昨夜、巨大なマシュマロを食べる夢を見た。
白く柔らかいマシュマロの群れに囲まれて、また、小さい椛や穣子、フランもそこにいて。なんだよこの幸せな空間は。天国か。
幸せな気分のまま目を開けると、すぐそこにいたレティの顔が目に入る。驚きで少々声が漏れそうになったがなんとかこらえた。
ああそうか。そう言えば昨日はレティの住処で、レティに抱き枕にされて眠ったんだっけ。
レティはあどけない寝顔をさらして、俺の前ですうすうと寝息を立てている。寝相がいいのか、格好は昨日の夜と同じ、俺を抱き枕にしたままだ。一晩中冷やされたために背中の感覚がほとんどない。まぁ平気だけど。
幸せそうに眠るレティを見て、かわいいなぁと俺は思った。
俺は、自分の寝顔を見られるのは嫌いだが、人の寝顔を見るのは好きだったりする。生意気な魔理沙も、少々無礼な美鈴も、隙あらば口を開くおしゃべりな文も。寝ているときは全員静かで無害だからだ。
しかし寝顔を見るにあたって、今の俺のポジションはいいものではない。うまく説明できないが、レティに抱かれている状態というのは何か違うのだ。
例えば、輝夜の寝顔を見たときの横に添い寝しているようなポジションだとか。小町の寝顔を見たときの、上から見下ろすポジションだとか。そういったものが寝顔を見るに適した状況なのである。
なので俺はレティに抱かれているこの状態から、抜け出させてもらうことにした。誤って起こしてしまわないよう慎重に慎重に腕の中から離れていく。
やがて全身抜け出した俺は、枕元に膝を曲げて座りなおした。レティの頭をその上に乗せて、小さいけれどこれも立派な膝枕だ。
最後に尻尾を数本、ダミーの抱き枕代わりに腕元まで運んではい完成。小さい手で、ひんやりとしたレティの頭を優しく撫でる。
「……よしよし。レティに悪気が無いのは分かっているが、昨日は随分子ども扱いされたからな。これはそのお返しだ」
お返しに、レティも子どもの姿にしようかとも思ったがやめておいた。別に昨日一日レティと接して、大きいままのほうがいいなぁと認識したわけではない。小さいレティも雪ん子みたいでかわいいと思うしな。やめたのは単なる気まぐれだ。
レティをこのまま膝枕していたらまた膝が冷たくなってしまうな、と俺は思った。
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朝食後、レティと秋姉妹に見送られ、紫を懲らしめに出発する。『答えを出す程度の能力』で確認してみたところ、どうやらいま紫は守矢神社にいるようだった。
何の用事で神社にいるのかは知らないが、都合がいいなと俺は思った。それなら早いところ守矢神社に向かうとしよう。もちろん文に見つからないよう、高く飛びすぎないことへの注意は忘れない。
体が小さいから木々の間をするすると簡単に抜けられるかと思いきや、尻尾は大きいままであるため、結局は飛びにくいままという。なんという罠。
短い階段を上りきって守矢神社にたどりつくと、境内で掃除をしている早苗の姿が目に入った。霊夢と同じ肩を露出させた巫女服をまとって、せっせと竹箒を動かしている早苗。どうして幻想郷に住む巫女は冬でもそんな寒そうな格好をするのだろうと疑問はあるが、朝から感心なことである。
おそらく霊夢も今頃は、博麗神社の境内を掃除していることだろう。霊夢もそこらへんは結構マジメだから負けてないのだ。 ……って俺は誰と張り合っているんだろうね。
『………………』
『お、早苗がいるぞ。
掃除してるな。▽』
→A声をかける B声をかけない
神社を掃除している緑髪の巫女さんには話しかけてはいけない、という法則が、とある野球ゲームには存在する。なんだよその野球ゲームは、という突っ込みは今は無視。その法則に則って、俺は早苗をスルーさせてもらうことにした。
まぁ正直、法則とかは建前で、この姿を見られたくないだけなのだが。神奈子と、あと一応諏訪子なら、この姿を知っているから見られるのはギリギリオーケーかな。
「…………ふぅ」
さながらステルスゲームの主人公のように、早苗の目から逃れて神社の入り口にたどりつく。
さぁここからどうしよう。考えてみたら神社に来て神様が出迎えてくれるって普通無いよな。どうやって中にいる神奈子たちを呼び出そうか。
呼び鈴なんて都合がいいものなんてついていないし…… 別の鳴らす鈴ならあるけれど、それはお参り用の鈴であって、鳴らしたところで神様が出てくるものでもない。また、出てこないからといって、勝手に入り込むのは論外である。
「……仕方ない。おーい、神奈子ー! いないのかー!」
「あ、神奈子様ならいま来客の対応中で…… ってあれ? 貴方いつの間に……」
大声を出して中にいる神奈子を呼んでみたら、まぁ当然ながら、外にいる早苗が一番に反応する。うまく見つからないでここまで来れたのに、どうせ見つかるなら最初に声をかければよかった。なんとなく損した気分である。
「えへへ……ごめんなさい、掃除に夢中で気付かなかったみたいですね。ようこそ守矢神社へ、小さな妖怪さん。神奈子様に何か用事でしょうか?」
普段から諏訪子と一緒にいるせいか、早苗は小さい俺相手でも
本当に用があるのは神奈子ではなく紫なのだが、まぁそれでも別にいいだろう。俺がそうだと答えると、早苗は神社の入り口を開いて、大きな声で神奈子を呼び出し始めた。
「神奈子様ー! もう一人、別のお客様がいらっしゃいましたー! 神奈子様に話があるそうですよー!」
「……んー? なんだい今日は、朝から客が多いねぇ…… すぐ行くよー! んっんっ、こほん。あー、あー、あー」
建物の奥から神奈子の声が聞こえてくる。来客の前で少しでも神の威厳を保つためだろうか、一緒に発声練習の様子もだ。
そんな声が聞こえてしまっている時点で威厳もへったくれもないと思うのだが。とりあえず聞こえなかったふりをしてやってきた神奈子を出迎えよう。
「よ、神奈子」
「待たせたね…… あれ? 声は聞こえるのに姿が見当たらない……」
「……もう少し下です、神奈子様」
「……おお! ……いやぁ悪い悪い。ちっさくて視界に入らなかったよ」
建物の奥から登場して
しかしながら神奈子は自分の無礼を全く反省するそぶりも見せず、また俺の目つきにひるむこともなく、いたって普通に俺の顔を見返してきた。
「それで、私に用ってのは一体なに…… お?」
「神奈子様、この子とお知り合いなんですか? 私は初めてみる子なんですが……」
「……知り合いっていうか、アンタ真だろ? その姿を見るのはずいぶん久しぶりだけど……」
「……え!? 真さん!?」
「おー、そうだ。えらいぞ神奈子、よく分かったな」
神奈子にこの姿を見せたことは一度しかないと思うのだが、すぐに理解してくれたのは助かるな。先ほどの無礼は許すとしよう。
隣で驚いている早苗は一旦放置。世間話に突入しようとしている神奈子に、俺はさっさと本題を話す。
……しかし。
「……紫? 紫ならもう帰ったけど。元から大した用事じゃ無かったしねぇ……」
「な、マジか……」
なんでも紫が守矢神社まで来たのは、借りていたゲームを返すためだけに立ち寄ったのだそうだ。紫は既にここにはもういない。俺は神奈子の返答に、当てが外れて肩を落とす。
……なんだゲームて。そんなの幻想郷に無いだろう。紫と守矢の連中、どちらもなまじ外の世界について、いろいろ知ってるがゆえの交流である。
「同じ色を四つ以上繋げたら消える、対戦パズルゲームなんだけどね?」
「いや、なんのゲームかとか聞いてないが……」
「自分のところの式に全然勝てないからつまらないんだって」
「子どもかよ! 藍も手加減してやれよ!」
突っ込んではみたものの、そんな紫がゲームを返しに来た理由なんかどうでもいい。重要なのは紫に逃げられてしまったという事実である。
紫のヤツめ、せっかく来たのだからゆっくりしていけばいいものを。悪い予感でもしたのだろうか、なんて勘のいいヤツだろう。
「ちっ、『紫は今どこにいる』? ……永遠亭か。くそー遠い……」
念のため『答えを出す程度の能力』で確認してみたが、やはり紫はもうここにはいないようだ。入れ違いにならないよう注意していたのに…… 一瞬で移動できるスキマの能力、なんとも厄介なものである。
「……ねぇねぇ真。せっかくだし諏訪子にも顔を見せていきなよ。その姿見せたらきっと喜ぶよ?」
「……そりゃあ、これだけ尻尾があったら喜ぶだろうが、俺はあんまりこの姿を見せたくないんだが……」
「……というか見せないで帰ったら諏訪子が悲しむと思うなぁ。『また私をほったらかしにした!』ってね」
「う……」
昔のことを引き出して、神奈子は俺を引き止めてきた。俺を引き止めるくらいなら、紫を引き止めてほしかったなぁと俺は思う。そうすれば紫に逃げられでもしない限り、ここに残ることに微塵の反対もしなかったのだが。
「さ、どうする? 諏訪子を寂しがらせてまで自分の都合を優先させたいならもう止めないが」
「……少しだけ、な」
まぁ過ぎたことを気にしても仕方あるまい。それに諏訪子には一度寂しい思いをさせてしまったので、こう言われると俺は弱いのだ。
短時間であることを条件に、俺は少しだけ神社の中に邪魔をすることにした。
「この小さい子が真さん…… ありですね……」
早苗が俺を見ながら呟いているのが、なんだか少し気になった。
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「わぁい久しぶりの真の尻尾! もっふもふだよもっふもふ! いつもの十倍もふもふだー!」
予想通り、いや予想以上に、諏訪子に顔を見せたら喜ばれた。顔を見せたらというか尻尾を見せたら、か。
複雑な気持ちではあるが、喜ぶ様子を見たら俺だって喜ばしいし、小さい俺の姿よりも尻尾のほうに興味を持たれたことが嬉しかった。多分、そんな反応は初めてだったから。
案の定諏訪子はいつにも増して、俺の尻尾にまとわりついてきた。座布団に座る俺の後ろに陣取って、尻尾をソファ代わりにして座る諏訪子。ぐてー、という擬音が聞こえてきそうだ。
人を駄目にするソファでも、これほど使ったら飽きるんじゃないだろうか。なんだか完全に道具扱いされているようだが、尻尾を好き勝手いじるだけなら、俺に迷惑がかかるわけでもないので構わない。
……そう、尻尾だけならば。
「……きゃ~♪ 本当に小っちゃい真さんなんだ~! お耳がピョコピョコしててかわい~い♪」
問題なのは諏訪子というより、むしろ早苗のほうだった。居間に行くまでは大人しくしていた早苗であったが、諏訪子が俺の尻尾で遊び始めるのを見てからというもの徐々に早苗も加わってきて、今ではこうして俺を抱くようにして座っている。
尻尾は諏訪子に、本体は早苗にもてあそばれる。鬱陶しいと突き放してしまいたいところだが、早苗は美鈴とは違い人間なのだ。加減の難しいこの姿、下手をしたら怪我をさせてしまうかもしれない。
結局のところ今の俺にできることは、ただじっと我慢をするだけだった。
「あはははは! 諏訪子も早苗も、楽しそうでなによりだ!」
「……くそぅ神奈子め…… 覚えてやがれ……」
「いつも見上げている真さんが両腕に収まるなんて、なんだか不思議な感じです! ねえねえ真さん、ぎゅ~っとしてもいいですか?」
膝の上に座っている俺に、早苗がぎゅ~っとしながら尋ねてくる。なんだその確認、意味はあるのか。俺が駄目だと答えても、早苗は変わらず放そうとしない。
「前々からこんな弟が欲しいと思ってたんですよ~!」
へーそうか。俺はこんな、姿は小さいくせに生意気そうな弟は欲しくないけどな。
見た目が子どもで中身が大人の男なんていう存在、どう考えても気持ち悪い。俺がこの姿を嫌っている理由の一つである。
「名前はなんにしましょうか!
「いや真だけど……」
何を早苗は、人を新しい弟にしてくれようとしているのだろう。俺には真というとても大切な名前がある。名前を変えることは、恐らく今後も一生無い。
誕生日も、五月ではなく十月だ。真という漢字を分解したら十月二八になるからと自分でつけたものだけど。特に祝われたこともないけれど、これもこれで気に入っている。
「……へぇー、真さんって十月生まれだったんですねー。残念ながらもう過ぎて…… あ、そうだ! いいこと思いつきました!」
自分の顎の下に俺を丸め込みながら、早苗は何かを閃いたかのようにポンと手を打つ。いいことってなんだ。流れからして、誕生日でも祝ってくれるのだろうか。そんなにいい予感はしないのだが。
「十月と言えばハロウィンですよね! 真さんの誕生日を祝えませんでしたから、代わりにハロウィンでもやって祝いましょう!」
「……ハロウィンで祝うってどういうことだ。つーかハロウィンももう過ぎて……」
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃいますよ~♪」
「……俺の誕生日の代わりなのに、俺にお菓子を要求すんのか……」
やはり俺の予想通り、早苗の思いついた
おおかたハロウィンを思いついた自分の発想力と、あわよくばお菓子がもらえるかもしれない期待からそのような表情になったのだろうが…… お前が男で俺が少女だったら完全に別の意味での笑いだと
「……はぁ、全くしょうがないな……」
「(ふふふ…… 真さん、どうせお菓子など持っていないでしょう? このまま大人しく私にイタズラされちゃってください! 私の昔の洋服を着せるってのもいいですね~♪)」
「……ほれ、飴でいいか? お姉さんぶった言動をしてるみたいだが、こういうところは子どもだな……」
「……あれれ?」
俺は懐から適当に木の葉を取り出し、元に戻して適当な味を早苗に見せる。 ……メロン味でいいか、緑色だし。
おそらく幻想郷にはハロウィンの文化なんて存在しないから、俺でなければ伝わっていなかったところだ。
「(……そ、そうだ、真さんにはこれがあったんでした! ……むむ、せっかくの私の作戦が……)」
「……どうした、飴じゃ不満か?」
「い、いえ、そういうわけじゃないですが……」
「ほら、口開けろ。食わせてやる」
「……え? あ、あーん……」
メロン味の飴を包み紙から取り出して、早苗の口にポイッと投げ入れる。飴を口の中に入れるとすぐに噛み砕く輩がいるが、俺としては最後まで舐めきってほしいものだ。そのほうが長く楽しめるしな。
「(……ま、まぁ真さんにあーんしてもらったし、これはこれで結果オーライ……)」
「さて、次は俺の番だな」
「……え?」
俺の言葉に、口の中で飴を転がしていた早苗の動きが止まる。無論、次は俺が早苗に食べさせてもらう番だとかそういう意味ではない。
早苗からハロウィンだのなんだの言いだしたんだ、それなら俺もお菓子をもらわないとな。ハロウィンはそんなのじゃないよ、とかいう突っ込みは聞こえない。
「さぁ早苗、trick or treat?」
「発音いい! ……え、えーとお菓子なら……今なら飴が口の中に……」
しどろもどろになりながら辺りを見回し、苦肉の策で自分の頬を指差す早苗。それは俺があげたものだ、それを返してくるのはどうかと思う。というか、さすがに口に入れてしまったものをオーケーするヤツはいないだろう。
「……それじゃあ早苗はお菓子が無いようなので、代わりにイタズラをさせていただこう。はいドーン」
「え…… きゃー!?」
早苗の腕の中に俺がいるということは、裏を返せば早苗も俺の腕に丸め込めるすぐそばにいるということだ。俺は早苗の頭に手を伸ばすと、そのまま変化の術を掛ける。
はいできた。小さい早苗の完成だ。
俺はきょとんとしている早苗を逆に抱き寄せ、自分の小さい膝に座らせる。
「……やー、それにしても、トリックとトリートってどっちがお菓子なんだろーな」
「……いやいやいや! なに何事も無かったかのように会話を再開してるんですか! なんか体が縮んでるんですけど!?」
「そりゃあイタズラしたからに決まってんだろ。うんうん、その姿も十分かわいいぞ」
「そういう話じゃなくてですねぇ!? ……いや、かわいいと言ってもらえたのは嬉しいですけど……」
俺の膝の上で、騒いだり、大人しくなったりと忙しい早苗。小さい姿のおかげか見ていてかわいい。
しどろもどろにこれで先ほどとは立場が逆になったため、もうわけの分からない弟扱いはできないだろう。
「……ははぁなるほど、昨日からこの山で起きている幼児化異変は真の仕業だったのかい。 ……うん、この小さい早苗もかわいいねぇ」
そう言いながら神奈子がやってきて、俺と早苗の横に腰を下ろす。早苗の頭に手を伸ばし、昔を思い出しているような感じだ。
まぁ昔を思い出すといっても、変化は俺の想像による部分がほとんどなので、今の小さい早苗と昔の小さい早苗はまったく似ていないのかもしれないが。
「真さん! 元に戻してくださいよー!」
「ははは、断る」
「な、なぜぇ!? 神奈子様! 真さんにガツンと言っちゃってください!」
「……え、なんで? もう少しこのままでいいんじゃないか?」
「神奈子様まで!? うわーん諏訪子様ー! 助けてくださいー!」
俺は子どもを相手にするときは、過度に接するよりも、少し離れたところから優しく見守っているほうがいいと思っている。 ……いやまぁ、たまに酔ったときとかは調子に乗ってぎゅ~っとしてしまうことがあるけれど。とりあえずそれはさておいて。
腕から抜け出して諏訪子のところへ向かう早苗を、俺は見守ることにした。子どもというのはいつも騒がしいので見ていて飽きない。
「諏訪子様ー!」
「んー? なぁにー早苗…… ってどうしたの早苗その姿」
「真さんがー! 真さんがー!」
まるで口喧嘩で言い負かされて姉に言いつけに行く子どものように、早苗は諏訪子の胸に飛び込んでいく。姉妹と呼ぶには、早苗と諏訪子は髪の色からして似ていないが、今の姿で並んでみると本当に姉妹みたいだ。それに目元とかよく見てみると似ている気もするし。
小さい姿に変わった妹に、姉は戸惑う様子を特に見せない。諏訪子は極めて冷静に対応して、早苗の顔を見つめ返す。
「……早苗は、真に呪いでも掛けられたの?」
「うぅ、分かりませんが…… どうやったら元の姿に戻れるんでしょう……」
失礼な、呪いではなく変化の術だ。むしろ呪いとか祟りとかは諏訪子の専門分野だと思う。
「……ふむ、どうやったら元の姿に戻れるか、か…… とりあえず、呪いはキスで解けるってのが王道だよねー。ちょっと早苗、やってみようか」
「ええー…… そんなので呪いが本当に解けるんですかぁ?」
いやだから、呪いではなく変化以下略。この場合、キスで元に戻るのは諏訪子のような気がするのは俺だけだろうか。ほら、カエルみたいな帽子被ってるし。
なお、キスで元に戻ることで有名なカエルの物語だが、もともとは壁に叩きつけられた衝撃で元に戻るお話なのであしからず。
「……ええと、するならできるだけ優しく……」
「馬鹿、私とじゃなくて真としてくるんだよ」
「……? ……ええっ!?」
「原因が真なんだから当然だろ? これを機に真にアプローチしてくるんだ!」
……ん? 何やら話が変な方向に行っている気がする。そんなことをしても変化の術は解けないし、俺も解除するつもりはない。ここまで来たら、俺が元の姿に戻れるまでは、全員小さい姿のままでいてもらうつもりだ。
「……さ、さすがにそれははしたないと言いますか……」
「だいじょーぶ! 今はどっちも子どもみたいな姿だから平気だよ!」
「……神奈子、そろそろ俺は出発するよ。邪魔したな」
このまま残っていたら面倒なことになりそうな気がしたので、さっさとこの場を離れることにした。いい加減この姿から元に戻りたいし。
早苗も元に戻りたいなら、紫を捕まえればみんな元に戻れるので、立ち去るという俺の選択は何も間違ったことではない。
「……勿体ない。真は早苗にキスされてこなくていいの?」
「そりゃまぁな。でも子ども相手だし、頬くらいになら別に構わないが」
「当然口に」
「却下だな」
神奈子の
俺は首尾よく諏訪子から尻尾を回収して、出発できる準備を完成させる。早苗との話に夢中になっていたおかげか、予想よりも簡単に諏訪子から尻尾を取り上げることができた。
「……じゃ、また今度」
「ああ。 ……実は、その姿の真とちょっと闘ってみたかったんだけどねぇ……」
「そうか、俺は別に闘いたくない」
痛いのは嫌だからな、と付け加えて、俺は建物内から外に出る。諏訪子と早苗にまたなの挨拶をしていないが、それはまぁ仕方ないと言うことで。
さて、次に向かうは永遠亭。紫は一体何の用事で、そこまで足を運んだのだろうか。なんとなく永琳に用事かなと予想する。紫、友達あんまりいないし。
おそらくは、俺のやった変化の術が原因で天狗連中は混乱しているだろうから心配することは無いはずだが、妖怪の山を抜ける際は天狗たちに見つからないよう気を付けなければなと思った。
「……つまりまとめると、まず甘えるように真に抱き着いてから、早苗の頭を撫でようと真が手を伸ばしてきたところを……」
「……バランスを崩したように演出して、押し倒される形になるよう誘導するんですね。後は流れで…… う、うまくできるでしょうか……?」
「……おーい二人とも。相談するのはいいけど、真はもうさっさと帰っちゃったよ?」
「えっ? ……あっ、ほんとだ尻尾が無い!」
「か、神奈子様どうして引き止めてくれなかったんですか! 真さんがいないと、元の姿に戻れないんじゃ……」
「ああ、それは困ったねぇ。 ……とりあえず諏訪子、早苗貸して。次は私の番だから」
「うん、いいよ」
「……あっ!? も、もしかして神奈子様、わざと真さんを引き止めませんでしたね!? 私が元に戻れないように!」
「……さぁ? よいしょっと。 ……ん~、軽い」
「は、嵌められたー! 諏訪子様ー!」
「……神奈子、五分経ったら交替ね」
「諏訪子様っ!?」