東方狐答録   作:佐藤秋

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第六十二話 幻想郷縁起作り①

 

「さて、それじゃあ早速取材に行きましょうか! 真さん、阿求さん!」

「なんで文が仕切ってんだ。言っとくけどお前はオマケなんだからな」

 

 意気揚々と人里から出ていこうとする文にひとこと言っておき、俺は阿求の隣を歩く。今回の俺は阿求に同行するためにここにいるのだ。

 

 

 いま俺は阿求に頼まれ、阿求の取材の護衛をしている。取材というのは阿求が纏めている幻想郷の妖怪についての本"幻想郷縁起"についての取材だ。阿求を太陽の畑まで幽香に会わせに連れていったことが原因だろうか、阿求は直接妖怪に話を聞くことの重要性に気付いたらしい。

 人里の甘味処で団子を貪っていると阿求に会い取材の同行を頼まれ、そこに偶然居合わせた文がそのままついてくることになった、というのが今までの流れだ。文は黒髪なのであまり目立たず、同じ団子屋にいることに気付かなかった。

 

「……そういえば阿求、幻想郷縁起には文のことも書いてあるのか?」

「ええ、ありますよ。文さんは人間相手にも商売をしてますからね、人里でも話を聞ける機会は多いんです。 ……ありました、どうぞ」

「ん、どれどれ」

 

 阿求に本を手渡され、開かれたページに目を通す。文についての種族やら人間友好度やら危険度やら、前に俺が聞かれたことと同じような内容が書かれていた。

 

「"伝統の幻想ブン屋"ねぇ…… かっこいい二つ名だな」

「それは文さんに言われて書いたんですよ。私は"里に最も近い天狗"がいいと思ったんですが」

「やはり新聞記者というのが私ですから。真さんの二つ名は何ですか?」

「なんだっけ。"掴み所のない幻想の浮雲"?」

「"人間よりも人間寄りの狐"です。何ですかそのかっこいいの」

「……ちぇー」

 

 あまりかっこよくない自分の二つ名に少し唇を尖らせる。なかなか決まっている文の二つ名に比べると、俺のはなんとも地味な二つ名だ。とはいえ二つ名など適当につけられたものなので、そこまで気にしないことにしよう。

 

「……ところで、今からどこに向かうんですか?」

「紅魔館だ」

 

 文の質問にとりあえず答える。文がいるなら妖怪の山でも良かったが、文が来る前にもう既に紅魔館まで連絡の式を送ってしまった。次に一緒に取材に行く機会があれば妖怪の山に行こうと思う。

 

「紅魔館といえば……紅霧異変を起こした吸血鬼の住む館ですか。 ……また怖そうなところを選びましたね」

「大丈夫だって。幽香と同じで、会ってみれば普通のヤツらだよ」

「そうですか…… 幽香さんは予想以上に良い人でしたからね。ほらこの髪飾り、幽香さんからいただいたんですよ」

「へぇ、良かったじゃないか。似合ってる似合ってる」

 

 阿求の頭についている花の飾りを見て、俺は素直な感想を漏らす。阿求は背が低いので、俺の目線からだと特に目立って丁度いい。

 

「幽香さんっていうとあの花妖怪の? うわぁ…… 真さんは幽香さんともお知り合いだったんですか?」

「昔からのな。幽香が子どものときから知っている」

「えっ! それはまた初耳ですね…… そこのところ詳しく教えてもらってもいいですか!?」

「幽香に聞いてくれ。昔の話とか本人の許可無く話すのは悪いからな」

「……それができたら苦労しませんよ」

 

 文がはぁーっと息を吐く。幽香も紫も、昔の話をされるのは嫌いみたいなので勝手に話すわけにはいかない。それに文に話すと噂があっという間に広まってしまう可能性がある。俺だって命が惜しい、幽香を怒らせる真似はしたくない。

 

「紅魔館までどれくらいですかね?」

「そうだな……半刻も歩けば着くと思う。疲れたか?」

「いえ、大丈夫です」

「……そういえば、何で飛んで行かないんですか? そうすればあっという間に着けるのに」

「やれやれ、分かってないな文は。こういうのは移動時間が一番楽しいんだよ。のんびりと歩きながら話をする。それがいいんじゃないか」

 

 俺は肩をすくめてやれやれといった動作をする。文は普段飛んでばかりなんだろうが、ここは人間の阿求に合わせて歩くべきだろう。

 

「あ、でも阿求がさっさと行きたいなら俺が運ぶから言ってくれよ。それに歩き疲れたら俺が背負うし」

「ふふふ、ありがとうございます。でも大丈夫、私も歩くのが楽しいですから」

「そうか」

「真さん! 私は歩くの疲れました、背負ってください!」

「お前は飛べよ」

「あたっ」

 

 俺は文の額にチョップをかます。自分の額をさすりながら唇を尖らせる文をつれて、俺たちは紅魔館へと歩いていった。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「お、妖怪発見」

「あの黒い玉は……ルーミアちゃんですね」

 

 紅魔館への道のりの途中、空に黒い玉が浮かんでいるのを発見した。闇を操る妖怪ルーミアである。

 歩いて行くのにはこういうメリットも存在する、途中で出会った妖怪にも話が聞けるのだ。とはいえ阿求はルーミアの名前をちゃん付けで呼んでいるので、知り合いであることが推測できる。 ……こいつはちゃん付けする妖怪じゃないと思うけどなぁ……

 

「おーい! ルーミアー!」

「……お?」

 

 俺の声を聞いて宙に浮かんだ黒い玉はふらふらとした動きを止めると、闇が晴れて中からルーミア本体が現れた。

 ルーミアは地面にいる俺たちに気付き、両手を真横に伸ばした体勢でそのままゆっくりと降りてくる。

 

「……おー、真と阿求と文ねーちゃんか。珍しい組み合わせだなー」

「ルーミアちゃんこんにちは。今日はお散歩?」

「今から遊びに行く途中なのだー」

「遊びに行くってことはチルノと大ちゃんか。また紅魔館で遊ぶのか?」

「そんな感じだー」

 

 妙に語尾を間延びさせた調子でルーミアが答えていく。阿求たちの前でもそのしゃべり方なのか。

 

「真さんはルーミアさんとも知り合いなんですか。妖精たちも知ってるみたいですし意外と顔が広いですね」

「偶然だ。新聞配達でいろいろ飛び回ってる文ほどじゃない。ルーミアとは幻想郷に来る前からの知り合いでな」

「へぇ! 幽香さんに続きルーミアさんまで! 子どものときの知り合いが多いんですね。もしかして真さんはロリで始まってコンで終わる病気ですか? 阿求さんとも二人で話してましたし……」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 文は本当に俺のことを上司だと思ってるのだろうか、意外と軽口を多く叩いてくる気がする。とはいえ文が冗談で言っていると分かっているため、本気でぶっ飛ばそうなどとは思っていない。本当にロリコンだったら焦ってたかもしれないけれど。

 

「……つーかルーミアは今でこそ見た目は子どもだけど、初めて会ったときは文以上に成長した姿だったからな。めっちゃ美人さんだった」

「あはは、そんなわけ無いじゃないですか。じゃあなんで今ルーミアさんはこんなに小さいんです? 時を経て若返っていくなんて数奇な人生を歩む妖怪じゃあるまいし…… ねぇルーミアさん?」

「……ちょっと真、昔の話はしないでよ。今の私は無害な妖怪なんだから」

「……え?」

 

 昔の口調に戻ったルーミアを見て、文が口を開けたまま言葉を失った。おお、こっちの口調もいいな、見た目とのギャップがなかなか良さ気だ。

 

「ル、ルーミアちゃん?」

「なんだー? 阿求?」

「き、気のせいですか…… 私が気のせいなんて珍しいですね……」

「いや気のせいじゃないよ、ほら」

 

 そう言いながら、俺はルーミアの頭のリボンを外す。確かこれを取ればルーミアは元の姿に戻るはずだ。

 

 リボンが外れて程なくして、ルーミアは俺の記憶通りの大人の姿へと変身した。

 

「わぁっ!! あ、あわわわわ……ルーミアちゃんが大人に……」

「な…… え? ルーミアさん…… え?」

「……ちょっと何するのよ真」

「すまん。こいつらの驚く顔が見たくて」

 

 俺の期待通り、阿求と文が絶句している。驚いた顔ってのはいつ見ても面白いな。それに阿求は人間だから、俺の妖力まで回復する。

 

「ああもう、面倒なことに……」

「……悪いな。今ならまだ俺の変化の術でのドッキリってことで誤魔化せるけど」

「……別にいいわ。そこまで本気で隠してたわけじゃないし」

「そうか、すまんな」

 

 とりあえず勝手に元の姿に戻してしまったことに対して、もう一度ルーミアに謝罪をする。勝手に秘密をバラすのは良くないよな、一応アフターケアができると思ってやったんだ。あまり気にしてないようなので安心する。

 

「……はっ! こ、これはスクープです! しゃ、写真を……」

「はい終了」

 

 我に返った文が慌ててカメラを取り出そうとしたため、ルーミアの頭にリボンを戻す。ルーミアは見る見るうちに子どもの姿に戻っていった。なんとも凄いリボンだな、封印をうまく解いたの俺だけど。

 

「あー! ルーミアさんがまたいつもの姿に!」

「……人で遊ばないでちょうだい」

「……はっ! ル、ルーミアちゃん今のは一体……」

「……さっきの姿が元の私よ。今の私はこのリボンで封印された姿なの」

「……そ、そんな秘密があったなんて……」

 

 遅れて阿求も正気に戻る。大きい姿を隠すなんてルーミアも変わってるよな。俺は逆に小さい姿を隠しているし、それをバラすつもりはない。

 

「い、いえ……そういう驚きを感じたいからこそ私は真さんに同行をお願いしたんでした…… まさかルーミアちゃんに驚かされるとは思わなかったけど…… ルーミアちゃん! 今一度話を伺ってもいいでしょうか!」

「私も! 写真が駄目ならせめてお話を聞かせて下さい!」

「え? ええと…… あはは、まぁお手柔らかにたのむぞー……」

 

 阿求と文がそれぞれルーミアに詰め寄っていく。この二人、意外と似ているのかもしれない。

 

「ルーミアさんはどういう経緯で今の姿にされたんですか? 先ほど一瞬感じた妖力はただ者ではありませんでしたし、ルーミアさんを封印したものもまたかなりの存在だと推測できます!」

「元のルーミアちゃんはどんなことができるんですか? なぜ今の姿のまま生活して、人間を襲ったりしないんですか?」

「こ、この姿だと人間をあまり食べる必要が無いし……むかし真に人間はできるだけ襲わないでくれって頼まれたのもあってだなー……」

 

 ルーミアが口調も統一できないほど、しどろもどろに答えていく。二人ともがっつきすぎだ、これじゃあ歩きながらの話もできない。

 二人が一息つくまで、気長に待つことにしようかな。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 文と阿求がルーミアに怒涛の質問ラッシュを始めてから三十分、ようやくその波が終了した。やりきった顔の二人とは対照的に、ルーミアはげんなりとした顔をしている。

 

「つ、疲れたのだー……」

「おっと。お疲れ、大変だったな」

 

 質問に答えていただけなのに、ルーミアはかなり体力を消耗した様子だ。膝を折ってふらつくルーミアを、俺は後ろからそっと支える。

 

「ふぅー! 写真が無いので新聞記事にはなりませんが、面白い話が聞けて満足です!」

「私もです。これは帰ってからの編集作業に力が入りますね」

「……言っとくけど、今日の目的は紅魔館だからな? なんかやりきった顔してるけど」

「そうですね。それも今から楽しみで仕方ありません」

「ちゃんと覚えてはいたんだな。じゃあさっさと行こう。 ……よっ」

 

 俺は支えていたルーミアをこちら側に向けると、両腋の下に手をいれてそのまま抱き上げる。元のサイズのルーミアなら分からないが、今のルーミアを持ち上げるのは簡単だ。

 思わぬところで時間を使ってしまった。まだまだ日はあるし紅魔館の連中には具体的に何時頃行くかは明言してないので問題は無いが、ここはさっさと移動を再開しよう。

 

「わぁっ」

「さ、行くぞ。ルーミアも、チルノたちと遊ぶ約束してるんだったよな」

「……あー、そーだったのだー。でも何で私は真に抱えられてるんだー?」

「なに、疲れてそうだからこうやって運ぼうかと思って。嫌か? 嫌なら下ろすが」

「……嫌じゃないのだー。真ー」

 

 ルーミアは、自分が落ちないよう俺の首元にしがみついてくる。俺は左腕をルーミアの腿の下へ、右手をルーミアの背中にそれぞれ回して支え直した。ルーミアの小ささならこういう風に抱えるほうがやりやすい。

 

「よしよし。軽いなルーミアは」

「そーなのかー」

 

 中身はどうであれ今のルーミアは完全に子どもなのでかわいらしい。俺はルーミアの頭を撫でながら、紅魔館に向かって歩き始める。

 

「……やっぱり真さんは、ペドから始まるフィリアを持った人なんじゃないですか? 今のルーミアさんに随分優しくしてあげてますよねぇ……」

「張り倒すぞ。っていうか、子どもたちの前でそんな話をするんじゃありません。変な言葉を覚えたらどうするんだ」

「はーい、すいません。真さんはいつでも優しいですよね。自分を食べようとしたルーミアさんに対して、特に怒ることも無かったみたいですし」

「……そんなことも話してたのか」

 

 ルーミアが質問攻めに合っている間、俺は話半分にしか聞いていなかったので少し驚く。そこはあまり優しいとは関係無い気もするが、否定することもないだろうとそのままにしておいた。

 

「……あのときは随分と変わった妖怪に会ったものだと驚いたわ。私より強いのに怖くないんだもの」

「別に、ルーミアだって話したら分かってくれたし普通だろ」

「……真さんの普通の基準は高いですねぇ。まぁそれが真さんの良いところですけど」

「そんなもんかなー。 ……あ、そうだ阿求。ルーミアの二つ名はなんなんだ?」

 

 ふと思い付いたことを阿求に尋ねてみる。個人的に幻想郷縁起の中で一番気になる項目だ。危険度とか人間友好度とか俺には関係無いからな。

 

「えーっとルーミアちゃんは"宵闇の妖怪"ですね」

「へぇ、シンプルだな。今回の話を聞いて変えたりしないのか?」

「しないでおきます。本質は変わってないと思うので」

 

 なんだ残念。『闇を操る程度の能力』なんていう強力な能力を持っているから、もっとかっこいい二つ名でもいいと思ったんだけどな。そうだな、例えば……暗黒魔丸球(あんこくまがんきゅう)とか。

 

「いいのかルーミアはこれで」

「私は何でもいいのだー」

 

 ルーミアの口調がまた変わる。紅魔館に近付いてきたからだろうか、チルノたち相手にはどうあってもこれで通すつもりなのだろう。

 

 霧も出てきたしもう少し歩けば紅魔館が見えてくるはずだ。

 少しだけ目を凝らしながら歩いていくと、建物より先に子どもたちの姿が見えてきた。

 

「あ、やっと来たわね! あたいを待たせるなんていい度胸してるじゃない!」

「まあまあチルノちゃん、来たんだからいいじゃない。でも私もルーミアちゃんが遅いから心配しちゃった」

 

 子どもたちはルーミアを見つけてこっちに駆け寄ってくる。阿求風に二つ名を付けて呼ぶならば、"自称サイキョーの氷妖精"のチルノと、"チルノの参謀長官"の大ちゃんだ。

 今日はその二人の他に、見知った妖怪がもう二人来ていた。"幽香に群がる蟲妖怪"のリグルと"妖怪屋台の歌姫女将"のミスティアである。この二人もチルノたちの友達だったのか。

 

「ごめんー、この二人に捕まって遅れたのだー」

「む、阿求に天狗ね。またあたいのブユウデンを聞きたいのかしら?」

「お兄さんお久しぶりです。またルーミアちゃんと一緒に来たんですね。 ……いいなぁルーミアちゃん」

「ああ、大ちゃん久しぶり。よっと」

 

 大ちゃんに挨拶しながら抱えていたルーミアを降ろす。何やらルーミアを羨ましそうな目で見ているような気もするが気のせいだろうか。

 

「真さんこの間のとき以来ですね。阿求ちゃんも」

「真……? 思い出した、あのときの! また会ったわね!」

「リグルもミスティアも久しぶり」

「……真さんはこの子たちとも知り合いなんですか? やっぱり小さい……」

「文、三回目となるとさすがにしつこいぞ」

 

 またまた変なことを考えている文をたしなめる。いいかげんそのネタは飽きてきた、仏の顔も三度までだ。俺は文を放って阿求のそばまで歩いていく。

 

「阿求、こいつらに話は聞くか?」

「そうですね……チルノちゃんと大ちゃんはルーミアちゃんを通して、リグルちゃんは幽香さんを通してそれぞれ話を聞かせてもらったことがありますから十分です。ルーミアちゃんみたいに何かあるなら別ですが」

「……とりあえず俺は知らないから今回はいいか。じゃあミスティアにだけ話を聞かせてもらおう。ミスティア、ちょっといいかー?」

 

 またも目的地の前で別の妖怪に出会ってしまった。出会ってしまったならついでに取材に協力してもらおう。どうやら阿求はミスティア以外とは既知の仲らしいので、今回はミスティアにのみ話を聞かせてもらうことにする。

 

「何? 真」

「ミスティアのことをいろいろ教えてほしいんだ」

「えっ? そ、そういうのは、今後付き合っていくうちにいろいろ知っていっていくものじゃない?」

「? 一体何を……」

「真さん、言い方が紛らわしいですよ。 ……初めまして、私は稗田阿求といいます。ミスティアさん……でよろしいでしょうか、実はですね……」

 

 阿求が俺の言葉を遮って、俺とミスティアの間に出る。実際用があるのは阿求のほうなので、阿求自身が説明してくれるならそれに越したことはない。

 

「……というわけです」

「なるほどね。いいわ、どんどん聞いてちょうだい!」

 

 どうやら取材に協力してくれるみたいだ。それならその間俺は、遊び相手を取ってしまった子どもたちに事情を説明して待ってもらおう。

 そう思って振り返ってみると、文が子どもたち相手にいろいろと話を聞いていた。

 

「いつも皆さんは一緒に遊んでいるみたいですね。今回は何をして遊ぶ予定で?」

「かくれんぼよ! 前回はあたいの一人勝ちだったからそのリベンジがしたいんですって!」

「だってチルノちゃん、前回遠くまで隠れに行っちゃったんだもの。それじゃあ見つけられないよ」

「今回はルーミアちゃんが弾幕ごっこの結界を使って隠れる範囲を指定することを思いついたから、そうすることにしたんです」

「そーなのかー」

「なるほど……結界をそのように使うというのはなかなか面白いですねぇ……」

 

 文は文で子どもたちに聞く話があるようだ。これなら別に待たせている間退屈することもないだろう。

 俺たちは目的地の紅魔館を目前にして、少々ここでも時間を使うことにした。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「……はい、ありがとうございましたミスティアさん。今回のお礼はいつか必ず……」

「いいってこれくらい。良かったら今度私の屋台に八目鰻を食べに来てね! 真と一緒にでも」

「はい、是非」

「……お。終わったみたいだな。ほらお前ら終わったみたいだぞ、降りろ降りろ」

 

 阿求とミスティアの話が終わったらしく、俺は俺の体をアスレチック代わりにして遊んでいる子どもたちに呼びかける。チルノがそうやって遠慮無しにしてくることは意外でもなんでもないが、大ちゃんやリグルも混ざってくることは予想外だった。やはり子どもは集団になると行動が大胆になってくる。

 

「おー! それじゃあかくれんぼ始めるよ! 皆あたいのところに集合!」

「じゃんけんするのかー」

「じゃあお兄さん。遊んでくれてありがとうございました」

「おう。 ……大ちゃんが一番いい子だな」

「えへへ……」

 

 一人だけきちんとお礼を言える大ちゃんの頭を撫でた後、子どもたちはわーっとチルノのところに集まっていった。逆に俺と文は阿求のところまで歩いていく。

 

「……文さんはミスティアさんに話を伺わなくてもよかったのですか?」

「ふふふ……ちゃんとお二人の話を聞いていたので十分です。できれば次は屋台で取材したいですね。真さん、一緒に行きましょうか」

「ああ、機会があったらな」

 

 子どもたちに手を振りながら、紅魔館に向かって歩いていく。俺はもう一度式神を作り出すと、もうすぐ着くことを紅魔館の連中まで連絡しておくことにした。

 

 

 

 

「……なぁ阿求、ミスティアは二つ名も決まったのか?」

「ええ。ミスティアさんは"夜雀の妖怪"です」

「へぇ、これもシンプルだな。そういえばチルノや大ちゃんにも話を聞いたんだな、妖精なのに」

「妖精も広く見たら妖怪ですからね。ちなみにチルノちゃんと大ちゃんの二つ名は、それぞれ"氷の妖精"、"臆病な妖精"ですよ」

「ふーん。リグルは?」

「"闇に蠢く光の蟲"です」

「……リグルだけ妙にかっこいいな」

 

 


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