神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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投稿が遅くて申し訳ありません

後、終わる終わるといいつつ全然終わらなくて本当にすみません。もう残り一話だけなので最後までお付き合いしていただければ幸いです。

では、色々無理矢理かもしれませんがどうぞ。


決着

 

――――樫原仁慈が死んだ。

 

 

 この言葉が起こす変化はかなり大きい。

 樫原仁慈はこの戦いにおいて間違いなく中心であった。絶望的な戦力差でも、彼をはじめとする飛びぬけた神機使いたちがいれば何とかなると思われていた。終末捕食が起きてしまっても特異点となる彼が何とかしてくれる。そんな思いに囚われていたがために。

 特に目の前で仁慈が終末捕食へと消えていく姿を見たブラッド隊の精神はかなり不安定になっていた。ナナはその場に泣き崩れ、シエルは呆然とし、ギルとロミオは今にも終末捕食の中に飛び込みそうだった。

 

 

 「フラン!仁慈のバイタル反応もしくは終末捕食の反応を確認できるか!?」

 

 

 そんな中ジュリウスはオペレーターであるフランに仁慈の安否を確認できる手段を思いつき実行に移していた。彼も彼で、目の前で終末捕食の中へと消えた仁慈の姿を見て動揺しているが上に立つものとしての振る舞いが分かっているためにここまで速やかに行動できるのだ。

 

 

 『仁慈さんの反応はアルマ・マータから成った終末捕食の強力な偏食場パルスで確認できませんが、彼が起こしていた終末捕食の反応は完全に消失しています!』

 

 

 しかし、冷静な行動を起こしたジュリウスに帰ってくる返答は望んでいたものとはかけ離れていた。特異点となった仁慈が起こした終末捕食の反応がなくなったということはすなわち核である仁慈が唯ならない事態に陥った証拠だからだ。

 

 

 「くっ………!」

 

 

 ジュリウスは仁慈を飲み込んだ終末捕食のほうを睨みつける。そこには今だ勢いを衰えさせず進行しようとしている終末捕食があった。

 

 

 「………俺が特異点になっていれば……いや、どちらにせよ結果は変わらないか……」

 

 

 こんなことになるなら自分が特異点になっていればよかったと後悔するジュリウスだが、仁慈が特異点になる理由を思い出し結局変わらないということに気付いた。

 もういっそのこと自分もあの中に入って特異点になれないか確かめてみようかと投げやりな思考で睨んでいると、ある違和感を感じた。

 

 

 「……何故、未だ一箇所に集まっている?」

 

 

 そう。普通なら仁慈を飲み込んだ終末捕食は、四方八方ばらばらに進行するはずだ。なぜならもう終末捕食の行く手を阻むものはないからである。分散したところで対抗できるものはいない。にも関わらず、未だに一箇所に集中している理由とは一体何か?決まっている。

 

 

 ――――終末捕食に唯一対抗できる特異点(仁慈)が健在であることの証明である。

 

 

 その結論に至ったジュリウスは動揺しているメンバーに自身が思ったことを話した。

 

 

 「……もう一度仁慈に偏食因子を集めるぞ。シエルはあの中から仁慈を探し出して俺らに伝えろ。ロミオは仁慈までの道程にある終末捕食を弱めろ。そうしたらギルの力で底上げした偏食因子を俺の能力で活性化状態にする。そして最後に、ナナが仁慈が居る位置に直接ブチ込め」

 

 

 「おう」

 

 

 「まかしとけ」

 

 

 「問題ありません」

 

 

 「うん、大丈夫。もう仁慈にばかり頼らないってこと、見せるんだからっ」

 

 

 ジュリウスの提案を聞いたブラッドメンバーは全員そろって力強く頷いた。今までは仁慈の力を妄信しすぎていて、それが今回の結果を招くことになった。

 ならば、これからは彼に頼り過ぎないようにしよう。支えられるようになろう。それが仲間というものだから。

 

 

 

 

 

 

               ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――あ、死んだ。

 

 

 これが自らに迫る光の壁を見たときに思ったことである。

 特異点となった俺はその力で終末捕食を起こし、アルマ・マータの終末捕食にぶつけた。何とか相殺に持っていけたらなーとか考えてたが結果は圧倒的敗北。アワレ俺は光の壁に飲み込まれたというわけである。

 

 

 まぁ、ぶっちゃけ油断というか慢心してた。なまじ今までどんな事態に陥っても何とかなってきたためそうなってしまった。

 そう、いつからか樫原仁慈は何とかするという根拠のないことを誰よりも何よりも自分が妄信してしまっていた。その結果がこれである。

 

 

 そんな状況で思い起こされるのは過去の出来事。わけも分からずドリルをブッ刺されたことから始まる神機使い樫原仁慈(おれ)の軌跡。完全に走馬灯である。ここまで着たら昇天まで秒読みと言ったところだろう。しかし、徐々に終末捕食に侵食されている俺の体はまったく動く気配もなく抵抗らしき行動は何も出来ない。

 

 

 あまりに何も出来ないもんだから逆に、今まで漠然と受け止めていたこの状況に反逆する意識が芽生えてきた。原理は普段仕事ばかりしてて休みが欲しいといいつつ、いざ休みになるとやることなくて結局休みになっていない人たちと一緒だ。多分。

 それによくよく考えてみると、ここで俺が死んだらかなりヤバイことになる。俺だけならまだ慢心の結果として受け入れられるど、俺だけじゃなくて近くで戦っているブラッドをはじめとして、俺たちの勝利を信じて足止めに徹している極東支部の神機使いたち、サカキ博士や極東の人たちだって死ぬことになる。いや、そのまま人類滅亡だ。こんなところでくたばっている場合じゃない。

 

 

 そうと決まれば即行動だと、身体を動かそうとしてみてもそういえば今は動かなかったなということに気付き思いっきり出鼻をくじかれる結果となった。

 

 

 「やべぇ……何も出来ない……」

 

 

 もうだめだぁ……おしまいだぁ……。

 

 

 ――――手こずっているようだな、手を貸そう。

 

 

 「結構です」

 

 

 ――――まただよ(諦め)

 

 

 なんか流れで断っちゃったけどこの声一体誰だったか……。どこかで聞いたことがある気もするんだよなぁ。

 今の状況は正直そんな事を考えられる余裕はないものの、不思議なくらい自分の中で引っかかっていたので直接聞いてみることにした。

 

 

 「誰だお前」

 

 

 ――――いつぞやの狼戦で力を貸してやっただろう。

 

 

 その言葉で思い起こされる場面はひとつしかない。神機使いになりたての頃、遭遇したマルドゥークに殺されかけたときに力を貸した声……それは……、

 

 

 「あの時の情けない声。多分仁と信慈と共に混ざり合ったアラガミの面か」

 

 

 ――――前に余計なものが付いたけどまぁ、そうだ。私こそお前を生かしてやったアラガミの意思である。

 

 

 「それがあんな情けないことにどうしてなった……」

 

 

 ――――1から10までお前のせいだ!

 

 

 解せぬ。

 でも、今はおいておこう。ここで気になるのはどうして今更になってこいつが出てきたかどうかだ。

 

 

 ――――私が出てくるのは命の危機に瀕しているときだけだが?

 

 

 「ですよねー」

 

 

 知ってたよこんちくしょう!

 

 

 「で、この死にかけに加えて体が動かせないというオプションも付いている状態の俺に何か出来ることはあるんですかね」

 

 

 一応こんな状況でも打開する案があったために俺に話しかけてきたんだと希望に近い予想を立てながら問いかける。俺の言葉を聞いて帰って来たアラガミの回答はしっかりと俺が望んだものだった。 

 

 

 ――――もちろんだ。そうでもなければ諦めてお前と共に死んでた。

 

 

 「そうだろうね。それで、この絶体絶命というか半分死んでいるような状況から抜け出せる方法は?」

 

 

 ――――極東支部に居るもじゃもじゃ眼鏡が言ってただろう。お前のほうがアラガミが多く混ざっている分だけポテンシャルがあると。先程までのお前はそれをかけらも引き出せていなかった。だから負けたのだ。

 

 

 もじゃもじゃ眼鏡って……もしかしなくてもサカキ支部長のことだよな。そういうこと言ってやるなよ。あの人だってきっとアレが気に入っててセットしているんだろうしさ。寝癖の可能性もあるけどな……っと話がそれた。

 

 「アラガミの力を使いこなせてないって……俺の身体能力は神機使いの中でも割と上位だぞ?」

 

 

 ――――そんなものオラクル細胞で出来た手足を使っているから当たり前だ。私が言っているのはあの狼戦で見せた咆哮のようなもののことを言っている。

 

 

 「マルドゥークの動きを止めたアレか」

 

 

 ――――そうだ。あれこそアラガミの力。他にも使い方は色々あるが……今はいいだろう。ここで本題だ。はじめに言った手を貸そうというのはお前にアラガミの力を扱えるようにするためだ。

 

 

 「嘘付け」

 

 

 ――――嘘ではない。本当は前回出てきたときにそれも与えようと思ったのだが、お前が問答無用に力だけ持っていってしまったからこんなことになったんだ。

 

 

 「その前回で言った発言思い出してみろよオラ」

 

 

 俺が身体を乗っ取るつもりだな的なこと言ったとき思いっきり頷いてただろうが。そのことを指摘すると明らかに動揺した声でアラガミが言った。

 

 

 ――――ななななんのここことやrrrrrrr。

 

 

 「もう何言ってるのかわっかんねぇな」

 

 

 ――――うおっほん。……さて、そろそろ時間もなくなってきた。今は私がアレをこうしてチャンチャラほいで形を保っていられるが、そろそろ終末捕食に飲み込まれてしまう。さぁ、手を前に差し出せ。

 

 

 「結局何をやったんだよ……」

 

 

 最後の最後まで締まらないアラガミの声にツッコミを入れつつ、俺は言われた通り手を差し出す。

 その直後、馴染みのある重さが差し出した手から感じた。それは今の今まで自分と共にいた相棒といっても過言ではないもの。神機使いが神機使いたる所以である、神機であった。

 

 

 「何故に神機……」

 

 

 確かに、これを持った瞬間自分の中にある枷のようなものが外れた感覚がした。清々しい気分ではある。しかしどうして今更神機を持ったくらいでこんなに変わるのだろうか。

 

 

 ――――私が認め、神機を持つことこそが重要なのだ。神機とは調整されているとはいえ、アラガミだ。それをお前の中で死に掛けていた私が乗っ取ったから今まで力が抑えられていたのだ。

 

 

 「お前の所為かよ!」

 

 

 今行われてるのはマッチポンプって言うんじゃないの?

 

 

 ――――………外のほうから偏食因子が集まってきている。どうやらお前の仲間が私たちを見つけたらしいな。もう時間だ。武運を祈っているよ。

 

 

 「おい、話逸らすの下手すぎだろ。っていうかちょっとm――――――」

 

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 アラガミの声に対するツッコミを強制キャンセルされ、目を開いた瞬間に視界に写った光景は―――――先程と寸分も変わらず、光の壁だった。

 

 

 

 「ぬぉおおおああああああ」

 

 

 このまま呆けていてはさっきの二の舞だ。一応、不思議空間で元自分の中のアラガミ現神機に言われた通り力は今までとは比較にならないくらい出ている。飲み込まれたはずの偏食因子たちもナナたちが再び集めてくれたのだろう、終末捕食に飲まれる前とまったく同じ状態に戻っていた。チラリと視線を向けてみればこっちを見てやりきった顔をしているブラッドメンバーの姿があるし、さっきまでの話にも出てたし間違いないだろう。

 

 

 「負けるかぁあああああ!!!」

 

 

 ここまでされたからには応えなくてはなるまいよと、自らを振るい立たせもてる全てを出し切る勢いで神機を振るう。

 神機から出た赤い終末捕食は光の壁を食い破っていく―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――ことはなく、俺が喰われないギリギリのところで踏ん張っていた。

 

 

 「なんでさ!」

 

 

 普通こういう展開ではそのまま逆転してハッピーエンドを迎えるんじゃないんですかねぇ!!あの野郎俺にホラ吹きやがったなっ!

 

 

 ――――私は力を引き出せると言っただけだ。確実に勝てるなんて一言も口にしてない。そもそもそんなご都合主義的な展開あるわけないだろう?常識的に考えて。

 

 

 「後で覚えとけよコンチクショウ!」

 

 

 なんかとんでもなく今更なことを言うアラガミに文句をたれつつ、さらに力を入れて神機を下から斜め上、その勢いを殺さずに回転してさらにもう一振りの合計二回振るう。この状況、完全に俺が飲み込まれる前と同じだがかといって他に取るべき手段がない。

 

 

 「このままやられたらさすがに格好つかないぞ……」

 

 

 

 どうするか……。

 いい加減何かしらの対策が思い浮かばないものかと、神機と同じく頭もフル稼働させていると、奇跡的に生き残っていた通信機から声が聞こえた。

 

 

 『……ねぇ、知ってる?』

 

 

 「なに?豆柴?」

 

 

 『違うよ。私だよ私、わかる?』

 

 

 「状況が状況なんで何か知らせることがあるなら速やかにお願いできませんかね?リッカさん」

 

 

 声の主はオペレーターのフランさんではなく、極東のマッド(神機限定)であるリッカさんであった。リンクサポートデバイスの実験体にするなど割と容赦がないことに定評がある」

 

 

 『その評価は不当なものだね。後で話があるから覚悟して置くように』

 

 

 「oh……」

 

 

 また声に出てたか。

 

 

 『それはともかく。なにやらピンチそうだね、仁慈君』

 

 

 「そういう貴方は大分余裕そうです……ねッ!」

 

 

 その余裕は何処から来るのか是非教えて欲しい。こっちは肉体的にも精神的にも今すぐに押しつぶされそうなのに。

 

 

 『ん?あぁ、私は君が何とかしてくれるって思っているからね。特に取り乱すことはないよ』

 

 

 「その信頼が痛い」

 

 

 絶体絶命のピンチに直面している身としてはさらに辛く感じる。

 

 

 『では痛くないようにしてあげよう。……神機って言うのは常にリミッターがかかっているんだよ。これは知ってるかな?』

 

 

 「普通の神機使いじゃ……扱いッ、きれないからッ、ですよね」

 

 

 ブラッドアーツを習得するときそんな事をシックザールさんが言っていたことを思い出す。俺やシックザールさんなんかは普通の神機使いより神機の規制を緩くしても大丈夫らしいけど。

 

 

 『そう。でも、今の君なら君自身の力で神機の限界を取っ払って扱うことが出来ると思うよ。特異点になってるから神機に捕食される心配もないし』

 

 

 「確かにッ、そうッ、ですけどッ!神機の開放なんてやり方知りませんよッ」

 

 

 『仕込みは既にしてあるから大丈夫。後は君が血の力を神機に対して使うだけ』

 

 

 仕込みって……そういうのは本人にしっかりと確認とってからにしてくれませんかねぇ。リッカさんのフリーダムさに思わず溜息をつく。

 

 

 「まぁ、やってみますよ」

 

 

 『うんうん。その意気だよ。それじゃ、さっさと片付けて帰ってきてね。まだまだ君にはやってもらわなくちゃいけない実k―――――実験があるんだからさ』

 

 

 「おい……言い換え、おい」

 

 

 『それじゃ!』

 

 

 ブツリッと音が鳴った直後、無音を突き通す通信機。

 

 

 「………とりあえず、行くぞッ!」

 

 

 色々リッカさんに言いたいことはあるが、その前に目の前の危機を何とかしないといけないわけで……。

 くだらないことで埋まりつつある思考を切り替えて、俺は自分の神機に向かって『喚起』の力を使った。

 

 

 

 

 

 

              ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが見たのは赤い波動に混ざって現れた金色の光の流動だった。ちょうどブラッドみんなの力を合わせて偏食因子を流し込んだところからそれは浮き出てきた。その勢いは決して終末捕食にも負けていない。しかし、不思議なことにその金色の光と終末捕食である赤い波動はお互いにぶつかるはなかった。むしろ、お互いが絡み合いより強力なものへ変貌しているようにも感じられた。

 

 

 「なんだ……あれは……?」

 

 

 「金色の光……?」

 

 

 ギルとナナも呆然と赤と金の流動を眺めていた。かく言うジュリウス()も彼らと同じような感じとなっていただろう。それほどアレは圧倒的だった。

 誰もが仁慈が起こした変化だと思われる事態に目を奪われている中で、血の力を使って仁慈の様子を見ていたシエルが光の方を見てこう言った。仁慈と。

 彼女の言葉につられて全員が目を凝らして光の発生源を見る。すると確かにシエルが言った通り仁慈が居た。あの金色の光を背中から生やしながら。

 

 

 「なんじゃありゃ!?」

 

 

 「ついに正式に人間辞めましたっ!?」

 

 

 「タシロス!?」

 

 

 「落ち着けお前ら」

 

 

 メンバーの反応の大きさに仁慈の存在の重要さをしみじみと感じつつ混乱の極みに陥ったメンバーを一人一人正気に戻していく。主に首筋に手刀を入れる感じで。

 

 

 そんな事をしている間も状況は二転三転する。今の今まで押されてばかりだった仁慈側の終末捕食がアルマ・マータの作り出した終末捕食を押し返し始め、そのままそれぞれの位置からちょうど中間となる当たりまで進行したのである。

 

 

 だが、それだけで終わりではなかった。拮抗していた二つの終末捕食が突然混ざり合い、上へとその向きを変えていったのである。

 お互いがお互いを喰らい合いながら上へと登っていく様は二つの竜が喰らいあっていくような姿にも見えた。そして、そのぶつかり合いで生じた衝撃波と閃光がある程度離れていた俺たちも飲み込もうとしていた。

 

 

 「やべっ」

 

 

 「これは間に合わないな」

 

 

 「万事休すですね」

 

 

 「これは死んじゃうかもねー」

 

 

 「お前たち……もう少し緊張感を持たないか……」

 

 

仁慈の無事を確認できたからか何時もの調子が出てきた仲間たちとともに仲良く光の中へ飲み込まれる結果となった。

 

 

 

 

              

 

 

 

 

 

 「………ん?」

 

 

 私たちに向かってきた激しい閃光が収まり目を開けると、そこには今では見ることが難しくなった自然の木や花々が咲いている場所に立っていた。雰囲気としてはフライアにあった庭園に近いと思う。でもおかしい。私たちが立っていた場所は確かに他の地域に比べて綺麗な場所、黎明の亡都と呼ばれるところだったけど、ここまで自然豊かな場所ではなかったはず。

 

 

 「なんだ……ここは……」

 

 

 「すっげぇ綺麗なところ……」

 

 

 「どこか庭園に似ている気もしますね」

 

 

 私と同じく光に飲まれたシエルちゃんやギル、ロミオ先輩もこの光景に驚いているようだ。というかそこに居たんだね、みんな。

 

 

 「仁慈!」

 

 

 ジュリウスの叫び声に私を含めた全員が彼の向いている方向に視線を移す。するとそこには暢気にこっちに向かって手を振っている仁慈が居た。それを見た私は思わず彼に向かって走っていき―――――――ドロップキックを繰り出す。

 

 

 「仁慈の馬鹿ぁぁあ!いっぱい心配したんだからーーーっ!!」

 

 

 繰り出したドロップキックは寸分の狂いもなく仁慈がいるところへと向かい、後少しで激突となる瞬間。見えない壁のようなものに遮られた。

 当然、遮られたために仁慈に対してのダメージはなし。逆に私が大ダメージを受けて地面を転げまわる結果になった。うぅ……痛い……。ついでに仁慈から来る何だコイツ的な視線も痛い……。

 

 

 

 「あー……大丈夫か?その、色々」

 

 

 直接言われたっ!しかも、その他もろもろも心配された!

 

 

 「そんな事はいいのっ!それよりこの壁なに?」

 

 

 これ以上醜態をさらしてしまうのも割りとアレなので話題のすり替えを行う。幸い、見えない壁に関しての疑問はみんなが持ち合わせていたので特に手こずることもなくすんなりと話題のすり替えに成功した。

 

 

 「多分終末捕食の外と中を分ける奴じゃないの?俺は特異点で終末捕食を起こしている側だからこっちでナナたちを巻き込まれただけだからそっちってな感じで」

 

 

 「ふーん……それで仁慈。今の状況分かるか?」

 

 

 「質問しておいてこの対応………はぁ、現在はいい感じに二つの終末捕食が拮抗している状態ですね。これなら当初の予定通り終末捕食を無害なものに出来そうです」

 

 

 「ならもうすぐ一件落着か?」

 

 

 「一件落着です」

 

 

 私は仁慈のその言葉に思わず胸をなでおろした。正直私たちはあまり何もしてないかもしれないけど、それでもようやくこの危機が去っていくと考えるとそうならざるを得なかった。私だけじゃない。ジュリウス隊長だって目に見えるくらい安堵している。

 けれど、そんな雰囲気の中仁慈だけは気を緩めずにいつの間にか握っていた神機をもって私たちに背を向けた。

 ……その姿がなぜか無性に私の不安を煽ったため、つい問いかけてしまった。

 

 

 「仁慈、神機なんて持って何処に行くの?」

 

 

 「神機持ってやることは一つしかないでしょ」

 

 

 仁慈がそう口にした瞬間、仁慈が居るほうの空間に黒いアラガミ達が出現した。それも一体や二体ではなく、数十体もの大軍勢。とどめにどれもこれも大型以上のアラガミばかりだった。

 

 

 

 「仁慈!」

 

 

 ロミオ先輩が叫ぶ。さすがにこの状況はまずいと思っているのだろう。必死にこちらに来るように声を上げていた。しかし、仁慈は彼の言葉に反応を返すことなく淡々と歩みを進めていく。

 ギルがそれを止めようと向こう側に行こうと試みるけど、見えない壁はびくともせず、ただ小さな波紋を作り出すだけだった。

 

 

 「一件落着じゃなかったんですか!?どう考えてもそうは思えませんけど!?」

 

 

 「これから一件落着にしに行くんだよ、シエル。だからみんなは先に極東支部に帰っといて」

 

 

 「今すぐじゃないとダメなのか!?」

 

 

 「特異点になって終末捕食を起こしてますからね。勝手に出て行くと多分暴走しますよコレ」

 

 

 信じたくなかった。特異点である仁慈が消えると終末捕食が暴走を起こす。それが意味することは仁慈が一生ここで終末捕食の制御を行わなければならないということ。つまり、仁慈は帰れない。

 その結論にたどり着いたとき体の力が一気に抜けてその場に座り込んでしまう。嫌だ、仁慈が居なくなるのは嫌だ。

 

 

 「それは一件落着って言わないだろ……」

 

 

 「終末捕食が無力化できるんですから一件落着でしょう。それに俺は先に帰っておいてくださいと言っているんです。だからまるで今世の別れみたいな雰囲気だすのやめてくれません?」

 

 

 それは嘘だ。だってあの顔は、過去にお母さんを助けに来てくれた神機使いたちが見せた表情と同じだったから。自分の命に代えても何かを守る、何かを成し遂げる……そんな意思が乗った目をしてるから。

 だから行かないでと、必死に声を上げる。もう、仁慈が終末捕食に飲み込まれたときのような気持ちにさせないでと。

 

 

 仁慈は体を反転させて見えない壁のギリギリまで来ると、その場にしゃがみこんで私にすごく優しい声で語りかけた。

 

 

 「あのな。コレは必要なことなんだよ。それに、さっきから言っている通り俺はなにも死にに行くわけじゃないんだぜ?」

 

 

 「嘘だ!仁慈、今にも死にそうな顔してるよ!」

 

 

 「ちょっとそれは失礼すぎやしませんかね……まぁ、今はいいや。なぁ……そんなに俺が信じられないか?」

 

 

 「…………一回、終末捕食に飲み込まれたくせに」

 

 

 「やだ……心にすっごく突き刺さる……っ」

 

 

 あれは仕方がないし、私たちのせいでもあると自覚しているけど思わずそのことをくちにしてしまう。すると仁慈は地面に手を着いてうなだれていた。しかし、すぐさま立ち上がり私の目をしっかりと見て、宣言する。

 

 

 「確かに一回無様をさらしたけど、今度は大丈夫だから。もう一度、俺のことを信じてくれないか」

 

 

 「…………」

 

 

 分かってる。私が言っていることが唯の我がままで、仁慈の言葉が正しいのは。とても面倒くさいことを言って仁慈を困らせていることなんてとっくに分かりきってる。私だってそこまで子どもじゃない。けれど、万が一を考えると怖い。心臓が凍りつくような寒さを感じるのだ。

 

 

 「………」

 

 

 「………」

 

 

 「……………わかった、待ってる。ずっと」

 

 

 「……ん、ありがと」

 

 

 にこっと微笑んで彼は立ち上がる。

 あんな目で見られたら、断れるわけがなかった。私が何を言っても止まらない、そんな意思を宿していたから。

 

 

 「それじゃ」

 

 

 短く言い残して今度こそ仁慈は神機を振りかぶりながら、人外的な速度でアラガミに突撃していく。

 大型のアラガミを次々紙屑のように蹴散らす仁慈の姿を最後に私の意識は途切れていった。

 

 

 

 

 

 

 

               ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 あの後、目を覚ました私たちは光に飲み込まれる前にいた場所に立っていた。仁慈の言葉を信じ、ジュリウス隊長が通信機で帰りのヘリで無事に極東支部へと帰って来た。サカキ支部長から、終末捕食はお互いに喰らいあった結果ひとつの大木のようになったという旨を聞いた。

 

 

 今でも出来た白い大木の中で終末捕食がお互いに喰らいあっているらしい。偏食場はどちらも均衡していて現状は問題がないらしい。

 

 

 「君達には本当に感謝している。よくやってくれた、今日はゆっくりと休むといい」

 

 

 そう言われたけど、そんな事はどうでも良かった。サカキ支部長から労いの言葉をもらい自室へと向かう途中で聞いてしまったのだ。仁慈のバイタル反応が完全に消失したと。

 

 

 そこから先は良く覚えていない。

 きっと、自分の部屋で泣き叫びそのまま疲れて眠ってしまったのだろう。目が覚めたら私はベットの上で寝ていた。

 

 

 とにかく今日は起きる気にならない。仁慈が死んだという事実が重く心にのしかかっていた。

 

 

 「うそつき……」

 

 

 いっそ、夢の中にでも逃げてしまおうかと布団を被り直したところで外がとても騒がしいことに気付いた。

 少しくらいなら気にしないで寝れたけど、1人2人が騒いでいるわけではなく数十人単位で移動しているような騒がしさだった。さすがに気になり、碌に着替えもせずに部屋の外に出る。どうやらみんなエントランスに向かっているようだった。ふらふらと力のない足取りで私もエントランスに向かう。

 

 

 

 

 

 ――――そして、エントランスに入り人が集まっている原因を視界に納めた瞬間、出来ている人だかりを一気に飛び越えてその原因に思いっきり抱きついた。

 

 

 「うぉあ!?何だ、新手の奇襲か!?」

 

 

 驚いてこっちを見る人だかりの原因に色々言いたいことはあるけれど、所々ボロボロになってバイタル反応が消失したにもかかわらずしっかりと帰ってきてくれた彼にはまずこの言葉をかけよう。文句なら後でも言えるから。

 

 

 さっきまでこの世の終わりと言わんばかりに暗かったのにと自分でも調子がいいと思いつつ私は満面の笑みで彼にこう言った。

 

 

 「―――――おかえり、仁慈」

 

 

 「………ん、ただいま」

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 




急にヒロインしだしたナナさん。
一体どうしてこうなったんだ……。

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