「ただ今、グリムス伯爵の討伐より帰還しました」
謁見の間で玉座の前に跪き帰還の報告をする。
「ちゃんと貴族どもの反論を抑え込める物証も掴んできたのであろうな」
「はい。ディケンズの申すとおりのところに証拠が隠してありました」
「よくやってくれた。グリムス伯爵が死んだということは、貴族どもは結束のための旗頭を失ったということだ。もはや他の貴族どもは内心どうあれ、貴族として死にたくなければ俺に従わざるを得ぬ」
グリムス伯爵の能力をエドムンドは高く評価していなかったが、中立派貴族たちに対する影響力については高く評価していた。いろいろな欠点があるとはいえ、内乱期に中立派貴族と関係を持つことに腐心して得たグリムス伯爵の影響力というのはけっこう馬鹿にできない。
そのグリムス伯爵を他の貴族が結束する前に完璧な理由をもって討伐できたのはまさに僥倖というべきで、これにより不満の吐きどころさえ失ってしまった貴族たちは、命が惜しければエドムンドに従う以外の道はなくなったのである。
「つきましては陛下。今回のことについて多大な貢献をしたディケンズに重く用いてやってほしいのですが……」
「ああ、うむ。そうだな。そのディケンズとやらはどこにいる?」
「もしよければ新しく忠誠を誓う陛下にお目通りしたいと外で待たせておりますが……」
「……先日までグリムス伯爵の重臣であった男なのにか。なかなかに面の皮が厚い男のようだな。よし、その男を中に招き入れろ」
そう言われてヴァレリアが謁見の間の外に出、ディケンズを連れて再び入ってきた。
「おぬしがディケンズか。ディッガーより今回のグリムス伯爵討伐に関して大きな貢献をしたと聞いておる」
「御意にございます」
ディケンズの働きは貴族的な感性からいえば恥知らず以外の言葉が見当たらないものであったが、功績は莫大であった。
グリムス伯爵が秘密裏に中立派貴族と連携を取り、エドムンドに対抗する反王派閥を形成して国政に発言力を得るという方針を家臣に明らかにした直後、筆頭家臣であるはずのディケンズは主君を裏切る決意を固めた。
即位直後から始まった行政改革とそれに伴う粛正の恐ろしいまでのスムーズさで実行されたことから、からエドムンドの並外れた政治・謀略手腕を見抜いていたディケンズは、グリムス伯爵程度で対抗などできるはずもない。そんな自滅につき合わされてたまるものかと思ったのである。
しかしグリムス伯爵はそんな筆頭家臣の思惑をまったく読めなかったので、自然の成り行きで反王派閥形成のための中立派切り崩しの指揮は信頼篤い筆頭家臣であるディケンズがとることになった。
ディケンズはすぐさま自分の部下の取り込みをはかり、全体の四割程度にグリムス伯爵に対する裏切りの覚悟を決めた集団を形成するとグリムス伯爵に適当な理由をつけて王室と連絡をとった。王室の代表者として相対したのがユアンとかいう顔色の悪いガキだったことはディケンズの自尊心を深く傷つけたが、既に後には引けない以上、必死の交渉を行い、対価と引き換えに重要な情報をすべて密告した。
さらに討伐当日のディケンズの活躍も目覚ましいものだった。中立派貴族と連携をとる準備段階であるにもかかわらず、屋敷を襲撃してくる鉄騎隊の軍勢に狼狽するグリムス伯爵を懸命に宥め、隠し通路を通って身の安全を守るべきと進言し、グリムス伯爵を護衛を裏切り者集団で固めた。
そして隠し通路に入ってつい油断してしまったグリムス伯爵を護衛団が叛意も露わに強襲。グリムス伯爵を拘束し、隠し通路を逆走。屋敷を占拠していたディッガーの前へ突き出したのである。
ようやく事態を悟ったグリムス伯爵がディケンズのことを不忠者だから殺せだなんだと喚き散らしたが、既に本当の忠臣は皆捕縛されるか殺害されるか、さもなくば無念も露わに逃亡者たる道を選んでいたので、誰もグリムス伯爵の命令を聞く者はいなかった。
そしてグリムス伯爵は反逆罪で即決裁判にかけられ、晒し首の刑に処された。残った恨めし気な表情をしたかつての主君の頭部を見てもディケンズには罪悪感はいっさい沸かなかった。むしろもう二度と頑迷な主君の御機嫌取りをせずに済むとせいせいした感じがしたほど彼は吹っ切れていた。
「おぬしの貢献に対して私はどのように報いればよいのかな?」
「陛下の御為に働くことを認めていただきたく」
「……それは私の臣下の末席に名を連ねたいという意味か?」
「できれば末席以外の席に座りたいのですが、陛下がそう望むのならば一から微力を尽くしましょう」
面の皮が厚いとは言ったがここまで厚顔とは、とエドムンドは苦笑した。
主君を売り飛ばした身でありながら新しい主君にできるだけ高官になりたいと要求してくるのである。裏切りからの転向も、ここまでくるといっそ清々しさを感じるほどであった。
「よくもまあ、裏切り者の分際でそこまでほざけるものだな」
傍に控えていたヨハネが不機嫌さをあらわにそう言ったが、ディケンズは涼しい顔のまま
「たしかに普通なら恥も外聞も知らぬ愚か者と評されてしかるべきことを成しました。しかし陛下はそのような観点で物事を見るようなお方ではないとわたしは見ているのですが……?」
かなり大きな賭けに出たつもりで、ディケンズはそう問いかけた。
エドムンドは興味深げな表情を浮かべたが、その問いに対して答えず沈黙を選んだ。表情を見る限り好感を持たれているだろうとは思ったが、あまりに長い沈黙はディケンズを不安にさせたが、視線を逸らさずに返答を待った。
「……たいした度胸の持ち主よ」
感心するような一言に、ディケンズは自分が賭けに勝ったことを悟った。
「その見上げたずうずうしさを高く評価しよう。役職については考慮しておいてやる」
そう言ってエドムンドは腰に下げた杖剣を抜き、ディケンズの方に刃の平を当てた。
「問おう。神と始祖と精霊の御名の下、汝ディケンズ。アルビオン王国とその王であるエドムンド・ペンドラゴン・オブ・ステュワートに忠誠を誓い、我が手となり杖となることを誓うか?」
「承りました。これより我が身は貴方の杖となりましょう」
ディケンズは恭しく跪きて、なんの恥ずかしげもなくそう述べる。その様子にヨハネとディッガーは肩をすくめてため息を吐いた。
「さてこれでおぬしも私の臣下だ。今後とも忠義に励むがよい」
「ははっ!」
「ところでディッガー、今回の仔細についてはあとで報告書に目を通しておくからよいとして、おぬしにいうておかねばならぬことがある」
「? なんでございましょうか」
急に話を変える主君に総帥は疑問を抱いた。瑣末事ならいざ知らず、今回の討伐はそれなりに重要な意味を持つものであったはずである。エドムンドの気性からして、書類ではなく、直接当事者から報告されることを望む方がらしいと思えたからである。
「いやな、かつておぬしの主君が使えた公爵の娘が今この宮殿内におるのだ」
「……シャルロット様が?! なぜ?!」
「うむ。あまりに急なことであったのでおぬしに伝える暇がなかったのだが、ガリアから要請があってな」
エドムンドとヨハネがジョゼフと交わした秘密協定の説明をした。ディッガーはそのことに目を白黒させて狼狽したが、話の衝撃のあまり倒れそうになったディケンズの狼狽ぶりに比べれば、はるかにマシであった。
「わ、私が聞いてよかったのでしょうか……」
新参者が聞いていい話では絶対にないという不安のあまり、つい口からこぼれたディケンズの呟きのような問いをヨハネは聞き逃さなかった。
「安心しろ。おまえの適正はどう考えても裏工作向きだ。だからユアンが管轄するどこかの部署に属することになるだろうよ」
「ユアンって、あのガキですか。はぁ」
上司に苦手な人物がつくことが間違いないという情報に、ディケンズは思わずため息を吐いた。
ディケンズの不安が一掃された後、ディッガーが懸念を述べる。
「無事なのですか?」
「一応、客人として遇しておるが、実質は虜囚の身だな。ガリアの王弟姫というカードをどのように扱うか決めかねておるが、ガリアに引き渡すようなことは考えておらぬ」
もしイザベラが嫁になったら彼女の小間使い兼ストレス発散用の相手に任命してやるのも面白いかもしれないと冗談半分に考えはしたが、という後半部分をエドムンドは口にしなかった。なにも自分から主従関係に不和の種を蒔く必要もあるまい。
エドムンドの気遣いが功を奏したのか、ディッガーは安心したようにため息をついた。
「無粋だが、ひとつ問おう。陪臣だったとはいえ、かつてお前はオルレアン公に仕える貴族であった。今なおその忠誠心が残っておるならば、シャルロット殿下の元へ走っても構わんぞ。俺に対し忠義を欠くことを不安に思っておるならば気にするな。ちゃんと筋を通し去っていく者の背に斬りかかろうとは思わぬ」
「……」
本当にこの人は臣下のことをちゃんと見てくださっているのだな、とディッガーは主君の寛大さに感謝した。オルレアン公の遺児が傍にいると聞いてそんな気持ちが湧いてこなかったわけではなかったのである。
しかしてディッガーの答えは決まっていた。
「私には返しきれない恩があります。主君を失いあてもなく放浪していたところを陛下に見出していただき、再び騎士としての道を説いてくださった恩が。その恩を忘れてかつて忠誠を誓った主君が仕えた公爵の遺児に忠誠を誓い直せるほど、もう私は揺らいではおりませぬ」
そう揺るがぬ視線で忠誠の言葉を述べ、
「もちろん、私個人としての感情がないわけではありませんが、それを理由に騎士として道を誤ったりはしません」
私人としては別の感情があることも素直に述べた。数年の経験でそういった姿勢こそが、主君が好むところであると知っていたからである。
だから当然なのかもしれないが、エドムンドは満足気に何度も頷いてみせた。ディッガーの言葉に嘘偽りがないことを確信し、かつそれをよしとしているからこそであった。
「どうでもよいことだが、一応おぬしにも伝えておくとしよう。シャルロット殿下は西の客間におられる。太陽が沈まぬうちは、脱走など企てぬであろうし、自然そちらへの俺の関心も薄れるだろう。まあ、脱走を企てていたところで宮殿から出ることなど叶わぬ話だがな」
からかうような笑みを浮かべならがらエドムンドは薄っぺらい言葉を述べる。その真意がはっきりと伝わったディッガーは言葉少なに礼を述べて謁見の間を去った。
「意外です」
ディケンズが目を丸くしてそう呟き、エドムンドはディケンズの方に顔を向けた。
「なにがだ?」
「いえ、陛下は臣下に絶対的な服従を要求する人であると思っておりましたので」
「私は私に忠誠を誓う臣下に対してはその功績に応じて寛大に報いるよう心がけておる。ディッガーは私がガリアにいた頃から多大な功績を立ててきたのだからこの程度の配慮を示すは当然といえよう。おぬしとて私に忠誠を誓ったからにはその
エドムンドの返しにディケンズは戦慄した。”功績”ではなく”功罪”相応に報いるということは、功績には報酬で、罪を犯せば容赦なく罰でもって報いるということであり、裏切り者である自分への痛烈な皮肉であるように受け取れたからであった。
その頃、サイトとギーシュは宮殿内を散策していた。
移送中と変わらず彼らの監視及び護衛を行っているはずのデュライとその部下の姿はない。だが、それは彼らの自由を約束しているわけではなかった。
彼らの行動パターンから、ルイズとタバサとティファニアが彼らの中でも重要な人物であると睨み、彼女らだけ警戒しておけば後の連中は「妙な真似をすれば彼女らの安全は保障しない」と脅すだけで十分に効果があると踏んだのである。
実際、デュライの目は正しく彼女たちを置きざりにして逃亡できるような性根の持ち主は誰一人として存在しなかった。反抗心が刺激されたキュルケは得意の色仕掛けでデュライの目を誤魔化そうとしたが、一度そういうことで痛い目にあったことのある彼は金でどうにかなる女遊びしかしない習慣がついていたので無意味だった。
そしてギーシュとサイトも反発心を刺激され、どっかに都合のいい脱走路的なものが存在しないかと宮殿内を探索しているわけである。特にサイトは相棒のデルフリンガーがどこにあるのか探していた。武器さえあれば、娘に手を出されて怒り心頭のヴァリエール公爵の追っ手から逃げた時みたいにどうにかできるだろうと楽観的に考えてもいたからである。
「どっかそれっぽいとこあったかい?」
「ないな。物語とかだったら銅像の下とかが定番なんだけどなぁ……」
普通に考えて、そう簡単に見つかるような場所に秘密の抜け道があるはずがないのだが、サイトは物語などでよくある場所を重点的に探す。
ふとギーシュが柱のレンガがむき出しになっているところをひとつひとつ押しているを見えた。
「さすがにそんなとこに隠し道あるわけないだろうが」
「なにを言ってるんだい? こういう普通の部分が実は魔導具のスイッチになっていて、それを押したら秘密の道が、っていうのは定番じゃないか」
「……こっちの秘密通路ってそんな感じなのか。さすがファンタジー」
ギーシュが昔見た、悪の大臣が王を幽閉して宮廷を乗っ取られたところへ王に忠誠を誓う騎士たちが秘密の抜け道を通って奇襲をかけ、大臣を倒して国王を救出するという内容の演劇を思い出しながらの反論され、サイトは思わず関心した。
次にじゃあ自分が見たアニメとかで知った秘密通路の知識って役立たずじゃないかと落ち込んだ。サイトが知っている知識はいわゆるピタゴラスイッチ的なギミックによるものがせいぜいでハルケギニア風の魔法を用いた秘密通路へのスイッチの場所などまったくない。
「あら? こんなところでなにをしているのかしら?」
唐突に声をかけられてドキッとし、二人はおそるおそる振り返り、そしてまったく違う意味で再びドキッとした。
なぜならメイド服を着た妙齢の美女が、微笑みながらこちらを見ていたからである。
「なんと美しい女性だ! ぼくの名はギーシュ・ド・グラモン、美しく咲き誇る一輪の薔薇です! よかったら美しいあなたの名前を聞かせてはもらえませんか?」
「あら、お上手ね」
ギーシュのくさい自己紹介にも、嫌がってることなく微笑みながら受け取った。
「わたしの名前はエリザベート。この城で働いているの。それでギーシュ様たちはこんなところで、その、妙な動きをしていたのかしら? 見慣れない顔だけど、もしかしたら侵入者かなにかだったりするわけ?」
かなり怪しい質問であったが、とろけるような笑みを浮かべて、聖歌隊の少女のような美しいソプラノ声での質問であったので、その魅惑さに魅了されてそのような疑問が浮かぶ余裕が二人にはなかった。
しかしまさかいざという時に宮殿を脱出できるように、秘密通路を探してましたとか言えるわけがなかった。
「いや、その、今日初めてここにきたから、道に迷ったんだ……よな? そ、それで、見覚えないかなーと柱を睨みつけてたわけ」
目があっちこっち泳いでる上に歯切れが悪すぎて、胡散臭さが爆発していた。
しかしサイトの姿を見たエリザベートはゆっくりと目を細めた。その仕草も怪しい美しさを感じさせるものになっていてサイトは気恥ずかしくて目を逸らした。
「黒い髪に、少し焼けた肌。それに……ギーシュ・ド・グラモン様と一緒……、もしかしてあなたは七万の軍勢を相手に、一人で果敢に戦ったというトリステインの英雄のサイト様ではありませんか?」
期待に震えるような問いに、サイトはつい調子に乗って、
「おれがそのサイトだったり、しちゃうのかな? かな?」
「すくなくとも七万の敵を相手にした英雄はここ数年だと、きみだけだと思うよ」
ギーシュの言葉に、ここ数年ってことはそれ以前なら似たようなことをやったやついるの?!と思わずツッコミそうになったが、直前にルイズの母ちゃん――烈風カリンのこと――を思い出して納得した。この前ヴァリエール領に行った時、魔法で馬車ごと吹っ飛ばされたのは記憶に新しい。
そして自分が手も足も出ず一方的にボコボコにされた恐怖も思い出した。あれで現役時代より多少衰えたとか言っていたけど、それなら全盛期はどんな化け物だったんだと思わずにはいられない。自分が百人いたところで勝てるビジョンがまるでうかばない。
その回想は目の前のエリザベートからあがった黄色い歓声によって中断させられた。
「そう! あなたがそうなの!? 平民なのに貴族様になって伝説の
「隊長はぼくなんだけど……」
ギーシュが不満げに述べると、エリザベートはしゅんと申し訳なさそうな顔をし、
「……そうだったのですか、では、わたしの聞いた情報が間違っていたのですね。グラモン家の御曹司は副隊長だって、聞いていたのですけど、申し訳ありません」
そう言って頭を下げられると、女性に優しいギーシュとしては逆に罪悪感が湧き上がった。
「別にかまわないよ。そんな些細な間違いたいしたことじゃないからね」
「その割には、ずいぶん不満そうに言ってなかったか?」
サイトの揶揄をギーシュは無視して、落ち込んでいるエリザベートを慰めた。
「あ! そうだわ!!」
なにか閃いたのか、エリザベートはそう言うと、瞳を輝かせた。
「ねぇ、時間に余裕はあるかしら? 無礼のお詫びをするから、わたしたちの休憩室でもてなしたいの。同僚のみんなも喜ぶと思うし、ギーシュ様やサイト様もきっと楽しい思いができますわ」
その誘いに、サイトとギーシュは大いに揺れた。エリザベートの同僚といえば、当然メイドだろう。エリザベートの容姿のレベルがキュルケを超えるほど高いので、他のメイドへの期待度もあがるというものだ。しかし一方、ルイズたちのために宮殿の内部、特に脱出ルートを探し置きたいという気持ちがあった。
「おい、なにをしている?」
しかしその迷いは氷点下の冷たさを持つ声で中断させられた。
「総帥殿はわたしになにかようかしら?」
「なにをしているのだと聞いている。そこにいるのは陛下が客人扱いにせよと言っていた者達ではないか」
「そうねぇ、だからわたしたちのやり方で
「ッ! 失せろ老婆!!」
ディッガーの怒声に、エリザベートは「やーねー」と言いながら消えていった。
エリザベートが視界から消えると、ディッガーはため息をつき、サイトに近づいた。
「サイト殿。なにもされなかったでしょうか?」
「い、いえ」
「そうですか。ならよかった。あれは問題児なのです。今後深く関わらないよう気をつけてください」
ディッガーとはウエストウッド村で少し会っただけの関係だが、サイトは理由もなく嘘をつくような人じゃないと好感を持っていたので、エリザベートは問題児なのだと素直に飲み込んだ。さっきの男心を手玉にとってる感じからしてたぶんキュルケ的な感じをもっと悪辣にしたような感じで。
「問題児っていうほどなら、どうして雇ってるんでしょうか?」
ギーシュの素朴な疑問に、ディッガーは肺の中の空気を全て吐き出すように深呼吸した。
「……どういうわけか、陛下が彼女を気に入っておられるのです。陛下には何度か進言しているのですが……、受け入れてもらえず」
ギーシュは思わずディッガーに同情した。演劇などで明らかに怪しい人物を重用する王を諫言する騎士が主人公の話で、諫言を聞いてもらえずに歯噛みする騎士にいたく共感するタイプだったので、ディッガーはまさしくそういう物語の主人公であるように思えたのである。
だが、ディッガーはすぐに姿勢を正すと、二人に問いかけた。
「ところでシャル、いえ、タバサ嬢のいる客間のところまで案内していただきませんか?」
もしエリザベートの誘いに乗ってたら、サイトとギーシュは彼女たちの(文字通りの意味で)晩餐になったかも。