神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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もはやだれてめぇな第四十二話。
今までにないくらいのキャラ崩壊(手遅れ)が含まれて居ますご注意ください。


第四十二話

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナナが血の力に覚醒し、ブラッド全体が強化された日からしばらくして。俺の周りで二点ほど変わったことがある。

 

 

 まずは、ここ最近小型のアラガミはもちろんのこと普段は一緒に居るはずのない大型アラガミ同士が一緒にいたり、接触禁忌アラガミがまるで共存するかのように行動することが増えてきた。

 おかげで、いくらこの世紀末な世の中でも一番の激戦区で戦っている極東の神機使いたちも今までにないくらいに苦戦を強いられるようになってきた。ちなみに何故ここまでアラガミが固まって進行してくるかということは未だに分かっておらず、サカキ支部長が深刻そうな顔をしつつ生き生きと原因の解明に取り組んでいたりする。おい。支部長としての仕事はどうした。

 

 

 そして、次に変わった点だが……

 

 

 「ねぇ、仁慈?あのカピバラって触っても大丈夫かしら?どう思う?」

 

 

 「周りの人に聞いてみればいいんじゃないんですかね」

 

 

 俺の服の裾をちょんちょんと引っ張りながら極東のラウンジで飼われている(?)カピバラに触れてもいいかと質問をするのは。すっごい瞳をキラキラと輝かせながら聞いてくるラケル博士である。

 もう一度言う。ラ ケ ル 博 士 である。

 

 

 これにはラウンジに居た人達も驚きを隠せないようで俺とラケル博士を限界まで見開いた目で交互に見てくる。特にたまたま居合わせたブラッドメンバーは固まってまるで石造のように微動だにしない。

 うん。そうしたい気持ちは痛いほど分かる。誰だってそうする。俺だってそうする。

 どうしてラケル博士がこんな「だれてめぇ」な状態になったのかというと、それはナナが覚醒した時とアラガミが群れだした時のちょうど間に位置する期間のことであった。

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 ナナが血の力に覚醒すると、ブラッドの某バナナ隊長が「力の検証をしようぜ!」的なことを言っていたので、ちょうどいい感じに現れた感応種イェン・ツィー相手に試してみようと話し合っていたとき、フライアに来るようレア博士から連絡があった。俺だけに。

 理由を尋ねてみても「来れば分かる」としか言わないので、力の検証に張り切っているブラッドメンバーに断りを入れ、すごく残念そうにうつむくナナにかなりの罪悪感を抱いてからフライアへと向かった。これでくだらない用事だったら、今も造っているとか言われている神機兵をスクラップにしてやろうか……。

 

 

 などと、ナナの表情から受けた罪悪感を別の感情に変異させ八つ当たりにも等しいことを考えているうちに相変らず馬鹿でかいフライアの入り口にたどり着く。

 レア博士が既に話をつけているということだったので特に問題もなく中に入り、久しぶりに見た廊下を抜けて極東支部よりも近代的で整った感じのエントランスに来た。

 

 

 「……お久しぶりですね。仁慈さん」

 

 

 「久しぶりです。フランさん」

 

 

 そしてエントランスに来たということは大変お世話になったあのフランさんも居るわけで……ついつい軽い挨拶を交わした後、お互い何があったのかというおしゃべりに興じてしまった。

 その所為で、

 

 

 「ちょっと早く来てくれない?」

 

 

 階段の下からレア博士にすごい形相で睨まれてしまった。やっぱ美人が怒った表情ってすっごく怖い。

 用事が終わったらまた来ますという旨をフランさんに話して俺はレア博士の背中についていった。

 

 

 鬼の形相をしたレア博士に生まれたての雛のごとくトコトコついて行き、たどり着いた先はラケル博士の研究室であった。え?何で俺ここに連れてこられたの?

 

 

 「ラケルを頼むわ……」

 

 

 頭の中に大量のクエスチョンマークを浮かべている俺をがん無視して、レア博士はその場を去っていった。

 おい、ちょっと待て。結局なんで俺がここに連れてこられたのか説明を受けてないんですけど。ていうか頼むって何だよ。アンタの妹だろうが。どいつもこいつも俺に問題をブン投げすぎだろ。

 一発だけなら誤射かもしれないという言葉にあやかり、神機兵一体くらいなら誤差かもしれないということで一体愉快なオブジェクトに変えてやろうか。

 

 

 「ハァ……ラケル博士、仁慈です。入りますよ」

 

 

 まぁ、せっかく来たんだし。レア博士の様子も明らかにおかしな感じだったし、様子だけでも見てみようかと一声かけてから研究室の扉を開ける。

 

 

 ……研究室の中には特に変わりなく、ますます何がレア博士をあそこまであせらせていたのかが分からない。ラケル博士もいつものようにカタカタと機械をいじくっているし。

 

 

 「ラケル博士。一体今度は何をしているんですか?」

 

 

 レア博士のあのあわてようはこの人がよく分からないことをやらかした、もしくはやらかそうとしているから何とかして止めようとしているんだろうと勝手に解釈し、ラケル博士に話しかけてみる。

 

 

 普段であれば手を止め、薄ら寒い笑みを貼り付けながらこちらを向くラケル博士であるが今回はそうではなかった。

 まるで俺の言葉なんて聞こえていないようにカタカタと作業を続けるラケル博士に違和感を覚えた俺は、彼女の元まで歩いていき、その顔をチラリと覗き込んでみた。

 

 

 「―――――――――――っ!?」

 

 

 正直。このときほど自分の行いを後悔した日はない。ドラえもんにでも頼りたい気分だった。

 なぜなら―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――覗き込んだラケル博士の顔が、ぬとねの区別がつかないような表情を浮かべていたからである。

 

 

 思わず神機使いの身体能力をフルに使ってバックステップを踏んだ俺は悪くない。だってぬとねの区別がつかないような表情だぞ?具体的に言うと運命/零にでてくる殺人鬼が呼び出した某旦那のような表情だ。逃げないほうがおかしい。

 

 

 これはレア博士もああなりますわ……。さっきの神機兵破壊計画はなかったことにしてあげよう。この表情で永遠と機械いじってるだけなんて実際コワイ。

 これは早急に対処すべき問題だと思った。俺やギルさんならまだしも、彼女の施設で育ったブラッドメンバーにこの状態のラケル博士をみせるわけには行かない。

 

 

 今頃笑顔で血の力を振るい、イェン・ツィーをボコボコにしているであろうブラッドのことを考え俺は彼女を全力で元に戻すことを決意した。

 バックステップで取ってしまった距離を詰めて、彼女の肩をポンポンと叩く。とりあえず何らかの刺激を与えて元に戻ってもらう作戦だ。

 

 

 トントンと肩を叩き続けるがまったく持って反応がない。

 仕方がないので、徐々に叩く力を強くして無理矢理意識をこちらに向けてもらうように仕向けてみる。

 最初のトントンという音がバシバシに変わるくらいに強く叩いた辺りで、ラケル博士はあの恐ろしい表情をこちらに向けた。やべぇ、SAN値が埋葬されそう。生存本能に類似する力は働いているのか全力であさっての方向を向こうとしている顔を必死にラケル博士に向ける。

 その甲斐あってか、段々ラケル博士の表情が普通の人間がする表情に戻った。

 やっていることは人の顔をじっと見つめていただけなのだが達成感が尋常じゃない。もうこれだけでかなり疲れた。

 一刻も早くここから出たい。フランさんとお話して癒されたい。

 

 

 「ラケル博士一体何があったんですか?」

 

 

 とりあえず自分が考えていることは頭の片隅に追いやって、完全に彼女の表情が戻ったタイミングで話しかける。

 戻ってもしばらく焦点の合っていない瞳でこちらをボーっと見つめていたラケル博士だったが、すぐに意識を取り戻しこちらを見た。

 

 

 

 「……ぐす……ひっく…えぐっ………うわぁぁぁあああん!!」

 

 

 

 そんで泣き出した。俺の顔に焦点が合った瞬間に、である。もう俺のほうが泣きたいよ……。

 いつぞやのように自分のキャラを完全にかなぐり捨てて、子どものように泣き喚くラケル博士に俺は溜息をついて、自分ができうる限りを尽くして彼女をあやすのであった。

 ここが外だったら俺は肢体不自由の女性を泣かせて喜ぶ鬼畜として噂されてもおかしくなかった。もしそうなったら、単騎でアラガミの群れに突っ込むしかなくなってたな。

 

 

 

 

 

                ―――――――――――――

 

 

 

 ラケル博士が泣き止むまでにはなんと一時間かかった。一回落ち着いたと思ったらその直後にまた泣き出すのである。本気で大変だった。

 

 

 現在は、目を真っ赤にしてうつむくラケル博士と俺のためにコーヒーを注いでいるところだ。これでも飲みながら彼女が泣きまくっている原因を聞きだそうという算段だ。

 

 

 出来上がったコーヒーをラケル博士の前に差し出すと、ボソッとありがとうといって口をつけた。誰だてめぇ。

 コーヒーを半分ほど飲み、カップを目の前にある机に戻すとラケル博士はポツリポツリと自分がどうしてこうなってしまったのかを話してくれた。

 

 

 曰く。今の今までラケル博士のことを導いてくれた人生の先生と呼べる存在と連絡が取れなくなってしまい、精神が非常に不安定な状態になってしまったらしい。

 その話を聞いて俺は不謹慎ながらも安心してしまった。今までお世話になっていた人との連絡が取れなくなって不安定になるなんてまるで普通の人間みたいだったからだ。

 

 

 失礼なことを承知で言うが、俺は今の今まで心のどこかで彼女のことを人間だとは思っていなかった。初めて彼女が俺に向けた表情はまさしく実験動物に向けるそれだったからである。難しい任務俺にばかり回してくるし。

 けど、今話しているとその嫌な感じが根こそぎなくなっているのだ。俺的には非常に安心した。

 

 

 「……それで、今後自分がどうすればいいのか分からないと」

 

 

 「……えぇ」

 

 

 ここまで来ると完全に依存だな。

 話を聞いた限り、彼女の生き方にもその先生のごとき存在が大いに影響しているみたいだ。それは取り乱すよな。

 

 

 「本当に……これからどうしよう……」

 

 

 再三言ってるけど、誰この人。今俺の目の前に居る彼女は完全に守ってあげたくなる系美少女である。外見のイメージがそのまま内面に反映させたといってもいい。

 今まではなんちゃって病弱系美少女だったし。花にたとえるならラフレシア。

 

 

 「……難しいかも知れませんが、今後は自分で考えて好きなことをしてみてはどうでしょうか?なんだったら色々なものを見て回るのもいいかもしれませんよ。もし一人で不安ならば、レア博士やブラッドのメンバーに言ってくれれば協力してくれると思いますし」

 

 

 我ながら都合がいいとは思うのだが今の彼女はどうしても放って置けなかったのでとりあえず提案だけはしてみる。

 何をすればいいか分からないのであれば見つければいいじゃないという発想である。

 

 

 ラケル博士は俺の言葉を聞いて少しだけ考えるように瞳を閉じる。それからしばらくして考えが纏まったのか、ラケル博士はゆっくりと瞳を開き、

 

 

 「それも……いいかもしれませんね」

 

 

 と言った。

 その時彼女が浮かべていた笑みはいつものものではなく、可憐な少女のような……思わず見惚れるくらいの微笑だった。

 不意にその表情を向けられたためついつい照れてそっぽを向く。俺の知っているラケル博士がこんなに可愛いわけがない。もう偽者なんじゃなかろうか。

 

 

 「それと……」

 

 

 「なんですか?」

 

 

 「協力してくれるメンバーに貴方は入っているのかしら?」

 

 

 完全にいつも通りの口調と表情。ようやく戻ったかと、肩の力を抜く。

 

 

 「暇があったら」

 

 

 脱力した俺は、俺に回す任務を管理しているらしいラケル博士に向かってそう返した。少しは任務が少なくなることを期待して。

 

 

 

 

 期待した結果が、冒頭のアレだよ!

 

 

 

 任務を受けに行ったら竹田さんに任務はありませんといわれ、首を傾げつつゆっくり休もうと部屋に戻ろうとしたとき、俺に向けて手招きをしているラケル博士が居てあの状態になったのである。

 

 

 「仁慈。もふもふですよ。すごく」

 

 

 「分かりましたから」

 

 

 膝の上にカピバラを乗せてご満悦なラケル博士に思わず苦笑する。そしてその笑みが、能面のような顔で近付いてくる施設出身組のブラッドメンバーを見つけ凍りつくのはその僅か数秒後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャンガシャン。

 

 

 どこからか重い機械音が聞こえてくる。

 

 

 近くに居るアラガミがその音に気付いて、その機械音が下方向へ移動を開始する。

 

 

 ガシャンガシャン。

 

 

 音が段々と近くなった来た。アラガミは威嚇の意味を込め、咆哮を機械音がするほうに放つ。

 しかし、機械音は止まらない。むしろ先程よりも大きく聞こえてくる。

 

 

 アラガミは痺れを切らし、その機械音が聞こえる方向に走り出した。その巨体からは考えられないほどの速度で機械音の発生源に接近する。

 

 

 そして、そのアラガミはついに機械音の発生源にたどり着いた。

 機械音の正体を確認し、すぐさま飛び掛るアラガミであったが、グシャリという肉がブツ切りになるような音を聞いたかと思うと、地面に倒れ付し、そのまま動かなくなってしまった。

 

 

 機械音の発生源は、自らが殺したアラガミの元に行きその肉体を掻っ捌くと、アラガミの形状を保っているコアを捕食した。

 

 

 崩れ行くアラガミの形を気にも留めず、コアを捕食したソレはゆっくりと顔を上げて、極東支部の方を向くと、

 

 

 

 「―――――――――――――――――」

 

 

 

 すぐにその反対側に機械音を鳴らしながら移動して行った。

 

 

 

 

 

 

 

  


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