風の復讐譚[更新停止]   作:kuraisu

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風邪引いたのかものすごく体調が悪い状態でした。頭痛いし、吐き気するし、鼻水が止まらないし、寒気がするしで散々だった。でも平熱だから休めない。ちくしょうめ。


教導隊宿舎

魔法学院の治癒士たちはみんな優秀だった。一日もしない間に医務室送りになった百名の意識を取り戻させ、日常生活に支障がないレベルまで回復させたのである。

 

しかし念のために数日安静にしておいた方がいいと言われたので、デュライは二日ほど訓練をしないことに決めた。その間、水精霊騎士隊(オンディーヌ)の者たちは広場の騒ぎにおける勇者として女生徒たちの歓呼の嵐を浴びて、増長しまくっていた。

 

そして人気がでたのは教導隊も同じだった。マルスが気取ったセリフで先陣を切ったせいで英雄視されてしまい、マルスは水精霊騎士隊と一緒になって我が世の春を謳歌してるし、非メイジの隊員は骨があると学院の衛兵や使用人にちやほやされ、メイジの隊員も空中装甲騎士団(パンツァーリッター)の団員と一緒に昼間から互いの武勇を讃えて酒飲みに興じ、酔っ払ったら女教員や女生徒をナンパしたりしてるそうだ。

 

デュライはそのどれもせず、朝から夜までトリスタニアで過ごしていた。デュライの女性人気も高まっていたのだが、もう昔みたいに煙の様に消えることができる身の上ではないのだ。もし恋愛遊戯を楽しんいる最中に相手を本気になってしまった場合、何もかも放置して逃亡するという手段は使えない。だからすべてが金で解決することができる夜の女で遊ぶだけにしようと、デュライはエドムンドに忠誠を誓った時にそう決めたのであった。

 

なので彼はトリスタニアの『天使の方舟』亭に突撃して遊んだのである。しかしこれは広場の騒ぎのせいで中断した捜査のためである。たとえ最初に行った時点で大した実入りはないと判断していたにもかかわらず、長時間入り浸り、翌日も入り浸っていたとしても、である。念のため、念のためと脳内で唱えつつ、執拗なまでに捜査を繰り返し、綺麗所全員と夜を楽しんでようやくデュライの捜査は完了した。

 

広場の騒ぎから三日目の放課後、久しぶりに水精霊騎士隊への訓練を執り行うことになったのだが、集まった水精霊騎士隊をみてデュライは首を傾げた。

 

「おい。サイトはどうした?」

 

ギーシュに問いかけると、ギーシュは苦笑しながら、

 

「サイトならこの三日間ルイズの部屋から出てこないんだ」

 

「なんでだ?」

 

「ルイズが授業に出てこないから、心配になってルイズの部屋に出入りしてるシエスタに、あ、シエスタってのは学院のメイドの事です。尋ねてみたんだけどサイトさんと取り込み中ですって有無を言わさぬ笑顔で言われてね。邪魔するのも悪いかと思って放ってるんです」

 

ギーシュは水の塔の三階からサイトが飛び降り、激怒したルイズがサイトをボコボコにしたのを目撃しているが、ティファニアとサイトのやりとりを知らなかったことや、ルイズのいつもの態度がいつもなので、広場の騒ぎで目立っちゃったことに対する照れ隠しくらいにしか認識していなかった。だからサイトとルイズが部屋からでてこないのはそういうことと思い込んでいた。

 

「あー。つまりなんだ。この三日間ずっとあの二人は()()()()()だと?」

 

「そういうわけだよ」

 

「だが、それで訓練をすっぽかされるってのは良くないな。今回の訓練はルイズの部屋からサイトを引き摺り出すことにしようか」

 

「いやそれは勘弁してもらえないかな。ほら、ルイズとサイトは身分差とかいろいろあって今までうまく有事あってなかったんだよ。だからせめて今日だけは大目にみてあげてくれないか」

 

だからギーシュはどこまでも善意でそう提案した。サイト、君の友人としてやれることはやってあげるよ。そんな思いを抱きながら。

 

「うーむ……」

 

デュライは水精霊騎士隊の面々の顔見た。現在彼らは空前絶後のモテモテ状態であったから、彼らの副隊長の恋愛を邪魔せずに素直に応援してあげる余裕と優しさを身につけており、ギーシュの提案に賛成であることを学生騎士たちの瞳の光が物語っていた。

 

「隊長殿の頼みとあってはしかたねぇか。襲撃をかけるのは明日、サイトがこなかった場合にするか」

 

だからデュライは苦笑しながらギーシュの提案を受け入れた。

 

 

 

その日の夜。サイトは食堂でやさぐれていた。この三日間、こちらの言い分をまったく聞いてくれないルイズにひたすら暴力をふるわれ、ティファニアの胸を触った反省を強要されていたのであった。ギーシュが想像していたようなルイズとの甘い展開など一切なかったのである。

 

だからみんなの優しさは的外れもいいとこだったのだが、仮にデュライの提案にギーシュがのっかていた場合、事の経緯を知って羨ましさのあまり水精霊騎士隊が殺気立ってルイズとともにサイトを攻撃したであろうと予想できるから、ある意味助かったといえる。サイトには気づきようもないことだが。

 

ルイズの暴力・暴言と反省強要に耐えきれなくなったサイトはルイズの部屋から逃げ出しただが、時刻はすでに夜であり寝る場所を探す必要がある。だから寝る場所を探していたのだが……、最初はコルベール先生の研究室に泊めてもらおうとしたが、キュルケのアタックを受けてる最中だったし、次にギーシュの自室に泊めてもらおうとしたが、モンモンとイチャイチャしてて入り込めないし、ならいつもの溜まり場で寝てやろうとしたら、あのモテないマリコルヌがブリジッタという女生徒と密会していて、彼女に罵倒されて興奮していたのである。

 

マリコルヌだけなんかおかしいような気がするが、自分がルイズにひどい目にあわされたというのに、周りがイチャラブ展開が繰り広げられているという事実になんか不公平感を感じ、あてどころない苛立ちを感じていた。

 

たしかにテファの胸を触っているところをルイズが見たら怒るのは当然だ。でも、それはテファが自分の胸はおかしいんじゃないか確かめてくれとお願いしてきたのである。そんなこと言われたら触るだろう。触るに決まってる。もし触らなかった場合、他の奴が触るだろうと考えると、自分が触るべきだ。

 

なのにあの小憎らしいピンク髪は理解しない。だいたいそんなことやる勇気が自分にあるとでも思っているのか。テファのあの凄まじい胸革命(バストレボリューション)を触りたいという気持ちが出会った当初からあったことは男として否定しないが、だからって自分から触りにいく勇気なんかあるわけがないだろう。

 

百歩譲って仮に自分から触りいっていたとしても、ルイズに怒る資格なんかないはずだ。だって好きって何回も言った。何回もルイズを守るために命を張った。なのにルイズはその気持ちに対してイエスともノーとも言わない。なのに主人としての子どもじみた独占欲から、自分以外の相手に興味が向くのが許せないのだ。

 

そんな風にサイトはふてくされていたのである。無性に酒を飲みたい気分だったが、既に夜になってる今、頼んだらお酒を持ってきてくれる学院の使用人も寝ているし、一人酒とかいろいろ虚しすぎるので、今日はもう寝るかと床に寝転がった瞬間……

 

「なにしてるの?」

 

「うわあ!」

 

急に声をかけられて、驚いて飛び上がった。あまりに急だったので鳥肌がたっている。いったいだれだと視線をやると金髪ショートで冷たいダークブラウンの瞳が特徴的な見慣れない女性が訝しげにこちらを見ていた。

 

だれだと首を傾げ、白い服を着ていることに注目してようやく気づいた。

 

「もしかしてアルニカさん?」

 

「失礼ね。あなたと会ってからずいぶんと時間がたってると思うのだけれど、まだ覚えてないのかしら」

 

「いつもフード被ってるからよく顔がわからないんだ」

 

アルビオンで捕まった時からよく顔を合わせているが、いつも白いフードを深く被っているため、サイトはアルニカの顔をよく覚えていなかったのである。

 

改めてアルニカの顔を見てみると、女の人にこういうのが正しいのかよくわからないが、イケメンであった。フードをかぶっていた時のミステリアスな印象など微塵も感じないほど、さっぱりした顔つきである。こんないい顔なのに、フードをいつもかぶっているのかさっぱりわからない。

 

「まあいいわ。それでどうしてこんな時間に食堂にいるのよ。夜食でも欲しくなったの?」

 

「そんなわけないだろ」

 

ルイズと喧嘩して部屋を飛び出し、寝床を求めて食堂に辿りついた経緯を素直に説明した。

 

「へぇ、そうなの。でもそれで寝るのはやめた方がいいわ。夜は寒くなるから風邪をひくかもしれないもの」

 

ハルケギニアの暦で今はウルの月(5月)である。春の半ばに入っているが、夜はまだ気温が冷える時期である。サイトは持ってきたジャンバーを丸めて枕にし、シャツ一枚でアルヴィー(小さいガーゴイル)が乗っていた石造りの台をベットとして寝るつもりだったが、言われてみるとたしかに風邪をひいてしまいそうな気がする。

 

じゃあまだ今夜会っていない友達の部屋を片っ端から確認していくべきか。でもまったく根拠はないのだが、すべての友達の部屋でギーシュとモンモランシーみたいなイチャイチャが繰り広げられてるような気がするから訪ねて回りたくないのだ。しかし背は腹に代えられない。風邪を引くよりマシだ。いやでもなあ……

 

「泊めてもらう当てがないなら、わたしたちの泊まってるところに来る?」

 

苦悩の末、唸りだしたサイトを見かね、アルニカはため息をひとつつくとそう言った。

 

「いやでもアルニカさんは女の人でしょ。それはちょっとまずいんじゃないの?」

 

普段は女子寮で女生徒と同じ部屋で寝泊まりしてる人間の言い草とは思えない疑問が、サイトの口からこぼれた。

 

「なにを馬鹿なこと言ってるのよ。わたしたち教導隊が魔法学院から借りてる部屋がいくつか余ってるから、そのひとつで寝たらどうって意味よ」

 

そんな解釈をされるとは思っていなかったアルニカは不快気に顔をしかめた。サイトは慌てて謝った。

 

 

 

教導隊が魔法学院から与えられたのは、風の塔と水の塔の中間にいくつかある使用人宿舎のひとつで、今まで空いていた場所で寝泊まりしている。構成員の半数以上がアルビオン王家直属の鉄騎隊(アイアンサイド)出身者であるにもかかわらずである。これはトリステインが彼らを内心歓迎していないポーズだという王政府の意向によるものだ。

 

学院側にもそのとばっちりを自分たちが喰らうはめになるのではないかという不安があり、オスマン学院長は不満が出た場合は王政府の意向に背いてでも貴族用の部屋を宛がう覚悟があったのだが、当事者である教導隊がだれも気にしなかったため問題になっていなかった。

 

というのも鉄騎隊は王家直属といっても、けっこうな割合が元平民や没落貴族である。衣食住さえちゃんとしてるなら文句はないのだ。それどころかアルビオン国内にいた時は不平貴族の討伐やら盗賊退治やらで国中を駆けずり回ってたので野外の天幕で寝ることが多かったことを思えば、むしろ雨風が完璧に防げる場所で寝れるということだけでかなり恵まれているように感じていたからであった。

 

「貴族様の宿舎に比べればみすぼらしいけど、あなたも元平民だから気にしないでしょ?」

 

それに従軍経験もあるってデュライから聞いてるしねぇーっと軽い調子で呟きいて宿舎の扉を開くと、中からガシャンとなにかが割れる音が響いた。

 

なんだと思ってサイトが入り口から覗き込んでみると、マルスが突っ立っていた。足元に金属製のコップが頃合い、中に入っていた水が流れ出て床を濡らしていた。どうやらマルスは夜中にいきなり扉が開いたことに驚いてコップを落としてしまったみたいだ。

 

「お、おかえり……」

 

簡単にかき消えてしまいそうな震える声だった。

 

「……床、ちゃんと掃除しなさいよ」

 

「そ、その通りだね。う、うん!」

 

マルスは恐ろしい勢いで雑巾を探し出してくると、床の水を拭き取り始めた。困った上官だわとアルニカが小さな呟きが、サイトの耳にとどいた。

 

「それにしてもまだ起きてるなんてね。なにかあったの?」

 

「なにかあったってわけじゃないんだけど、レイナールっていう生徒から借りた本が面白くてね」

 

マルスが机の上にある本を指さす。興味を覚えたアルニカがその本を手に取ってタイトルを読み上げた。

 

「”竜の守護者”? これってガリアの英雄の話だよね」

 

「そ、そうだよ」

 

”竜の守護者”はガリアのシルヴァニアで生活していたアルニカにも聞き覚えがあるタイトルである。

 

たしか双子の王子が王座を巡って凄惨な内乱を繰り広げた時代に活躍したある竜騎士隊長の英雄伝であり、常に激戦地で活躍しているのに失った騎竜がゼロという出鱈目な記録を打ち立てたことから竜騎士隊長につけられた異名でもある。

 

……そして騎竜はすべて無事なのに、騎乗者が二名ほど死んでることに対する皮肉でもあったはずだ。

 

郷里の英雄の本を、こんなところで目にすると思わなかったアルニカは目を細めて微笑んだ。

 

「と、ところでサイトは、ど、どうしてこんな時間に、ここ、こんなとこに?」

 

マルスは何度も言葉を詰まらせながらそんな質問をしてきた。なんでこんなに言葉を噛んでるだとサイトが訝し気に思ってる間にアルニカが答えた。

 

「寮塔から追い出されたらしくてね。食堂で寝ようとしてのを私が見かねて連れてきたのよ」

 

「え? あ、ああ。そうなんだ!よかった……。ん? 寮塔から追い出されたって、いったいなにをしたんだい?」

 

状況を把握してマルスは喜び、もう一度状況を鑑みて困惑し、疑問を口にした。

 

「ちょっとルイズと喧嘩しちまってな」

 

「……なんでルイズのことが関係あるんだい? あ、もしかしてあまり派手にやりすぎて寮監に追い出されたのか?」

 

「ちげーよ。ルイズの部屋から追い出されたんだよ」

 

「え。ってことは今までルイズの部屋で一緒に寝ていたと?」

 

「あ、ああ」

 

驚愕した顔でこちらをみるマルスにサイトはやや引きながらも答えた。

 

マルスは衝撃を受けた。彼はサイトがいつも寮塔に帰っているのを見て、他の男子生徒と同じように一部屋与えられていると早合点していたのである。なのに実際は女子寮で美少女である女子生徒と同じ部屋で暮らしていたのだ。

 

さて、マルスは波乱の人生を歩んでいるが、まだ思春期まっさかりの少年である。サイトの言葉をどのように解釈したか、言うまでもないだろう。

 

「このうらやまけしからん奴め!」

 

「は?」

 

「女子寮で生活してるってだけでもアレなのに、ルイズと同じ部屋で寝ているとか! 爆発しろ! いやきみはよく魔法で爆発しているな……。部屋から今は追い出されてるわけだから、ザマアミロ!! これだな!!」

 

なにか変なスイッチが入ってしまったマルスのシャウトが室内に響いた。だが罵倒されているサイトではなく、アルニカの方が我慢できなかったようでマルスの頭を殴って黙らせた。

 

「痛ったい?!」

 

「あなた真夜中に宿舎で大声出すんじゃないわよ。他の人が起きたらどうするつもり?」

 

「……すいません」

 

冷静なアルニカの指摘され、マルスの変なスイッチは速攻でオフになって沈静化した。気恥ずかしいのか顔を赤らめている。

 

「うちの上官がバカでごめんね。空いてる部屋はこっちよ」

 

なにか言いたげなマルスを無視し、アルニカは廊下を奥へと進んで行く。やがてひとつの古ぼけた扉を開くと中を指し示した。

 

部屋の中はすこしほこりぽかったが、いつぞやサイトがトリスタニアで一泊したボロい宿舎のように怪しいきのこが生えているようなことはなかった。トリステインの名門学校だけあって使っていない使用人宿舎でも掃除を怠って腐らせることはないのだった。

 

ベットはすこし硬かったが、食堂の石台より暖かいし柔らかかった。それに布団もあるし、食堂で寝るよりはるかにマシだった。

 

「デュライ隊長にはわたしから話を通しておくから、安心して寝なさい」

 

「おう。ありがと」

 

「ふふっ。どういたしまして」

 

アルニカは魅力的に微笑むと扉を閉めて去っていった。サイトはベットに横になりながらアルニカのことを考えた。なんであんなかわいい笑顔ができるのにいつもフードで顔を隠しているのか謎だ。テファみたいになにかズレていて恥ずかしいと思っていたりするのだろうか。

 

そんなことを思っている間に睡魔が襲ってきて、サイトの意識は夢の世界へと旅たった。そしてルイズが機関銃を乱射しながら地の果てまで自分を追い回してくるという妙にリアリティのある悪夢にうなされるのであった。




最近寒さは増す一方ですし、みなさんも風邪には気をつけてくださいね。
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