東方狐答録   作:佐藤秋

110 / 156

真「前回の話の、少し後の話になる。番外編なのに続いてたのかよ、と思うかもしれないが、続きを思い付いてしまったのだから仕方がない。今後もこういうことがあるかもしれないが、あまり気にしないでくれると助かる。では、どうぞ」




第百十話 ウミガメのスープ

 ~博麗神社~

 

真「……ああそう言えば、さっき『秘めました』のゲームをしたあと思ったんだが……」

 

霊夢「……」ゴロゴロ

 

魔理沙「……」ジタバタ

 

紫「……」スピー

 

藍「……面白いくらい誰も真の呟きを聞いてないな」

 

真「こいつら……誰が膝を貸してやっていると思ってる。人の膝の上で自由すぎるだろ……」

 

藍「……まぁ、私でよければ話し相手くらいにはなるが」

 

真「ああ、じゃあ頼む」

 

魔理沙「……あー? ゲームの後に真は何を思ったって?」

 

真「じゃあ魔理沙も聞け。いやな、『秘めました』はさっきやった通り、『はい』と『いいえ』の質問を繰り返して、何を秘めたのかを当てるゲームだったわけだが……」

 

魔理沙「ああ、なかなか面白かったぜ」

 

真「それで、『秘めました』と似たようなゲームが、もう一つあったなーと思ってな」

 

藍「ほう」

 

魔理沙「……なんだそんな話か。悪いがあまり興味が無いぜ。今は頭を休ませるときなんだ」

 

真「そうか。まぁやろうと誘っているわけでもないし、無理に聞けとは言わないが……」

 

藍「……私は聞こう。それはいったいどのようなゲームなんだ?」

 

真「(藍…… 相変わらず聞き上手だな。そう聞いてくれると俺も気持ちよく話すことができる)」

 

藍「似たようなゲームということは、それも『はい』『いいえ』で答える質問をするようなものだと予想できるが…… それで新たな遊び方ができるというのは、ちょっと思いつかないな」

 

真「……ふふ、そんな感じの単純なルールだが、こちらもやってみると奥が深いぞ。『ウミガメのスープ』って名前のゲームだ」

 

藍「……ウミガメのスープ? こちらもまたゲームとは思えないような名称だな。しかも全くと言っていいほどルールが想像できないぞ」

 

真「ははは、確かに」

 

霊夢「(……魔理沙と同じく、『秘めました』と似たようなゲームの説明なんてスルーしようと思ってたけど……)」

 

魔理沙「(……タイトルで内容が予想できないと、ちょっとだけどんなゲームなのか気になるぜ……)」

 

紫「(……はっ、寝てた…… 今なんの話をしてるのかしら……?)」

 

真「どうして『ウミガメのスープ』なんていうゲーム名かというとだな、一番有名な問題がウミガメのスープに関するものだからなんだ。ちなみにウミガメってのは、外の世界の、海に住んでいる動物な」

 

藍「ああ、知ってるよ」

 

魔理沙「(知らない…… まぁ亀なら知ってるし、似たようなものだろ)」

 

霊夢「(……知らないけど、なぜだか"玄爺"って名前が思い浮かんできたわ)」

 

藍「それでどういう問題なんだ?」

 

真「うむ、確か……」

 

 

 ~第1問~

 

真「『ある男が、海の見える崖の近くの料理店で、ウミガメのスープを注文した』」

 

藍「ふむふむ……」

 

霊夢「(どうしてそんな危ないところにお店を建てたのかしら……)」

 

真「『男は出てきたウミガメのスープを一口飲むと、給仕を呼んで[これは本当にウミガメのスープですか?]と尋ねた』」

 

魔理沙「(いやそれは疑うなよ……)」

 

紫「(なになに? なんの問題なの?)」

 

真「『給仕が[はい、これはウミガメのスープに間違いございません]と答えると、男は店を飛び出して、崖から海に飛び込み自殺した』」

 

藍「え、それはまた急な……」

 

霊夢・魔理沙・紫「「「ええええええ!!?」」」

 

藍「!」

 

真「うわ、びっくりした!」

 

藍「紫様、いつの間に起きて……」

 

霊夢「え!? なんで急に死んじゃったの!?」

 

魔理沙「話が急転直下過ぎるだろ!」

 

紫「いったいなにが起きたわけ!?」

 

真「……なんだお前ら、聞いてたのか? 起きたならそろそろ膝の上からどいてくれ」

 

魔理沙「ちょ、そんなのどうでもいいだろ、問題の続き!」ガバッ

 

紫「そうそう! ほら、どいたわよ! ほら、霊夢も早くどく!」グイッ

 

霊夢「あぁ、真の膝……」

 

真「……じゃあ、三人に掛けた変化の術を解いてっと……」ボワン

 

紫「あ、元に戻ったわ」

 

真「それで問題の続きだが」

 

魔理沙「うんうん!」

 

真「『さて、どうして男は自殺したのでしょう?』」

 

霊夢「……は?」

 

紫「もう問題終わってるじゃない! どうして男は自殺したのかって?」

 

魔理沙「知るか! んなもんこっちが知りたいわ!」

 

霊夢「……まぁ、こじつけでよければいろいろ可能性は考えられるけど……」

 

藍「……ふむ、なるほど。ここで先ほどの『秘めました』のように質問を繰り返して、答えを推測していくゲームなわけだな?」

 

真「ああ、そういうこと」

 

魔理沙「……待て待て待て、藍お前、理解するのが早すぎる。全然意味が分からないぜ」

 

霊夢「……右に同じ」

 

真「……あー、つまりだな、これだけの問題文じゃあ、答えを出すのは実質不可能なんだ。背景もいろいろ考えられるしな」

 

霊夢「うんうん」

 

真「そこで例えば、『男はウミガメのスープを飲んだから自殺したのですか?』とか、『その店でウミガメのスープを飲んで自殺したのはその男だけですか?』といった質問を、霊夢たちが俺にする。俺は質問に『はい』『いいえ』で答えるから、それをを繰り返すことで答えを推測していくわけだ」

 

魔理沙「……ふむぅ……?」

 

紫「……ちなみにだけど、その質問の答えはなんになるの?」

 

真「どちらも『はい』だな」

 

紫「……ということは少なくとも、ウミガメのスープの中に自殺したくなるような成分が含まれていた、とかいう答えではないってことね?」

 

真「その通り。そんな西行妖みたいな効果は無いな」

 

魔理沙「……なるほど、ルールは似てるけど全然違うゲームだなこれは…… くそ、面白そうだ!」

 

真「だろう? ただこの問題文、ウミガメのスープっていうゲーム名だから例として出したが、練習としてやるにしては(いささ)か難易度が高くてな…… 初心者が自力で答えを見つけるのはかなり難しいかもしれない。答えを言ってしまおうか」

 

魔理沙「難しいと言われると、逆に絶対解いてやるって気になるぜ! 真、まだ答え言うなよ?」

 

紫「そうねぇ、魔理沙はともかく、私や藍なら答えられるんじゃないかしら。ねぇ藍?」

 

藍「そうですね…… 挑戦したくないと言ったら嘘になります」

 

霊夢「(え、私さっさと答え聞きたい……)」

 

魔理沙「霊夢! こいつらより早く答えを当ててやろうぜ!」

 

霊夢「えぇ……? 私はそれより、もっかい真の膝枕を……」ボソボソ

 

真「……じゃあ、質問していいぞ。『はい』か『いいえ』で答えられる質問だからな。あと、答えに直接関係しなさそうな問いには、『関係無い』とも答えておくから」

 

紫「なるほど。難易度が高いぶん、そこだけちょっと(ゆる)いのね」

 

魔理沙「はいはい! じゃあ私から! 『そのウリゴメのスープってのは……』」

 

霊夢「ウミガメね」

 

魔理沙「……『そこ重要か?』」

 

真「『はい』。ウミガメ以外のスープだったら話が変わるな」

 

魔理沙「質問したつもりは無かったぜ……」

 

藍「だが、地味に大切な情報な気がするな……」

 

真「別に順番に質問しなくていいぞ。関係無い質問もたくさん出るだろうし、思いついたヤツから質問すればいい」

 

紫「そうね、待つのも面倒だしそうしましょう」

 

魔理沙「そうか! じゃあ改めて、『そのウミガメのスープってのは、マズいですか?』」

 

真「『いいえ』。少なくとも、その男の口に合わなかった、なんてことはないみたいだな」

 

紫「『自殺の方法は、海に飛び込む方法でないとダメでしたか?』」

 

真「『いいえ』。拳銃とか持ってたなら、その場で頭を打ち抜いてたかもしれない」

 

霊夢「『男は、スープ以外にもその店でなにか口にしましたか?』」

 

真「『関係無い』。口にしたかもしれないし、スープしか口にしてないかもしれない」

 

魔理沙「『給仕は重要人物ですか』!」

 

真「『関係無い』。とりあえず、男と給仕は初対面ってことにしとくか」

 

藍「ふむ…… 『もしその男が別のところでウミガメのスープを口にしていたとしても、変わらず自殺してましたか?』」

 

真「『はい』。なかなかいい質問だ」

 

紫「……なるほど? つまり、『男はウミガメのスープを飲んだから自殺した?』」

 

真「『はい』」

 

魔理沙「……飲んだから自殺した? 死ぬ前の最期の食事にウミガメのスープを選んだとかかな? 『男は、ウミガメのスープを飲む以前から、ウミガメのスープを飲んだら自殺しようと思ってましたか?』」

 

真「『いいえ』。飲んだ後に自殺する気になったんだ」

 

魔理沙「……むむむ、急に死のうと思い立つってどういうことだ……」

 

藍「それほどまでの理由がウミガメのスープには隠されているということだろうな」

 

霊夢「……えーと、『男は、そのとき初めてウミガメのスープを飲んだわけ?』」

 

真「お、いい質問。『はい』」

 

魔理沙「……初めて飲んだぁ? じゃあ死ぬ前の食事に選ぶわけなかったか」

 

紫「……今のもいい質問なの?」

 

真「ああ、男がウミガメのスープを飲んだのは、そのときが間違いなく初めてだ。しかしこう言ってしまうとミスリードしてしまうかもしれないが……」

 

霊夢「……?」

 

魔理沙「じゃあ、『その男は年上ですか』!」

 

真「む? まぁ、それなりに年は上のほうだ。だから『はい』」

 

魔理沙「『その男の身長は高いですか』!」

 

真「『関係無い』」

 

魔理沙「『その男は眼鏡をかけていますか』!」

 

真「『関係無い』」

 

霊夢「……さっきから魔理沙、死んだ男を霖之助さんにしようとしてない?」

 

魔理沙「してないぜ」

 

紫「……その男に着目するのは大事かもね。『仮に別の人が、自殺した男に出されていたウミガメのスープと全く同じものを全く同じタイミングで出されたとして、その人も自殺しましたか?』」

 

真「『いいえ』。さっきも言ったが、その男はウミガメのスープを飲んだから自殺したんだ。逆に、その男以外がウミガメのスープを飲んだとしても、別に自殺はしたりしない」

 

紫「あ、そっかぁ……」

 

藍「……では、『その男は、料理店へは一人で来たのか?』」

 

真「『はい』。あまり関係は無い気もする」

 

藍「『家族や友人はいなかったのか?』」

 

真「む……『いいえ』? かな。友人くらいはいると思うぞ」

 

藍「『その男は、注文したウミガメのスープの代金を払える程度のお金は所持していたか?』」

 

真「『はい』。金が無くて困って自殺したとかではないな」

 

藍「『その男は犯罪者で、指名手配をされてた、とか?』」

 

真「『いいえ』。指名手配とかは特にされてない」

 

霊夢「……藍の質問の意図が、あまりよく分からないわね……」

 

藍「……む。いや、男の素性をもう少し詳しく知りたかったんだが……」

 

魔理沙「……そもそもその男って人間なのか? ……あ、そうだ! 『その男の正体はウミガメですか』!」

 

紫「! なるほどっ!」ソレダッ

 

真「いやなにがなるほどだ、『いいえ』だからな。共食いに絶望したんじゃないし、それだったらそもそも注文しないだろ」

 

霊夢「そりゃそうだ」

 

魔理沙「じゃあ『男の友人や家族にウミガメは』」

 

真「いねーし、だから注文しないだろって。『いいえ』」

 

魔理沙・紫「……」ショボーン

 

霊夢「(ちょっと面白い)」クスクス

 

紫「……じゃあ逆に、『ウミガメのスープのウミガメというのは、海にいるウミガメのことですか?』」

 

魔理沙「……? 紫は何を言ってんだ?」

 

真「……えー、言いたいことは分かる。店で出てきたスープは正真正銘ウミガメのスープだった。ウミガメという名前の人間などではない。『はい』」

 

魔理沙「あ、そゆことね」

 

霊夢「……そんな答えだったらモヤッとにもほどがあるわ」

 

魔理沙「はは、確かにな」

 

真「……しかし、ある意味では結構いいセン行ってるという」

 

魔理沙「え、マジで?」

 

霊夢「うそっ!?」

 

藍「ふむ……?」

 

紫「えぇ……?」

 

魔理沙「……まぁ、そこのところを考えても分からんないから質問に戻るぜ?」

 

紫「あ、いいわよ」

 

魔理沙「じゃあ……『男はウミガメのスープが好物でしたか?』」

 

真「……お? ええと、『はい』かな。好物と言ってしまうと語弊がありそうだが、もう一度食べたいとは思っていたようだ」

 

霊夢「……え、もう一度? でもさっき……」

 

藍「……待て真。その男は、ウミガメのスープを飲んだのは今回が初めてだと言ったな?」

 

霊夢「そうそう! 私もそこに引っかかったわ!」

 

真「ああ、言った」

 

藍「……しかしもう一度食べたいと思ったということは……」

 

真「うんうん」

 

藍「……『男にとっては、ウミガメのスープを飲むのは初めてではなかった?』」

 

真「その通り! 『はい』」

 

霊夢「え、どゆこと?」

 

藍「……つまり、『男が今までウミガメのスープだと思って飲んでいたものは、実は別のものだった?』」

 

真「『はい』」

 

霊夢「あ、なるほど……」

 

魔理沙「……分かったぁ! 『男は今まで飲んできたのがウミガメのスープじゃないことを、今回の店で初めて知って、それで自殺したんだ』!」

 

霊夢「! それだ!」

 

真「……まぁ、『はい』なんだが、もうちょっと具体的に答えて欲しいところだな。それじゃあまだ、自殺した理由が不明瞭な気がする」

 

藍「……確かに、それで自殺すると言うのは納得ができないな」

 

霊夢・魔理沙「「……そっかぁ」」ショボーン

 

紫「今までウミガメのスープだと思っていたものがなんだったのか…… それが重要になってきそうね」

 

真「……よし、それじゃあ、ウミガメのスープだと思っていたものの正体がなんなのかが分かることが終了条件だ。あとちょっとだな」

 

魔理沙「ふむ……質問はまだ出してもいいんだよな?」

 

真「ああ」

 

魔理沙「なら…… 『そのスープは、自分以外の誰かが作ったものですか?』」

 

真「……えー、"そのスープ"ってのは男が今まで飲んできたほうのスープのことだな?」

 

魔理沙「そうそう」

 

真「それなら『はい』。自分で作ったならウミガメのスープじゃないって分かるだろうし」

 

魔理沙「あ、それもそうだな」

 

霊夢「……えーと、『そのスープも、今回みたいな料理店で飲んだものだったの?』」

 

真「『いいえ』」

 

霊夢「『じゃあ自分の家?』」

 

真「『いいえ』」

 

霊夢「『海の近く?』」

 

真「まぁ『はい』。でも海の近くというか……」

 

紫「……『海の上で、ってこと?』」

 

真「『はい』、その通り」

 

霊夢「……?」

 

魔理沙「なんでわざわざ海の上で食べるんだよ? 立ったまま食べるのは行儀が悪いぜ」

 

紫「いや、海の上でって、水面に立ってたって意味じゃなくて……」

 

藍「……より正確に言うならば、『船の上で、ということだろう?』」

 

真「『はい』」

 

霊夢「……舟、ねぇ……?」

 

藍「……霊夢たちは本物の海を見たことがないから想像できないかもしれないが、海というのは本当に巨大な水溜まりなんだ。海の向こうにある島に行くのは、飛んでいくにしても数日かかる場合もある。普通の人間はそもそも飛ぶことも容易にはできないし…… だから船を使って移動するんだ。おそらくは霊夢が想像している舟よりも、ずっと大きくて立派な船でな」

 

霊夢「……ふむ、なるほど…… 何日もかかるから、船で食事をしないといけないってことね?」

 

魔理沙「……海って広いんだなー」

 

藍「となると…… そうか、分かってきたぞ? 『その男がウミガメのスープを以前飲んだことがある、とは、船の上での一回きりのことなんだな?』」

 

真「『はい』。確かに男は船の上で、ウミガメのスープと言われて別のものを食べたことが、たった一回だけあったんだ」

 

藍「ということは、『その船は……』」

 

紫「待って藍! 私も分かったわ! 『ズバリその船は遭難していた! でしょ?』」

 

真「『はい』」

 

紫「やったぁ!」

 

真「まぁ、遭難というか漂流というか……どっちでもいいか」

 

魔理沙「えぇ……? 遭難……?」

 

真「……どうやら藍と紫は分かったみたいだな。霊夢と魔理沙はどうだ?」

 

霊夢「……? 分かんない」フルフル

 

魔理沙「そもそも、船が遭難するってどういうことなんだぜ?」

 

紫「あのねぇ…… 船で海を渡るとき、まっすぐ行けば陸地に着けるわ。当然ね、船ってそういうものですもの」

 

魔理沙「うんうん」

 

紫「……でも嵐などで天気が荒れて、まっすぐ進むことができなかったら? 周りが水ばかりで目印の無い海で、船がどの辺にあるのかも分からない。適当な方向に進んでみても、何日経とうが陸地が一向に見えてこない。これが船での遭難ね」

 

魔理沙「……こ、怖~っ!」

 

真「(……なるほど、海をよく知らないこいつらにとっては、その程度の説明がちょうどいいのかもしれないな。実際は、岩にぶつかるとかで船が壊れたりだと思うけど)」

 

霊夢「……ま、待ってよ。何日もずっと船の上って、それだったらウミガメのスープとか以前に、食べるものなんて無くなっちゃうんじゃ……」

 

魔理沙「……み、水はたくさんあるし大丈夫だろ…… それに海には、魚だってたくさんいるって話……」

 

紫「ちなみに、海の水を飲むと人間はお腹を壊すわ。魚も、道具も無しに簡単に取ることは不可能よ」

 

魔理沙「げっ!? じゃあマズいじゃん!」

 

紫「そう、マズいのよ。食べ物が手に入らない状況だと、当然餓死者は出るでしょうね。そんな中で、男がウミガメのスープだと言われて口にしたスープはなんだったかというと……」

 

霊夢「……ま、まさか……」

 

魔理沙「……『そ、その餓死した人間だった…… とか……?』」

 

紫「……そう私は予想したわ。藍もそうでしょ?」

 

藍「ええ、そうです。加えるなら、その餓死した人間は男の大切な人……例えば恋人といった関係だったのではないでしょうか? 年月が経ち、偶然入った料理店で本物のウミガメのスープを口にして、男はすべてを悟ってしまった…… だから自殺をしたのでは、と」

 

紫「……あ、そうか。人間を食べたと知ったショックで、かと思ったけど、そっちの方がそれっぽいわね。人間を食べたくらいでショックは受けないか」

 

魔理沙「……それは妖怪である紫だけだぜ」

 

紫「……で、真、どうなのよ? これが正解?」

 

真「……『はい』、正解ー。男は、大切な人を食べてしまったショックで自殺しましたー」

 

魔理沙「うおお…… なんつー問題を出しやがる……」

 

霊夢「……ゲーム名になるほどのインパクトには十分ね……」

 

真「一応、物語をまとめるとこういうことになる。

 

『数年前、男は家族や仲間と共に船に乗っていた。

 ある日、男の乗る船が遭難してしまい、男たちは餓死寸前に。実際に餓死する者もあらわれた。男の息子もその一人だ。

 しかしその後仲間たちから、これは奇跡的に獲れたウミガメを使って作ったスープである、というスープを飲むことで、男はなんとか生還できた。

 

 数年後、男はそのときに食べたウミガメのスープの味が忘れられなくて、料理店で注文することにした。

 男はスープを口にして、初めて食べる味だと驚いた。

 それと同時に気付いてしまったのだ。男が数年前食べたというウミガメのスープは、実は息子でできたスープだということに……』

 

 以上」

 

 

 

霊夢「……はぇー……」

 

魔理沙「……紫たちはよく分かったな。なんつーか、発想が怖いわ」

 

霊夢「よね。寺子屋の子どもたちに聞かせたら、心にダメージが残るわよ」

 

藍「……」

 

紫「……恋人じゃなくて息子だったわね」

 

藍「うっ! そ、そうですね! まぁどちらも大切な人だという意味で同じですから!」

 

紫「藍は、大切な人、と聞くと恋人を思い浮かべるのね~♪ とっても素敵だと思うわ♪ 答えは息子だったけど」

 

藍「ぐふっ!」

 

霊夢「あ、藍の心にもダメージが」

 

魔理沙「あんまり藍をいじめてやるなよ」

 

真「……まぁ、こんな感じのゲームだ。難しいぶん、解けたらかなりスッキリするだろ」

 

魔理沙「……確かに」

 

霊夢「内容はともかく、納得はできたわね」

 

魔理沙「よし! つまり背景を考えるゲームなわけだな? ルールも理解できたところで、真、次の問題を出してくれ!」

 

真「はは、魔理沙は気に入ったみたいだな。お前らもまだやるのか?」

 

霊夢「……まぁ、そうね。他にやることないし」

 

紫「やるわ。藍も当然やるでしょ?」

 

藍「……は、はい。しかしウミガメのスープのように、暗い背景がある問題はあまり……」

 

霊夢「……藍もやっぱりこういう話は苦手なのね」

 

真「……まぁ、次は普通の問題だから大丈夫だ。じゃあいくぞ」

 

 

 ~第2問~

 

真「『高い皿を盗んでは、すぐに捨ててしまう男がいる。どうして男はそんなことをしているのだろう?』」

 

紫「……え、終わり?」

 

魔理沙「……問題文、短ぇ!」

 

藍「そのぶん、柔軟な想像力が必要になってくるんだな」

 

霊夢「捨てるくらいなら博麗神社に持ってきてくれればいいのに」

 

紫「捨てることが目的なのかもしれないわよ?」

 

真「……さ、そういうことは質問で聞いてくれ。もう始まってるからなんでもいいぞ?」

 

魔理沙「はい! 『男はかつて、高い皿だと言われて人間を食べたことがありますか』!」

 

霊夢「ぷっ。ちょ、魔理沙、前回の問題に引きずられてるわよ」アハハ

 

真「ねぇよ」

 

藍「……『いいえ』とすら言ってもらえなかったな」

 

魔理沙「『男は、高い皿になにか恨みでもありますか』!」

 

真「『いいえ』」

 

紫「『男は人間ですか?』」

 

真「『はい』」

 

紫「『男が女でもこの話は成立しますか?』」

 

真「『はい』。さっきのウミガメのスープと同じように、背景が同じならば性別は関係ないだろうな」

 

紫「背景……」

 

藍「……『男は、自分の意思で皿を盗んでいますか?』」

 

真「『はい』」

 

霊夢「『男は貧乏ですか?』」

 

真「んー、『はい』。少なくともお金持ちではないようだ」

 

紫「……貧乏にしたって、せっかく盗んだ高い皿を捨てちゃうんでしょ? それなら意味が無いような……」

 

真「頑張って意味を見つけだしてくれ。個人的には、ウミガメのスープより少し簡単かな」

 

藍「……なんにせよ、今は沢山質問をしなければ分からないな。できるだけ固定概念を捨てさって……」

 

霊夢「そうねぇ…… 『高いお皿は、どれくらい高いお皿なんですか?』」

 

真「はい、いいえで答えられる質問にしてくれ」

 

霊夢「あ、そうか。『1円以上はするようなお皿ですか?』」

 

真「『いいえ』。そんな高価な皿ではない」

 

魔理沙「じゃあ『5000文くらい?』」

 

真「『いいえ』、もっと安い」

 

魔理沙「『4000』!」

 

真「『いいえ』」

 

魔理沙「『3000』!」

 

真「『いいえ』。言ってしまうと、300~400文くらいかな」

 

紫「えぇ……? じゃあそんなに高くないじゃない」

 

真「それでも高い皿なんだよ」

 

霊夢「……どういうこと?」

 

魔理沙「……『高い、とは、値段が高いという意味とは異なってますか? 実はこう、縦に長い感じの皿だった的な……』」

 

霊夢「あ、それか! 地面から高いみたいな!」

 

真「えーと、その聞かれ方だと……『いいえ』、になるのか。地面から高いとかいう意味ではなく、ちゃんと値段が高いという意味だ」

 

魔理沙「……ちぇっ、そうか」

 

霊夢「(……それか! とか言っちゃったわ、恥ずかしい……)」

 

藍「……ふむ。『それは、周囲の商品と比べると値段が高い、という意味か?』」

 

真「『はい』。そういうことだな」

 

藍「やはり。問題文が"高価な皿"だと駄目だったわけか」

 

魔理沙「な~る……」

 

紫「……じゃあ、『男は、お皿ばかりが売ってあるお店から盗んだわけではないってことね?』」

 

霊夢「それだと周囲に、もっと高いお皿があるはずだもんね」

 

真「『はい』」

 

紫「つまり盗んだ場所は、『様々な物が安く売ってある雑貨屋とかになるわけね。その中で、高いお皿を盗んだ、と』」

 

真「『いいえ』」

 

紫「……あれっ? 違うの?」

 

魔理沙「ははは、紫もまだまだ甘いな。店で売ってあるものをこっそり持っていくことだけが盗みになるとは限らないんだぜ?」

 

紫「……? どういうこと?」

 

魔理沙「つまりだな……『その皿は、別に売り物でもなんでもなかった』! ただ置いてあるところから盗んだんだ!」

 

真「『はい』。高い皿とは言ったものの、値段がついてるわけではなかったんだな」

 

藍「な、なるほど…… 盗んだと聞いて、売り物だと思い込んでしまっていた……」

 

霊夢「さすが泥棒……盗みに慣れてるだけのことはあるわね」

 

魔理沙「誰が泥棒だ!」

 

紫「鏡を覗いてきたら? きっと泥棒が映ってるから」

 

魔理沙「おそらく美少女しか映らないぜ?」

 

霊夢「……」

 

藍「では……『男は、知り合いの家から皿を盗ったんですか?』」

 

真「『いいえ』」

 

霊夢「え? 知り合いの家でもお店でもないなら、いったいどこから盗んだのよ?」

 

魔理沙「そんなの、『知らないヤツの家から、だろ。適当な家に入っては、高そうな皿を盗んだんだ』」

 

真「それも『いいえ』だ」

 

魔理沙「え」

 

真「……霊夢の台詞でミスリードしたかな? 俺は、値段のついている皿ではないとは言ったが、店から盗んではいないとは言ってないぞ」

 

霊夢「え? でも、お店に置いてあるのに値段のついてないお皿って…… あ、もしかして、『料理屋さんってこと? 料理が乗ってたお皿を盗んだ』!」

 

真「『はい』。おお、グッと真実に近付いてきたぞ?」

 

霊夢「『男は一人で、食事のためにその店に訪れた?』」

 

真「『はい』。一人でってのもそうだし、食事のためってのもそうだ」

 

紫「……確認なんだけど、『男が盗んだのはお皿だけなの? 上になにか乗っている状態でお皿を盗んだわけではないわけ?』」

 

真「『はい』。男が盗むときには、皿には何も乗ってなかったな」

 

霊夢「あ……料理が目的で盗んだわけじゃなかったのね……」

 

藍「……今の真の言い方だと、盗むときには乗っていないだけで、盗む前には料理が乗っていたように聞こえるな。『盗んだ皿には、直前まで料理が乗せられていたのですか?』」

 

真「いい質問だ、答えは『はい』。確かに少し前まで料理が乗せられていた」

 

魔理沙「……でも、盗むときには乗ってなかったんだろう? なら何のために…… 『男は、皿を盗むことが目的だった?』」

 

真「む……そう聞かれてしまうと微妙だな…… 気分的には『いいえ』だが、ある意味では『はい』」

 

魔理沙「……わかんねーなー」

 

紫「じゃあ、『男はお皿を捨てることが目的でしたか?』」

 

真「そっちは確実に『いいえ』と言える」

 

紫「……なら、『捨て方には意味はあるのかしら? 例えば、そのお皿を叩き割って処分してもかまわないわけ?』」

 

真「『はい』。人にバレないよう処分できるなら方法は何でもいい」

 

藍「……やはり、目的は皿を盗む行為にある? しかし本質は別にある…… 『その、皿を盗むという行為は、特定の料理店でなければ意味が無い?』」

 

真「『はい』。条件が同じ料理店ならどこでもいいが、条件が異なるなら料理店であってもそこから皿を盗む意味はない」

 

霊夢「条件ねぇ……」

 

藍「ふむ、ということは…… もしや……」

 

真「おっ」

 

紫「……あっ! もしかして藍もう分かったの!?」

 

藍「へ? い、いえ、まだ仮説を一つ思い付いただけで……」

 

魔理沙「くっそー! また藍に先を越されたか!」

 

霊夢「藍が思い付いた仮説とか、ほぼ正解みたいなものでしょうね……」

 

真「(すげーな藍への信頼感…… やっぱ皆、藍は頭いいって思ってるんだな)」

 

紫「……で、藍、答えは?」

 

藍「ちょ、ちょっと待ってください。真、質問をもう少し……」

 

真「いいよ。どういう条件の店なのかとか、男の本当の目的が出たら終了にしようか」

 

霊夢「目的……やっぱり何かしらの意図があったのね」

 

魔理沙「藍の質問の後でいいから、どっちかは自力で思い付きたいぜ」

 

紫「それよね」

 

藍「では……『その皿の上に乗っていた料理は、男が食べたわけではなかった?』」

 

霊夢「……? でもその男は一人で来てたんじゃ……」

 

真「『いいえ』。自分が料理を食べた皿だったぞ」

 

霊夢「あ、やっぱり」

 

藍「……ふむ、ならこっちか」

 

魔理沙「どっちだ」

 

藍「『その料理を運んできた給仕は、男にとって魅力的な異性だった?』」

 

魔理沙「……?」

 

紫「……あぁっ! そうか!」

 

霊夢「……? 今の質問で、そうかってなる部分がいったいどこに……」

 

魔理沙「うえ、紫も分かったのか?」

 

紫「まぁね! ……なるほど、だからお皿を盗んだのね……」

 

藍「ええ、おそらくは……」

 

真「……何に納得したのか知らないが、藍の質問の答えは『いいえ』だからな」

 

藍・紫「……えっ」

 

霊夢「えっ」

 

魔理沙「えぇ……」

 

全員「「「「「……」」」」」

 

霊夢「……どうやら、想定していた答えと違ったみたいね」

 

藍・紫「……」

 

魔理沙「……ちなみにどういう答えを想像していたんだ?」

 

藍「いや…… 気になっている女性客もしくは女給仕が触れていたという理由で、男はその皿を欲しがったということかと……」

 

魔理沙「なんだそれ……」

 

霊夢「……それで、なんでお皿は捨てたと思ったの?」

 

藍「持ち帰ったあとに、自分は何をしているんだと冷静(けんじゃ)になったからとか……」

 

真「……藍、お前、その発想は……」

 

藍「し、真? 違うんだ、これはその……」

 

真「……」

 

藍「う……」

 

霊夢「(あ、藍が泣きそう)」

 

藍「(や、やってしまった…… こんなこと言って真に引かれてしまっ……)」

 

真「……くっ、あははははは! なるほどな! 確かにそういう答えも考えられるわけだ!」

 

藍「……え?」

 

真「持ち帰った後に冷静になったって! はははなんだそれ!」

 

藍「……あ、あまり笑うな! 自分的には結構画期的な答えだと思ったんだ!」

 

真「くくく……悪い悪い。いや、藍にもそういう発想があったんだな。そういうことを考えるのは男の方だと思うんだが……藍は男の立場でも考えることができるのか」

 

魔理沙「(おお、間違えた相手になかなかのフォローの仕方だ。この流れでこの間違え方は結構恥ずかしいもんな)」

 

紫「まったく……考えてみたらそんな答えなわけがないのよね。高いお皿である必要性が無いもの」

 

魔理沙「そして相変わらず紫は手のひら返しが早いぜ」

 

霊夢「そうか! とか言ってたのは誰だったのかしら……」

 

紫「……さっきのウミガメのスープでも恋人を食べたとか言ってたし、藍は倒錯した愛の形をしているわね」

 

魔理沙「ついには藍を変な理由で落とし始めたぞこいつ」

 

藍「わ、私はそんなことしませんから!」

 

真「(……まぁ、仮に藍が歪んだ愛の持ち主でも、こんな美人に好かれるんなら男は満更でもないと思うが……)」

 

霊夢「(……藍に直接言ってあげればいいのに。真が何を考えてるのか分からないから勘だけど)」

 

魔理沙「……それにしても、自分の好みの給仕が持ってきた皿を、盗んでまで欲しがるとはレベルが高いぜ」

 

紫「藍、レベルが高いぜですってよ」

 

藍「うぅ……」ズーン

 

真「止めんか紫」グイッ

 

紫「あんっ、真ったら強引…… なんちゃって」ウフフ

 

霊夢「……」イラッ

 

真「……問題に戻るぞ。藍は給仕を登場させたみたいだが、そもそもこの店に給仕は登場しないんだよなぁ」

 

霊夢「……え、給仕が登場しない? それじゃあ料理は誰が運んで……」

 

魔理沙「……となると、自分で料理を取りに行ったとか? しかしそんな店は……」

 

霊夢「自分で料理を……? あっ! 私分かった!」

 

魔理沙「なにっ!? ……ああ! そういうことか! 私も分かったぜ!」

 

紫「……えっえっ? 真に抱き寄せられてる間に、なんか二人が分かってる? 話を聞いてなかったわ!」

 

藍「わ、私はノーマルのはず…… 聞いたことがあるだけで、しようと思ったことは一度も……」ブツブツ

 

霊夢「……藍も聞いてないみたいね。おーい、戻ってきなさーい」ユサユサ

 

藍「……はっ」

 

魔理沙「つまりだな……『その店は、客が自分で料理の乗っている皿を取るタイプの店で、最後にその取った皿を見て店側は会計をするわけだ』!」

 

霊夢「『料理によっては高いお皿もあるんでしょうね…… 男は高いお皿を盗むことで、会計を安く誤魔化していたのよ! 別に欲しくて盗ったわけじゃないから、持ち帰ったお皿はすぐに捨てちゃってたわけね。でしょ?』」

 

真「『はい』、せいかーい。どんな店かも、男の目的も、完璧だ」

 

霊夢・魔理沙「「やったー!!」」パシーン

 

紫「……お皿を見てお会計? それってまさか……」

 

真「……よーし解説するぞー。今の問題はこんな感じの背景だ。

 

『その店は、いろんな料理が乗った小皿が回っていて、客は好きな料理だけを食べることができる店。バイキングではない。外の世界で言うところの回転寿司だ。

 男は人目を盗んで、自分のカバンの中に高い皿を放り込む。そして何食わぬ顔で店員を呼び、男は代金を誤魔化しているのだ。

 盗んだ皿をすぐ捨ててしまうのは当然だろう。その皿は、欲しくて盗んだものではないのだから。』

 

 以上」

 

 

 

紫「……あー、やっぱり、回転寿司のことだったのね……」

 

藍「……とても筋が通った答えですね…… なぜ思いつかなかったんでしょう、聞いてしまえば単純なのに」

 

紫「えてしてクイズとはそういうものよ」

 

魔理沙「……よっしゃ! 藍と紫に勝てたから気持ちいいな!」

 

霊夢「ふふっ、そうね」

 

紫「……よく分かったわねぇ二人とも。回転寿司の知識も無いのに」

 

霊夢「……私はあれね、宴会のときに幽々子の周りに積み上がってるお皿を数えて、何枚あるからお店だといくらぐらいだなって思ったことがあったからかしら」

 

真「……ああ確かに、同じ皿が積み上げられてるあの光景は回転寿司に似てるかも…… っつーか、ウミガメのスープの問題も今の問題も、外の世界を知らない霊夢と魔理沙には適していない問題だったな。失敗した」

 

魔理沙「ふふ、まぁ私は分かったけどな!」ドヤァ

 

霊夢「分かったのは私が先だけど……」

 

魔理沙「……ほとんど同時だったからどうでもいいだろ。それとも次の問題でシロクロつけてやろうか?」

 

霊夢「そんなこと言って勝てるのかしらー?」

 

藍「……まだやるのか? そろそろ夕食の時間に近くなっていると思うんだが」

 

紫「……ご飯の問題が続いたせいか、お腹が空いてきた気がするわね……」グゥ

 

霊夢「(……最初のほうの問題は、むしろ食欲を無くすような問題だったと思うんだけど)」

 

魔理沙「じゃあ藍は、夕飯の準備を始めていいぜ」

 

藍「そうさせてもらおう。紫様、向こう(迷い家)のほうで支度して、できたら橙と萃香殿を連れて戻ってきますね」

 

紫「ええ、お願い」

 

藍「では」スッ

 

霊夢「(……なんで萃香は向こう(迷い家)に行ってるの?)」ヒソヒソ

 

真「(なんでも藍に頼まれて、橙に稽古をつけるため、だそうだ)」ヒソヒソ

 

魔理沙「……で、真も、藍の準備が終わる前には答えが出るような、いい感じの問題を出してくれ」

 

真「……無茶言うなぁ。まぁ一応努力はするけど…… そうだな、次は外の世界を知らなくても分かるような問題にしようか」

 

魔理沙「よぉし、来い!」

 

 

 ~第三問~

 

真「『男が森の中で散歩していたときのことだ。突然どこからか、[やめろ! 撃つな!]という声が聞こえてきた』」

 

魔理沙「おお早速、なにやら事件の予感だぜ」

 

霊夢「……どうでもいいけど、登場人物は毎回男ばっかりね……」

 

真「『男は何事だろうとそこに行ってみると、そこには二人の人物がいた。そのうちの一人はぐったりとうなだれている』」

 

紫「……あら、普通に撃たれちゃったのかしら」

 

真「『男は残りの一人にお前の仕業かと尋ねてみたが、なんとそいつは自分の仕業ではないと言う。さて、いったい何が起きていたんだろうか?』」

 

紫「ふむ……」

 

魔理沙「ほう……」

 

霊夢「えっと……」

 

真「……さ、質問どうぞ」

 

紫「……そうねぇ」

 

魔理沙「……じゃあまずは、『そいつは嘘を吐いていましたか?』」

 

真「『いいえ』。そいつは本当のことを言っている」

 

霊夢「……まぁ、そうじゃないと問題にならないわよね」

 

紫「……というか、登場人物が三人いるから質問しにくいわ。それぞれ、散歩していた男、容疑者の男、撃たれた男、と呼ぶことにしましょう」

 

真「あ、確かに。それぞれ名前を付けておくべきだったかもな」

 

魔理沙「容疑者の男ってのは『自分じゃない』って言ってたヤツだな? 了解だぜ」

 

霊夢「そうね、そうしましょ」

 

真「……まぁ、お前らが呼びやすいならそれでいいが」

 

紫「じゃあ改めて……『撃たれた男は死んだんですか?』」

 

真「『いいえ』。どうやら気絶していただけのようだ」

 

紫「『撃たれた男の体に銃痕は残ってましたか?』」

 

真「『いいえ』」

 

霊夢「……そう言えば、問題文では声が聞こえたからその方向に行ったみたいだけど、『銃声は聞こえなかったのかしら?』」

 

真「『はい』。散歩していた男にとっては声以外は聞こえていない」

 

紫「……『消音器(サイレンサー)でもつけてたとか?』」

 

魔理沙「さいれんさーって?」

 

紫「銃の発砲音を抑える装置よ」

 

真「『いいえ』。霊夢や魔理沙が知らないような道具は、多分この問題には登場しないと思う」

 

霊夢「……じゃあ、『銃を前にした恐怖で気絶してしまった、とか』。これならある意味、容疑者の男は危害を加えていないわよ」

 

真「それも『いいえ』」

 

魔理沙「『ゴム弾』!」

 

真「『いいえ』」

 

魔理沙「『空気砲』!」

 

真「『いいえ』」

 

魔理沙「むぅ…… 銃を使ったんじゃないのかなぁ……」

 

紫「……そもそもだけど、容疑者の男は何もしてないって言ってるし、その言葉に嘘は無いのよね? じゃあどうして撃たれた男は気絶したのかしら?」

 

霊夢「……うーん、撃たれたからだと思うんだけど、誰から撃たれたのか分からないわね……」

 

魔理沙「ふむ……『この話に、男三人以外の人物は登場しますか?』」

 

真「『いいえ』。近くにいたのは三人だけだ」

 

紫「三人だけ…… 容疑者の男が撃ってないんだったら……」

 

霊夢「……それじゃあもしかして、『撃たれた男は、散歩していた男に向かって[撃つな!]と言っていた?』」

 

真「『いいえ』」

 

魔理沙「それも違うのか…… つーことは自分に言った? なんだそれ……」

 

紫「……待って! 考えてみたら、声の主が撃たれた男だったとは決まってないんじゃない? 登場人物が三人しかいないのならば、『あの言葉を言ったのは容疑者の男だった可能性もあるはずよ! どう、真?』」

 

真「ああ、『はい』だ」

 

魔理沙「あ、なるほど……」

 

真「(結構露骨な問題文だと思ったんだが、結構時間がかかったな……)」

 

魔理沙「……ということは、『撃たれた男が自分自身に向けて何か撃とうとしているのを見て、容疑者の男は[撃つな!]って声をかけたってことか?』」

 

紫「まとめるとそういうことになるわね」

 

真「まぁ、なら『はい』で」

 

霊夢「あ、じゃあもう答えは出たようなものじゃない。自分で自分に何かを撃って、容疑者の男はそれを止めるために声をあげていた。だから容疑者の男は何もしていないってことで、話の筋は全部通ってるわ」

 

魔理沙「……でも、銃は登場しないんだぜ? 被害者の男が何に撃たれたのかは分からないままだ」

 

真「……ふむ、それじゃあ、被害者の男が気絶した理由が出てきたら終了にしようか。どうして自分自身を気絶させたのか、その理由が分かれば更に良い」

 

紫「自分で自分を撃った理由かぁ……」

 

魔理沙「……『自分を傷付ける理由なんて、自分自身が許せないからに決まってるだろ』」

 

霊夢「……かっこいいわねそれ」

 

真「確かにかっこいい。でも『いいえ』な」

 

魔理沙「そんな気はしてたぜ。 ……えー、自分自身に撃った物の正体とその理由だろ? 他に何があるかな……」

 

紫「……自分自身にうった……? うつ……うつ…… 分かった! 『それって注射器じゃない!? 医療行為のために自分に薬を打ったのよ』!」

 

魔理沙「あっ、それだ!」

 

霊夢「なるほど! それで中身を間違えて……」

 

真「……あー、『いいえ』。その発想は無かったな」

 

紫「がーん! 結構いい考えだと思ったのに……!」

 

魔理沙「えぇ、注射器でもないのか……」

 

霊夢「(……どうでもいいけど、いま紫、『がーん!』って自分で言ったわね……)」

 

魔理沙「……『男たちの周りに、なにかしらの道具は落ちてなかったのか?』」

 

真「『はい』。近くに何も見当たらなかったし、服の中にも何も無かった」

 

霊夢「え、道具を使わずに何か撃ったの……?」

 

魔理沙「分かった! 『その男は能力者だったんだ』! 自分をなんかの道具で撃った後に隠したんだよ! スキマの中とかに!」

 

紫「……なんで能力の例がスキマ? 私だけの能力なんだけど」

 

霊夢「……っていうか、気絶した後にどうやって隠すのよ?」

 

真「……ふむ、撃った後に隠したのは違うけど、能力者かどうかは一応『はい』かな」

 

霊夢・紫「「えっ」」

 

魔理沙「おー! やった!」

 

霊夢「待って、能力がありということは……」

 

紫「逆だったのね! 『道具を能力で隠したんじゃなくて、撃った道具はそもそも能力で作られたものだった』!」

 

真「……んー、『はい』なんだが、道具というか……」

 

紫「! 『(たま)が能力でできたものだった』!」

 

真「『はい』、ほぼ正解」

 

紫「やった! ……でも、ほぼ?」

 

真「ああ、ほぼ。確かに能力でできた弾なんだけど、その表現だとなんか違うんだよなぁ」

 

魔理沙「(……能力でできた弾って、なんかウドンゲみたいだぜ)」

 

霊夢「……え、待って待って! 能力でできた弾とか言ってるけど、そもそもそれってスペルカードのことじゃない!?」

 

紫「!」

 

魔理沙「! ああ!」

 

霊夢「つまり、『二人は弾幕ごっこをしてたのよ』!」

 

真「『はい』。そういうことだな」

 

魔理沙「うわ、そういうことかああああ!!」

 

紫「あー…… 弾って、そっちの弾のことかぁ…… 確かに妖力や霊力でできた弾よねぇ……」

 

魔理沙「能力でできた弾って聞いてウドンゲを思い浮かべたのに、どうして弾幕ごっこを考えなかったんだ私は! ……あ、待てよ。つまり、『被害者の正体はウドンゲだった……?』」

 

霊夢「いや、性別からして違うし」

 

真「……まぁ当然、鈴仙ではないから『いいえ』なんだが、霊夢のその突っ込みはおかしいな。俺は容疑者も被害者も、男だなんて一度も言ってないぞ?」

 

霊夢「……えっ、うそ!?」

 

真「ほんと。だって弾幕ごっこは女こどもの遊びだし。だから女の子を想定していた。それも妖怪のな」

 

魔理沙「あ、ほんとだ…… そもそも人間とも言ってなかったっけ……」

 

紫「……弾幕が撃たれたものの正体だと分かると、自分に当てた理由も見えてくるわね…… 『その弾幕は、実は自分に当てるつもりは無かった?』」

 

真「『はい』。そう」

 

紫「……決まりね。『自分の弾幕に当たっての自滅だったのよ』」

 

真「『はい』、その通りー。気絶した原因と理由が分かったところで、じゃあ解説行くぞー」

 

魔理沙「弾幕ごっこが分からなかったのが悔しいぜ……」

 

真「……こほん。

 

『二人の妖怪少女は、弾幕ごっこの練習をしていた。一人が新しいスペルカードを考えたいといい、もう一人はその協力者だ。

 スペルカードには、逃げ場がちゃんと用意されていないといけない。それが弾幕ごっこのルールなわけだが、少女の一人は考えた。そんなルールでも、相手に上手くスペルカードを当てられるような策はないだろうか、と。

 

[そうだ、相手の背後からいきなり弾幕が飛んでくるスペルカードはどうだろう]

 

 そう思いつき、少女は協力者に試し撃ちしていいかを申し出る。もちろん答えはオーケーだ。

 

 ……だが、スペルカードを撃つ瞬間、協力者は気付いてしまった。相手の背後から飛んでくる弾幕は、発生者にも飛んでくるわけで……

 慌ててスペルカードの発生を中止させようと叫ぶも時すでに遅し。自分に飛んでくるなど思っていなかった少女は、自分の弾幕に被弾して、見事に気絶してしまいましたとさ』

 

 めでたしめでたし」

 

 

 

魔理沙「いやめでたくないだろ」ビシッ

 

霊夢「背後から飛んでくる弾幕…… どうやって撃てばいいんでしょうね」

 

真「うむ。実はこの少女は紫をイメージしていてな。相手の背後にスキマでも開いたんじゃないだろうか」

 

霊夢「あ、なるほど」

 

魔理沙「途中で私が言ってた、スキマを使ったって予想はある意味あってたわけだ」

 

真「だな」

 

紫「……わ、私は自分の弾幕に当たるような間抜けじゃないもん!」

 

霊夢「(……もん?)」

 

魔理沙「(真に少女って言われたせいか? また若作りし始めたぞ紫のヤツ)」

 

真「悪いな。しかしこういった問題、自分で考えるのは結構難しくて」

 

霊夢「……え、これ真が作った問題だったの?」

 

真「そうだ。だから三問目だけは、少々クオリティの低い問題だったと思う」

 

紫「普通にいい問題だったと思うけど…… でもそうね、私的には二番目の問題が一番よくできてたかな」

 

魔理沙「……私も問題を出してみたいぜ! 藍はまだ帰ってきてないし、ちょっと出してみていいか?」

 

真「え、なにか思いついたのか?」

 

魔理沙「ふふ、まぁな!」

 

真「マジかすごいな…… 俺考えるの結構大変だったのに……」

 

魔理沙「じゃあいくぜ! 最終問題だ!」

 

 

 ~最終問題~

 

魔理沙「『顔もそっくりで、誕生日も同じ。そして同じ父親と母親から生まれた二人の赤ん坊がいる。それなのにこの二人は双子ではない。さて、どういうことだ?』」

 

霊夢「双子じゃない? じゃあ『その二人は三つ子ですか?』」

 

魔理沙「『はい』!」

 

真「……」

 

紫「……」

 

霊夢「……」

 

魔理沙「……」

 

紫「……え、終わり?」

 

真「(しまらねぇなぁこの終わり方……)」

 

 

 ~終わり~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。