東方狐答録   作:佐藤秋

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第五十話 萃夢想 魔理沙視点

 

 誰がそう決めたというわけではないが、異変の後には宴会をする。何か特別なことが無いと宴会なんて開かれない? それは大きな間違いだ、別に何も無い日に宴会を開いたっていいじゃないか。

 いや、むしろ何も無い日だからこそ宴会を開くべきだと思う。何もせずに一日が終わるなんて勿体無さ過ぎるからな。

 

 遅れてやってきた今年の春に花見をしたとき、唐突に私はそう思った。もう桜は散ってしまったけれど、皆で集まるのに理由はいらない。私が宴会をやりたいと思ったら、都合よく皆集まってくれた。

 

 さて、今日の夜にも宴会がある。何回も宴会をやってみて気付いたんだが、真のやつ全然酒を飲みやがらない。紫が言うには、酔った真はまた一味違って面白いらしい。今日こそ真に酒を飲ませてみせるぜ。

 ……まぁ前回も、その前の宴会のときもそう思っていたんだが、いざ始まると忘れちまうもんだ。今日こそ、覚えていたら飲ませてやろう。

 

 

《一日目》

 

 夜中になって博麗神社までやってきた。宴会の幹事は私だが、幹事だからといって私が一番初めに来る必要は無い。ある程度人が集まったら、いつの間にか宴会は始まっているのだ。

 

「ようパチュリー、今日も来たんだな」

 

 箒から降りたところの近くにいたパチュリーに話しかける。パチュリーは、こいつこそ吸血鬼なんじゃないかってくらい図書館に引きこもってる魔法使い。外に出るのは嫌いなくせに、なぜだか宴会には毎回来ている。

 

「まぁね。魔理沙に明日が本の返却日だから、忘れてやしないか確認のついでに」

「はいはい、分かってるって」

 

 なんて素直じゃないヤツだろう、宴会に来たいと素直に言えばいいのに。

 宴会の席で面倒な話はごめんだ、パチュリーの話を軽く聞き流して辺りを見渡す。するとフランが霊夢と話しているのを発見した。フランが宴会に来るのは珍しい。留守番している美鈴が一人でも寂しくないようにといつも紅魔館に残っているようだが、たまには顔を出したくなったのかな。

 フランはそういった優しい一面も有るし、そして何より人懐っこい。いま霊夢と話せているのがその証拠だ、よくあんな愛想のないヤツに懐けるな。 ……いやまぁ霊夢は霊夢で、変な魅力があるのも確かだけど。

 

「ようフラン」

「あっ魔理沙!」

 

 声をかけると、フランは私の元に駆け寄って抱きついてきた。なにやら霊夢が私たちのほうをじろじろ見てくる。どうだ霊夢、私のほうがフランに懐かれているんだぜ。

 

「フランはもう酒が飲めるようになったんだっけか?」

「ううんまだ! 咲夜に作ってもらったのしか飲めないよ!」

「そうかそうか。よし、それならフラン、早速咲夜から酒をもらってこいよ。ついでに私の分も持ってきてくれ、そんで乾杯しよう」

「わかった!」

 

 フランに酒を取ってこさせる。なんて素直な子どもだろうか、霊夢にもその素直さを分けてやってくれ。

 

「……なによ、じろじろこっちみて」

「いや別に」

 

 チラリと霊夢を見ただけなのに、目ざとく霊夢が反応してきた。片手に酒を持ってるみたいだが、まだ宴会は始まったばかり。霊夢も別に酔った様子は見られない。

 

「魔理沙ー、取ってきたよー!」

「おお、サンキューなフラン」

 

 フランが両手にそれぞれ酒の入ったグラスを持って戻ってくる。種類が別々なところを見ると、私には私の酒を用意してくれたみたいだ。さすが咲夜、メイドなだけあって気が利いてるぜ。

 戻ってきたフランの頭を撫でて、グラスの一つを受け取った。霊夢も混ぜて、とりあえず三人で乾杯する。

 

「じゃ、フラン、霊夢、乾杯」

「ん」

「かんぱーい!」

 

 フランは自分のお酒を一口美味しそうに飲み、私と霊夢はグラスの酒を一気に飲み干す。

 さて、乾杯もしたことだし真に酒を飲ませる作戦に移ろうか。私は辺りを見渡して真を探すと、どうやら真は美鈴と話しているようだ。おいおい今は宴会だぜ? 話すのもいいがまずは酒を飲まないとな。

 

「フラン、あっちを見ろ」

「え、どうしたの? あっちって……美鈴?」

「そうだ。折角の宴会なんだから、美鈴にも飲むよう誘ってきたらどうだ?」

「! そうだね!」

 

 とてとてと美鈴のところへ歩いていくフラン。よし、今のうちに……

 

「霊夢、真に飲ませる酒を取ってこようぜ」

「分かったわ」

 

 霊夢と一緒に酒を取りに行く。霊夢とは昨日、宴会のときに真に酒を飲まそうという話をしたはずだ。さすが付き合いが長いだけあって察しがいい、二つ返事でついてきた。

 酒も十分持って準備万端、あとは真に……と思ったら、真がいつの間にかいなくなっている。真めどこに消えやがった?

 

「魔理沙ー、美鈴つれてきたよー一緒に飲もう!」

「ん、フラン。真は一緒にいなかったか?」

「あれ? そういえばいなかったね」

 

 もたもたしていたらフランが美鈴を連れてきてしまった。フランの相手を美鈴に任せているうちに、霊夢と一緒に真に飲ませに行く予定だったが…… こうなったら作戦変更、フランと美鈴にも協力して真に……ってその肝心の真がいないんじゃないか、馬鹿か私は。

 

「なぁ美鈴、さっきまで話してた真はどこに……」

「……なるほど、そういうことですか」

「美鈴?」

 

 美鈴に、真はどこにいるのか聞こうとしたら、美鈴はなにやら博麗神社の上のほうを見ている。あそこに何かあるのだろうか。

 

「……はっ。な、なんですか魔理沙さん」

「いや、真はどこに行ったのかなって」

「……さー、どっか行っちゃいましたね、分からないです」

「そうか……」

 

 美鈴も分からないというなら仕方がない。まぁ待ってればいずれ姿を現すだろ。

 やれやれ、折角酒を持ってきたのに…… 美鈴はあまり今日は飲んでないみたいだし、フランにこの酒はまだ飲めない。仕方ないから、咲夜でも誘って飲んでよう。咲夜の酔ったところもあまり見ないしな、真が現れるまでの時間潰しだ。

 

 しかし片付けの時間になるまで結局真は現れなかった。咲夜に飲ませるのに夢中になりすぎたか。酒の席で、一つのことをやり通すってのは難しいものだな。

 

 

 

 

《二日目》

 

 昨日は宴会で十分楽しんだ、今日は家で魔法の研究をするとしよう。

 

 …………む、実験に必要な植物が無い。今から探してもいいが、アリスのところになら確実にある気がする。息抜きがてら、アリスの家まで行くとするか。なにやら忘れてるような気がするけど、忘れるということは大したことではないだろう。私は箒を持って、自分の家を飛び出した。

 

 

 

 

「おーいアリス、邪魔するぜ」

「……なによ魔理沙、今ちょっと忙しいんだけど」

 

 アリスの家に言って扉を叩く。めんどくさそうな様子でアリスが扉を開くと、中から甘くていいにおいがしてきた。

 

「なんだ忙しいって、お菓子を食べるのに忙しいもないだろ」

「考え事をするのに忙しいのよ。別にお菓子はついでよついで」

「そうか、なら更についでに私にお菓子と魔法植物を分けてくれ」

「……駄目って言っても勝手に持っていくくせに」

 

 アリスに快く家にあげてもらい、お菓子の置いてあるテーブルの席に座る。目的の植物は、外に生えているのを確認したから、帰るときにでも持っていこう。

 私は目の前にあるクッキーに手を伸ばす。

 

「んー、甘い。糖分は乙女の燃料だぜ」

「……ねぇ魔理沙。宴会っていつもこんなにやってるの?」

 

 アリスがもう一つの席に座って話しかけてくる。なんだ、考え事は一時中止か?

 

「言うほどじゃないだろ。長い冬の異変解決の祝いと、桜の花見と、なんだか宴会がしたくなったから誘っただけだ。少し時期が被ったんだな」

「ふーん。じゃあそれより前の宴会は……」

「えーと確か……」

 

 頑張って記憶の種を掘り起こす。最近の宴会ならまだ分かるが、それ以前となると結構前のことじゃないだろうか。たしかあの時もフランがいたような気が…… 

 

「そうだそうだ、前に幻想郷が紅い霧で覆われてたことがあっただろ。あの異変を解決した後に紅魔館で開かれた宴会が、雪桜より前の宴会だ」

「紅い……"霧"?」

 

 あの異変解決には、アリスは関与してないから呼ばれていない。そのくせいつの間にかアリスのヤツ、紅魔館の連中と仲良くなってたんだよな。

 

「そうか霧だ……! 魔理沙、ありがとね」

「ん」

 

 なぜかアリスにお礼を言われたのだが、感謝されて悪い気はしない。

 クッキーも食べ終わったことだし、帰って魔法の研究の続きをやるとしよう。アリスの家の外に生えていた魔法植物を忘れずに持って、私は自分の家に戻っていった。

 

 

 

 

《三日目》

 

 ……昨日何を忘れていたのか思い出した。パチュリーから借りた本の返却期限が昨日までだったんだ。前日に注意を受けておいてこの有り様……パチュリーのヤツ怒ってるかなぁ。

 前に、借りる期間延長させてくれってこあに伝言頼んどいたときも、こあのヤツ伝えるのを忘れてたのか物凄く怒られた。

 今から紅魔館に、宴会の誘いに行こうと思ったのに憂鬱だぜ…… 真に頼んで、一緒に謝ってくれるようついてきてもらうことにした。

 

「……全く、だから一昨日言っておいたのに」

「本ッッッ当に悪かった! 次は絶対期限守るから!」

「……パチュリー。魔理沙も反省してるみたいだし、今回は許してやってくれないか?」

「……なんで真がいるのよ。 ……まぁいいわ。約束通り、真には何かしてもらうから」

「……しょうがないか」

 

 真を連れてきたことが功を奏したか、あっさりパチュリーに許して貰えた。私だけだったら、あと半刻は小言を言われていたと思う。

 

「お邪魔します。パチュリーちょっと本を閲覧させ…… あら真じゃない」

「よ、アリス」

「いらっしゃいアリス。どうしたの?」

「ちょっと探してるものがあって…… その前に真、ちょっといい?」

「ん、なんだ?」

 

 アリスが図書館にやってきたと思ったら、真をつれて図書館の外に出て行った。アリスのヤツ、一体真に何の用事だ? それに……

 

「パチュリーお前、アリスに対してやけにフレンドリーじゃないか? 私が来たら溜め息つくくせに……」

「アリスは魔理沙みたいに、本も盗らないし勝手に見ないし大切に扱ってくれるもの。当然じゃない」

「む……私だって私なりにちゃんとやってるじゃないか」

「第一印象が悪かったもの、仕方ないわ。さ、それより約束通り魔法薬の調合を手伝ってもらうわよ。 ……そうね、別段いま作りたい魔法薬は無いのだけれど……」

 

 パチュリーが、私に何かをさせようと悩んでいる。パチュリーは、魔法の知識は確かなものだが魔法薬の調合は苦手みたいだ。

 パチュリーの言葉を待っていると、アリスと真が戻ってきた。

 

「じゃあパチュリー改めて、本を閲覧させてもらってもいいかしら?」

「いいわよ。何か調べ物かしら?」

「ええ。実は…………を…………で……」

「あら、じゃあやっぱり…………は……」

「おそらく宴会の…………は霧……」

「なるほど…………それなら…………私も……」

 

 アリスとパチュリーがなにやら話しているが、声が小さくて何を話しているのか分からない。私に魔法薬の調合を頼まないなら借りる本を選びたいんだが……

 

「なぁ……」

「ああ魔理沙、今日は特別に手伝いは無しでいいわ」

「え、いいのか?」

「ええ、今から私も調べ物があるから、また借りる本を好きに探してちょうだい。借りた本はきちんとこあに報告するのよ。こあー!」

 

 パチュリーは私に言うだけ言って、こあを探しに行ってしまった。まぁいいさ、こあ相手ならもしかしたら少し多めに本を借りられるかも知れないしな。早速本を探しに行こう。

 

 借りる本を探していたら、真もなにやら本を探していた。もしかしたら私が借りるのを待ってるのだろうか。私にここまでついてきてくれたからか、真はそういう変に律儀なところがある。まだまだ本を探すのには時間がかかりそうなので、待たせるのは忍びない。

 ……それに多目に本を借りるのを真に見られたら、突っ込まれる可能性があるからな。真には今日は帰ってもらおう。

 

「なぁ真。もし私を待っているなら、まだまだ本を選ぶから先に帰ってもいいんだぜ?」

「ん? ああそうだな、それなら先に帰るとするか。じゃあ魔理沙はアリスと一緒に帰るんだぞ」

 

 そう言って真は帰っていった。真は私の保護者かよと言いたくなるが、この変な紳士さが真だ。聞いた話によると、前にアリスを魔法の森まで送って帰り道で迷ったらしい。バカだな。

 

 改めて本を探そうとしたら、こあの騒がしい声が聞こえてきた。

 

「パチュリー様! 言われてたことが書かれてる本を探してきました!」

「嘘……正直全く期待して無かったのだけど……本当に見つけたの? 適当な本を持ってきたんじゃないでしょうね」

「適当なんかじゃ無いですよ! なんてったって真さんが……あ」

「真が選んだ本なの? ちょっとパチュリー、私にも見せて」

「いいわよ。 …………これは……鬼? 今回の犯人の正体って……」

「鬼? なにそれ、初めて聞く言葉だけど」

「いやぁ私も知らないぜ」

「わっ、魔理沙」

 

 三人で一つの本を覗いてるから、気になって私も見に来てみた。しかし人が多くて中身が全く見えないし、そもそも何の話をしてるかも分からない。

 

「で、オニって一体何なんだ? 犯人って、なんかあったのか?」

「……魔理沙は気付いてないみたいね」

「気付いてないって何のことだ?」

「最近の私たちの周りにある違和感に、よ。気付いてないなら関係ないわ」

 

 そう言ってパチュリーはまたアリスと何かを話しだした。なんだが仲間外れにされてるみたいで面白くない。

 

「はんっ、いいさいいさ、そんなに二人で話したかったらずっと二人で話してろ。明日も宴会をやろうと思ったけど、二人は来なくてもいいもんねーだ」

「……多分、魔理沙が来るなと言っても私たちは宴会に行くと思うわ」

「わけが分からないぜ」

 

 パチュリーが何を言ってるのか全く分からない。宴会に来たいのなら素直にそう言えばいいじゃないか、なんで回りくどい言いかたをするかね。私たちの周りにある違和感だと? 全く感じたことがないが…… 

 考えていたら、二人はまた自分たちだけの世界に入っていった。もう知らん。本だけさっさと借りてさっさと帰ろう。明日の宴会に持っていく酒も見繕わないといけないしな。

 

 真にはアリスと帰るように言われていたが、今まで魔法の森で一人で暮らしてきたんだ、私はもうとっくに子どもじゃない。借りる本をこあに見せたらすぐに、アリスを置いて一人で帰った。勿論道中危険なことなんて何も無かった。

 

 

 

 

《四日目》

 

 あれから、パチュリーたちの言ってた最近の違和感について考えてみたんだが……違和感なんて、そのときに感じ取れなかったのなら考えて分かるものじゃないと思う。だからそんなことはもう気にせず宴会を楽しんでこよう、今日こそ真に酒を飲ませるんだ。

 

 博麗神社につくと、またパチュリーとアリスが話している。なにやら神妙な顔つきだ。

 

「ねえアリス、分かる?」

「ええ、誰かが鬼と闘ってるみたいね。ここにいない誰かだと考えると……咲夜かな」

「みたいね…… なら私の出番はもう無いわ。後で咲夜に詳しく話を……」

「やあやあお二人さん、まだ良く分からない話をしてるのか? そんな難しい顔をしてても、結局は宴会に来てるじゃないか。来たなら楽しく飲むべきだぜ」

「あら魔理沙」

 

 アリスとパチュリーの間に座って話しかけると二人がこっちを向く。一応酒は持っているみたいだが、まだ口をつけてはいないようだ。

 

「魔理沙は違和感を見つけたの?」

 

 アリスが私のグラスに酒を注ぎながら聞いてくる。

 

「またその話か、生憎もう探してないぜ」

「そう。まぁそれでもいいかもね」

 

 アリスが注いだ酒を一気に飲み干し立ち上がる。いま私が探しているのは、酒を飲ませる真と協力者の霊夢だけだ。

 

「霊夢たちならあっちよ」

 

 キョロキョロ辺りを見渡しているとアリスが指を指して言ってくる。何でこの二人は皆から離れたところで飲んでるんだ。

 

「おーサンキュー。じゃ」

 

 仲がよろしい二人は放っておいて、霊夢がいる方へ向かっていく。どうやら霊夢は、幽々子と一緒に飯を食っているみたいだ。

 二人の元にたどり着いた私は、声をかけながら霊夢の横に腰を下ろす。

 

「おかしい……結構食べたのにまだ食べられる……」

「よ、霊夢。うまそうだな、一つくれよ」

「あら魔理沙」

「……ん、うまい」

 

 目の前の唐揚げを一つ掴んで口に放る。何だこの唐揚げ、ポップコーンみたいにさくさく食えそうだ、腹に溜まる感じがしない。

 

「……ふう。で、真はどこだ?」

「真ならあっち。相変わらずあんまり飲んでないわね」

「そうか。よっしゃあ今日こそ真に……」

「あら、魔理沙は真を酔わすつもりかしら」

 

 霊夢の指差す方向を見ようとしたら目の前にスキマが開かれた。中から紫が現れる。いきなり声がするのは驚くが、紫が出てくるのはもう慣れた。そのまま話を続けていく。

 

「紫が言ったんじゃないか真を酔わせたら面白いって。だから酔った真を前々から見ようと思ってたんだ」

「まぁ真はあまり飲まないからねぇ…… あら? でも三日前の宴会では真は酔ってたみたいだけど」

「なにぃっ!?」

「ああそっか。真はずっと私と一緒だったから魔理沙は気付かなかったのね、うふふふふ……」

 

 紫はわざとらしくそう言うと、いやらしい笑みを浮かべてくる。三日前の宴会だと? 確かその日は、真を途中で見失ったんだった。見ないと思ったら、紫が真を独り占めしてたんだな。

 

「おい霊夢! 霊夢は知ってたのか!?」

「……紫と一緒云々は真から聞いてたし、酔ってる真も見たわ。一応一緒に住んでるわけだし」

「むむむむむ、二人ともズルいぜ!」

「ごめんごめん。今日こそまた真を酔わせましょうよ、私ももう一度見てみたいし」

「……そんなに面白かったのか?」

「え、ええまあね」

 

 霊夢が顔を赤らめる。今ここに霊夢が飲んだ形跡は無いのだが……結構前にも飲んでたのだろうか。霊夢は酔っても、あまり顔に出ないほうかと思っていたが。

 

「……そうか。じゃあ早速……」

「待って」

 

 霊夢と二人で真のところに行こうとすると、紫に引き止められた。

 

「なんだよ紫」

「真のほうを見て、何か思わない?」

「あー? 別に何にも。藍と橙と楽しそうに話してるぐらいじゃないか」

「そう。折角楽しそうに話してるんだからそうっとしておいてあげればいいじゃない」

「嫌だぜ」

「ちょ、ちょっと!」

 

 なんだ紫のヤツしつこいな。藍と会話している真は、かなり楽しそうに話している。酒を飲ますことは抜きにしても、私も会話に入りたいぜ。それにあのテンションの真なら案外、すんなり酒を飲んでくれるかも……

 

「(……前回の宴会では萃香と一緒だったとはいえほぼ真と一緒にいたし、今回は藍に譲ってあげるのが主人の優しさというものよ。)ほ、ほら霊夢も魔理沙も、まだお腹空いてるでしょ? 食べてからでもいいんじゃないかなー」

「……まぁそうだな。でも食べたらすぐに行くからな」

 

 なにやら紫が必死に見えたので、それでもいいかと立ち上がるのを止める。私は目の前にある焼きおにぎりに手を伸ばした。

 それにしても、確かに真と藍は楽しそうに話している。同じ狐の妖怪同士、気が合うことでもあるんだろうか。

 

「……まるで家族……夫婦みたいだな、真と藍」

「「!!」」

 

 焼きおにぎりを食べながら、ふと思ったことを口に出す。二人の間にちょこんと座っている橙が、いかにも二人の子どもっぽい。

 

「ほら、見えないか? なんとなく」

「……たしかに。まぁそう見えなくもないわね。実際は違うけど」

 

 霊夢が分かりきったことを言っている。橙は藍の式であって子どもではない、そんなことは私でも知っているぜ。

 

「……ちょっと。真と藍が夫婦なら、一体私は何になるのよ」

「紫はそりゃ当然おばあ……」

「……は?」

「姑だな」

 

 紫に睨まれたので、おばあちゃんという言葉を瞬時に飲み込む。なんだよ、軽いジョークじゃないか。

 

「……魔理沙、それ別に誤魔化せてないから。意味合いあんまり変わってないから」

「あり得ないわ。真が父親なら母親は私でしょ。藍と橙は娘かしら」

「……へー、紫が母親ねぇ……」

「何よ霊夢不満? 霊夢も娘にいれてあげてもいいわよ」

「……真はいいけど紫が母親かぁ……」

 

 紫も霊夢も、例え話になに本気になってるんだろう。事実は別なんだからどうでもいいじゃないか。

 ……でもそうだな、私にとっての真は……少し年の離れた兄さんとかかな。

 

「……いいわ、真に直接聞いてみましょう。私や藍や霊夢を真の家族に例えるとどのポジションになるか」

「いいわねそれ。おばあちゃんにされても文句なしだからね」

「あり得ないけどね。さ、魔理沙いつまで食べてるの。行くわよ?」

「あ、おい」

 

 紫がそのまま立ち上がって、真のところへ行こうとする。私は慌てて手に持っていた焼きおにぎりを口の中に放り投げて後を追った。紫のヤツ……結局真のところに行くんじゃないか。

 

「やっほー真」

「ん? おお紫と霊夢、魔理沙も来てたか」

「藍と随分楽しそうにおしゃべりしてたわね、何の話?」

「まぁいろいろだ、あまり面白い話ではないと思う。なぁ藍」

「ええ。真が寺子屋に行ったときの話から脱線して、少し専門的な話を少々……」

「真さまも藍さまも、難しい話をしてましたが楽しそうでした!」

 

 真が寺子屋に行ったのは、アリスから聞いたことがあるな。一体真がどんな授業をしたのか、いささか気になるところではある。

 

「……ところで紫様、どうかされましたか?」

「魔理沙がね、貴女たちの様子を見て家族みたいだなーですって」

「か、家族ですか……(と、となると真が私の旦那になるのか? いかん……少しニヤけてしまう……)」

「家族……かぁ」

 

 藍はなぜか自分の頬をつねり、真はなにやら遠い目をしている。二人ともそれぞれ思うことがあるようだ。

 

「でね、少し真に聞きたいんだけど……もしこのメンバーを家族に例えたら、誰がどのポジションになるのかなーって。ほら、真が父親なら誰が母親とかあるじゃない?」

「一体真はどう考えるのかしら? まぁ既に真は私と同じ場所に住んでるわけだし、家族みたいなものだけど」

「……なぁ魔理沙、この二人ぐいぐい来るけどなんかあったのか?」

「……すまん、私の不用意な一言のせいだ。でも私も気になるぜ、真がどう思っているかをな」

「……うーん」

 

 真が真剣に考えるそぶりを見せる。こういったどうでもいい事柄も、真面目に考えるのは面白い。

 

「……まぁ俺の立ち位置は置いておくとして……」

「父親よ(ね)(だ)」

「……置いておくとして、藍が母親だろうなー」

「「「!」」」

「ほー、そうなのか。 ……ん? となると紫は……」

「し、真! なんでか理由を説明してくれるかしら?」

「はっはっは、やっぱり紫はおばあちゃんなんだよ!」

 

 真の回答に三人が驚いたリアクションをとる。私が最初に例えたものでもあるので、別に私は驚かないが……紫は納得いかないようだ。横で藍は小さくガッツポーズをとっている。

 

「で、紫は長女。霊夢と魔理沙は二卵性の双子かなー。橙が末っ子だ」

「わぁっ! 藍さまがお母さまですか、素敵です!」

「ふふ、橙は一番下の子だって。一番可愛いポジションだな」

 

 藍が橙の頭を撫でる。私は霊夢と姉妹なのか、勿論私が姉だよな。

 それにしても一番意外なのは紫のポジションだ。まさか私たちの姉ポジションとは……

 

「長女……まぁそれでもいいわ」

「真の中では紫より藍のほうが年上なの?」

「藍が年上っていうか、紫が年下って感じかな。出会ったときからずっと紫は子どもっぽいし」

「……私を子ども扱いするのは真ぐらいよ」

 

 まったくだ。見た目のせいで騙されてしまうが、そういえば真は紫よりも年上だったな。

 

 ……そうだ、話に夢中になって忘れていたが、私は真に酒を飲ましに来たんだった。霊夢、お前も何か……

 

「そういやここにいる全員の髪の色って似通ってんだよな。紫と魔理沙は藍の血が濃く出たことになる。で、父親が俺なら、霊夢は俺に髪の色が似たんだなー」

「そ、そうなるわね。そっかー、真と同じ黒髪だもんね!」

 

 ダメだ、霊夢は変な浮かれかたをしている。くそ、三日前の宴会でもう少し残っていれば真の酔ったところが見られたのに……

 ん? そういえば前回の宴会って三日前だったな…… まてまて、その三日前もまた宴会してるぞ。

 

 あっ……今なんか頭に降りてきた気がする。もしかしてパチュリーたちが言ってた違和感ってこのことか?

 

 このあと私たちは真に酒を飲ませることは失敗したが、それ以上に私には気になることが出来た。

 

 

 

《五日目》

 

 昨日感じた違和感を解明するため、幻想郷を飛び回る。パチュリーやアリスに聞けば一発なのかも知れないが、それでは少し面白くない。私独自の情報網で、二人に追い付いて見せようじゃないか。

 

 飛び回りながら考えて分かったことは、宴会が最近多すぎるってことだけだ。恐らく誰かの仕業なのだろうが、誰かは疎かどうやってるのかも見当がつかない。

 個人的には霊夢が怪しい。なぜなら宴会は、毎回神社で行われているからな。

 

 というわけで今から神社に直行だ、なにか手がかりがあるかもしれない。神社に向かってフルスピードで飛んでいく。

 

 

 

 神社につくと、真の体に妖夢が寄り添っているのを発見した。妖夢と目があって少し時間が止まった感覚に襲われる。羨ましい……じゃなくて、思わぬ伏兵が……でもなくて……

 

「な、何やってんだ真と妖夢? えーともしかして邪魔してしまったかならすぐにどこかに……」

「げ。魔理沙お前なんつータイミングで……」

「わぁ魔理沙さん違います! それは大きな勘違いで……つっ」

「ん? 妖夢怪我してるのか?」

 

 妖夢が慌てて真から離れようとして顔をしかめる。よく見ると妖夢は所々に傷があるじゃないか、そのくせ服は新品みたいに綺麗だが。

 

「ええ……少しやられちゃいました。真さんには少し介抱してもらってまして……」

「そうだ、魔理沙の考えてることとは別物だぞ」

「……やられた、だと?」

 

 いったい誰に……と思ったが、私はここでピンときた。妖夢を襲ったりする理由があるヤツなんて普通いない。となると宴会を開いている何者かしか考えられないんじゃないか?

 

「……もしかして、最近の異変の犯人にやられた、とか?」

「え? は、はいその通りです。魔理沙さんも異変に気がついていたんで……」

「やっぱりか! それなら犯人は……まだそう離れたところにいないはずだな。待ってろ妖夢、私がお前の仇をとってきてやるぜ!」

「あっ、ちょっ……」

 

 すぐさま箒にまたがって空を飛ぶ。犯人がどこに行ったか聞くのを忘れていたが、私のスピードならすぐ見つかるだろう。

 

 しかしいくら探しても見つからない……どうやら完全に逃がしてしまったようだ。すまない妖夢、明日こそ犯人をとっちめるから待っててくれ。

 

 

 

 

《六日目》

 

 犯人は必ず現場に戻ってくるとどこかで聞いたことがある。私は妖夢を倒した犯人を見つけるべく、朝から博麗神社の屋根に上って監視することにした。

 

「どんなにこっそり現れても絶対見逃さないぜ……覚悟しろよ犯人め」

「……残念ながらすでに見逃してるんだよねぇ……」

「! 誰だ!」

 

 急にどこからか声が聞こえてくる。あわてて周りを見渡してみても、そこにあるのは霧だけだ。

 

「ここだよここ」

 

 いきなりその霧が一箇所に集まりだす。声はその霧から聞こえてきているみたいだ。次第にその霧は密度を増していき、最終的には人間の子どものような形になって安定した。

 

「だ、誰だお前は!」

「お探しの、半霊の嬢ちゃんの仇だよ。ついでに異変の犯人でもある」

「! そうかお前が…… よし、悪者は私が成敗してやるぜ!」

「おいおい、私が悪者なのは決定なのかい? 少し事情を聞くとかはしないのかね」

「その辺は全部倒してから聞いてやる。間違ってたらごめんなさいでいいんだぜ!」

「へぇ……いいねそれ、気に入った。じゃあ早速やろうじゃないか」

 

 少女の目つきが鋭くなる。子どものくせに、いやに迫力のある目をしやがるぜ。

 

「私は普通の魔法使い霧雨魔理沙! 『いざ尋常に勝負だぜ』!」

「私は鬼の伊吹萃香。いいねぇいいねぇ真正面から来るその感じ! 『さあ来なよ』!」

 

 先手必勝、弾幕はパワー! 私のマスタースパークを見せてやるぜ!

 

 

 

 

「……もう結構萃香の仕業ってバレてるんじゃないか? まだ気付いてないのは……」

「ん? そうだねぇ……」

「え……もうそんなに……」

「……よし、もうこれだけ…… 明日……最後の宴会にしようじゃないか。最後は……」

 

 ……上のほうから、真と萃香の話し声が聞こえてくる。 ……気絶していたみたいだな、どうやら私は負けたらしい。どうして真がここに……というか頭に当たる少し硬いこの感触覚えがあるぞ。

 私は真に膝枕されてるみたいだ。真のヤツ、萃香と知り合いだったのかな……

 

「……うぅん……」

「お、魔理沙気がついたか。意識はどうだ、はっきりしてるか?」

「いやぁここまで粘る人間は珍しいね。最後ちょっと本気出しちゃったよ、大丈夫かい?」

「……ああ、少し前から話してる声が聞こえてた。もう次の宴会で最後みたいだな、私以外みんな異変に気付いていたのか……」

 

 微かに聞こえた話から、どうやらもう全員にばれたから明日の宴会で最後にするみたいだ。くっそー、皆いつの間に気付いてたんだよ……

 

「まぁそんなに落ち込むなって、魔理沙だって十分早く異変に気付いたほうだと思うね。俺は教えてもらったから分かったようなもんだ」

「それに魔理沙は最後じゃないよー。博霊の巫女なんかまだ全然気付いてないみたいだからね」

「……え、霊夢のヤツはまだ萃香に気付いてないのか?」

「そうだよー。宴会が多いなーとは思ってるみたいだけど誰かの仕業とか思ってないはず」

「ぷっ……くっははは! 異変解決の巫女が異変に気付いてないなんて終わってるぜ!」

 

 どうやら私が最後じゃなかったらしい、霊夢がまだ残ってるみたいだ。その事実は、萃香に負けて落ち込んでいる私の心を少しだけだが軽くした。笑ったら更にすっきりした。

 

「あははは確かに。私も巫女と闘うのを楽しみにしてたんだけどね。まぁ美味しいものは最後ってことで、他のヤツらとはもう闘ったから」

「へぇ…… いつ霊夢と闘うんだよ?」

「明日の宴会の前に、さ」

「! なるほど、そりゃあ楽しみだ」

 

 妖夢も負けて、私も負けた。霊夢が私たちの仇を取ってくれるのもいいし、霊夢が萃香に負けるのを見るのもいい。どっちにしろこれは見逃せないな。

 

「よっと」

「もう起き上がって大丈夫なのか?」

「ああ。明日の宴会の準備をしないとな」

 

 明日は霊夢が萃香と闘う、こんな面白いこと見逃せないぜ。私だけ楽しむのもなんだし、宴会をやることを知らせるついでに皆には早めに来てもらうか。

 紅魔館の連中と冥界の連中、あとはアリスだな。紫たちは別に誘ってないのに勝手に来てたから多分来るだろ。早速皆に知らせよう。

 

 明日また開かれる宴会の面子を集めるべく、私は博麗神社を飛んでいった。

 

 


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