東方狐答録   作:佐藤秋

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第六十六話 幻想郷縁起作り③

 

 霊夢が風邪を引いた翌日、今度は魔理沙が風邪を引いた。『私は馬鹿じゃないけど風邪は引かない』などと(のたま)っておいて馬鹿みたいだが、魔理沙は霊夢を心配して一緒にいたのだから馬鹿にはできない。幸い霊夢の風邪は治ったようだし、魔理沙が代わりに引き受けてくれたのだと考えよう。

 

 風邪を引いた魔理沙は霊夢に任せ、朝から人里まで出かけることにする。二人には悪いが、前からそうする予定だったのだ。病人と病み上がりを残しておくのは忍びないが、萃香もいるし大丈夫だろう。霊夢たちより遥かに長く生きているので、たまには年上らしいとこを見せてくれ。

 

 

 

 

 人里で阿求の屋敷を訪ね、今日は約束通り妖怪の山まで行くことにする。とはいえ妖怪の山全部を案内することはできない。妖怪の山では部外者の侵入を禁止しているためだ。

 一応俺の立場ならそんなものは無視できるのだが、上司が簡単に約束を破ったら他の者に示しがつかない。今回案内できるのはせいぜい麓まで、紹介できるのはそこに住んでいる河童たちくらいだろうか。

 

 ちなみに今回も文は同行している。目的地が妖怪の山なのだからそこで待っていればいいものを、律儀にも人里からついてきた。

 

 妖怪の山までは距離もあり、途中の道はお世辞にも整備されているとは言い難い。なので非常に残念ではあるが、歩いてではなく飛んで向かうことにした。

 

 

 

 

「真さん、私も! お姫様抱っこして欲しいです!」

「お前は飛べるだろうが」

「ぶーぶー、前はやってくれたのにー」

「阿求、しっかりつかまってろよ」

「は、はい!」

 

 阿求を抱きかかえて妖怪の山まで飛んでいく。阿求は背は低いが萃香やフランほどではないため、なんだかんだでこの持ち方が一番運びやすい。

 俺は揺らさないようにできるだけゆっくり飛んでいるのだが、文はそんな俺の周りをグルグルとアクロバティックに飛んでいる。よくそんな飛び方ができるものだと感心するが、気が散るので普通に飛んでほしい。

 

 道中は文の飛び方以外は特に問題も無く、無事に妖怪の山までたどり着いた。ここからは歩いて移動しよう、変に飛んで侵入者だと思われるのも面倒だ。

 

 今の季節は秋の半ばごろだろうか、妖怪の山は見事な紅葉に包まれている。森の中に降り立って、俺は阿求を地面に降ろした。

 

「ここからは文に任せていいんだよな?」

「はい! えーと確かこの辺に……」

 

 今回の道案内は文に任せる。俺だって河童たちの住む池ぐらいは知っているが、それもかなり昔の話だ。今もこの山に住んでいる文に任せたほうがいいだろう。俺の役目は阿求の護衛のみ、下手したら俺は必要ない。 

 文の後ろを阿求と共についていくと、文は森の途中で足を止めた。

 

「あ、いましたよ! 椛ー!」

「文様。今日は一体どう…… あれ、真様?」

「お、椛じゃないか。少しだけ久しぶりだな」

「お疲れ様です!」

 

 椛が俺を見るなり頭を下げてくる。ここに椛がいたのは偶然ではない、おそらく文が呼んだのだろう。俺としては取材対象が増えるので問題は無い。

 

「今日は休みか?」

「は、はい! 文様に言われて有給を……」

「そうかそうか」

「は、はううぅ……」

 

 久しぶりに会った椛の頭に手を当てる。相手が嫌がるかもしれないので普段は自重しているが、椛相手だとそんな心配はしなくていい。撫でると尻尾がブンブンと揺れるため、嫌がっていないことは一目瞭然。顔を赤くして撫でられている椛はとてもかわいらしい。

 

「……彼女は?」

「白狼天狗の犬走椛、一応私の部下に当たりますね。 ……それと真さんのお気に入りです」

「あー、そうみたいですね。どちらも犬の仲間だからでしょうか」

「知らないです」

 

 撫でるたびに椛の耳がピクピクと動き、このままずっと撫でていたい感覚に駆られる。いっそのことこのまま抱き締めてしまおうかとも思ったが、阿求の前なので我慢しよう。

 

 文は阿求に椛のことを教えているようだ。それなら俺も椛に阿求のことを教えよう。俺は椛を連れて阿求の元まで戻っていく。そういえば椛は文に、取材のことを聞かされているのだろうか。  

 

「椛、この子は……」

「人間……侵入者ですか?」

「……やっぱり文のヤツ説明してなかったんだな。いいや、山の中までは入らせないから侵入者じゃない。妖怪の山の麓にいる妖怪の取材に来たんだ、椛も協力してあげてくれ」

「……なるほど、侵入者ではないのですか。取材ということは…… とりあえず、人間たちに山に近付くなと改めて警告もできますね」

 

 そう言って椛は阿求と目線を合わせた。椛は無礼な侵入者には容赦しないが、それ以外の相手には理性的である。阿求は本当に子どもとは思えないほど礼儀正しいし、心配することは無いだろう。

 

 俺の予想通り、椛と阿求は問題なく話を続けていく。二人の様子を見守っていると、横から文が飛びついてきた。

 

「真さん!」

「うおっ、何だ」

「暇なので私に構ってください。ほら、丁度いい位置に私の頭がありますよ。撫でてください」

「暇って……文も話を聞けばいいじゃないか」

「今さら椛に何の話を聞けって言うんですか」

「確かに」

 

 文の言うことに納得しつつも、右腕にくっつく文を引き剥がす。そして改めて空いた右手で、文の頭をグシャグシャと撫で回した。撫でていいと言うならそりゃあ撫でる。

 

「……よーしよしよし」

「~♪」

 

 前回の取材時は何かと文を邪険に扱ってしまったせいか、撫でてやるとやけに満足そうな顔をする。黙っていれば文もかわいいな。いやうるさく近寄ってくるときもかわいいと言えばかわいいけれど。

 

 文は黒髪だし、頭の変な飾りを外したら霊夢と少し似ているかもしれない。髪の長さは霊夢のほうが少し長いかな。あと他には……文は霊夢と違って耳がピンと尖っている。

 

「ひゃあっ」

 

 文の耳に軽く触れると、文の口から気の抜けた声が漏れる。少しくすぐったかっただろうか。

 俺は何事も無かったように頭をまた撫でなおしていると、文がジトッとした目で俺を見てきた。

 

「……真さん」

「……な、なんだ?」

「……やったなー!」

「うわぁっ!」

 

 文がいきなり俺の首元に抱き着いてきて、危うく後ろに倒れそうになるのを何とかこらえる。危ない危ない……って顔が近い! 

 文は更にその顔を近付けてきて、俺の横を通り過ぎた。なんだなんだと思っていたら、耳元で文が囁いてくる。

 

「……お返しです」

「……へ?」

「はむっ」

「ひっ」

 

 文に耳を(くわ)えられ、思わず変な声が漏れる。歯を立てられているのではなく、上唇と下唇でハムハムと耳をくすぐられている状態だ。

 

「ちょっ……文、やめ……」

「ひゃめません」

「そ……のまましゃべるなっ……」

 

 感触があるのは耳なのに、なぜだか背中にビリビリと電流が流れる。何だこの状態は……腰と膝がガクガクと震えて、うまく立っていられない。

 文はそれを察したかのように、背中に指をツツーッっと這わせてきた。

 

「……っ! っっ!!」

「……おや~? 図らずも真さんの弱点を見つけてしまったようですね♪ ここがいいんですか~?」

「い、息が……」

 

 文がしゃべると耳に息がかかって更にくすぐったい。くっそーこの声……文のムカつくニヤニヤ顔が簡単に想像できる。

 俺は今どんな顔をしているのだろう。このまま文の吐息を聞き続けていたら、脳みそが(とろ)けてしまいそうだ。

 

「あ、文……もう…… もう……!」

「ああっ良い! 良いですよその声! そうだ最近河童が開発した音声が記録できるレコーダーでこの声を……」

「あ、あんまり調子に……乗んな!」

「いたー!?」 

 

 文の手が止まった一瞬の隙を突いて、すかさず文に頭突きをかます。 ……全く油断も隙もあったものじゃない。カメラもレコーダーも変なことに使わず、新聞作りに活用しろ。

 

 俺は自分の口に手を当て、乱れていた呼吸を整える。阿求や椛に見られてなかっただろうな? 二人のほうに目をやると丁度話が終わったような様子である。

 

「なるほど…… 椛さん、協力ありがとうございました」

「いえいえ、阿求さんみたいな人間でしたらこのくらい…… 文様? どうしたんですか?」

「うう~、椛~」

 

 取材が終わったであろう椛の元へ、文が自分の頭を押さえながら歩いていく。取材が終わるの結構早いな、ともあれ俺の醜態を見られなくて良かった。

 それにしても文のあの痛がりよう…… 手加減はしたはずだが、そんなに頭突きが痛かっただろうか。

 

「真さんにひどい仕打ちを受けました~…… うう~痛い……」

「……あ、はい」

「ちょっと!? 何ですかその淡白な反応は!」

「ええ……? どうせ文様が何かしたんでしょう?」

「してないです! ちょっとボディコミュニケーションをとっただけですから! ただのスキンシップですよ!」

「やっぱりしてるじゃないですか」

 

 文がなにやら椛の前で喚いている。椛のヤツ良く分かっているじゃないか、今回も全面的に文が悪い。

 ……いや、一応先に文の耳に触れてしまったのは俺だったっけ。でも"目には目を歯には歯を"と言うように、やられた以上のことをやり返すことはしてはいけないのだ。今回の文はやりすぎだった、ということでやはり椛は間違っていない。

 

「よしよしさすが椛、いい子だ」

「あ……えへへ……」

「ぐぅ……」

 

 俺が理由も無く暴力を振るわないと分かってくれた椛の頭を再び撫でる。文がぐうの音を出したところで、さっさと次に進もうじゃないか。

 

「さて、文行くぞ。案内しろ」

「うう……部下の扱いが荒いです……」

「真様、次はにとりのところに行くんですよね? でしたら私が……」

「いや文に案内させる。文を見えないところに置いてたら何をされるか分かったもんじゃないからな」

 

 文が俺の視界に入るように、きびきびと前を歩かせる。もともと今日の案内役は文だったのだ、そこに文句は言わせない。 

 

「……阿求さん、実はさっき真さんの弱点が分かったんですが知りたく……」

「椛、侵入者を連行するときに使う手錠とか縄を持ってないか? それを繋いで文に前を歩かせ……」

「さあ! ちゃっちゃと次に行きましょう!」

 

 意気揚々と前を歩く文の後ろを、俺たちは三人でついていった。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 木々が紅く染まった妖怪の山の森の中を、奥へ奥へと歩いていく。奥へと言っても麓を回り込むように進んでいるので、キツい坂などは特に無い。

 俺の命令通り文は先頭を歩いているのだが、器用にも俺と向かい合って後ろ歩きで進んでいる。よくもまぁそんな歩き方をして、頭を木にぶつけないものだ。

 

「ほら私の頭のここ触ってみてくださいよ。真さんのせいでタンコブが……」

「……あー、確かに少し膨れてるな」

「まったく……女の子の体に傷をつけるなんて……」

「はいはい、俺が悪かったよ」

 

 なんで俺が謝ってるんだろう。まだ文には謝られていないのに……女ってズルい。やっぱり暴力を振るったほうが悪いのか。

 

「そう思うならずっとそこを(さす)っていてください。優しく、愛を込めて!」

「こ、こうか?」

 

 しかし俺が頭突きをしたことで文がずっと暗くても困る、このくらいのことはしてやろう。俺は文の頭の腫れた部分を、注文通り撫でてやる。痛いの痛いの飛んでけーって感じでいいだろうか。

 

「えへへ……」

「満足か?」

「……じゃああとはこれくらいで許してあげます……よっと」

「わっ」

 

 文の頭を撫でていると、文は反転して俺の左腕に絡み付いてきた。先頭を歩けって言ったのに…… まぁもうすぐ森を抜けるだろうから別にいいか。それよりこの体勢だと、俺の耳が文に無防備にさらされることになる。どことなく警戒はしておこう。

 

 

 森を抜けて大きい川が流れている場所に出る。近くの橋を渡って少し川を上れば、にとりたち河童の住む場所に行けるはずだ。

 

 目的地まであと少し…… そう思い進むべき順路を見ていくと、橋の上に二人の少女を発見した。一人は、目的の人物ともいえる河童の河城にとり。いつもと同じ青い服と緑の帽子を被っている。

 そしてもう一人だが……誰だあれは? 多分見たことのない顔だと思うが…… というかその少女はなぜかくるくる回っており、周囲には黒いもやみたいなのがかかっているから顔が見づらい。しかしやっぱり見覚えのない少女だと思う。

 

「…………」

「真さん? どうかしまし…… あ、丁度にとりさんがいますね。(ひな)さんも一緒ですか」

「雛?」

 

 文もにとりたちを見つけたようだ、俺は文の言う少女の名前と思しき言葉を繰り返す。雛というのがあの回っている少女の名前だろうか、やはり初めて聞く名前である。

 

「ああ、真さんは雛さんに会うのは初めてでしたっけ? 彼女はですね……」

「あ、危ない!」

「え? あっ、ちょっ、真さん!?」

 

 雛と呼ばれた少女は、回っていたかと思えば急に高く飛び上がった。真上ではなく軸が少しズレており、このまま落ちるとあの川の中に一直線だ。

 俺は文の手を振り払い、少女に向かって一直線に飛んでいく。

 

 くそっこのままでは間に合わない!

 

 俺は尻尾を三本出して、更に速度を上げて川に落ちていく少女の元に飛んでいった。

 

 

「--っ!」

「……え?」

「……ふー、間に合った……」

 

 間一髪、少女が川に落ちる前にキャッチする。この川は流れもそこまで速くなく、おそらく落ちても死ぬことはない。しかしこの季節水温は下がってきているはずなので、濡れる前に追いつけてよかったと思う。

 

 俺は少女を抱えたまま飛び上がり、にとりのいる橋の上へと着地した。

 

「……ありゃ、川に落ちる前に雛が消えたと思ったら真が連れて戻ってきた。どしたの?」

「どしたのって…… いきなり川に落ちるところを見せられたら助けに行くだろ普通」

「あー、そういう…… とりあえず降ろしたほうがいいよ」

「そうだな」

 

 にとりに言われて抱えていた少女をゆっくりと降ろし、改めて少女の顔を見る。長い髪を前で束ねるという珍しい髪型をしているな。この緑色の髪をした子が雛か。雛は驚いた様子で目をパチクリと瞬いている。

 

「よいしょ…… 大丈夫か?」

「……はっ! わ、私から離れて!」

「え? あ、ああ……」

 

 雛に両手を突き出され軽く拒絶される。別に恩を売ろうとしたわけではないが、このような反応は少しショックだ。

 

 ゴロゴロゴロ……

 

 空に雲が出てきたのか辺りが暗くなる。まるで天気が俺の心を映し出したかのようだ。山の天気は変わりやすいと言うし、こんなこともあるだろう。しかし雨が降り出したらどうしようか。

 

「……ってあれ? 暗いのって俺の周りだけ?」

「……あー、遅かったか…… ってか普通、雛に触れた時点でアウトだったね」

「へ? 遅かったってどういう…… うわああああ!!」

 

 ザーーー!!!

 

 にとりの言葉を聞いた次の瞬間、大量の雨が降り出した。しかも俺のところにだけ。集中豪雨ってレベルじゃない。

 

 俺の体中がびしょ濡れになったところで雨は止んだ。なんて短くピンポイントな通り雨だろう。前髪が顔に張り付いて鬱陶(うっとう)しい。

 

「……なんなんだ一体……」

「真さーん! …………どうしたんですかそれ?」

「……俺が聞きたい」

 

 遅れて文たちが橋の上にやってくる。さっきまで普通だったのにいきなりびしょ濡れになって現れたら、そりゃあそんな反応になるだろう。

 

「あのね真、雛は厄を溜め込む神様なんだよ。真が雛に触れちゃったから、厄が流れて真に不運が訪れたの」

「……不運?」

 

 にとりが左手を腰に当て、右手の人差し指を立てながら言ってくる。今の集中豪雨は不運で片付けられる話なのだろうか。

 しかし実際に俺が雛に触れてから起きたのだから、にとりの言う通りなのだろう。 ……となるとさっき俺は雛に拒絶されたわけではなく、厄が移るから離れろってことだったのか。少しだけ気分が回復する。

 

「うん。それで今から雛は厄を祓うため川に流れようとしてたわけで、悪いけど真が助ける必要は無かったんだ」

「……あー、そうだったのか……」 

 

 どうやら俺は助けるどころか雛の邪魔をしてしまったらしい。折角回復した気分がまた落ち込んでくる。 ……いやしかし、落ちるところ見たらああするだろ絶対。

 

「……すまん、邪魔してしまったみたいだな」

「え? ええと……貴方は助けようとしてくれたんでしょ? それなら別に気にしないわ。ありがとう。久しぶりに誰かに触れたから私も嬉しかったわよ?」

「うう……優しい言葉が心に刺さる……」

 

 雛が俺に微笑んでくるが、俺が邪魔したという事実は変わらない。むしろ雛のその優しさが更に俺を責め立てる。しかし「ほんと、よくも邪魔したなこの馬鹿」とか言われても傷付くので、どっちにしても変わらない。雛が気にしてないと言うならそれが一番だと--

 

 ゴン!

 

「いってぇ!」

 

 脳内で気持ちを整理していたら、頭に岩が落ちてきた。まだ雨なら分かるがなんで岩が。俺が妖怪じゃなかったら死んでるぞ。

 

「ああ、いけない。移った厄を回収しないと……」

「……頼む」

「貴方、名前は?」

「鞍馬真。真と呼んでくれて構わない」

「そう。私は鍵山(かぎやま)雛。よろしくね」

 

 雛が俺に手をかざすと、俺の体から黒いもやが出て雛の周りに移っていく。この黒いもやは厄だったのか。

 

「よし、完了」

 

 俺の体から出ていった厄が、全部雛の周囲に漂っている。うん、一つ学習した。今のような状態の雛に触れてはいけない。触れたら先ほどの雨のような、訳の分からない不運が訪れる。

 

「……真さん、物凄く濡れましたね」

「ああ…… うへぇ中まで濡れて気持ち悪い。ちょっとどこかで着替えてくるか…… とりあえず一回脱がないと……」

「! 真さん! よろしければ私もお手伝いを……」

「変な手つきすんな。椛、文を見張っておいてくれ」

「任せてください」

 

 また変なことをしでかしそうな文は椛に任せるとして、ひとまず濡れた服を着替えたい。そうなると少しだけこの場を離れることになるが、周りが妖怪だらけの場所に阿求を残してもいいものか。

 

「阿求は、その……」

「私は大丈夫です、皆さんいい人みたいですから。早くしないと風邪を引きますよ?」

「……悪いな」

 

 俺は風邪は引かないのだが、この状態は気持ち悪いので着替えたい。阿求の善意に甘え、ひとまずはどこかで拭いてこよう。

 

「にとり、確か向こうに洞窟があったよな?」

「うん。あ、でも……」

「よし、じゃあちょっと行ってくる。後は任せた」

 

 俺がいなくても取材はできる。事情の説明は文と阿求に任せ、俺は橋の向こうにある洞窟へ向かって歩き出した。 

 

 


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