オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~ 作:コノエス
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております
「……我々はこの村が襲われていたのが見えていたので助けに来た者だ。 けして怪しくは無い。 彼は私の仲間であり、彼こそが最初にこの村を助けようと言い出した……まあ、少々やりすぎて村の方々まで驚かせてしまったが、本人もこの通り反省しているので……」
怯え半分の表情で村人たちはざわめき、互いに顔を見合わせる。 誰もが不安な表情を隠しもしない。
盟主は村人たちをなんとか安心させようと懸命に弁明と説得を続けていた。
私は、盟主の横で正座させられていた。 解せぬ。
騎士たちの生き残りは一箇所に集められて武装解除され、焦点の定まらない目でまだうわ言をブツブツ呟いている。
死の騎士は殺した騎士の死骸から発生した従者の動死体たちと、そして私が殺した分の死骸を片付ける作業を行っている。
アルベドは右隣やや後方から私を見張っている。
……解せぬ。
「……とはいえ、ただと言う訳ではない。 村人の生き残った人数にかけただけの金を貰いたいのだが?」
「お、お金なら充分にお支払い致します! だから命だけは! ただ、今は村がこんな状態ですので少しばかりの猶予を!」
村長らしき人物が地に頭をこすり付けんばかりに全身を投げ出してひれ伏し、哀願する。
……盟主が何か物凄く言いたげに私を見る。 私はその視線から逃れるように顔を背けた。
ごめんなさい。 反省してます。
……村長の家に場を移して行われた話し合いの結果として、村は助けられた対価として現地の情報を提供することが一旦決まり、そして得た情報がかなり有益だったのでその分のお釣りという建前および村の受けた被害の大きさに同情したこちらからの厚意として、村には幾許かの復興援助が行われることが追加決定した。
村長は多少は安堵し、しかし未だこちらを警戒しオドオドとした態度ながら、私たちが村に危害を加える意図は無いというのを理解してくれたようだ。
なんとか現在は「村人の命を救った恩人」にまで格上げされている。
あれだな、例えるなら村をモヒカンスタイルの略奪者が襲ってきたとしよう。
そこへ、ライオンがやって来て略奪者を全員鋭い爪で叩き殺し、村人にこう言った。
「ああ、疲れた。 なんだかお腹が減ったなあ」
……絶対「生贄に村人食わせろ」って言ってるようなもんだよね。
でも、逆にライオンが
「何もいりません。 お礼が欲しくてやったことでは無いですから」
なんて紳士的に申し出ても、それはそれでメッチャ妖しい。 猛獣が人間助けるなんて普通、ないもの。
だから盟主はかなーり上手く村人を納得させる態度と選択肢を取ったことになる。
さらに、「お前たちの歓迎の態度に満足したので、もう少しオマケしてやる」って形で度量を示し、ただ危険な猛獣というだけじゃなく益をもたらす存在だ、という方向に印象を和らげることにも成功しただろう。
流石盟主。 まさに比類なき叡智のなせる業でございます。
そしてホントごめんなさい。
「……いえ、あんぐまーるさんに『いつも通りに』と指示したのは私ですから。 これは私の失敗でもあるんです。
それに、私の方ももう一つ失敗をしています。 村の外にも騎士たちが居たので、そちらを始末しましたが……村長から得た情報からすると、この村を襲ったのはバハルス帝国という国の兵に見せかけた、スレイン法国の欺瞞ではないか、という可能性が浮かび上がって来ました。
やはり、少しぐらいは騎士を尋問できる状態で捕らえておくよう最初から方針を定めておくべきでしたね……」
「生き残った者があの有様では、魔法を用いて情報を引き出すのが困難……やはりこれは我の失態が大きいかと。 責任の大部分は我にあり、盟主は気に病まれませぬよう」
村はずれ、共同墓地で少し離れたところから死んだ村人たちの葬儀が始まるのを見ながら会話していた私と盟主は振り返って村の広場の方に目を向ける。
今はそこに一応の見張り付きで転がされている騎士たちが居る。
あれらをどうするべきだろう。 村人が仇討ちの対象とするのに任せるのか。
それともこの村が所属しているリ・エスティーゼ王国の軍や官憲に引き渡すのか。
奴隷制度のようなものがこの世界にあるとして、奴隷商人に売り渡すのか。
……あの状態の人間がどういう用途の奴隷になるのか想像できないけれど。
「……まあ、本当に無理かどうか試す意味合いも兼ねて、何人か引き取りたいですが」
そう言いながら盟主は再び葬儀の様子に目を向ける。
私も視線を戻し、盟主と私が最初に助けた二人の少女……エンリとネムという姉妹が両親の墓の前で泣き崩れている様子を見つめる。
……昔、道路で轢かれている親猫と、泣いている子猫を見つけたことがあった。
私は兄弟たちとその母猫の死骸を埋葬し、子猫を家に連れて帰った。
その子が、実家で飼う最初の猫になった。 既に犬を飼ってたけど、うまく喧嘩にならなくて良かった。
あの様子を見ていると、何故だかそれを思い出す。
ちらっと盟主を見ると、ローブの袖の下で何かを弄んでいた。 蘇生の短杖か。
それがあれば、あの姉妹の両親や死んだ村人たちを助けることができるだろう。 盟主もそれを考えているに違いない。
私も何個か持っているアイテムだ。 でもそれを
親を亡くした可哀想な子猫を二匹、ナザリックに連れて帰って世話してやるくらいはしてあげてもいいけど、両親を生き返らせて幸せな家族の光景を取り戻してやるほどまでの感情移入は無い。
葬儀が終わったようで、何人かの村人がこちらにやってきて私に頭を下げた。
「どうも、墓掘りを手伝ってもらいまして、おかげで葬儀の準備もすぐに整って、死んだやつら全員一度に埋葬してやることができました。 ありがとうございます」
……盟主が村長の家で話を聞いている間に、手隙だった私が少しばかり手伝った(決して盟主に罰ゲームでやらされたわけじゃないよ、本当だよ)事か。
別に大したことじゃないのに、少しばかりの作業で穴を全部掘り終え、墓石になる石を全部運んだけの簡単な仕事に村人たちは驚嘆していた。
最初はあんなに遠慮していたというのに。 遠慮しながらすっごい震えてたな。
「我らがもう少し早く来ていれば、村民の犠牲者も少なくて済んだ。 ゆえにこれは助けられなかった者らへのせめてもの罪滅ぼし。 礼を言われる資格を我は持たぬ」
私はそれだけ言ってあとは沈黙を貫く。 そう、別に死んだ猫の埋葬を埋めてやったのと同じなだけだ。
葬儀が終わった村人たちは、まだ死んだ家族の墓の前で嘆いている者たちをのこし三々五々に分かれて共同墓地を後にし始めた。
その際に、私と盟主に感謝の言葉とともに頭を下げながら通り過ぎていく。
「今は、村を助けたことで満足してもらおう」
そう呟きながら盟主は蘇生の短杖を仕舞い込んだ。
そして背後に立っていた死の騎士をしげしげと眺めながら何か考えている様子。
……こいつ、何時まで出現しているんだろう。 召喚モンスターには時間制限があったよね?
私の影の雌馬だって放置してたら時間制限が来たから消滅したし。
さて、それも気になるのだけど……
「ところで盟主、この者はいつ頃からここに?」
盟主が、ご自分の横にいつの間にか立っていた影に気づく。
八肢刀の暗殺蟲だ。 村人にも気づかれず、不可視状態で気配も断ち全く気づかれることが無いのは流石。
「八肢刀の暗殺蟲? アルベド、これは……」
「モモンガ様とあんぐまーる様にお目通りしたいとの事で…」
盟主がアルベドや八肢刀の暗殺蟲と話し始めた。 また難しい話かな。
村を包囲とか襲撃とか聞こえるし。 ……なんで襲撃という話になっているんだろう。
そう考えながら周囲を見回すと、真っ赤に目を晴らしたあの姉妹が手を繋いで歩いてくるのが目に入る。
二人はこっちに気づくと、駆け寄ってくるそぶりを見せた。
盟主たちはなんだか物騒な話をしているし、聞かれると不味いのでこちらから少女たちに歩を進めて近寄っていく。 二人は立ち止まり、私を見上げた。
「……何か用か」
「あ、あの……」
私の方から声をかけると、エンリが姉の方だったかな?姉が口ごもりながらも、礼を言い始める。
「助けれくれて、ありがとうございました」
「……礼は盟主に申せ。 我は盟主の命に従ったまでだ」
「は、はい。 ……でも、貴方も助けてくださいました。 それで、モモンガ様のお名前は教えていただいたのですが、貴方のお名前を……」
そうか。 私はまだ名乗ってなかった。
盟主が既に私のことは村人に紹介していたかもしれないけど、でもちゃんと名乗るのは大事だ。
「……我はあんぐまーる。 アインズ・ウール・ゴウンの末席にして、モモンガ様の騎士、あんぐまーるだ」
「あんぐまーる様、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました!」
姉妹は揃って頭を下げて、村の方に戻っていく。
……その背中を見送りながら、やっぱり拾って帰ってナザリックで飼おうかなって思った。
ちゃんと世話するから。 ご飯の面倒も見るし毎日散歩連れて行くから。 ねえいいでしょ盟主。
『だめです、元いた所に返してきなさい』
……なぜか盟主ではなくたっち・みーさんの幻聴に怒られた。
太陽は西の空に傾き始めており、あと一時間ほどで綺麗な夕日が見られるだろう。
そういえばこの世界は一年は365日なんだろうか? 時刻表示を参考にする限り、一日はほぼ24時間で合っているようだけど。
盟主は村長から随分と有用な情報を得たようだけど、それでもまだ不明な点が沢山あるようで、情報が集まっていない状態で行動するのは非常に危険だ、と言った。
だが、あえてアインズ・ウール・ゴウンの名を出し自分たちが名を明かすのには、現地勢力だけではなく、私たちと同じようにユグドラシルから来たプレイヤーの耳に届くようにしたいからだと。
その中にはもしかしたら、アインズ・ウール・ゴウンの仲間たちも居るかもしれない。 その可能性には私も大いに期待したい。
そして、これ以上の具体的は話はナザリックに戻ってからで、という事で私たちは村を後にすることにした。
「ここですべき事は終わった。 アルベド、撤収するぞ」
「承知いたしました」
返事をするアルベドはなんだか苛立っているように見える。
でもそれは私に向けたものではないようだった。 どちらかと言えば……この村の人間たちに対して不愉快さを覚えているような、そんな空気。
同じことを思ったのか、盟主がアルベドに問いかける。
「……人間が嫌いか?」
その問いに、アルベドは好きではない、脆弱な生き物で下等生物で、虫のように踏み潰したらどれだけ綺麗になるか、例外の一人を除き……と答える。
ふうん。 アルベドは人間が嫌いなのか。
私はアルベドの事を嫌いにはなりたくはないけれどね……。
「そうか……お前の気持ちは分かった。 だが、ここでは冷静に優しく振舞え。 演技というのは重要だ」
盟主の言葉に頭を下げるアルベド。 盟主はこういう時にも優しく諭すようにいう。
だから守護者たちから優しい人って言われるんだと思う。 実際盟主はお優しい。
盟主マジ仁徳の王。 慈悲深き支配者。
そんな盟主を褒め称える言葉に私が心の中で浸っていると、盟主が今度は私に話を振ってきた。
「あんぐまーるさんは、この世界の人間をどう思っています?」
どうって、それは……
「犬猫と同じくらいには嫌いではありません。 分別弁えず吠え立て噛み付こうとする狂犬ならばその限りではありませんが。 その首を刎ねるのに何の感慨も……」
なんだろう。 自分で言ってて何か違和感がある。 なにかおかしい気がする。
エンリとその妹に覚えた愛着。 結果的に助けた村人たち。 殺した騎士たちに抱いた憎悪。
これらの違いは何だ。 彼らの差は何だ。 人間と犬や猫などの動物の違いは何だ。
自分自身の発した言葉に困惑する私に、盟主は少し考えて、そしてさらに次の言葉を投げかけた。
「あんぐまーるさん……私たちが『人間だった』事を覚えていますか?」
その一言を耳にしたとき、私は愕然となって、その衝撃の大きさに平衡感覚を失って地面に片膝をついた。
両手で頭を抱える。 そうだ、人間だった。 つい昨日まで……私はユグドラシルというゲームのプレイヤーで、人間で、そしてこの村の人間や、殺した騎士たちと同じ、人間だったんだ。
「あんぐまーるさん!?」
「あんぐまーる様、如何なされました!」
盟主とアルベドが私を心配して左右から顔を覗き込む。
受けた大きな衝撃による動揺はすぐさま収まり、私は普段の冷静さを取り戻している。
何度も体験した、心が挫けそうになるたび復帰するこの不思議な感覚。
それに支えられて私は立ち直り、ゆっくりと立ち上がった。
そして、自分でも何かわからないものを求めて盟主に問おうとする。 だが、冷静さは取り戻しているはずなのに言葉が上手く出ない。
「盟主……盟主は……」
盟主は私としっかり目を合わせて言ってくれた。
「あんぐまーるさん、おそらくわた……俺も、貴方と同じです」
そうか。 そういう事だったんだ。
だから、私はあの時……盟主に進言した時。
殺戮を行った者たちの「行為」そのものに対して憎悪を抱き。
そして、「村を助けよう」じゃなく、「こいつらを殺そう」って盟主に言ったんだ。
私は今はっきりと自覚していた。 私にとってはもう、人間は
気づくと、広場の前まで来ていた。 その片隅で数人の村人となにやら相談していた村長が、こちらに気づいて緊迫感を顔に浮かべたまま駆け寄ってきた。
また何か問題でも起こったのだろうか。
盟主が、先に村長に話しかけた。
「……どうかされましたか、村長殿」
「ああ! モモンガ様。 実はまた大変なことになりそうで。 実はこの村の方に馬に乗った戦士風の者たちが近づいて来ると、今見張り台に立っている者から報告が……」
今日はまだもう一波乱起こりそうだった。
……はやく帰りたい。 不貞寝したい。
あんぐまーるの中では犬か猫というのは実はかなり上位に入っている存在です。
あと描写少ないですがモモンガ様今回すっごく頑張りました。 もうデミウルゴス要らないんじゃないかなってくらい。