東方狐答録   作:佐藤秋

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第四十二話 アリス・マーガトロイド

 

 慧音に頼まれて寺子屋まで授業をしに行く。どうしてもという緊急の用事ではなく、時折子どもたちに刺激を与えるために別の大人にこういう仕事を頼んでいるらしい。

 別に断る理由もない。少しは給料も出るというので慧音の誘いに乗ることにした。

 

 教室に入り壇上に上がる。教室全体には二十五人程度の生徒がおり、後ろの席には慧音と阿求が座っていた。

 慧音は、他の大人に授業を頼むときはいつもこうらしい。人の授業を見て自分の授業の糧にするのだ。阿求はというと、実は阿求は寺子屋に通う必要が無いほどの知識を持っている。今回は俺が授業することを慧音から聞いて、興味本意でやってきたのだという。

 

「あー、今日は慧音先生の代わりに算術の授業を教える、鞍馬真という。短い時間だがよろしくな」

 

 黒板に自分の名前を書いて生徒たちに挨拶する。なお授業の内容は特に指示をされてはいない。俺の自由にやってくれとのことなので、算術という教科も俺が決めた。慧音は主に歴史を教えているらしく、それと被らないようにという考えだ。といっても慧音は一応全教科を教えているらしいのだが。

 

「はい、じゃあ全員に紙は行き渡ったな? それは計算用紙だ、頭の中で計算できない人はそれに計算するように。では全員前を向けー」

 

 生徒たち全員に計算用紙が行き渡ったのを見て、全員の顔を上げさせた。

 俺は黒板に書いた自分の名前を消したあと、アラビア数字の『4』を四つ横に並べて書いていく。

 

「まずは軽い遊びからやってみよう。この4を四つ使って、1から9までの数字を作ってみるんだ。例えば……」

 

 俺は黒板に書いた四つの4の間に、それぞれ記号を書いていく。『4+4-4-4』という式ができあがった。

 

「こうすれば0の完成だ。こんな風に、他の数字を使わなければどんな記号でも使っていいぞ。なんとなくやることは分かったかな?」

 

 生徒たちにそう問うと、何人かの生徒がうんうんと頷く。

 

「じゃあ全員で、1から9までの数字を作ってみよう。 ……そうだな、ただ作るんじゃ面白くない。後ろにいる慧音先生と皆とで、どっちが早く全部作れるか勝負しようか」

「……ほう、いいだろう」

 

 俺は後ろにいる慧音を指差してそう言った。別に慧音と打ち合わせしたわけではない。慧音にとっても初耳の内容だ。

 

「よし、じゃあ一つでもできた者は挙手をして、前に答えを書くんだ。慧音先生が前を見ないよう阿求に見張っておいて貰おう」

「はい、分かりました」

「慧音先生はできあがったらアピールしてくれ。それまでに皆は完成させるんだぞ。勝ったら慧音先生からご褒美があるそうだ」

「え? ま、待ってそれは……」

「それじゃあ始め! 一つでもできた者から挙手するんだぞ」

 

 慧音の言葉を遮って勝負を開始する。授業の時間は限られているのだ、悠長なことはしていられない。勝負という形をとることで子どもたちの意欲を高め、賞品を出すことでやる気も出させる。少しずるいがこういう授業もいいだろう。

 

「……む。意外と難しいなこれ。3ってどうやったらできるんだ?」

「ハイ!」

「はーい!」

「まずい……」

 

 生徒たちが次々と黒板に書いていく。適当に記号を入れていけば、いくつかの数字は簡単にできる。あとは行き詰まったときに、どれほど発想を変えることができるかだ。個人的には3や5を作るのが難しかったが、難易度は個人によってまちまちだろう。

 

「作り方は一通りじゃないからなー。既に前に書かれているやつ以外にも、別の作り方を見つけたら書いていいぞー」

 

 黒板を9分割して、全員に向かってそう言っておく。数学の面白さの一つは、解き方が一通りではないことだと思う。

 元気に挙手する生徒を見ながら、少しでも楽しい授業ができたらいいなと思った。

 

 

 

 

「はいそこまで! 全部埋めることができたなー」

「うええ……まだ6と7ができなかった……」

「みんな良くやったな、慧音先生に勝利したぞ。慧音先生は答え合わせのため、もう前を見てもいいからな」

「……『4+4-4÷4』……あー、分からなかった」

 

 最後の5の欄が埋まり、この勝負は慧音の負けで終わりになった。正直慧音には分の悪すぎる勝負だったと思う、これは頭の良さというよりも、いくつものことを試してみるものだからだ。ご褒美は俺の給料から引いて出してもらうことにしよう。

 

「じゃあみんな前向いて。前に書かれた答えは全部正解だが……ここに注目してほしい」

 

 俺は7の欄にある一つの式を指差した。

 

「『44÷4-4』…… これも確かに4を四つ使って出来た式だな。こういった柔軟な発想ができるのはとてもいいことだと思う。そうだな、他にこういうのは無いが……例えば3なら、『√4+√4-4÷4』という答えも有ったりする」

 

 俺は黒板の端っこに式を書き、そういった補足説明をする。多分ルートは知らないので、軽くそこにも触れておいた。

 

「……とまぁこんなものだ。興味のある人がいたら授業の後にでも聞かせてやろう。では次に……」

 

 それではいよいよ授業を始めていく。といっても今日だけの授業なので、あまり難しいことはやらないが。

 

「ここを見てみよう。『(4+4+4)÷4』……これは3を作る式であるが、式の中に括弧が含まれているのが分かると思う。これは、括弧が無ければ乗算と除算を優先する決まりがあるためなんだが、ではなぜそういう決まりが有るか知っている人はいるか? 今日はそれについて説明しようと思う」

 

 例えばこういう問題があったとする。『りんごが3個入った袋が4袋有ります。りんごは全部で何個でしょう?』。これを求める式は『3×4』であり、『4×3』と書いてペケを貰った経験は無いだろうか。

 これは実は乗算の特徴のためそういった教え方をしているのであり、融通が利いていないわけではないのだ。ポイントは『単位』である。この場合は『個』と『袋』という単位だが、乗算の場合はこの単位が異なっても計算ができるのだ。今日はその一点において授業を進めていこうと思う。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「真さん、お疲れ様でした」

 

 授業を終えて教室を出たら、阿求が話しかけてきた。授業前には、もしかしたら授業後に質問してくる生徒が何人かいるのではないかと期待していたのだが、授業後にはもうそんな期待なんてどうでもいいと思うようになるほど疲れていた。幸いそんな殊勝な考えの生徒はいなかったのですぐに教室を出ることにしたが。

 やはりよく知らない大人()に子どもが一人で質問に来るのは勇気がいるのだろう。その代わり慧音のところに何人かの子どもが質問をしにいったように見えた。慧音の人気が伺える。

 

「ああ、意外と疲れたよ。子どもとはいえ大勢の前で話をするのは緊張するな」

「ふふ、それにしては結構様になってましたよ。授業も面白かったですし、算術は奥が深いですね」

「だろう? 本当はもっと話したかったんだがなー」

 

 阿求と話しながら、廊下の奥へと歩いていく。

 この幻想郷では、算術の重要性は少ないと思う。普段の生活では簡単な計算さえできれば困らない。だからあまりいろいろ教えても今後の役には立たないと思った。

 

「私はもう戻りますが、真さんはこの後どうするんですか?」

「んー、俺ももうここに用は無いから、一言慧音に声をかけてから…… お?」

 

 廊下の奥に、一人の人物を発見した。金色の髪をした少女であり、なんとなく人形のような雰囲気が漂っている。

 少女も俺に気づいたようだ、こっちを見ながら歩いて来た。

 

「真じゃない、どうして寺子屋なんかにいるの?」

「今日はたまたま、慧音に授業を頼まれてな。アリスはいつも来てるのか?」

 

 俺に話しかけてきた、この少女の名前はアリス・マーガトロイド。魔理沙の友達の魔法使いで、人形師でもある存在だ。フランにあげるレミリア人形を作る際、魔理沙の紹介でアリスに協力してもらったことがある。

 

「いいえ、いつも来ているわけではないわ。今日は子どもたちに人形劇を見せに来たの」

「ああ、そういえばたまに人里でそんなことやってるって言ってたな」

「ええ。真はもう帰るところ?」

「ああ、用事はもう済んだところだ。もう帰ってもいいんだが……よかったら俺もアリスの人形劇を見てもいいか?」

 

 人形師であるアリスは、たまに人里で人形劇を見せにやってくるらしい。しかし頻度はそこまで多くは無く、俺は一度も見たことが無い。

 

「別にいいけど……慧音に一言言っておいたら?」

「そうするよ。 ……阿求も一緒にどうだ?」

「いえ、私はこの後用事がありますから」

 

 阿求も誘ってみたが、やんわりと断られる。用事があるなら仕方がない。

 

「そうか、それじゃあまた今度…… あ、一人で帰れるか? 良かったら送っていくが」

「帰れますよ。真さんはアリスさんの人形劇を楽しんできてください。では」

 

 阿求を見送ったあと、教室まで踵を返す。アリスと並んで歩き教室までたどり着き、アリスが黒板側の扉から中に入るのに対して、俺は教室の後ろ側の扉から中に入った。

 

「真、お疲れ」

「お疲れ慧音。アリスの人形劇、俺も一緒に見ていいか?」

「ああ、全然構わないが……真に合う椅子があったかな」

「これでいいよ。ほっ」

 

 教室の後ろにいた慧音に許可を取り、俺もアリスの人形劇を見ることにした。阿求の座っていた椅子を、少し大きめに変化させる。

 

「えー皆。今日は約束どおり、アリスお姉さんが人形劇を見せに来てくれた。他の人の迷惑にならないよう静かに、しかし楽しんで見るように。 ……ではお願いします」

 

 慧音が前で一言注意したのち、アリスの人形劇が始まった。可愛らしい人形たちが、アリスの前に現れる。

 

 どうやら悪者にさらわれたお姫様を、勇者が助けるお話のようだ。分かりやすいストーリーであり、言葉も子どもたちに分かるよう、難しい言い回しなどは使わない。

 しかし真に目を見張るのは、人形たちの動きである。何体もいる人形が、まるで本当に生きているような動きを見せる。これを全部、アリスが一人で操っているのだというから驚きだ。

 

 この人形劇をするために、一体どれほど努力をしただろう。純粋に物語を楽しむ子どもたちとは違い、同じ教壇に立った俺だからこそ目が行く点。より良く見せようという、アリスの工夫が感じられた。

 

 

 「……こうしてこの国にはお姫様が戻り、国には平和が戻りましたとさ。めでたしめでたし」

 

 アリスが「ありがとうございました」と言うのと同時に、これまでの登場人物の人形が全員前に出てきて礼をする。三十分ほどの話が、あっという間に終わってしまった。

 子どもたちの拍手が沸きあがる。

 

「お姉さんすごーい!」

「面白かったー!」

「ふふ、ありがとね」

 

 アリスの周りに子どもたちが群がっていく。 ……む、土俵が違うとはいえ俺のときとはえらい違いだ。ああいった状況はあまり得意ではないので俺にとっては好都合だったのだが、それでも軽い嫉妬は覚えてしまう。

 

「お疲れアリス」

「真、どうだったかしら私の人形劇は」

「面白かったよ。子ども向けに作ったようだが、大人でも楽しめるようになってたと思う」

「そう? ありがとね」

 

 アリスを囲む子どもたちの外側から話しかける。アリスは子どもたちの間を縫うようにして俺の元へとやってきた。俺とアリスが二人並んでいるところに、慧音が話しかけてくる。

 

「いや、実に見事だった。二人とも今日はありがとう。後日改めて礼をさせてもらうよ」

「ああ。それはまぁ次また偶然あったときにでも」

「私もそれでいいわ」

「二人はもう帰るのか?」

 

 俺とアリスは同時に頷く。お互い用事はもう終わったので、寺子屋に長居する理由はない。

 

「そうか。じゃあ皆! 二人はもう帰られるから、見送りともう一度お礼の言葉を!」

 

 慧音がそう言うと、何人かの子どもが俺の周りにもやってきた。一人では大人しい子どもでも、友達が一緒だと生意気な口を利いてくる。

 

「真……先生! けーね先生とはどうなんだ! アリスのねーちゃんに浮気してんじゃ無いだろうな!」

「ぶっ!? お、おい大人にそういう口の利きかたは……そもそも私と真はそういう関係じゃ……」

「どうなんですか真せんせー」

「ん? はは、残念ながら慧音の言う通りだよ」

「けーね先生いいんですか二人をこのまま帰らせて。これってカケオチって言うんでしょ? カケオチさせていいの?」

「しないわよ」

「真……先生! お前どっちが本命なんだよ!」

「私この前真せんせーがもこたんと歩いてるの見たよ?」

「ぶはっ」

 

 子どもたちが次々にいろんなことを言ってくる。どれも的外れで面白いが、最後に思わず吹き出してしまった。

 妹紅のヤツ、子どもたちにもこたんなんて呼ばれてるのかよ。今度会ったら俺もそう呼んでやろう。

 

「じゃあみんなまたね、バイバイ」

「「「ばいばーい」」」

「ほ、ほらそれとお礼だ、ありがとうございました」

「「「ありがとうございましたー」」」

 

 アリスの機転により、好き勝手に話していた子どもたちが声をそろえて挨拶する。このチャンスを逃してはならない、子どもたちが大人しいこの隙に、アリスと共に寺子屋を後にした。

 

 

 

 

「ああ疲れた。最低でも向こう一ヶ月はこれを引き受けるのは遠慮したいな。 ……アリスは結構寺子屋に人形劇を見せに来るのか?」

「一年に一回あるかどうかと言ったところかしら。普段はお祭りのときとかも人里で人形劇を見せてるからね、寺子屋に呼ばれることはあまり無いの」

 

 人里の中を、アリスと並んで歩いていく。アリスは魔理沙と同様、人里では無く魔法の森に住んでいる。しかし人里では結構存在を知られていることから、それだけアリスの人形劇は完成度が高いのだろう。

 

「あ、そういえばさ、アリスに手伝ってもらったあの人形なんだけど……」

「ああ聞いたわよ、かなり喜んでもらえたみたいね。よかったじゃない」

 

 以前、アリスに手伝ってもらってフランへのプレゼントを作ったことがある。フランもレミリアも結構気に入ってくれたので、そのことをアリスに報告しようと思っていたのだが……

 

「あれ、なんでそれを知ってんだ?」

「紅魔館のメイド……咲夜に教えてもらったわ」

「咲夜が? アリスは咲夜と交流があったんだな」

「……真のおかげでこの前からね」

「俺の?」

 

 アリスの話によると、俺がフランたちにぬいぐるみを渡したその二、三日後に、咲夜がアリスを訪ねたらしい。俺にぬいぐるみについて聞いていたし、予想通りメイドとしての新しいスキルを身に付けたみたいだ。そういやウノで勝ったときにレミリアから休暇を貰ってたっけ、おそらくそのときに訪ねたのだろう。休暇を貰いながらもそれをレミリアやフランのために使うという見上げた従者魂である。

 

「たった一日だったけど、かなり筋が良かったわ。真も咲夜も飲み込みが早くて、教える立場としては楽なんだけど、やりがいがあまり無いのは残念ね」

「そんなもんか。アリスは教育者に向いてるかもな」

 

 俺にはその気持ちはあまり分からない。理解が早いに越したことはないと思うのだが、慧音も手のかかる子がいたほうがなんだかんだで嬉しいらしい。

 アリスも寺子屋で働けばいいのに。図工とか家庭とかいう教科があったら適任じゃないか? あるかどうかは知らないが。

 

「そうそう、魔理沙以外の魔法使いに久しぶりに会ったわね。魔理沙と違って常識的だったわ。あの本の量は圧巻ね」

「魔法使いって言うと、パチュリーのことか。紅魔館にも行ったんだな」

「まぁね」

 

 アリスも同じ魔法使いなので、何かと気が合う部分でもあったのだろうか。アリスに言わせると魔法使いでも同じと言うわけでないらしいが、俺にとってはどうでもいい。雑に言わせてもらえば、魔法使いも妖怪みたいなものだと思う。

 

「……で、真はどこまでついてくるの? もう人里を出るところだけど」

「ん、まぁとりあえずここまでは送ろうとは思っていた。よければ魔法の森の家の近くまで送るが」

「別にそこまでしなくても……あ」

「シャンハーイ」

「お」

 

 アリスの服の中から、一体の人形が飛び出てくる。確かアリスが自分で作った使い魔であり、少しは自我があるようだ。人形は自分で宙に浮き、俺の周りを飛び回る。

 

「ええと確かアリスの人形の……あるるかん「上海(シャンハイ)よ」そうだ上海だ。上海も久しぶり」

「シャンハーイ」

 

 俺が手を出すと、上海がその手に合わせてくる。俺にピグマリオン()()ンプレックス()()は無いが、動いてある程度の意思を示すこの人形は可愛らしい。人形が人間に近づきすぎると、不気味の谷現象という人形に対する恐怖を感じてしまうそうだが、上海は姿が程よく人形らしく可愛らしい見た目をしているので安心である。

 

「シャンハーイ」

「え? もう少し真といたいって? 貴女随分真に懐いたのね」

「シャンハーイ」

「確かに私も嫌いじゃないけど…… はいはい、分かったわよ」

 

 アリスが上海と会話している。なんで上海の言葉が分かるんだろう、さすがは上海の作り主と言うわけか。

 

「じゃあ真、折角なので送ってもらうわ。上海もそれでいいでしょ」

「シャンハーイ」

「分かった。じゃあ行くか」

 

 上海とアリスと、それぞれ並んで歩いていく。

 隣に人形をつれていて、話しかける男って端から見たらどうなんだろうか。地味に危ない人に思われたり……はっ、まさかそれを見越して上海は人里を出るときまで姿を現さなかったのだろうか。そうだとしたらかなりできる人形だ。

 

 

 

 

「それじゃあ真、ありがとね」

「シャンハーイ」

「ああ、それじゃあまた」

 

 上海とアリスを、魔法の森の家まで送り届けた。別にこの家まで用事があったわけではないので、二人が家に入るのを見届けたあと、俺は博麗神社まで帰ることにした。日はまだ高いので、飛んで帰らず歩いて帰ることにしよう。

 そもそも魔法の森では飛びにくい。森に立ち込める瘴気のせいだろうか、普通の人間では魔法の森に訪れるだけで体調が悪くなるらしい。俺にはそんなことは無いので、森の景色を楽しみながら歩くとしよう。

 

 

 

 

「……あれ、迷った?」

 

 歩いて帰っていると、なぜかまたアリスの家にたどり着いた。気を取り直してまた歩く。

 

「……いやいやいや、ありえないありえない」

 

 再びアリスの家にたどり着く。真っ直ぐ進んでいったのに、どうしてまたここに着くんだ。今度は別の方向に真っ直ぐ歩いていく。

 

「……なんでや」

 

 またまたアリスの家にたどり着く。俺はまさか方向音痴だったのか。妹紅と竹林に訪れたときや、紅魔館で自分の部屋に戻れないこともあったからもしやと思っていたが…… いやまだ認めるわけにはいかない。もう一度別の方向に歩いて……

 

「さっきからなに私の家の周りをぐるぐる回ってんのよ」

「や、やあアリス奇遇だな」

「奇遇じゃないわよ。 ……まぁ原因は分かってるわ、たまに光の妖精たちがイタズラするの。迷う人の姿を見て笑ってるのよ」

「光の妖精たち? もしかして俺が戻ってきてたのってそいつらのせいか」

「そうよ」

 

 家から出てきたアリスに説明される。なんだ、誰かの仕業だったのか、別に俺が方向音痴というわけではないんだな。それなら仕方ない、犯人が隠れて見ているなら、見つけ出してとっちめてやろう。

 

「『イタズラをしている犯人の居場所』…… あっちか、よっと」

 

 能力を使って光の妖精たちのいる場所の答えを出した。どうやら姿を消しているらしいので、対抗して俺も姿を消すことにする。

 

「(あれ? あの人間どこに行ったの?)」

「(目を離した隙にいなくなっちゃった)」

「(えー?)」

「よっと、お前かイタズラしてる妖精はー」

「きゃあ!?」

「「サ、サニー!?」」

 

 能力で見つけた妖精の一人を持ち上げて姿を現す。いきなりのことに驚いたのか、三人の妖精が姿を現した。

 

「さて、イタズラはいいがほどほどにな」

「うわー! 離してよー!」

「はい」

 

 捕まえていた妖精を掴んでいた手を離す。俺が手を放した瞬間、三人の妖精はすたこらさっさと逃げていった。

 妖精は皆イタズラ好きであるため、怒ったところで無駄だと思う。おそらくもう迷うことなく帰れると思うし、深追いするのはやめておこう。

 

「じゃあアリス、迷惑かけたな」

「え、ええ……」

 

 アリスに手を振って、改めて魔法の森を歩いていく。

 あの妖精たちも、魔法の森に住んでいるのだろうか。もしそうだとしたら今後、魔理沙の家に行ったときや霖之助の店に行ったときに会うことがあるかもしれないな。

 

 魔法の森の中を歩いていたら、髭の配管工が好きそうなキノコを発見した。そういえば魔理沙はあの髭のおっさんと、名前が一文字違うだけだなと思った。

 

 


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