オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております




緊急を告げる鐘が打ち鳴らされ、村人たちの顔に困惑と恐怖が再び影を落とす。

村長の家へ集まるように誘導された彼らの後を追うように死の騎士が巨体を揺らして歩き、そして警護に付いた。

盟主は広場にて村長と並んで立つ。 アルベドは盟主の後ろに。

私は……少し迷った。

本当なら盟主の半歩下がった右か左隣が定位置なのだけど、下手に前に近い所にいると、また何か失敗をしそうだ。

そう思ってちょっと後ろの方の家屋の壁の側にたたずんでいると、盟主に呼ばれた。

 

「あんぐまーるさん? 私の隣に居てください」

 

「……承知」

 

……アルベドの横を通り、盟主から半歩下がった右隣でいつものポーズ。

アルベド、今チッって舌打ちしなかった? 空耳だよね? 私へのアルベドの態度がよそよそしかったり冷たかったりして悲しい。

盟主に対しては鎧の下で時々くふー!って小さい声で嬉しそうに漏らしてるだけに余計悲しい。

誰だよアルベドの設定弄って「モモンガを愛している」なんて書いた奴。 盟主ですね。

そこは「モモンガを愛し、そしてあんぐまーるの事は一番の親友だと思っている」とか書いて欲しかった。 ……文字数足りないな。

いいもん後でセバスかデミウルゴスか恐怖公に慰めてもらうから。

 

広場へと騎兵隊が入ってくる。 一、二、三、……十八、十九、二十か。

心の中で彼らの数を数える。 さっきと大体同じ程度。 さっきより2~3倍くらい強いと見積もっても、大した数じゃないな。

私と盟主が組めば、同程度のプレイヤー1PTくらいはなんとかなる。 ……なるよ? 盟主が殆ど倒すからなるよ多分。 できる、盟主ならできるって!

加えてアルベドも居るし。 死の騎士……はまあ、足止めくらいにはなるかな。

そう、不安要素は何もない。 ……っていう考え方じゃダメなんだよなあ。

盟主ぐらい慎重に、相手の持ってる耐性とかどんな戦法を取って来るのかとか冷静に状況を分析して、そして集めた情報から対抗手段を構築する……そのぐらい頭を使わないといけない。

……私は将棋とか囲碁とか苦手だった。

でも、これからはそうも行かないんだろうな。

今までの私は敵の中に特攻して暴れまわって、バステやステ低下、デバフ、各種属性を総当りで使って、どれが効いたか確かめる。 そんで頃合で離脱して。

そこに盟主とはじめとしたギルメンが火力で押して、そしたらまた私が後ろからチクチク攻撃して、離脱して。

みんなの影に隠れてばかりだった。 自分で考えなくても、誰かが指示をくれた。 その通りにして居ればよかった。

今は、盟主と二人きりだ。 他の仲間は居ない。

たっち・みー様もウルベルト様もぶくぶく茶釜様もぷにっと萌え様も居ない。

盟主と私で……場合によっては私一人の時も……作戦を考えて、戦っていかないといけないんだ。

 

騎兵隊が私たちの前で整列する。 その武装は一人一人でマチマチなのに、行動は見事なまでに統一されていた。

こいつらもさっきの騎士たちと同様に、充分な訓練を受けている。

その隊長格らしき屈強そうな体格と厳しい顔立ちの男が、盟主や私を視線で射抜く。

……まあ、怪しむよね。

そいつはリ・エスティーゼ王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフだと名乗った。

低いけどよく通る声。 イケメンボイスだ。

後ろの方からも村人たちのざわめく声が聞こえるところを見るに、相当な有名人のようですよ、盟主。

村長も驚いている様子で、盟主がどのような人物か尋ねると、王国の午前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭を統率するというなんか最強物語小説の主人公みたいな人だという答えが返ってきた。

……よしわかった。 こいつ盟主と同格以上のプレイヤーだ。 ワールドアイテム持ちだ。 たっち・みー様と互角の戦いができるワールドチャンピオン級に違いない。

 

「盟主、ここは我が楯となり食い止めます。 その隙に超位魔法にて我ごとお吹き飛ばしください。 それ以外に勝利を拾うことはできません」

 

小声で後ろから進言すると、盟主がギョッとして私を振り返る。

 

「……いや、あんぐまーるさん、まだ敵対すると決まったわけではありませんからね?」

 

……あれ? また何か失敗したかな私。

 

「この村の村長だな」

 

戦士長が口を開く。 もう私は黙っておこう。

 

「横に居る者たちは一体誰なのか教えてもらいたい」

 

あ、何気に盟主の後ろに居るアルベドがハブられた。 横に居るものたちだから盟主と私のことだよね。

私のお気に入りナザリックNPC第二位のアルベドを無視するとは、戦士長め!

盟主は村長が口を開きかけたところで先に口を開く。

 

「それには及びません。 はじめまして、王国戦士長殿。 私はモモンガ、こちらは私の仲間であんぐまーる。 偶然立ち寄ったこの村が騎士の一団に襲われておりましたので、行きがかり上助けた者です」

 

盟主が一礼するので、私もそれに倣う。

戦士長も馬から下りて頭を下げた。 重そうな甲冑着ている割に動作は身軽。

よっぽど慣れていると見える。 あと結構礼儀正しいな。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い」

 

その一言だけで村人や騎兵たちが少しばかりざわめく。

偉い人が頭を下げるのはよほどの行為なんだろうな、この国。

でもそうだね、馬に乗ったまま居丈高に振舞われるよりは印象悪くならないし。

それに、盟主の行ったことを即座に信じるとか、かなり人が良いのかな、戦士長さんは。

……私がいうのもなんだけど、どう考えてもアンデッドを使役している仮面の魔法使いと怪しい武装した2名は、悪役っぽいと思う。

村長さんがすぐ隣に立っているし、不自然な様子も無ければまあ脅されてるとかそういうのは考えなくてもいいと思うけれど。

なんだか直情で真面目を絵に描いたような人。 嫌いではない。

でも、なんか簡単なことであっさり死んじゃいそうだな。 こういうキャラの時点で変なフラグ立ててるようなものだし。

 

死んじゃいそうだからどうだっていうの? どうせ、人間なんかもうどうでもいいと思ってるのに。

 

……なんだ今の。 幻聴かな。

気づくと盟主と戦士長さんの会話が進んでいた。 また考え事していて幾つか聞き逃しちゃった。

難しい話苦手だからって別のこと考える癖も、直さなきゃいけない。

仮面を取ってくれという戦士長さんの要求に、盟主は死の騎士の制御に必要だから、でうまくかわした。

流石です盟主。

 

「なるほど、取らないでくれていた方が良いようだな。 では、そちらのあんぐまーる殿は、フードを取ってはいただけませんかな?」

 

盟主を心の中で褒め称えようと思ったらこっちに話が振られた。

さて、どうやって上手く拒否しよう。

 

「……騎士の誓いにより、我が主君モモンガ様以外の者に素顔を明かすことができない。 申し訳ないが」

 

この答えで良かったかな。 本当はそんな誓いや戒律無いけど。

今作った。 今作って誓いました。 はいオッケー。

というかホントこのフード取ったら私の頭部どうなってるんだろう。 実体の無い死霊は盟主のスケルトンより不思議な体してるよね。

戦士長は誓いであるというのは納得したようだったけれど、でも主君という部分は気になったようだ。 さらに問うてきた。

 

「主君……? お二人は主従の関係であるのか? 先ほどは仲間と伺ったが……」

 

「本来は同格の友人ですが、あんぐまーるさんからは剣と忠誠を捧げられてもいましてね。 奇妙に思われるかもしれませんが、まあこういう関係なのですよ」

 

「ふむ……そういう事か。 誓いであるならば無理強いはできないな」

 

戦士長は一応、納得してくれたようだ。

そうだよー。 盟主と私は友人だよー。 というか盟主とはオフ会とかリアルで会おうとか考えもしなかった、考えようとしなかった。

そういうの、キャラと中の人を混同して考えるのはマナー違反だもの。

そりゃあね、例えばオフ会とかに参加して、それでリアルの盟主の前で、騎士の誓いをリアルでやったら、お遊びの範疇やネタとしてならいいけど、本気でやったらドン引かれるじゃん。

現実とロールプレイの区別付いてない変な人だよ。

だから、私が盟主を尊敬し、主君と仰ぎ側でお仕えしたいっていうこの気持ちは、あくまであんぐまーる(ロールプレイ)の方であって私じゃない。

そうでなきゃいけないんだ。 多分盟主も同じでしょ?

だから、アルベド。 そんな睨まないで。 ホントに盟主と私は何もないから。 ね?マジでお願いします。

 

ほら、戦士長も盟主が武装を置いたらっていうのに対して剣は王様から頂いたものだからって断っている。

主君に対する礼と忠義ってこういうものだよ。

それに、盟主は素顔晒せない理由があるのを知らずに顔見せてって要求した戦士長に対して、剣を外せない理由があるのを知らずに取ってと要求したことでお互い貸し借り無しにしている。

さすが盟主、社交の機知に富むお方。 ほら、盟主凄いでしょ憧れるでしょ。 ね? だから盟主の方だけ見ててください。

あ、もしかして盟主が戦士長に私を紹介したけどアルベドは紹介しなかった事を根に持っていらっしゃる? 違うよそれ私のせいじゃないよ盟主のせいだよ。

盟主! 戦士長! アルベドをハブにしないであげて! お願い!

私が後ろのアルベドから怨念めいた視線や気配をぶつけられて居る間にも話は進んでいた。

なんだか村を襲った騎士に関して詳しい事情聴取が始まるらしい。 しかも泊まりになるらしい。

ええー……帰りたい。 ショックな事あったし帰ってメイドさんprprしたい。 今日はエントマちゃんにしたい。

そこの広場の隅に転がしている騎士の生き残りに聞いて下さい。 ……話聞けそうにないか。

あれ正気に戻るのかな。

そう思っていると、騎兵が一人広場に駆け込んできた。 ……見張りを村外に立てていたのか。

その表情の切迫ぶりからすると、相当な緊急の用件のようだと思う。

 

「戦士長! 周囲に複数の人影が! 村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

ほんとマジ帰ってもいいですか、盟主。 ダメ?

 

 

 

 

「なるほど……確かにいるな」

 

私が村の反対側の偵察から戻ってきたとき、戦士長と盟主も家屋の影から接近してくる者たちの様子を窺っていた。

こっちの方から見える数は三人。 いずれも軽装で、格好からはマジックキャスターの可能性が高い。

そして、その側に浮遊する、見覚えのある翼持つ姿。

 

「盟主、裏側からもやはり等間隔で同数、装備、装束は同様。 ……<霊体化>で間近で確認しましたが、やはり引き連れているのは炎の上位天使で間違いないかと」

 

盟主の側に控え、報告の後半は小声で告げる。

奇妙なことに連中が連れているのはユグドラシルに存在したモンスターだ。

じゃあ、あいつらは何者だろう? プレイヤー? だとすればそんなに強くはない奴らだ。 炎の上位天使は別にそんな強い敵じゃない。

……作ったばかりのキャラでこの世界にやってきた人たちだろうか?

盟主は報告を受け取ると頷いて、そして戦士長と相談を始めた。

 

「一体、彼らは何者で、狙いはどこにあるのでしょう? この村にそんな価値があるとは思えないのですが」

 

「モモンガ殿らに心当たりが無い……狙いではないということなら、答えは一つだな」

 

ああ、なるほど。 戦士長を狙って……戦士長はこの辺りを襲っているバハルス帝国の騎士たちのためにここに来た。 なんだか繋がってきたね。

……そのためにあの村と、そしてこの村の人たちは殺されたのか。

私の心に一旦鎮火して収まっていた炎がまた灯り始める。

 

「憎まれているのですね、戦士長殿は」

 

「戦士長という地位に就いている以上は仕方ないことだが……本当に困ったものだ」

 

盟主と戦士長の視線が交錯しあい、そして戦士長が肩をすくめた。

国の重要な地位に居れば、敵国からはそれは疎まれるものだろう。

私も末席とはいえアインズ・ウール・ゴウンに参入してからは、盟主たちを敵視するほかのギルドやプレイヤーから目を付けられる立場になった。

……そんなの関係ないか。 元々異形種だからってだけでPKの対象にしに来るのはそっちからだ。

さて、戦士長さんの話では相手はスレイン法国の部隊らしいことがわかった。

特殊交錯任務に従事するその部隊名は六色聖典。

 

「……ブフッ!」

 

「……?」

 

「……どうかしたか、あんぐまーる殿」

 

いえ、なんでもございません。 そう言いたいのだけれど、手で口元を押さえて声が出ないようにするのに必死で答えられない。

六色聖典。 ……六色聖典ってお前。 どんなネーミングセンスだ。 無いわ。 中二過ぎて無いわ。

格好良すぎて逆に格好つけ過ぎで、ヤバい、ツボに入った。 誰だこんな名前を、しかも国の特殊工作部隊に……もうこの時点で中二過ぎるでしょう。

そもそも部隊名に「聖典」って名づけるってどうよ。 六色は多分色ごとに6種類の部隊があるってことなんだろうけど、普通は聖典を崇めるもしくは信仰の象徴にすべきで、宗教組織の抱える部隊を「聖典」と言っちゃうものじゃないでしょう。

使い方間違えてる。 絶対。

うん、あいつらやっぱりプレイヤーだ。 そんで自分で部隊名名乗ってるんだ。

法国は プレイヤーの国に違いない。 こんな中二センス、現地人じゃあり得ないもの。 あんぐまーる覚えた。

……手加減は無用って事だよね。

 

なんとか復帰した私は盟主と戦士長さんに何でもありません、と冷静を装って何事も無かったかのように答えた。

盟主と戦士長さんは顔を見合わせた後、やっぱり何事も無かったかのように流してくれた。

 

「……モモンガ殿。 良ければ雇われないか?」

 

戦士長さんは盟主に唐突に提案を持ちかけた。 戦士長さんたちの部隊だけでは戦力が足りない、という事だろうか。

こっちの戦力もよくわかっていないだろうに、そこそこの評価をしてもらっているという事なのかな。

……盟主はどうするつもりだろう。 受けるのだろうか。

答えが無いのは、思案しているに違いない。

 

「報酬は望まれる額を約束しよう」

 

「……お断りさせていただきましょう」

 

断るんだ。 ……まあそうか。 この人間に手をかす理由があまり無い。

当然、私にも無い。

 

「かの召喚された騎士を貸していただけるだけでも構わないのだが? もしくは、あんぐまーる殿が雇われてくれる気はないか」

 

「……それもお断りさせていただきます」

 

「我が主君が望まれない以上、我も拒否せねばなりません」

 

戦士長は私にも話しを振るけど、でも私は盟主の決定に従うまで。

盟主が力を貸さないと決めたら、私も貸さない。 私は戦士長を助けたいとは特に思わないし。

 

では、以前の我は彼らを助けなかったと言うのか。

 

……なんだろう。 また幻聴かな。

戦士長はまだしつこく食い下がり、王国の法で強制する権利を振りかざすことを仄めかす。

盟主はそれも毅然と拒否した。 盟主と戦士長の視線がぶつかり、一瞬の緊張が走る。

側に控える私とアルベドにも緊張が伝わった。 いつでも剣を鞘走れるよう待機する。

わかっているよね、アルベド? 私が戦士長の剣を受け、貴様が盟主を確保し後ろに下がってお守りしろ。

……が、すぐに緊張の糸は緩んだ。 杞憂に終わったようだ。

 

「……怖いな。 貴殿らを相手にしてはスレイン法国の者らとやりあう前に全滅する」

 

「全滅など……ご謙遜を。 ですが、ご理解いただけたようで嬉しく思います」

 

盟主が頭を下げて一礼する。 謙遜してるのは盟主の方かと。

戦士長は明らかに私たちの方を「戦ったら脅威」と言いたげな視線を向けている。

ほら、盟主の顔をじっと見ているし。 ……今度は私の方をじっと見始めた。

あんま見られたくは無いのだけど、顔を背けるのは失礼なのでフードをちょっと弄ってさらに目深に被り、隠すようにする。

戦士長のほうから視線を逸らしてくれた。 いえいえ、そんな気に障ってませんよ。 でもこのフードの中に顔が無いっての気づかれるとお互い面倒ですから。

 

「……いつまでもこうしている訳にもいかない。 ではモモンガ殿、お元気で。 この村を救ってくれたこと、感謝する」

 

戦士長と盟主が握手を交わす。

そして、戦士長は私たちに村の人々を託し、もう一度守って欲しいと要請した。

……それって、戦士長たちが打って出るということかな。

包囲してくる敵。 それも、戦士長を討つことを目的に準備を整えて実行した計画。

戦士長が包囲を破るために突撃してくることは予想済みだろう。 何をどうやっても戦士長を倒せる算段を立てているに違いない。

やっぱり、戦士長さんは死亡フラグが立っていたんだ。

戦士長は王都に来ることがあれば望みの報酬を約束するって言ってるけど、それは戦士長が生きて帰れれば、の話だよね。

……できない約束はするものではないよ、ガゼフ・ストロノーフ。

でも、盟主は村人は必ず守る、と約束した。 その名前にかけて。

村人は助ける理由がある。 一度助けたのだし、援助の約束もした。

 

「感謝する、モモンガ殿。 ならばもはや後顧の憂いなし。 私は前のみを見て進ませていただこう」

 

そして、行く先は死地か。 まるで物語に出てくる正々堂々とした騎士だ。

 

「……その前にこちらをお持ちください」

 

そう言って盟主が差し出したのは……アレか。 盟主、まだ持ってたんだ。 私はもうとっくに使い切っちゃったよ、便利だったし。

余ってるようだったら後でひとつくらい譲ってくれないかな。

そうして、戦士長は太陽が完全に沈む前に騎兵隊を率いて出発して行った。

敵に暗視系の魔法があるなら夜闇はこっちの不利にしかならない……賢明な判断だ。

でも、できれば闇に紛れたほうが私にとっては活動しやすい。

そうすれば、助勢も……なんで私が助勢するんだろう。

私と盟主は小さくなっていく戦士長たちの背中を見送っていた。

やがて、盟主がポツリと独り言のように小さく漏らした。

 

「……はぁ。 初対面の人間には虫に向ける程度の親しみしかないが……どうも話してみると、小動物に向ける程度の愛着が湧くな」

 

「小動物、ですか」

 

私がそれに答えると、盟主は聞かれているとは思わなかったのかちょっと驚いてこっちを見ると罰が悪そうに頭を掻いた。

 

「ええ……どうも、人間の精神性や価値観ではなくなって来ているのを自覚しますよ。 あんぐまーるさんは……その、大丈夫ですか、もう?」

 

「……正直なところ、わかりません。 人間を同胞として見れない、特に共感や同情が湧かない、足元を歩く蟻や羽虫と同じ程度でしかないのならば、我は何を同胞と見なせるのか。

 喜びを分かち合い、傷つけられれば怒り、側に居たいと思える、真に同胞と言えるのは盟主(モモンガ様)盟友(ギルメン)らである事は決まりきっております。

 なれど……」

 

私は上手く答えが出せなかった。 自分でも、何が言いたいのか、この気持ちをどう表現していいのかわからない。

人間と動物や、虫との違いは何だ。 私が仲間と思える人たちとの違いは何だ。

仲間じゃなきゃ、人間なんかどうでもいいと思ってるなら、じゃあ何故、私はあの時怒った。 溶けた鉄のような真っ赤な憎悪を燃やした。

私は「悪の騎士」だ。 正々堂々とか仁徳とか慈悲とかそんなものは大事じゃない。

ただ、この心に誓いと忠義とルールがあるだけ。

そして、我が主君モモンガ様の……恩義に報いる……そう、私を助けてくれた……弱かった私に力を貸してくれた……。

 

答えを、見つけた。

 

「なれど、我に譲れぬ信念あり。 我は死の影の谷を歩くもの、我こそが悪なれど、悪とは無法と無秩序とただ蛮性を開放し我欲を満たし、卑劣卑怯の振る舞いを行うことをよしとするものにあらず。

 まして、虫けらを踏み潰して喜ぶなど下賤の行い。 それはただ醜悪であって悪にあらず、外道なり。 外道を行うものに、人間、亜人、異形、それらの区別一切無し。

 我らアインズ・ウール・ゴウン、そのようなものらと与する理由は一切ありません」

 

盟主が頷く。 そして、私の肩に手を置いた。

 

「人間には共感を覚えない……からと言って、人間を助けなくていい事にはなりませんしね。

 正直、私たち以外にも居るかもしれないプレイヤーと敵対したくはないですし、ただ悪事を行う悪のギルドだという印象を持たれたくはない。

 「悪」でも、時には正義に力を貸してもいいでしょう。

 ……敵の力は未知数です。 あんぐまーるさん、威力偵察をお願いします。 最低限、あのガゼフ・ストロノーフは生存させてください。 王国と関係を結ぶのに利用できますから」

 

「承知!」

 

盟主の御意思、決定に従い私は<騎獣召喚>で影の雌馬を呼び出し、その鞍に跨った。

 

 

 

 

 

一陣の疾風となって駆け出すあんぐまーるの背中を見送り、モモンガは心の中で呟いた。

あんぐまーる、ガゼフ・ストロノーフ。

二人に共通した、自分とは違う強い意志を持つ者への憧れを。

 

 

 

 




なお、あんぐまーる的には一位がセバスで三位がシャルティア、四位がデミウルゴス、五位が恐怖公
メイドは優劣付けがたいので別腹枠

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