神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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はい。少々最後が駆け足気味でしたが、これにて過去編は完結となります。
一応ネタも尽きたので連載を再開したこの作品も再び完結ということになります。皆さま今までありがとうございました。

まぁ、完結して一日立たないうちに新しい話を投稿した私の完結報告なんて全くあてにならないでしょうけど、しばらくはFGOの方を進めていく形になると思います。もし、暇があればそちらもご覧ください。


ただいま

 

 

 

 ユウ、仁慈、リンドウの極東キチガイトライデントによって行われたジェットストリームアタックが地球の環境をリセットする終末捕食に終末を送るというある意味の偉業を成し遂げたため、エイジスに絡みついていたノヴァがその体を崩壊させる。

 ノヴァが崩れたことにより、絡みつかれていたエイジスの方も、ところどころが崩れてきた。

 つまり何が言いたいかというと、このままいくと勝者である彼らはこのまま圧死だということだ。

 

 「皆、早く脱出するんだ!ノヴァと一緒にエイジスも崩れるぞ!」

 

 ヨハネスの言葉に全員がうなずいて次々と自分たちがここに来たときに使った通路に向かって行く。

 特に道がふさがれることもなく、全員が脱出し終えた直後、エイジスはノヴァと一緒に海の底へと沈んでいった。しばらくそのさまを眺めていた極東勢だったが、エイジスとノヴァが海底へ沈んでから数十秒が経過したのちに、コウタが口を開く。

 

 「終わった……のか……」

 

 「…………うん。ノヴァの反応は完全に消滅したから、もう安心してもいいぞ」

 

 特異点だったからか、ノヴァ消失の報告を入れてくるシオ。誰しもそれを聞いた直後は反応できなかったが、やがて彼女の言葉を飲み込めるようになると誰もかれもあが己のキャラを月に届く勢いで投げ捨てて喜びを共有しあった。

 

 『やったー!!』

 

 ユウと仁慈は年相応の笑顔でハイタッチをして、コウタはその場で力強くガッツポーズをとる。小声でお兄ちゃん頑張ったよと言っているあたり、なかなかに追い詰められていたことが分かる。ソーマも腕を組んで静かに微笑んでいたが、彼の隣で両手を上げてピョンピョンはねて喜んでいるさまを見て、組んでいた腕を解いて頭に手を置いていた。サクヤは号泣しながらリンドウに飛びつき、少女のような笑顔で「好き!結婚して!」と爆弾を投下してリンドウを呆然とさせていた。

 

 そんな第一部隊の様子をヨハネスとサカキは一歩離れたところから眺めていた。多分彼らの乗りについていけないのだろう。年齢的な意味で。

 

 「何やら失礼なことをどこかで言われた気がするよ」

 

 「全くだ。我々はまだまだ若い」

 

 大宇宙からの電波でも受信したのか、意味不明なことを言い出した二人。確かに見かけからでは実年齢は判別できないだろう。その分、思考回路はとかその他もろもろは年齢という概念を逸脱しているが。

 

 「……ペイラー。私は、今日このときのために様々なものを犠牲にし、準備をしてきた。だが、人間が災害にかなわないように。私が彼らかなわないことは当然だったのだと思う」

 

 「それは、彼らのことが災害と同じものと言っているようなものだと思うよ。まぁ、否定はしないがね。彼らはまさに災害のごとく対処法も見つからないし、どのような被害が出るかも未知数だ。だが、それだからこその彼らと言える。しかし……そんな彼らは君の願いが生み出したんだ。さっきも言ったけど、それだけは認めざるを得ない功績だね」

 

 「珍しいじゃないか、ペイラー。君がそこまで個人に肩入れするような発言をするのは。ノヴァのかけらでも食べたのかね?」

 

 「ヨハンこそ、そんなくだらない冗談を言える程度には余裕ができたみたいだね。今までの君は視野が狭すぎてあまり面白い会話ができなかったから、私にとっては実によかったよ。………ざまぁw」

 

 「どうやら本格的に壊れたようだな。私かかりつけの医者を紹介しようか?」

 

 「残念ながら間に合っているよ。君紹介の医者なんていつ洗脳されるかわかったものじゃない」

 

 遠慮のかけらも見当たらない言葉の殴り合い、表面上はそこまで変化がないため余計に怖さを感じられるそれだが、行っている二人はどこか楽しそうだ。現に今もくすくすと静かに二人で笑いあっていた。

 

 「そうだな。先ほどまでの私には余裕がなかった。妻を失い、最愛の息子すら道具として使った結果、後戻りができなくなった。……思えば、私が人間に絶望していたのは、何より私自身が自分のことを恨んでいたからかもしれない」

 

 ヨハネスは長年の友人にその心中を曝け出す。

 

 「その考えを改めはしない。人間はどうしようもない生き物だ。自身の欲望のためには他者を食いつぶすことをいとわず、自分だけは栄えようとする。そこに自然の連鎖が生み出したものはなく、人間という知性を持ってしまった人間が勝手に作り出した弱肉強食の世界だ」

 

 「………」

 

 「だが、そうだな……初めての親子喧嘩で負けた身としては、神機使い達(子どもたち)の意思を尊重しようと考えられるようにはなったな」

 

 「………随分と子だくさんになったことだね。アイーシャも喜んでいると思うよ。色々な意味でね」

 

 「ハハハ…………そこまでにしておけよペイラー」

 

 途中までとてもいい話風だったにも関わらず、アルダノーヴァを使ってまで喧嘩を始める二人。

 

 

 

―――――さて、こんなことがありつつも極東で密かに起こっていた終末捕食による人類の危機は回避された。

 

 だが、これで極東が平和になったのかと言われればそうではない。むしろ、アラガミの質はさらに上がっている。それはほかの支部が見たら速攻で泣き叫ぶくらいの状況と言えるだろう。しかし、そのほかの支部から見たら規格外のアラガミと日夜戦い、拮抗している神機使いもまた規格外なのだ。つまり何が言いたいかといえば、極東は今日も平和とは言えないがそのに住んでいる人は今日も元気だ。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

 

 極東では終末捕食未遂事件、世間ではエイジス崩壊事件の数か月後。

 ヨハネス支部長はこの事件の責任を取って極東支部支部長を解任――――されることはなかった。なんでもエイジス計画は割と最初の方から色々無理がある計画だったらしい。だからこそ早くからノヴァの隠れ蓑として機能していたとのちにヨハネス支部長が語ってくれた。で、何が言いたいのかというと、あの人は自分の優秀な頭脳をフル回転させて、実現性の低い計画を早い段階で世間に発表したフェンリル本部の方に責任があるとしてまんまと被害者の地位を獲得したのである。

 この騒動の所為でフェンリル本部の何人かが職を失う結果となったとき、ヨハネス支部長がにやりと笑って「計画通り……!」と言っていた。この人やべぇわ。

 

 

 

 次にシオである。

 なんか月に行くことを運命づけられていそうな彼女だったのだが、そんなことはなかったぜと言わんばかりに極東に住み着いている。というか、もはや極東神機使いの一員としてみんなに受け入れられていた。やっぱり極東人の適応能力半端ない。火星に適応したゴキブリレベル。

 

 さて、そんな彼女だが気になる点が一つあって、どうやら特異点ではなくなってしまったらしい。このことにサカキ博士はものすごく興奮して、彼女のことをくまなく調べようとするという非常に犯罪チックな絵面になりかけた。そのときはソーマが光の速さでやってきて、サカキ博士に「つまり、殴ればいいんだな……!」と言いつつ疑似百裂拳を叩き込んでいた。その後、ヨハネス支部長が来てシオが特異点でなくなった推測を教えてくれた。

 

 「おそらく、アラガミを生み出した地球の意思が今回のことで彼女は使い物にならないと思ったのだろう。特異点とは一つ存在すればそれがなくなるまでは次の特異点が出来上がらない。だからこそ、シオの中にある特異点の性質を剥奪したのだろう」

 

 「でも、そうなったらシオも消えてしまうのでは?」

 

 「地球の意思も分かっているんじゃないかね?”あ、この子に手を出したらこのキチガイたちがどうにかして攻め込んでくるわ”と」

 

 「うわぁ……」

 

 否定できなかった。

 ソーマはとりあえず絶対にそうするだろうし、彼が動く以上目の前のヨハネス支部長も動くだろう。ユウさんも仲間に手を出されておとなしくしているような性格じゃないから動くだろうし、なんだかんだでシオのことを妹のように思っているコウタも動く。同じくシオをかわいがっていたサクヤさんとアリサも動くし、サクヤさんが動く以上リンドウさんもついてくる。ついでに俺も多分参戦する………あっ(察し)

 そんな周囲が過保護者しか居ないシオは今日もソーマと一緒に自分の食糧確保に奔走しています。

 

 

 次はサクヤさんとリンドウさん。

 彼らは普通に結婚しました。まぁ、当然だよね。

 リンドウさんは自分の腕が中途半端にアラガミ化したことや、公式には死亡扱いになっていることから結婚はやめとけとサクヤさんに言っていた。だが、一度死んだと思って人生で一番悲しみ、後悔したであろうサクヤさんにはそんなこと関係なかった。また失踪される前に結婚に持ち込んでやると、ツバキさんと手を組んであの手この手でリンドウさんの逃げ場をなくして、騒動解決からわずか二か月で結婚に持ち込んだ。

 

 その際、本部にリンドウさんの死亡認定を取り下げさせたり、彼のことを実験体にしようとするやつをアラガミの餌にしたりしていた。俺は怖くて近づけなかった。コウタさんやユウさんも震えていた。

 

 あと、リンドウさんの近くに一人の少年のような少女のような不思議な人が寄り添っているのが見えるようになった。最初に見たときは本気で驚いた。「リンドウさんが浮気した!」と思わず言ってしまったのだ。その時のサクヤさんの形相は思い出したくもないし、リンドウさんにもめっちゃ怒られた。

 そんなことがありつつも、リンドウさんの話を聞いてみると、彼?彼女?はリンドウさんの神機に宿っている意思らしい。名前はレンといって俺とリンドウさん、ユウさんにしか見えない存在だ。

 話を詳しく聞いてみると、リンドウさんのアラガミ化を抑えているのもこのレンという神機の意思らしい。

 

 「お二人とも、リンドウはこのように数も数えられない馬鹿野郎ですが、末永くよろしくお願いします」

 

 「ったく、お前は俺のかーちゃんかよ……」

 

 なんて言いつつも普通に仲がよさそうだった。まぁ、今までともに戦ってきた仲だろうしそれも納得するけど。

 

 

 次にソーマさん。

 死神という呼び名を連想させたソーマは既に過去の存在となり、今では極東のいいお兄さん分である。大体シオとエリックさんと一緒にいることが多く、彼らのフォローや世話に奔放していることからそう呼ばれることとなっている。

 かつてはアラガミに近いその体が、アラガミを呼び寄せることがあったが、今の彼はそんな奴らが来ても仲間をかばいつつ戦えるくらいにまで成長したため、むしろ経験が効率よく積めるとのことで大人気になった。

 本人はこのことに対して「都合のいい奴らだ」とあきれていたがまんざらでもないご様子。ヨハネス支部長の陰からにやにやとそのさまを眺めては腹パンを喰らっている。親子仲も改善されていいことだ。

 

 

 今度はアリサ。

 彼女はいったんロシア支部に戻ることとなった。なんだかものすごく抵抗し、ヨハネス支部長に恐喝すら行うというぶっ飛んだ行動を見せたが、どうやらロシアの方に強いアラガミが出たらしく、もともとロシア支部所属のアリサをしばらく応援として送ってほしいとのことだ。ヨハネス支部長も、結構無理してアリサを引き抜いたので逆らうのは難しいとのこと。

 そこで彼女はしぶしぶとロシアに向かい、その三日後何事もなかったかのように帰ってきた。帰っていた直後に抱き着かれたのはいまだによくわからない。しかし、どうしてそこまで早く帰ってきたのかが気になり彼女に尋ねてみると、

 

 「早く、早く……帰りたかったので………全滅させました!」

 

 と、超笑顔で答えてくれた。

 その証拠に支部長からロシアでのアラガミ報告が途絶えたとちょっとした騒ぎになったことを聞かされた。やだ、このひとつおい(確信)

 

 

 次はコウタさん。

 彼はキチガイが徘徊する極東において、比較的常識人として知られ、かなりの人の人数のフォローに回っている。そのおかげか、任務に行く際にはコウタを連れて行こうという暗黙の了解が出来上がってきていた。おかげで本人は死にかけている。だが、その分ヨハネス支部長が彼の家族に対しての支援をほかの人にばれない程度に行っているため、今日もお兄ちゃんは頑張るといっていた。

 なんというか、お兄ちゃんというより社畜のお父さんという感じがした。

 

 

 最後はユウさん。

 彼は今までの功績が認められ、積極的にほかの支部に応援として入るようになっていた。その強さはほかの支部でも当然健在で、行く先々に信者を増やして帰ってくる始末だ。強すぎる力は人を大いに引き寄せるものであると痛感した出来事である。

 その強さが世界に伝わり、最近では神狩人としてあがめられるまでに至っている。ついでに彼がその行く先々で「自分よりも樫原仁慈という人の方が強い」と風潮して俺の精神ポイントを殺しにかかっている。いくらユウさんでも許すまじ。

 何はともあれ、今では彼は世界で最も頼れる神機使いとなったのだ。

 

 

 さて、そんな人外たちが拠点としている極東の自室にて俺は一つだけ疑問に思っていた。今までずっと目をそらし続けてきた。いつかは向き合わないといけないと思っていた。その疑問とはすなわち、

 

 

 「俺はいつになったら未来に帰れるのか」

 

 

 この一点である。

 なんかこの極東に自分でもどうかと思うくらいに馴染んでいたが、もともと俺はここの時代の人間ではない。大まかなイベント……というにはいささかきつい内容だったが、それも終わった今俺はどうすれば帰れるのかという疑問にぶち当たっていた。

 

 

 ……いや、正確に心当たりはある。

 それは俺がここに来た原因。嘆きの平原にあるあの謎竜巻だ。前まではあそこに行ってみても何も起きなかったが、すべてが片付いた今ならいけるのではないかと思い始めた。

 

 「行ってみるか……」

 

 神機を持って、ヒバリさんから適当な任務を受けるといつもの覆面操縦士のが操るヘリで嘆きの平原へと向かう。

 ……誰にも伝えないで来ちゃったけど、未来人と言っても信じてもらえないだろうし、何より成功する補償はないからいいか。

 

 今さらなことを考えながらついた嘆きの平原。襲ってくるアラガミを適当に倒していきながら竜巻の目の前まで行くと、みるみるうちに俺の体が竜巻に吸い込まれて行ってしまった。

 

 「あ、やっべ」

 

 吸引力の変わらないただ一つの掃除機のごとく、強力な吸引力で竜巻の中に引きずり込まれそうになる俺。その割には近くにある草は全く動いていないということを不思議に思いつつ、持ってきていたメモ用紙とボールペンで手早く手紙を書くと全力でその辺に分投げた。その紙がどこかに行ったのかということを見届けることができない間に俺は竜巻の中に吸い込まれて行ってしまった。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「ん、んぅ……………」

 

 竜巻に飲み込まれた後、ふと目を覚ますと目の前にオウガテイルの口があった。反射的にオウガテイルを切り裂くと俺は周囲を見渡す。

 場所は先ほどと変わらない嘆きの平原だ。しかし、今までの嘆きの平原とは違うところが一つあった。そう、出現するアラガミの多彩さである。次々と襲いかかる接触禁忌種や感応種達……特にマルドゥークの出現が決定的だった。たしか過去の世界にはこのアラガミが出現したことはなかった。まぁ、極東なので急に湧いて出て来たという線もなきにしもあらずだが、恐らくは帰って来ているのだろう。風景も何処か年代が進んだように感じられるしね。

 

 そんなこんなで、帰ってきたという実感が湧いて出てきたため、この荒ぶる感情をその辺にいたアラガミにぶつけて発散した俺はとりあえず極東支部に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 「遠い……」

 

 神機使いの身体能力をフルに活用して何とか極東支部まで帰ってくることができた。なんだかんだいってこんな体でよかったと思う。もし、これが普通の神機使いだったら誰かが通りかかるまで待つか、何日もかけて向かうことになるからなぁ。

 

 いつものように正面から入って神機を置き、エントランスへと向かう。そういえば過去の極東は食糧事情が悲惨だったから久しぶりにムツミちゃんの料理が食べたくなってきたなぁ。

 エントランスに入ると俺は荷物整理や自室に行くことなくすぐさまラウンジへと向かった。食糧は神機使いにおいて何よりも優先されるものだとユウさんが言ってたからどこもおかしいことはない。

 久しぶりにくぐる自動ドアを超えていつもの席に座ってムツミちゃんにオムライスを頼み込む。しかし、ムツミちゃんは俺に視線を固定したまま全く動かなくなっていた。ほかの人も同様で、いつもはものすごく騒がしいラウンジがまるで水を打ったような静けさになっていた。

 

 ……ここで俺は思い出す。

 過去の極東で過ごしていた約半年とちょっと、俺は行方不明扱いだったのではないかと。多少の違いがあるものの普通に極東支部で暮らしていた俺としては気にならなかったが、事情を知らない彼らからすれば今の俺はちょっとした幽霊なんじゃなかろうか。

 

 ようやくこの状態がやばいことに気づいた俺はたった今座った席を立ち自室に逃げ込もうと踵を翻すが、

 

 「逃がすなー!!」

 

 エリナの叫び声で、ラウンジにいた全員が過去最高速度で俺の体を拘束しに来た。その速度はハンニバル神速種も目じゃないくらいの速さである。

 

 「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!わが友よ!!心配したのだぞ!?この半年間何をしていたんだぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 「そうですよ!いったいどこに行っていたんですか!?新人研修に行ったっきり帰ってこないって言われて……ぐすっ、しん、ぱい……したんだからぁ……!」

 

 「うわぁあああああん!!よかったです!仁慈さんが帰ってきてくれてよ゛がっだですぅぅうううう!!」

 

 「この、仁慈コノヤロー!心配かけさせやがって……!」

 

 うわ、なにこれ、罪悪感がやばい。ムツミちゃんやエリナはもちろんのこと普段ならうっとおしさしか感じないエミールとハルさんでも罪悪感がパない。失踪のことに関しては思いっきり不可抗力なのだが、半年間も心配させたという負い目から彼らのことを引きはがせなかった。

 

 「至急!極東の全員に告ぐ、ラウンジにて仁慈を確保した!全員ラウンジに集まれ!」

 

 「えっ、ちょっ……!」

 

 ここでハルさんまさかの通信を飛ばすの巻。おかげで、俺がいることは通信機をつけている全員と、ヒバリさんやフランさんにまで伝わることとなった。そして、フランさんヒバリさんに伝わるということは………

 

 『業務連絡、業務連絡。ブラッド隊隊長樫原仁慈が帰還しました。ただいまラウンジにて拘束しているそうです。関係者の方は急いで向かって、今まで心配かけた分のストレスをぶつけてください。繰り返します―――――』

 

 ちっくしょう、フランさんノリノリだな!?

 この放送の直後、まるで地震と間違えるかのような振動とともにラウンジに人がなだれ込んできた。そこには懐かしのブラッド隊の面々もいる。

 感動の再開と言いたいところだが、彼らの表情はどれもこれも目が笑っておらず俺はその場を逃げ出したかった。だが、先ほども言った通り拘束されて逃げられない状態なので…………………

 

 

 まぁ、何が言いたいのかと言えばだな、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと無茶苦茶殴られた。

 えるしってるか?人間は殴られて空を飛べるんだぜ……。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「心配したんだよっ!」

 

 「ごめんなさい」

 

 「まともに食事がのどを通りませんでした」

 

 「ごめんなさい」

 

 「おかげで支部全体がお通やムードだぜ?新人二人もものすごい責任感じててさ」

 

 「ごめんなさい」

 

 「速さが足りなかった」

 

 「知りませんよ」

 

 「満足できなかった」

 

 「螺旋の木にでも潜れ」

 

 「ロミオと楽しく話せなかったぞ」

 

 「ロミオ先輩ともども死にさらせスク水」

 

 なんだこいつらは(驚愕)

 心配してくれているのは半数だけじゃないか。残りの半数はもはや現状報告と何も変わらないんだけど……。特にリヴィてめぇ後で屋上来いやゴラァ。

 

 と、くだらないやり取りをしつつ俺はしっかりと極東に帰ってきて来たことを実感した。やっぱり俺にとっての極東支部はこうでないといけない。

 

 戦闘キチが居て、スピードジャンキーがいて、おでんパン狂いがいて、ゴルゴもどきのスナイパーがいて、ニット帽が居て、空気の読めないスク水がいる。これこそが俺にとっての極東支部なのだ。

 なので、たとえ半数が心配を表に出していなくとも、心配をかけてしまったのだからこちらが謝るのが筋といえよう。

 

 

 今の今までやらされていた正座を解いて立ち上がると、皆に一度頭を下げてからできるだけ笑顔で口を開いた。

 

 

 「心配かけてすみませんでした。それと……ただいま」

 

 『おかえりっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――ついでの話。

 

 

 ブラッドにただいまと言って解放された後、俺は食べそこなったオムライスを食べるために再びラウンジに来ていた。俺が座ると隣には極東に出没する謎の神機使い、キグルミが腰を下ろした。

 こいつの正体は本当にわからない。前に頭を脱がしたら中から新しい頭が出てきてそれ以来正体を探るのをあきらめた存在である。そんなキグルミは継ぎ接ぎだらけの顔をしばらくこちらに向けていたが、唐突に、

 

 「久しぶり、だな」

 

 「キャアァァァァアシャベッタッァァッァアァァアア!!」

 

 話し出した。

 おかげで俺は某バーガーのCMの子供たちの用叫んでしまった。そんな俺の様子にキグルミは嬉しそうに頭を揺らす。そして、自らキグルミの頭に手をかけてそれを取り外した。

 急に自身の正体を明かすような行動に困惑しながらも、俺が見たものは……

 

 「…………マジ?」

 

 「久しぶりだなー。仁慈」

 

 過去にタイムスリップしてしまった俺が助け出した、元特異点にして純粋なアラガミ少女、シオだった。

 

 「なんで?」

 

 「ふっふっふ……どうやら無事に帰ってこれたようだなー。よかったよかった。これで正式に過去と未来は一本の道筋になった」

 

 「…………………………まさか」

 

 「実は………ずっとスタンバってました」

 

 誰か俺に説明してよ……。

 急展開に続く超展開にキャパオーバー気味の俺の頭脳。もう知恵熱かなんかで湯気が見えるレベル。

 

 「教えてあげようー」

 

 

 そこでシオが語ったことは信じられないことの連続だった。

 なんでも彼女は、俺が過去で消えた後キグルミとしてずっと極東にいたそうだ。なんでも、俺が消えたことにより地球からの遅すぎる修正力が働いて、記憶だけでも取っ払ってしまったらしい。大きな事実を変えることはできないが、小さな事象と記憶だけは正しい形にしたと。サカキ博士とヨハネス支部長はそのことを察知して急遽このキグルミというアルダノーヴァの技術を利用したスーツを作って彼女に着せたらしい。

 なぜ着せたかというのは定かではないがなんでも製作者いわく彼女だけでも記憶の修正を回避するためだそうだ。シオの記憶が万が一消されたら再び特異点として活動しまう危険性がある………というのはほとんど嘘で、本当は未来に戻った俺を驚かせるためにわざわざ作ったんだと。くだらねぇ。

 

 で、俺の部分の記憶だけをきれいさっぱり消されたが、今俺が過去から帰ってきたことで消えてきた記憶も復旧されることとなったらしい。正確に言えば過去が確定したからだろうか。俺が過去に行くことこそが正史と認められたらそうなるはずだとサカキ博士は言っていたそうだ。なんてざるな。そんなんだから二回も終末捕食を防がれるのではなかろうか。地球よ。

 

 

 「多分そろそろ、皆来ると思うぞ」

 

 シオがそう言った直後、ウィーンと背後の自動ドアが開く音が聞こえる。そちらの方に振り返ってみれば、見慣れた姿の彼らがいた。しかし、その浮かべている表情は過去に見てきたものと同じものだった。

 

 「まさか、君が未来人だったとはね。どうりで私のことを知っているわけだ」

 

 「未来人と来たか……ふっ、初めから万が一もなかったのだな」

 

 「あの強さの秘密がわかって納得したわ……いや、こっちでも大して変わらないな」

 

 「………久しぶり、というべきか?」

 

 「仁慈さん……!三年ぶりの仁慈さん……ッ!」

 

 「おひさー」

 

 「よっ」

 

 「久しぶりね」

 

 「お久しぶりです仁慈さん。あなたとはまた会いたいと思っていたんですよ」

 

 ごく普通にやってきた彼らに思わず大人だなぁと思ってしまう俺はいけない子だろうか……。そんなことを思いつつ、彼らにも言わなければならないことがあったと再び立ち上がる。

 

 「とりあえず、何も言わずに消えてしまってすみませんでした。実は成功するとは思いませんでした」

 

 「………まぁ、仕方がないですね。とっさに手紙を置いて行ったことでそれはチャラとしましょう」

 

 「ありがとうございます」

 

 よかった。

 メモ用紙とボールペン持っててマジでよかった。ありがとう、書類仕事!

 っと、感極まっている場合じゃないや。この人たちにも言っておかなきゃいけない言葉がまだ残っていた。

 

 ブラッドたちよりも短い間だったけれど、とんでもなく怪しい俺を受け入れてくれた彼らにもこの言葉を言っておかないとな。

 

 「みなさん、ただいま!」

 

 『おかえり』

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、なんだかんだあったけど、俺はまたこうして帰ってくることができたということです。

 

 

 樫原仁慈、十九歳。

 色々意味不明な人生を歩いてきましたが、今日も元気に神を喰らっています。

 

 

 アラガミたちよ、コアの貯蔵は十分か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   『おかえりください』by極東のアラガミ一同。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――もともと日本と呼ばれていて、現在では極東と呼ばれるこの地では、今日も又アラガミの悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 

 

                                                                   Fin

 

 

 

 

 

 

 

 


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