オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~ 作:コノエス
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております
あんぐまーるがユグドラシルに何時もより早い時間にログインしたその日は、常に誰かしら座席について雑談を行っていることの多い玉座の間にギルドメンバーの姿は見えず、来ているのは自分だけのようだった。
敬愛する盟主モモンガの姿も無く、一人で特にすることもないあんぐまーるは、仕方が無いのでナザリックの内部を巡察することにした。
これは、こういう時にあんぐまーるが度々行っている趣味の一つである。
適当に各階層を歩き回り、途中で巡回ルーチンを組まれているNPCに出会えば声をかけて労をねぎらう。 時にはそのまま連れ歩くこともあった。
前回はデミウルゴスの元へ行き、彼を引き連れて第七階層を見て回った後、私室にまで連れ込んで卓にカップと酒を置き談笑するというような事もした。
この日選んだのは第三階層のシャルティアであった。
「シャルティア、久しいな。 実に一週間振りか。 息災であったか? たまには貴様の顔も見ておかねばな。 第一から第三階層は侵入者を最初に食い止める前線にして、葬り去るための攻勢陣地。 貴様こそがこのナザリックの外縁部防壁そのものと言っても過言ではないため、我もけして貴様の存在を軽く見てはおらぬ。 むしろ期待を寄せている。 ……これはこの間も言ったな。 何度でも言うとしよう。 貴様の役割の大きさと責の重さに対し、我は言葉以外に報いるものを持たぬ。 なまなかな褒美では貴様に対する正当な評価にならぬのだ。 加えて、貴様の美しきその姿、鮮血の如き妖しく魅入られしその瞳の色、薔薇のつぼみのような唇……貴様の創造主ぺぺ、おほん、ペ、ロ、ロ、ン、チ、ー、ノ様の心血を注いで作り上げた一種の芸術たる貴様の存在そのものも、我は気に入っているのだ。 我には到底作ることのできぬ、模倣ですら追いつかぬ造形の技術故にな。 我が私室に貴様の肖像画を飾って置きたいほどだが、それはペロ、ペ、ロ、ロ、ン、チ、ー、ノ様に僭越である故自重しておこう。 ……少し長居をしすぎたな。 これ以上貴様の仕事の邪魔をしては悪い。 我も巡察に戻るとしよう。 では、またなシャルティア」
(訳:シャルティアーーーーーー!!! 会いたかったよやっぱりシャルティアは可愛いな! アルベドも素敵だしリアルではあんな感じの美人が憧れの姿だけど、でもシャルティアも妹みたいな感じで可愛がりたいタイプ。 歌戦闘機三角関係アニメでいうならアルベドが銀河妖精でシャルティアが時空シンデレラだね! しばらく会ってなかったからシャルティア分補給prpr。 シャルティア作ったペロロンチーノ様は神。 まさに神。 ああ私にもこの才能の半分くらいあればなあ……何故に他人の作ったキャラほど萌えるものは無いんだろう。 可愛い子なんて私には絶対に作れない。 ああいいなあお持ち帰りぃしたいなあ。 無理だよなあ。 よし、シャルティア分補給完了。 また一週間頑張れる。 じゃあねシャルティア、名残惜しいけど……」
素材集めの狩りとアイテムの買出しから戻り、途中で偶然第三階層に立ち寄ったためにNPCの前で独り言を長々と呟いているあんぐまーるを目撃したペロロンチーノ、ぷにっと萌え、ヘロヘロらと、シャルティアとの会話(一人で喋っていただけだが)を終えて振り返ったあんぐまーるの視線が交錯した。
気まずい空気が全員の間を流れ、全員がしばらく沈黙していたが、あんぐまーるはおもむろに腰から剣を抜くと切腹した。
注意:ギルメンがログインしたらチャットで声をかけましょう。 自分がログインしたら誰かログインしてないかちゃんと確認しましょう。
モモンガとあんぐまーるが去った後、しばしの時間が経過してようやく守護者たちは張り詰めていた空気から解放され、息をついた。
アルベドを最初に一人一人立ち上がって、そして互いに顔を見合わせて先ほどまでの自分たちの主人二人に抱いた思いを口にし始める。
モモンガの発した絶望のオーラが自分たち守護者さえ身動きするのが叶わぬほどの重圧を与えたことに関してだ。
そして次に。
「シカシ、あんぐまーる様ハ流石モモンガ様ト同格、至高ノ御方ノ一人。 モモンガ様ノ側ニ控エタママ平然トシテオラレタ」
「あれに耐えられるのが至高の方々の水準なのね……」
「き、毅然としてて凄く格好いいって思った」
「でも、モモンガ様ほどの重圧は感じなかったけど、どうしてだろ?」
「おそらく、あんぐまーる様もモモンガ様と互角の力はお持ちなのでしょう。 しかし、お二人がその力を解放すれば、我々への負担が大きいとお考えになり、手心を加えてくださったのかもしれません。 いや、確実にそうでしょう。 以前からも我々に何かとお気遣いしていただく御方でした」
デミウルゴスが好意的に解釈する。 その言葉に全員が納得し、おお、と声を上げる。
実際にはモモンガの絶望のオーラはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによる増幅効果で守護者たちに効果が及んだのであるが。
「そういえば、よくあたしたちの階層に来て話しかけてくれたわ。 モモンガ様も、あたしたちと一緒に居たときは全然オーラを発してなかつたしね。 お二人とも凄く優しい方なんだ。 モモンガ様なんか、喉が渇いたかって飲みものまで出してくれて」
アウラの発言で、守護者たちから針の突き刺さるような嫉妬の気配が立ちこめる。 特にアルベドは顔に笑顔を浮かべたまま握り締めた手がプルプルと震えている。
「あ、あれがナザリック地下大墳墓の支配者としての態度になったモモンガ様と、あんぐまーる様なんだよね! 凄いね!」
マーレが上手く話を逸らし、空気と意識が戻る。
「全くその通り、私たちの気持ちにこたえて絶対者たる振る舞いを取っていただけるとは……流石は私たちの造物主、至高なる41人の方々の頂点と、その片腕。 最後までこの地に残りし慈悲深き君と……そして再びお戻り下された御方」
「まさに。 私たちが地位を名乗るまではお二人とも決してお持ちだった力を行使しておられませんでした。 我々が守護者としての姿を見せて初めて、その偉大な力の一端を開放されたのです」
「ツマリハ、我々ノ忠義心ニ答エ、支配者トシテノオ顔ヲ見セラレタトイウコトカ」
守護者はそれぞれ自分たちが絶対的忠誠を尽くすべき存在の真なる態度を目にすることが出来た喜びに包まれる。
その愉悦の空気を払拭し守護者たちの意識をセバスの言葉が引き戻した。
「では私は先に戻ります。 モモンガ様とあんぐまーる様は自室に戻られたようですし、お側に仕えるべきでしょうから」
「分かりました、セバス。 モモンガ様、あんぐまーる様に失礼が無いように仕えなさい。 それと何かあった場合は私にすぐ報告を。 特にモモンガ様が私を及びという場合は即座に駆けつけます。 ……そして、あんぐまーる様とモモンガ様の間に何か変わったことがあった場合も」
聞いていたデミウルゴスが最後の部分に僅かにピクりと眉を動かす。
「ただ、モモンガ様が寝室にお呼びという場合はそれとなくモモンガ様に時間が必要だと(省略)」
「了解しました。 話が長引いて時間を消耗した場合、お二人に仕える時間が減ってしまいます。 それは大変に失礼かと思いますので、申し訳ありませんがこれで失礼したします。 では守護者の皆様も」
セバスが上手く切り上げて別れを挨拶を済ませ、去ると守護者たちはアルベドに呆れた顔を向けた。
デミウルゴスのみが、その表情にわずかに疑念の色を滲ませていたが、デミウルゴス自身わずかに抱いたその疑念の正体も確証もつかめない本当にわずかなささくれのようなものだったので、それはひとまず捨て置いた。
疑念が気のせいに終わればそれに越したことは無い。
僅かな間の思索にふけっていたつもりだったが、気づくとアルベドとシャルティアがモモンガの寵愛を巡って大喧嘩を始めていた。
デミウルゴスはとりあえず火の粉がこちらに降りかかるのを回避するために、アウラに仲裁を押し付けることにした。
「あー、アウラ。 女性は女性に任せるよ。 もし何かあったら止めに入るから、その時は教えてくれるかい?」
「ちょっ! デミウルゴス! あたしに押し付ける気なの?」
デミウルゴスは手をピラピラと振りながら少し離れた所に歩き始めた。 後にコキュートスとマーレが続く。
巻き込まれたくないのはみな共通のようだ。
「全ク、喧嘩スルホドノ事ナノカ?」
「個人的には結果がどうなるかは非常に興味深いところですね」
背後のコキュートスの呟きにデミウルゴスは背を向けたまま答えた。
「ナニガダ、デミウルゴス?」
コキュートスが乗ってきたので、足を止めてデミウルゴスは振り返った。
「戦力の増強という意味でも、ナザリック地下代墳墓の将来という意味でも……偉大なる支配者の後継は必要だろう? モモンガ様は残られ、そしてあんぐまーる様が今また戻られた。
しかし、もしかすると我々にまた興味を失い、お二人とも他の方々と同じ場所に行かれるかもしれない。
もちろん、あんぐまーる様が戻ってこられたように他の方々もこれから先お戻りくださる事もあるかもしれない……あんぐまーる様のご帰還という先例で、その可能性も大きくなったわけだがね。
だが、万が一の場合、我々が忠義を尽くすべき御方を残していただければとね」
「えっと、それはシャルティアとアルベドのどちらかがモモンガ様の、もしくはあんぐまーる様の御世継ぎを?」
「ソレハ不敬ナ考エヤモシレンゾ? ソウナラナイヨウオ二人ニ忠義ヲ尽クシ、ココニ残ッテイタダケルヨウ努力スルノガ守護者デアリ創ラレタ者ノ責務ダ。
ソレニ、我ハ武人武御雷様ガマタ戻ラレル可能性ノ方ヲ信ジル。 あんぐまーる様ガ戻ラレタノダ。 キット他ノ方々モコレカラ少シズツ戻ッテ来ラレルニ違イナイ」
コキュートスは自分の創造主が戻ってくる希望を、あんぐまーるの帰還により強く抱いているようだった。
「無論、理解しているとも、コキュートス。 私もウルベルト・アレイン・オードル様が戻って来られる可能性に賭けたい。
だが、モモンガ様もしくはあんぐまーる様……もしかすれば、御二方両方の子息にも忠義を尽くしたくはないかね?」
コキュートスの体に電流が走った。
その脳内にモモンガの子供と、あんぐまーるの子供がそれぞれ肩車をせがむ光景を思い浮かべる。
二人に剣技を教え、そして二人が互いに競い合う所。 二人に左右から手を引っ張られ、「じいはボクのだ!」「僕のだもん!」と取り合いをされる所。
迫り来る敵に対し、二人を守るために剣を抜き払うところ。 そして「じい、やってしまえ!」と声援を受けるところ。
そして大きくなった子供たちに……二人の父親それぞれのように成長した、王とそれを補佐する側近の前に跪き、命令を受けるところまでも。
「……イヤ、素晴ラシイナ。 素晴ラシスギル。 コノ上ナク素晴ラシイ光景ダ。 爺ハ……。 爺ハ……。 オオ、ソンナニ引っ張ラレテハ。 爺ノ腕ハ四本デスガ、体ハ一ツシカアリマセヌゾ」
コキュートスの脳内ではモモンガの子供は優しすぎてやや臆病ながらも勇気と王者の威風、そして決断力を備えたまさしく生まれながらの王であり、あんぐまーるの子供は強気でやや無謀な所はあるものの、他者への気遣いによく気がつきモモンガの子供を時に背中を押し、時に腕を引っ張って導き、長じては有能な補佐官となる賢き少年で二人ともに仲良くまさに兄弟のように育つ、という事になっていた。
「……コキュートス。 いい加減戻ってきたまえ」
なかなか妄想から戻ってこないため、デミウルゴスが声をかける。 実は呼びかけたのは2回目であった。
「良イ光景ダッタ……アレハマサニ望ム光景ダ」
「そうかね。 それは良かったよ。 ……アルベドとシャルティアはまだ喧嘩をしているのかな?」
まだ半分夢見心地のコキュートスに心底呆れた表情で返し、次に睨みあっている二人に声をかける。
二人に代わってアウラが返事をした。 酷く疲れたような表情をしている。
「喧嘩は終わったよ……。 今やってるのは……」
「単純に第一妃はどちらかといわす問題ね」
「結論は、ナザリック大地下墳墓の絶対支配者であられるお方が、一人しか妃を持てないという理屈はないという話。 ただ、どちから正妃となるかというと……」
「ふむ、だがあんぐまーる様の方にも妃はご必要だろう。 どちらか片方はあんぐまーる様の妃に、という可能性もあるのだよ?」
デミウルゴスは、言ってしまってから少し、しまった、という後悔に囚われた。
下手をするとまた話が長くなってしまう。
「……至高の方々が私を妃にご指定なさるのなら断ることなどできませんが、しかしできればモモンガ様の第一妃こそが私は望ましいですわね」
「わ、わたしは……わたしもモモンガ様をお慕いしてありんすが、あんぐまーる様には以前度々ご訪問された折、悪からず思ってくださるとお褒め頂いたことがありんす……一番の望みは愛しの君モモンガ様に揺るぎはありんせんしが……あんぐまーる様のこともお嫌いでは……」
「はん、やはりビッチね」
案の定その一言で再び両者の戦いに火が突き、デミウルゴスは手で顔を押さえて薮蛇を突いてしまった事にため息をついた。
アウラは、さらに疲れた表情で肩を落とし、デミウルゴスを恨めしそうに見つめている。
コキュートスとマーレは顔を見合わせて複雑な表情をした。
アルベドとシャルティアが冷静になり、命令が行われるまでもうしばし時間が必要だった。
実は一応5の下書き段階で書いてたのですが、原作の台詞や描写をあまり引用し過ぎたくないために原作とほぼ同じになる場面はあんぐまーるを登場させず、あんぐまーる視点のみ(あんぐまーる視点が存在しない部分は書かない)縛りをしており、守護者たちの会話は一旦削除し没になってました。
しかし、感想で読みたいという意見およびそれへの賛同が多いので検討のうえ改めて書き直し、5.5として投稿することにしました。
なお、あんぐまーるがモモンガ様の表情が読めるというのも上記の縛りによりモモンガ様の内面描写が難しくなるため、便宜的に勝手に作った設定です。
なので、モモンガ様の表情描写から
「何言い出すんですかあんぐまーるさん!?」
「あんぐまーるさーん!? それは無茶振りですって!!」
「あ、あんぐまーるさん、相手の実力がどのくらいなのか判らないんですからここは慎重に……あんぐまーるさんーーー!? あああやっちゃったよこの人ーーー!!」
見たいなものを読み取ってくれると嬉しいです
ちなみにモモンガ様側からあんぐまーるの表情が読めるかどうかは不明です。