葉を述べ、エドムンドは約一年ぶりにリュティスへと降り立った。人口三十万を超えるハルケギニア最大の都市は一年前と比べても盛況を保っているように思えた。

 

園遊会の会場であるヴェルサルテイル宮殿に赴く前に、アルビオン大使館へと足を運んだ。リュティスで仕事をしている大使の口から生の情勢を聞いておく価値があるだろうと考えたからであった。

 

「なるほど。間違いないのだな」

 

「ハッ。今回の園遊会はガリア王家が総力を挙げて催すだけあって、数週間前から数多くの有力者がこのリュティスに入っております。少なくない数の護衛を引き連れてです。公然としない複雑な対立構造を抱えている国です。既に上級貴族が宿泊している区画では穏やかではない空気が蔓延しております。王家も対策の為にい全花壇警護騎士団を動員して牽制しておりますが……私の見るところ、その騎士団同士でも対立が生じているようですなぁ」

 

アルビオンの大使であるゲオルグが畏まった表情でそう述べる。

 

「想像以上に混沌としてますね」

 

赤髪を掻きまわしながらヨハネはぼやいた。今回の訪問でエドムンドに護衛二百人の隊長に任じられた腹心の騎士であり、アルビオン王国の重鎮の中では唯一供回りの名誉を授かったのである。

 

余談だが、ガリア行きを熱烈に希望したヨーク伯はアルビオンでお留守番である。きわめて現実的な話、エドムンドがアルビオン離れてガリアに赴く以上、ヨーク伯以外の誰がアルビオンを統べるというのか。ブロワ侯爵とディッガーは政治家というより軍人だし、ユアンは身分的に、エリザベートは種族的に不可能だ。

 

平時ならブロワ侯爵なりディッガーなりに任せてもよいのかもしれないが、まだ自分の即位から一月程度しかたっていないこの時期に彼らに統治を任すのは非常に不安だ。だから調整力に長けているヨーク伯に王の代理人として全権を任せてしまうのが一番現実的というのがエドムンドの考えだった。

 

自分が派手に粛正しまくって諸侯に反感を募らせている今の時期に、どちらかといえば穏健思考のヨーク伯に国政を任せるのに若干の不安を覚えるが、諸侯に対しては隙を見せ次第攻撃しろと厳命しておいたし、残ったブロワ侯爵、ディッガー、ユアンもその辺は弁えてるから大丈夫だろうと判断しての事である。

 

「しかし王家直属の花壇騎士にも主君たるジョゼフに反感を持っている者がいるというのか?」

 

「その通りです陛下。オルレアン派粛清の際に、オルレアン公寄りだった者が保身のためにジョゼフ派に鞍替えした例は花壇騎士も例外ではありませんからな。忠義篤い者がジョゼフに対して内心穏やかならぬ感情を抱いていることでしょう。実際、そんな花壇騎士がジョゼフ暗殺を実行した例も過去にあったそうですからな。他に似たようなことを考えている輩がいても不思議ではありませんからな」

 

「なんたることだ。花壇騎士とはガリア王家を守護することを誉れとする者達のことを指すのではなかったか。にもかかわらず、その花壇騎士が主君に杖を向けることを躊躇わない奴が多数いることがありえてもおかしくはないとはな……」

 

しかもなぜかジョゼフは暗殺されかかったにもかかわらず、花壇騎士団の人事をどうこうしなかったという。大使が推測するところによるとそんなことをすればジョゼフ派中枢にも不穏分子が入り込んでいるため、空中分解を防ぐためにしようにもできなかったのではないかとのことだった。

 

そんなややこしい状況で大規模な内乱に突入しないのはエドムンドにとって不思議だったが、思えばレコン・キスタ台頭前のアルビオンもこんな窒息感を覚えそうな状況だったのかもしれない。

 

「そんな状況でも下々の者は平穏を享受しておるわけか。これではかえって不気味というものよ」

 

エドムンドは大使館の窓からリュティスの街並みを見下ろす。平民の子供たちの集団が2つに分かれて全力を出して争っている光景と大人の貴族達が互いに非友好的な視線で牽制しながら警戒を怠らずに歩いていく光景が見事な好対照を為していた。

 

そしてこの光景こそが、おそらくはガリアの縮図なのだろう。エドムンドはそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

園遊会というとどういった光景を思い浮かべるだろうか。野外でお茶会? それともホールでの舞踏会?

 

確かにそういう一面がないわけではないが、今回招待された者は国内の有力者だけでなく、外国の賓客もいるのだ。こういった場で十四代前のトリステイン王フェルディナンド一世が根まわしをすっ飛ばして自分の妻を宰相にすることを電撃的に宣言したように、ジョゼフがなにか大体的な宣言をすれば、そのままそれはガリア王家の方針として諸国に知れ渡るだろう。

 

今回の園遊会の段取りはジョゼフ自ら行ったという噂を聞いており、招待された者たちはなにか大きな出来事が起こるのではないかという期待を抱く者がいる一方で、あの無軌道な無能王のことだから気まぐれを催しただけかもしれないという諦観を抱いている者も少なくはなかった。

 

そしてその両者以上に出席者同士で腹の探り合いに興じている者が圧倒的多数を占めていた。様々な思惑を抱えた国中の貴族が集まるのであるからある意味必然といえるが……

 

「だからと言って、他国の王が会場に入ったときも露骨に他者へ探りの目を向ける奴がそれなりにいるというのはどうなのだ」

 

エドムンドは呆れた声で護衛として伴わせているヨハネに語りかける。基本的にこういうパーティでは一般的に身分の高い者から順番に入場することになっており、この園遊会に参加している中でエドムンドは上から二番目の貴人である。

 

だから自分が入場すれば全員の注目は自分に集まるはずだったのだが、1割くらいの貴族は他国の王への無礼より同国貴族への疑心を優先したのだった。その事実にエドムンドは衝撃を禁じ得なかった。

 

「かなり疑心暗鬼に陥ってますね。これは」

 

一応、ヨハネも園遊会の出席者なので普段の騎士装束ではなく、中流から上流貴族が着ている貴族にとってはちょっと高価な絹の服を着ている。いつも腰にさげている軍杖もなく、見かけだけだと平凡な青年貴族に見えた。とはいえ、いざという時のために指揮棒状の杖を懐に忍ばせていたが。

 

「それが暗示するところ、ジョゼフは派閥対立に明確なスタンスを示しておらぬというわけか」

 

原則として王がどこの派閥を敵視するかを周囲に示せば他派閥は内心がどうであれ、王の下に団結するというのがエドムンドの認識だ。勿論、ジョゼフの場合人気が低いので国が派手に割れる可能性もあるが、ジョゼフの智謀をもってすれば国の半数以上が敵側に流れでもしない限り、問題なく敵対した連中に勝利を収めることができよう。

 

なのになぜこの派閥対立を放置しているのか。エドムンドは考え込んだが自分が納得できる推測を立てることができなかった。しばらく考えていたが近づいてづいてくる人影を見つけて思考を打ち切った。

 

「これはアルビオンの国王陛下。ごきげんよう」

 

そう語るのは僧服を着た初老の人物だった。

 

「ごきげんよう。名前を伺ってもよいかな?」

 

「ロマリアの大使を務めておりますバリベリニと申します。教皇聖下より助祭枢機卿の地位を賜っております」

 

ゲオルグから聞いたロマリア大使の情報を思い出しつつ、つい最近会った助祭枢機卿のことも同時に思い出してしまった。

 

「……やはりこれが普通よな」

 

どこか安心したように呟くエドムンドに、バリベリニは怪訝な顔をする。

 

「……どういう意味で?」

 

「いや、失礼した。少し前にジュリオ・チェザーレと名乗る不吉な”月目”の小僧と会ってな。驚いたことにどう見ても二十にも届かぬ世俗的な小僧がおぬしと同じ地位にいるというではないか。さらに聞けばどこの馬の骨ともわからぬ捨て子という身の上ときた。

そんな輩を枢機卿という重要な聖職に就かせるとはロマリアも堕ちるとこまで堕ちたと思っておったのだが、実際のところ、おぬしのような真っ当な枢機卿達にとってチェザーレ枢機卿はどのように見られておるのだ?」

 

ゲオルグの評価ではバリベリニ枢機卿は絵に描いたような腐っていない保守的な聖職者というものだった。ロマリアにおける派閥では保守派の腐敗ぶりに嫌気がさして改革派の教皇側に近いポジションにいるとの情報もあったのでジュリオ・チェザーレに関する質問する相手としてはベストだろう。

 

ロマリアを侮辱するような言葉にバリベリニは眉を潜めたものの、エドムンドの語る人物が脳裏に浮かんだ瞬間に納得の表情を浮かべた。

 

「ああ、あの教皇聖下が篤い信頼を寄せる側近の……」

 

「なに!? あの小僧は聖下の側近だと、本当なのか?」

 

思わず驚くヨハネ。話の腰を折られて不快な目線を向けるバリベリニ。

 

「失礼した。これは私が信頼する侍従武官長ヨハネ・シュヴァリエ・ド・デヴルー。今回のガリア訪問にあたっては護衛部隊の指揮を任せている。ヨハネ、確かにあの軽薄な少年が教皇聖下の信頼篤き側近というのに衝撃を受けるのは分かるが、話に割って入るのはマナー違反だぞ」

 

エドムンドが取り成すようにそう言うとヨハネは恥じるように頭を下げた。

 

「なるほど。あまり園遊会に慣れておらぬのですな」

 

「察してくれて助かる」

 

救われたようなヨハネの言葉にバリベリ二は慈悲深い笑みを浮かべる。

 

「話を戻すが、聖下の信頼が篤いという小僧とは何者なのだ」

 

「陛下、仮にも助祭枢機卿の地位にいる者に対して”小僧”は言い過ぎですぞ」

 

「それはそうなのだが、あのような少年を枢機卿と認識するのは困難でな。枢機卿というのはおぬしのように長く神の道を歩んだ者にこそ与えられるものであろうに」

 

「まあ、陛下の仰りようもわからなくはありませんね」

 

バリベリニは苦笑しながらエドムンドの言葉に同意した。

 

「わたしも保守派の強烈な反対を押し切ってまで彼を助祭枢機卿に任じた聖下の意思をはかりかねているのです。彼が有能であることに疑いの余地はありませんが、聖職者としての適性に疑念を禁じ得ない人ですからな」

 

「そこまで重用されているとは……、聖下とチェザーレ枢機卿の間にはいったいどのような関係があるのでしょうな」

 

「さあ、そこまではわたしのような末席の者には知らされぬものでして」

 

「助祭枢機卿猊下が末席というのは卑屈に過ぎよう」

 

助祭枢機卿を末席と言うのなら、司教や司祭はどうなるんだ。

 

「枢機卿団の末席という意味でして。しかし彼の詳しい情報を知っておられるのは本国で聖下と共にいる者たちだけではないかとすら思えるほど、彼のことは謎なのですよ」

 

「聖下はなにをお考えか。そんな謎の塊のような人物をこれ見よがしに優遇する必要はあるまいに。いや、なにかご深慮あってのこととは思うが、私には保守派といらぬ対立をつくるだけではないかと思ってしまうのだよ」

 

「ほう。陛下は我が国の内情についてずいぶんとお詳しいのですな」

 

目を細めてそう告げるバリベリニにエドムンドは

 

「なに。私も一国の主ゆえな。周辺諸国の情勢をある程度は掴んでおらねば政務を滞りなく処理できぬのでな」

 

「……政務の話で思い出しましたが、陛下は国内で聖職者の大弾圧を行っているとか」

 

とても穏やかではない言葉に周りの者たちが聞き耳を立てる。それを横目で確認したエドムンドは軽くため息をついた。

 

「聖職者ではない。共和主義者だ。共和主義などという危険極まる思想を信じておる者どもは根絶せねばならん。そのためには聖俗や貴賤など気にしておれん。共和主義者と疑われるような真似をしているという一点だけで拘束する十分な理由になろう」

 

「随分と過激ですな」

 

バリベリ二の控えめな非難にもエドムンドは全く意に介しなかった。それどころかニヤリとした笑みを浮かべて

 

「過激? 我々は二度とレコン・キスタのような恥知らずな連中が台頭する悪夢を再来させてはならないのだ。共和主義者などエルフに匹敵する罰当たりな背教者どもが国に君臨するなど二度させん。そのために王権を否定するがごとき思想に心酔する不逞の輩から自由や権利を剥奪することは当然の事として、事と次第によっては天上(ヴァルハラ)にあるであろう神の裁判の被告席につかせてやらねばなるまいて。そうだな、さしずめ”戦う王権主義”とでも名付けようか」

 

エクトル卿として自身もレコン・キスタに所属していたことをおくびにも出さず、エドムンドは宣った。そして相手をからかうような声でこう続けた。

 

「共和主義思想を根絶する。この一点に関して王権同盟を結んだロマリアとも心は同じと”確信”しておる。猊下とてそうであろう? それとも猊下は始祖の末裔が国家を統治する世界の(ことわり)を否定する異端者に慈悲の心を示されるおつもりか」

 

「とんでもない。始祖の教えに従わぬ背教者にはそれに相応しい行き場所がある」

 

バリベリニの示唆する背教者の行き場所が地獄であるということをエドムンドは明確に察し、バリベリニは自分の示唆が通じたことを察して互いに朗らかに笑いあって、あたりどころない会話を始めた。

 

会話が(貴族たちにとって)穏やかな方向へと進んだので聞き耳を立てていた貴族達もホッと息を吐いた。すぐにどうこうなるとは思えないが、ロマリアとアルビオンの仲が険悪ならば、間にあるガリアにも確実に余波がくると予想できたからである。

 

しかし演技でもあのように笑いあえるということはそれほど深刻な対立までには発展していないのだろう。尤も、今後の展開次第でそれもどうなるか謎なので注意は必要だが。

 

「エドムンド陛下。ごきげんよう」

 

二人の会話が一段落したところで新たな人物がエドムンドに声をかけてきた。

 

そちらを振り向くと幾人かの貴族の団体が近づいてきていた。

 

「これはシルヴァニア辺境伯。そちらの方々は?」

 

バリベリニが問うと団体の中で一番恰幅の良い紳士が答えた。

 

「おお、大使のバリベリニ猊下も一緒でしたか。挨拶が遅れたことをお詫び申し上げます。それとアルビオンの国王陛下、私はシルヴァニア辺境伯と申します。他の者は右からサン=ジュスト伯爵、オードラン男爵、ベルナール騎士領主、ド・モンドンヴィル伯爵、フォン・サルダーニャ侯爵です」

 

ロマリアとの国境に領地を持つ名門の当主サルダーニャ侯爵から成り上がりの騎士領主まで纏まりのない顔ぶれにバリベリニは驚いた。

 

「皆さまはどういった集まりで?」

 

バリベリニは当然の疑問をぶつけられる。

 

「この園遊会の前に私が個人的に開いたパーティで親しくなった者たちだ。ああ、ベルナールだけは別だな」

 

シルヴァニア辺境伯がベルナールの肩をを叩く。

 

「こいつは私のシルヴァニアと国境を接する地に領地を賜った時以来の仲だ」

 

気弱そうな中年のベルナールは恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「ほう。シュヴァリエの身で領地を賜るとは、さぞ武勲を重ねられたのだな。私も武人として興味を覚えずにはおられんな。おぬしの武勇譚を聞かせて貰えぬか」

 

「いえ、僕は小さな功績を積み重ねた結果として領地を賜ったのです。十代の頃に単騎で竜を討った陛下に聞かせられるほどのものじゃないですよ」

 

「なに?! あんな昔のことがこのガリアまで響いておるのか?」

 

驚いたエドムンドにサルダーニャ侯爵は苦笑する。

 

「当時の新聞で大きく取り上げられていたので覚えていますよ」

 

「トリステインの”烈風”カリンが魔法衛士隊を引退して間もないころでしたからな。関連付けて”今度はアルビオンが”烈風”を得たのか?!”って大きく見出しが張られていましたな」

 

モンドンヴィル伯爵も当時を懐かしむような声で語る。

 

「”烈風”と比較するのはやめてくれないか。私でも火竜山脈の火竜の群れを単騎で撃破したり、出陣したという情報だけでゲルマニアの軍勢を撤退させるような所業ができる自信がないのでな」

 

ハルケギニア史上最強の風の担い手と謳われた英雄と重ねて見られていたとは完全に予想外だ。この分ではトリステインでも似たような感じで報道されていたのでは、とエドムンドは一抹の不安を覚えた。

 

「サロンでも話題になりましたな。シャルル殿下に強力なライバルが現れたぞと」

 

オードラン男爵の言葉に周りはギョッとした顔を浮かべた。それに気づいてオードラン男爵も「あっ」と言葉を漏らして気まずそうな顔をする。

 

「オードラン。あまり亡くなられた王弟殿下のことを話題に出さない方がいい。どういう意図があってのことかは知らないけど王弟殿下が王族の一員とされているとはいえ、ご家族から王族としての権利をはく奪され、臣下の主だった者たちは粛正されているんだ。下衆の勘繰りを受けかねないよ」

 

「す、すまない。サン=ジュスト」

 

「わかってくれればいいんだ。杞憂かもしれないけど君は一度前科持ちだろう? つい心配しすぎてしまうんだ」

 

優しげな顔を浮かべならのサン=ジュスト伯爵の言葉に、オードラン男爵は申し訳なそうな顔をするのだった。

 

「ミスタ・シルヴァニア。前科とはなんのことかね?」

 

エドムンドは声を殺してシルヴァニア辺境伯に問いかけた。

 

「あまり大きな声では言えませんが、オードラン男爵は元オルレアン派の中堅でね。オルレアン派粛正の際に爵位を下げられ、領地も僻地に転封された過去があるのだ。そんな男爵が王弟シャルル・オルレアンの話題をしていたら……」

 

「なるほど、変な曲解をしたがる連中がでてくるということか」

 

ひとつ頷いたエドムンドは

 

「オードラン男爵。おぬしは先ほどから何を言っておるのだ?」

 

「え?」

 

「私が”烈風”と比べないでくれと言った直後に妙な挙動をしおって、怪しいことこの上ないぞ」

 

エドムンドの言葉にオードラン男爵は頭にクエスチョンマークが乱舞する。サルダーニャ侯爵、モンドンヴィル伯爵、サン=ジュスト伯爵、バリベリニはエドムンドの意を察して押し黙った。

 

「陛下。オードラン男爵の王弟殿下の話題を出したことについて……」

 

しかし全く察せなかったベルナールが小声で疑問を口にする。

 

「王弟殿下の話題? なんのことだ。そのようなこと聞いておらぬぞ。のう、猊下?」

 

大声でそんな問いバリベリニにするエドムンド。

 

「ええ。私もなにも聞いておりませんな」

 

バリベリニはボケた仕草をしながらそう述べる。

 

「神と始祖に仕える枢機卿猊下がこう仰られておられるのだ。ミスタ・オードラン、おぬしがありもしない(・・・・・・)罪で裁かれることはあるまいよ!」

 

周囲に聞こえるほどの大声を出してエドムンドはオードラン男爵の両肩を叩く。そこでベルナールは悟った。エドムンドはオードラン男爵の失言を撤回するために”なにもなかった”ことにしたのだ。もしこの言葉を聞いてオードラン男爵のことを告発する奴がいれば、アルビオン王とブリミル教の枢機卿の不興を買うことになるのだ。

 

初めて会ったばかりのオードラン男爵の失言を庇うなんて、なんと若いのに立派な御方だろう。ベルナールは自分の半分くらいしか生きていない若い王に感心せずにはいられなかった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「なに。この程度、気にするな」

 

エドムンドは鷹揚に笑いながら、オードラン男爵の感謝を受け入れた。




なにやら怪しい貴族や聖職者が盛りだくさん! 

因みにエドムンドがオードランを庇ったのは完全な善意からではありません。他国の貴族に借りを売っとけばなにかと便利だろうくらいの感覚で助けてます。
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