風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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暇つぶしに昔のネタ帳探ったら面白いものが発掘できました。
ハリーポッターの二次創作で、オリ主は元スリザリンの旅人で、アンブリッジの親友と書かれておりました。
……どうやって話展開するつもりだったし、数年前の俺。


妖精編
矛盾の悪夢


宮殿の中庭からカンカンと木と木をぶつけ合わせる音が響き渡る。

 

「右が甘い! そんな攻撃の仕方では隙ができるぞ!」

 

「グッ!」

 

接近戦の稽古をつけてやっているのだが、目の前の少年は自分に圧倒されっぱなしだ。

 

こっちは片手で、しかも手加減してあげているというのに……

 

歳の差があるといっても十代前半の頃の自分ならば、これくらい簡単にやってのけたものだが。

 

一本取られたら終わろうかと思っていたのだが、いくら木製の剣を使っているとはいえ、流石に相手の肌の腫れが目立つようになってきたので弱弱しく振り下ろしてきた少年の剣を弾き飛ばして終わる。

 

「今日はここまでだ。よくやったウェールズ」

 

「……はい」

 

疲れ切った顔で少年ウェールズはその場に倒れこんだ。

 

端で控えていた高位の水メイジがウェールズの傷を癒す。

 

「僕はまだ子どもだよ? もっと手加減してくれてもいいじゃないか」

 

「お前の年頃くらいには高地地帯(ハイランド)で暴れていた風竜を一人で殺せるくらいの実力があった俺としては、むしろ手加減しすぎだと思っているのだが殿下」

 

「……十代半ばで竜狩人(ペンドラゴン)の称号を手に入れた従兄(にい)さんと一緒にしないでほしいな」

 

ウェールズが頬を膨らませながらつぶやく。

 

確かに竜狩人(ペンドラゴン)の称号を手に入れるのは歴戦の勇者と相場が決まっているのに、十代半ばで風竜を倒してしまった俺と比べるのも理不尽か。

 

「まあ、俺ほどすごくなれとは言わんが、ある程度は強くなってもらわねば困るのだがな。下につく者からすると、聡明だが自分より弱い主君に仕える分には耐えられるが、聡明で全く戦えない主君に仕えるのは勘弁願いたいものがおおかろうしな」

 

「それって大した差があるのかな」

 

「大ありだとも。戦で命を張る軍人にとって、戦の経験がない主君というのは自分たちを理解してくれない主君と思われるものだからな。王にとって戦争経験がないというのは致命的とまではいわぬが、軍人の信望を集めにくくなるというのは大きなハンデになりかねん。で、戦争から生きて帰ることは当然として、醜態を晒すことなく戻るためにどうしたって訓練を積むしかないのさ」

 

その説明にウェールズは納得いかぬまでも理解はした様子だった。

 

「でもそれなら接近戦より、魔法を鍛えた方がいいのでは?」

 

ウェールズの言い分にやや腹を立てたが、この城で暮らしているウェールズはまだ英雄譚や教本に書かれているような戦場しか知らず、まだ本当の戦場での人間の恐ろしさというのが理解できていないのだろうと思った。

 

しかしこれは言ってみて理解されるようなことでもないだろうと頭を悩ませると、ふとある名案を思い付いた。実践させればいいのだ。

 

「たしかにお前の言う通りかもしれんな」

 

「でしょ?」

 

満面の笑みを浮かべて得意げなウェールズを見て、嗜虐心が沸いてくるのを実感する。

 

ああ、その自信を木っ端微塵に粉砕したらどんな表情をするのか、非常に興味があるぞ。

 

「よし。なら前言を翻すことになるが、もう一度だけ模擬戦をするか。お前は杖を持って魔法を使ってもかまわん。俺から一本とるか、戦闘不能に追い込んでみろ。そうしたらこれからの稽古は魔法主体に切り替える」

 

その発言にウェールズだけでなく、ウェールズの治療をしていた水メイジ達も驚いた顔を浮かべる。

 

「いくら従兄(にい)さんでも、魔法封じられてメイジに勝てるわけないよ」

 

予想外の言葉に焦っているのか、ウェールズが口を震わせながら言ってくる。

 

「そんなことはない。それとも魔法を封じられてるメイジに負けるのが恥ずかしくてやりたくないのか?」

 

「……ッ! わかった。どうなっても知らないからなッ!」

 

安い挑発に簡単に乗った。敵の煽りに対する耐性も今後の課題かと脳裏にメモしておこう。

 

「そこの、はじめの合図を頼む」

 

治療をしていた水メイジの一人に声をかけ、自分とウェールズはさっき模擬戦を始めた位置に立ち、互いの木劍と杖が交差させた。

 

「言っておくが、こちらは魔法を封じられてるんだ。手加減抜きでいくぞ」

 

「え」

 

「はじめっ!」

 

その合図の直後、俺は木劍の連撃を繰り出し、ウェールズに詠唱する暇を与えなかった。

 

防戦一方のウェールズにできた隙を逃さず、腹を蹴り飛ばした。

 

ウェールズは口から胃の内容物を吐き出したが、すぐに”フライ”の魔法で浮かび上がった。

 

おそらくは距離をとって、遠距離から魔法で一方的に攻撃しようというのだろう。

 

予想通りだと思いながら、木劍を全力投擲する。狙いはウェールズの腕。

 

狙いは命中し、ウェールズは激痛に耐えきれず杖を落とし、重力に従って地面に自由落下した。

 

しばらく呆然としていたが、水メイジは状況を把握すると慌ててウェールズの治療に向かった。

 

あの高さから落ちたんじゃ気絶していてもおかしくないなと思いながら、エドムンドは声をかける。

 

「おい、意識はあるか」

 

「……なんとか」

 

「あの高さから落ちて意識があるなら上出来だ。だが、俺が杖をもっていないからと言って甘く見過ぎだ。冷静に対処していれば全て魔法でどうにかできたものを」

 

「……」

 

「早い話がだ。メイジに劣るとはいえ、魔法を使えない奴が相手でも間合いや先方次第では明確な脅威だ。そんな慢心をしていては平民に武器で殺されるという、王族にとって不名誉な死を迎えかねんぞ」

 

「……従兄(にい)さんも似たような経験あったの?」

 

わずかばかり表情を歪めた自覚がある。あれは自分の中でも黒歴史だ。

 

「ああ。ラカンの戦でな。油断していたところを地面に倒れて死んだふりをしていた剣士の奇襲を受けた。咄嗟に反撃が間に合ったからなんとかなったが、あと一瞬遅ければ俺の首はそいつに飛ばされていただろうよ。その剣士を殺した後もしばらく冷や汗が止まらなかったものだ」

 

ウェールズが驚いている。剣士に殺されかけた黒歴史は色々と体面がよろしくないという理由で公式記録からは抹消されている。俺がメイジ以外の相手をして命の危機におちったことがあるというのは少々信じ難いのかもしれない。

 

……その黒歴史含め、命の危機を感じたことは両手の指を少し超えるくらいの回数しかなかったような気がするので、そもそも命の危機を感じたことがあったということ自体に驚いているのかもしれないが。

 

「稽古は順調なようじゃの」

 

背後から自らの主君の声が聞こえ俺は振り返り、軽く頭を垂れた。

 

「父上!」

 

水メイジに治療されたウェールズが笑みを浮かべながら、ジェームズに抱きつく。

 

「おお我が息子よ。稽古に疲れただろう」

 

「はい! 従兄(にい)さんに何度もボコボコにされました」

 

「ふははは、そういうな。殿下の筋は悪くない。そのうち手加減状態では相手をしてられんようになるだろうさ」

 

「ほう。勇名高いステュワート伯にそう評されるとは、そなたの未来が楽しみじゃの」

 

ジェームズが息子の頭を撫でながら、喜びの笑顔を浮かべる。

 

「そうじゃ、さっきそこでクラリッサ嬢とあったぞ」

 

「クラリッサ嬢って確か従兄(にい)さんの婚約者ですよね」

 

ウェールズにそう言われると、気恥ずかしさで顔が赤くなった。

 

「ああ、そうだ」

 

「あー、顔が真っ赤になってる。ラブラブですね」

 

「やかましいこのクソガキ!」

 

「こら。主家に対してクソガキは無礼じゃろう」

 

からかうような声で窘められ、羞恥心を抑える。

 

「例にもとる言葉でした。お許しください殿下」

 

「うん。許す!」

 

ニコニコ笑うウェールズに、思わずため息をついた。

 

ジェームズもしばらく微笑ましいものを見る目をしていたが、急に真剣な顔になって俺を見てきた。

 

「聞いた話では、最近クラリッサ嬢とあっておらんそうじゃな」

 

「あー、そういえば最近は戦場に行ったり、部隊の訓練をしたり、殿下に稽古つけたりしてたせいでろくに会っていませんね……」

 

「来年の夏に結婚する予定だというのに、なんという甲斐性なしじゃ。モード大公がまた泣くぞ」

 

なんとも気まずい。

 

「えーと。それじゃあ、クラリッサに会ってきますね」

 

「それ以外の返答を聞いたら、軍務に就くことを禁止してやるべきか半ば本気で考えたぞ」

 

「御免!」

 

そう叫ぶと自分は逃げるように宮殿内に入った。そしてしばらく闇雲に走って落ち着いた後、クラリッサがどこにいるのか聞くのを忘れたのに気がついた。 

 

次女や文官にクラリッサがどこにいるか聞いて回り、教えてもらった方向へと進む。聞いて進む。聞いて進む。進む進む進む進む進む進む進む進む進む。

 

しかしハヴィランド宮殿はこんなに複雑な構造だっただろうか? かなり歩いたはずだが、なかなかクラリッサに会えない。

 

心なしか人の気配すらなくなった気がする。というかここはどこだ? 本当にハヴィランド宮殿なのか?

 

様々な疑問を抱きながらもとにかく進む。なぜか足を止める気にはなれなかった。

 

ふと廊下に絵画がかかっているのに気づき、それを眺めながらも走る。

 

絵の内容は様々だった。血に染まるニューカッスル、冷たいベイドリック、生首の林、仮面を被った騎士、凄惨な戦争、三色旗、地下牢の王、質素な戴冠式、すべて心当たりがないにもかかわらず、見覚えがあるような気がした。

 

絵画が途切れ、前を向くとそこに愛しい女性の姿があった。

 

「クラリッサ!」

 

いや、クラリッサだけではない。

 

父上がいる。兄達がいる。友らがいる。自分に忠誠を誓った臣下達もいる。

 

彼らは皆、微笑んでこちらを見ている。

 

合流しようと駆け出そうとするが、なにか押さえつけられたように前に進まない。

 

視線を自分の体に向けて、ギョッとした。体中に温かみが感じる光り輝く鎖が何重にも床から自分にまきついている。

 

自分にまきついている鎖をほどこうと悪戦苦闘していると、クラリッサ達が奥の方へと進んで行く。

 

「待って!」

 

そう叫ぶが、クラリッサも父上も兄達も友らも、誰一人反応を示さず奥へと進んで行く。

 

「待ってくれぇえええええええッ!!!」

 

ほどけろ! 邪魔だッ! この鎖ッ!!

 

コノク鎖サエ無ケレバ、彼女ラノトコロヘ行ケルトイウノニ……!

 

壊レロ! 自分ハムコウ側へ行クンダッ! 

 

全力で力任せに暴れ続け、その鎖のひとつにヒビが入り――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エドムンドの意識は現実に浮上した。

 

「ッ!」

 

豪華な高級ベットから飛び起き、反射的に周囲を見回して誰も見ていないかと警戒する。

 

さっきまで寝ていたとは思えないほど、エドムンドの目は狂おしい光を灯して見開いており、はげしい運動をし終わった直後のように、呼吸が乱れていた。

 

控えめに言っても、尋常な様子ではなかった。

 

エドムンドは何度も深呼吸して、体の激しい動悸を落ち着かせた。

 

呼吸が落ち着くと、今度は喉が渇きを訴えてきたので、私室の上に置いてあるガラス製の水差しの蓋をとって直接口に持っていて喉を潤す。

 

水差しの中の水が半分以上一気飲みしてようやく昂っていた精神が落ち着き、冷静な思考ができるようになってきた。

 

だが、それで自分が見た悪夢の内容を思い出すと今度は激しい怒りの感情が沸きあがってきた。

 

(俺はなんという夢を見たのだッ!)

 

その感情の矛先は、誰でもない自分であった。

 

誇りを守って名誉の戦死をする機会を奪い、地下牢で痛めつけることだけが目的の拷問で散々苦しませ、自分たちの立場をよくするために利用しつくして殺した伯父王ジェームズ。

 

傀儡となってクロムウェルに仕えていたことを知っているのに、都合の悪い部分だけ公表して名誉を貶めてやった従弟のウェールズ。

 

この二人とのなごやかな風景は、まだいい。たしかに腹立たしいことであるとはいえ、昔の記憶を見ただけだと言える。

 

だが、そのあとの光景は違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

エドムンドの主君としての矜持が、自分がそんなことを望んでいると、認めるわけにはいかなかった。

 

「くそっ!」

 

屈辱のあまり、エドムンドはほぼ無意識に持っていた水差しを壁に向かって投げた。

 

水差しはガラス製なので、壁にぶつかった衝撃で砕け散り、中に入っていた水が壁をつたって流れ落ちていく。

 

「さっきの音は何事ですか陛下ッ!」

 

ドアを蹴破るような勢いでヴァレリアが血相を変えて入室してきた。

 

ヨハネ以下、侍従武官達も続けて入室してくる。

 

どうやらガラスの割れる音で非常事態と思ってしまったらしい。

 

「まさかとは思いますが、エリザベートにでも襲われましたか?」

 

「いや。ちょっと手を滑らせて水差しを落としただけだ」

 

「お、おとしたのですか……?」

 

濡れた壁とエドムンドの顔の間で、視線が行ったり来たりするヴァレリア。

 

普通に考えて、手から落とした水差しが壁にぶつかって割れる筈がないのだから、不可解な顔をしている。

 

「落としたのだ。なにか疑問でも?」

 

殺気を含んだ視線で睨み付けると、ヴァレリアは疑問を押し殺して一礼した。

 

「片づけを頼む。その間、俺は少し夜風にあたってくる」

 

「陛下。雨が降っているのですが」

 

そう言われて、確かに雨音が響いているのをエドムンドの耳をとらえた。

 

「ヨハネの言う通り降ってるみたいだな」

 

エドムンドは腕を組んで少し考え込んだ後、

 

「では着替えを用意しておくように」

 

「へ、陛下?」

 

ヴァレリアは信じられないという顔をし、助けを求めて侍従武官長を見た。

 

侍従武官長はやれやれと首をふると、

 

「ミス。言う通りにするのだ」

 

「そんな! もし陛下が風邪でもお引きになったらどうするのです!? ミスタ・デヴルー、あなたの責任も問われますよ!」

 

認めていいわけがないと、ヴァレリアの不満に満ちた目が語っていた。

 

「なら命令する。俺が夜風に当たってる間、職務放棄でもしていろ」

 

「御意」

 

ヨハネが頭を下げ、ヴァレリアが頭を抱えてブツブツ言っているのを確認し、エドムンドはバルコニーへ向かった。

 

バルコニーに出ると雨に濡れて服が重くなったが、エドムンドは気にせず奥へ進み、端にある取っ手に両手を置いて、ある一点を見つめる。

 

その一点はロンディニウムの大広間。五年前、彼の父と深い関係にあった者たちの、命に代えても守ると誓った婚約者の首が晒されていた場所でもあった。

 

「天に坐す全能の神よ。御名を祟めさせ賜え。御国を来たら賜え。天に御心の成るが如くに、地にもまた成させたまえ。願わくば始祖ブリミルの御加護により 彼らの魂を至福の地へ導きたまえ……」

 

王の口から零れたのは、聖書にある死者への手向けの(うた)

 

それが終わると、次から次にブリミル教徒にとって聖なる(うた)を朗々と詠いあげる。

 

何分も何十分も広間から視線を動かさずに詠い続けるその姿は、どこか異様なものだった。

 

しかし、その声には修練に励む修行僧すら霞むような、真摯さが溢れていた。

 

「――遥か道の果て。我らが其の地にして再会せんことを」

 

いつの間にか厚い雲に隙間ができて、その穴から双月が世界を照らし出した。

 

そこでエドムンドが詠うのをやめ、自らの姿を省みて苦笑した。体がびしょ濡れになっていることに、その時ようやく気付いたのだった。

 

宮殿に戻ろうと踵を返し、ふと立ち止まる。

 

(しかし……)

 

首だけ振り返り、世界を照らす双月を眺める。

 

(なぜ今頃、あのような夢を見たのか。ジェームズめを殺してからは見なかったものを)

 

だが、ジェームズの面を拝まなくてすむようになってから、まだほんの数ヶ月しかたっていない。少し首を傾げながらもその夢を特別視することはなかった。

 

だが、もしかすると、その夢は今後の出会いを暗示する啓示であったのかもしれない。




ジョゼフと違って、エドムンドさんには信仰心があるようです。
……だからといって聖職者に対してまったく寛大ではありませんが。
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