水精霊騎士隊の訓練はいつも放課後に行われているので、朝から昼間までタバサ監視の任についているアルニカを除いた教導隊隊員は自由時間となっており、個々の隊員が思い思いに時間を消費する。一例をあげるとユアンは暇つぶしと称して適当に授業に潜り込んだりしている。
デュライもいつもならば訓練時間まで学院内で情報収集に励むのだが、容易に得られる情報をあらかた知り尽くしたので、数名の部下を引き連れて王都トリスタニアにある『天使の方舟』亭に向かおうと考えたのである。
なぜそんなことを考えたかというと、学院の先生の一人から「”烈風”のカリンが現役時代、何度か利用していた」との噂を聞き出したからであった。真偽のほどは不明だが、トリステインの英雄”烈風”カリンの名はハルケギニア中で知られているにも関わらず、プライベートのことは謎に包まれているのだ。ダメ元で調べてみようかという気になったのであった。
もっとも”烈風”カリンの現役時代は今から三十年以上前のことであるから、その当時の夜の女たちはすでに現役を引退しているだろう。しかし管理職などに移って今も店で働いていたり、現役の女たちの相談役として存在感を残している可能性はある。もし本当に”烈風”が利用していたならそんな者たちから聞き出せばよいだろう。
仮に根も葉もない噂だった場合、女遊びしに行ったんだと開き直って楽しめばいい。どっちに転んでも充実した時間を過ごせるだろう。そのような計算の上での決定であった。
授業開始から十分ほどした頃、馬に乗っていざトリスタニアへと足を進めようとしたその時、
「ちょっと待って! デュライ!!」
ほとんど叫び声に近い呼び声で馬を蹴りかけた足を止め、振り返るとアルニカがひどくあわてた様子でこちらに走ってきた。
「どうした?」
「あの子、ティファニアがハーフエルフってことがバレたみたいで、異端審問がどうとか広場で騒ぎになってるのよ!」
「はぁ!!?」
驚愕したデュライはアルニカに詰問した。
「なんでバレたんだ?」
「なんでか知らないけどティファニアがエルフの民族衣装を着て授業に出たみたいでね。例のネックレスもつけてなかったみたいだし」
「なにを考えてやがる……」
昨日サイトからティファニアがクラスで苛められているという話を聞いていただけに、意味がわからなかった。なぜ自分からいじめられる要素を増やしていくのか。いや、そんなことが公にすれば”苛め”なんて可愛いものじゃなくなることぐらい簡単に想像できただろうに。
いや、クルデンホルフ大公家の令嬢に苛められてたんだから学生服を全部盗まれでもしてたんだろうか。ティファニアの扱いは一般の女生徒と変わらないものにするとオスマン学院長が言っていたから、同じ女生徒なら夜中に部屋に忍び込んで服を処分するくらい楽勝だろう。魔法も使えるんだし。
「俺らは現場に行って様子を見てくる。アルニカ、お前は学院長室に行って狸爺を色仕掛けでもして連れてこい」
「色仕掛けって……」
「おまえらはそれが得意なんだろう? それにあの学院長には間違いなく変態の気がある。聞けば一年ほど前にその悪癖のせいで自ら盗賊を学院内に招き入れたとか。そのせいで多少警戒心を持つようになってるかもしれんが、そっちの道のプロフェッショナルなら十分目はあるだろう」
「……全員が全員、エリザベート様みたいな人ばかりと思わないでよ。いい迷惑だわ」
アルニカが勘弁してほしいとため息を零す。
「色仕掛けがダメなら力ずくでもいい。とにかく任せたぞ! ハァ!」
馬首を翻し、広場へと馬を走らせる。側にいた部下たちもデュライに続く。
現場についてみると乱闘が発生していた。彼らの装束と野次馬どもの歓声から察するに、どうも
馬から飛び降りて集まっている生徒たちをかき分けて最前列に出て広場を見ると凄まじい戦闘が繰り広げられている。これは言葉で止められるものではないと判断したデュライは周囲を見渡し、状況を説明してくれそうな者を探す。
「おい! おまえ!!」
「はっ、はい!」
騒ぎを聞きつけてやってきていた幾人かの教導隊の隊員が集まっており、その一人に馬上から声をかける。隊員は驚いた顔を浮かべたがすぐに姿勢を正して敬礼する。
「これはどういう状況だ? ティファニアが異端審問にかけられていると聞いて様子を見に来たのだが、なんだってこんな大規模な乱闘が起こっているんだ」
「ハッ、それは――」
彼が騒ぎを聞きつけてやってきた時は、デュライがいうように空中装甲騎士団がハーフエルフを異端審問にかけると騒いでいる時だった。クルデンホルフ司教を名乗るベアトリスがこの学院から出ていくのなら許してやるとこれ見よがしに慈悲を示してみせたのだが、ティファニアはこれを拒否したのである。
そのティファニアの態度があまりにまっすぐなものだったから、それに感動した野次馬の生徒たちは家柄を傘に着て威張り散らしているベアトリスへの反感もあって、ティファニアに味方してベアトリスの短慮を糾弾しだしたのである。
メンツが潰されたベアトリスは異端審問を強行しようとしたが、サイトが出てきてティファニアを連れてきたのは自分の責任だからと言って頭を下げ、許しを乞うた。たださえ聞く耳がない傲慢なベアトリスは今周囲から糾弾されるという恥辱を味わっていたのだからろくにとりあいすらしなかった。傲然と断られたので実力行使に訴えようとサイトが剣に手を伸ばしたところで空中装甲騎士の一人に両手を貫かれた。
そして副隊長を傷つけられたのを見て、水精霊騎士隊の面々が殺気立った。そして隊長のギーシュが先陣を切って空中装甲騎士団に宣戦布告をしてしまい、水精霊騎士隊がそれに乗っかった結果、今のような状況になっている。
そして自分たちはどちら側に味方をすればよいのかさっぱりわからなかった。道理から言えば水精霊騎士隊に付くべきなのだろうが、ベアトリスは小国とはいえ一国の君主の娘。杖を交えたらクルデンホルフとアルビオンの外交問題に発展するのではないかと思うと手出しをできず、傍観に徹していた。
そのような説明をされたデュライはようするにサイトから聞いていた苛め問題がベアトリスの我儘によって肥大化し大問題になってしまったのだと理解した。本当に王侯というのはまわりへの迷惑を考えないというか。
「このまま放置してる方が問題だ。さっさと止めるぞ」
「了解しました」
「で、でもどうやって止めるんです。もう話が通じないほどどっちも話できるのか怪しいほど熱狂してますよ」
野次馬の一人として声援を送っていたマルスが最後の結論だけ聞いて、そのように問いかけた。この問題児にしては冷静で鋭い意見だとデュライは内心意外に思いながらも答えた。
「
「え? あ、はい」
全く想像していなかった問いかけに困惑気味に答えるマルス。
「ならわかってるだろうが
「……つまり、ギーシュと空中装甲騎士団の団長を抑えると? でもギーシュはともかく、空中装甲騎士団の団長がだれかなんてわかりませんよ」
チェスのたとえで推測した自分の答えを述べ、その実現性を疑問視するマルス。
「盤面的な意味で言えばそうなんだが、違うな。これは騎士同士の争いというより、意地の張り合いだ。なら意地を張る理由を奪っちまえばいいんだ」
「意地を張る理由ですか……?」
わけがわからないという口調でそう言うマルスに、デュライは深く頷いた。
「どっちもかけられた期待にこたえたくて戦ってるってわけだ。空中装甲騎士団は主君の、水精霊騎士隊は野次馬どものな。そして水精霊騎士隊の
「ハッ! 了解しました!!」
満面の笑みを浮かべると、マルスは杖を引き抜き、広場へと降り立って叫んだ。
「教導隊隊員マルス・オブ・バーノン!! 義によって水精霊騎士隊に助太刀いたす!! 高慢ちきな奴に仕える高慢ちきな騎士ども!! いざああああ!!」
その言葉で戦闘中の幾人かが振り向き、マルスの背後に教導隊隊員が二十近く集まっていることに気づいた水精霊騎士隊は援軍だ! やったぞ! と口々に叫び、空中装甲騎士団はだれが高慢ちきだと! ぶっ殺してやるぞ! と怒りを露わに叫ぶ。
デュライとしてはバレないように広場を迂回してベアトリスの身柄を確保しようと考えていたのだが、マルスはチェスに例えられたせいか
まわりの隊員がどうしますと目線で問うてきて、デュライは腹立たし気に髪の毛をかき回す。ここまで目立ってしまっては隠れていることはできない。そんなことをすれば空中装甲騎士団が野次馬を巻き込んで攻撃を仕掛けてきかねない。
「もういい。中央突破するぞ。 総員! バーノンの馬鹿野郎に続けぇい!!」
やけくそ気味な表情になって叫んでデュライは銃を構えてて突撃を開始。他の隊員も肩を竦めながら隊長についていき、教導隊も乱闘の嵐の中に突入することになったのである。
結論から言って、中央突破は失敗した。理由はいろいろあるが、やっぱり何と言ってもフレンドリーファイアが多すぎたのが一番の原因である。水精霊騎士隊は敵の識別を大人かどうかでやっていた節があったので何人かが誤って教導隊を攻撃してしまったのだ。
自分の教え子たちからの攻撃を受けた教導隊隊員は頭に血が上り、明確な意思を持って反撃。援軍だと思っていた教導隊からの攻撃を受けた水精霊騎士隊もやりかえせと激昂。味方同士のはずなのに教導隊と水精霊騎士隊の争いが発生してしまったのである。
こうして三つ巴になってしまったら、一番数の少ない教導隊が戦場を突破できるはずもなし。デュライ一人だけならば銃で直線上の敵を排除してベアトリスに迫ることもできたのかもしれないが、全員がまだ本当に取り返しのつかない死につながるような攻撃を避けるだけの冷静さはギリギリ残っていたので、乱戦でいつ射線上に人が飛んでくるかもわからない状況で長距離発砲は躊躇われた。
そのため、接近して足を撃ち抜くという戦法をとったのだが、そんな戦い方をしているうちに乱戦の渦に巻き込まれ、ベアトリスの位置を見失ってしまった。なんだか当てどころのない苛立ちを隠せなくなってきたデュライは、水精霊騎士隊のギムリに素手で殴られた瞬間、もうどうでもいいやと八つ当たり気味にギムリをノックアウトさせ、咆哮をあげながらとりあえず動いてる連中に暴力を振るい始めた。
こうして広場はさらに混沌とした様相を見せ始め、果てのない消耗戦に突入していった。だれかが満身創痍になっても誰かが水魔法で治療して戦線復帰してくるので、完全に根気の勝負になってくるので戦いは何時間も続いた。あとからやってきたアルニカは広場の惨状を見て顔が引きつり、「この事態を収拾するには、大兵力が必要だと思うのじゃが……」と連れ出してきたオスマン学院長が疲れた顔で尻を触ってきたので、蹴飛ばして足蹴にしてどうしたものかと考えていた。
空中装甲騎士団約五十名・水精霊騎士隊約七十人・教導隊約二十人、乱闘開始当初では合計で百五十人近くで争っていたのも、昼頃になると精魂尽き果てた脱落者がそこ中に転がり、立っているのは二十人程度しかいなかった。その立っているものたちにしても誰もが返り血と流した血でまだらに染まっており、中には腕が折れているものもいる。
もう全員が疲弊しており、魔法は打ち止め。あと数分もせぬうちに決着がつくだろう。それが全員の共通認識であるということが、誰が口にするでもなく全員がわきまえており、最後の激突と洒落込むかと全員が覚悟を決めた瞬間、広場の真ん中に小さな光の球が出現した。
「は?」
その不可解な現象を見た者たちが首を傾げている間も無く、光の球は急速に膨れ上がり、爆発した。
「「「「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」
まだ意志が残っていた者たちがものすごい爆風に吹き飛ばされて悲鳴をあげる。デュライの体中が悲鳴をあげており戦闘の疲労感も手伝って少し油断すると意識を失いそうだったが、それでも鋼の意思で起き上がり、何事だと周囲を見渡す。
すると広場の中心部に桃髪の少女が、まるで幽鬼のように立っていた。そして歴戦の強者であるデュライが思わず恐怖してしまうほどおっそろしいオーラを纏っていた。
「ル、ルイズ?」
そのせいで、記憶の中にあるルイズと同じ顔立ちであることがとっさに気づけなかった。それくらい纏っているオーラがどす黒くて現実離れしていたのである。
「……き、貴様はなんだ!」
怒鳴り声の方を向いてみると満身創痍の空中装甲騎士がルイズを指差している。どうやら先ほどの爆発の原因と睨んだのだろう。
だが、それに対するルイズの返答は爆発だった。感情的な意味ではなく現象的な意味で。
「ぷぎゃあ!」
哀れ。鼻先に小規模の爆発を食らったその空中装甲騎士は、そのまま意識を失って後頭部からぶっ倒れた。
「……るさいのよ」
ルイズの底冷えするような声を聞いて、デュライは即座に状況を把握した。今すぐこの場から離れなくてはならない。でなくば、また先ほどのような爆発を食らう羽目になる。
走って逃げようとしたが、デュライの体はすでに立っているだけで限界であったようだ。足が重すぎてちっとも前に進まない。サイトやギーシュがルイズとなにか言い合っているのが聞こえたが、あんなの大した時間稼ぎになるとは思えなかった。
次の瞬間、自分のすぐ横を人影がすごい速さで通り抜けた。目線でおってみると、その人影はアルニカである。脇に戦闘でボロボロになったマルスが抱えられている。
「眠れないじゃないのー!」
そんな脈略がまったくわからない叫び声が広場に響き渡った直後、二度目の大爆発が発生し、デュライは再び吹き飛ばされた。こんな馬鹿騒ぎに巻き込まれた原因が助かって巻き込まれた俺らがこうなるとか納得いかねぇ……、そんな思いを抱きながら、デュライの意識は黒に塗りつぶされた。
ルイズの奇襲によって最後までたっていた者達も総じて意識を失い、百五十名前後の気絶者は学生や教員たちの手によって医務室に運ばれた。魔法学院に五つある塔の内、水の塔の三階から六階までが医務室であり、三階が水精霊騎士隊、四階が教導隊と空中装甲騎士団が運び込まれ、治療を受けることになった。
「オスマン学院長の仲裁で一応の決着はつきました。ティファニア嬢が女王陛下からよしなに頼まれた客人であり、彼女に対し侮辱的な発言をする者は王政府を敵に回す覚悟で言えと宣言したので、内心はどうあれ今後も表立って彼女に害意を示そうとするものはいなくなるでしょう」
「……元鞘に収まったわけか」
医務室に運び込まれて一時間もせぬうちに意識を回復させたデュライは部下からの報告を受けていた。放課後の訓練まで教導隊隊員は自由行動が認められていたので、乱闘騒ぎの時すでに学院から離れていた者や昼過ぎまで惰眠を貪っていた者がいたため、乱闘騒ぎに加わったのは半分程度でしかない。なので彼らから乱闘後の顛末を聞くことができた。
「いえ、元鞘どころではないでしょう。もともとティファニア嬢はあの桁外れの美貌故に生徒の間での人気はたかったようですが、女王陛下ゆかりの者ということが新たに判明してさらに人気が高まったようです。またベアトリス嬢がティファニア嬢に嫌がらせを行なった場合、間違いなくベアトリス嬢が学院で孤立するのではないかと思えるほどに」
「おい待て。エルフの血が流れている事実は変わらんのだから、むしろ人気が下がってなきゃおかしいだろう」
「それが……、女王陛下ゆかりの者という虫眼鏡をかけて見ると、ティファニア嬢にエルフの血が流れていること自体が一種の美点なのではないかと大半の生徒が思ってしまったようです」
「……女王と繋がりがあるというだけで血統上の欠点を美点とみなせるとはおかしいではないか。ええ?」
ばかばかしいというようにデュライは手を振った。人種というのはそう簡単に拭える呪縛ではない。それはハルケギニアにおいても変わらないはずだった。だというのにそれがどうにかなってしまったというのだ。辛い現実を知る者にとって、ありえない話である。
そもそもいくら女王ゆかりの者といえど、ティファニアがエルフの血を継いでいることは変わらないのだ。おおやけになると大問題に発展するのは火を見るより明らかであろう。
王家に対して不敬だから口を噤む者もいるだろうが、不要な正義感や忠誠心を発揮して王家の誤りを正そうと糾弾してくる奴らが普通は出る。それを想定してエドムンドはティファニアの詳細を自分に忠実と見込んだ者にしか教えていないし、吸血鬼との同盟もしかりである。
なのになぜかトリステインの、少なくとも魔法学院の者たちはそれを受け入れてしまったというのだ。信じがたい話である。というかこんなあっさり受け入れられてしまったら、モード大公の親戚一同が浮かばれないし、生き残りであるエドムンドだって納得できないだろう。
報告している隊員も内心納得できていないのか釈然としない表情をしている。しかし「現実を見たら受け入れざるをえませんので」と真顔で言ってきたので、どうも冗談ではないらしいと言うことだけは飲み込めた。飲み込めたが、信じられない。
「下に行けばわかりますよ」
疲れたようにそう言われて、デュライはわずかに痛む体を起こした。ルイズの爆発、たぶん虚無系統の魔法の一種なのだろうが、凄まじい衝撃で多くの者の意識を奪っていったにもかかわらず、爆発による外傷は全員軽微だったそうだ。自分が意識を失った時、絶対体のどこかに後遺症が残ると思えるほどの衝撃だったのだが……まったくもって不思議である。
三階は人がごった返していた。大量の女生徒たちが水精霊騎士隊の見舞いにきていたのである。ハルケギニア最強の一角である空中装甲騎士団と互角に争って見せる勇敢さを発揮した水精霊騎士隊の人気が女生徒の間で爆発しているとは聞いていたが、ここまでとは。
水精霊騎士隊の子どもたちは女生徒たちからチヤホヤされてだらしないほど顔がニンマリしている。はっきり言って気持ち悪いほどなのだが、広場での勇敢さを直にみた女生徒たちにはわからないのか、彼らがちょっと気をきかせたセリフを言うときゃーきゃーと黄色い声をあげる。
まったく女ってやつは……少し冷静になれと内心で呟きつつ、ティファニアの姿を探す。すると彼女の姿を見つけた。長耳を隠すことなく、エルフの民族衣装を着たまま、何人かの女生徒たちと会話している。少し近付いて話し相手の女生徒の様子を伺ったが、特になにか暗い感情を堪えている気配はなし。ティファニアがハーフエルフだということが学院全体に受け入れられたというのは本当らしいと理解するしかなかった。
なかったが、これどうやってエドムンドに報告すればいいんだと内心頭を抱えた。どう説明しても理解してくれるとは思えない。だって現実で見てなお、嘘だろと思わずにはいられないんだ。それをまったく知らない者に説明なんてできる自信がなかった。
「あ、デュライさん」
ティファニアが気づいて話を中断し、近付いてきた。
「もう大丈夫なんですか?」
「ああ。まだすこし傷口が痛むが、どうってことはない」
不安げな顔でそう言ってきたので微笑んで答える。
「よかった。あ、それと広場でのことはありがとう」
「……なにか礼をされるようなことしたか」
「だってわたしの為に戦ってくれたんでしょ。お礼をいうのは当然じゃない」
「なら礼を言うべき相手を間違えている。サイトやギーシュたち水精霊騎士隊の連中にするべきことだ。俺らはただバーノンの愚かさのツケを取らされただけだ」
「ギーシュたちにもお礼を言ったわ。サイトはまだ意識が戻ってなくて言えてないけど……、それにあの騒ぎの原因はわたしだからやっぱりあなたたち教導隊のみんなにもお礼を言っておいた方がいいと思って」
「たしかに原因はそうかもしれんが、あんな大騒ぎに発展したのはベアトリス、いやミス・クルデンホルフが無駄に騒ぎ立てたせいだろうが」
こんなに話をややこしくしてくれやがってとデュライは思わずにはいられないのだった。
「彼女には気をつけておけよ。また因縁つけてくるとも限らんしな」
「大丈夫よ。彼女とはお友達になれたから」
「……なにか致命的にズレてる気がするから言っておくが、友達ってのは脅迫でつくるもんじゃねぇと思うぞ」
デュライの言葉に、ティファニアは不思議そうに首を傾げた。
自分が気絶した後、ベアトリスが自分が司教だと名乗っていたのが嘘と判明し、生徒たちから大ブーイングが発生したと部下から報告されている。トリステインでは、そうでない者が司教と騙る罪は火刑に処されるほどの重罪である。生徒たちはベアトリスをティファニアの前に引きずり出した。司教を騙ったことで一番の被害を被ったティファニアこそがベアトリスを裁く権利があると生徒たちは考えたのである。
無論、ティファニアの血の釈明も行われねならないことに違いはないだろうが……、司教を騙ってまで気に入らない相手を排除しようとしたベアトリスの卑劣さへの反感が、それを無視させたのある。
どんな無残な殺され方をされたところで文句を言えない立場に追い込まれて顔を青くしていたベアトリスに対し、あろうことかティファニアは友達になろうと提案したのであった。ベアトリスは大泣きした後、友達になると約束したのだ。
はっきり言ってベアトリスが内心どう思ってようが、現実的に考えて友達になると答える以外の道はない。もし断ったらティファニアはともかくとして、まわりの生徒たちが黙ってはいないだろうから……
もちろん、ティファニアがその在り方を示すことで学院に受け入れられたことを考慮すれば、ベアトリスとの間に友情が成立していないとは言い切れないが、はてどうなるものやら。正直そこまで面倒見きれないというのがデュライの感想であった。
「まあ、恩義に感じてるんなら丁度いい。少し話したいことがあるんだが、いいか?」
あれ? やってること原作とそんな変わってないような……