風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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夕食会のはじまり

一時間近くディッガーと客間で話し合っていると、扉がノックされた。誰かと思い、ディッガーが扉を開けるといつものように無表情なユアンが立っていた。

 

「どうした?」

 

「客人の方々へ伝えることができたので」

 

「それは情報部の判断か」

 

「いえ、陛下の御意思です」

 

それを確認すると、ディッガーは青白い顔の少年を部屋の中に入れた。ユアンは自分の顔色より遥かに鮮やかな青い髪を持つ少女を見受けると機械的に伝言を伝えた。

 

「エドムンド様が夕食会にお招きです。そこで今回の一件について話し合いたいとのこと」

 

「わたしだけ?」

 

平坦な口調でそう問い返すのは当然タバサである。

 

「いえ、ここにいる皆さますべてです。我々の目的はガリア王弟姫の身柄確保だったのですが、いろいろと予想外な人たちの身柄も確保してしまったので、いっそのこと全員の顔を見ながら対応を決めるとエドムンド様が言われましたので」

 

タバサがコクンと頷くと、ユアンは用が済んだとばかりに部屋から出て行こうと身を翻したが、背後から声がかかった。

 

「ねぇ、それっておれらも行って大丈夫なの?」

 

声の主はウエストウッド村の孤児たちの中では最年長であるジムであった。彼は他の子と違って自分たちが囚われの身というのを理解していたし、()()()というのがどういうことを意味するのかわかってないが、周りの言葉からなんとなく偉い人ということは理解していた。

 

そんなのと自分たちが一緒に会って夜ご飯なんか食べていいのかと遠慮したのである。

 

だが、ユアンはさっき全員と言ったから別のことだろうと思い、相手が何の許可を求めているのか少し考え込むことになった。やがてどうもさきほどの話をちゃんと聞いていなかったのだという可能性に思い至った。

 

「全員です。きみたちも当然含まれている」

 

当たり前のことを告げるように無感動に返されて、ジムはなんか恥ずかしくなって萎縮してしまった。

 

「なんか初めて会った頃のタバサと同じくらい感情がわからないわね」

 

キュルケが感心してるのか呆れてるのかよくわからない声でそう呟くと、ユアンは初めて少し眉の根を顰めた。

 

「あなたは……たしかミス・ツェルプストー、でしたか」

 

「あら、なにか用かしら」

 

「ツェルプストーは有名な武門の家柄。ゲルマニアの……」

 

その声には今までとは違い、どこか嫌悪感を感じる響きがあった。

 

「なによ。わたしに言いたいことでもあるの?」

 

わずかなものとはいえ、いきなりそんな感情を向けられてキュルケは不快に思った。しかしユアンは「いえ、別に」とだけ呟くと、何事もなかったように平然と部屋から出て行った。

 

その態度にキュルケは怒りに震えた。

 

「なによあいつ! タバサと似てるなんて言ったわたしが間違ってたわ。初めて会った頃のタバサは無口でわけわかんない本の虫のようにしか思えなかったけど、あいつみたいにいきなり相手を不快にさせるようなことしなかったし、悪いことしたと思ったらちゃんと謝れたわ。なのになんなのよあれ!?」

 

「……きつい」

 

引き合いに出されたタバサは親友の初対面時の印象を聞かされて少し傷ついた。気心しれた間なら別に気にも留めないことではあるが、ここはアルビオンでディッガーをはじめ、会ってそう時間が経ってないような人がいる場ではすこし恥ずかしさを感じずにはいられない。

 

「申し訳ありません。我が国の者が無礼を」

 

ディッガーは頭を下げた。ユアンの感情が理解できる彼としては誠心誠意謝意を示し、その事情を語るしかなかった。

 

「ですが、どうかご容赦を。あの子は、ユアンはゲルマニアの元奴隷なのです。ゲルマニア貴族であるあなたに対して穏やかではない感情があるのでしょう」

 

あまりに予想外な単語が飛び出して、全員理解できずにぽかんとした顔をし、理解すると顔色を真っ青にして絶句した。いち早く正気を取り戻したルイズは湧き出てきた怒りのあまり顔を赤くして叫んだ。

 

「奴隷ってなによ! キュルケ!! ゲルマニアにはそんな野蛮な制度がまだ残ってるっていうの?!」

 

「……表向きにはないわ。あたしの生まれ育ったツェルプストーでもね。でも、そんな話を聞いたことは何度かあるわ。お父様もなんとかしようとしてるそうだけど……」

 

つらい顔をして、悔しさを滲ませたキュルケの姿を見て、伝統を蔑ろにするゲルマニアの評判悪さのせいで発生した根拠のない噂に過ぎないと思っていたそれが、現実のことであるとルイズは悟った。

 

ゲルマニアは約四百年前の聖戦で疲弊した諸侯たちが、聖戦を主導した宗教庁や三王家に対する反感から辺境諸侯が王家からの独立を宣言して成立した領邦国家群をルーツとしている。

 

ゆえにハルケギニアの伝統に囚われることなく実力主義をモットーとし、メイジどころかブリミル教徒でなくとも爵位を買えば貴族になることが可能であり、そんな人物が高位の官職につくことも珍しくない。そんな進歩的で革新的(他の五大国が評する表現を借りれば野蛮的)な制度を筆頭に前例にとらわれない方法で急速に国力を伸ばし、ガリアに次ぐ軍事大国に変貌した栄光の歴史を持つ。

 

だが、その進歩の栄光の影で、悪しき歴史の逆行も同時に進行してしまった。。その結果としてゲルマニアでは奴隷制度がいまなお存在いているのである。ゲルマニアは対外的には国内で試行されている奴隷制度禁止法の存在をあげ、そのような商売は行われていないと主張する。ゲルマニアのどんな都市でも大通りで奴隷の売買なんかしていたら、すぐに衛兵に捕まえられるので嘘ではない。

 

問題はその奴隷制度禁止法とやらの内容が抜け穴だらけの上に罰則自体も非常に軽いなど、ほとんど効力がない法律なのである。なのでゲルマニアには奴隷の一大市場が各地のそうとは見えない場所に存在し、人がまるでもののように金で売買されているのである。

 

どうしてそんなことになってしまったのか。これは皮肉にもゲルマニアが実力主義を唱え、魔法に頼らぬ技術開発を推進させ、大国へと成長させた理由と根を同じくしている。すなわち、自らの語る教義こそ正統であり絶対的に正しいと唱えるロマリア宗教庁への反感である。

 

そもそも六千年の歴史を誇るハルケギニアで、奴隷制度が悪しき制度であるとみられるようになったのは千年程前から徐々に広まってきたことであり、それ以前はどこの国でも奴隷制度があって当たり前、普通なことだったのである。それが変わった最大の要因はロマリアの熱心な宗教活動によるところが大きいのだった。

 

ブリミル教の教義では”人は皆、平等である”と説く。なので平等であるはずの人が人を家畜のように飼いならすことなど許されるはずがない。それは始祖の教えに背く行為である。奴隷制度を存続させようとする者は神と始祖に背くに等しい行為だ。信仰厚き者よ、団結して奴隷たちを人として解放するのだ……と、千年前のある日を境にあちこちで聖職者たちが信者に向かってにそう説法しだしたのである。

 

聖職者たちが、そんな説法を一斉にしだしたのは時の教皇が奴隷解放を訴える檄文を各地の教会に送りつけたからであった。それは教皇自身の良心によるところがないわけではなかったが、それ以上に宗教庁が実際に哀れな奴隷たちを救ってみせる行動を見せつければ、民たちは感激し、これまで以上に熱心な信者を獲得できるだろうという打算があったのであった。

 

諸国の王やその重臣たちは神と始祖の御心に背いているのではいかという精神的不安と、奴隷解放を訴える民衆の暴動という物理的不安で心の安寧を脅かされながらも、なかなか奴隷解放の決断を下さなかった。奴隷なしでどうやって労働力を確保すればよいのかとか、解放した奴隷が世間への恨みから逆賊と化したりしないかなどという未来への不安があったからである。

 

中でも彼らを最大の不安が奴隷解放をした余波をかって、平民たちが貴族を蔑ろにして好き勝手振舞うようになり、亡国の道に向かって一直線という考えるだに恐ろしい事態を招来しないか、ということであった。その最大の不安のせいで王や貴族たちは恐慌状態に陥りながらも、奴隷制度廃止を求める声に反射的に反対した。

 

事態を見かねた教皇は、”人は皆、平等である”から奴隷制度は廃止されねばならないと同時に、”魔法は神より授かった神聖な力である”という聖書の一節を強調しながら教皇がメイジである王と貴族の権威と特権が揺らぐことはないと宣言した。要するにこれは王侯貴族に対する事実上の譲歩であり、諸国の王は恐慌状態から抜け出したい一心でその譲歩に縋りついた。

 

かくして奴隷制度廃止を謳う国際法に諸国が調印し、奴隷制度は表向きには廃止された。だが、廃止されたからといって奴隷を売買することで生きてきた者たちが簡単にそれを止めるはずがなく、あらゆる手を使って司法の手を逃れて商いを続ける者は少なくなかった……。

 

そうしてロマリアへ激しい憎悪を抱きながら六百年にわたって目立たない辺境などでこっそりと存続してきた奴隷商は、宗教庁に対して反発を抱いて独立した領邦国家群に強い共感を感じ、商売から宗教庁の目をごまかす点でも魅力的である領邦国家群を新たな拠点とすることを選んだ奴隷商は多く存在した。国家の創設期にそんな奴隷商が大量に流入したせいで領邦国家は奴隷売買が根付いてしまい、中には半ば公然と認めるような例すらあったという。

 

ゲルマニアによって領邦国家群が統一されて以来、歴代の皇帝は根付いてしまった奴隷商の根絶に力をあげているのだが、数百年根付いた奴隷商はさまざまな有力者と複雑きわまる利害関係を構築し、大量の有力者が彼らの代弁者となって奴隷商を守ろうとする。かつての教皇がしたようにブリミル教徒としての道徳心に訴えようにも、宗教庁に対する反発が建国の基礎部分になってるのでゲルマニア人の信仰心に期待できるはずがなかった。事実上手詰まりに陥ってるわけだ。

 

「なんだよそれ胸糞悪い」

 

サイトは異世界人であったから、生まれにこだわらず金で爵位が買えて貴族になれる実力主義の国というのがゲルマニアに対する評価であって、しばしば周りの人たちが野蛮だと言うのに首を傾げたものだが、初めて本心から野蛮な国だと思えた。

 

「ってことは、あの子がわたしにあんな態度をとったのは……」

 

「あなたがゲルマニアの貴族だからでしょう。もちろん、あなたに責任があるとは言いませんが、ユアンにとっては色々と複雑な感情を抱かずにはいられないでしょうし、そっけない態度をとってしまったのもそのせいなのかもしれません」

 

キュルケは情熱と進取のゲルマニア人であることに誇りを持っている。だが、一方でゲルマニアという国家そのものに忠誠心や愛国心を持てないのはこういった不快な要素も祖国の一部であるからであった。キュルケに限らず、ほとんどのゲルマニア人もまたそうであることだろう。

 

キュルケはユアンの過去を思って同情を禁じ得ず、悲しい表情をした。

 

「あのクソガキに同情なんてする必要なんかねぇぞ」

 

客間の前を警備しながら様子を伺っていたデュライが我慢できんとばかりに、忌々しそうな顔をしながら口を挟んだ。

 

「なによ! あんた奴隷だった相手に同情するのは間違いだとでも言いたいの!!」

 

「そうは言わねぇよ。だがな、俺らがまだ番号で呼ばれていた頃のあいつと出会ったあの時から、今までなにひとつ変わっちゃいない。いや、変わろうとすらしていない。今も自分を奴隷と思い込んでる真性のバカだ。命令を受けなきゃなにもしちゃいけないと信じてやがる。さっきのだってそうだ。自分を奴隷にしたゲルマニアの連中が気に入らないなら、それなりの態度をとってしかるべきなのに何事にも無関心であるかのように振る舞いやがる。結局のところ、自分に自信が持てねぇ臆病者さ」

 

心底腹立たしくそう言うデュライに、ルイズはなにも言い返せなかった。その怒りの矛先がユアンそのものに向いているわけではないと理解できたからであった。

 

すこし喋りすぎたと思ったのか、デュライは軽く舌打ちすると、

 

「とにかくだ。あんな貧血野郎に同情なんざする必要はねぇ。自分で自分を変えられないやつなんか、どうせ哀れな末路しか待ってない。同情なんてしたら無駄なだけだ」

 

「よせ。誰かに対し同情するなと命令することは人の身では不可能なことだぞ」

 

「……ああ、すまんな総帥」

 

デュライは憮然とした顔で警備の任務に戻った。だがその憮然な表情の裏に怒りの感情が揺蕩っていることは、誰もが理解できてしまうほど拙いものであったが……

 

 

 

その夜、デュライに案内されて夕食会に出席した。部屋はそんなに大きくなかったが、巨大な円形の机が存在感を放っており、その上にはいろんな料理が配置かれており、エドムンド側は本人と赤毛の騎士、そしてディッガーだけで残りは給仕が控えているだけであった。

 

客間に突撃してきた時の印象から怖い人だと思ったが、その後ティファニアと昔語りをしていた時の表情はとても優し気で、ウェールズ王子に似た容姿もあってあまり怖い人でもないのかなと評価を改めていたサイトだった。

 

だが、椅子に座りながら王者の威厳を放っている姿を見ると、その評価も再びどこかへ消し飛んでしまいそうになり、やっぱり怖い人なんじゃとサイトは思ってしまっていた。

 

「異国の客人たちよ。歓迎申し上げる。今更ながら自己紹介をしておこう。私はエドムンド・オブ・ステュワート。アルビオン王にしてモード大公が三子、そして大変腹立たしいことではだが前王ジェームズの甥でもある。できればそのあたりのことは触れないでくれたまえ。そしてもし前王の話題をしたいのであれば相応の覚悟をしておくことだな」

 

友好的な笑みを浮かべながら物騒な紹介をするエドムンド。

 

明らかにジェームズに対する敵意を感じさせる言葉に、テューダー朝最後の日に立ち会ったルイズとサイトは反感を覚えたが、なにも言わなかった。

 

それは日中ディッガーと話していた時に、サイトがエドムンドがウェールズと似た顔をしていると話題にだした時の経験の賜物であった。

 

「……おまえとウェールズにどのような関係があるかは聞きはせん。しかし今のアルビオンでウェールズやその父ジェームズの名前を出せば、ろくな目にあわないぞ」

 

その言葉にサイトは反発した。ジェームズやウェールズ、アルビオン王党派の人たちがどんなに立派な人たちだったか、サイトは自分の目で見て知っていたからだ。それは同じ場所にいたルイズもそうだった。

 

「いいか。アルビオンの民は王党派と貴族派の内乱で三年、いや、その予兆の対立による混乱も含めれば五年も苦しんだんだ。そしてその対立の原因はなんといってもジェームズがモード大公とその一派を理不尽に牢に入れ、なんの証拠も示さずに反逆罪で処したからだ。あれ以来、貴族たちは王への猜疑心を募らせ、その間隙をついてあの醜悪な共和主義者どもが台頭し、更に民は苦しんだ。そんな経験をした民がジェームズに好意的であるはずがないだろう。実際、ジェームズが崩御した時、本気で悲しんでるやつなんてほとんどいなかっただろうしな。

そしてなにより、今、王座にある御方がだれであるか少しは考えろ。エドムンド陛下はモード大公の子なのだぞ。いきなり心当たりがまるでない罪で自分達から王族としての権利を奪い、捕らえたものはほとんど例外なく反逆罪かその連座で処刑にされた。陛下の臣下や友だけではなく、敬愛した父や兄、そして婚約者までもがジェームズによって首を晒され、その死すら弔われることなく無慈悲に踏みにじられた。そんな奴の息子に似てると言われて陛下がどんな風に受け止めるか、そんな奴らの話題をして陛下に忠誠を誓う者達がどのように思うか、わからないとでも言うつもりか?」

 

エドムンドに降りかかった悲劇を聞いてサイトは言い返すことができなかった。タバサが経験した悲劇をキュルケから聞かされた時はジョゼフに対して激しい怒りを覚えたものだが、今回はその悲惨さにただただ圧倒されてしまった。

 

しかしルイズを襲った衝撃の方が大きかったかもしれない。彼女は先の戦争の時にサイトが死んだと聞いただけで絶望し、自殺すらしそうになったのである。それだけに実際に婚約者を奪われたエドムンドがジェームズを憎むのは当然だと思えた。ましてサイトとは違い、反逆罪の連座という名誉の欠片もない死なのである。

 

「それにな。私とて陛下に忠誠を誓う臣下の一人だ。他国人だからある程度抑えがきくが、主君に襲った惨劇の話をしていては気分が悪くなる。これ以上、ジェームズやウェールズの話題をするなら実力行使も考えるぞ」

 

瞳に殺気すら浮かべてそう言われ、ルイズとサイトはコクコクと必死で首を縦に振ったものである。こうしたやり取りがあって今のアルビオンでジェームズやウェールズの名前を出すのは地雷であるとようやく理解できたのであった。

 

「さっそく食事を始めるとしようか。神と始祖よ、今宵も我らに生きるための糧を与えてくださったことに感謝を。さて、まずはなにに乾杯するかだが……」

 

給仕たちが机の上に置かれたグラスに赤いワインを注いでいく(孤児たちの分はワインではなく野菜ジュースであったが)のを確認すると、エドムンドが視線をタバサに向けた。

 

「誓いに」

 

「……誓いか。まあ、それも良し。乾杯!」

 

エドムンドがそう言ってグラスを掲げる。ディッガーとヨハネはすぐさま追従し、サイトたちもそれに倣い、ティファニアと孤児たちは、慣れない行動に戸惑いながらも同じようにグラスを掲げた。

 

「ハルケギニア諸国からメシマズの国と蔑まれるアルビオン料理が口にあうとよいのだが、嫌ならば残しても不機嫌にはならんぞ」

 

その忠告を聞いて、サイトはやや警戒しながらステーキに手をつけたのだが、普通においしかったので首を傾げた。しかしキュルケやギーシュ、ルイズがやや顔を顰めているのが目に入った。

 

「そんなにマズいか? おれは別に気にならないんだけど」

 

「たしかに気にするほどじゃないんだけど……野菜の味が……」

 

そう小声でルイズに言われ、サイトは野菜のサラダを口に含んだ。薄い。野菜の味が薄すぎる。いや、薄いとかいうレベルじゃなく味覚をぜんぜん刺激してくれない。

 

そしてその味の薄さを誤魔化そうとしているのか、ドレッシングが異様に濃く、サラダを食べてるんだがドレッシングを食べてるんだがよくわからない感覚になる。

 

なんというか、普通に食べられるけどおいしくない。

 

「やはり素材の方は如何ともしがたいか。かなりマシになってきているはずなのだがな」

 

少し憂い気にエドムンドはため息を吐いた。

 

「これでマシなんですか?」

 

「ああ、マシだとも。少なくとも百年戦争の頃よりかは……と、いつまでも下らぬ雑談をしておるわけにはいかぬ。本題に入らせてもらうとしよう」

 

そしてエドムンドはタバサを油断なく睨み付けた。

 

「さて、シャルロット殿下。今後どうなされるおつもりで? お気持ち次第によってはおぬしに助力してもかまわぬのだが」

 

「どういう意味?」

 

「単純な話だ。もしおぬしが血に染まる覚悟があるというなら、復讐を手伝ってやってもかまわぬぞと言っておるのだ」

 

予想外な申し出に、タバサは目を大きく見開いたが、驚きのあまり思わず声をあげたのはキュルケだった。

 

「ちょっと待って! アルビオンはガリアの友好国でしょう? なのにどうして敵対しようとするのよ!?」

 

「友好をこれ以上深めるかどうかは別として、ガリアとは友好的関係を維持したいとは思っておる。だが、それがなにも無能王と友好的でありたいということを意味しない。それにガリアの宮廷の様子からおぬしならば十二分に勝ちの目はあるように思えるからな」

 

当然、この提案はエドムンドの本心ではない。ただオルレアン公の遺児を放り込めば、ガリアに政治的大混乱が発生することは容易に想像でき、ジョゼフがおそろしく長い陰謀の糸をハルケギニア中に張り巡らせる時間を削れるかと思えば多少は支援してやってもよいかと思っているのである。

 

そしてシャルロットを支援する一方でジョゼフとのつながりも切らず、互いに良い顔をして天秤にかけてやるという方法を最初考えた。そして少しでも価値あると思える方に助力する。これはこれで悪くない話に思える。だが、ジョゼフの陰謀能力の高さを鑑みるとかなり危ない橋であり、現実的ではないと没にしたのであった。

 

というわけでシャルロットの蜂起の前準備を手伝ってやるだけで、蜂起後は完全放置で勝手にさせる。もしシャルロットやそれに忠を誓う者達に神が微笑むならば生き残れる目もあろう。だが、ジョゼフの底のしれなさを鑑みるに、可能性は低いのではないかと思わざるを得ないし、仮にうまくいったとして、ジョゼフのぬるま湯統治法によって育まれた雑多な勢力を処理して十全に統治できるのか、と不安要素満載であるが。それでもジョゼフの相手を務めてくれるなら、それだけでこちらは助かる。

 

「断る」

 

「ふむ。なぜかな? やはり面識もない国の王の口約束なぞ信じられぬか?」

 

「違う。仇は自分の手で討ちたい。それに他人を巻き込みたくない」

 

断る理由が予想外だったので、エドムンドは目を白黒させた。数秒してその言葉を飲み込むと、エドムンドはまるで錆び付いた金属製の鎧でも着ているかのようにギギギ……とぎこちのない動きで隣にいる赤髪の騎士を見た。

 

「……ヨハネ。どういうことかな?」

 

「陛下。人それぞれです。見解に相違があってしかるべきでしょう」

 

無表情の顔面に、薄っぺらくて表情筋がひきつりまくってる満面の笑みの仮面を被った主君の問いに、ヨハネは内心恐怖で震え、頬に冷や汗をたらしながらもそう答えた。

 

「……では、あの時のおぬしの言葉に嘘偽りはないのだな」

 

「はっ」

 

「よかろう。ならば、よかろう」

 

そう言って二度頷くと、なにか危うい気配は消え去った。

 

「話の腰を折って悪かったな。ということは殿下はガリアの王位を望んでいないと認識してもよいかな」

 

こくりと頷くタバサ。

 

「しかし、そうなると……困ったな」

 

顎に手を当てながら、心底困ったという表情を浮かべるエドムンド。

 

「なにがそんなに困るんですか?」

 

サイトが怪訝な顔をして問うた。

 

「なに、単純なことよ。殿下はガリアの王冠を抱く気はないと仰せだが、復讐を諦める気はないのだろう? であればその復讐が成りし後、なんぴとがガリアの玉座に座るのか問題になってくるとは思わぬか」

 

「……言われてみれば」

 

そう指摘されるまで疑問に思わなかったサイトに、エドムンドはひょっとしてこいつ単純バカなのかとガンダールヴに対する評価を下げた。

 

「順当にいけばジョゼフの娘が王位に就くのだろう。私の見るところ、彼女に王たる資質は十分に備わっているとは思うのだが、支持者の少なすぎるという致命的な問題がある。彼女が父が暗殺されてすぐにその気にならねば厳しかろうな」

 

タバサは表情こそ変えなかったものの内心驚愕していた。自分の従姉妹であるイザベラの世間の評価は控えめに言ってもひどいものである。だからそんな評価を聞いたのは初めてだったからである。

 

北花壇騎士としてイザベラの部下だったタバサは決してイザベラのことを無能と思っているわけではない。だが、イザベラの有能さは陰謀能力や裏仕事の調整などであって、王としての資質があるようには到底思えなかった。

 

それにエドムンドの発言を裏返すと、ジョゼフの死んだ直後にイザベラがその気になれば、彼女が女王となってガリアを統治できる未来はありえない話ではないと見ているということである。一国の王がイザベラをそんなに評価しているなんて、とても信じがたい。

 

だが、妙に自信があるように評しているので、嘘偽りを述べているとも思えず、タバサは戸惑いを覚えずにはいられない。

 

「そしてイザベラが時間の壁にぶつかっている間に、分家王族どもが次期王候補に名乗りをあげはじめれば、どう転ぼうが大規模な内乱は避けられまい。そうなれば、ガリアからさまざまな物資を輸入しているこの国にも影響がでかねん。王として憂慮せざるをえない事柄ではないか」

 

「……それはたしかにそうですね。でもいい方法なんてそう簡単に思いつかなし」

 

エドムンドの懸念をサイトは真っ当なものと思って、頭を捻らせた。しかし考えてもろくに考えがまとまらず、唸り続けるだけだった。

 

そのサイトの様子を見て、エドムンドは目を細めた。

 

「それにしても貴様、王族同士の会話に当然のようにと入り込んできて、よく平然とした顔をしておれるな。それともおぬしの故郷、”チキュウ”やらいう異界では権力者に対し、そのような態度をとることはごく普通のことなのか?」




+ゲルマニアと奴隷商
原作でゲルマニアは野蛮、野蛮と言われますが、具体的にどう野蛮なのかがわからない。
ということでそれなりに説得力のある理屈付与してみた。
伝統に囚われないというのは美点扱いされることが多いですが、伝統に背いてる要素って良い要素ばかりなはずがないんですよね。伝統によって守られていた側面だって絶対あるはずだと考えました。
奴隷商以外も宗教庁から敵視されていた人間勢力が都市国家群に流入しました。

+ブリミル教と奴隷解放
ハルケギニア全体で信仰されてる宗教だから善の面があるはずだ。
そうでないならシュタージ並みの監視体制を敷いて信仰を強要していないかぎり、あんなに信仰されてるわけがない。ということで良い歴史的なものを想像してみました。
なんか二次創作だとロマリアって害悪の象徴みたいに描かれてることが多いのが少々気になったんでね。
だから仮にも一大宗教の総本山なんだから善の部分(あるいはかつて善であった部分)を描かなきゃいけないという謎の使命感を持ってしまった結果、こんな有様に。
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