つまり、キャラ崩壊注意です。
貴族のような恰好をした珍妙な神機使いであるエミールさんと会った翌日、俺はフライアのカウンターにてエミールさんのことについて聞いてみていた。相手はもちろんフランさんである。
昨日の通信ではわからないと言っていたけど、真面目な彼女の事だしどうして合流地点に来なかったのかと言う点を含めて色々調べたのではないかと予想したためである。
オペレーターの誤報は神機使いの命に関わることだし。
それに別のフライア職員は怯えて逃げるから話聞けないしねっ!
「フランさん、あの援軍の人についてなにかわかりました?」
「……何故それを私に訊くのですか?」
「もちろん俺が聞けるのはフランさんしかいないからですよ。それに、貴女は真面目だからしっかりと正しい情報を調べようとすると思ったので、こうして訊いています」
「……………エミールさんについては極東支部から来た援軍であることは間違いありません
。実際、フライアの進行する予定の場所は大量のアラガミが出現しています。合流場所にこれなかったことについてはおそらく迷ったのでしょう」
「あー……ありそう」
最初声を掛けられたときはとんでもなくうっとおしく感じたが、話していることは真っ当だった。
なんかアホっぽいし、さらに言うなら無駄な話と動きが多い。
だからこそ、迷子と言うのは納得したわ。いかにもやりそうだもの。
「じゃあ、一応しっかりとした援軍なんですね」
「はい。実力に関してはこの後に入っている任務で拝見できるかと」
「じゃあ、次の任務はエミールさんと同じなんですか?」
「そうです。仁慈さんだけでなくギルバートさんも同行することになっています。内容はフライアの進行予定の場所に現れたアラガミの殲滅です」
「わかりました。なら早めに準備しておくことにします」
フランさんに頭を下げてカウンターから離れて、ターミナルへと向かう。
やることはもちろん刀身の変更である。
援軍が必要なほど大量なアラガミがいるっていうんならこれはもうヴァリアントサイズを使うしかないじゃないか!(歓喜)
俺、わくわくすっぞ!
どういう原理はさっぱりわからないがターミナルで神機の刀身を変更した俺はそのまま軽い足取りでギルさんとエミールさんを呼びに行った。
妙にテンションの高い仁慈に連れられて俺は今回アラガミを討伐する場所である鉄塔の森と呼ばれる場所に来ていた。
昔は発電所として動いていたらしいが今では地下水があふれてそこらへんが水浸しになってしまっていた。
「さて、仁慈。なんか作戦みたいなものはあるか?」
「サーチ&デストロイ。アラガミ死すべし慈悲はない」
「わかった。つまりノープランなわけだな。……エミールっていったか?アンタは何かあるか」
「フッ、何が来ようと僕の神機、ポラーシュターンが打ち砕いてくれる」
「ダメだこいつ等」
昨日合流したばかりのエミールは話を聞かないし、仁慈は戦闘中だけでなくすでにおかしくなり始めている。
真面目な奴が誰一人としていない、こんなことで大丈夫なのか?
耳に着けたオペレーターの合図を聞きながら俺はそう思った。
「行くぞ!ポラーシュターン!」
「ドーモ、アラガミ=サン。ゴッドイーターです。アラガミ死すべし、慈悲はない」
………やっぱりダメそうだな、これ。
仁慈に至っては変なものインストールしているだろ。
はぁ、と溜息一つ吐いてから神機を構え先行したバカ二人を追いかけようとして、やめた。
「せいやー!」
「グアーーー!!」
なぜなら、目の前でヴァリアントサイズを振り回している仁慈がいるからだ。
少しは仲間のことを考えてくれよ。
今もすごい笑顔でアラガミを屠っていく仁慈を眺めながら俺は考える。
ロミオやあいつは訓練であの動きを身に付けたと言っていたが……それはどう考えてもおかしい。
戦い方はもちろんのこと、何より戦闘に対する心構えだ。
ロミオから聞いた話では実地訓練の時、怯えていたナナを庇い攻撃をしてきたアラガミの口に神機を突っ込み倒したと言っていた。
初めての実戦でそこまでできる奴は早々いない。ジュリウスとの訓練は一週間とそこいらだと本人からも聞いているし、訓練で度胸まで鍛えたとは考えにくい。
よほどの才能があるのか、ただのあほなのか、それとも……
もう一度仁慈の方をチラリとみてみる。
「イヤーーー!!」
「グアーーー!!」
……やっぱただのあほだな。
珍妙な掛け声?雄叫び?とともにアラガミを切り捨てた仁慈を見て先程の思考を完全に頭の片隅へと追いやる。
さてと、余計なことを考えていた時間を取り戻すために俺も行くか。
仁慈にアラガミと一緒に切られないよう迂回して別の場所にいるであろうアラガミを狩りに行く。
「騎士道ぉおおおおおおおお!!!」
此処にはバカがいたよ。
なんか意識が軽く飛んでた気がする。
ふと周りを見渡してみれば、そこには形が崩れかけているアラガミがそこらへんにごろごろいた。
ヴァリアントサイズを思いっきり振るったからかね。
『連絡!想定外の中型アラガミがそちらに侵入いたしました!』
通信機からフランさんの切羽詰まった声が聞こえてくる。
『種類は?』
ここでフランさんの言葉にいち早くギルさんが反応した。
さすが、経験が違うね。
『ウコンバサラです』
何だっけそいつ。
近年現れたワニみたいなアラガミだった気がする。
『フフフ、そいつならすでに僕が交戦中だ。故に安心したまえ!こいつは、僕のポラーシュターンの錆にしてくれる!』
無茶苦茶心配なんですけど。
ギルさんも同じことを考えたのだろう。
エミールさんの言葉にすぐさま言葉を返す。
『俺たちもそちらに向かう。余裕を見つけて発煙筒を使え』
ここで一旦通信が切れる。
しかし、何時までたっても発煙筒は上がることがなく、結局自分の力でエミールさんを探すこととなった。
で、それから十分後。
ギルさんと途中で合流した俺はついにエミールさんを見つけた。
ブッ飛ばされていたけど。
「グハッ!……な、なかなかやるな。だが今度はこちらの番だぁああああああ!?」
またぶっ飛ばされた……。
あの人すげぇ頑丈だな。さすが極東出身。
「グフッ……何という怪力…ッ!しかし、負けるわけにはいかない!必殺、エミールスーパーウルトラアタッ―――どぉあああああ!?……ブロスッ!?」
「…ったく、一人で突っ走りやがって」
あまりに見事なやられっぷりにギルさんが戦いに介入しようとするが、次に聞こえてきたエミールさんの言葉に思わず足を止めた。
「ゴ、ゴットイーターの…戦いは、ただの……戦いではない。絶望の世において、神機使いとは人々の希望の依り代だッ!」
言葉を発しながらエミールさんはしっかりとした足取りで立ち上がり、神機を構える。
「正義が勝つから、民は明日を信じッ!正義が負けぬから皆!前を向いて生きるッ!」
「故に僕は……騎士は……ッ!絶対に倒れるわけにはいかないのだッ!」
言い終わると同時にウコンバサラがグオォオオオ!と咆えて、エミールさんに向けて突進を繰り出す。
が、エミールさんはそれをジャンプすることで回避し、逆に落ちてくる力を利用し、ウコンバサラの顔に渾身の一撃を叩き込んだ。
ドスンと音をたててウコンバサラは倒れる。
「バカはバカなりに筋は通ったやつみたいだな」
「そうですね。バカだけど」
天に向けて腕を上げ、悔いなし状態のエミールさんを見て俺とギルさんは笑い合い、彼のもとに向かった。