神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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シエルさんとデート回(任務)です。多分。


第二十二話

 

大型アラガミであるヴァジュラとの戦いで、自分に足りない物とジュリウス隊長のありえん(笑)強さを自覚した俺は車の中で考えていた通りフライアの訓練場で色々と試しながらダミーアラガミと戦っていた。

設定としては自分のブランクも考慮し、元々フライアの方で考えられていた難易度で訓練を行っている。具体的にはアラガミの出現数は十体で、強度はその辺の個体で最も強いものだ。

ちなみにジュリウス隊長が俺の訓練で使った難易度はあの人が自分用に作ってもらった鬼畜難易度なので普通の人はまず使わない代物である。

 

 

やっぱりあの人おかしいと思いつつ正面から来るダミーアラガミを捕食し、振り回して自分を囲っているほかのダミーアラガミを吹き飛ばして分断させると、一番近くにいるダミーアラガミから各個撃破する。

それを繰り返していくと、数分後にはすべてのダミーアラガミが地面に力なく伏せている状態になった。

 

 

「……なんか足りないな」

 

 

一度神機を訓練場に刺して、両手を組んでそう呟く。

そう感じてしまうのは主に二つの原因がある。一つは今までがジュリウス隊長の鬼畜難易度でやっていたために感じるものであるという事。もう一つは自分が考え付いた神機の解放とブラッドアーツの開拓の兆しが全く見られないからだ。

 

 

いや、まだ理論的に正しいと結論が出たわけではないし兆しが見えないことが当たり前なんだが……外れているとは思えないんだよなぁ。

なんでそんなに自信満々なんだと言われても答えようがないけど……なんかこうビビっと来たんだよね。

その時、仁慈に電流走る(CVヤ〇チャ)

 

 

確か血の力やブラッドアーツは自分の意志がどうたらこうたらっていつかジュリウス隊長が言っていたような気もする。

意志……意志かぁ……。

うんうんと頭を捻りながらしばらく考え、俺はある結論を出した。

 

 

―――――――――ジュリウス隊長考案、鬼畜難易度訓練をすれば生きたいという意思によりブラッドアーツが目覚めるのではないかと。

 

 

我ながら頭がおかしい、常識の欠片もない某野菜人の思考に近い結論を出したと思う。

だがしかし、ジュリウス隊長を見てほしい。エレキボール(仮)を気負いもせず切って捨てたあの人に常識なんてあっただろうか?いやない(反語)

 

 

つまり、「俺は常識を捨てるぞーーーーッ!」することにより自分の限界を超えることができるのだ。

 

 

実際にそれが正しいのかは全く分からないし、むしろ正しくない確率の方がはるかに高いが、手探り状態もいいところな現状ではこれくらいしか打つ手がない。

仮に効果がなかったとしても確実に戦闘時の戦い方や勘は取り戻せるだろうから、少なくともマイナスにはならないだろう。

 

 

ピコピコと訓練場の設定を弄繰り回し鬼畜難易度に設定した俺は、地面から一気に飛び出してくる三十体のダミーアラガミと向き合った。

 

 

―――――――――――この後無茶苦茶後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し……段階を……踏むべき…だった……」

 

 

一週間ぶりの自室にあるフカフカベットで絶賛後悔中の俺です。

三十体のダミーアラガミに向き合ったはいいものの、ヴァジュラと戦った後と言う事をすっかり忘れていた俺は物凄い手こずった。ゴメン見栄張ったわ。ぶっちゃけ死にかけた。

一応、その甲斐あってか最後の方のダミーアラガミを相手にするときには一週間前の動きに近いものができるようになってきたが体力的に力尽きているのが現状である。

やっぱり常識は必要だったよ……。

 

 

しかし、収穫はあった。

死にかけて必死に生きたいと思ったからか新たなブラッドアーツが使えるようになったし、戦闘技能の方も本来のモノを取り戻した。

これで今日のような無様は早々さらさないであろう。そんな、安堵からか俺はすぐに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

    ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……痛ぇ」

 

 

朝、目覚めて俺が最初に感じたのは痛みだった。しかし、怪我などの痛みではない。これは俺にとって最もなじみ深い痛みだった。

そう、筋肉痛である。

 

 

この世界に来る前に散々経験してきたあの痛みだ。偏食因子を投与され、半分が人間でなくなったと言っても過言ではない神機使いの身体も、一週間ぶりの戦闘行為はさすがに堪えたらしい。

特に神機をぶんぶん振り回していた右手が致命的だ。もう腕が上がらないレベル。

 

 

ぶっちゃけ、この状態の俺が戦闘で役に立つかと言えば微妙なラインである。微妙なラインではあるが、残念なことに超ブラック企業フェンリルで働く神機使いに休日なんてものはなく今日もお仕事である。

 

 

正直本当に命に関わるレベルなら休ませてもらえそうだが、理由が筋肉痛っていうのは俺的にもどうかと思うので布団からズルズル這い出て身支度を済ませ、俺はいつも通りロビーに向かう事にした。

 

 

「今日は仁慈さんに任務はありませんよ?」

 

 

「えっ」

 

 

なにそれこわい。

ま、まままままま待て。れれれ冷静になれ。これは孔明の罠だ。はわわ軍師の所為だ。

 

 

「随分動揺してますね……」

 

 

「だって神機使いって休日ないでしょう?」

 

 

「……確かに、今までの働きからしてそう感じても不思議ではありませんが……一応神機使いにも休日はありますよ?その支部の神機使いの数にもよりますが」

 

 

「なん……だと……」

 

 

全開に目を見開きふらつきながらも二歩ほど後ずさる。

その反応を見たフランさんが呆れた声で、

 

 

「仁慈さんはいったいフェンリルをなんだと思っていたんですか……」

 

 

「ブラック企業」

 

 

ついでに内部事情もかなり黒そうだよね。この世界で唯一まともに機能しているし。やりたい放題でしょ。

 

 

「なら神機使いは?」

 

 

「社畜」

 

 

即答した俺についにフランさんは頭を抱えた。

だってさ、父さんがよく言ってたんだよ。

「やってもやってもへらないものなーんだ」って。

それで俺が「わかんない」と答えると死んだ表情で「仕事」って言うんだぜ?

幼いながらもいたたまれなくなり、全力で慰めたのはいい思い出である。

 

 

企業に勤めていた父さんがそう言ったんだ。企業に勤めていて、一向に減らないアラガミ討伐の仕事を請け負っている神機使いが社畜じゃないわけがない。

 

 

「仁慈さんは常人にはたどり着けないような境地に居ますよね」

 

 

「それ褒めてないよね」

 

 

「褒めてますよ。おんりーわんですよ」

 

 

「無表情+棒読みで言われても……」

 

 

がっくりと肩を落とす。

何と言うか中途半端に庇われる方が逆にダメージが増す。

 

 

まぁ、仕事がないならそれでいい。どちらにせよこの状態じゃ大したことはできないだろうしたまには自室でのんびり「そういえば、先程シエルさんが仁慈さんを探していましたよ」……できなさそうだな。

 

 

フランさんにお礼を告げて、くるりと周囲を見渡すとターミナルのある場所にこちらを見ているシエルを発見した。

フランさんと会話中だったから待ってたのかね?

向こうも俺がこっちを見たことで会話が終わったことを悟ったのか、少し嬉しそうな顔でトコトコ近づいてきた。かわいい。

 

 

「あの、少しお話があるのですが……」

 

 

「いいですとも!」

 

 

女の子の頼み(上目使い)を断れるわけがない……!

気が付けば返事をしていたのがその証拠だ。考えるよりも先に口が動いてしまったぜ。

場所を変えてほしいとのことで、庭園にやってきた俺は早速彼女の話を聞いた。

 

 

どうやら、シエルはブラッドの皆が銃形態をあまり使用しないことを銃形態時の扱いが苦手だからではないかと考えいるらしい。

確かに間違ってはない。実際ナナがそうだけど、みんながみんな苦手と言うわけではない。俺もそこそこ銃形態は使用するしロミオ先輩はむしろ銃形態を使う方が多い、ジュリウス隊長やギルさんはアサルトで乱射してナンボな武器なため苦手という事もないだろう。

ならどうして使わないのかと言えば……ぶっちゃけ寄って切った方が早いからである。

ヴァジュラのように相手取るアラガミにもよるが、ギルさんは経験豊富でジュリウス隊長は多少の不利くらいはひっくり返すから……ね?

 

 

そのことを彼女に伝えるとなるほどと納得した。納得するんだ……。自分で言っといてなんだけど。

 

 

「では銃の扱いは私がナナさんに教えるとして……実はもう一つお願いがあるんです」

 

 

ナナは犠牲となったのだ……。

そんなくだらないことを考えつつ、シエルに話の続きを促す。

 

 

「私が作ったバレッドがどれくらい実用的か実験をするので、それについてきてほしいんです」

 

 

「んー?でもそのくらいなら自分でもできるんじゃ?」

 

 

「その、ほかの視点から見ることでわかることもあります。挙動や構え、反動の受け流しかたなどを見てほしいのです。ダメ……でしょうか?」

 

 

実験なら、そんなたいした奴は討伐しにいかないだろうし。今の状態でも行けるかな。

何より前述した通り、女の子の頼みは断れない。断ったらクラスでつるし上げあられることになるからだ。ソースは俺。

小学校の時掃除当番を変わるように言われ、断ったら向こうが泣きだし何故か俺が怒られて結局掃除を一人でやることとなった。

何なの?男尊女卑とか男女平等とか言ってるけど、あれ嘘なんじゃないの?

 

 

おっと話がそれたな。とりあえず俺に断るのコマンドはないので、頷くと嬉しそうにありがとうございますと言ってくれたかわいい。

さっそく行きましょうと、シエルは俺の手を引っ張りロビーにあるカウンターへと向かった。

 

 

 

 

 

 

    ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「シエル、よく見つけてきたな。こんなミッション」

 

 

今回の任務の場所である嘆きの平原で俺は彼女に言う。

なぜこんなことを言ったのかというと、今回のターゲットがドレットパイクとザイゴートと言う見事にスナイパーの貫通が弱点のアラガミだけで構成されていたからだ。

おまけでヤクシャもいるが今回は任務外なので無視しても構わないらしい。

 

 

「たまたまですよ」

 

 

神機にバレットを入れながら言葉を返してきた。

しかし、

 

 

「ヤクシャはどうするよ。絶対こっちに来ると思うけど」

 

 

そう、俺たちが無視しても向こうから来られたらどうしようもない。その場合はコロコロ確定なんだが……今は右手が動かしづらいからなぁ。

両手で持つか。そんで右は軽く添える程度でいいだろ。きっと。

 

 

「ヤクシャも狙います。今回は実験なので相手が多いに越したことはありません」

 

 

バレットの装填が終わったのか銃形態の神機を持って立ち上がる。

 

 

「それでは、行きましょう」

 

 

シエルの言葉にうなずいて俺たちは高台から跳び下りる。地面に着地した音を感知したのか近くに居たザイゴート三体がこちらにふよふよと向かってくるが、

 

 

「フッ!」

 

 

パァンという音が三回周囲に響き渡り、こちらに向かってきたザイゴートはすべて地面に墜落していた。

一息で三発全部命中させるとは……さすがシエル。銃形態の扱いなら他の追随を許さないね。

挙動や反動制御もとくに問題点はないし、俺いらなかったんじゃないかな。

相も変わらずてくてくと妙にかわいい足取りでこちらに接近してくるドレットパイクをシエルがぶち抜くのを眺めながらそう考える。

あ、ヤクシャ来た。

 

 

「発射」

 

 

あ、ヤクシャの顔面にシエルの弾がヒットした。

痛い。ヤクシャはこちらに向かって走ってきていたのでその分の勢いも加算されてなお痛そう。

 

 

「よく見えたねシエル。さっきまで真逆向いてなかった?」

 

 

「直覚です」

 

 

「ホントマジで便利だな……」

 

 

この子に死角なんてもうないんじゃないかしら。

何処にでも目があるスナイパーとかマジ震えてきやがった。怖いです。

 

 

「……とりあえず今日持ってきた分のバレットはすべて検証しました。後は私たちの丁度反対側にいるドレットパイクを倒せば終わりですが……君も暇だったでしょう、そこのヤクシャ倒してもいいですよ?」

 

 

「そう?じゃあ遠慮なく」

 

 

一応、このシエルの付き添いでも受注した以上は報酬が出る。このまま何もしないというのもなんか、なんというかうん……悪いよね。

と言うわけで、両手で神機を構え地面を思いっきり蹴って加速する。

ヤクシャは未だに左手でシエルに撃たれた顔面を抑えている状態だ。なんというか某大佐を思い出す。目↑がぁ~目がぁ~↓。

 

 

全然復活する兆候が見られないので地面に膝を付けている足を踏み台にして一気に頭の高さまで跳びあがり何時ものように首を刈り取る。

ゴトリと首が地面に落ちると同時にヤクシャの身体も地面に力なく倒れた。

いくらいくつもの細胞が集まってできたアラガミでも、首を落とした場合その動きを一時的に停止させる。その隙にこちらがコアを捕食してしまえばそれで終わりだ。

効率的なんだけど皆はなんか微妙な顔をするんだけどね。この倒し方。

 

 

ヤクシャのコアを神機にモグモグ捕食させていると、耳に当てた通信機から任務完了とのフランさんの声が。

どうやらシエル、俺がヤクシャの相手をしているうちに最後のドレットパイクを倒したらしい。

フランさんにシエルの位置を聞いてから通信を切って彼女のもとに向かう。

そこでは神機からバレットを取り出して、首を傾げているシエルの姿があった。

どうした。

 

 

「いくつかのバレットが今までとは違う挙動になっているんです。それも、悪くない方向に」

 

 

「自分でいじってて忘れたとかは?」

 

 

「フフッ、そこまで私は抜けてませんよ?」

 

 

「ですよねー。別に悪くない方向に進んでるならいいんじゃない?」

 

 

「えぇ、多少反動制御に修正を加えないといけませんが、決して悪いことではありません。ただ……」

 

 

「そんなに何か引っかかるなら整備班の人に相談してみたら?」

 

 

「……そうですね、そうします。今日はありがとうございました。また、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「構わないけど……俺いりましたかねぇ」

 

 

よくよく考えたら弱っているヤクシャの首を刈り取ったくらいしかしていない。

 

 

「はい。君といると私が楽しいし、嬉しいのです。なのでまたお願いします」

 

 

「………」

 

 

不意打ちはずるいと思わないかね諸君。

そんなこと言われたら、行かざるを得ないじゃないか。

 

 

「わかったよ。また今度ね」

 

 

「はい!」

 

 

……やっぱり男尊女卑とか男女平等とか嘘でしょ。

目の前で純粋に笑顔を振りまくシエルを見て俺は改めてそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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