東方狐答録   作:佐藤秋

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第四十九話 萃夢想 咲夜視点

 

 少しだけ長い冬が終わって、やっと春がやってきた……のはいいんだけど、最近宴会が多すぎやしないかしら。

 ……いえ、明らかに宴会は多い。宴会の幹事は魔理沙で、しようと誘ってくるのも魔理沙だけど、私は魔理沙に誘われる前から宴会が行われる予感がなぜかしていた。

 

 ……これは明らかにおかしいわ、他に誰か違和感を抱いている人はいないのかしら。宴会の準備や片付けといった仕事をしている私だからこそ感じているのかもしれない。

 一度感じてしまうと、更に違和感が浮き出てくる。こういうのはなんだけど、あまり動かれないパチュリー様が毎回宴会に来ているというのは異常だと思う。

 

 今夜もまた宴会がある。私の他に違和感を抱いている人がいないか、それとなく調べてみようかしら。

 

 

《一日目》

 

 いつもの宴会会場である博麗神社に着くと、既に妹様と美鈴が会場に来ていた。この二人が宴会のためここに来るのは初めてだ、いつもは二人とも紅魔館でお留守番をしている。

 

 美鈴は妹様の面倒見がとても良い。妹様に限らず湖の妖精とも遊んだりしているようなので、子どもの扱いがうまいのだろう。私も昔は美鈴によくお世話してもらったことがある。

 ……まぁそれはそれ、門番の仕事を真面目にしていなかったら容赦なくとっちめるけど。今日のところは妹様も一緒だから、少し早めに門番の仕事を抜け出したことは不問にしておいてあげましょうか。

 

「咲夜ー! 私にも飲めるお酒ちょーだい! あと魔理沙の分も!」

「はい、かしこまりました」

 

 妹様に、クランベリーで割ったお酒とそこらに大量にある適当なお酒を渡す。私からお酒を受け取った妹様は、「ありがとー」と言って魔理沙の元に戻っていった。

 妹様はそんなにお酒は飲めないが、今は魔理沙と一緒なので飲むペースが早くなる可能性がある。もう少し、妹様の飲めるお酒を作っておこう。

 

「仕方ない。おーい咲夜、一緒に飲もうぜー!」

 

 ほら、私にも来た。このあと私は、魔理沙が勧めてくるお酒をほどほどにいなしつつ、魔理沙たちとお酒を嗜んだ。

 

 

 

 

 つつがなく宴会が終了して片付けの時間となる。 ……と言っても片付けるのは基本的に私の役目。妖夢や藍さんが手伝ってくれることもあるけれど、この二人は自分の主に振り回されているためあまり役には立たない。申し訳無さそうな顔をする分、霊夢や魔理沙よりはマシかもね。

 

「咲夜、いつも手伝ってもらって悪いなー」

「いえ……真様には準備をやってもらっているため片付けるくらいはやらせて下さい」

 

 真様は私と一緒に手際よく片付けてくれる。食器などを洗う手間を省くため、真様は変化で木の葉をお皿に変えているのだ。そのため効率よく片付けが進んでいく。

 本人は『楽したいからだ』と言っているけど、本当に楽がしたかったら全部私に任せているはずだろう。なんだかんだで真様も周りに気を使ってくれる人だ。

 

 そうだ、真様も私と同様宴会は準備から片付けまでを行って、お酒もあまり飲まず一歩後ろから見ている人だ。もしかしたら真様も宴会が多い異常に気付いているのかもしれない。

 

「あの……真様はこの宴会の……」

「そうかーさすがは咲夜、しっかりしてるなー。いい子だなー」

「……え? し、真様?」

 

 真様にそのことを尋ねようと思ったのだが、いきなり頭を撫でられた。少し驚いて真様の顔を見たら、少しだけ顔が赤くなっているように見える。もしかして酔ってらっしゃるのだろうか。

 

「よしよし、咲夜はいつも頑張っててえらいなー」

「……」

「……真! アンタ今日途中でどこ行ってたのよ!」

「ん? おお霊夢」

「……はっ! し、失礼します」

 

 されるがままに撫でられていたが、霊夢の声で正気に戻る。私は何をしているのだろう。少し恥ずかしくなって、片付けの作業に慌てて戻った。

 

 頭を撫でられるなんて久しぶり……でもないか、美鈴も酔ったら撫でてくる。美鈴は私が小さいころ、何かある(たび)に撫でてたし…… 酔ったときには未だに子ども扱いをしてくる。

 そういえば、今日は美鈴は静かだったわね、あまり飲んでいなかったわ。途中で何かに気付いたような顔を一瞬して遠くを見てたし、もしかしたら美鈴もこの宴会の違和感に気付いたのかもしれない。紅魔館に帰ったら聞いてみようかしら。

 そう思っていたのだけれど、妹様がずっと美鈴のそばにいたため聞く機会は訪れなかった。

 

 

 

 

《二日目》

 

「咲夜じゃない、何しに来たの?」

 

 どうせ聞くなら、答えが確実に返ってきそうな真様に聞こう。そう思って私は博麗神社にやってきた。

 神社の前に降り立ち扉を叩く。中からは霊夢が現れた。

 

「ご機嫌よう霊夢、今日は真様に話があってやって来たの。真様はいるかしら?」

「……え、真に? 真ー、咲夜が真に用事だってー」

 

 霊夢が神社の中に戻って真様を呼んでくる。余計な問答をしなくて話が早く進むから、霊夢のそういうところは好感が持てるわね。

 中に入る霊夢と入れ替わるように、真様が外へと顔を出した。

 

「よう咲夜、用ってなんだ?」

「ご機嫌よう真様。真様は、最近ここで起こっている異変をご存じですか?」

「! へぇ、咲夜も気付いたのか」

 

 単刀直入に真様に尋ねると、やはり真様は知っているようだ。真様は少し驚いてニヤリと笑った。

 

「……そうだな、ここじゃなんだし、屋根の上で話を聞こうか」

 

 神社の屋根の上に飛んでいく真様を追って私も神社の屋根に上る。なぜだろう、霊夢に内緒にする意味でも有るのだろうか。何となく真様の表情には、イタズラ心が隠れているように見えた。

 

「それで……咲夜の感じた異変について聞こうか」

「いえ……実は異変と呼べるかも分からないのですが…… 最近宴会が多いような気がして……」

「ほう、それで?」

「それで? え、えぇと……もしかしたら誰かが何か企んでるんじゃないのかなぁ……と」

「なるほどね」

 

 真様がうんうんと頷いた。この反応……私と同様に気付いたのではなく、既に答えを知っているような……

 

「確かに、咲夜の言う通りこの宴会は誰かによって萃められたものだ」

「! で、では!」

「おっと待て、そんなに慌てることはないさ。別に悪さをしようとしているわけじゃないから安心してくれて構わない」

「え、は、はい。ですがそれならどんな意図が……」

「ただ純粋に宴会が楽しみたいんじゃないかな。今年は春が短かったし」

 

 あっけらかんとした態度で真様が言う。真様は隠し事はするが悪いことはしない。紅霧異変のときも妹様のために裏でいろいろやっていた。

 

「そんな理由で…… では、その異変を起こしてるのは誰なのですか?」

「む…… まぁそれも俺は知っているが……答えを教えるのは面白くないな。異変の首謀者曰く、全員が自分の存在に気付くまで宴会を続けようって言ってた」

「は、はぁ……」

「……ま、折角俺のところに来たんだからヒントはやろう。美鈴ももうこの異変に気付いてるみたいだから、聞いてみたらどうだ?」

「美鈴が……分かりました。ところで霊夢や魔理沙はこのことは……」

「まだ気付いていないみたいだ」

「分かりました。ありがとうございます」

「おう。んじゃな」

 

 真様に礼をして、博霊神社の屋根から飛んでいく。真様の言うことは恐らく全部本当だ。それならもう異変のことは心配しないでおこう。

 霊夢と魔理沙はまだこの異変に気付いて無いらしいし、二人より早く犯人を見つけてやろうかしら。そう思った私は、美鈴に話を聞くべく紅魔館に戻っていった。

 

 

 

 

「美鈴、ちょっといいかしら」

「? どうしたんですか咲夜さん。私はちゃんと門番の仕事をしてますよ!」

 

 美鈴が大きな胸を張ってそう答えた。 ……わざとだろうか。思えば美鈴は居眠りするときも腕を組んで強調してくるし…… まぁそれは置いておこう。

 

「……別に怒りに来たんじゃないわ。美鈴は昨日の宴会が、誰の仕業か知ってるらしいじゃない」

「誰の仕業……? あぁもしかしてあの人のことですかね。それなら真さんに聞いたほうが……」

「もう聞いたわ。そしたら犯人は自分で見つけてみろって。それで美鈴に聞いてみろって言われたの」

 

 美鈴に事情を説明する。真様の言うとおり、美鈴は本当に異変に気付いていたみたいだ。私で微かに感じていた違和感なのに、昨日行った宴会だけで誰かの仕業か感じ取るなんて美鈴も意外とできるわね。

 

「はぁ……でも私に分かることは、犯人は妖気を含んだ霧……ということしか分かりませんよ?」

「妖気を含んだ霧?」

「そうです。宴会会場の周りに立ち込めていた妖霧……それがこの異変の犯人でしょう。昨夜の宴会で、その妖霧が集まって人の形になる気配を感じました」

「なるほど……そいつの普段の姿とかは分かるの?」

「そこまでは…… ただ、小さいなーと思ったのと、あまり感じたことの無い気でしたね」

「……ありがとう、覚えておくわ」

「いえいえ」

 

 美鈴から話は聞いたものの、犯人が誰なのかは未だに分からない。 ……仕方ない、美鈴から聞いた特徴を頭の隅に残しつつ、次の宴会が来たら探してみましょう。もちろんそれより早くに見つかるに越したことは無いのだけれど。

 

 もうすぐ食事の時間だからと美鈴に伝えて、私は屋敷の中に戻っていった。

 

 

 

 

《三日目》

 

 これまでのペースから考えると、恐らく明日の夜に宴会が開かれる。となると宴会のために食材の買い出しに行かなければ。

 人里へ向かって飛んでいく途中に、妖夢の姿を発見した。

 

「あ、咲夜さんこんにちは。咲夜さんも買い出しですか?」

「こんにちは妖夢。"私()"ってことは妖夢も買い出し? 珍しいわね、地上まで買い出しなんて」

「それが……幽々子様が、たまには現世の物が食べたいって言い出しまして」

 

 妖夢が頭を掻きながらそう答える。 ……妖夢の主は我儘(わがまま)そうね、お嬢様とえらい違い。

 

「そう……妖夢は大変ね。そういえば幽々子って宴会を見る限り、結構食べるみたいじゃない。従者の腕の見せどころね?」

 

 私は、料理を作るのが特に好きだ。美味しそうに食べるお嬢様たちを見ていると幸せになれる。 ……けれどお嬢様も妹様もパチュリー様も少食で、おもいっきり腕を振るう機会があまり無い。宴会で見る幽々子の食べっぷりを見るに、その食欲を少しこちらにも分けて欲しい。

 

「(……宴会前にも幽々子様はご飯を食べてるから、宴会のときには抑えているはずなんですけどね……)あ、あははそうですね」

「妖夢も食べないと大きくなれないわよ? 妖夢って結構小さいからねぇ…… ん?」

「大きなお世話で……どうかしたんですか?」

 

 なんだろう、少し頭に引っ掛かることが…… 妖夢……小さい……妖霧…… そういえば妖夢は美鈴と面識無いのよね。まさかこの子が異変の犯人……?

 

「……ねぇ妖夢、貴女なにか隠し事してない? 宴会のこととかで」

「……え?(か、隠し事!? 幽々子の食事量のことですか!?)」

 

 妖夢が何やら焦ったような素振りを見せる。 ……隠し事が無い者は普通こんな反応はしない。まさかと思ったけど……

 

「そう…… 妖夢だったのね異変の犯人は……」

「えっ? 異変?」

「……まぁこう聞いて素直に答える人は無いわよね。いいわ、私が勝ったら洗いざらい話してもらうから。『いくわよ』!」

「『はいぃ』!? 一体何の……って結界が張られてる!?」

 

 妖夢の返事に呼応し弾幕ごっこの結界が張られる。どうやら相手もやる気みたいね…… 負けないわ!

 

 

 

 

「……ばたんきゅ~」

「……弱いわね妖夢」

「……なんなんですかもう! いきなり戦闘態勢に入れってのは無理な話でしょう咲夜さん相手に!」

 

 妖夢相手に傷一つつくことなく完勝した。霊夢と戦ってるのを見たときにも勝てそうだとは思ったけど……思ったより手強くなかったわね。

 でもとりあえず勝ちは勝ち。異変について洗いざらい話してもらいましょう。

 

「さぁ、貴女は宴会で何をやったのか教えなさい」

「……分かりましたよ! 今から買出しに行くんだし、一緒に行けば分かりますよ! ああ予想外のタイムロス……」

「あら、そう? じゃあ行きましょうか」

 

 妖夢を連れて人里まで飛んでいく。 ……ふぅ、戦いで少し汗をかいたから、上空で吹く風が気持ちいいわ。

 

 人里について、妖夢と一緒に買い物に行く。お嬢様も妹様もお野菜が苦手だけどしっかり買わないと……

 

「ええ……妖夢、貴女それ買いすぎじゃないの?」

 

 妖夢のほうをチラリと見たら、籠一杯に買い物をしている妖夢がいた。この量は多すぎる、お嬢様たちだけならこの量で二週間は生きていける。

 

「……このくらい食べるんですよ」

「……!! なるほど……そういうことね……」

 

 妖夢の言っている意味が分かったわ。やはり宴会では相応の料理が必要だから、食べ物の消費が多いものね。

 となると……やっぱり宴会は妖夢の仕業、これはこの量を消費しきるまでは宴会は続けてやるぞと言う意思。冬を長引かせる異変を起こして浮いた存在になったから、宴会の中で幻想郷に溶け込みたいのね。そのためにまた異変を起こすなんて本末転倒な気もするけど……

 

「……仕方ないわね、私は応援するわよ」

「はい……ありがとうございます」

「……それじゃあ私はもう買うものもこれくらいだし、先に帰らせてもらうわね」

「はい、また明日」

 

 また明日……やっぱり明日宴会を開くみたいね。そうだわ、明日宴会のときにどうやって人を集めたのか教えてもらいましょう。妖夢と別れて紅魔館へと戻る途中にそう思った。

 

 

 

 

《四日目》

 

 夜になり宴会会場に着く。宴会会場の周りには変な霧が立ちこめていた。今まで気にしたことはなかったけど、これが美鈴の言ってた妖気の霧。思えば今までもあった気がする。これもおそらく妖夢の仕業ね、その証拠に……多分妖夢の姿は見当たらないはず。

 

「ねぇ霊夢、妖夢の姿が見当たらないのだけど」

「ああ妖夢? 妖夢ならまだ……」

「そう、やっぱりまだ来ていないのね」

 

 やはり妖夢はいないみたいだ。霊夢の言葉を聞き流し、私は博麗神社の屋根の上に飛び乗った。

 

「……いるんでしょ? ちょっと姿を見せなさい」

 

 私は立ち込める妖霧に話しかけた。この霧の一粒一粒が妖夢なのだろうか、そんな能力持ってたとは……妖夢が妖霧になるなんて洒落が効いてるわね。

 妖霧が集まって人の姿を形作る。これが妖夢に……あら? 妖夢にしてはシルエットが更に小さく見えるんだけど……

 

「……やっほー」

「……誰? 貴女……」

 

 霧が集まって現れたそこには、妹様と同じくらいの見た目の幼い少女がいた。妹様みたいに羽根は生えていないようだが、その代わり頭に大きな角がある。

 

「誰って……アンタが呼んだから来たんじゃん」

「……私が呼んだのは妖夢で、貴女のような子どもじゃないんだけど」

「だから私がその妖霧の正体なの」

「??」

 

 この少女は何を言ってるんだろう。話が噛み合っていないような気がする。

 

「……分かりやすく言ってあげるよ。アンタが異変の犯人だと思ってた、白髪の嬢ちゃんは無関係。私一人の能力で、宴会に皆を集めたんだ」

「……なんですって?」

「全部見てたよ。アンタ昨日、嬢ちゃんを犯人だと勘違いして倒してたでしょ。あはは全く何してんだか」

「!! そんな……!」

 

 少女の言葉を聞いて、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 そもそもなんで私は妖夢のことを犯人だと思ったのだろう。それは……妖夢が何か隠し事をしてるみたいで……いや違う。美鈴から犯人の特徴を聞いたあと妖夢を見て、そうだと思い込んでしまったんだ。だから妖夢の一挙手一投足が、全部怪しく見えてきた。

 なんてことだ。そりゃあ妖夢だって秘密の一つや二つあるはずよ。それなのに思い込みで、穿った考えしかできなくなっていた。

 

「あはははは、ありゃあ傑作だった! なんか奇跡的に会話が成立してたみたいだしね!」

「ぐぅ……」

 

 目の前の少女が笑い転げる。自分の間抜けさにぐうの音も出ない、後で妖夢に謝らないと……

 いやそもそも、なんでこんな勘違いをしてしまったのか。それは目の前のこの少女が、異変なんか起こしたからだ。私も悪いかもしれないが、一番悪いのはこの女。こらしめて、こいつを妖夢に謝らせればすべて解決!

 

「……お? やる気かい? いいよかかってきな」

「……ええ、言われなくても。『いくわよ』!」

「『はいよ』」

 

 少女が答えると同時に、私はナイフを放り投げた。

 

 

 

 

《五日目》

 

「いたた……昨日やられたところがまだ痛むわ……」

 

 萃香、と名乗った異変の犯人に、私は残念ながら負けてしまった。見た目が妹様と同じくらいと思ったら、強さまで妹様と同じだなんて誤算もいいとこ。萃香を妖夢に謝らせるどころか、私が妖夢に謝ってもいない。

 

「パチュリー様、お呼びでしょうか」

「来たわね咲夜、聞きたいことがあるの」

 

 パチュリー様に呼び出され、私は図書館まで訪れた。真様のおかげでパチュリー様の喘息はほぼ見る影も無い。しかし相変わらず動くのは嫌いみたいだ、だからこうして私のほうから行かなくてはならない。

 

「聞きたいことですか? 一体私に何を……」

「貴女その傷どうしたの? 昨日の宴会の前には無かったみたいだけど」

「え、これですか? これは……」

 

 私は、自分の顔に貼ってある絆創膏をさすって答える。もちろん萃香にやられた傷だが……なんだかあまり答えたくない。どう答えたものかと考えていると、パチュリー様が次の言葉を言ってきた。

 

「……まぁある程度の予想はついてるわ。その傷、宴会を開いていた犯人にやられたものでしょ。違う?」

「! ……気付いてらっしゃったんですか」

 

 ピタリとパチュリー様に言い当てられて驚いた。それ以前に、パチュリー様もこの異変に気付いていたのね。

 

「……まぁ、咲夜が闘ってたからこそ気付けたのよ。で、その様子だと負けたのかしら」

「……はい」

「そう。咲夜が負けるなんて、やはり鬼の実力はそれほどなのね」

「……鬼?」

 

 聞きなれない単語を聞いて、パチュリー様の言葉を繰り返す。話の流れからして、萃香の妖怪の種類かしら。

 

「そう、鬼。吸血鬼の()と書いて(おに)よ。幻想郷じゃあまり聞かない妖怪だけど、その力は吸血鬼に匹敵するわ」

「! はい、かなり手強い相手でした」

「……本当は私も戦おうと思ってたんだけどね、咲夜が先に戦ってたみたいだから止めにしたわ。咲夜には悪いけど、その判断は正解だった。私は怪我したくないからね」

「いえ……パチュリー様にお怪我が無くてよかったです」

 

 鬼……初めて聞いた妖怪だけど納得が行った。血を吸う鬼と書いて吸血鬼、それほどまでに強力な妖怪だったようだ。

 どうやら異変に気付いたパチュリー様は萃香を倒そうとしていたみたいだけど、意図せずそれを阻止できたみたいで良かったわ。パチュリー様も決して弱くはないけれど、萃香相手に無傷でいられたとは思えない。

 

「そうね……もう私は鬼に挑戦する気は無いわ」

「はい、それがよろしいかと」

「その代わり、鬼と戦った咲夜にいろいろ聞きたいことがあるのよね。どんな能力を持っていたとか」

 

 どうやらこれが私を呼び出した本題のようだ。鬼という珍しい存在がどういったものか、パチュリー様は知りたいらしい。本当に知識に飢えている人である。

 私は昨日の闘いで知ったこと、人を萃める能力や体を霧のように散らせる能力のことをパチュリー様にお伝えした。

 

 

 

 

《六日目》

 

 萃香を倒すことができなかったので、おそらく明日も宴会がある。そのことに関しては仕方が無い。私が何か言ったところで、どうせ萃香の能力で萃められる。それほどまでにあの鬼の能力は強力なのだ。まぁ私も、宴会自体はそこまで嫌だと言うわけでもないし、今日のところは大人しく明日のための買出しに行くことにした。

 

 人里まで行くと妖夢を見つけた。妖夢も買出しかしら、三日前と同じようね。

 三日前に、妖夢のことを犯人だと勘違いして倒しちゃったんだ。ちゃんとそのことを謝らないと……

 妖夢の顔には私と同じように絆創膏が貼ってあった。私のせいで負った傷だと思うんだけど……そんなところも怪我させたかしら?

 

「こんにちは妖夢。大丈夫? その傷……」

「あ、咲夜さんこんにちは。ええなんとか……」

「ごめんなさいね、なんだか勘違いしちゃってたみたいで…… あれはその……」

「知ってますよ。萃香さんの仕業だったみたいですね」

「え?」

 

 萃香のことを知らない妖夢に、どう謝って事情を説明しようか悩んでいたら、妖夢の口から萃香の名前が飛び出してきた。

 

「貴女……萃香のこと気付いていたの?」

「ええ一昨日に。 ……後で知ったんですけどあれは咲夜さんが萃香さんと闘ってたから気配を感じ取れたみたいですね。だから昨日闘いを挑みにいったら、見事に返り討ちにされちゃいました」

 

 妖夢があははと笑いながら、自分の頬の絆創膏を指でなぞる。つけた覚えの無い傷だと思っていたけど、どうやらそれは萃香にやられた傷みたいだ。

 

「そう……妖夢もやられたのね」

「はい。咲夜さんのその傷も、萃香さんにやられたものですか? 強かったですよねー萃香さん」

「ええ本当に」

 

 私が勝負して負けたのは萃香で二人目。一人目はもちろん霊夢である。その二人が闘ったら一体どっちが勝つのだろうか。そう思いながら妖夢と買い物をしていると、お店に魔理沙がやってきた。

 

「お、いたな二人とも。探したぜ」

「あら魔理沙。また宴会のお誘いかしら」

 

 ここ最近、魔理沙が私を訪ねる用事なんて宴会以外には考えられない。萃めているのは萃香なのだが、幹事は魔理沙ということになっている。 ……魔理沙は自分が萃香によって動かされていることに気付いているのだろうか。

 

「そうだ。明日もまた宴会を開くみたいだぜ。二人も来るよな?」

「ええ。そうだと思って買い物に来ているのよ。妖夢もそうでしょ?」

「はい。もう予想はついてましたから」

「そっか。それとももう一つ用があってな。明日は早めに来たほうがいいぜ? 少しばかり余興があるんだ」

「「余興?」」

 

 妖夢と口をそろえて繰り返す。宴会に時間指定があるのは初めてだ。いままでは勝手に集まっていつの間にか宴会が始まっていたのだから。

 

「そ、余興。じゃあ私はあとアリスにも伝えに行くからまた明日な」

 

 そう言って魔理沙は慌ただしくお店から出て行った。魔理沙のことだ、どうせ私に言っただけでお嬢様やパチュリー様には伝えてないだろう。紅魔館に帰ったら報告しないと。魔理沙の言う余興、気になるわね。

 もう一度妖夢に謝ってから、私は紅魔館に帰ることにした。

 

 そうそう妖夢だけど……三日前あんなに買っていたのに今日も沢山買っていた。どうやら白玉楼では、あの量は三日で無くなるみたい。幽々子ってそんなに食べるみたいね。

 

 全ての誤解が解けたみたいで、なんだかとても気分がいい。こうして終わってみれば面白い話のネタができたとさえ思う。

 ……いえ、まだ終わりじゃなかったわね、宴会が続く異変はまだ続く。いったいいつまで続くのだろうか。

 

 あと萃香に気付いてないのは何人だろう。それを考えながら、私は紅魔館へ帰っていった。

 

 


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