オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております


十四

 

「うちにある物であんたの剣より良い物ってのは流石に無えなあ……相当な業物だぜそりゃ。 さぞかし名のある刀匠が鍛えた代物に違いねえ。 刀身だけじゃない、一流の研ぎ師、一流の装飾職人、おおよそ刀剣造りに携わる職人が技術を結集して作り上げたもんだ、そうだろう?」

 

立ち寄った武器屋さんは鍛冶工房と併設されており、そちらの方から漂う熱気に負けない勢いで店主は私の剣に視線を注いでいた。

……いつも使っている神器級の装備からは二段劣る聖遺物級なんだけど、それでもこっちの世界の規準だと相当規格外の一品になってしまうらしい。

まあ、外装は立派なのを選んだけど、データクリスタルは命中率上昇とクリティカル率上昇がちょっと入ってるだけの、しょせん変装用サブ装備ですよ?

あれかな、初心者のレベル上げに付き合うために、雑魚敵を殺さないようHP削ってあげるため装備を選んだつもりがそれでもオーバーキルだった、くらいのミスかな。

道理で、私も盟主……ムササビも道行く人にすっげえ目で見られると思った。

まあここのお店に置いてある冒険者向け刀剣類も、外装はそこそこ悪くないの多いんですけどね。 デザインだけなら好みなの幾つかあるよ。

 

「では……こちらを買い取って貰いたい」

 

ムササビが数本の剣を店主に渡す。 スレイン法国の連中から巻き上げた装備だ。

当面の問題として、お金が無い。 宝物庫には金銀財宝や山のように積み重なっているのに、現地通貨を持っていないというのはあまりにも不便だ。

銀貨や銅貨の類も法国の奴らが持っているものがあったけど、ナーベと私達とで活動費用として配分すると全く足りなくなってしまった。

というわけで、不足分はあんまり価値がありそうではなく売っても問題なさそうな戦利品を売却して補うことになったわけ。

 

「この剣だったら、このくらいの金額で買い取ることになるな」

 

「……それで構わない。 持ち歩くのも邪魔なのでな、早めに処分したかった所だ」

 

相場がよくわからないから適正な買取価格なのか不明だけど、まあそれは大したことじゃないか。

仮に足元見られてても、凄い価値のものをもう持ってるから、他のものは二束三文でいいって感じに見せられればそんなに不自然じゃないはず。

只者じゃないぞって大物感を演出するのは流石盟主、得意技だね。

実際盟主は普段から凄い人だけどね。 私が初めて出会ったときもだし。

 

武器屋さんを出て、銀貨の詰まった小袋を掌で弄びながら私とムササビは歩く。

市場といいさっきの店といい、これだけで既にかなりの情報が集まった。

 

「やはり、この世界の平均的な装備の質は相当に低いもののようだな……それを使う人間のレベルの水準も、それに合わせたものとなる」

 

「あの店で一番高いものでも遺産級に届かなさそうなものばっかしだからなあ。 王都の方だったらもっと腕のいい職人が居たり、外国製のいい武器が売ってるって言ってたけど、この分じゃ期待薄だな」

 

「しかし、一般流通しているものが程度が低いだけで、上級の装備はある所にはある可能性がまだ残っている。 ユグドラシル産のアイテムも。 油断はできないな」

 

そんな会話をしながら歩く。

ふと、私はさっきの武器屋の鍛冶工房をちょっと覗いた時に気がついたことを口にした。

 

「そういや、やっぱこの世界って剣を一本一本職人が真っ赤な鉄叩いて作る鍛造なんだな……町並みは結構発展してるし案外綺麗なのに、そういうところは中世後半~近世に届いてないというか、地球の史実の方だったら板金から型抜き加工して大量生産が行われててもおかしくない時代水準だと思ったんだけどなあ……」

 

「え、なんですかそれ」

 

「ほら、鍛造だと一本作るのに一日中とか、長いと数日掛けてカンカン叩き続けて、熱して冷やしてを繰り返すだろ?

でも、製鉄技術が上がると一枚の板金でそこそこ頑丈なのが作れるようになるから、それを刃物の形に型抜きして、削って、刃を焼きいれしたもので量産が容易に行われるようになるわけ。

騎士とか貴族の持つ武器はともかく、兵士の武装はこんな程度で充分だからそういう製法で作られるようになったんだよ」

 

「へ、へえー……あんぐ……アドゥナは、物知りなんだな」

 

……盟主に褒めてもらった。 嬉しい。

あれ? でも盟主もこのくらいの事は普通に知ってる範囲内じゃないんですか?

普段あんなに頭のいいお知恵の冴え渡るアインズ・ウール・ゴウンの統率者が知識の引き出しの中に入ってないはずが無い。

きっと知ってるけど知らない振りをして私に花を持たせてくれたんだ。

さすが盟主。 聞き上手のイケメンナンパ師か。

 

「でもその割りに市場に焼き菓子や肉の串焼きの屋台が並んでたり……菓子を作るのにあたって砂糖が充分流通している点、家畜を育てるのにコストのかかる肉が普通に食べられる点、技術はともかく産業はかなり発展してるよなこのせか……国。

家屋とか舗装された道路とか見るに建築や土木の技術も進んでる。 均等に進歩してるわけじゃなく微妙にチグハグ……そういう文明も歴史上無かったわけじゃないからおかしくはないのか?

20世紀後半~21世紀前半もそうだし」

 

「ア、アドゥナは歴史が得意なのか? 初めて知ったよ」

 

どうしたんです、盟主。 声が上ずってません?

 

「まあ大学ではそっち系、というか新古典幻想文学が専攻だったんで。 ほら、ファンタジーって古代~中世の時代を舞台にしたもの多いから、自然と歴史の方も齧ることになるんだわ。 トールキン関係の講義以外あんま興味無かったけど、そればっかでも単位取れないし」

 

「だ、大卒……相当な勝ち組じゃんそれ……俺とは会社の環境随分違うらしいのは知ってたけど……いや別に今更そんなの気にする間柄じゃないけど、もっと早く言って欲しかった……」

 

あれ? 盟主、今なにか呟きました?

そういや盟主は大学は何を専攻したんだろう。 文系かと思ってたんだけど。

もしかして理系なのかな。 盟主めっちゃ頭いいし理系かもしれない。

私は思いっきり趣味に走った分野にしちゃった割りにそれで食っていくの難しい商売になり難い学問だから、就職が大変だった……結局一般的な企業に勤めることになっちゃったし。

盟主はそういう苦労とは無縁のエリート街道なんだろうなあ。

 

「気を取り直そう……次はどこを見に行くか」

 

「市場で聞いた話だと、この町って有名な薬師のバレアレってお婆さんが居るらしいな。 どうせだからこっちのポーションがどんなもんか見てみたいな」

 

「ポーション? 下級治癒薬ぐらいならこの世界にも普通にあるのではないか?」

 

「武器のレベルが低いからって、アイテムまでそうとは限らない、だろ? 警戒は充分にすべきだと言ったのはお前だぜ、ムササビ」

 

「そうだったな……では、調査活動に向かおうか」

 

 

薬師の集まるという区画に入ってしばらくも歩かないうちに、その看板は見つかった。

ポーションの材料だろうか、不思議な臭いの漂う町並とその雰囲気は独特のもので、その中でもちょっと一風変わった、複数の工房が合体したような目立つ家屋のドアに吊り下げられたのは、聞いていた通りの木のプレートだ。

私とムササビはそれを見直し、確かに目的の場所であることを確認する。

ここが薬師リイジー・バレアレの工房であることは確かなようだ。 ついさっきすれ違った女冒険者にも尋ねているし、間違いない。

そういえばあの女冒険者、こっちを見て随分と驚き、恐縮していたな。

見覚えがあるような気がするんだけど……宿屋で見たっけか?

ま、いいや。 とりあえず入ろう。

ムササビがドアを押すと、上に取り付けられていた鐘が大きな音を立てた。

 

「やれやれ、今日は客が多いね」

 

そこに居たのは鋭い眼光をした老婆。 顔や手の皺が相当な年齢であることを窺わせているけど、背も曲がってないしこっちに向かってくる足取りはしっかりしている。

さっきまで薬の製作をしていたばかりだったのか、染みだらけの作業着姿。

間違いなくこの人がバレアレさんだね。 ……間違ってたらどうしよう。

 

「リイジー・バレアレさんで間違いないかな? あなたの作った治癒のポーションが欲しくて来たんだが」

 

ムササビがそういうと、バレアレ嫗は奥に声をかける。 出てきた少年にポーションを出すようにいい、私とムササビの二人に長椅子に腰掛けるように薦めた。

テーブルを挟んでバレアレ嫗も反対側の長椅子に座る。 少年が青い液体の入った小瓶をテーブルの上に並べた。

 

「うちで作ってるポーションは三種類……薬草のみ、薬草と魔法、魔法のみ、の作り方で効能の程度が変わる。 一番高価だが即効性がって、魔法と同じくらいの効き目があるのが三番目だよ」

 

「それはどのくらいの効果が?」

 

バレアレ嫗の説明にムササビが質問を返した。

 

「錬金術溶液に魔法を注ぎ込むからね。 こいつの場合は第二位階の治癒魔法を込めているから、それと同等の効果がある」

 

「ふうん……つまり下位治癒薬か。 あれ? でも下位治癒薬って赤じゃなかったっけ」

 

ふと私が意識せず零した呟きに、バレアレ嫗が鋭い視線を走らせ、そしてムササビが気配の変化を察しで仮面の下でバレアレ嫗に警戒する雰囲気を纏わせた。

そして私はやや遅れてその空気に築き、やっちゃった……というしかめっ面を浮かべる。

もしかしなくても、何かミスった?

 

「……真なる癒しのポーションは神の血を示す、確かにそういう言い伝えは昔からあるね。 だが治癒薬は製作過程でどうしても青くなっちまう。 それが世間一般の薬師の常識さ。 だが、あんたらの口ぶりからは、どうもそうでないみたいだね?」

 

「いやそれは……アドゥナ、お前の勘違いだろう。 変なことを言って申し訳ない、バレアレさん」

 

ムササビは何とか誤魔化しに入る。 盟主、マジごめんなさい。 うっかりしてました。

こっちのポーションはユグドラシルのポーションと違うかもしれないって自分でも言ってたのに。

そうですよねポーション作りの専門家のいう事には間違い無いです治癒のポーションは青です素人がアホな事いって申し訳ありませんでした……って、バレアレさんは誤魔化されてくれなさそうな目をしている。

 

「どういう偶然か、今日は赤い治癒薬を持ち込んできた客が居たんだよ。 そいつは通常の製造方法ではありえない、単体で劣化することの無い完成されたポーションだった。 そこへ、同じく今日やってきたあんた達も赤いポーションの話をした。 偶然や勘違いとは思えない符合だねえ?」

 

「……我々もその話が詳しく聞きたくなってきたな」

 

こちらを警戒しつつも興味深そうに窺うバレアレさんに対し、盟主も疑いつつも興味のありそうな様子を見せている。

……赤い治癒のポーションを持ち込んだ客。 青い治癒薬しかない世界で、おそらくはユグドラシルの下位治癒薬を持っていた、何者か。

これは、初日から当りを引いたのかな?

私達三人の醸し出す微妙な緊張感を含んだ部屋内の空気に圧され、側に立っている少年もゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「あんた達も赤いポーションを持っているのかい?」

 

バレアレ嫗が値踏みするように問いかける。 持っていて、それを見せてくれるなら話す気になる、と言いたげに。

私とムササビが顔を見合わせ、頷きを交わす。 見せるしかないだろう。

どちらにしろ、見せて証言を取らないと「この工房に持ち込まれた赤いポーション」が本当に私達の下位治癒薬と同じものか確認が取れない。

ムササビが袖口からポーションを取り出して机の上に置いた。

赤い液体の入った小瓶、下位治癒薬。

 

「おお……容器は確かにあれと同じ。 中身を調べさせてもらってもいいかね?」

 

ムササビが頷いて促すと、バレアレ嫗は魔法を発動させた。

<道具鑑定>と<付与魔法探知>、やっぱりここでもユグドラシルと同じ魔法を使っている。

調べ終わったバレアレ嫗が顔を上げた。

 

「確かに、私が見せてもらったものと同一のもののようだよ。 あんた達は、いったいこれをどこで手に入れたんだい?」

 

「その前に、そちらにこの治癒薬を持ち込んだのが誰かに付いてを教えてもらおう」

 

ムササビが静かな、しかし有無を言わせぬという強い圧力を込めた声で言った。

嫗と仮面の視線が激しく交錯する。

が、バレアレ嫗は表情をやや和らげると素直に口を開いた。

 

「冒険者の一人だよ。 名前は聞かなかったがね。 その冒険者はさらに別の冒険者から貰ったと言っていた。 そこから先の足取りは私も追えて無いね」

 

ムササビは少しの間バレアレ嫗にじっと視線を向けていたが、やがて漂わせていた緊張を解いた。

まだ完全に信じたわけではないにせよ、彼女の言っている事に嘘はないととりあえず判断したようだ。

どのみち、強引に口を割らせるのも得策じゃないしね。 強硬手段に出るのはまだだ。

 

「……こちらはこのポーションの入手先について答える事は出来ない。 遠く離れた地で手に入れたとだけ言わせて貰おう。 この土地では、迂闊にそれを口にする事はできないと理解したのでな」

 

……そう、迂闊だった。 ほんとマジ迂闊だった。

ごめんなさい。 本当にごめんなさい我の失態にございまする。 あとで切腹します。

今度はバレアレ嫗がムササビをしばらく見つめ、やがて目を閉じてそれ以上の詮索を中止した。

 

「言う気がないんじゃ仕方が無い。 代わりに私にこのポーションを売ってはくれないかね。 金貨三十二枚は出すよ」

 

金貨三十二枚! ナーベラルに半分渡しても、私達の当面の活動資金が充分過ぎるほど確保される。

でも、お金の問題じゃないというか、お金に換算することの出来ない問題が今発生してるんだよね。

どうするの? 盟主……って思ったら、盟主が立ち上がってこう言った。

 

「代価は必要ない。 そちらに譲渡しよう。 その代わり今日のことは、我々の事を含めて他言無用に頼む。 行くぞ、アドゥナ。 これ以上の長居は無用だ」

 

「……承知。 そんじゃ婆さん、また来るかもしれないからその時はよろしく」

 

私も立ち上がり、バレアレさんと少年に手を振って店を出ようとドアに歩き出す盟主の後に続く。

ムササビとアドゥナの背中にバレアレ嫗の警告が投げかけられた。

 

「今度来るときはもっと詳しく話を聞かせてもらいたいもんだね。 わかっているだろうが、あんたらも気をつけた方がいい。 このポーションはあんた達を殺してでも手に入れたいと思う人も居るだろうってほどの価値があるのだからね」

 

ありがたい警告だ。 よくこの頭に言い聞かせておこう。

バレアレ嫗と少年の視線を背中に受けながら、謎の来客二人はその場を後にした。

 

 

 

 

「……結果的には、「ユグドラシルの下位治癒薬をこの世界に流した何者か」の存在を察知することが出来たと言えますけど」

 

「重ね重ね申し訳ございませぬ。 深く陳謝してお詫び申し上げます」

 

宿屋に戻った私と盟主はさっそく反省会に入っていた。 当然私は自主的に床に正座。

まかり間違ってたらカバーするの難しい大ポカになってたかもしれませんでした、はい。

盟主は仮面と顔の偽装を取り、普段どおりの骸骨の頭部を晒して腕組みしながら今後の対応策を検討している。

そう、下位治癒薬とはいえユグドラシル由来のアイテムがこの世界にあるって事は、元々それを持っていたのは私達と同じような存在、プレイヤーである公算はかなり高い。

それも、意図的にバレアレさんの所に持ち込んだ可能性が。

バレアレさんはああ言っていたけど、流石に盟主はそれをそのまま鵜呑みにしていない。

偶然人づてに渡ってエ・ランテル一の薬師のところに持っていかれたと考えるより、プレイヤー自身があれをバレアレさんに見せに行った……その可能性が高いと私と盟主は見ていた。

だって、その辺の店や工房じゃなくて、直でバレアレさんの所だもの。 普通どっか経由ぐらいするでしょ。

「赤い伝説のポーション!? 最高の薬師であるバレアレさんの所で確認してもらえ!」とかって。 でも、そういう噂やニュースが町で騒ぎになっては居なかった。

つまりそいういうことだ、あれは最初からバレアレさんの所に来た。

 

「あの場で強引に暴力や脅迫で口を割らせるのは、バレアレ氏が有名人である以上難しい……ナザリックに連れ去ったりしたら、行方不明とされて騒動になるはず。

私達がバレアレ氏の元を訪れたのを誰か目撃したかもしれない可能性も考えられますから、私達に疑いがかかったり悪評が広まるのは今後の活動に支障をきたしますからね」

 

「とならば、それとなく察知されないよう監視の目を工房とバレアレ嫗に張り付かせるのが得策。 確か、ナーベラルの支援用に影の悪魔(シャドウデーモン)を数体送り込んでおりましたから、取り合えずはそれを遣わしましょう。

プレイヤーがバレアレ嫗の元を訪れるかも知れませぬ。 おそらくアレは、「釣り餌」にございましょうから」

 

そう、私達がプレイヤーの存在に対して過敏に反応し、警戒するようにプレイヤーの側も私達……自分と同じようなプレイヤーに対して警戒し存在の有無を探ろうとするだろうことは想像に難くない。

というか向こうだってこっちと同じことをまず考えるはずだ。 敵になるにしろ味方になるにしろ、最終的に確定するまでは相手がどんな存在か慎重に見極めようとする。

そのために有効な手の一つは、「プレイヤーだったら独自の反応をするようなもの」を見せることだ。

でもそれは当然、自分の存在を相手にも疑わせる危険な一手でもある。

ただし、そのようなリスクを抱えてもそれをあえて行いたい時……あるいは、それがそこまでリスクになっていない時はやるに値する。

そして、リスクになっていない状況というのは……。

 

「自分が相手と敵対したとしてもそう簡単には負けないような下準備を全て揃えたと確信した時……存在を明かしてもなんら問題にならなくなった時、ですね」

 

「仮に我々よりも先にこの世界に到着し、情報を収集し終え、拠点の防備を固めて本格的な行動に移り始めたのなら。

下位治癒薬をバレアレ嫗という、薬師業の有力者の元に持ち込んで「そのようなアイテムがある」という情報を故意に流そうとしたであろうことも、その可能性を補強する一材料となります。

これは相当に知恵が回り、警戒すべき相手である可能性が高くなりました」

 

「場合によっては影の悪魔だけではなく八肢刀の暗殺蟲を増援として呼び寄せ、エ・ランテル市内のプレイヤー探索と警戒に当たらなけらばいけないでしょうね……いや、いっそのこと大部隊を近郊に待機させ……」

 

盟主はそこで大きく息を吐いて、考えを区切った。

 

「まあ、こっちも下位治癒薬をバレアレ氏のところに置いてきたので、もしプレイヤーがそれを察知すれば……この世界に自分が流したものとは別に下位治癒薬がもう一つある、とわかれば、こっちの目論見に上手く引っかかってくれるかもしれませんが」

 

「と申されると?」

 

盟主は私のその疑問に詳しく丁寧でわかりやすく解説を始めた。

 

「ユグドラシルのアイテムがもう一つ、それも自分が持ち込んだ所に持ち込まれる。 偶然には出来すぎているでしょう? 当然、こっちのポーションもわざとそこに持ち込んだ、存在を察知した上で残したと受け取る可能性がまず一つ。

そこから、自分の意図を察した相手が、それに応える形で同じことをしたのではと考える可能性がまた一つ。

そして、どのような意図を込めて応えようとしたのか……敵対もしくは友好の意思があるから存在をアピールしたいと考えた可能性が一つと、そして、自分と同じように、存在をアピールしても問題ない状態だから行ったと推察される可能性が一つ。

これだけ可能性を突きつけられた相手は、それを一つ一つ確認するためにより一層慎重になると思うんですよ。

そしてその分、時間が稼げる。 私たちも相手の状況を探りを入れて調査する時間と、敵対したときの準備を整える時間が。

相手の頭の良さが、かえって慎重さを増し手足に重りを付けるという……まあ、ぷにっとさんの受け売りなんですけどね」

 

「流石です盟主。 そこまであの一瞬でお考えの上でご決断なさるとは。 まさに我らアインズ・ウール・ゴウンの盟主の盟主たる所以、古の中つ国の賢人らにも匹敵する明晰なる知恵のなせる業。 このあんぐまーる、感服してございます」

 

「いや、あんぐまーるさん大げさですからそれは……」

 

照れ笑いながら謙遜する盟主だけど、ほんとマジで盟主は凄いと思う。

得体の知れないおそらくは相当な知恵者であるだろうプレイヤーの一手に対してさらに先を読んで積極的な一手を打つ事で対抗し、こちらの対応する時間を作り出す。

伊達に私達のギルド長を長い間やってない。 私達が居ない間もずっとナザリックを守ってきた手腕は本物だ。

だから、私は盟主に尊敬を捧げ忠誠を誓うのです。 それはきっとNPCたちも同じ。

私はこの人にお仕えしたい。 私の受けた恩義とともに。

 

ちなみに、バレアレさんが下位治癒薬の情報を同業者に流す心配は私達はしていない。

あれだけ情報的に価値のあるものだから、おいそれと明かすことはできないだろう、秘密にしたいというか情報を独占したいはずだという一定の信用というか打算ができるからだ。

それ自体はバレアレさん自身があのポーションの価値の大きさを言ってたしね。 殺してでも奪い取りたい、ということは今それを持ってるバレアレさんもその対象になりうるということだから。

あれは口止め料であり、バレアレさん自身への枷でもある。

そういう訳でほぼ私と盟主の今後の対応の打ち合わせは決まった。

 

「……では、早速ナーベラル・ガンマに配下の影の悪魔を監視に向かわせるように伝えて参ります」

 

「はい、わかりました。 こっちはアルベドに<伝言>で増援を向かわせるように支持します」

 

そう言って私は立ち上がり、盟主に一礼して部屋の扉を開けて廊下へと出た。

 

 

 

 

扉の静かに閉まる音がし、一人残された部屋でモモンガは深くため息を付いた。

 

「……これで、プレイヤーが皆の中の誰かだっていうような都合のいいことは、起こらないよな」

 

その声には深い諦観と哀愁が漂っていた。

と、キイと木材の軋む音がして部屋の扉が開いた。 慌ててモモンガは横に置いていた仮面を手に取ろうとするが、それはアドゥナの姿のあんぐまーるだった。

 

「盟主、ナーベラルの部屋ってどこでしたっけ?」

 

「……」

 

 

 

 

 




ブリタさんがリイジーお婆ちゃんの所に持ち込んだ下位治癒薬の元の持ち主……いったい何ベラル・ガンマなんだ……

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