東方狐答録   作:佐藤秋

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第五十二話 萃夢想 最終日

 

「こんばんは、真さん萃香さん。魔理沙さんから早めに来るよう言われてたんですが……一体何があるんですか?」

「あら~この子が私たちを宴会に萃めていた犯人かしら? 随分と小さい犯人ねぇ……」

「藍さま、こちらはどちら様ですか?」

「伊吹萃香殿と言ってな、実はこの宴会を開いた張本人だ。 ……ですよね紫様?」

「ええ。二人とも姿を見るのは初めてかしら」

「角がある……どうやら本物の鬼みたいね。幻想郷に実在していたなんて……」

「この子どもがあの霧の正体なの? 三日前の宴会で感じた妖力からは想像できないわね」

「えっ……誰?」

「お嬢様……お気付きになっていなかったのですか? 今回の異変の犯人です」

「よーっすお前ら! 顔合わせは済んだかー? もう霊夢出てくるぜー」

 

 博麗神社に続々と人が集まってくる。萃香は既に姿を現しており、既に萃香と闘った者や、萃香の存在を感じていた者と挨拶を交わしていた。

 霊夢はというと、魔理沙によって神社の中に足止めされており未だに萃香の存在を知らない。しかし全員集まった今、魔理沙が霊夢を連れて神社の中から現れた。

 

「どうしたのよ魔理沙外に出ろって……まだ全然明るいじゃ……あ、あれ? なんでもう皆集まってんの?」

「やっ」

「……どちら様?」

「ひどいこと言うねぇ、この間からずっと一緒に宴会をしてるっていうのにさ」

「……はぁ?」

 

 霊夢が萃香と顔を合わせて困惑した顔をする。うむ、予想通りの反応だ。いまいち現状が飲み込めていない霊夢に向かって、俺は軽く説明する。

 

「なぁ霊夢。最近どうにも宴会が多いとは思わなかったか?」

「え? ああうんまあ、よくもまあこんなに集まる日があると思ったわ」

「実はその宴会が、人為的に引き起こされていたんだよ。そこにいる伊吹萃香の手によってな」

「やー、どーもどーも」

「…………ええええええっ!!?」

 

 霊夢が驚きの声を上げる。本当に全く気付いていなかったらしい。

 

「……え? 魔理沙、貴女は知ってたの?」

「途中で気付いたんだぜ」

「……妖夢も?」

「ええ、まぁ」

「咲夜も気付いてたの? 気付かなかったの私だけ?」

「……いえ私も「そうよ、霊夢以外は全員気付いていたわ」さくやー……」

「レミィ、今ちょっと面白いところだから黙って見てましょう」

「はぁい……」

「嘘でしょ……」

「嘘じゃないわ」

 

 混乱している霊夢の前に紫が現れる。どうでもいいけど、レミリアも萃香の存在に気付いていなかったみたいだな。そういえば萃香も『気付いてないのはちびっこを除いて霊夢だけ』って言ってたっけ。あれにはレミリアも含まれていたのか。

 

「情けないわ霊夢。異変の存在に気付かないなんて、それでも博麗の巫女かしら」

「う……でも」

「でもじゃないわ。確かに大きい被害は出ていないけど、もし他の犯人だったらえらい事態になってたかもしれないのよ? 残念だけどこのままじゃ、霊夢の評価は落ちたまんまね」

「……じゃあどうしたら……」

「萃香に勝って今一度実力を示しなさい。もし負けたら明日から修行のやり直しね」

「……ま、そういうわけだから一丁私と闘ろうじゃないか」

 

 なんて茶番だろうと俺は思った。それっぽいことを言って萃香と闘わせようとしているが、萃香はただ闘いたいだけだろう。紫はうまいこと理由をつけて霊夢を叱りたかったに違いない。異変に気付かなかったショックで霊夢は気付いていないが、扇子に隠れた紫の口元がわずかに笑っている。

 

「さぁ賭けた賭けた! 博麗の巫女対伝説の鬼、どっちが勝つのか見物だぜ!」

 

 後ろの方で、魔理沙が賭けを開いている。幻想郷の少女たちは意外とノリがいい、魔理沙の店は大盛況だ。

 

「……いいじゃない、やってやるわよ。異変を起こした犯人なんだし手加減なんていらないわよね」

 

 霊夢がやる気になっている。ある意味散々コケにされたといえるのだ、萃香を倒して名誉挽回といきたいところだろう。

 

「おい、真はどっちに賭けるんだ? 今のところ萃香のほうが人気だぜ」

「そうだなぁ……俺はギャンブルが好きだからな、じゃあここはあえての引き分けに……」

「真!」

「ん?」

「私の勝ちに、限度額いっぱいまで!」

 

 霊夢が俺に向かって大声で叫ぶ。別に闘う本人が賭けてはいけないルールなど無い。

 

「……だ、そうだ」

「いいのか?」

「ああ」

 

 賭け事をするときは、別に負けてもいいという気持ちを持っている。ギャンブラーならそんな気持ちはアウトなんだろうが、今回のこれはお遊びだ。参加人数はせいぜい十人、限度額だってそんなに高くは……

 

「じゃあ真は十円な」

「まてまてまて高い高い高い」

「もう遅いぜ。はっはっは、これは思わぬ大勝負になったな」

 

 魔理沙が笑いながら去っていく。まずい、十円というと幽々子に飯を二回奢っても余る額だ。 ……例えが下手だがこれはヤバい。しかも霊夢が勝ったところで俺にはたいした額は戻ってこない、一円にも満たないだろう。なんてハイリスクローリターン、なんとしても霊夢には勝ってもらわなければ。

 

「れ、霊夢頑張れ!」

「まっかしといて!」

「……私のほうはもう準備万端なんだけどねぇ」

「私もよ。真、下がって」

 

 霊夢に言われて、観客席(?)まで足を運ぶ。皆は酒を片手に霊夢たちの闘いを楽しむようで、なんとも暢気なものだろうか。お前らも十円賭けろ。

 

「さて……実はアンタと闘うの、結構楽しみにしてたんだよね。紫が認める博麗の巫女の実力、とくと見せてもらおうじゃないか!」

「……別に見せるだけで終わらせるつもりは無いわ、その小さい体にたっぷり味あわせてあげるわよ。なんか強い種族みたいだけど、結局は妖怪なんでしょう?」

「鬼をただの妖怪と思うなかれ。鬼とは恐怖の象徴、強さの代名詞。妖怪の中の妖怪なのさ! さぁ覚悟しな人間、今こそ鬼の恐怖を思い出させてあげる! 『いくよ』!」

「『来なさい』!」

「! 危ない霊夢!」

 

 弾幕ごっこの結界が張られた瞬間、萃香が霊夢に向かって一直線に殴りかかる。弾幕ごっこは、基本的に離れたところでの撃ち合いだ。開始直後は距離を取ろうと空を飛ぶため、いきなりの攻撃には無警戒になる。

 

「おっと!」

 

 霊夢はそれを、バク転でかわして距離を取った。萃香はそれを許さず更に距離を縮めて追撃する。まずい、このままだと避ける一方だ。霊夢にはこの闘い不利かもしれない。

 

 通常の弾幕ごっこをゲームに例えると、シューティングゲームといったところだろうか。相手の弾を避け自分の弾を当てる、遠距離攻撃の応酬だ。

 しかし萃香の弾幕ごっこは、気功波ありの格闘ゲームだ。通常弾は己の体、つまり近距離での攻防になる。霊夢は、まず距離を離さないと攻撃する手段がない。そう思っていたのだが……

 

「はっ!」

「! へぇ、まさか攻撃を受け止められるとはね!」

「当然よ! スペルカードルールがある前は、どうやって闘ってたと思ってん、の!」

「うわっと!」

 

 霊夢が萃香の攻撃を、上げた膝で受け止める。その事で一瞬萃香の動きが止まり、その隙に霊夢は左手から通常弾を放っていく。

 

「……驚いた。霊夢のヤツ接近戦もできるのか」

「ええ。歴代の巫女の中でも霊夢はズバ抜けてセンスがいいわ。あまりこういう言葉は使いたくないけど、あの子は天才ね」

「……あんま霊夢を応援するなよ。紫は萃香に賭けたんだろ」

「な……いいじゃない別に!」

 

 天才……確かに普段特に修行をしているわけでもないのに、霊夢の実力は確かなものだ。変化の術一つにしても、まともに使えるようになるのに数年かかった俺とは雲泥の差である。

 

「あーっと霊夢の反撃に萃香が引いた! すかさず霊夢が追撃して肘を……っとこれはフェイントで左足の蹴り! 萃香もすかさず受け止め……いや構わず殴り返し……二人とも飛んだと思ったら霊夢が弾を……」

「魔理沙、無理に実況しなくていいから」

 

 少し遠くで魔理沙の実況に突っ込むアリスの声がする。たどたどしくなるのも無理はない、それだけ一瞬で状況が目まぐるしく変わっているのだ。

 今や二人は空中で、互いに弾幕を撃ち合っている。

 

「やるねぇ! ここまでやるとは思わなかったよ! くらえ『百万鬼夜行』!」

「なんだあの萃香の弾幕!? 二人の姿が全く見えない!」

 

 萃香は弾幕のほうも規格外だ。スペルカード宣言と同時に、結界内が萃香の弾幕で埋め尽くされる。

 

「さぁて、巫女はこの攻撃に耐えきれるかな?」

「……耐えるんじゃないわ、避けるのよ」

「なっ……! あの量の弾幕を掻い潜って私のそばまで……」

「終わりよ! 霊符『夢想封印 集』!」

 

 嵐のような弾幕の中で、霊夢のスペルカード宣言が聞こえる。中の様子が全く分からないが、とりあえず霊夢は無事なようだ。

 

 少しすると萃香と霊夢の弾幕が晴れる。そこには変わらず宙に浮く霊夢と、少しだけボロボロになりながらも悠然と浮いている萃香の姿があった。

 

「! しぶといわねまだ動けるの!? もう一回、霊符『夢想……』」

「ぷふっ……あっはっは! まさかあれを全部避けるどころか反撃までされるとはね! 人間もやるもんだ! あっはっは!」

「……ちょっと! なに笑ってるのよ! まだ勝負は……」

「降参! 私の敗けだよ、完敗さ」

 

 上空から萃香の笑い声が聞こえてくる。どうやら決着、萃香は大満足したようだ。

 

「よっしゃよくやった霊夢! 満点だ!」

「……萃香の降参で決着かー。まぁ私はあの弾幕に耐え切れず負けたから、納得できるっちゃあ納得できるかな。ほいよー真、配当金だぜ」

「ん、ああ」

 

 魔理沙が、人差し指と中指に挟んで一円札を渡してくる。手渡しというのがなんともチープだ。っていうか倍率は1.1倍なのかよ。

 

「……少ないわ」

「……ですね」

「……なんか悪いな二人とも。少し回そうか?」

 

 俺と同じく霊夢に賭けた、レミリアと妖夢がそれぞれ二百文と百文を持って立ち尽くしている。俺が十円も賭けたせいで、二人の取り分も減ってしまった。なんだか申し訳なくなってくる。

 

「……いいわ。真はそれで霊夢に何か買ってあげなさい」

「ええ、それがいいですね。是非そうしてあげてください」

「……ありがとう、そうするよ」

「……となると、小銭だけ持っててもしょうがないわ。これもお賽銭に入れておきましょう」

「じゃあ私もそうします。霊夢さんには仇をとってもらったことですしね」

 

 レミリアと妖夢の二人が神社の賽銭箱まで歩いていく。二人から譲り受けた一円は、財布ではなく別のところにしまっておこう。

 霊夢もよく頑張った……なんて、弾幕ごっこ素人の俺が言うのもなんだがな。萃香が満足するレベルの闘いをしたんだ、十分誉めていい結果だと思う。

 

「……まだまだね。最初に防戦一方になったのは萃香をどこか見た目で侮っていたからよ」

「……十分しっかり対応できてたと思うが。誉めてやっていいんじゃないか?」

「ダメよ。ここで誉めたらあの子、ますます修行をしなくなっちゃう」

 

 保護者の紫は手厳しいな。この前紫を、霊夢たちの姉であると言ったが、母親と言ってもいいかもしれない。

 

「おーい真! 適当に盃二つ投げとくれ!」

「ああ……はいよ!」

 

 萃香に向かって、コップを変化させて作った盃を二つ投げる。萃香は器用に両方右手でキャッチしたあと、一つを霊夢に向かって手渡した。

 

「はい。みんな先に飲んでるみたいだし、私たちも飲もうじゃないか」

「……そうね」

「そうだ霊夢アレやろう、腕を組んで飲み合うの。あんたの実力も認めるし、ちょっとやってみたかったんだ」

「え、なによそれ」

 

 萃香が、自分の瓢箪から盃に酒を注ぐ。二人は、お互いの右手を組むように交差させてから盃を傾けた。任侠とかがやる義理の兄弟になる儀式みたいなやつだ。気がつけば萃香は霊夢を名前で呼んでいるみたいだし、萃香なりの認めた証だろう。

 

「あら……いいわねアレ。真、私たちもやる?」

「やらん」

「…………」

 

 紫の冗談は置いておこう。酒は自分のペースで飲みたいし、男女でやるのは変な気が……っておい紫、何でそんな目で睨んでくるんだ。

 

「……うわ、このお酒おいしい」

「だろ? 鬼の秘宝の一つだからね」

 

 お酒の味に霊夢は驚き、萃香は誇らしげに胸を張る。鬼の秘宝て……その瓢箪、作れたのは俺と河童の協力があったからだけどな。

 

「さあ、紫も真も飲もうじゃないか。これ飲むかい?」

「いただくわ」

「俺はもう少し弱いのを咲夜から……」

「だーめ。真も一緒に飲みましょ?」

 

 萃香の酒は強すぎる。少量でもすぐに酔いが回るので、どうせ飲むなら長く楽しめる弱い酒がいい。そう思ってこの場を離れようとしたのだが、しかし霊夢に回り込まれてしまった。

 

「折角私が勝ったんだから、お祝いに私に付き合ってくれたっていいじゃない?」

「そうだ、負けた私を慰めるために私に付き合うべきだよ真は」

 

 霊夢が右側で、萃香が左側でとんでもない理論を展開してきた。その考えだと、二人の勝敗が入れ替わっていても同じ理論で丸め込まれる。全ての道はローマに通ずとはうまく言ったものだ。しかし俺は別の道を作り出す。

 

「……そうだ萃香。霊夢との弾幕ごっこは満足したんだろうが、純粋な力比べには飢えてるんじゃないか?」

「ん~? 確かにそういった勝負はここ最近してないねぇ……」

「じゃあ、ここで一つ賭けをしないか。萃香が勝ったら気の済むまで酒に付き合うけど、俺が勝ったら自分のペースで飲ませてくれ」

「へぇ! いいねそれ。で、何の勝負をするんだい?」

「腕相撲一発勝負でどうだ? だらだら長くやっても仕方ないし、萃香は霊夢と弾幕ごっこしたばっかりだからな」

「乗った! 賭け云々を抜きにしても真とは久しぶりに力比べがしたかったんだ!」

 

 萃香が俺の提案に乗ってきた。昔だと萃香の力は勇儀ほどではなかったから、純粋な力勝負では俺のほうに分があると思う。

 

「萃香、頑張って!」

「任しときな。私だってちょっとは強くなったんだから」

 

 霊夢が萃香を応援する。流れからしたら当然なのだが、霊夢は俺の味方であってほしかった。

 萃香と俺は、御座の上に腹這いになって向かい合いお互いに右手を差し出した。そのまま萃香の手を握る。小さく柔らかい手のひらだが油断は出来ない。この手にはしっかりと鬼のパワーが潜んでいる。

 

「……用意……始め!」

 

 ズン!!!

 

 霊夢が試合開始の合図を言うと同時に、地面が大きく音を立てた。肘から感じる地面の感触が、少しだけへこんだ感じがする。しかし俺と萃香の腕に動きは無く、ピタリと止まったままだった。

 

「くっ……!」

「……真、本気出してる? このままだと私勝っちゃうよ?」

「え? ……うわっ!」

 

 俺の腕が萃香によって、徐々に右側に傾き始める。萃香のヤツいつのまにこんなに力を…… このままでは負けてしまう。力を温存したまま負けるなんて馬鹿らしい、俺は尻尾を四本解放した。

 

「……お」

 

 押されていた俺の腕が止まる。くそっ、四本も解放したのに釣り合うだけか。仕方ない、もう少し尻尾を解放しよう。

 

「……ふんっ!」

「……おおお!? 負けるか!」

 

 尻尾を六本まで解放する。何とか最初の状態まで戻すことに成功したが、そこからまた動かなくなってしまった。

 

「…………っ」

「! 今だ!」

 

 呼吸を止めて力を込めていた萃香が、一瞬だけ息を吐き出した。すかさずその隙を狙って、尻尾をさらにもう一つ顕現させて思いっきり腕に力を込める。

 

「くっ……ああああああああ!」

「……っはー」

 

 萃香の手の甲が地面につく。思いっきり叩きつけるような音は鳴らないものの、ついたことは萃香自身が分かっているはずだ。俺は耐えていた息を吐き出して気を緩めた。

 

「……くっそー、負けたか。今回は自信あったんだけどなー……」

「いや…… 正直ここまで食い下がられるとは思ってなかった。俺に有利な勝負方法を提案したはずなのにな」

「……っかー、これで一日に二度も負けちゃったよ。こりゃ飲まないとやってられないね」

 

 萃香は寝そべった体勢から、起き上がって片膝を立てて座り直す。腰につけていた瓢箪を手に持って直接ごくごくと飲み始めた。

 

「……一杯くらいならそれ飲んでもいいけど」

 

 俺も体を起き上がらせ、萃香の前で胡坐をかく。

 

「……本当かい? それなら…… いや、やっぱりいいや。鬼は約束を守るからね、負けたんなら素直に引き下がるよ。その代わり……よっと!」

「おっ?」

「っはー、真の尻尾久しぶり! 相変わらずもふもふで座り心地がいいね。今日は昔みたいに真の尻尾で寝ようかなー」

 

 萃香が俺の尻尾の一つに飛び乗ってくる。昔みたいにってそんな、頻繁に萃香が俺の尻尾で寝てたみたいに言うなよな。そんなこと数えるくらいしかなかっただろう。

 

「……っていうか乗られたら酒を取りに行けない……まぁいいか」

「し、真!」

「ん、なんだ霊夢」

「私もその……真の尻尾触っていい?」

「ああいいぞ、ほら」

 

 霊夢の顔の前に尻尾を一本持っていく。霊夢は「わぁっ」と顔を明るくしてその尻尾に触り始めた。

 

「えへへ……」

「お、真の尻尾に触ってもいいのか? それなら私も……どーん!」

「うわっ……魔理沙お前、いきなり尻尾にダイブしてくるなよな」

「……おおお!?」

 

 いつの間にかそばにいた魔理沙が、俺の尻尾の束に向かってそのままボディプレスをしてきた。一言断りを入れてきた霊夢とはえらい違いだ。俺の尻尾なんだから当然俺にも感覚が伝わるので、見てないところでいきなり触られると驚いてしまう。

 俺は尻尾の上に寝そべる魔理沙を尻尾で掴み、そのまま宙へと吊り上げた。

 

「うわー、高いぜ! 動けないぜ!」

「真、私も私も!」

「ん? ほい」

 

 なぜか霊夢が頼んでくるので、魔理沙と同じように尻尾で包んで宙に浮かす。別に意識して浮かそうとしなくても、俺の尻尾は重力など無いかのように勝手に浮く。それは誰かを掴んでいても変わらない。

 

「うわー浮いてるー。 ……真、もうちょい緩めて、両手出すから」

「……こうか?」

「ありがと。へへー、真の尻尾……」

 

 霊夢が俺の尻尾を両手で触ってくるので、少しだけだがくすぐったい。俺の尻尾は指や舌と同じで先のほうが敏感である。

 

「あ、そうだ。尻尾伸ばせば酒取りにいけるな。魔理沙頼んだ」

「え? うわあ」

 

 俺は魔理沙を掴んだ尻尾を伸ばして、酒を取ってくるようにお願いする。咲夜のいるあそこらへんに、何本か酒が置いてあるな。

 

「……おーい咲夜ー。適当に酒を取ってくれ」

「はーい。 ……魔理沙なにその格好」

「てるてる坊主の気分が、いま初めて分かったぜ」

 

 尻尾を縮めて酒を手に取る。魔理沙の取ってきた酒で、改めて萃香と乾杯をした。

 

 今日で萃香の起こした異変は終わりとなる。ならば今まで開かれた宴会よりも、もっと楽しむべきだろう。

 今回の異変について、皆がどのようなタイミングで違和感に気付き、どのようなことをしてきたか聞いてみるのも面白い。

 そうだな、まずは妖夢をなぜか襲ったらしい咲夜の話でも聞いてみようかな。

 

 


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