東方狐答録   作:佐藤秋

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第二十五話 黒谷ヤマメ

 

 昨日地底に訪れた俺は、主であるさとりの厚意により彼女が住む地霊殿に泊めてもらった。藍に頼まれ地底に住む妖怪が問題を起こさないように見張るべく、今日は地底を知るためにいろいろ回っておこうと思う。

 さとりは地霊殿からは滅多に出ないとのことらしく、案内を頼むのは難しそうだ。どうやら勇儀はここらへんにいるようだし、偶然出会えたら話を聞くついでに案内も頼めないものだろうか。

 

「……おはようございます真さん。今日は朝から地底を回る予定のようですね。勇儀さんなら、ここを出てずっとまっすぐ行ったところに鬼たちが(たむろ)している場所があるので、そこで聞いてみたらどうですか?」

 

 朝から、地底をどう回ろうかと考えていると、さとりに早速提案を受ける。さとりめ、また俺の心を読んだな。自動で発動する能力であるし、迷惑でもないから問題無いが。心を読めるような相手と会話するって、漫画やゲームの登場人物にでもなった気分だ。

 

「……おはようさとり。 ……よく俺が考えていることが分かったな」

「……エスパーですから」

 

 さとりが片目を閉じつつ人差し指を立てて言ってくる。

 

「……これでいいですか?」

「ああ、満足だ。じゃあ行ってくるよ、ありがとな」

 

 朝から意外とノリのいいさとりに挨拶しつつ、俺は地霊殿を出ていった。さとりのアドバイス通り、この道を真っ直ぐ進んで行くことにする。

 

 

 

 

 地底の朝は穏やかなものだった。地面の中にある地底に朝も夜も無いようなものだが、大抵の妖怪は夜に力を増すため本能的に夜が分かるようである。

 

 人通りが少ない地底の街中を歩いていると、ふと見覚えのある二人と遭遇した。

 

「あー!」

「あれ? まさか貴方……真?」

「おお、ぬえと水蜜じゃないか。奇遇だなこんなと「しーん!」ぐぇぇ!」

 

 昔地上で一緒に住んでいたぬえと水蜜だ。地底に行ったことは知っていたが、まさかすぐそこにいるとは思わなかった。

 ぬえは俺を見るなり抱きついてきた。ぬえの身長は俺と比べるとかなり低いので、勢いよく抱きつかれると必然的に腹に頭突きを食らう。予想だにしていなかったぬえからの攻撃に、俺は若干のダメージを受けた。

 

「真! とってもとっても久しぶり!」

「いてて……久しぶりだな二人とも。元気してたか?」

「元気してたかじゃないよ! なんで私たちをこんなところに送ったりなんかしたのよ!」

 

 腹の辺りにあるぬえの頭を撫でながら尋ねると、水蜜が俺に対して怒鳴ってきた。人懐っこく俺に寄り添うぬえとは対照的に、水蜜は随分ご立腹のようだ。

 

「なんでって……そこら辺全部手紙にしてこっそり渡しておいたと思うんだが見なかったのか?」

「それも見た上で言ってんの! 私も、一輪も、星も……みんな聖と残りたかったのに……」

「……すまん。その大切な聖たってのお願いだったからな。俺だって聖さえ良ければ人間みんな返り討ちにしてやったさ」

「……そうかもしれないけど……」

 

 水蜜の語気が弱まる。確かに水蜜たちには勝手なことをしたのかもしれないが、あのとき聖がお前らのためにとった選択なのだ。そこのところも分かってほしい。

 

「もー! 真もムラサも久しぶりに会ったのに喧嘩しないでよ! それに何も聖が死んだわけじゃないんでしょ? ならそんなに気にする必要も無いじゃん!」

「! ……そりゃあぬえにとってはそうなんでしょうね! 私たちの中で一番聖と過ごした時間が短いんだし!」

 

 ぬえの言葉に水蜜が感情をあらわにする。ぬえに悪気が合ったわけではないが、その台詞は水蜜の感情を大きく揺さぶった。

 

「ぬえなんかに私の気持ちなんて分からないよ! ぬえなんて別に……」

「はいそこまで。俺を責めるのは仕方ないが、それはただの八つ当たりだ。一度吐き出した言葉は、二度と自分の中に戻すことはできない。それ以上言うと、後で自分でも後悔するぞ」

 

 ぬえに食って掛かろうとする水蜜を制止させる。このまま放っておくと話がどんどんめんどくさくなる気がしたし、知り合いたちが喧嘩するさまを黙って見ていられるほど俺は気が長くない。

 

「! ……ごめんなさいぬえ。少し気が動転しちゃってた」

「……ううん、私もごめん。こっちに来たときの最初の反応から、ムラサがかなり辛い思いをしたってことを知ってたはずなのに……」

 

 このように自分の非をすぐに認めて謝れる二人は、実はかなりのいい子だと思う。俺なら自分に非があろうと、相手に更に大きい非があると判断した場合は絶対に謝ることはしない気がする。

 

「なぁそれより、二人がここにいるってことはあの寺の面子もこの近くにいるのか?」

「あ、うん。 ……そうだ、みんなにも会っていきなよ……って、そういえばなんで真は地底にいるの? 住むところが無いんだったら真一人くらいなら増やせる余裕くらいなら……」

「知り合いに頼まれて地底の見張りにな。それと住む場所なら大丈夫だ。さとりってやつに地霊殿ってとこに昨日から住ませてもらってる」

「え、地霊殿って……地底の主が住んでるっていうあの? おっかない妖怪だから近づく物好きはほとんどいないって言う噂の……」

「生憎新人なもので地底の噂については知らないが……俺にとってはおっかなくともなんとも無かったな」

 

 心を読まれることを嫌うのは、人も妖怪も同じようだ。おっかないと言えばおっかないが、さとりは分別をわきまえたテレパシストなので俺にとってはそう脅威でもない。

 

「ここらへんの話は歩きながらでいいか?」

「あ、そうだね。それじゃあみんながいるところに案内するよ」

「じゃあ真、行こっ」

 

 ぬえが俺の手を引いて歩き出す。躊躇なく人と手を繋げるのは少し羨ましい。子どもならではの素直な行動なのだろう。

 まぁぬえはこう見えてかなり長生きしているのだが、妖怪は落ち着いたらその姿からはあまり変わらない。さとりだってああ見えて意外と歳を取ってるのかもしれないな。ぬえに手を引かれながらそんなことを思った。

 

 

 

 

 二人に案内されて、とある家までたどり着く。家の前には二つの人影があった。片方がかなり背の小さい見た目をしている。間違いなく星とナズーリンだ。

 

「まったく……昨日ご主人は外に出ていないはずなのになんで宝塔が無くなるんだい!? 奇跡か!」

「うう……それについては私もさっぱりで……」

「二人ともただいまー。何してるの家の外で」

「ああお帰りなさい二人とも。 ……ナズほら、二人とも帰ってきたところだしもうこの辺で……」

「駄目だ。ああお帰り二人とも。私たちはまだ話があるから先に家に……って、あれ? 真じゃないか」

「えっ真?」

 

 ナズーリンと星が俺の存在に気付く。この二人に会うのも久しぶり、また星はナズーリンに怒られているのかな。相変わらず仲が良い。

 

「よ」

「うわぁ~真! 久しぶりじゃないですか! 元気そうでなによりです!」

「星も相変わらずのようだな。 ……わざわざ外で怒られてるということは、一輪が中にいるってことか」

「て、てへへ……」

 

 俺は星とナズーリンにだけ聞こえるようにボソリと呟いた。ナズーリンはフンッと鼻を鳴らして、星はというと右手を頭に当て苦笑いをしている。

 

「仲がよろしいのは大変結構だが、ちょっといいかな。地底のことについていろいろ聞きたいんだが……中に入っていいか?」

「勿論です! 積もる話もあるでしょうからみんなで集まりましょう! 早速一輪にも教えてあげないと!」

 

 そう言って星は家の中に戻っていった。星め、ナズーリンの説教から逃げたな。もともと俺も、説教はほどほどに終わらせて話を聞いてもらおうと思っていたが、ああも露骨に逃げ出されると苦笑いしか出てこない。

 

「ご主人め、逃げたな…… まぁ久しぶりに真に会えたことだし今日はこのくらいにしてあげよう。さ、真、入って入って」

 

 ナズーリンに促されて家の中に入る。相変わらず小さいのにしっかりしているなナズーリンは。

 

 一輪とも再会し、皆に一つの部屋に集まってもらう。

 先ほど水蜜とぬえに話したことも含め、まずは勝手に地底に送ったことを謝罪したあと、その後の地上での動きを説明した。

 

「……といった感じだ」

「そうか……じゃあ、私たちがここに送られて聖が封印された後の寺は、真が保護しておいてくれたんだね。ご主人を祀った祭壇とかも全部そのままかい?」

「ああ。聖が抵抗しなかったから、全部が全部あのときのままだ。聖が戻ってきてお前らが良ければすぐにでも再開できるんじゃないか?」

「そうですか……でも姐さんの封印が解けるのはまだまだ先になるのですよね?」

「えーっとだな、封印自体は恐らくもう解けてるはずだ、俺がそう仕組んだからな。だが聖は魔界で今一度修行し直してくるということを言っていた。そういう意味ではまだまだ先になるのかもしれない、と言ったところか」

「なるほど……じゃあ私たちにできることは、聖がいつ帰ってきてもいいように待っててあげることだけかぁ……」

「そうなるな」

 

 説明のほとんどは、俺が手紙に書いていたものと同じものだった。しかし実際に言葉で言われるほうが実感がわきやすいというものだ。

 

「……私としては早く戻ってきてもらいたいところなのだがね。ご主人の見張りという名目でここにいるはずなのに、この場に置いてご主人は、単なる妖怪に過ぎないのだから」

「あ、やっぱり星って元々は妖怪だったんだな」

「ちょ、ちょっとナズ! そのことは秘密に……」

「いいじゃないか、真なんだし」

「……まぁ言われてみたらそうですね」

 

 星の妖怪の話は気になるところだが、今度は俺の話を聞いてもらうことにする。

 

 水蜜たちに、地底にいる危険な妖怪などはいないか分かる範囲で尋ねてみた。

 あのときからずっと地底にいたのならば、ここの事情には遥かに詳しいはずである。

 

「そうねぇ……鬼が地底に来てから、ある程度知能のある妖怪は騒がないようになったかな。おかげでここらへん一帯は安泰だよ」

「その代わり厄介なのが知能の無い妖怪です。町から離れたところにはそういった妖怪が結構いて、たまにだけどこの町で暴れることもありますね」

「どういった妖怪がいるかは……分かりません。好き好んで知ろうとする物好きなんているんですかね?」

「あ! でも私、一匹だけ聞いたことあるよ! 土蜘蛛って妖怪なんだけど」

「ああ……唯一地上に繋がる穴のそばに住むというあの土蜘蛛か。なにやらとても危険な妖怪と聞いている」

「へぇ……その地上に繋がる穴ってのはどこにあるんだ?」

 

 ぬえの言う土蜘蛛とやらの居場所を聞いてみる。藍に頼まれたのは地底の見張りだが、その一番の目的は危険な妖怪が地上に攻めてこないようにしておくことではないだろうか。そのため地上に繋がる穴の存在と、その近くに住むという土蜘蛛という妖怪のことは知っておく必要があると判断した。

 

「そんなこと聞いて……まさかとは思うが退治しに行くんじゃないだろうね?」

「噂通りの妖怪で、可能だったらそうしたいところだが、とりあえずは見に行っておこうかな、と」

「そんな、危ないよ真! それなら私も……」

「大丈夫だ水蜜。こう言っちゃなんだが逃げる自信だけはあるんだ。その場合は一人で行ったほうが都合がいい。それに場所を教えてくれなかろうが俺は行くわけだが」

「そう……ね。でも絶対に無茶はしないで」

「分かった」

 

 水蜜が心配してくれるのは嬉しいが、さすがについて来させるわけにはいかない。ナズーリンから大まかな場所を教えてもらい、俺は一人でその方向へと向かうことにした。

 

 ……そういえば土蜘蛛って、なんかの漫画で読んだことあるんだよなぁ…… 確か『もし奴が"空腹"なら遭遇してはならない。神も仏も妖も、全部食われる。見たらただじっと過ぎ去るのを待て』だったか。

 ……なんか行きたくなくなってきたぞ。せめて土蜘蛛が空腹じゃありませんように。

 

 

 

 

「ここがその地上に繋がる穴かぁ…… 光が見えねぇや」

 

 話に聞いた地上に繋がる穴までやって来た。天井に巨大な穴が空いている。遠すぎて光が入らないのか、一応は蓋がしてあって光が入らないのかは分からないが、穴の奥には闇が広がっていた。

 

「おや。こんなところに妖怪が来るなんて珍しい。地上に用でもあるのかな?」

「ん?」

 

 誰かに横から話しかけられる。見ると金色の髪をした少女が俺のそばに立っていた。

 

「私の名前は黒谷(くろだに)ヤマメ。アンタは?」

「俺の名前は鞍馬真。別に地上に用があるわけじゃない。ここの近くに住む土蜘蛛っていう危険な妖怪がいると聞いて見に来たんだ」

「へぇ……どうしてまたそんなことを」

「この上に新しく国を作るってヤツに頼まれてな。危険な妖怪が地上に攻めてこないように調べておこうと思って。 ……そうだお嬢ちゃん、その土蜘蛛がどこら辺にいるか知らないか? 生憎この穴の近くに住んでるってことしか聞いてなくてな」

 

 どうしてこんな少女がこんなところに、とも思ったがそれはこの際気にしない。もしここら辺に住んでいるのならばと思い土蜘蛛のことを知らないか尋ねてみた。

 

「ああ知ってるよ。穴の近くっていうかその穴の中に住んでるね。穴の中に横穴を掘って、近くに巣を張って過ごしてるんだ」

「なるほど……ありがとう、早速行ってみる。もしかしたらその土蜘蛛と戦闘になるかもしれないし、お嬢ちゃんはここから離れておいたほうがいいぞ」

 

 予想以上に詳しく教えてくれた少女に礼を言う。やはりここらでは有名なのだろうか、とりあえず知れて助かった。

 

「あ、でも今行っても土蜘蛛はいないよ。外出中だから」

「そうなのか? それならここら辺で隠れて待っていれば、帰ってきたときに姿を見れるかもしれないな」

「うーん、その必要は無いんじゃないかなぁ」

「? どうしてだ?」

「だってさぁ、アンタのお探しの土蜘蛛は、今アンタの目の前にいるからね」

「…………は?」

 

 口をポカンと開けて間抜けな声が出る。ヤマメが何を言っているかよく分からない。俺の想像していた土蜘蛛とは、鬼か般若のような顔をした巨大な妖怪である。少なくとも小さい女の子だという想像は全くしていなかった。

 俺はヤマメを指差して言葉を出す。

 

「土蜘蛛?」

「土蜘蛛」

「あの噂になっている?」

「知らないけど私以外の土蜘蛛は見たことないねぇ」

「とても危険な妖怪の?」

「失礼だね。こちとら自ら妖怪を襲ったことは一度も無いよ」

「……なんだよそれ~」

 

 俺は肩を落として大きく息を吐く。柄にもなくしていた緊張の糸がほぐれて力が抜けた。

 

「言われてみたらさとりも怖いヤツだって噂も流れていたし、この可能性も十分考えられたのか……」

 

 噂などの他人が他人に対する評価を鵜呑みにはしないように心掛けてはいるものの、今回は中途半端に知識が邪魔をした。思えばあの漫画にも覚や(ぬえ)は出ていたものの、俺の知っているさとりやぬえとは似ても似つかない。

 

「……え、あんた地霊殿の主と知り合いなの? 心を読む性格の悪い妖怪だって聞いてるけど」

「……お前と同じだよ。さとりも、心を読む能力はあるけど噂とちがって優しい妖怪だった」

「……へぇ、そんなもんかい。まぁ私は優しくは無いけどね」

「……まさか、変な勘違いして怒ってるのか?」

「いや別に」

「なんだこいつ」

 

 思わず口調が悪くなる。土蜘蛛の正体も知らないでヤマメに話しかけていた自分が馬鹿みたいで恥ずかしい。

 

「くくくく、それにしても……"お嬢ちゃん"だってさ。ぷくく、アンタのお探しの相手だっつーの」

「ええい黙れ黙れ。鏡を見てみろ、どう見てもガキだろーが」

 

 ヤマメがあっはっはと笑い出す。少し悔しいから言い返しておいた。

 妖怪の、容姿と年齢が一致しないことはよく知っている。しかしやはり見た目が少女な以上、そのように接してしまうことは仕方のないことではないだろうか。

 

「……あー、笑わせてもらったよ。アンタもわざわざこんなところまでご苦労だったね。よかったらウチに来るかい? このまま帰ったんじゃあ単なる無駄足だろう?」

「……いいだろう。もう少し話も聞きたいし、場合によっちゃあ相談もあるしな」

「決まりだね。それじゃあついてきな」

 

 ヤマメが天井の穴の中まで飛んでいく。それを追って俺も飛んでいくと、途中に横穴を見つけた。どうやらここがヤマメの住処らしい。

 

 横穴の中にはいくつも部屋があり、なかなかの広さだ。ヤマメは奥の部屋に行ったと思ったら、お茶とお菓子を持って戻ってきた。

 

「で、聞きたいことってなんなのかな?」

「そうだなぁ、じゃあまずは……」

 

 適当に座り、思いつくままに尋ねていく。俺はヤマメにいろいろなことを教えてもらった。

 この穴は確かに地上に繋がっており、他に地上に繋がる穴は少なくとも近くには存在しないこと。たまに地上から妖怪が来ることはあるが、地底の妖怪が地上に行くのは見たことが無いこと。ヤマメが怖い妖怪だと噂が流れる程度には強い妖怪であることなどを聞いた。他にも地底について尋ねたが、水蜜たちから得た情報となんら変わりなかった。

 

「じゃあ最後に……これは質問じゃなくてお願いなんだが……それだけ強いなら、もし地底から地上に妖怪が出ようとしていたら止めてくれないかな。最悪俺にそのことを知らせてくれるだけでもいい」

「なんだ、その程度なら全然…… いや、タダで引き受けるのもなんだし、交換条件といこうか」

「……いいだろう。俺は何をすればいい?」

 

 さすがにタダでやってもらおうとなど都合の良いことは考えていない。俺はヤマメの交換条件とやらがなんなのか聞いてみる。

 

「そうだね、じゃあ一週間に最低一度はここに来ること。どうだい?」

「……そんなんでいいのか? それでいいならこっちも助かるが」

「いいのさ。最近話し相手がキスメとパルスィ以外にいなくてね、退屈してたのさ」

「ふーん」

「あ、来るときはお土産を持ってきてくれてもいいからね」

「……前向きに善処しよう」

 

 その程度でよければこちらも助かる。この場合の『善処する』は言葉通りの意味で、決して『やりません』という意味ではない。

 話も済んだし、予想よりも早く地底での仕事は進んでいると思う。

 

 水蜜たちに無事だったことを報告したのち、俺は地霊殿へと帰っていった。一応水蜜たちにはヤマメが危険な妖怪ではないことを説明したが、ある意味この噂は抑止力にもなる。無駄に他言しないようにお願いしておいた。

 

 地霊殿に帰りつき、温泉に入る。やはり温泉は良いものだ。

 昨日はこいしに連れられたとはいえ、さとりの入浴の邪魔をしてしまった。普通の家なら露知らず、ここの風呂は広いため誰かが入浴していても分からない。今後誰かが風呂を使うときには、誰が入ってるか分かる何かが必要だな、と思った。

 とりあえず今は『真、入浴中』という張り紙をドアの前に張り、俺は静かにお湯に浸かった。

 

 


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