今年の春は短かった。原因は当然、幽々子の起こした冬が延びる異変。冬が延びたのならば割を食うのはその次の季節の春になる。
しかし短いとは言っても春は春だ。俺たちはお花見と言う名目で十分と春を満喫した。お花見など一回もやれば十分だと思うが、幻想郷の少女たちは騒ぐことが好きらしい。花見という大義名分があるためか、三日に一回は博麗神社に集まって遅くまで宴会が行われた。
今はもう咲いた桜もなりを潜め、幻想郷は緑に包まれていた。にもかかわらず今日の夜も宴会が開かれる予定である。幹事の魔理沙は何を考えているんだろう、いくらなんでもやりすぎじゃなかろうか。今日は遠慮しようと思っても、博霊神社で行われるのだから俺も霊夢も強制参加のようなものだ。別に嫌ではないのだが。
《一日目》
夕方になり宴会のために続々と人が集まってきた。メンバーは大体いつも同じ感じで、まず俺と霊夢。博麗神社に住む二人である。
紅魔館からはレミリア、咲夜、パチュリーの三人。パチュリーが図書館から出てくるのは珍しいが、宴会にはいつも必ず来ている。意外とこういうのは好きなのだろうか。
白玉楼からは妖夢と幽々子。他に八雲一家の紫、藍、橙。幹事の魔理沙にその友達のアリスも来ている。
今日はその他に美鈴とフランもやってきた。いつもは二人とも紅魔館で留守番をしているようだが、たまには来てもいいだろう。
「しーん!」
「よ、フラン。美鈴も」
「お久しぶりです真さん」
フランが美鈴と一緒に、手を振りながらやってきた。まだ少し太陽が出ているためフランは日傘を持っている。日傘が無かったら俺に飛びついてきていたかもしれない。
「お姉さまばかりズルいわ、私も宴会に来てみたかったの!」
「はは、でもお酒を飲んで話すばっかりだから、フランにとっては退屈かもしれないぞ?」
「いいの! 私だって少しはお酒を飲めるようになったんだから! 真には私が注いであげるね!」
「そうかーありがとう。それじゃあ宴会の準備が終わるまでもう少し待ってな」
「はーい! あ、霊夢ー!」
フランは元気よく返事した後、霊夢を見つけてそっちの方に歩いていく。フランも霊夢に懐いてるようだし、今は霊夢にフランの相手をしておいてもらおう。
宴会が始まるまでもう少しある。地面を御座に変化させたり、お酒の準備もしなければ。というか、別にもう桜は咲いていないので神社の中で飲んでもいい気がするのだが。いや、やはり人数も多いので外のほうがいいのかもしれない。
神社の中を変化で広くしてもいいがそれよりかは、外の地面を変化させたほうが俺にとってはまだ楽だ。そんなことを考えながら、俺は地面に手を当てた。
「……みんないい飲みっぷりだな」
宴会が始まり、辺りを見渡してそう呟く。霊夢や魔理沙が飲んでいるのはいつもの通り、フランも咲夜にもらった飲める酒を美味しそうに飲んでいる。
「真さんは今日もほどほどですね」
お酒を飲んではしゃぐ子どもたちを見ていると、横から美鈴が話しかけてきた。紅魔館でのパーティのときは面白いように酔っていたが、今日の美鈴は顔がそんなに赤くない。
「ん、まぁな。美鈴は、今日はあんまり飲んでないみたいだな」
「ええ、まあ。神社に来てから誰かに見られてる気がして……なんだか気になって酔えないんですよねー」
「誰かに見られてる? 美鈴なら能力で感じるんじゃないのか?」
「ええ、そうなんですよ。別に誰かいるってわけじゃないんですが……この発生してる霧の一粒一粒が意思を持ってるといいますか……」
「……ほーう?」
美鈴がうんうん唸っている。美鈴の気を感じる能力は確かなものだ、その感覚に間違いは無いだろう。
「……いえ、まぁそこまで神経質になることは無いですよね。私の気のせいかもしれませんし」
「……そうだな、特に危険は無いはずだ」
「……無いはず? 真さんもしかして何か知って……」
「ちょっと気になることができた。美鈴は気にせず飲んでてくれ」
「あっ、ちょっと真さん!?」
「めいりーん」
「あ、フラン様」
美鈴の言葉に、少しだけ思い当たる節があった。思えば幻想郷にやってきて、いるはずなのに見かけていないヤツがいる。そいつの能力なら、今のこの現状と美鈴の言っていた違和感に説明がつくのだ。
俺は美鈴との話を切り上げ、誰にも見つからないよう博麗神社の屋根の上までのぼっていった。周りを見渡しても近くには誰もいなくて、あるのは漂う霧ばかり。俺はすぐそばにいる誰かにしか聞こえないような小声で、そいつに話しかけてみた。
「……いるんだろ? 萃香」
「……当ったりー。真にはもう少し早く気付いてほしかったかなー」
どこからともなく周囲の霧から、問いに対しての返事が聞こえてくる。ぼんやりと前方を見ているとその霧たちが集まって小さい人間を形作り、やがて実体が伴いだして一人の少女が現れた。
「久しぶり。やっぱり萃香の仕業だったんだな」
屋根の上に現れた少女の顔を見て、俺は納得したような表情で話しかける。現れたのは伊吹萃香。むかし妖怪の山で一緒に過ごしていた中でも、仲のよかった鬼の一人だ。
萃香は『密と疎を操る程度の能力』を持っていて、このように宴会に人を
ああ、懐かしい。出会ったころはこの能力を、宴会に人を集めることと酔っ払ったときに酒気を散らすことにしか使えないと思っていたっけ。こう見えてなかなか汎用性の高い能力である。
「やっぱりって……真はあの門番に言われて気付いたんじゃないか」
「なんだ見てたのか」
「そりゃあ見てたさ。この宴会に人を萃めたのは私なんだ、全員の動向は把握してるよ」
萃香が自慢げにそう言った。趣味は悪い気もするが確かにすごい。霧となった一つ一つに萃香の意思があるからこそできる芸当だろう。
「真は相変わらず飲まないみたいだね。久しぶりに会った今日も、私の酒を断るのかな?」
「……さすがにそれは無粋だろ。今日は飲むよ、注いでくれ」
「そう来なくっちゃ」
俺が持っているグラスを前に出すと、萃香が自分の瓢箪から酒を注ぐ。そういえばこの瓢箪、俺が萃香のために作ったやつなんだよな。未だに使ってくれているとは、あげたこっちも嬉しくなる。
萃香が俺のグラスにあふれんばかりの酒を注ぐ。乾杯なんてするつもりなんて無いのだろう、俺はこぼれそうになった酒を一口分だけ口に含んだ。
「……旨い。でもやっぱり強いな、一気に飲んだら倒れそうだ」
「ははっ、そうかい? よっと」
萃香が俺がグラスから口を離すのを見て、酒をこぼさないように俺の膝に乗ってくる。萃香は魔理沙より背が低いため、俺の膝に余裕で収まった。角がすこし邪魔だが、撫でるには丁度いい場所に頭がある。
「……真と二人っきりで飲むのは初めてだねぇ…… いつもは勇儀も一緒にいたから」
「そうだったっけか」
「そうだったよ。へへ、勇儀に会ったら自慢してやろ」
萃香が俺の胸に、頬を擦り付けてくる。勇儀に何を自慢するつもりなんだろうか。萃香はいつも酔ってるため、言動は結構適当だ。
「……なぁ、いつまで宴会を続けるつもりだ? もう花見とは呼べない時期になってるが」
グラスを持っていない空いた右手で、萃香の頭を撫でながら尋ねる。側頭部から生えている二本の角が撫でるのには邪魔だ、変化で無くしてしまいたい。
「うん? そうだねぇ……私としては、異変として退治されるか……全員が私の存在に気付いたらかな。どうも幻想郷には鬼の存在が忘れられててねぇ……」
「あー、みんな地底に行っちゃったからなぁ。で、今のところ萃香に気付いたのは俺だけか?」
「うんにゃ、真は二番目。一番は紫だよ」
萃香が俺に撫でられていることも気にせず答える。ほー、やるな紫。紫は萃香と仲良かったからか、すぐに思い当たる節でも合ったんだろう。
「あと、私が萃めたわけじゃないけど、美鈴っていう門番も多分私に気付いたね。さっきこっちを見てたから」
「おお、やっぱり実体を現したからかな」
「そうだねぇ…… あの子もなかなか強そうだ、今度闘って……」
「……ふふ、どこにいるかと思ったら、こんなところで萃香と一緒に飲んでたのね。いいわね萃香その席、変わってちょうだい?」
「お、紫」
萃香と話していたら、隣にスキマが開かれて中から紫が現れた。俺より先に萃香に気付いていた張本人。このすぐ下で飲んでいただろうにわざわざスキマを使って登場とは、なかなか横着なヤツである。
「ふふ、紫も来るか? 萃香は小さいから二人なら座れるぞ?」
「……! あら真、今日は酔ってるみたいね。それじゃあ……」
「何しに来たんだよ紫ー。いま私は真と飲んでるんだ、お呼びじゃないんだよー」
「あら手厳しい」
萃香が紫に、手をシッシッとやって追い払う。仲が良いからこそできる軽口だ。
なんで萃香と紫が仲が良いかと思ったが、いま気付いた。二人とも勝手に人のことを覗く習性がある。
「まぁいいじゃないか。紫も飲もう」
「……ですってよ、萃香」
「ちぇー、まぁいいかー。でもこの席は私だけだから」
紫がスキマから完全に出てきて、足場の悪い屋根に腰を下ろす。
この後、下にいるヤツらが俺と紫がいないことに気付くまで、三人でゆっくりと酒を飲んだ。
宴会は、異変に気付いた誰かが萃香を退治するまで続くだろう。さて、あと何回行われるのだろうか。
《二日目》
神社の屋根に上ってまた萃香と話そうと思ったが、昼間は目立つので止めておいた。ここから見える霧、あれが全部萃香だろうか。
霊夢とゆっくりしていると、神社まで咲夜が訪ねてきた。一人なのは珍しい、霊夢が出迎えて対応する。
「咲夜じゃない、何しに来たの? ……え、真に? 真ー、咲夜が真に用事だってー」
「ん? 俺か?」
霊夢に呼ばれて外に出る。霊夢は俺と入れ替わるように、神社の中に戻っていった。
「よう咲夜、用ってなんだ?」
「ご機嫌よう真様。真様は、最近ここで起こっている異変をご存じですか?」
「!」
開口一番咲夜の台詞に、少し俺は驚かされる。どうやら宴会が何度も行われることに咲夜は違和感を感じているらしい。
ここで答えを教えるのは簡単だが、それでは少しつまらない。ヒントを出して咲夜がどう動くか見ておこう。とりあえず美鈴なら分かるんじゃないかと言っておいた。
《三日目》
明日また宴会が開かれる……気がする。そう思っていたら魔理沙が宴会の誘いにやって来た。果たして魔理沙はどこまで自分の意思で行動してるのだろう。萃香が極力メンバーの違和感を無くすために、魔理沙を操っているようにも見えてきた。
実際には無意識に当日の夜に集まってしまうような作用しか無いらしい。それだけ魔理沙が宴会が好きなのだろう。皆で騒ぐのが好きなのか、それもとお酒が好きなのか、どちらにせよ幹事とはご苦労なものである。
「さて、次は紅魔館の連中に…… あっ、しまった!」
「? どうしたんだ?」
俺と霊夢に用事を伝えるだけ伝えて、箒に跨がろうとした魔理沙が何かを思い出したような顔をする。魔理沙は俺の顔を見て言ってきた。
「パチュリーの本、昨日までに返さなくちゃいけないんだったぜ……」
「あちゃー…… まぁまだ一日遅れただけだろ、なんとかなるかも……」
「頼む真! 今から一緒に行って謝ってくれ!」
魔理沙が両手を合わせてお願いしてくる。俺は魔理沙の保護者かよと言いたくはなるが、どうやら本当に反省しているみたいだ。ある意味、宴会を開きすぎた萃香のせいとも言えるので、ここはついていってやるとしよう。
「……まぁいいだろ」
「本当か!」
ぱあっと魔理沙の顔が明るくなる。普段はひねくれてて生意気な魔理沙だが、こうして素直に喜ぶ顔はとてもかわいい。
俺は魔理沙の箒と並走して、博麗神社を飛んでいった。
紅魔館の図書館に行ってパチュリーに許してもらった後、アリスが図書館にやって来た。アリスは俺を見つけて、丁度いいという表情をする。そして右手で招くような動作をし、俺一人を呼び出した。
「真、単刀直入に言うわ。貴方はこの異変について何が起きてるか知ってるわね?」
「ん……あぁ知ってるよ」
アリスもどうやら、咲夜とは別に宴会の違和感に気付いたらしい。口ぶりからして誰かの仕業だろうということまで分かっているようだ。それならもう詳しく教えてもいい気もするが、次の言葉を言おうとしたらアリスが右手を突き出して制止してきた。
「待って、答えは言わないでよ、もう少しで私も分かりそうだから。でも途中までの答え合わせをさせてちょうだい。異変の犯人はあの霧、でしょ?」
「……正解」
驚いた、アリスはもう異変の犯人について目星がついているようだ。そこまで分かっているなら、俺の言うことは何も無い。
「……そう、それだけ聞ければ満足よ。あとはこの図書館で調べようと思っていたところ。ありがとね」
「ああ」
そう言ってアリスは図書館の中に戻っていった。図書館で調べるって……萃香の資料でもあるのだろうか。
俺も図書館の中に戻る。魔理沙は次借りる本を物色しているようだ、魔理沙を待つあいだ何をしよう。
俺でも分かる魔法の本でも無いかと探していると、本棚の周りをいそいそと歩き回るこあを発見した。
「あ、真さん」
「よ」
こあが俺に気づいて近寄ってくる。 ……なんだろう、こあは少し不機嫌に見えた。
「聞いてくださいよ真さん! おととい私だけをここに残して、パチュリー様も皆もどっか行っちゃったんですよ!」
「……あー」
一昨日というと、宴会に美鈴とフランも来た日のことだ。そういえば紅魔館のメンバーの中で、こあだけ宴会に来ていなかったな。
「……それで、仲間外れにされて寂しかったと」
「……いえ、私は図書館の司書なので残されたことは別にいいんですが……もうちょっとパチュリー様に構ってほしいです!」
いやいや寂しかってるじゃないか。かわいそうだと思ったが、こうして怒るこあは少しかわいい。
「それにパチュリー様、さっき探して欲しい本があるって言ってたんですけど、要領を得なくて全く分からないんですよ…… 霧がどうとか集める力がどうとか……折角パチュリー様が頼ってくれてるのに!」
なんだこの子パチュリー大好きか、パチュリーの頼みには完璧に応えたいということか。別に使い魔だし、立派だと思うけどさ。
パチュリーも異変について調べてるのだろうか。とりあえず俺は能力を使ってこあにアドバイスをしておいた。
「よし、こあ。Dの棚の上から四番目、Cの辺りに恐らくパチュリーの探してる本があるから、それを渡してパチュリーを見返してこい」
「! 本当ですか! 取ってきますね!」
俺のアドバイスを素直に聞き、こあは本を探しに去っていった。萃香の資料は無いみたいだが、鬼のことについて書かれている本があるみたいだ。
萃香も言っていたが幻想郷では鬼はほとんど忘れられた存在らしい。鬼について書かれた本はほんの少ししか存在しなかった。
このあと魔理沙に、「まだまだ本を選ぶから先に帰っててもいいんだぜ」と言われたので、素直に博麗神社に帰ることにした。
博麗神社に帰ったらボロボロになった文がいた。文は一体何をしたんだろう。また出鱈目な新聞記事でも書いて霊夢に怒られたのだろうか。
《四日目》
今日もまた宴会が開かれる。三日に一回……それも毎回ほとんど同じ面子で。そりゃあ多いと感じるわけだ。
夜になる前に妖夢と幽々子が現れた。
「よお幽々子と妖夢。宴会にはまだ早いけどどうかしたのか?」
「え、えーとですね……幽々子さ「お夕飯を食べに来たわ」……だそうですので、台所を貸してください……」
「自分ちで食えよ」
俺は至極真っ当な突っ込みをする。
宴会での食べ物や酒は、各自で準備する者が多い。しかしそうなると妖夢の仕事が大変になるため(食べ物を持ってくるだけだが)、あらかじめ白玉楼でご飯を食べて、宴会が始まる前に幽々子のお腹を膨らませていたようだ。今日もその方法を取るものだと思っていたが……
「その……幽々子様がここで食べたいとおっしゃられまして…… 私としても真さんが以前のようなことをしていただけるなら、食費も少なくてすみますので……」
「……まぁ来たんなら仕方ないか」
もう二人は博麗神社に来てしまっている。そうなると無下には扱えない。
俺は妖夢を台所へと案内し、隣で一緒に料理を作る。包丁で野菜を切りながら、妖夢は俺に話してきた。
「……ここ最近、幽々子様の行動に脈絡が無いんですよね。やりたいことばっかりやってる気がします。本人に聞いたら、無意識の行動を防ぐためだーなんて言ってたんですけどなんのことやら…… 今日ここに来たのもそのせいです」
「……へぇ」
どうやら、妖夢はピンときていないみたいだが、幽々子は異変に気付いてるようだ。無意識に宴会に来るよう操られていることに抵抗しようとしているのだろうか。
「……あれ妖夢、顔のここんところ怪我してないか?」
「ああ……咲夜さんにいきなりやられたんですよ。幽々子様といい咲夜さんといい、わけが分かりませんよねぇ」
「……さぁ、もしかしたら妖夢の気付かないところで何か起きてるのかもしれないな」
「何か? そういえば咲夜さんが異変がどうの言ってたような……」
咲夜は妖夢に何をしたんだろう、まさか霊夢や魔理沙みたいに、異変の犯人と思しき存在を片っ端からやっつけているのではあるまいな。
少し心配になったがそれはさておき、俺が妖夢に出せるヒントはここまでだ。
さて、料理もできたみたいだし、前も行った作戦を実行しよう。俺は料理に向かって変化の術をかけた。
俺の考えた作戦はこうだ。
幽々子は亡霊になった当初も少食だったことから、あまり栄養を取ること意味はないと推測できる。ただ、食べて満足することに意味があるのだ。そこで俺は、料理に変化の術を使って巨大化、量を増やすことを実行した。
通常、料理に変化の術を使っても、お腹に入れば元に戻るため栄養的には意味がない。しかしこれだけの量を食べたんだと満足させる目的であれば、十分効果が得られるのである。
俺の作戦通り、これらの水増しされた料理でも幽々子を満足させることができた。更に満足感を出させることのポイントとしては、皿を大きくし一気に目の前に出すことによって、これだけの量を自分は食べたんだと意識させることだ。
幽々子のために作った料理ではあるが、幽々子一人が博麗神社で食べるというのも変な話なので、霊夢も加えて四人で食べた。恐らく霊夢は、食べたのにお腹が一杯にならなくて少し混乱すると思う。宴会では、また他にも作ってやるからな。
今日の宴会では特に、俺は藍と一緒に飲んでいた。
《五日目》
今日もまた妖夢が博麗神社にやってきた。また幽々子の料理を作りにやってきたのかとも思ったが、どうやら今日は違うようだ。
「あの……もしかしてこの神社、真さんと霊夢さん以外にも誰かいたりしませんか?」
「……ほう、どうしてそう思ったんだ?」
妖夢も何かに気付いたのだろうか。霊夢に聞かれない神社の外で、妖夢の話を聞いてみる。
「……幽々子様や咲夜さんのあの謎の態度…… 考えてみたら最近宴会が多すぎます。それに、気付いたのは昨日のことですが……宴会の中に知らない誰かの気配を感じました。その気配……今も微かに感じます。 ……誰ですかさっきから私たちを覗いてるのは!」
一閃、妖夢が空中に向かって剣を振るう。次の瞬間神社の周りから霧が集まり、萃香が姿を現した。
「なんだいいきなり…… 穏やかじゃないねぇ」
「!! 貴女ですか、ずっと私たちを見てたのは……」
「……あーバレちゃったか。昨日少し力を出しちゃったから、そのときの気配を覚えられたみたいだね」
「……ここ最近の人を萃める異変は貴女の仕業ですね。一体何が目的ですか」
「……異変の犯人が素直に話すと思うのかい? 私に力ずくで聞き出すんだね」
萃香が挑発するようにニヤリと笑う。 ……別に深い理由なんか無いくせに。強いて言うなら幻想郷で忘れられている鬼の存在を知らしめることなんだろうが、別に悪さをしているわけでもない。闘い好きな萃香のことだ、妖夢を闘る気にさせるための策だろう。
「……そうですね。元よりそのつもり、貴女を倒してから聞き出します」
「ふふん、アンタの強さは大体知ってるよ。私に傷をつけられるかな?」
「無論。妖怪が鍛えたこの
「『来な』!」
妖夢が刀を構えて萃香を睨む。なんだそのキメ台詞かっこいいな。
萃香が返事をすると同時に、周囲に弾幕ごっこ用の結界が展開された。それと同時に二人は宙に飛び上がる。
萃香対妖夢、妖夢が勝ったら今回の宴会異変は終了だ。さて、どっちが勝つんだろう。
まずは妖夢が萃香に向かって切りかかった。
「……いやぁ驚いた! 二日前と同じ人物とは思えないくらい手強かったね!」
「くぅ……そんなピンピンした姿で言われても嬉しくありません……」
勝負は結構長引いたが、結果は萃香の勝利だった。闘いに満足した萃香は上機嫌だが、敗れた妖夢は心身ともに憔悴している。その服、春の雪の異変で霊夢にやられたとき以上にボロボロだな。
「大丈夫か妖夢? ほいっと」
「……あぁ真さんありがとうございます……」
俺はとりあえず妖夢を地面に下ろし体を支え、変化で服を元に戻す。体の傷は自然に治るのを待とう、変化を使うと負担は減るが治るのが遅くなってしまう。
「……まぁ結果は残念だったが、そう心配することはない。萃香はただ純粋に宴会がやりたいだけだからな」
「……そうなんですか?」
「あっ真! 折角私が大物っぽい雰囲気を出してたのに…… 何バラしてんだよー」
萃香は口ではそう言うが、あまり気にしていないようだ。言葉に怒気を感じない。
「……まぁ真さんがそう言うなら、とりあえず信用することにします」
「ああ、そうしてくれ」
「……っと誰かがここに来るみたいだ。真、あとは任せた」
「あっおい」
そう言うと萃香は、また体を霧にして消えてしまった。
直後この場に魔理沙が現れた。俺の体に寄りかかっている妖夢と、それを当然のように支えている俺。少し魔理沙に変な勘違いをされたが、きちんと弁明をしておいた。
《六日目》
昨日の妖夢に引き続き、今日は魔理沙が萃香に闘いを挑んだようだ。今回も結果は萃香の勝ち。萃香は肉弾戦が得意のはずだが、弾幕ごっこも強いとはさすが鬼だ。
「そういえば、もう結構萃香の仕業ってバレてるんじゃないか? まだ気付いてないのは何人だ?」
「ん? そうだねぇ……ちびっこたちは除外するとしたら、あとは博麗の巫女だけだね」
「え……もうそんなに気付いてたのか」
萃香の回答に少し驚く。まだまだ気付いてないヤツが多いと思ったが……結構みんな勘がいいんだな。ちびっこというのは橙やフランのことだろうか。見た目だけなら萃香も同じくらいちびっこなんだが。
「……よし、もうこれだけに気付かれたんだ、明日巫女にバラして闘って、最後の宴会にしようじゃないか。最後は私も姿を現して皆と一緒に飲もうかな」
「お、そりゃいいな」
異変の後は、宴会と相場が決まっている。今回は宴会自体が異変なんだが、まぁ細かいことはどうでもいい。
霊夢には悪いが、明日の霊夢のリアクション、楽しみにしておくとしよう。