この部屋は極東支部の中でも指折りの立ち入り禁止区域に入る場所。この部屋に入ったものは無事に帰る事は叶わず、誰であろうとナニカサレタ様に変貌して帰ってくるのである。その変貌っぷりは恐怖を抱かせるほどである。
……そんな立ち入り禁止区域に指定されるくらいアレな場所であっても、部屋は部屋だ。当然その部屋の主が居る。
その主の名前は、
「………最近、面白いことないわね……」
ラケル・クラウディウスと言う。
彼女は元々、自分の中にある荒ぶる神々の意思によってこの地球の生態系をリセットしようと終末捕食を起こす計画を立てていた、歴とした危険人物である。別の世界線では数多の人間におのれラケルゆ゛る゛さ゛ん゛という感情を持たせた全ての元凶とも呼べる存在である。
が、この世界での彼女はそうではない。幸か不幸か、彼女は今は樫原仁慈と名乗っているものたちに出会ってしまった。
その結果、自分の計画通りにことが進むことはまったくなく、こうして新たな人生を歩んでいるのである。
今日も今日とて嫌がらせとも言える量の仕事を仁慈に押し付け終えた彼女は最近行き詰まりぎみの研究に取り掛かろうとしたその時、彼女の部屋を叩くノックの音が聞こえた。
その音を聞くとラケルは入ってどうぞ、という言葉と共にお茶菓子と紅茶を用意する。
――――ここ最近、研究で行き詰っているラケルはあることをやっている。
それは元々自分が始めたものではないのだが、ある人物が頻繁に訪れる所為か、極東中の人々に伝わりこうしてたびたび人が訪れるのだ。ラケル本人も狙っていないにせよ、いい気分転換になっているのでこの訪問者達を歓迎している。
では、彼女が何をしているのかというと、
「ラケル先生。少々、俺の話を聞いてもらっていいでしょうか?」
「あら、よく来たわね。ジュリウス。えぇ、聞いてあげますよ。何せここは『ラケルのお悩み相談所』らしいですからね」
お悩み相談所をやっているのだった。
仁慈が知れば迷わずこう叫びを上げることだろう。
おいばかやめろ、と。
――――――――――――――
J・Vさんの場合
「実は最近、アラガミが段々と弱体化している気がしていて。あの仁慈が生み出した大木……螺旋の木の付近にいって新種を狩っても満たされないんです。どうしたらいいでしょうか?」
「それは大変です。でも、大丈夫。逆に考えればいいのです。アラガミじゃなくて、神機使いと戦ってもいいや、と」
「――――ッ!?」(そのときJに電流が走る)
「この極東には、アラガミなんて足元にも及ばない化け物が沢山いるでしょう?」
「その発想はありませんでした。ありがとうございます。………待ってろ仁慈」
「フフフ、生き生きしているようで何よりです」
その後、書類処理をしている仁慈の元に押しかけたJは訓練室に無理矢理引っ張り込み、ひたすら彼と白兵戦を繰り広げたという。そのおかげで仁慈は書類処理が出来ず、疲れた体に鞭を打ち、徹夜で書類を完成させたらしい。
ちなみに、その翌日、仁慈によってボロボロにされたJが満足そうに訓練室でぶっ倒れていたのを誰かが発見したとかしてないとか。
C・Aさんの場合。
「最近、隊長が構ってくれません」
「まぁ、それは大変です。しかし、もう大丈夫です。今からいう言葉を彼に向かって大声で叫べば問題ありません」
「………ふむふむ、分かりました。ありがとうございます。ラケル先生」
「私は、悩める者の味方です。このくらいならいつでもきてくださいね」
その後、ラウンジにてCが仁慈にあの夜のこと(意味深)を大声で言い放ち、周囲に誤解の嵐を巻き起こした。
当然事実無根な訳だが、もう既に拡散してしまった情報にどうすることも出来ず、言ったC本人がしっかりと否定することを条件に、何日間か連続で任務に付き合わされた。
この間、例のおでんパン娘がハイライトを消し仁慈の背後をつけて廻っていたため、仁慈のストレスはマッハだったという。
ロミオ・レオーニの場合
「何で俺のときだけ実名出てんの!?頭文字だけとってくれたりとかはしないわけ!?しかもさん付けすら無し!」
「仕様です」
「嘘付け」
一通り言い合った後、お互いにクールダウンをして本題である相談ごとの話題を切り出す。
「実は、リヴィと一緒に来たフェルドマン局長がずっとこっちを睨んでくるんですけど、どうすればいいんでしょうか?」
「知りません」
「おい、相談に乗れよ」
「もう普通に娘さんを僕にくださいとか言えばいいんじゃないですか?」
「フェルドマン局長別にリヴィのお父さんじゃないから!どちらかといえばラケル先生のほうが親でしょう!?」
「でも、あの人リヴィの事、娘みたいに思っていると思うわ。その大事な娘に金髪ニット帽のちゃらちゃらしたバカっぽいやつがくっついてきたらそれはもう睨むしかないんじゃないかしら?」
「オラ、金髪ニット帽がそんなに憎いかフォラ。どいつもこいつもそればっかりだよ!」
結局この後、何の話も展開されずに相談は終了。
ロミオはやけくそ気味にフェルドマンに娘さんを僕にくださいといい、見事に許可を貰った。
リヴィは赤面しつつも嬉しそうに微笑んだという。
どうやらフェルドマン、さっさと告白でも何でもしろという目で2人をみて思っていたそうで、即効で頷いたという。
P・Sさんの場合
「ラケル博士。実は、最近何を作っても面白いと感じなくなってしまったんだ。仁慈君を異世界に跳ばす機械を作っても、アラガミを一歩も入れないような防壁を作っても、製造を禁止されている神機兵を改造しても、だ」
「我々研究者件技術者にとっては致命的ですね」
色々おかしい相談内容だったが、それを突っ込むものはここにいない。
ツッコミ不在の恐怖をマジマジと見せ付けられる光景がそこにはあった。
「しかし、大丈夫です。こういうときこそ、この極東のアニメ文化に触れるべきです。見てくださいこれを」
そこに映っていたのはドリルで敵を粉砕するだけでは飽き足らず、宇宙にまで繰り出すロボットとか戦艦とかの姿が。
「こ、これは……!素晴らしい、なんてロマンに溢れたものなのだろう……」
「そうでしょう。実は既に取り掛かってはいます。現段階では難航していますが……どうかお力を貸していただけないでしょうか?」
「是非ともお願いするよ」
笑顔で握手を交わす2人。
今ここに碌でもない事態が発生することが決定した。
L・Kさん
「最近、妹が暴走ばかりしていて……苦労するので止めて欲しいんです」
「それを本人の前で言うとは随分と肝っ玉が据わってきましたね。お姉さま」
姉妹喧嘩に発展したためカット。
A・Yさん
「おかしいんです。この作品、ヒロインはもっと歌のうまい女の子だったはずなのに……もっと私の出番があってもおかしくないはずなんです」
「シプレのことですか?」
「違いますよ!もっとこう……動く要塞的なものであった2人がその後大きく色々な出来事に関わっていく、とか」
「この世界ではそんな出会い方をしていないので……」
「」
相談者が気絶したためカット。
J・γさん
『私の出番がまったく無いようなのだが……』
「それはそうですよ。貴方達、製造停止ですもの。というか、貴方のことなんて覚えている人いないと思います」
『ふむ……これでも彼に的確な指示を出し、隊員救出に一役かったのだと、思ったのだがな』
「あれ、あんまり意味がなかったといっていましたよ?」
『なんだと……?』
「しかし、出番が欲しいですか……。実は私、個人的に今作っているものがあるんです。宇宙でも活動できるスーツを」
『それを私に?』
「えぇ、貴方の体は余すことなく改造されるでしょうが……心配要りません。必ず宇宙にいけるようにして差し上げます。そう、無人戦士神機ガ〇ダムとして」
『……面白い。もとより暇をもてあましていた身だ。そういうのも悪くはないのやもしれん』
話を終えた2人(?)は部屋の奥へと消えて行った。
この部屋は極東支部の中でも指折りの立ち入り禁止区域に入る場所。この部屋に入ったものは無事に帰る事は叶わず、誰であろうとナニカサレタ様に変貌して帰ってくるのである。その変貌っぷりは恐怖を抱かせるほどである。
――――仁慈にとって。