オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております




「……それで、あんぐまーるさんはこのままソロで続けるつもりなのですか?」

 

紫色の不気味な輝きを放つ、死神の鎌のごとき三日月が濃紺の空に浮かぶ死都の広場に面した一角で、不死者の魔法使いは死霊の騎士に問いかけた。

既に二人の周囲に生きているものの気配はなく、またその二人も生者では無かった。

聖騎士、神官戦士、大司教、巫女、尼僧、精霊使い、拳僧兵……善と正義を標榜し邪悪なる存在の活動を許さぬ一団の諸々の構成員はみな屍となって倒れ伏し、廃墟となり朽ちて崩れ落ちかけた美しき都は再び静寂を取り戻している。

死。 それのみがこの場を支配し、絶対の秩序として君臨する。

命あるものがこれを汚すことこそ無粋であり、冒涜であった。

 

「それが貴公に何の関わりがある……」

 

死霊の騎士はモモンガに背を向け、尼僧の骸から稲妻の走る刀身を引き抜きながら応えた。

顔を合わせようともしない。

その表情すら暗い闇の帳に隠された顔がどこを見ているのかは皆目検討も付かないが、あんぐまーるはまるでモモンガと言葉を交わすことすら拒絶するかのように冷徹な態度と声を続けている。

所詮は、一時の共闘関係。 それ以上のものではなく、そして敵を排除したからにはもう互いの用は済んだと言わんばかりである。

だが、モモンガはその白い骸骨を剥き出しにした恐ろしげな外見に似合わぬ穏やかな声で言葉を続けた。

 

「また今回のようなことが身に降りかからないとは限りません。 ……いいえ、こんな事は昔から何度もありました。 一時期はゲームそのものに嫌気が刺して辞めようかと思ったほどです。 でも、私には手を差し伸べてくれる仲間が居ました」

 

あんぐまーるはわずかに首を動かし、背後のモモンガを見た。

モモンガのさらに背後には紫色の月があり、それは急速に満ち欠けを進ませて満月へと移り変わろうとしている。

モモンガはさらに言葉を続けた。

 

「あんぐまーるさんも、一人で居る限りはまたこんな嫌な目に逢うかもしれません。 何度も、何度も。 それはとても辛いことです。 心が折れそうになるくらいに……。 でも、仲間が居れば嫌なことばかりでは無いでしょうし、戦うのも苦しくなくなるはずです」

 

「貴公は何が言いたい。 手短に言え」

 

あんぐまーるは再びモモンガに背を向け、剣を振って血糊を払い落とす動作をすると、ゆっくりとした動作でその刀身を鞘へと収めた。

カチン、という唾鳴りの音がする。 

 

「……私たちのギルド、アインズ・ウール・ゴウンにあんぐまーるさんも入りませんか?」

 

唐突に浴びせられたその言葉にあんぐまーるはちょっと驚いたような仕草でモモンガに振り返った。

不死者の王は月の紫色の照り返しを受け、その骸骨の頭部の何もない眼窩の奥の赤い光を妖しくも優しく灯らせた。

 

「もちろん、ギルドには幾つか入会の条件があり、それをあんぐまーるさんが満たしている必要はありますが……。

 私は、あんぐまーるさんの今の状態があまり他人事には思えないもので。 その……昔の自分を見ているような」

 

「……我には必要が無い。 またこいつらが来ればその時斬り伏せればいいだけだ」

 

モモンガの言葉を途中でさえぎり、アングマールは今度こそ本当に背を向けて歩き始めた。

瓦礫と死体を踏みつけ、市街の路地の奥の方へと歩みを進める。

その背中に、モモンガはやや残念そうに声をかけた。

 

「……そうですか。 差し出がましいことを言って申し訳ありません。 でも、もし気が向いたら私たちの拠点の、ナザリック地下大墳墓に来てください! 待っていますから!」

 

あんぐまーるは背に受けたその言葉には返事をせず、そのまま死都の暗がりの向こうへと消えていった。

後に残されたモモンガの背後に、完全な満月となった紫色の月が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

ユグドラシルへのログインを完了し、プレイヤー・キャラクターであるあんぐまーるとなった私の姿は最後にログインした時の装備を身につけた、異形種の死霊騎士へと変貌していた。

鋭角的な漆黒の甲冑には削骨をイメージした装飾が施され、その上に裾の綻びた灰色の外套を羽織っている。

フードを被ったその奥の顔はうかがい知れず…そこに本当に顔があるのかすら怪しい。

手足を動かすたびに擦れあう甲冑の関節部の金属音とともに、黒い煙のようなエフェクトが発生する。

この煙には一定範囲へのバステ効果とデバフ効果を与えるようにデータが組み込まれている。

そして、腰に帯びる長剣は鞘も無く鎖で釣られ、刀身の毒蛇を想起させる文様からは瘴気のエフェクトが立ち上っていた。

そこに存在するだけで生命あるもの全てを蝕む邪悪なる闇の霊、死霊、怨霊の具現化した形。

そうとでも形容するような禍々しい騎士がそこに立っていた。

 

「遅くなりまし…… た……」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力によりログインとともに自動的に転送されることになるナザリック地下大墳墓第九層の円卓の間には、黒曜石の輝きを放つあの巨大な円卓と41人分の席が静かに鎮座するのみで、誰の姿もなかった。

ギルドメンバー全員が一堂に会したときは騒がしく密度の濃い空間になるこの広大な部屋が、初めて見るようながらんどうとした光景になっている。

円卓を一周したり、座席の下に誰か居ないか確認してみたが、やはり誰も居なかった。

なんだか鼻の奥がつーんとして、目も熱いものがじわじわこみ上げてくる。

 

「ふぇ……なんで? なんで誰も居ないの? みんなもう帰っちゃったの?」

 

メールを受け取るのが、気づくのが遅すぎたから。 物凄いギリギリでログインしたけどもう遅かったから。

いろんな思いがぐるぐると頭を駆け巡り、本当に私は泣きそうになってくる。

なんでだよ。 なんで。 今日一日いいこと何も無かったのに、最後までこの仕打ちなのですか。

最後の最後までこうなんですか。

コンソールを開いて時刻を確認すると、23:58:34を指している。

 

「あと1分半くらい……1分半もあるのに……なんで帰っちゃうんだよぉ……」

 

ぐしぐしと両手の甲で目の辺りを拭いながら、私は円卓の間の外に出た。

もしかしたら他の場所にみんなが集まって、まだ居る可能性を求めたからだ。

時間が残り少ないため、駆け足で第九階層の廊下を進む。

どうジャンプしても届かない、<飛行>の魔法を使わないとならない高さに吊り下げられている華美なシャンデリアを見上げながら、ああもっと早くログインしてればこれもゆっくり見納められたのに、と残念に思う。

途中、廊下で何人かのNPCメイドとすれ違う。

 

「ホワイトブリム様のメイドさん……最後にじっくり見たかった……」

 

あとで連載作品の単行本読んで自分を慰めよう、と言い聞かせる。

そういえば先月買った最新刊まだ読んでなくて積みっぱなしだった。

…進めど進めど、すれ違うのはNPCばかりでギルドメンバーとは出会わない。

私はどこになら人が居そうなのか、残り少ない時間制限の中で必死に考えた。

居住区の誰かの部屋に集まってたとしたら、一つ一つ確認するのは凄い骨折りだ、というか時間が足りない。

考えろ考えろ、最後の時間にみんな集まってそうな、なんかシメをやりそうな場所……そうだ! 玉座!

ようやっと可能性に思いついた私は全力で床を蹴り、疾走を開始した。

戦闘時の最大速度に近いなりふり構わぬ高速移動で第十階層までの最短ルートを走る。

途中、角を曲がりきれずに柱や壁に衝突しそうになる。

だが、スペクターの種族特殊能力である<霊体化>を使用してすり抜けて回避した。

 

「急げ、急げ、急げ急げ急げ急げ急げ!!」

 

時間は差し迫っていた。

時刻表示は23:59:46を指している。

47、48、第十階層への階段が見えてくる、見事な踏み切りで一気にジャンプして一番下まで降りる。

49、50、51、長大な広間を走り抜ける。

52、53、大広間の天井の四色のあのクリスタルが見えてくる、そして67体の悪魔像を一瞬で通り過ぎる。

 

「急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ!!」

 

54、55、玉座に通じる巨大な扉が見える。 ブレーキをかけている暇は無い。

私はそのまま階段を飛び降りたときと同様に絶妙なタイミングでジャンプを敢行した。

57、空中で片足を伸ばし、ライダーキックの姿勢を取る。

 

「うらあああああああ~~~~~~!!!!!」

 

57、扉へと激突、大砲が炸裂したかのような轟音とともに扉は勢いよく観音開きに開き、そして玉座に座っていた誰かが驚愕して立ち上がった。

58、空中でバランスをとり、着地、そのまま床との摩擦で滑りながら勢いを殺し、玉座のちょうど10歩前で停止する。

 

59。

 

「セーフ!?」

 

「……ギリセーフ? でしょうか、あんぐまーるさん」

 

00。

 

ああ、そこに居たのは……。

真っ白に漂白された骸骨の姿。 その眼窩の奥に灯る妖しくも優しげな赤い光。

両手の全ての指にはまった指輪から、小手やブーツ、体の隅々にいたるまで神器級の装備で整え、豪奢なガウンをまとった神々しくも堂々とした威風……。

そしてその手に握られている、我らのギルドの象徴。

世界に2つと同じものはなく、唯一無二の宝器。

七匹の蛇の絡み合う、七色の宝石の飾られた輝くスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

我らが盟主。 ギルド、アインンズ・ウール・ゴウンの長。 我が剣を捧げるべき唯一の御方。

そして……私がここに居る理由。 我が友。 我が指揮官。 我が主君。

モモンガ様。

 

最後に、貴方に一目会えただけでも……。

十分です。

そうして、サーバーの停止を迎え……。

 

「うん?」

 

「うん?」

 

私とモモンガ様がほぼ同時に疑問の声を発し、顔を見合わせた。

おかしい。 ブラックアウトしない。 強制ログアウトが起こらない。

見慣れた自分の部屋に戻っているという事が起こらず、私たちはユグドラシルの内部、ナザリックの玉座の間に居た。

時刻は0:00:00……1、2、3とカウントを続けている。

 

「どういうことでしょう?」

 

「サーバーダウンが中止になったとか?」

 

あるいは、何か手違いがあってまだサーバーが生きているのだろうか。

とりあえず、色々なものの確認のためにコンソールを起動しようとして、さらなる異常事態に私とモモンガ様は気づいた。

 

「コンソールが機能致しません」

 

「こっちもです……どういうことなんだ!」

 

普段なら何の不具合も無く正常に動作するはずの機能がまったく反応が無い。

コンソール以外の機能も一通り試して、それら全てが反応が無く正常な動作が起こらない……そもそも、まるで最初からそんな機能なんか存在しなかったごとく手ごたえが帰ってこなかった。

再び、私とモモンガ様が顔を見合わせる。 心なしか、モモンガ様の顔に困惑の表情が色濃く浮かんでいるような感じがした。

 

「どうかなさいましたか、モモンガ様? あんぐまーる様?」

 

突然、横合いから声をかけられてはっとして腰の剣に手を伸ばす。

誰だ!? 明らかにはじめて聞く、ギルドのメンバーの誰でもない声。

この場に居ないはずの存在。

だが、その声の発せられた方向を見て、驚きのあまり二度凝視し、そしていよいよ持って私は困惑した。

モモンガ様さえも、唖然として声が出せないで居る。

そこにいたのは、まごうことなきNPCであるはずの……それも、言葉を発するようには設定してないと記憶していた、アルベドだったからだ。

 

 




冒頭のPK集団の7割くらいはモモンガさんが倒しました
残りの3割はモモンガさんの攻撃でHPが半分くらいに削れたところをあんぐまーるが後ろからぶっ刺して行ってトドメを刺しました

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