「えええええ!! ほ、本当に真!!?」
諏訪子が俺に持ち上げられた状態で、大きく驚いた声を出す。思わず耳を塞ぎたくなるほどの大声だが、今はそんなことをする余裕は無い。両手が塞がっているため物理的に難しいのもあるし、それ以上に俺も現在の状況に対して驚いていた。まさか早苗に案内された神社で諏訪子と再会することになろうとは。
「すごい! 真さんは触れることもできるんですね!」
チラリと横に目をやると、早苗は早苗で驚いている。一体早苗は何に対してすごいと称賛しているのだろうか。
何に驚いているのかは分からない早苗は置いておき、俺は今の状況を整理しよう。
早苗に偶然案内されたこの場所は、見れば分かるが守矢神社という神社だ。俺にとってこの場所はかなり懐かしい場所になる。
ここは俺が旅を始めてから、百年以上長居した初めての場所だ。滞在している間はずっと、この諏訪子と共に過ごしていた。
あれから何年の時が過ぎたのだろうか…… おそらく千は越えていると思う。それだけ時間が経ったというのに、諏訪子は未だに小さいままだ。いま俺が諏訪子を持ち上げている腕には、力を全く込めていない。
「こっ、こら真! いい加減降ろさないと……」
「……諏訪子! なに外で騒いでるんだい!?」
諏訪子と早苗の声を聞き付けて、神社からまた別の誰かが現れた。そうだ、この守矢神社にはずっと諏訪子と二人で過ごしていたが、途中で同居人が増えたんだ。
一人は緑という名前の、緑色の髪をした赤ん坊。人間と言うものは成長が早い。十年もすればあっという間に、緑は大きく成長したが。
そしてもう一人……いや、神だから数え方は一柱か。諏訪子の信仰を奪いに来たが、そのまま居着いた憎めない神。
ここに諏訪子がいるということは、今出てきたのはもしかして……
「それに早苗も! 特に早苗は人間に声が聞こえるんだから、大きい声は出すもんじゃ…… あれ、参拝客?」
「やっぱり神奈子! お前もいたか!」
「は? 何で人間が私の名前を……」
俺は持ち上げていた諏訪子を降ろし、神社から出てきた神奈子の前まで駆け寄っていく。諏訪子と比べると神奈子と共にいた時間は短いが、それでもここで共に過ごしていたことは変わりない。
俺は神奈子の前に立ち、怪訝そうな目で俺を見てくる神奈子に対し手を挙げる。
「久しぶりだな神奈子、元気だったか?」
「んー? なんだい馴れ馴れしい。私の姿が見えるみたいだけど…… 諏訪子、アンタの知り合……い…… は!?」
「覚えてないか?」
「その顔…… 嘘!!? 真!!?」
神奈子の怪訝そうにしていた目が見開かれ、俺の顔を捉えてパチクリと瞬く。顔から格好までほとんど特徴の無い俺であるが、名前が出るということは思い出してくれたようだ。
「そう! 覚えててくれたか!」
「……うわー! 本当に真!? 懐かしいね!」
「本当にな!」
神奈子とお互いに右手を挙げ、強く打ち付けてハイタッチをする。予想外のことが起きたときにはテンションが上がるか下がるかのどちらかだが、今回の再会は俺のテンションを著しく増加させた。
「か、神奈子にも見えてるし幻じゃない…… え? ど、どうして真がここに……」
「あのー……諏訪子様? 真さんの名前を知っているということは、お二人は真さんとお知り合いなんですか?」
「あー…… ちょっと待って私もいま混乱してるから……」
「? ……はい」
「…………あー、よし。 ……おい! 真!」
神奈子との再会を喜んでいると、諏訪子が大声で俺を呼んできた。なにやら声に怒気が含まれているような……
俺は諏訪子に呼ばれるまま、早苗と諏訪子がいるところまで歩いていく。
「なんだ? 諏訪子」
「まったく、今さらノコノコ戻ってきやがって…… じっくりと話を聞かせてもらおうじゃないか」
「あ、ああ……」
俺が諏訪子の元までやってくると、諏訪子は腕を組んだまま威圧するような態度で話しだす。これが神力というやつか…… 初めて会ったときもそうだったが、小さいのにすごい迫力だ。
「……さて早苗。アンタの思ってる通り、私たちはこの男の知り合いなんだ」
「やっぱり! うわぁなんということでしょう! 私以外にお二人の姿を見える人がいると思ったら、すでに知り合いだったなんて!」
「……うん。でね、今から真にじっくり話を聞かせてもらわなきゃいけないから、早苗はそろそろ家に帰りな?」
諏訪子は俺に出している神力を緩め早苗に向き直ると、諭すように早苗に話しかける。確かにかなり久しぶりに会ったから話もいろいろ溜まっているが、その理由で早苗を帰らせるのはどうだろうか。早苗も納得いかないようで、諏訪子の発言に噛み付いた。
「なんでですか! 私もお二人と真さんの関係を聞きたいです!」
「……まぁそうなるよね、仕方ないなぁ……」
「! じゃあ!」
「早苗、ちょっと顔を下ろしな」
「?」
諏訪子が帽子を脱ぎながら、クイクイと人差し指を動かしてみせる。早苗が言われた通りに屈んで諏訪子に顔を近付けると、諏訪子は早苗の額に自らの額をくっつけた。
「……」
「? ……わっ」
二人が額を合わせた部分が、ほんのりと淡く光を放つ。数秒ほどですぐに諏訪子は額を離し、改めて帽子を被りなおした。
「……これは……」
「私が真に初めて会ったときの記憶を、少しだけ早苗にも見せてあげたよ。これで大体分かっただろう? さ、それじゃあさっさと家に帰りな」
「え……」
どうやら先ほどの行為は、早苗に俺たちの関係を説明するための行為だったみたいだ。記憶を共有させるなんて、神はそんなこともできるのか。
「ちょ、ちょっと待ってください! これっていつの記憶なんですか! 全然納得できませんよ!」
「最低限のことしか教えてないからね。今度あらためて教えてあげるよ」
「ええー!? 私はいま聞きたいです!」
「とにかく今日はもう遅い、暗くなる前に家に帰りな。遅くなると早苗の家族が心配するよ?」
「……むぅ……分かりました」
早苗が渋々納得したような返事をする。なんだ、やけに素直に納得したな。俺をここに連れてくるときの謎の押しの強さからもう少しゴネると思ったが……
そんなことを考えながら早苗を見ると、早苗はなにやら自分の鞄の中をあさっている。そして中から携帯電話を取り出すと、耳に当ててどこかに電話をかけ始めた。
「……あ、もしもし私です。今日ちょっと友達の家に泊まることになったので……」
「……え。早苗、何を……」
早苗の突然の行動に、諏訪子がついていけていない。このタイミングで早苗は一体誰に電話をしているというのか。俺も展開についていけないまま、早苗は淡々と電話を続けていく。
「はい、夕ご飯もいらないです。 ……はい、はーい、分かりましたー。 ……ふぅ」
短い通話が終了し、早苗が携帯電話をパタンと閉じる。携帯電話は便利だな、式を飛ばさなくても遠くの人と連絡が取れるなんて。
察するにどうやら両親に電話をかけていたみたいである、今日は家には帰らないという連絡だ。早苗は携帯を鞄に仕舞うと、もう一度諏訪子のほうに向き直った。
「さあ諏訪子様! これでもう心配することはありませんよ!」
「えええええ!」
親指を立てながら舌を出す早苗に、諏訪子が本気で絶叫する。お前、さっきの『分かりました』はなんだったんだ。おとなしく帰る気ゼロじゃないか。
「早苗アンタなにしてんの!?」
「家族に帰らないという連絡を。仲間外れは嫌ですから!」
「後で教えてあげるって言ってんじゃん! わがまま言ってないで言うことを聞きなよ!」
「もう連絡してしまいましたし…… このまま帰ったら私は嘘をついたことになります。諏訪子様は、私を嘘つきにするつもりですか?」
「む、むむむ……」
早苗の謎の迫力に、諏訪子が思わず押し黙ってしまう。よくもまぁいけしゃあしゃあと。早苗のヤツ、数十秒前すでに家族に嘘をついてるじゃないか。
「むむむむむ……」
「……まぁいいじゃないか。こうなった早苗が動かないことは諏訪子もよく知ってるだろう?」
下を向いて唸る諏訪子に神奈子が助け舟を出してきた。といってもこの場合は、助けられたのは早苗のほうだが。
諏訪子は早苗のほうに目を向ける。ニコニコと笑う早苗を見て大きな溜め息をつきながらも、諏訪子は納得したようだ。
「……はぁ、分かったよ。その代わりおとなしくしてないと駄目だからね」
「分かってます!」
「本当かなぁ…… まぁいいや、行くよ」
そう言って諏訪子は神社に向かって歩いていく。釈然としないような感じの諏訪子だが、俺としては早苗が一緒でも文句は無い。きっと諏訪子が早苗を家に帰そうとしたのは、諏訪子なりに早苗を心配しての行動だろう。
俺は諏訪子についていき、神社の中に入っていった。
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「へー、そっか。つまり昨日早苗が話してた男ってのは真のことだったんだね」
「……はぁ~。真さんって妖怪だったんですね。それじゃあお二人が見えるわけだ……」
神社の中の一部屋である程度の事情を聞いて、神奈子と早苗の二人が納得をした声を出す。俺は話さず二人の話を聞いていただけだが、それでもいろいろと納得できた。
昨日早苗が言っていた神社の管理者とは諏訪子と神奈子のことだったようだ。俺を人間と思っていたから神社に誰もいないと言っていたんだろう。
外の世界では神であるこいつらも、俺の尻尾と同様に普通の人間には見えないらしい。二人の姿が見えている早苗もまた、普通の人間ではないようだ。
なんでも早苗はこの守矢神社の祝子の子孫であり、早苗だけが二人の存在に気付いたのだという。早苗の緑色をしている髪も、普通の人間には黒い髪に見えているらしい。
……まぁいろいろと理解できたが、見える見えないだの話はこの場においては意味無いな。なんせ全員見えるんだから。
今回早苗と出会ってからの、早苗の少しだけ不可解な言動に納得できただけでもよしとしよう。それより今は別のところに、困った問題が存在しているわけで……
「……ん? となると早苗ってもしかして緑の……」
「……誰が発言していいって言った?」
「むぐっ……」
……そう、これである。
俺は部屋に入るなりなぜか諏訪子に正座を強要されており、話をしようにも声を出したら膝の上に乗っている諏訪子に口を塞がれる。俺だっていろいろ話したいのに、諏訪子がこうでは話にならない。
「そうだよ、早苗は緑の遠い子孫に当たるね。あと、早苗のつけてる髪飾りあるだろ? あれは昔、真が私にくれたやつで……」
「ああ! そう言えばこれをくれるときに、神奈子様がもらい物だって言ってましたもんね! あれって真さんのことだったんですか!」
神奈子が俺の言おうとしたことを察して、俺の疑問に答えてくれる。あぁ、だから見覚えがあるなんて思ったのか。しかしこういったリアクションを取ろうにも、諏訪子がいるためそれもできない。
だんだん足も痺れてきた。俺は神奈子と早苗の二人に、どうにかしてくれと目配せをする。
「……あー、諏訪子。いい加減そこからどいたらどうだ? ほら、真も話したそうな顔してるしさ」
「そうですよ! 私はそちらのお二人からもいろいろ話が聞きたいです! 諏訪子様どうしちゃったんですか?」
「……」
神奈子と早苗の言葉を背中に受けて、諏訪子が肩をピクンと震わせる。ようし、いいぞ二人とも。俺としても諏訪子がなんでこんなことをするのか、分からなければ対処の仕様が無い。
「……ねぇ真」
「な、なんだ?」
この体勢になってから初めて、諏訪子が自発的に口を開く。俺を睨む目は見たことがないほど威圧感があり、ギロリという音が今にも聞こえてきそうだ。
俺に話しかけてきたということは、口を利いてもいいのだろうか。諏訪子の目付きに圧倒されながらも、俺は恐る恐る返事をした。
「……アンタさ、ここを出発してから戻ってくるまで、何年の間があるか分かるかい?」
諏訪子が鋭い目付きをそのままに、比較的穏やかな口調で尋ねてくる。ええと……ここを出たあとには妖怪の山に行ったり都に行ったりといろいろなところに足を運んだな。それぞれに何年滞在したとかも数えてないので、答えに全く見当もつかない。
「え、えーと……すまん、分からない」
「そう! 分からない!」
先ほどとは違い大きな声で、諏訪子が俺の答えに肯定する。あれ、まさかの正解だろうか。しかし正解したからといって、現状なんとかなったとは思えないが。
「何年経ったかも分からないほど、真は一度も顔を出しに戻らなかったんだ! なんだよそれ! アンタの言う"たまに"ってのは、そんなに長い間のことなの!?」
「……!」
諏訪子が大きな声で捲し立ててくる。そういえば昔この守矢神社を離れるときに、たまには顔を見せに戻ってくるって言ったっけ。
ああ、勘違いかと思ったが、やはり諏訪子の抱いている感情は怒りだったようだ。身に覚えがないからと目を背けていたが、紛れもなく諏訪子は俺に対して怒っている。
俺は久しぶりに諏訪子たちに会えて、非常に嬉しく思っていた。そして俺のことを覚えていた以上、諏訪子も同じく思っているだろう、とも。
しかし実際はそうではなかった。諏訪子は久しぶり過ぎだったからこそ、俺に対して怒っているのだ。
「……すまん。でも……」
「言い訳なんて聞きたくないよ!」
謝る以外の言葉を口にしようとしたら、諏訪子にそれを遮られる。
本当は一度だけ、守矢神社に帰ろうと考えていたことがあった。それは妹紅との旅の途中、妖怪の山を過ぎてからだ。世間知らずの妹紅に神を紹介しようとの考えだったが、あのあと妹紅は行ってしまったからな。結局機会は訪れなかった。
しかしどんな理由があったにせよ守矢に戻らなかったのは事実であるし、諏訪子の言う通り何を言っても言い訳だ。そう気付いてしまったため、俺は口から次の言葉が出てこなかった。
「やっと戻ってきたかと思ったら、偶然早苗が連れてきただけじゃん! 早苗が偶然会わなかったら、今日の再会も無かったってことだ! なにそれ! アンタはいつまで私を待たせれば気が済むの!?」
「……諏訪子、ごめん……」
守矢に戻ろうと決めていたのはあの一度だけだ。それ以外は、思ったことがあっても実行する気にはならなかった。
戻ろうと一度しか決めなかったのには理由がある。それは戻る理由が無かったためだ。
諏訪子たちに会いたいとは何度も思った。しかし"会いたい"という感情のみの理由では、行動に移すのはためらわれたのだ。妹紅に会わせるという大義名分があったから、あの一度だけを考えた。
時間が過ぎていくにつれ、さらに守矢には戻りにくくなっていく。相応の理由が無ければ今さら戻れないし、もしかしたら諏訪子たちは俺なんかのことをもう覚えていないかもしれない。 俺はその予想が現実として、突きつけられることを恐れていたんだ。
「馬鹿! 馬鹿! 真の馬鹿! もしかしたらもう二度と会えないんじゃないかとも思ったんだから!」
諏訪子の俺にぶつける声に、少しだけ震えが混ざりだす。ああ、本当に俺は大馬鹿だ。諏訪子はこんな馬鹿を、未だに覚えてくれていたのに。なぜ会いに行かなかったのだろう。
俺が諏訪子に言うべき言葉は、戻らなかった言い訳でも自分に対する罵倒でもない。未だに俺に真っ正面から、感情をぶつけてくれることに対しての感謝の言葉だ。
「諏訪子、本当にごめん…… それと……覚えててくれてありがとな」
「馬鹿……本当に馬鹿……! 私が真を忘れるわけ無いじゃん……」
諏訪子の声の勢いが落ちるとともに、その両目から大粒の涙がこぼれだす。俺は目の前で泣き出す少女に、涙で床が濡れないよう正面から思いっきり抱きしめた。
「うわぁあぁ~……! 真~……! おかえりぃ……!」
「あぁ…… ただいま……」
諏訪子が俺の胸に顔を埋め、声を押し殺しながら泣いている。俺は諏訪子が落ち着くまで、ただずっと強く強く抱きしめていた。
「……ぐすっ……」
「……落ち着いたか?」
数分後、泣き声の止まった諏訪子の背中をさすりながら、俺は諏訪子に優しく尋ねる。正座したままこの体勢を保つのは難しいので、結構前から足を崩した状態で俺は諏訪子を抱きしめていた。
「……まだ」
「……そうか」
諏訪子は未だに顔を埋めたまま、俺の顔を見てこない。別に泣いている女の子の顔を、わざわざ見ようなんて思わないが。
それに諏訪子の泣き顔を見たら、俺もつられて涙が出そうだ。そういった意味ではこの体勢もある意味都合がいいのかもしれない。
「……真」
「……なんだ?」
「……尻尾」
「……ああ、分かった」
短く単語のみしか発しない諏訪子だが、それでも何が言いたいのかは理解できた。俺は尻尾を限界まで顕現させると、そのうちの一本を体の前まで持っていく。そしてその尻尾を諏訪子の体に巻きつけた後、その上から改めて諏訪子の体を抱きしめた。
「……これでいいか?」
「……うん。 ……へへ、モフモフだぁ……」
抱きしめているため諏訪子の表情は見えないが、俺には今の諏訪子は笑顔をしているような気がした。
自分で言うのはなんだと思うが、諏訪子は俺の尻尾を気に入っている。昔この神社に住んでいたときは、尻尾を出せと何回言われたことか。あのときはあまりにしつこいので出さないことも多々あったが、今この時においては出さない理由が見つからない。
「……懐かしい……」
「……俺もだ」
「ほー、真の尻尾に直接触るのは初めてだな。 ……うん、あの抱き枕よりも手触りがいい」
「は~、本当に妖怪だったんですねー。 ……作り物ではなさそうですし、完全に真さんの一部といったところでしょうか」
「……おい」
諏訪子のために出した尻尾に、いつの間にか神奈子と早苗が群がっていた。俺から許可を取るわけでもなく、それぞれが勝手に俺の尻尾をこねくりまわす。
「……お前らはそこで何してるんだ」
「ん。ああ、私らのことは気にするな、真は諏訪子に構ってなよ」
「神奈子様どうですかこれ! 諏訪子様と同じ巻き付かれスタイル!」
「あ、ズルいぞ早苗! 私も!」
「……"気にするな"って無理だろこれ」
早苗と神奈子の二人がそれぞれ、俺の尻尾に
尻尾は俺の体の一部なんだから、気にしないでおくことなんて不可能だ。いや、たとえ俺の体の一部でなくとも、視界の端でそれだけ騒がれたら気になるだろう。
「いやー、諏訪子にあれだけ想われてるなんて真も罪な男だねぇ」
「……悪かったのは分かってるよ」
神奈子が俺の尻尾で遊びながら、一人言か俺に話しかけているのか分からないことを呟く。知ってるよ、だからこうして反省してるだろう。早苗もなんだ、お前もニヤニヤとした目でこっちを見るな。
「罪な男ってのはそういう意味じゃないんだけど…… いやー、見てるこっちも少し泣けてきちゃったよ。そして泣いている諏訪子をすぐさま抱き寄せる真…… かぁー! 熱い熱い!」
「泣ーかーないでー♪ そーのー涙をー♪ わーたーしーの愛でー止ーめーてーあーげーる♪」
「変な歌を歌うのをやめろ! ……ったく……」
「「ヒューヒュー」」
小学生かよと突っ込みたくなるほど、二人が低レベルな茶化し方をしてくる。もうこいつらのことは知らん。意識を諏訪子のほうに集中させよう。
「……真」
「ん。どうした諏訪子?」
「……呼んだだけ」
「……なんだそりゃ」
「へへへ……真、真、真ー」
「おー、ここにいるぞ」
何度も俺の名前を呼ぶ諏訪子に返事をしながら、先ほどより強く抱きしめる。神奈子と早苗がニヤニヤした目で見てくるが気にしない。
「あーあー、羨ましいなぁ諏訪子様」
「そうだねぇ、今日のところはまぁ仕方ないよ。私らはこっちで我慢しよう」
このあと諏訪子が「お腹すいた」と呟くまで、俺はずっと諏訪子を抱きしめていた。おそらく今日から何日かは、久しぶりにこの守矢神社で寝泊りするだろう。
ああ、本当に懐かしい。後ろの二人はうるさいが、それでもなんだか居心地の悪い気はしなかった。