相も変わらず、話があまり進んでいませんが、どうぞ。
エミールさんの台詞考えるの超楽しい。
「いやー。サカキ支部長案外いい人だったなー。俺、グレム局長みたいな人だったらどうしようかと思ったぜ」
支部長室から出て、エレベーターへと向かう道のりで頭の後ろで腕を組んで歩くロミオ先輩が言う。その隣を歩いているナナも「だねー」と同調していた。だが、俺にはわかる。アイツ、歓迎会で出される料理のことしか頭にない。実際、小声で俺が話しかけてみたら「だねー」と帰ってきた。それ、そこまで万能じゃないからね?
「そうか?俺はあの手のタイプは苦手だ。考えてることがまったく分からん」
ナナの残念さに頭を抱えているとギルさんがサカキ博士に対する印象を口にする。俺もそうだな。人間知らないことが一番怖い。だからこそ昔から分からないものの代名詞である幽霊や妖怪は恐れられてきた。サカキ支部長に関しても大体同じで、何を考えているか分からないからこその恐怖がある。俺の場合は自分の力のこともあって解剖やら実験やらをされるのではという恐怖もあるが。
「仁慈、お前はこれからどうする?」
後ろのほうを歩いているジュリウス隊長が問いかける。どうするといわれても極東支部に着たばかりだし、
「とりあえず、この極東支部の様子を見て回ることにしますよ」
「そうか。では、ブラッド各員何かあるまでそれぞれ自由に過ごしていいぞ。ただし、はしゃぎすぎて極東の人たちに迷惑をかけるなよ」
子どもじゃないんだからそんなといわなくても平気なんじゃないんですかね?ギルさんもシエルもそんなことするわけがないって顔してますよ。
『はーい』
居たよ、子どもが。
元気に返事をする17歳児と19歳児に俺は冷たい視線を送りつつ、みんなと別れた。
――――――――――――――――
さて、エレベーターを経由し極東支部のエントランスへとやってきた俺は現在、いつの間にやらフライアからいなくなっていたエミールさんに捕まっていた。しかし、その場にいるのはエミールさんだけではない。大体中学生くらいの年齢と思われる女の子も何故か一緒にいる。これまた何故か俺のことを睨みつけてるけど。
「やあ!我が友よ、元気そうで何よりだ」
「エミールさんこそ、大丈夫だったんですか?マルドゥークにやられた傷は」
「あぁ。君のおかげで大事には至っていないよ。それにしても、すまなかった。本当は直接会って君にお礼を言うべきだったのだが……あの時はフライアを去らなければならない用事ができてしまったのだ」
「別に気にしていませんよ」
「おぉ……なんと寛大な対応だ……ッ!これは僕もそれ相応の対応で返さなければならない……。我が友よ!何か困ったことがあればぜひともこの僕に相談してくれたまえ。このエミール・フォン・シュトラスブルクが全身全霊を持って解決に当たろうじゃないかッ!」
「お、おう」
この人相変わらずすごいなぁ、色々な意味で。言っていることはとてもまともなのに言い方が仰々しい上にうっとおしいから聞く気にならないんだよね。いい人なのは分かるんだけど、会話してて疲れるわ。
ハハハハと笑っているエミールさんとそれに対して苦笑で返す俺の様子を見て、会話が終わったのかと思ったのか、先ほどから口を開かなかった女の子がこちらを向いて言葉を紡ぐ。
「初めまして。私はエリナ、エリナ・デア・フォーデルヴァイデといいます。あなたがブラッドの副隊長ですか?」
なんだ、自己紹介か。俺のことずっと睨みつけてるからてっきり何か暴言でも吐かれるのかと思ったぜ。
「はい。ブラッド隊副隊長樫原仁慈といいます」
「私達h「極東はどうだい?フライアも優雅だが、ここはここで趣があるだろう」…
俺に何かを言おうとしたフォーデルヴァイデさんの言葉をさえぎり、エミールさんが話しかける。他人が話そうとしているにもかかわらず、何の躊躇もなく自分の会話をぶち込んでくるとは……流石エミールさん。俺たちにできないことを平然とやってのける。そこにしびれぬ、憧れぬ。
会話を切られたフォーデルヴァイデさんは当然、隣にいるエミールさんを睨みつけるが、エミールさんは気づいてないのかそのまま話を続けた。この人、体だけでなくメンタルも強すぎでしょう……?
「土と油の匂い、それは決して不快ではない。むしろ懸命に生きる人々の活力が伝わってくる。さらにその中で一杯の紅茶を飲む……それら全ての匂いが混ぜ合わさったときに感じるんだ。……ああ、僕は彼らを護り、また僕も彼らに護られているんだと!」
いつものように、両手を広げて語りだすエミールさん。うん、言ってることは本当にいいことなんだけど……感銘より苛立ちを感じるのは本当になぜだろう?
「エミールうるさい!」
「む、どうしたエリナよ新しい極東の仲間同士親睦を深めるべく……」
「私が話してるでしょ!」
自分の会話を遮られたフォーデルヴァイデさんが切れる。
「そう!ここにいるのはエリナ。我が盟友、エリック・デア=フォーデルヴァイデの妹、すなわち……このエミール・フォン・シュトラスブルクの妹だと思ってくれればいい」
「誰がアンタの妹よ!」
しかし、エミールさんには効果がないようだ。
怒りをスルーされ、勝手に妹にされたフォーデルヴァイデさんは今にもエミールさんにつかみかかりそうな勢いでツッコミを入れる。
……なんか一周回って面白いな。このコンビ。
関わると絶対に面倒なことになると悟った俺は、完全に傍観者に徹することにしたが、そう決めた直後、俺がDO☆GE☆ZAしなければならない藤木さんがエントランスに入ってきた。
「ああ、いたいた。エミール、エリナ、任務だ………げ、早速もめてやがる……」
どうやら藤木さんはエミールさんとフォーデルヴァイデさんに任務を持ってきたらしい。しかし、そんなことはどうだっていいんだ。重要なことじゃない。
エミールさんとフォーデルヴァイデさんの喧嘩(?)を仲裁しようとこちらに近付く藤木さんに向かって、
「どうもすいませんでした!」
支部長室で決めた通り、三回転DO☆GE☆ZAを決めた。
話を聞かないエミールさん。そんなエミールさんに突っかかるフォーデルヴァイデさん。いきなりDO☆GE☆ZAをし始める俺。
そんな混沌とした中、唯一まともだった藤木さんは、
「え、なにこのカオス」
呆然とそう呟くしかなかったと語った。藤木さんごめんなさい、もっとタイミング計れば良かったですね。
――――――――――――――
「ホントごめん!あの二人の相手、大変だっただろ?」
DO☆GE……もう面倒だから土下座でいいや。土下座をした相手に何故か俺が謝られている。どういうことなの……。
詳しく話を聞いてみると、この二人が俺の目の前で言い合い(一方通行)をしているので俺に迷惑がかかったんじゃないかと思ったらしい。
「いえ、なかなか楽しかったですよ」
実際、そこまで迷惑に思っていない。というか普通に楽しんでいました。
「そうか?そういってくれると助かる。もう自己紹介は済ませてあるのか?」
「一応は」
「そうか。エリナとエミールは俺が率いてる第一部隊の隊員でな。筋は悪くないんだが……ちょっとまあ、ご覧の通りアレでな……」
どことなく疲れたように言う藤木さん。まぁ、分かる。エミールさんがアレなのはもはや周知の事であり絶対普遍の事実だが、フォーデルヴァイデさんはフォーデルヴァイデさんで気が強いというか、負けず嫌いというか、子どもっぽいというか……なんにしても手がかかる。
そんな二人をいつも率いているのだからこの表情も評価も納得できるものだ。
「む、改善すべき点があればどんどんご指導願いたい」
「ちょっと、私をこいつと一緒にしないでくださいよ!」
「あー、わかったわかった。とりあえずこれから仲良くしてやってくれ」
「はい。これからよろしくお願いします」
「もちろんだ!これから共に、弱き人々を苦しめる闇の眷属たちと戦おうではないかッ!」
「……よろしく」
二人はそれぞれそういって藤木さんの後をついていった。多分、さっき藤木さんが持ってきた任務をこなしに言ったのだろう。
第一部隊の愉快なコンビを見送った後、俺はエントランス内を何気なく見回っていた。ずらりと並ぶターミナル。任務を受注する場所であろうカウンター。その隣にある階段の近くに座る怪しいおじさん。その間反対には大きなモニターが設置してある。
最前線にしてはどこもかしこもなかなかにきれいだ。極東の前情報から、もっと切羽詰っているようなものだと思っていたがそうでもないらしい。だからといって余裕があるわけではないだろうが。
そんな感じで時々真面目に考察しつつ、歩いていると、背中に衝撃が走る。ちょうど、何かにぶつかられたような、そんな感覚だった。
いったいなんぞや?と振り返ってみると、そこには目をキラキラさせ、頬にオイルっぽいものをつけた女の人が。
この目は、先程支部長室で見た目だ……。
そう悟った時点で、いい予感がまったくしない。しかし、逃げようとしてもこの人、俺にぶつかったときにしっかり腕を腹に回しており、逃げることができない。近い。
「……なにか御用でも?」
防御力の低い服のせいで背中に割りとダイレクトに感じる柔らかい感触から全力で意識をはずしつつ、問いかけてみる。
すると女の人は待ってましたといわんばかりに超笑顔で口を開く。
「君、噂のブラッドでしょ?樫原仁慈って子知らない?」
いやな予感が加速する。ブラッドに興味があるというのであればまだ安心できたが、俺個人となると心当たりがありすぎてヤバイ。ここは誤魔化すか?……どうせすぐばれるしいいか。
「自分がそうですが……」
「おぉ、君が!さっそくで悪いんだけど、今度君が使っている神機の刀身、ヴァリアントサイズのデータを取らせてくれないかな?」
……よかった。この人研究者というより技術者だ。しかし、なんで俺にそんなこというんだ?他にもいないのかね?
俺の考えていることが表情に出ていたのか、女の人はさらに言葉を紡ぐ。
「君も分かっていると思うけどヴァリアントサイズの最大の特徴は、咬刃展開状態による広範囲攻撃なんだ。けれど……」
「どう考えても仲間を巻き添えにしますよね」
「そう。いつも一人で戦える規格外な人ならともかく普通は2~4人でチームを組んでアラガミと対峙する。そうなるとどうやっても、ヴァリアントサイズは本来の力を出し切ることができない。こんな感じで、この刀身を使う人がいなくて、実践でのデータが圧倒的に不足してるんだ」
「なるほど」
そういえば、俺も一番最初にやった訓練で「どうしてその刀身を選んだ」と呆れられながらジュリウス隊長に尋ねられた気がする。
「それに君たちが持使えるブラッドアーツのことも調べられるし、一石二鳥だね!」
「それ言っちゃっていいんですかね……」
この人オープンすぎるでしょう?今までにないタイプの人なので若干戸惑いつつも、データの件についてはOKを出す。すると彼女は「ありがとう!」とだけ言ってエントランスから飛び出していった。
……そういえば名前すら聞いていなかった。
「リッカのやつ名前も言わないで行っちまいやがったか……まぁ、悪気はないんだ。許してやってくれ」
あまりの速さに彼女が出て行ったところをボケっとながめていると、聞いたことのある声が耳に届く。この声は……!
「ダイアーさん!」
「ダミアンな。何時も言ってるけど俺は波紋出せないぞ」
何時も思うんだけどこのネタ通じるんだね。恒例となりつつあるやり取りをしてお互いに笑顔で近付く………とでも思っていたのか?
「じゃ、俺はこれから自分の部屋を見に行きますのでさようなら」
「は?おい、ちょっと待てよ!俺の出番これだけかよ!?」
後ろから聞こえてくる野太い叫びを遮断し、俺はエレベーターへと乗り込む。そして、ブラッドに割り振られた階層のボタンを押して少し待つ。チンという音が鳴り、扉が開く。エレベーターから出て、あらかじめ教えてもらったほうへ進んでいくと、自分の部屋があった。しかし、その周囲いにロミオ先輩とギルさん、そして見知らぬ誰かさんがいた。
「よう、仁慈。お前、今まで何してたんだ?」
「何って……普通に極東支部の様子を見て回っただけですが?」
「そうかそうか。それなら分かっただろう?」
「何がです?」
いつになく態度が大きいロミオ先輩に面倒だと思いつつ、先を促す。
「この極東には、美人が多い!」
聞かなければ良かった。こぶしまで握り締めているロミオ先輩の横を通り抜け俺は自分に割り当てられた部屋に入る。
そこにはベッドやテーブル、ソファなどおおよそ日常で使うような家具に、コーヒーを入れる機器、なつかしのCDラジカセ……極め付けにはターミナルまで置いてあった。
予想以上に整った空間に思わずため息を吐いた。
これはフライアからきたブラッドだけじゃなく、極東の神機使いたちまで周囲の人の反感が行っているのではないかと思ったからである。
極東支部の設備は予想よりもいいものだ。むしろフライアよりも優れている部分が多々ある。このことをあの仮設住宅擬きに住んでいる人たち、もしくはそこにも入れない人たちが知ったらどうなるだろうか?考えるまでもない。
……できれば人がいるところで狩りはやりたくないなぁ。
割と切実にそう思った。