第一話
きっとそれは必然だったんだろう。
こんな世の中だから、奴らに襲われた結果なんてその辺にごろごろ転がっているという事を、その少年は分かっていた。
――――――アラガミ
それが今の世の中で絶対の王者として君臨している存在の総称だ。
その正体はすべての物質を捕食する性質を持つ『オラクル細胞』という細胞の群体であり、同じ『オラクル細胞』による攻撃しか受け付けないという性質を持っていた。
そのため、人類は当時の主力武器である重火器などをはじめとする兵器を用いてもアラガミに抵抗らしい抵抗もできずその数を減らしていった。
このまま絶滅の一途を辿ると思われた人類だったが、生化学企業「フェンリル」がアラガミに対抗できる唯一の手段である生物兵器「神機」とそれを操りアラガミを屠るものである「ゴッドイーター」の出現によって食い止められた。
こうして人類は強大な存在であるアラガミから生き残るために「神機」を操るものである「ゴッドイーター」とその「ゴッドイーター」の大元である「フェンリル」にすがって生きていくしかなくなったのだ。
さて、冒頭の話に戻ろう。
今、ある少年が住んでいた場所は普段より一層荒れている。なぜならば先程説明したアラガミによる襲撃を受けているからだ。
「うわぁぁぁ!!助けてくれえぇぇぇ!!」
少年の目の前で白い鬼の面をつけたような容姿のアラガミ、オウガテイルに下半身を喰われている中年の男性が叫ぶ。しかし、助けてくれる者はなどいない。
当たり前だ。助けに入ったところで何ができるわけでもない、逆にアラガミの餌となり今襲われている男性と一緒に腹の中に消えるのがオチである。
周囲の人々もそれが分かっている。故に彼らはオウガテイルが男性を喰らっている隙にできるだけ遠くに逃げるよう、すでにオウガテイルとは逆の方向に走り出していた。
だが、その必死の逃走も正面から現れたオウガテイル達によって無意味と化した。いち早く逃げようと先頭に立っていたものたちから真っ先に喰われ、喰われなかった人も目の前に存在する明確な「死」に錯乱しだした。
十人中九人は地獄と評するだろうこの惨状を見ても少年に恐怖はなかった。
こんな光景はアラガミが出現してから全世界で見ることのできる光景で、少年もそれなりの回数似たような経験があり、耐性ができてしまっていたからである。
アラガミがその猛威を振るい、人々が怯えて逃げ惑う様をしり目に少年は自分が生き残るための策を考える。
なぜなら、現在は建物の陰に隠れているため見つかっていないが、今喰われている人々がいなくなれば確実に臭いを辿り、自分に向かってくる。少年はそう確信していた。
自分の少ない知識を総動員して生き残るための策を練っていた少年だったが、顔を上げた時、視界に入ってきたそれに少年の視線は釘付けになってしまった。
少年の視線に入ってきたもの、それは、人が神に対抗するための唯一の手段。生体兵器「神機」であった。
「……」
そこから少年は自分が生き残るために考えた策の確認を頭の中で行う。
最も堅実な方法は、このまま逃げることである。今まで何百何千と繰り返してきたことだけあり、これが一番生存率が高いだろう。けれど、それは何時もの場合である。今回は逃げ道をオウガテイルに塞がれているだけに限らず、いつもは持ち歩いている拾い物のスタングレネードも切らしてしまっているため、生存ができる確率は激減する。
もう一つの策は、あの神機でオウガテイルの群れを殲滅しながら突破するというものだが、それは先程の案よりも多くの問題が発生する。
オウガテイルに突っ込む前に神機に喰われることや万が一に使えたとしても接近武器なんて生まれてこのかた使ったこともない少年ではすぐに返り討ちにされる等、問題を上げればきりがない。
確実に生き残る方法はゴッドイーターに助けてもらう事なのだが、ここはゴッドイーターが訪れるどころか物資の配給すらまともに来ない場所である。
例外として一度だけゴッドイーターが来て、今少年が見ている神機を残して逝ったこともあるがそれは例外なので除外する。
まぁ要するに、ゴッドイーターの助けは期待できない。
普通であれば、この状況でとる行動は逃一択である。後者の場合、何回命を掛ければいいのかわからない。それに比べ前者は慣れしたしんだ動作で、命の危機は逃げる時の一つだけだ。誰だってそうする。
しかし、いくら日常茶飯事だからと言って目の前で人が喰われているにもかかわらず、冷静に次の行動を考え始める少年が普通なはずがなかった。
少年はゆっくりと、オウガテイルには見つからないように神機に近づくと―――――
「……」
―――――何の躊躇いもなく、その神機を手に取った。
さて、突然だが、俺の話を聞いてくれないか。
ある日学校から帰って布団に入り、眠りに就いたはずなんだが、起きた次の瞬間には見知らぬ天井が視界に入ってきた状態で目を覚ましたんだ。
正直、わけがわからない。一瞬誘拐にでもあったんじゃないかと思ったんだけどさ、家は一人暮らしでさらっても得るもんがないからその線は捨てた。苦学生なめんなっ!
っと、それはどうでもいい。
誘拐じゃなければなんだろうと思い、体を動かそうすると、どこからか本能に囁くような甘い女の声が聞こえてきた。
「気を楽になさい。あなたはすでに選ばれてここにいるのです……」
はっ?選ばれた?何に?宝くじにでもあたった?
つーか、なんか床から出てきたんですけど……何よこれ、武器?
「貴方には今から対アラガミ討伐部隊「ゴッドイーター」の適合試験を受けていただきます」
アラガミ?ゴッドイーター?何の話ですか、て言うかこの声の人誰よ?とてもいい声してますね!
やべぇ、意味不明な状況に置かれて精神が振り切れてる。
「試験と言っても不安に思う事はありませんよ」
床から出てきた武器っぽいものに何となく手を置いてみるとガシッと勢いよく黒色の腕輪が自分の腕にくっついた。もう次から次へとなんなんですかね?おじさんちょっとついていけないよ……。
ホント切実に、説明プリーズ。
「あなたはすでに……荒ぶる神々に「選ばれしもの」なのですから……もっとも、この試験はあなたには必要のないことですけどね……フフッ」
最後の最後まで意味深なことを言ってその女の人の声は聞こえなくなった。
まぁ、それはいいとして、話聞いてて気付かなかったけど、天井の赤い奴がぱっくり開いて結構な音を響かせながら右回転してるドリルがあるんですけど。
もしかして、あれが落ちてくるのか……俺のロックされている右腕に。
………左手あげたらやめてくれるかな?
そんなくだらないことを考えているうちに天井のドリルは俺の右腕に突き刺さった。
「グアぁぁぁぁぁぁ………って、あれ?見かけのわりに全然痛くない。どうなってんだこりゃ」
「おめでとう、これであなたは神を喰らう者……『ゴッドイーター』となりました。そしてあなたはさらに『血の力』に目覚めることでフェンリルの極致化技術開発局『ブラッド』に配属されることになります。まずは体力の回復に努めなさい。あなたには、期待していますよ」
……だからさぁ、詳しい説明はないわけ?あとこの腕輪取れないんだけど。
再び聞こえなくなった女の人の声に俺は愚痴る。
しかし、今までのことで一つだけわかったことがある。ついさっきまでの会話を思い出せばすぐにわかることだった。俺が生きていた世界にアラガミやそれを討伐するゴッドイーターなんてものはなかった。
つまり俺こと樫原仁慈(かしはらじんじ)は異世界かなんかに来てしまったということだ。
……ほんと、どうしてこうなったんだか……。
シリアスかと思った?残念!シリアルでした!