オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております


十三

動きやすい軽装にマントを羽織り、腰から長剣を下げた冒険者姿のナーベラル・ガンマが同じく軽装ながら武装をした、いかにも冒険者らしい格好をした男とにらみ合っている。

店内の真ん中で起きている騒動を、周りのテーブルに付く同様の客……冒険者たちはある者は興味なさげに、またある者はうろんな目、さらにある者はどんな事になるのか楽しみだ、という感じの期待の目を向けている。

店の主人もだけれど、特にこれを止めようという者は居ない。

つまりはこれがこの酒場での、揉め事に対するスタンスというか決まりごとみたいなものなんだろうな。

ゲロか何かを見つめるような冷ややかな視線のナーベラルとガン付けあっている男の首から下がってるのは鉄のプレート。

一つ上のランクの冒険者か。

そして、そのすぐ側のテーブルを囲んでニヤニヤとそれを眺めてるのはこの男の仲間だろうか?

男と似たようなというか同類っぽい雰囲気や装備、そして首から下がるのはやはり鉄のプレートだし。

私は隣に立つ盟主……ムササビと顔を見合わせる。 ムササビは黙って肩をすくめた。

どっちが原因で喧嘩になってるのか知らないけど、「冒険者としての」私達には関わりの無い話しだし、そして「どっちに肩入れするか」って言ったら、決まってる。

私はわざとらしく大きなため息を一つついて、そのまま真っ直ぐ歩き始める。

 

「邪魔だよ、おっさん」

 

「うおっ!?」

 

男の肩を強く押し退け、横を通過してカウンターに向かおうとする。

横からの力にバランスを崩し転びそうになった男が慌てて踏鞴を踏み、転倒を免れるとすぐにこちらに食って掛かってきた。

 

「何しやがるてめえ!」

 

「通行の邪魔だよ、店の真ん中で突っ立ってんじゃねえ、外でやれ外で。 大の男が何を女となんか喧嘩してんだ、みっともない」

 

行き過ぎようとした足を止めて男の方を振り返り軽く睨みつける。 男は私の方を睨み返した後、首から下がる胴のプレートを見て鼻で笑った。

 

「装備は立派だが、駆け出しかよ兄ちゃ……いや、嬢ちゃんかお前。 先輩への敬意は払わないといけねえぜ? そこの女も新顔の割りに生意気だから、ちょっと説教くれてやろうと思ってたんだ。 ちょうどいいや、俺達のテーブルでまとめて親睦を深めようぜ? 色々とこの業界のことを、教えてやるよ」

 

男の言葉に、何が面白かったのか彼の仲間達が小さく笑う。

ああ、よくいるよねこういうタイプ。 私の学生時代から度々見た。

なんでこういつの時代でもどこの世界でもこういうのってだいたい同じようなタイプやパターンに落ち着くんだろう。

いわゆるテンプレートってやつ。

そこで男の後ろからさらに声がかかった。

 

「その必要は無い。 あいにくこちらは仲間は間に合っていてね……相棒が失礼をしたのは謝らせてもらうが、私達とは関係ない話だ。 大人しくどくか、隅の方でやってくれないか? 邪魔なんでね」

 

男が視線を向けた先には黒い仮面に象眼された、縦に三つ並ぶ金色の目。 上から下まで黒で統一された装束を身に纏う、只者ではないという雰囲気を漂わせた魔法詠唱者が居た。

そのいかにも怪しげな仮面から発する迫力に男はゴクリと唾を飲み込むが、しかし首から下がっているのが私と同じ銅のプレートだとわかるとわずかに安堵の表情を滲ませる。

ボソリと、「なんでえ、ハッタリかましやがって」と呟いた。

それから務めて余裕を取り繕ってからムササビに向かって言う。

 

「まあそうつれない事言うなよ、ちょっとの間お前の彼女を貸してくれりゃあいいんだ。 良ければ俺達が色々仕込んで……がっ!?」

 

その口がセリフを全部言い終える前に、私は男の背後から首を掴み、そのまま持ち上げた。

男の足の裏が床と離れ、空中に浮き上がる。 かわりに天井との距離がちょっと縮まった。

酒場がざわめきだす。 そんなに重い防具を身につけてないとはいえ、成人男性の体重を女が片手で持ち上げて吊り上げているのだ。

びっくりするよね、当然。

 

「しつこいんだよお前。 話は全く変わるけどよ、お前空を飛ぶ気分って味わったことはあるか? 一回実際に飛んで試してみろよ」

 

そう言って、私は男の首を掴んだまま振りかぶる。 男の両足が近くのテーブルにいた客数名の頭上をスイングし、彼らが驚いて首を縮こまらせた。 小さな悲鳴も聞こえる。

そして、私は男を店の端の方……壁際に向かって放り投げた。

空中で男は一瞬の無重力……浮遊感を覚え、そして壁に叩き付けられる。

壁が案外頑丈だったのか、軽く跳ね返ってから男はそのまま近くのテーブルの上へと落下した。

何か鈍いボクリ、という木の棒が折れるのに近い音。 ビンの割れる音。 客の甲高い悲鳴。

その直後のうってかわった異様な静寂が酒場の中を支配する。

客の殆どは唖然としていて、目の前で起こった光景を信じられないような目で見ていた。

 

「……どうせだから、お前たちも一緒に飛んで見るか? おい」

 

私は椅子に腰掛けたまま呆然とこちらを見上げている、男の仲間たちにも手を伸ばし、両手にそれぞれ一人ずつその首根っこを捕まえて持ち上げる。

今度は二人の人間が空中に吊り上げられた。 店内のあちこちからも悲鳴や椅子から慌てて立ち上がる音が幾つか起きた。

 

「ひいいいいいっ!?」

 

「や、やめてくれ!」

 

「そこまでにするんだ、アドゥナ」

 

静かだが、強い口調でムササビの制止が入る。 有無を言わせぬという感じに。

私はしぶしぶという素振りで二人の哀れな男達からそれぞれ手を離して下ろしてやり、一歩後ろに下がって大仰に肩をすくめて見せた。

解放され床に尻餅をつく彼ら。

ムササビは壁際のテーブルの上で呻き声すら上げずピクリとも動かなくなっている男に顔を向けてから、仲間達を見下ろして言葉をかけた。

 

「私の相棒が二度も迷惑をかけたな。 許してくれるとありがたいのだが?」

 

「……あ? あ、あぁ! こちらこそ仲間があまりにも失礼な事をした! 謝らせてくれ!」

 

「お互い様ということで水に流してくれるのだな? それはありがたい。 ではついでに壁とテーブルの修理費を主人に払ってくれるとさらにありがたいのだが」

 

「勿論です! 払わせてください!」

 

ムササビは見事な交渉術で話を穏便に済ませてくれた。 流石ですムササビ様。

そしてムササビが私を見る。 ……あれ、何だかこれ凄く似たような状況と展開をカルネ村で見たような覚えがある!

 

私とムササビは店の奥、カウンターに向かった。

そこに居たのはやはり、荒くれ者の集う店にはお似合いの……というかこのくらいの迫力がないと店主なんてやって行けないんだろうなって感じの強面のおっさんが居た。

袖をまくった腕や顔のそこかしこに古い傷跡。 引退した元冒険者って所かな?

頭部は禿げ上がっているし、そこそこ歳も行っているようだけど、しかし他には店員は……というか、こんな酒場には似つかわしくないような感じの明るくて笑顔の素敵で愛想のいい、それでいて意外と腕っ節も強いような感じの娘さんとかは見当たらなかった。

この分だとメニューに揚げじゃがとかも期待できなさそう。

 

「一泊でお願いしたい」

 

私の隣に立つムササビが、元から愛想が無いからなのかそれともさっきひと騒動起こしたのが原因なのか顔に渋面を作る店主に向かって言う。

顔つきどおりの渋い声が店主の口から発せられた。

 

「……あんたらその腕で銅のプレートか。 相部屋で一日銅貨5枚、飯はオートミールと野菜だ。 肉が欲しいなら追加で銅貨1枚だ」

 

「二人部屋は空いていないのか?」

 

ムササビがそう尋ねると、店主は鼻で笑った。

 

「あんたらの実力なら必要ねえのかもしれないが、ここに泊まる冒険者は大体が銅か鉄のプレートだ。 駆け出しは似たような仕事が多いから、顔見知りはチームとして冒険に出る傾向にある。 そうやってチームを組むのに相応しい奴や、手が足りなくて前衛や後衛のバランスが悪いって時にメンバーを追加するのには俺の店がもってこいだ。

個室で寝泊りしても構わないが、もし仲間を増やしたいってのなら普通は大部屋なんかで顔を売って置くのが……まあ、あんたらはここの連中には充分顔が売れただろうし、釈迦に説法かもしれないがよ……」

 

言い方はぶっきらぼうな部分多いけど、結構親切にアドバイスしてくれるねおっさん。

意外といい人かも。 顔は怖いけど実は親身に世話を焼いてくれる親父さんとして冒険者たちに尊敬を得ているタイプ?

流石元冒険者でベテランの貫禄! 「ここでは新入りは大部屋がルールだ!!」とか怒鳴ったりしないぐう聖。

 

「ご忠告痛み入る。 だが、二人部屋で問題ない。 食事は外で済ませるので必要ない」

 

「そうかい……なら、一日銅貨7枚だ」

 

店主がごつい手を差し出す。 ムササビが懐から皮袋を取り出して、銀貨を一枚取り出し、店主に渡す。 店主はお釣りの銅貨を返してきた。

そして、カウンターの上に小さな鍵を置く。

 

「階段上がって、すぐ右の部屋だ」

 

ムササビと店主はその後も少し宿内の注意事項とか、冒険に必要な道具の調達とかを話した。

私は特にすることが無いので店内に目を向ける。

放り投げた男は仲間達に介抱されていて、よかった……どうやら死んでいない。

変な音したから首の骨折ったかと思った。 またやりすぎでムササビ……盟主に正座で叱られてしまう。

他の客たちはまだこっちの方を恐ろしげな目で様子を窺っている人も居れば、我関せずという空気をアピールするかのように談笑と杯を傾けこっちを見ないようにしている人も居る。

そんな態度が両極端に分かれる中、一人の女性がこっちを見て、泣きそうな顔で何か言いたげにしていたけど、私と目が合うと縮こまって席についてしまった。

なんだったんだろ。

その人のテーブルの上には何かが砕けた破片と零れた液体が染みを作っている。

 

「了解した。 アドゥナ、行くぞ」

 

ムササビの方の話は終わったらしい。 私は歩みを進める彼に続いてやたらギシギシと音を立てる階段を上がった。

この階段、全身甲冑付けて乗ったら壊れないかな?

 

 

 

部屋に入ってすぐに、予想していた通りコンコン、と小さなノックの音がする。

ゆっくりドアを開けると、そこに立っていたのはナーベラルだった。

 

「ああ、さっきの人。 何か用か?」

 

「先ほどは助けていただきありがとう御座いました。 お礼を述べさせていただきたく……」

 

「そう。 こんな所で立ち話もなんだし、入りなよ」

 

「はい、では失礼させていただきます」

 

廊下によく聞こえるように言葉を交わし、ナーベラルを部屋の中に入れる。 しっかりとドアを閉じて、ムササビの方を見た。

 

「盗み聞きの対策は施した。 今は普段どおりで話す事を許す、あんぐまーる、ナーベラル・ガンマ」

 

「はっ、承知しました盟主」

 

「はい、モモンガ様。 それにしても、このような場所にモモンガ様とあんぐまーる様が滞在せねばならないなんて」

 

ナーベラルが遺憾を態度と口調に表して宿への批評を行う。

たしかにまあ、床は汚れてるし、店内の明かりは少ないし、この部屋もかなり粗末だしね。

ナザリックとは偉い違いだ。

 

「そう言うな、ナーベラル・ガンマよ。 私達の目的はこの都市での情報収集と、その手段として冒険者としての地位と名声を得ること。 名が知られるまでは分にあった生活というのも悪くは無い」

 

「我も小人らが故郷の村を離れ、初めての大きな町へと訪れる古の物語のくだりを思い出し、これでなかなかに一興かと」

 

まあ現地がどんな風になっているかの事前情報はカルネ村や、先行してたナーベラルの定時報告である程度予備知識があったわけだけど……。

聞くと見るとでは良くも悪くも大違いだしね。

だから盟主は自分で直接見たかった部分が大きいんだろうな。

実際、そういう事はユグドラシルでもしばしばあった。

先行偵察を請け負うのは私や探索系の構成をとったギルドメンバーが行うことが多いけれど、でも私達が見て伝える情報が盟主や作戦立案担当メンバーに100%正確に伝わるとは限らないし、見落としてる部分とかも起こるから完全じゃない。

それは指示を出す側がどんなに細かく「調べるべきこと」をリストアップし、現場がどれだけ正確に情報を伝達しようとしても、しょせん人間のやることだから完璧にはいかないのだ。

そこは、リアル生活での会社の仕事でも同じ。

そこらへんの反省と経験が今に生きているからこその盟主のご慧眼なんだろう。

 

「しかし……冒険者とは、予想以上に夢の無い仕事だ」

 

盟主が小さくため息をつく。 まあ、そこはゲームのようには行かないでしょうね。

冒険者って物凄くリアルに考えたら馳夫さんたち野伏りのような根無し草だろうし、ギルドとか組織化されてたり、冒険者御用達の宿とかが設立されてたりする方がむしろ、これでも相当に高度化され社会に認知されている職業な方だと思う。

その意味ではここの冒険者組合ってのは凄い存在だよ。 これを組織化し立ち上げるには相当な数の人物が凄まじい苦労をしてようやく結実させたに違いないと私は思う。

 

「しかし、あの不快な男どもはどういたしましょう?」

 

不快な男? ああ、ナーベラルに絡んでいたあいつらの事か。

私はもうあれだけ脅かしたんだから、別にいいと思うんだけどな。 しばらくトラウマで女性を見るだけで怖いに違いない。

全く懲りる事無くどこかで別の女性に絡んでいくような、大馬鹿なくらい神経図太いなら別だけど。

 

「ああ、あのような者ども、別段相手にすることはない。 イチイチあの程度の者らに構っていては仕方ないだろう?」

 

ほら、盟主もそういうお考えだ。 私からも特に何かいう事は無い。

とは言え……ちょっと気になる部分はあるのでナーベラルに質問しておこう。

 

「なれど、ナーベラルよ、一体如何なる原因であの男と諍いになっていた。 経緯を説明せよ」

 

「はい、あんぐまーる様。 昨日エ・ランテルに到着して直後から、あのような男ども複数にこの宿や冒険者組合で度々絡まれまして。 最初は、確かにモモンガ様のおっしゃる通り、構っている必要が見出せませんでしたので、適当に無視しておりました。

しかし、彼らは四六時中私に付きまとい、邪魔をするので命じられた情報収集はおろか、組合で仕事を探すのにも支障をきたす始末。 流石に私もこれ以上感情を抑えることが出来ず、つい、拒絶の意を示す際に下等生物(ウジムシ)と罵ってしまったのですが、しかしあの下等生物(ダニ)は怒り始め……」

 

その説明に、盟主は仮面の上から顔を抑えてヨロヨロとベッドに腰掛け、私はがくーっと肩を落とした。

うん、それは仕方ない。 それどころかよく我慢したよナーベラル。

昨日からずっとなんでしょ? そりゃいくら何時もクールで冷静なナーベラル・ガンマでもキレるよ。

それが当然だ。 ナーベラルは何にも悪くない。

悪いのはしつこい冒険者の男どもだ。

 

「……そうかー。 そりゃそうだよなあ。 綺麗な女の子がたった一人で冒険者になろうって言うんだから、こういう展開になるのは予想するべきだった。 許せ、ナーベラル・ガンマよ。 これは私の失態だ。 お前を一人で向かわせたからこのような問題になったのだ」

 

「そんな! 全ては私の責任です! モモンガ様より潜入諜報活動としての命を受けておきながら、それを果たせず……それどころかモモンガ様とあんぐまーる様のお手を煩わせてしまうなどと、とても許されるものでは!」

 

自分の指示・選択ミスだと落ち込む盟主と、あくまでも我慢しきれずキレた自分に責任があると言い張るナーベラル。

まあ、どちらに責任の割合があるかといえば殆ど決定・指示した私達の方にある。

確かに、こういうのは事前に予測できてしかるべきだったよね。

誰かもう一人……できれば男性か、男性の姿になれるNPCを同行させれば回避できたトラブルだった。

私はナーベラルの肩にポン、と優しく手を置く。

 

「貴様の責任は一切無い。 むしろ、よくやった。 貴様は任務を果たすことを優先し雑音には取り合わなかったのだし、そしてあの愚か者どもは超えてはならない一線を越えたがゆえに貴様を激怒させた。

奴らは我が制裁し、他の者どもも思い知ったであろう。 己の行いには必ず報いが訪れるとな。 貴様が気に病む必要はないのだ、ナーベラルよ。

ただ……貴様に幾つか教えておくべき事がある」

 

「はい、あんぐまーる様」

 

「本当に相手の男がしつこく、見苦しいまでに食い下がってくるならばやむを得ぬ、身の程をわからせてやるがよい。

世の男とは得てして愚物なるもの。 女が反撃してくることなど無いとたかを括っておる。

そして女は力ずくで言う事を聞かせられるとな」

 

まあ、そうじゃない男性もいるだろうけど。 盟主とか。 たっちさんとか。 あとウルベルトさんもそういう事はしなさそうだし、ペロロンチーニョ…ペロロンチーノさんも「紳士」の類だから多分。

こうして見るとうちのギルメンの男性人だいたい女の子に手を上げない系だよね。

 

「ゆえに、女に反撃を受けるとその精神に多大な衝撃を受け、それだけで気力を喪失する脆き部分も持ち合わせている。

ゆえに、遠慮は要らぬ。 股座を蹴り上げてやるがよい。

反撃が来るとわかれば他の男はその女に手を出さず、むしろ恐れるようになる。 男は女より強くありたがる癖に、自分に抗する程の女は恐怖するのだ。

必要充分に威圧せしことはそれだけで今後言い寄る男どもから身を守る一手となる。

そしてもう一つ。 威圧するだけではなく、味方を作れ」

 

「味方……とは? 自分達ナザリックの者たち以外に味方など必要なのでしょうか?」

 

ナーベラルが怪訝そうな顔をする。

まあ、世の中の有象無象とナザリックのNPCたちではレベルに差があるから、味方って言っても何の役に立つのかわからないだろうし、それらを味方にってのは意味がわからないよね。

 

「味方とは、即ち世間の風評なり。 例えるなら先ほど我は結果的に貴様を助けたであろう?

これは我、冒険者アドゥナは男が手出しできぬ女というだけにあらず、男に絡まれ困っていた冒険者ナーベに手を差し伸べた者であるという解釈も成り立つ。

つまり男の冒険者からは敬遠されども同性、女の冒険者からは頼もしい存在として映る場合がある。

同様に男という愚者の被害に逢っていようからな」

 

「……となれば、女冒険者はあんぐまーる様を自分たちの味方として認識し、あんぐまーる様を正義と見なす。 そういう事だったのですね。

流石は至高の御方。 そこまでお考えの上で助けてくださったとは」

 

ナーベラルの顔が明るく輝く。 うん、しょぼくれた顔よりはその方がいいよ。

うん、ナーベは可愛い。 プレアデスの可愛さは優劣付けがたいけどナーベは他のみんなに負けてないくらい可愛いよ。

 

「故に、貴様もそうせよ。 別段殺す必要はない。 痛めつければ獣でも力の差を理解する。 そして同時に誰かに手を差し伸べよ。 さすれば相手を半殺しにしても、貴様が助けた者たちが貴様の正当性を証言してくれよう」

 

世間は自分に火の粉がかかるのを好まない。 だから積極的に人を助けようとする人は少なく、二の足を踏む。

でも自分を火の粉から守ってくれる存在には好感を持つ。

腰掛けてずっと聞いていた盟主も立ち上がる。

 

「結果的に見れば、ナーベラル・ガンマがあの冒険者とトラブルを起こしたのは悪いことではない。 むしろ功績だ。 私達の名声を高める格好の材料を用意したのだからな。 礼を言うぞ、ナーベラル」

 

「そんな! お礼など! 私ごときに勿体無く存知ます!」

 

盟主からのお褒めの言葉を賜り、ちょっと慌てるナーベラルも可愛い。

 

「さて……冒険者ムササビとアドゥナに助けられた冒険者ナーベが礼を言いにきたのはいいが、それだけの要件であまり長居すると変に思われるかもしれないな。 ナーベは自分の部屋に戻ったほうがいいだろう。 私たちも、仕事を探すのは明日からとして、町の地理を確かめておきたい。 外出するとしよう。 ただ、私達の留守中に部屋に何者かが忍び込んで怪しい動きをしないかの用心は頼む。 それと、定時連絡もな」

 

「はい、承りました。 任務上は別行動ですが、陰ながら全力で支援したいと思っております」

 

「頼むぞ」

 

ナーベが部屋を出て行った後、盟主と私は再びムササビとアドゥナに戻って階下へと向かった。

酒場では私達の姿を見た冒険者達がギョッとした顔をして、わざわざ椅子から立ち上がって広く道を空ける。

……そこまでしなくてもいいのに。 ちょっと威圧しすぎたかな、これ。

ナーベラルに言ったことはまあ、間違いじゃない。

でも、こんな思考だから私は喪女のアラサーなんだろうなあ……と少し内心でガックリ来た。

おい誰だ今私のことを東高のア○ソックマンとか昔のあだ名で言った奴。

レスリング部なんか入ったことないし図書委員の大人しい眼鏡っ子だったから!

本当だから! 風評でそんな事になっただけで事実じゃないから!

信じて!

 

 

 




このお話のナーベさんはwebと書籍が2:8くらいの割合で構成されているので割と我慢強く、よほど相手が不快か無礼じゃなければ罵倒しないだけのスルー能力も有しています
ほんとメッチャ頑張って我慢してたので褒めてあげてください

次回は13・5でナーベ視点とブリタさんの短い話になると思います




11月8日:過激な表現を修正いたしました

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